新生ストラテジーノート 第 150 号 - 新生証券

新生ストラテジーノート 第 150 号
2014 年 4 月 15 日修正版
2014 年 4 月 9 日
調査部長 江川 由紀雄
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(03) 6880-6035
国内基準行版バーゼル3導入後の運用についての考察
ダブルギアリング規制の対象範囲に注目、国内基準行の運用機会
国際統一基準行(2013 年 3 月末から)に続き、いよいよ国内基準行(2014 年 3 月末から)に
バーゼル3が導入された。国際統一基準行に適用されるバーゼル3 1は、バーゼル銀行監督委員
会のテキストにほぼ厳格に依拠したものとなっているが、国内基準行版バーゼル3は、日本独自
の修正を加えた箇所が多々ある。大きな違いが、自己資本比率規制の最も要となる「自己資本」
の定義に見られる。
国際統一基準行版バーゼル3では、銀行等が倒産手続に服さなくとも、元本が削減されてしま
う(いわゆる実質破綻認定時の「ベイルイン」特約が付されている)といった性質を有する劣後債
務を Tier 2 の自己資本として認めている。同様の優先株や優先出資証券であれば、「その他
Tier 1」として扱う。バーゼル3移行前は、ベイルイン特約がないものであっても、一定のルールで、
自己資本に算入できたので、大胆な定義の見直しである。国内基準行については、更に大きな定
義の見直しが行われたことになる。自己資本を「コア資本」に1本化し、 Tier 2 の概念を廃止し
たのである 2。
大胆なルールの変更だが、経過措置が設けられた。旧来の基準では自己資本に算入可能であ
った既発の「適格旧非累積的永久優先株」については 15 年間、劣後債等の「適格旧資本調達手
段」については 10 年間にわたるフェーズアウトが認められている。たとえば、旧基準で Tier 2 に
算入可能であった劣後債については、2014 年 3 月末はその 100%、2015 年 3 月末には 90%、
2016 年 3 月末には 80%…を「コア資本」に含めて計算することができる。大胆な見直しにもかか
わらず、算出される自己資本比率に大幅かつ急激な変化が生じないよう配慮されている。
しかし、債務免除特約等を付すことにより、新発であっても劣後債を Tier 2 に算入可能な国際
関連する金融庁告示、Q&A 等の文書は、金融庁の次の URL に整理して掲載されている。(本
稿執筆時現在) 金融庁 「自己資本比率規制(バーゼル2~バーゼル2.5~バーゼル3)につい
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て」 http://www.fsa.go.jp/policy/basel_ii/
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ただし、国内基準行であっても、内部格付手法を採用するには、別途、国際統一基準行の基準
で自己資本比率を算出し、普通株式等 Tier 1 比率を一定水準(現状は 4.5%)以上に維持するこ
とが求められている。
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新生証券株式会社 調査部
統一基準行とは異なり、劣後債のような負債性資本調達手段については、国内基準行は、今後
発行するものについては「コア資本」に算入できない。つまり、国際統一基準行にとって資本調達
手段になり得るものが、国内基準行にとってはそうはならない。
このことは、いわゆる「ダブルギアリング規制」に影響を及ぼす。金融機関相互の資本調達手段
の持ち合いによる自己資本比率のかさ上げに対する牽制として考案されたと思われる銀行の「ダ
ブルギアリング規制」は、バーゼル2までは、「意図的に保有している他の金融機関等の資本調達
手段の額」が自己資本控除となった。つまり、「意図的」でなければ、自己資本控除とはならない。
バーゼル3への移行にあたり、(1) 相手先を国内金融機関に限定せず、保険会社、リース会社、
クレジット会社等を含む国内外の金融業に拡大し、(2) 「意図的に保有」要件に、直接・間接的に
相互保有していることが加わった。更に、「意図的に保有」でなくとも、自らの自己資本の一定割合
(普通株式等 Tier 1 の 10%等)を超えて保有すると、当該上限を超過する部分につき、対応する
Tier からの自己資本控除扱いとなった。
国際統一基準行にとって資本調達手段(たとえば、 Tier 2 に算入可能)になる債務免除特約
付劣後債は、国内基準行については資本調達手段にはならないものの、意図的な相互保有の場
合に国内基準行にとって自己資本控除となる。そうはならない場合に、バーゼル3対応の他行の
Tier 2 証券を保有する場合に、リスクウェイトは 100%ではなく、250%扱い 3となる。日本の国
