社会言語学1

社会言語学1 第7回 レジスターとスタイル
平賀 正子 異文化コミュニケーション学部 2010
社会言語学1 第7回
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今日の講義
•  前回のレポート •  レジスターとスタイル –  第5回までの講義では、「話者」の社会的属性(地
域、社会階層、ジェンダ、年齢)による言語差を考
察したが、今回から「コンテクスト」による言語差
を考察する。同じ話者でも、ことばを営む状況(コ
ンテクスト)がことなると違ったことば使いをする
からである。 社会言語学1 第7回
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言語差についてのレポート
•  興味深いレポートをクラスに披露する。 社会言語学1 第7回
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話題・対象
聞き手
レジスター・スタイル
媒体 (メディア) 社会言語学1 第7回
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状況に応じた言語使用
•  状況により異なる変種を使用(Hudson, 1980) –  言語そのものを変えるわけではなく、語彙や文
法を変えたり、丁寧さを変えたりする場合。 –  レジスターやスタイルとして論じられる。 •  状況により異なる言語を使用 –  言語そのものを変える場合は、コード・スイッチ
ングと呼ばれる。 社会言語学1 第7回
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レジスターとスタイル
•  定義
•  説明理論
–  オーディエンス・デザイン
–  アコモデーション
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レジスターとスタイル 定義
広義の定義:状況によって異なる言語変種 狭義の定義: ◆レジスター(register) 特定の集団(例、職業)や語られる内容(例、
話題)に関連する言語変種。 ◆スタイル(style) 形式性(formality)に関わる言語変種。
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Holmes(2008)
•  I have use the term ‘style’ … to refer to language variaAon
which reflects changes in situaAonal factors, such as
addressee, seEng, task or topic. Some linguists describe
this kind of language variaAon as ‘register’ variaAon.
Others use the term ‘register’ more narrowly to describe
the specific vocabulary associated with different
occupaAonal groups. The disAncAon is not always clear,
however, and many sociolinguists simply ignore it (p.259). •  Styles are oPen analyzed along a scale of formality…(ibid). •  The term ‘register’ here describes the language of groups
of people with common interests or jobs, or the language
used in situaAons associated with such groups (ibid).
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状況を構成する要素
•  Trudgill (1974) –  手段(media) –  主題(subject) –  役割関係(role relaAonship) •  Lyons(1977) –  役割と地位(role and status) –  場所と時間(space and Ame) –  形式性(formality) –  手段(medium) –  主題(subject‐maVer) –  領域(province or domain)
共通点:
①目的・話題(subject,
topic)
②手段・方法(means,
mode)
③地位・役割関係
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(role relationship, status)
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レジスターの定義(言語使用領域) ロメイン(1997[1994])
•  使用者よりはむしろ用い方による言語の変
異にかかわるもの。その場の状況や目的、
話題、さらには伝えるべき内容や当事者の
関係などが関わる(p.24)。 例: 法廷での弁護士の論述 スポーツの実況中継 社会言語学1 第7回
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レジスターの範疇 (応用言語学事典)
•  状況によって語彙、文法、発音などを変えた
言語変種をレジスターという。 •  限定されたレジスター(例えば、野球で使わ
れることば)から、談話範囲が広く制限も緩
やかな場合(例えば、教室談話)まで、さま
