生まれ育つ場所に対する意味づけにつも`ての膏豪 一原 - 兵庫教育大学

生まれ育つ。所に対する意味づけについての者真
一原風量語リを通して一
専 攻学校教育学専攻
コース 教育コミュニケーション
学籍番号M10007E
氏 名 中磯 千佳子
1.問題の所在と研究の目的
させるような内容を語ることなどの特徴が抽出
一般に、生まれ育った場所を思い出し、懐か
された。
しむことやそこに帰りたいと思うことは珍しい
上記の予備調査をふまえ、本研究では、原風
ことではないだろう。しかし、仮に、郷里や地
景語りを通して、生まれ育つ場所に対する意味
元が好きという思いは共通であっても、その理
づけについて考察することで、(1)どのよう
由や思い出に残る風景はそれぞれ異なっている
な風景に惹かれるのか、(2)どのような意味
のではないだろうか。人の記憶にあるさまざま
を見出しているのかを見ていく。さらに、(3)
な風景の中でも、幼少期のとりわけ深く刻まれ
都会の原風景と田舎の原風景に分けて、両者の
て・いるものは原風景と呼ばれる。
原風景語りの相違点と共通点を明らかにする。
日ヨ合で育った筆者にとって「生まれ故郷の風
加えて、原風景語りの中で、(4)「いなか」を
景」といえば、野山の風景などが思い起こされ
語ることの意味について考察する。
る。一方で、言説的に都会に対するステレオタ
2.研究の方法
イプ的なマイナスイメージを度々耳にしてきた。
教職系大学に在籍する現職教員、もしくは教
それでは、都会出身の人は、どのような風景を
員を志望している大学院生10人に「子どもの
浮かべるのだろうか。
頃の印象に残る風景」について半構造化インタ
呉(2001)は、自分を語る時r風景・空間・
ビューを行った。原風景を都会と田舎に分ける
場所」を抜きに語ることはできないと述べてい
ため、インタビューから数ヶ月おき、できるだ
る。つまり、私がどのような人であるかという
け客観的に判断するよう指示をした上で、語っ
ことは、自分がどこの出身でどこで生活をして
た場所が田舎か都会かを6段階で判断しても
きたかとし.・うことを分離して考えることはでき
らった。
ないのである。
3.インタビーユー調査の分析と考察
このような関心から、「子どもの頃の印象に残
る風景」について、大学院生5人に個別インタ
原風景の全体的な特徴を抽出した。抽出され
ビューを行った。また、筆者と同郷の6人にグ
た概念は、①限られた行動範囲、②空き地・原
ループインタビューの形式で予備調査を行った。
っぱ、③やんちゃな遊び、④良好な入間関係、
その中で、風景だけではなく、出来事や人物な
⑤自然との関わり、⑥懐かしい風景、⑦具体的
どが語られること、また、多様な感覚的次元で
な出来事、⑧大きな木の8つである。そして全
語られること、昔のことを語っているが、一方
体を通して、肯定的に語られることが明らかに
で、その場で理想化され創られていること、比
なった。
較的都会出身だと思われる人であっても、住ん
でいた場所をr田舎」と語り、日ヨ合をイメージ
全体的な傾向から、共通する語りが多く、都会
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の人も田舎をイメージさせるような語りをする
つの意味を見出しているようだ。
ことが分かった。しかし、両者の間で、本当に違
(3)都会と田舎の原風景の比較から考察
いが見られないのかということを2章で上げた
都会の原風景と田舎の原風景で語られた内容
特徴を基に比較した。その結果、①「生き物」に
や風景、その場所に対する意味づけに大きな違い
ついて、r触る」r捕まえる」といった身体感覚に
はなく、大人目線では、自然が少ないと感じる場
結びついた内容、②外での活動について、都会の
所であっても、子どもはそれなりに自然と接して
原風景では、遊び場所として公園や校庭が多く語
いることがうかがわれた。
られたが、田舎の原風景ではあまり語られないと
(4) 「いなか」を語ることの意味についての考察
いう2つの点で、両者の間に違いが見られた。し
「いなか」を語るということは、一時的な空間
かし、①肯定的な内容、②良好な人間関係、③自
の世界をその人に過ごさせる手段であり、rいな
然についての内容、④遊びについての内容、、⑤空
か」やr自然」を想起し語ることで、現在ではも
き地や原っぱでの活動、⑥語られる感情の点では、
はや体験することのできないポジティブな世界
両者の間に大きな違いは見られなかった。
を一時的に過ごすと言えるのかもしれない。また、
個人の原風景語り
美化した風景や情景を語ることで、その中で人間
一人一人のライフストーリーの中での意味づ
形成してきた自分を、ポジティブに捉えて維持す
けを捉えていくために、都会出身者と田舎出身者
ることができるのではないだろうか。
を含み、かつ、語られた内容が意味深いと感じら
5.研究の意義
れた3人の原風景語りを選び、その内容と意味づ
言説として言われてきたような都会に対する
けを考察した。
マイナスイメージと、自分の子どもの頃を振り
その結果、原風景は、①帰って来たと感じられ
返って語る際の都会の風景とは必ずしも同じで
る風景、②会いたい人に会える場所、③理想的な
はなく、むしろ都会の語りがrいなか化」する
田舎の自然、④理想的な生活環境、⑤自分の知識
傾向があることが明らかになった。これらのこ
や能力を還元したい地域、⑥今の自分をつくり支
とから、人にとって実際に過ごしてきた風景や
えている場所、⑦帰りたいけど帰れない場所とい
情景がすべてではなく、メディアや教育からも
った意味づけがなされていた。
影響を受け、理想の風景が創られていることが
4. 総合考察
示唆された。
(1)どのような風景に惹かれるのか
それぞれの場所で、人は自然を見出す。そして
r家の近くの自然の中で、友達同士仲良く、原
大人になって子どもの頃を振り返る時、遊びや自
っぱや空き地に秘密基地を作り、冒険をして、工
然の風景はなくてはならないものである。本研究
夫しながら遊んだ。伸び伸びとした子供時代で、
を通して、こうした点を改めて認識することがで
今となっては懐かしく、よい思い出である。」と
きた。
い一う典型的な内容が現れることが分かり、こうし
また、生まれ育つ場所がどこであるかに関わら
た伸び伸びした子供時代の情景を人は懐かしく
ず、他者との間で共通し共有できる話題となりう
思い出すようだ。
ることが示唆された。自分の生まれ育つ場所につ
(2)どのような意味を見出しているのか
いて語り、他者と共有していくことは、他者を知
個人の原風景から、①現在の自分と密接に関わ
り、理解していく過程の一つであり、人と人が関
っている場所、②心の中の、今となっては得がた
わっていくための手助けとなることだろう。
い理想的な風景があった場所、③自分が何らかの
影響を受けていると感じる場所、という大きく3
主任指導教員 安 部 崇 慶
指導教員 宮元博章
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