際統一基準行や海外の金融機関が発行するバーゼル3対応の Tier 2 証券(本邦銀行持株会社
発行の債務免除特約付劣後債等)は、国内基準行にとっての「コア資本」になり得ない資本調達
手段なので、国内基準行が保有する際の扱いがやや複雑になるということである。
自己資本の区分を廃止し「コア資本」に一本化-1980 年代の考え方に立ち返る
日本では、1997 年の早期是正措置の導入と同時に、国内基準行についても Tier 2 の概念
を導入し、劣後ローンや劣後債を自己資本(Tier 2 に)算入することが認められた。自己資本比率
が一定水準を下回れば半ば自動的に行政処分を行うとするルール(当時、一般に「早期是正措
置」と呼ばれていた)の導入と同時に、劣後債の発行によって Tier 2 を増強でき(特別目的会社
の優先出資証券、優先株等であれば、Tier 1 への算入も可能)、自己資本比率を維持できること
が明確になった。
劣後ローンや劣後債は、借手や発行体に法的倒産手続が開始されると、関連する債権が他の
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平成 26 年 3 月末日までに既に保有しているものは、経過措置(告示 12 条 1 項)の対象となり、
リスクウェイトは 100%からスタートし、段階的に引き上げられる。
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債権者の権利に劣後する特約を合意したローンや社債であって、法的倒産手続が開始されない
限り、債務者は約定された期日における元利払いの義務を免れるものではない。債務者が倒産し
てしまえば(法的倒産手続に服してしまえば)、他の債権者に対する配当等の支払が優先されるこ
とになる。劣後特約の倒産手続における扱いについては、破産法の 2004 年改正を始めとし、民
事再生法、会社更生法においても、その後の制定・改正時に明文規定が設けられ、実際の倒産
手続において劣後特約は尊重されないのではないかといった疑念も解消された。
倒産しなければ債務のように振る舞い、倒産すれば資本のように振る舞うものが劣後ローン・
劣後債だと言えよう。この「倒産すれば資本のように振る舞う」性質に、どの程度、債権者(とくに、
預金取扱金融機関にとっては、一般国民を含む預金者およびその権利を継承する可能性がある
預金保険機構を含む)の観点からの損失吸収力を認めるかどうかについては、結局のところ、評
価する立場にある者(取引相手であれ、市場参加者であれ、監督当局であれ)の価値観・世界観
に大きく依存することになる。倒産すれば自己資本のように振る舞うもの(法的な権利義務関係)
につき、倒産していない時点で自己資本としての性質を積極的に評価するか、それとも、単なる債
務としてしか考えないのか、という価値観である。
積極的に自己資本として評価しようとする考え方が、バーゼル2までのバーゼル委合意に基づ
く銀行の自己資本比率規制の考え方(ただし、Tier 2 は、Tier 1 と同額までという制限あり)であ
ったし、日本において 1997 年に早期是正措置を導入した際の考え方も同様であった。また、金
融庁が積極的な活用を促進している「資本性借入金」 4も、融資に劣後特約を付すことで、それを
資本とみなそうとする考え方に依拠している。リーマンショック後に考案されたバーゼル3では、こ
のような考え方を全面的に否定しているという訳である。
今後の懸念―IMF の「推奨」を根拠に、最低自己資本比率が引き上げられる可能性
バーゼル委員会による銀行の健全性規制は、本来、国際的に活動する銀行を対象として想定
している。もっぱらひとつの国の中で活動する銀行等に対する規制は、当該国が責任をもって決
めて運用すればよいことであり、国際的な統一や調和には馴染まない領域である。米国では、最
大手の金融機関以外の金融機関に対する自己資本規制(レバレッジ規制)等は、バーゼル委員
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「平成 23 年(2011 年)11 月 22 日、金融庁においては、資本性借入金の積極的な活用を促
進することにより、東日本大震災の影響や今般の急激な円高の進行等から資本不足に直面して
いる企業のバランスシートの改善を図り、経営改善につながるよう、今般、金融検査マニュアルの
運用の明確化を行うこととしました」 金融庁 『「資本性借入金」の積極的活用について』
http://www.fsa.go.jp/policy/kariirekin/
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会のテキストに拘束されない米国独自の基準で運用されている。日本では、1988 年 6 月~7 月