ざま。 •  語彙に顕著にみられる場合が多い。 社会言語学1 第7回
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事例:オーストラリア・ジルバル語の 義母レジスター ロメイン(1997[1994])
•  男が自分の姑や、タブーと考えられているほかの
女性の親族に話しかけるときに使わなければい
けない特殊な話し方 •  文法、音は通常の言語と同じだが、語彙が大きく異
なる 表:ジルバル諸方言「太陽」をあらわす単語
種族
レジスター
日常語形
義母語形
イディン族
Bungan
Gari:man
ンガジャン族
Gari
Bugan
マム族
Gari
Gambulu
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スタイル(style)
•  状況に応じたことばの形式性(formality)に
かかわる変種 –  「あらたまったスタイル」から「くだけたスタイル」
(formal → colloquial → vulgar)まで、連続した
尺度上のどこかに位置づけることができる。 –  それぞれ語彙、文法、音韻に反映する。 –  例: •  お宅はどちらですか? •  どこに住んでるの? •  家、どこ? 社会言語学1 第7回
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例:スタイルの違い
–  語彙 •  The teacher distributed the new books. •  The teacher gave out the new books. –  文法 •  The meeAng was cancelled by the president. •  The president called off the meeAng. –  発音 •  Reading vs. readin’ singing vs. singin’ 社会言語学1 第7回
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三つのスタイルと 自己モニター(チェック・訂正)
1.  形式的言語(formal or polite)
モニター:高 2.  口語(colloquial)
モニター:中 3.  俗語(slang or vulgar) モニター:低 スタイルの選択基準は? 参加者間の新密度 年齢 社会階級 人数・・・ 社会言語学1 第7回
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オーディエンス・デザイン(Audience Design) (Bell, 1984)
•  話し手が払う注意の量や種類というのは、相手が会話にど
の程度関係しているか、話し手から見た相手の立場、資格
ということと関連している。
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話し手と様々な聞き手との関係 (Bell, 1984)
知られている
認められている
話しかけられている
聞き手
+
+
+
傍聴人
+
+
ー
偶然聞く人
+
ー
ー 盗み聞く人
ー
ー
ー
話し手のスタイル・コード選択に対する影響力
大 小
話し手⇦聞き手>傍聴人>偶然聞く人>盗み聞く人
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オーディエンス・デザインと マス・コミュニケーション(Bell, 1991)
•  対象:イギリスの新聞7紙における冠詞の脱
落の頻度と社会的権威性との相関関係
高
低
新聞紙名
The Times
The Guardian
Daily Mail Daily Express
Daily Mirror
The Sun
冠詞脱落の頻度(%)
5 10
73
79
80
89
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スピーチ・アコモデーション理論 (speech accommoda<on theory)
•  前提: –  話し手は、相手に受け入れられようとするた
めに、自分の話し方のスタイルを相手のスタイ
ルに近づけようとする。 •  語彙、文法、発音、内容、ポーズ、速度、非
言語行動などに表れる。 •  相手の話し方に近づけること
をconvergence(集中)と呼ぶ。 社会言語学1 第7回
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2種類のコンバージェンス •  上向き(upward convergence) ⇒自分より地位の高い話し方に合わせる • 
例:子供が友達の親と話すときに、友達に話す時より
も標準的で、丁寧な言い方になる。 •  下向き(downward convergence) ⇒自分より地位の低い話し方に合わせる • 
例:十分に日本語ができない外国人に対して、不自
然な(本人は易しいつもりの)日本語で話
す(foreigner talk)。
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事例:小学校の運動会にて 校長先生のスピーチ1 (東, 1997, p.109)
•  念願の運動会もこのような晴天にめぐまれ
まして、本当に感謝でいっぱいでございます
。日頃、みなさまには、大変ご協力いただき
まして、えー、今日の日をむかえましたし
…(中略) •  定刻になりましたし、簡単ではございますが
、本当に感謝をこめまして、ごあいさつにか
えさせていただきます。 社会言語学1 第7回
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事例:小学校の運動会にて 校長先生のスピーチ2 (東, 1997, pp.109‐110)
