患者アンケートを見直す - 総合メディカル

平成23年度税制改正と医療法人の出資持分の承継対策
総合メディカルレポート
コ ン サ ル タ ン ト の 視 点 か ら
贈与による場合には、要件が緩和された相続
時精算課税制度をタイミング良く、例えば、出資持
とみなされて、医療法人に対して、放棄した出資持
分の価値相当額に贈与税が課税されます。
患者アンケートを見直す
分の評価額が低いときなどに活用できると効果的
です。
相続時精算課税制度を選択して贈与をした出資
持分は、相続財産に加算されて相続税の対象にな
出資持分放棄の効果
ります。しかし、贈与時の価額で相続財産に加算
出資持分の放棄に伴い課税が行われる場合にお
されるため、出資持分の評価額が低いとき
(一時的
いて、医療法人側に課税される点に注目ください。
にでも下がったとき)
に相続時精算課税制度を選択
総合メディカル株式会社 東京支店 主任
鹿野 雅史
(社団法人 日本医業経営コンサルタント協会
認定登録 医業経営コンサルタント)
「持分の定めがあるままの承継」と
「持分を放棄した
して贈与を行えば、相続時に出資持分の評価額が
うえでの承継」とでは、税の負担者が異なります。
上昇していても、その評価額の上昇分は相続税の
前者は通常、個人が相続や贈与により承継します
対象になりません。ただし、評価額が下落した場
ので、
「当該個人」が承継に伴う税金を負担します。
合には贈与時の高い評価額で相続税が課税されま
一方、後者は「医療法人」が承継に伴う税金を負担
近年、開業医の数は漸増傾向にあり競争がますま
すので留意が必要です。
することになります。したがって、納税資金を調達
す激しくなる中、患者の医療機関を見る目も厳しくなっ
すべき者も異なるわけです。また、持分を放棄し
てきた。患者に自院のファンになってもらうためにはど
た場合には、その放棄したときのみ課税が生じ、そ
んなことが求められているのか。また、自院が抱える
患者満足
(Patient Satisfaction)
をより高い満足に
の後、承継に伴う税負担は生じません。
問題点、改善すべき点は何なのか。これらを知る方
つなげる方策を検討するため、患者のニーズがなんで
出資持分の性質(配当が得られない。議決権が
法として患者アンケートの実施が挙げられる。以前か
あるのかを把握する。自院のファンを増やしていくため
一方で、出資持分を承継しない選択肢もありま
出資額にリンクしないなど)や多額の相続税負担を
ら用いられている手法ではあるが、自院が提供してい
に重要なことである。
す。すなわち、持分を放棄するという方法です。出
考えた場合に、出資持分を放棄して、出資持分の
る医療やサービスについて、患者の声を最も効率よく
資持分の放棄により、出資持分が存在しなくなりま
定めのない拠出型医療法人への移行を検討する医
確実に集める方法であると考えられる。今回は患者
すので、承継方法は理事長のポストを承継させる
療法人も出始めています。
アンケートについて改めて見直したい。
出資持分の放棄という選択肢
アンケートはマーケティング手法のひとつであるが、
だけになります
出資持分の放棄の方法には、具体的には二つの
方法が考えられます。
一つは、特定医療法人や社会医療法人へ移行す
ることで持分を放棄する方法です。もう一つは、第
5次改正医療法により創設された「拠出型医療法人」
(持分のない医療法人)へ移行することで持分を放
棄する方法です。
出資持分の放棄と税務
特定医療法人や社会医療法人へ移行する場合に
は、公益的な医療法人への移行であるということか
ら、移行に伴う課税問題は生じません。
しかしながら、拠出型医療法人へ移行する場合
■ はじめに
拠出型医療法人へ移行する場合、その医療法人
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が持てる。
2.患者ニーズを把握する
3.自院の問題点、改善点を把握する
上記1、2も大事であるが、最も大きな目的はこの問
題点、改善点の把握であろう。患者ニーズを把握する
ことで患者満足度を上げることも当然であるが、問題
放棄する場合でも、いずれにしても税の問題が生
ティングという言葉が持つ意味は広義、狭義の解釈に
点、改善点を把握し、それらを解決することによって満
じますので、しっかりとした検討のもと、対策を進
よって数多く見られるが、今回は以下のことを定義と
足度の底上げを行う。下がっていた満足度を上げ、患
めることをお勧めします。
したい。マーケティング:
「患者が心から求める医療や
者が離れることを防止、ファンになってもらう素地を作る
サービスを行い、その情報を届け、患者がその医療、