の最初のバーゼル委員会合意の国内導入(1988 年 12 月の大蔵省銀行局長通達改正により導
入―その後の銀行法改正により 1993 年 4 月から大蔵省告示に移行)時より、「国内基準行」に
概ねバーゼル合意に沿った自己資本規制を採用し、今日に至っている。ただし、最低自己資本比
率をバーゼル合意よりも低い水準にする等 5の点で重要な差異を設けている。バーゼル2までは
自己資本比率 4%、国内基準行版バーゼル3では、「コア資本」比率 4%を最低水準として要求し
ている点が海外の当局者にとって奇異に見える可能性もあり得る。しかし、他国の当局や政治指
導者が口出しすることは、一般的に、考え難い。内政干渉またはそれに近い行為だからである。も
っとも、国際機関であれば、話は別である。事実、日本の自己資本比率規制については、IMF か
ら問題指摘を受けている形となっている。
国際通貨基金(IMF)が 2012 年 7 月 10 日付けでとりまとめ、同年 8 月 1 日付けで一般向け
に公表した日本に関する金融セクター安定性評価レポート(FSAP レポート) 6で、IMF は、日本の
銀行に対する自己資本比率規制が二重基準となっており、国内基準行に要求する最低自己資本
比率が低くなっているところ、これを国際統一基準行並みの要求水準に引き上げることを “high
priority recommendations” (優先度の高い推奨事項)のひとつとして、推奨した。このような
推奨を行った IMF スタッフの意図や背景には十分に留意する必要があるが、IMF が指摘した日本
における国内基準行に対する自己資本比率規制の問題(国際統一基準行対比、要求する最低自
己資本比率が低いとする問題)は、今年のバーゼル3の国内基準行への導入によっても解消され
ていない。この問題が解消されていないため、IMF の FSAP に基づく調査は、今後も、数年おきに
実施されることが予想され、将来にわたり、IMF から同じ問題を繰り返し指摘される可能性があろ
う。日本人が歴代の IMF 副専務理事のポストを占めていることや、日本政府から派遣されている
職員を含め、日本人の役職員が多数所属する組織による報告書を、将来にわたり軽く受け流し続
けることができるであろうか。導入されたばかりのルールを早速見直すということにはならないだろ
うが、向こう数年のスパンで何が起き得るかについて考えると、やや懸念が残る。
(調査部長 江川 由紀雄)
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国内基準行については、有価証券の含み益を自己資本に算入しないことも、重要な違いである。
日本からの参加者がバーゼル委員会で強力に主張した結果、バーゼル合意に盛り込まれること
になった有価証券含み益の自己資本(Tier 2)算入につき、日本の当局が自国の国内基準行に
はあてはめていないやや込み入った事情について理解するには、たとえば、氷見野良三 『BIS 規
制と日本(第 2 版)』(金融財政事情研究会、2005 年)の第 3 章が参考になる。
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IMF Country Report No. 12/200, International Monetary Fund, Financial System
Stability Assessment Update—Japan, July 10, 2012
http://www.imf.org/external/pubs/ft/scr/2012/cr12210.pdf
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新生証券株式会社 調査部
2014 年 4 月 15 日 修正版について
2014 年 4 月 9 日付でリリースしたバージョンについて、見出しおよび本文中に一部誤解を招
きかねない表現があったため、字句を修正しました。修正箇所は下線で表示してあります。
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名称
:新生証券株式会社(Shinsei Securities Co., Ltd.)
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第95号
所在地
:〒103-0022 東京都中央区日本橋室町二丁目4番3号
日本橋室町野村ビル
Tel : 03-6880-6000(代表)
加入協会 :日本証券業協会 一般社団法人金融先物取引業協会
一般社団法人日本投資顧問業協会
資本金
:87.5 億円
主な事業 :金融商品取引業
設立年月 :平成 12 年 12 月
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