736 2014年度山本賞の受賞者決まる 受賞者:釜江陽一(国立環境研究所地球環境研究セン ター) 極構造を励起し,日本北東部における北東風偏差を 生じることを GCM シミュレーションから見出し, 研究業績:二酸化炭素濃度上昇に対する対流圏調節過 程とその気候変化への寄与に関する研究 この応答が対流圏調節過程と同様のメカニズムで説 明できると指摘した.低緯度では海面水温の上昇が 選定理由:大気中の二酸化炭素濃度を瞬時に倍増させ 海陸昇温コントラストの形成に重要である一方,中・ て平衡に達したときの全球・年平 地表気温の変化 高緯度では二酸化炭素による直接的な放射強制がよ を平衡気候感度とよび,気候変化を定量的に評価す り重要であることを明らかにした. る基本的指標とされる.二酸化炭素濃度漸増時にお 以上のように,釜江氏は有効放射強制力の決定メ ける気候場の過渡的変化も平衡気候感度に関係する カニズムに関する重要な知見を提示しており,その が,観測データや全球気候モデル(GCM )による 成果は今後の気候研究の発展に大きく資するもので 平衡気候感度推定は不確実性を伴う.一方,有効放 ある. 射強制力と地表気温の変化に伴う気候フィードバッ クを用いた推定にも不確実性がある.気候変化予測 以上の理由から,日本気象学会は釜江陽一氏に 2014年度山本賞を贈呈するものである. の信頼性向上のため,気候システムのより深い理解 を通じて平衡気候感度の推定幅を狭めることが課題 授賞対象業績: とされている. Kamae,Y.and M.Watanabe,2012:On the robustness of tropospheric adjustment in CM IP5 models. Geophys. 有効放射強制力は,二酸化炭素の瞬時放射強制と 成層圏調節過程だけでなく,対流圏調節過程にも影 響される.そこで,釜江陽一氏は全球気候モデル MIROC を用いた多様なシミュレーションを行い, 対流圏調節過程を調べた.二酸化炭素濃度を瞬時に 4倍増させた場合,速い応答として温暖化と乾燥化 が起こり,下層雲の減少による太陽放射に対する正 の雲放射強制力が2日以内に平衡状態に達すること が かった.また,対流圏下層の安定化により乱流 熱フラックスが減少し,海洋上で境界層が薄くなる ことを示した.さらに,有効放射強制力を(1)時 間不変の強制,(2)日スケールの調節, (3)遅い 調節の3つの時間スケールに けて議論した.釜江 氏は,上記の応答が,第5期結合モデル相互比較プ Res. Lett., 39, L23808, doi:10.1029/2012GL054275. Kamae, Y. and M . Watanabe, 2013:Tropospheric adjustment to increasing CO :its timescale and the role of land-sea contrast. Clim. Dyn., 41, 3007-3024. Kamae,Y.,M .Watanabe,M .Kimoto and H.Shiogama, 2014a:Summertime land-sea thermal contrast and atmospheric circulation over East Asia in a warming climate ― Part I:Past changes and future projections. Clim. Dyn., doi:10.1007/s00382-014-2073-0. Kamae,Y.,M .Watanabe,M .Kimoto and H.Shiogama, 2014b:Summertime land-sea thermal contrast and atmospheric circulation over East Asia in a warming climate ― Part II:Importance of CO -induced continental warming. Clim. Dyn., doi:10.1007/s00382-0142146-0. ロジェクト(CM IP5)の複数の GCM に共 通 し て おり,対流圏調節過程の GCM 間のばらつきが,水 蒸気変化の不確実性によることを突き止めた. 瞬時放射強制への応答特性の違いから海陸昇温コ ントラストが生じ,対流圏調節を駆動する可能性が 指摘されていたが,釜江氏は,海陸昇温コントラス 受賞者:木下武也(情報通信研究機構統合データシス テム研究開発室) 研究業績:大気大循環の3次元構造を記述する新理論 の提唱 トは陸上の上層雲量の増加を通して太陽放射に対す 選定理由:大気大循環論の基本である東西風と子午面 る負の雲放射強制力を生じ,海上の正の雲放射強制 循環の力学的解釈は,地球規模での物質循環とも関 力の一部を相殺する一方,有効放射強制力の決定に 連して,1970年代以降の中層大気観測と理論により は本質的でないことを明らかにした.また,温暖化 急速に発展した.なかでも種々の大気波動がもたら 時の海陸昇温コントラストが夏季極東域に気圧の三 108 〝天気" 61.8. 737 す 作 用 の 重 要 性 は,変 形 オ イ ラー平 (Trans- 3D-flux-M と は 異 な る こ と を 示 し た(Kinoshita formed Eulerian-Mean)系に代表される理論体系 .以上の成果によって,従前の諸 and Sato 2013b) に基づく定量的解析によって強く認識されるように 研究で示されていた個別的な理論式を包含する新し なってきた.しかしながら,この従来の理論体系で い統一的な理論体系が構築されたことは画期的であ は,波動が存在する背景場は東西一様であると仮定 る.今後,この新理論体系を再解析データや高 解 しており,物質輸送を近似的に表すラグランジュ流 能大気大循環モデルによる数値シミュレーション と波活動度の子午面断面における2次元的描像の記 データ等に適用することにより,大気大循環の3次 述にとどまることが多かった.また,この理論体系 元構造やその力学的理解,また,様々なスケールの を拡張し,3次元的描像を得るための手法も提案さ 波の階層構造やその結合過程の理解が飛躍的に深ま れてきたが,ロスビー波は準地衡風方程式系,重力 ると期待できる. 波はプリミティブ方程式系というように,これら2 以上のように,本研究は気象力学の主要課題の1 種類の主要な大気波動を個別に扱う必要があった. つである大気波動理論を,厳密な数学的手法と深い さらに,近年,高解像度な観測やモデル研究の進展 物理的 察により発展させたものであり,この成果 に伴い,重力波を含む波動の振幅やラグランジュ流 を導いた木下氏の力量は極めて高く評価できる. の経度依存性が明らかとなり,これらの3次元的描 像を記述し,かつ重力波とロスビー波を統一的に扱 以上の理由により,日本気象学会は木下武也氏に 2014年度山本賞を贈呈するものである. える新たな理論体系の構築が期待されていた. 木下武也氏は,そのような理論体系の構築を目指 し,東西平 の代わりに時間平 を用いて,プリミ ティブ方程式系における3次元ラグランジュ流と, 平 流に働く波強制を記述する3次元波活動度フ ラックス(3D-flux-M )の理論式の導出に成功し た(Kinoshita and Sato 2013a).次いで,重力波 およびロスビー波に関する統一的な 散関係式を導 出して,波動伝播を記述する3次元波活動度フラッ 授賞対象業績: Kinoshita, T. and K. Sato, 2013a:A formulation of three-dimensional residual mean flow applicable both to inertia-gravity waves and to Rossby waves. J. Atmos. Sci., 70, 1577-1602. Kinoshita, T. and K. Sato, 2013b:A formulation of unified three-dimensional wave activity flux of inertia-gravity waves and Rossby waves. J. Atmos. Sci., 70, 1603-1615. クス(3D-flux-W )の定式化にも成功し,これが 2014年8月 109
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