資料 - 税関

何故セキュリティ対策か?
1.はじめに
2.国際貿易の現状
3. 9.11以降の新たなイニシアティブ
4.リスク管理の手段としてのHS
政策研究大学院大学・青山学院大学
客員教授 長瀬 透
1.はじめに
関税の歴史は非常に古い
1.古代エジプト
新王国(BC1570 年頃以降 ― トトメス1世、ハトシェプスト女
王、ラムセス2世など)以降には関税の存在を確認済
2.古代ローマ
港湾使用料としての課税から、通過する物品への課税へ
(BC124年頃)及び、下表の税制(「ローマ人の物語」より)。徴税請
負人(取税人)の存在
3.中世
ベネチアの関税(「海の
都の物語」など参照)、
ライン川やロアール川
などヨーロッパの河川
流域に多数の税関、など。
徴税請負制度(tax farming)が
主流。フランス革命で廃止(ギロチン)
1.はじめに
税関の役割の発展過程
関税等の徴収
国内産業の保護
輸入禁制品・規制品の取締り
貿易の円滑化
サプライチェーンのセキュリティ
税関の
役割
1.はじめに
税関業務ー伝統的には
•通関時点で、すべて の
書類、貨物を審査、 検査
(100%)--賦課課税
•関税の支払いを前提に
輸入許可
•すべての手続きが
通関の段階のみで完了
税関業務の近代化
近代化された税関
•賦課課税から申告納税へ
•リスク管理の導入---100%
審査、検査からの脱却
•貨物から者へのfocus
•事後調査
•事前審査
•延納制度
•通関と納税の分離(含、AEO)
など
2.国際貿易の現状(UNCTAD資料より)

2010年の海上貨物の動向(トン/TEU)
1.合計
84 億トン
(100%)
2. 石油
27億5千万トン (33% )
3. 主なバルク品
23億3千万トン (28%)
(鉄鉱石、穀物、石炭、ボーキサイト/アルミナ、リン)
4. その他のドライカーゴ 20億2千万トン (24%)
(コンテナを除く)
5. コンテナ
13億トン
(15%)
⇒ 約1億4000万TEU 、約1億個
⇒約1億5400万 TEU (2011)
UNCTAD (Review of Maritime Transport, 2011)
2.国際貿易の現状(UNCTAD資料より)
コンテナ貿易の伸び
1990-2010で平均 8.2%
(参考)
•全体で
約4億56000万
TEU
•上位20
位で約2
億2000
万TEU
財務省資料
より
2.国際貿易の現状(OECD資料より)

コンテナのもつサプライチェーンにおける脆弱性
⇒テロリスト、その他密輸業者のターゲット
1.詰め込み段階
2.輸送段階
3.ヤード等での積替え、
積卸のための待機段階
コンテナ自体の盗難
コンテナの中身の盗難---できるだけ発見が遅れるような企て
不正な貨物が気づかれずに目的地に到着できるような企て
1)ハイジャックされたコンテナー途中で開けて不法貨物を
入れ、気づかれぬように再シール
2)トロイの木馬ー善良な貿易業者になり済まして、ある日
突然不正な貨物を入れる
検査
シール 外観 追跡 ドキュメント・情報
1) ○
○
○
○
△
2) ○
×
×
△
○

3. 9.11以降の新たなイニシアティブ
(1)WCO


1億個のコンテナ、11百万個が米国向け(40%はLA揚げ)
↓ 如何に効率よく危険貨物を阻止するか
基準の枠組み(WCO:世界税関機構)
事前情報
電子情報
リスク分析
X線非破壊検査(輸出国にて)
AEO承認者
コンプライアンスとセキュリティの確保
自主管理ー事後監査
相互承認
3. 9.11以降の新たなイニシアティブ
(2)事前情報
 米国の24時間ルール
-マニフェスト情報の輸出国での船積24時間前提出
-船社等が提出

米国の「10+2」(セキュリティファイリング)
「10」-マニフェストに含まれていない情報
-輸出国での船積24時間前提出
-米国の輸入者が提出
-輸入国の関税分類が必要(輸出国の分類と異なることもある)

EUの24時間ルール
-米国の24時間ルールに類似
(参考)米国税関に提出が必要なデータ
(機械輸出組合資料より)
現在義務付けられているマニフェストデータ
セキュリティ・ファイリングデータ
通関データ
船荷証券(B/L)番号
製造者/出荷者の名前/住所
通関番号/種類
米国に向かう直前の外国の港
販売者の名前/住所
通関-通関港
船社のSCACコード
コンテナ詰めした場所
申告者コード
船社に賦与された航海番号
買主の名前/住所
登録輸入業者
最初の米国の港への到着予定日
送り先の名前/住所
最終荷受人
米国での荷揚港
輸入業者登録番号
保証人番号
数量
荷受人番号
申告日時
数量の測定単位
原産国
輸入船社
米国向け貨物を最初に受け取る外国の港
貨物の6桁の関税率表の番号
船名
貨物の記述(6桁のHTS番号)
原産国
貨物の重量
船積み計画書
輸出国
荷主の名前
コンテナ状況メッセージ
輸出日
荷主の住所
外国の到着港
荷受人の名前
予定到着日
荷受人の住所
申告価格
船名
HSUSA(10)
船籍
製造者ID
船舶番号
荷積みした外国の港
Hazmatコード
コンテナ番号
シール番号
外国の港を出港する日
外国の港を出港する時刻
3. 9.11以降の新たなイニシアティブ
(2)事前情報