のである。
サービスを効果的に得られるようにする活動」
。医療
機 関 がアンケート情 報 から患 者 が 求めていること
4.職員の意識向上
(ニーズ)
や課題を把握したうえで、患者が期待する医
アンケート項目のひとつとして、ソフト面について聞くこ
療やサービスをどう提供するのかをさらに検討し、取
とが一般的となっている。つまりは、看護師・事務など
り組むことで満足度を高めることを目的としている。
職員の対応などについても聞くことになるため、職員の
業務に対する意識が高くなる。
■ 患者アンケートを実施する目的
患者アンケートを実施する目的としては以下が挙げら
れる。
■ 患者満足度の調査方法について
●自院で準備、アンケート実施
●医療関連企業
(医薬品卸など)
から、低コストもしく
1.患者の属性を知る
自院を利用している患者はどのようなタイプ
(属性)
が一定の要件(公益的運営がなされている等の要
が多いかを知る。なんとなくこんな患者が多いという
件)
を満たしていないときは、その医療法人が個人
感覚をデータ化することにより、自院を利用している主
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を入れるべき患者像が導き出され、採る方策にも自信
そもそもマーケティングとはどういうことなのか。マーケ
出資持分を相続・贈与により承継する場合でも、
には、出資持分を放棄する時点で課税が生じる場
合があります。
たる患者像が明確にイメージできる。そのことにより力
は無償にて提供 ※
●コンサルタント会社へ委託
※ 弊社でサクシード会員向けサービスとして
「患者満足度簡易診断」
を提供
中。詳細はP.20にある案内を参照ください。
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総合メディカルレポート
以下のような点でのメリット、デメリットが考えられる。
外部に委託した際のメリット、デメリット
メリット
●他医療機関との比較
患者アンケートを見直す
図1
アンケート実施の流れ
ア
ン
ケ
ー
ト
項
目
・
実
施
日
・
要
領
の
打
ち
合
わ
せ
ア
ン
ケ
ー
ト
項
目
・
実
施
日
・
要
領
の
決
定
ア
ン
ケ
ー
ト
実
施
■ 実際に患者アンケートを行った現場から
ア
ン
ケ
ー
ト
回
収
結
果
集
計
業
務
ア
ン
ケ
ー
ト
結
果
院
内
報
告
会
・
対
応
策
検
討
ア
ン
ケ
ー
ト
結
果
を
患
者
へ
フ
ィ
ー
ド
バ
ッ
ク
アンケート実施後は患者に対し、アンケートに協力い
ただいたことへの感謝の意を掲示板、ホームページ、
際、特に有効性を感じられたことを以下に記した。
院内報など外部に情報発信を行っている媒体に掲載
●職員のモチベーション向上につながった
する、と同時に要望をいただいた改善項目に対する回
アンケート実施時においてもそうであったが、アンケー
答を掲載する。
ト実施後も以前と比べ私語も少なくなり、患者対応もよ
改善可能なものはすぐに取りかかる。ハード面など
り丁寧になった。また、他医療機関と比較可能な手法
要望内容、コスト面などから即実施は難しいことが多
で行った内容において、職員の評価点が高かったた
いものに対しては、それら要望への対応の検討や実施
優先順位付けなどが行いやすくなる。
め、モチベーションの向上にもなった。
が困難な理由の回答が必要である。
●複雑な分析ができる
●患者のニーズの把握
外部に委託した場合、他医療機関で行われたデー
タを蓄積しているケースが多い。他の医療機関平均と
比較することにより、自院が取り組むべき項目の選別や
通常、点数化形式でのアンケート取得になると思わ
れるが、項目ごとの比較や全体平均との比較のみなら
ず、後述する、
「クロス集計による分析」や「期待値」
と
実際に受けたサービスの「満足値」
との比較など複雑
な分析を行うことができる。
●集計業務などアンケートにかかる手間が省力化
■ アンケート項目
●患者属性
年齢、性別、受診診療科、受診のきっかけ、通院方法
●ソフト面について
できること、できないこと、できることはいつまでに、ど
アンケート項目にもともと懸念していた点を盛り込
患者アンケートの実施を通じて、患者からの信頼を得
に対する対応を取ることができた。
られるよう活かすことが重要であり、
“アンケートのやりっ
●第三者からの報告会
ぱなし”
だけはないようにしたい。
アンケート実施医療機関において、アンケート実施後
の職員向け報告会を実施。報告会の出席率の高さ
できる
員など各職種)
、待ち時間(診察、会計、検査など)
、
やその後の改善への取り組みなど、第三者が行ったこ