•  今日は、何でしょう?そうです。みんな楽し
みにしていました運動会を、今からはじめ
ます。一生懸命がんばりますか?うーん、
よし。とてもおりこうさん。先生と一生懸命
におけいこしましたね。(中略) •  とってもたのしくって、とってもうれしくって
、いっしょうけんめいにがんばりましょう。 社会言語学1 第7回
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事例:セールス現場 (東, 1997, pp.112‐3)
•  お客のタイプに合ったセールス・トークを行う
ように研修を受けている例。 •  お客のタイプ –  実行型 速くズバズバはっきりと話す –  説得型 沢山の形容詞やおおげさな言葉遣い –  忍耐型 ゆっくりとやさしく話す –  分析型 注意深く言葉を選びながら話す 社会言語学1 第7回
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事例:顧客のタイプに即した語彙使用 (東, 1997, pp.112‐3)
•  実行型 –  Results, save Ame, now, status, your opinion •  説得型 –  Latest, stylish, trendy, exciAng, contemporary •  忍耐型 –  Comfort, tradiAonal, safe, durable, secure •  分析型 –  Facts, state‐of‐the‐art, funcAonal, exact, thorough 社会言語学1 第7回
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事例:フォリナートーク(foreigner talk) (応用言語学事典)
•  外国人と母語話者との接触場面で起きる言
語変種のひとつ。 •  接触場面での非母語話者の特徴を中間言
語と見るならば、フォリナートークは、母語
話者側の特徴といえる。 •  非母語話者の言語熟達度に応じて、母語話
者が相手に合わせた言語使用を行うこと。 社会言語学1 第7回
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フォリナートークの特徴
1.  言語形式的調整:音声、語彙、文法,談話
レベルでの調整 2.  機能的調整:明確化要求、確認要求など
の相互行為レベルでの調整 3.  具体的には、助詞や助動詞の強調、外
来語・具体語の頻用、日本語による言い
換え、語や節の繰り返し、質問、説明、ま
とめの多用、話題の制限などが見られる。 社会言語学1 第7回
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Foreigner talkの研究 スクータリデス(1988)
•  状況:一人の日本人と8人のオーストラリア人
との1時間にわたる会話。 •  NS:45歳くらいのビジネスマン。ある日本企業
のオーストラリア駐在派遣社員。データ収集
時は滞豪三カ月未満 •  FS:男性、女性各4人ずつ。年齢は25歳から4
5歳まで。夜間大学で日本語を学習中。 •  トピック:職業や、日本とオーストラリアの生活
体験など •  形式:FSからNSへの質問 社会言語学1 第7回
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特徴:語彙1
•  はじめに選んだ言葉をすぐ別のもっと簡単
な日本語の同義語におきかえる –  ヨーロッパの諸国⇒ヨーロッパの国 –  豪州⇒オーストラリア –  冷房がついていません⇒クーラーがありません
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特徴:語彙2
•  はじめに選んだ言葉をそれに対応する英単
語になおす –  図面⇒drawing –  粘土⇒clay 社会言語学1 第7回
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特徴:語彙3
•  はじめに選んだ言葉をより易しい表現にパラ
フレーズする –  高速道路⇒速い、高い、スピード道路 社会言語学1 第7回
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名詞以外の言い換え
• 
• 
• 
• 
動詞:すいています⇒混んでおりません 形容詞:よろしい⇒いい 副詞:正確に⇒correctlyに 接尾辞:三十名⇒三十人 ※以上は、会話において、一度言い換えられ
ると、それ以降は一貫して使われた。 社会言語学1 第7回
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日本語の代わりに英単語を使う
• 
• 
• 
• 
Countryの方にいくと・・・ 東京にhead officeがあります 日本のpoliceもしっかりしている Vehicle productのindustryですか。 社会言語学1 第7回
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特徴:文法1
•  冗語(主たる意味の伝達には不必要な言葉
)を避ける –  そういうわけで –  ということです –  じゃないかと思います
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特徴:文法2
•  増語 –  FS「日本にいい道路はありますか」 –  NS「オーストラリアの道路は、日本の道路よりも、
メルボルンのような町に近い所は良い(sic)と思い
ます。日本にもオーストラリアの道路、メルボルン
の道路よりもいい道路があります」 •  人称代名詞を省略しない –  「私は今あなたに答えました。あなたの質問に私は