「10」への対処:輸出者の役割
「輸出者が、コンテナに詰めた商品に関する直接の詳細な情報をも
っているサプライチェーンの唯一の当事者であり、その役割は極め
て重要である。」
「サプライチェーンに何が送られたかを知っているのはコンテナを詰
めた者であり、輸出データがますます重要となってきている。輸出者
は、輸出申告書の税関への提出の責任を有し、荷送りの準備が完
了したところで、輸出入管理に関するデータのほとんどが揃っている
。輸出者にとっては注文がパッキングリストに合致し、それがインボ
イスと合致し、船積通知書と合致することが必要である。同通知書
は運送契約に合致し、それはB/Lとマニフェストに合致する必要があ
る。パッキングリストが間違っていれば、すべてが間違っている。こ
のように輸出者は多くの情報のカギを握っている。」
(関連記事からの抜粋)
3. 9.11以降の新たなイニシアティブ
(2)事前情報

「10」への対処:輸出入者の協力が必要
その一例:関税分類に関する米国の輸入者と日
本の輸出者の協力
-輸入者がP/Oに関税分類を記載して輸出者に送付
-輸出者のインボイスに同分類を記載
-「関税分類番号はブローカー泣かせであり、またブロー
カーもしょっちゅう変わるので、P/O段階で関税分類番
号を入れることにより、ブローカーによるミスを防いで
いる」との由
3. 9.11以降の新たなイニシアティブ
(3)AEO

AEO
-自主管理
-米国: C-TPAT; Tier 1, Tier 2, Tier 3
-EU: AEOC (Customs simplification) , AEOS
(Security and Safety), AEOF(AEOCとAEOS
の両方)
-日本: 輸出者、輸入者、保税倉庫業者、通関業
者等

相互承認
(参考)セキュリティ対策の進展(C-TPATのケース)OECD資料より
3. 9.11以降の新たなイニシアティブ
(3)AEO
開発途上国でも徐々にAEOへの取組みが増
えている。
 タイー2社を認定
 インドー昨年8月に以下を発表
セキュリティとコンプライアンスの確保を条件に税関の審査
・検査で優遇措置を与える内容のAEOプログラムを導入。
承認には、申請から90日程度が必要との想定。
①2011年8月23日に発表、②9月15日までに、パイロットテ
ストの受付、③9月30日までに申し込みの審査、④10月15
日までに3つのパイロットテストを決定、⑤2012年1月15日
までに承認のための審査、⑥2月15日にAEO付与の決定。
(注)インドは、申告納税制度と事後調査制度も導入を開始
3. 9.11以降の新たなイニシアティブ
(4)その他(いくつかのトピックス)
100%スキャン
米国の100%スキャン(セキュア・フレイトイニシアティブ)
RPM、OCR及びNIIの組み合わせにより、大量破壊兵器(WMD)
である小型核兵器及びその部材となる核物質、放射性物質を検
出することを企図。当初のタイムリミットは2012年⇒2年延長
150本/1時間ーーしかし現実的か?
NII
NII
3. 9.11以降の新たなイニシアティブ
(4)その他(いくつかのトピックス)
シンガポールー事前輸出申告制度の導入
 2013年4月から、すべての輸出申告を出港前にーAdvance
Export Declaration (AED)
-ハイリスク輸出貨物のタイムリーなリスク管理
-サプライチェーンのセキュリティ確保への協力、特にAEO
相互承認の促進に資するもの
 現在は、事前輸出申告規制品目の輸出及び陸路での輸出のみ
事前申告が必要
 その他は1976年の緩和措置により、出港後3日以内に申告すれ
ばよい。2011年の上半期では、56%が事前申告の対象。
 しかし、米国、日本、中国、豪州、EUでは輸出事前申告を採用
 サプライチェーンのセキュリティを確保することは、貿易の促進
に貢献し、貿易立国シンガポールに重要であるとしている。
 2013年4月1日から18カ月は移行期間とし、2014年10月1日から
本格実施を予定している(1月12日)。
3. 9.11以降の新たなイニシアティブ
(4)その他 (いくつかのトピックス)
WCO:Borders divide, Customs connects.
 今年度のスローガン。国境が国と国とを分かち、税関がそ
れをつなぐ。
 税関同士、税関と他の関係機関及び税関と民間業界との
連携(connectivity)により、物、サービス、人、技術、資本、
文化、アイデアがスムーズにかつ合法的に流れるのを国
際的にサポートし、もってよりスムーズで安全な貿易に貢
献し、成長と雇用を生み出し、近代化及び経済的な発展へ
の道を開くとともに、国民の安全を守る。
 本スローガンにEUでは、
-40年以上関税同盟の恩恵。EUの経済統合は、成長のた
めに相互に連携する必要があることを証明するよい例で
ある。
-世界のパートナーと接続することにより、もたらす恩恵は拡
大する。AEOの相互承認などを通じた安全でスムーズな
貿易の流れを確保、と呼応。
4.リスク管理のためのHS
主たる用途
1.課税
2.統計
(1)HSの用途
その他の用途
3.原産地規則
4.関税引下げ交渉-WTO,FTAなど
5.貿易規制物品の特定(有害廃棄物、
化学兵器、オゾン層破壊物質、
ワシントン条約関連、など)
6.内国税
7.貿易政策(輸入割当、ライセンス等)
8.リスク管理-ハイリスク貨物の特定、
マニフェスト(24時間ルール)及び
ISF(10+2)、など
4.リスク管理の手段としてのHS
(2)関税分類
HS関税分類品目表の表現は各国で同じ(条約)
↓
それでは各国で分類はいつも同じ? ⇒ 否、分類不統一が発生す
る主な理由
1.所詮、生身の人間が解釈
2.HSはあらゆる品目とあらゆる技術を網羅するため、
おのずと複雑になるのは否めず→異なる解釈
3.新製品(含、複合商品)の絶えざる登場
4.政府が関税分類を恣意的に運用し、関税政策、貿易政策等の
手段として意図的に用いる可能性 →高関税率を適用したり、IQ
対象に→税収の確保、 国内産業の保護、など
5.貿易業者の関心
低い関税率の適用、IQ品目を自由化品目に、など
4.リスク管理の手段としてのHS
(2).HS関税分類
しかしながら、関税分類が国ごとに異なれば、
• 関税率の適用に当たり、統一性・透明性が確保されない恐
れ。
• 適用関税率の予測ができず、貿易取引のコスト計算が難し
くなる。→投資にも影響
• 関税交渉においても、対象品目の範囲・定義が明確に定
まっている必要あり。
• 国際貿易に関する輸出入統計を正確に把握することも重要
•貿易の円滑化を阻害
HSの統一的適用、透明性、予見可能性の確保、business
planning及び貿易円滑化への貢献などの観点から同じ品目は
国際的に同じ項や号に分類される必要あり
「一物一分類」
4.リスク管理の手段としてのHS
(3)事前教示制度
1.事前に税関に輸入予定貨物の関税分類及び適用税
率を 照会すれば、回答を得られる制度(他に、関税評
価、原産地規則もカバー)
2.適正な納税申告の確保、通関の迅速性の確保とト
ラブルの未然防止、貿易と投資の促進に貢献。
3.分類の統一的適用に貢献⇒ 「一物一分類」
4.リスク管理の手段としてのHS
(3)事前教示制度
米国における事前教示の利用例