特に集計業務は単調ながらも時間がかかる作業で
予約システム など
とで効果的なアンケート実施後の改善が図れた。また、
●ハード面について
トップダウンによる現場への改善の意思疎通もうまく
注する大きなメリットである。
●外部(第三者)による報告会が効果的
一般的なコンサルティングに期待する効果にも言えるこ
待合室、診察室
(プライバシー保護の観点なども)
、
使用感、院内のバリアフリー度、駐車・駐輪場、食堂、
売店、自動販売機 など
部からの意見・提言の方が刺激的であり、効果的であ
●自由記載欄
意識を高く持ち、改善に当たらせやすいという点がある。
特に不満があることに対しての記載、医療機関が懸念
していることへの自由記載、改善点・要望について など
●クロス集計(年齢層別・診療科別などに見られる
傾向)
デメリット
●コストが自院で行うよりも高くなる
いった例であった。
集計分母
(回答者数)
が十分に確保できるのであれ
療科別で特徴が出ることもある。例えば、複数科ある
め、診療所では項目数も複雑にせずシンプルな内容で
医療機関でA科医師の対応は高評価だが、B科医師
行うことが良いと思われる。自院で行うことも考えられる
の対応は平均より低いなど、問題点のより深い洗い出
が、アンケートに割けるマンパワーやノウハウも勘案し、取
しが行える。
【ポートフォリオ分析】
高
維持
図2
アンケート集計結果(グラフ)の一部/結果概要
重点維持
患者様が高評価
(高満足度)
●患者様が重要とせず
(低重要度)
●
改善
(ポイント)
5.0
3.0
低
2.0
重点改善
患者様が低評価
(低満足度)
●患者様が重要とせず
(低重要度)
●
改
善
4.0
0.0
知
己
推
奨
医
師
専
門
性
医
師
態
度
医
師
説
明
看
護
態
度
放
射
態
度
検
査
態
度
事
務
態
度
リ
ハ
態
度
診
察
予
約
診
察
待
時
間
ト
イ
レ
使
用
感
ト
イ
レ
清
潔
待
合
広
さ
院
内
案
内
病
院
プ
ラ
イ
バ
シ
ー
患者様が低評価
(低満足度)
●患者様が重要視
(高重要度)
●
重要度
低
1.0
全
体
満
足
患者様が高評価
(高満足度)
●患者様が重要視
(高重要度)
●
満足度
高
通常
バ 平
リ 均
ア
フ
リ
ー
重点
【アクションレベル】
■ 患者アンケート実施後のポイント
高
●毎年実施し続ける
昨年よりも改善が図れているのか、患者の満足度は
り引きのある医療関連企業に安価に実施依頼するケー
アンケート項目の検討は結果の経営方針への反映や
向上できているのかを知るために時期を定め、同じ時
や期待値と満足値との比較分析などを行うこと、また、
患者満足度向上のための対応策に大きく影響を与える
期に満足度調査を行うことが望ましい。残念ながら評
アンケートの回収枚数などを考えるとコンサルタント会社
ため、慎重な検討が必要である。現在、自院で懸念を
価が低かった項目に関しては、1年を通して医療機関
に依頼するのがより効果的なアンケート実施につながる
感じている項目を具体的に入れることでダイレクトに患者
に起こったことを振り返ることにより、早い改善の対策
と思料する。
の意見を収集、
改善計画に取り入れることができるため、
が取れるのも毎年患者アンケートを実施することのメ
具体的方針を決定するための有効的な手段であると言
リットといえる。継続して行うことで患者からも常に改善
える。
に取り組んでいる姿勢を感じ取ってもらえる。
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アンケート分析結果とアクションレベル
維
持
ば、クロス集計も効果的となる。年齢層別、受診した診
患者アンケートを実施する医療機関の規模にもよるた
スをよく目にする。一方、病院では多角的なクロス集計
図3
院内案内表示・掲示のわかりやすさ、
トイレの清潔感・
とだが、内部者と外部者が同じことを話したとしても外
る。報告会などを外部機関に実施してもらうことで危機
のように、など具体的に掲載、回答をオープンにする。
んだところ、患者のニーズが明確に把握でき、その点
対応・説明
(医師、看護師、パラメディカル、事務職
ある。それらの手間のほとんどを行ってくれることは、外
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筆者の顧客医療機関で実際にアンケートを行った
●アンケート実施後の対応
維持管理
満足度
対策実行
経過観察
低
低
重要度
高
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