答えましたが、あなたの質問されたことに全部答え
ないでしょう。何が足りなかったでしょうか」
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特徴:ディスコース1
•  FSの質問が分からない時、「もう一度、もう
一度」と言う。 –  FS「かれさんすい(枯山水)にわがありますか」 –  NS「もう一度?」 –  FS「かれさんすい・・・にわ・・・」 –  NS「ああ、わかりました」 社会言語学1 第7回
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特徴:ディスコース2
•  自分が話している間、相手のFSに単語や
文章の意味が分かったかどうか聞き続ける。 –  「金鉱の町がありますね・・・分かりますか。ゴー
ルドラッシュの」 –  「燃費と言います・・・何キロ、一リットルで走
るか・・・分かりましたか」 社会言語学1 第7回
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特徴:ディスコース3
•  相手のFSが必要な単語や正しい文の組立て方を知
らなかった時には、FSの間違えを訂正する •  単語 –  FSの一人がガソリンについて質問するとき「ペトロール」
といった時、 –  NS「これは・・・日本語でペトロールと言わずにガソリン
と言います」 •  文法 –  FS「あなたは車の方面と比べると、好きな車you know、
車の方がいいですか」 –  NS「どんな車があなたは好きですか。どの車があなた
はすきですか」 社会言語学1 第7回
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コード・スイッチング (code‐switching)
•  2言語以上が併用される社会において、話し
手が使用言語を別の言語(あるいは言語変種
)に切り替えること。 •  コード・スイッチングを行う理由には、聞き手
への仲間意識、トピックの選択、聞き手との
社会的・文化的距離などが考えられる。 •  しかしながら、コード・スイッチングの動機は、
話し手によって必ずしもいつも意識されてい
るわけではない。 社会言語学1 第7回
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コード・スイッチングの種類
•  状況的(situaAonal)コード・スイッチング –  状況や話題に応じて言語(変種)を切り替えること。 •  隠喩的(metaphorical)コード・スイッチング –  状況や話題が同じであっても、話者が自分の気持
ちを伝えるために言語(変種)を切り替えること。 •  会話的(conversaAonal)コード・スイッチング –  会話の流れを維持しながら、言語(変種)を切り替
えること。ひとつの文中、または、文の切れ目で言
語(変種)が切り替わること。コード・ミキシング(code
‐mixing)ともいう 社会言語学1 第7回
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状況的コード・スイッチング
•  状況に応じて使用される言語(あるいは言
語変種)が変わること。 •  話題の変化は関与しない。 •  どの状況でどの言語を使用するかがあらか
じめ決まっている場合(例:儀式)もあれば
、決まっていないこともある。 •  人間関係の違いを少なくする働きがある。 社会言語学1 第7回
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隠喩的コード・スイッチング
•  ある種のトピックを話すために言語(あるい
は言語変種)を変えること。 •  2つの言語の両方で話すことができるトピッ
クでもどの言語を選ぶかによって、トピック
に実際のことばで表現される内容以上の
情報やニュアンスが付与される。 –  例:米国駐在の家族の子供同士が親に内緒の話題を
英語の若者言葉で話す場合。兄弟間の親密度を高め
ると同時に親を疎外する働きもある。
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会話上のコード・スイッチング
•  会話の流れを維持しながら2つの言語(ある
いは言語変種)を使用する場合。 •  会話上のコード・スイッチングの機能 –  会話への情報の差し込み –  引用 –  聞き手の特定 –  内容の繰り返し –  内容の明確化 –  個人情報と客観情報の対比
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日英コード・スイッチングの実例
•  hVp://www.youtube.com/watch
?v=LGjzI5tzKME 社会言語学1 第7回
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むすび
•  レジスターとスタイルに焦点をしぼり、コンテ
クストによる言語差を考察した。
•  同じ話者でも、相手(人間関係、地位、
役割)、話題(話の目的)、媒体(対面、遠隔
、話し言葉、書き言葉)が異なるとどのよう
に違ったことば使いをするについて、特に
相手や話題という観点から論じた。 社会言語学1 第7回
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次回の予告
•  状況に応じた言語使用の重要なテーマと
して、ポライトネスについて考察する。 •  ポライトネスというのは、円滑なコミュニケ
ーションの為に話し手が相手に示す心くば
りを示す言語使用の原則を指す。 社会言語学1 第7回
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