企業の純利益がもし4%であれば、関税を4万ドル節税
すると、100万ドルの売り上げと同等の効果
関税のセーブは会社にとってReverse Net Profit
↓
Tariff engineering---合法的に低関税率適用を工夫
開発段階から低関税率の適用になるような製品を検討
→事前教示で税率確定 ← コンサルタントの活躍
(参考)タリフエンジニアリング



合法的に低関税率が適用になるような関税分類を工夫し
、それに合わせて製品を考案する活動で、節税対策法。
更にその分類を事前教示で確定させれば、低税率が必ず
適用されることになる。
タリフエンジニアリング の例: 「タコの多く入っているた
こやきは輸入品である」
たこやきのタコが20%を超えると、タコの調製品として関税
率が9.6%、20%以下だと小麦粉の調製品として16%、安い
関税率を適用するために、輸入品にはタコが多く入ってい
るという整合性のとれた話(現実的な話かどうかは定かで
はない)。
(参考:米国の例)「関税を節税し景気後退時
に利益を上げる10の方法(10 Ways Importers Can
Save Duty and Increase Profits in a Recession)」
①関税評価におけるファーストセールの利用
②再輸出における還付制度の利用
③その他の関税法令での無税措置の利用
④GSPなど途上国優遇措置の利用
⑤FTAの利用
⑥FTZ、保税制度の利用による関税納付の先送り、加工・製造による
原料に課されるべき関税の軽減、Merchadise Processing Fee の一
括低額納付
⑦関税評価におけるFOB価格に含まれる控除可能な費用の明確化(タ
ーミナルのハンドリングチャージなど)((注)米国の関税評価はFOB
価格をベースにしている。)
⑧恒常的に輸入される貨物の、関税評価に係る加算要素の年度終了
後の加算によるキャッシュフローの改善
⑨ ACEによる後納制度を利用したキャッシュフローの改善
⑩タリフエンジニアリング
(2011年12月30日のJournal of Commerce)
4.リスク管理の手段としてのHS
(4)HSのリスク管理における重要性
リスク分析:リスクインディケーター(24時間
ルール、10+2など)
 分類の不統一⇒10+2に影響
 AEO申請者のリスクの点検とコンプライア
ンスのチェックーHSをベース
 分類の不統一により
-安全な貨物が検査にー円滑化を阻害
-危険な貨物が素通り


本日は、ご清聴ありがとうございました。