平 成 26 年 研度究 報 告教 授 客員 フルフラールからの高分子材料開発 〜非可食バイオマス由来化合物の利活用〜 大学院理工学府 分子科学部門 助教 橘 熊野 はじめに ブラジルにおいて、可 食のサトウキビを原 料として 二酸化炭素排出削減と化石資源枯渇対策のた 生 産が開 始されている。その他にも、一 部をバイ めに、化 石 資 源の代 替 資 源である再 生 可 能 資 源 オマスに置き換えたポチブチレンテレフタレートやポ が 社 会 的に求められている( 図 1)。 エネルギー リブチレンサクシネートも生産されている。 の代替資源としては、バイオマス燃料や太陽光発 このようにバイオマス資 源を用いた高 分 子 材 料 電や風 力発 電など再 生 可 能 資 源のエネルギー利 の生産が拡大しているが、高分子材料の原料とし 用 が 進められている。 一 方 で、 化 成 品・高 分 子 て可食バイオマスを用いることは、人口増加に伴う 材 料のための再 生 可 能 資 源としては、 太 陽 光や 食 糧 問 題と競 合する。また、 非 可 食の資 源 作 物 風力では代替が困難であるために、バイオマス資 からの植物油脂を用いても、その作物を栽培する 源を利 活 用することが 必 須である。 バイオマス由 には食 料 生 産と同 等の農 地 が 必 要であり、 食 料 来の燃料はすぐに燃やすが、バイオマス資源由来 生産力を落とすことに繋がる。環境問題と食糧問 の化成品・高分子材料は、長期使用が可能であり、 題を同時に解 決するには、非 可 食の廃 棄 物 系バ 結果として社会への二酸化炭素固定化することに イオマス資源の利用が必須である。 つながる。つまり、バイオマス材料の利用拡大は、 非可食の廃棄物系バイオマス資源としては、大 二 酸 化 炭 素の排 出 削 減だけではなく固 定 化に寄 量確保可能な森林伐採で発生した間伐材や農産 与する。 物 が 有 望 視されている。その中でも、フルフラー ルやヒドロキシメチルフルフラールを始めとするフラ ン誘導体は工業的生産方法が確立しているため、 非 可 食バイオマス由来 化 合 物として注目を集めて 1,2 いる(図 2) 。 図2 フラン誘導体 特に、フルフラールはトウモロコシの芯から工 業 的に大 規 模 生 産されており、 非 可 食の廃 棄 物 系 バイオマス資源として有望視されている。一方、フ 図 1 再生可能資源としてのバイオマス資源 ラン誘 導 体は、含 酸 素 芳 香 環、アルデヒド基など この10年で、様々な高分子材料が化石資源か 多彩な官能基を有している。それらの官能基を利 らではなく、 バイオマス資 源 から生 産されるように 用すれば、多種多様な化合物群へと化学変換が なった。生分解性高分子であるポリ乳酸はトウモロ 可能である。つまり、現在は化石資源から生産さ コシなどの可 食のデンプン質から生 産されている。 れている化 成 品・高 分 子 材 料を、フルフラールか また、 汎 用 高 分 子の代 表 格であるポリエチレンは ら化学変換によって生産が可能になる。 - 66 − 研究成果 平 成 26 年 研度究 報 告教 授 客員 私たちはフルフラールを出発 物 質とする化 合 物 群の合成と、それを用いた次世代の非可食バイオ マス資 源 由来 高 分 子 材 料 開 発の研 究を推 進して いる。これまでの成 果として、フルフラールのみを 出発原料として、工業生産可能なプロセス 4 段階 を経て含酸素二環式酸無水物(OBCA)を合成 した。OBCA と各種ジオールと共重合することで、 新 規 バイオマス由 来ポリエステル(POBC)を合 成した(図 3) 3 。 図5 POBC-c の光学特性評価 . 左:厚さ 0.1mm 円形 フィルムの外観観察 . 右:UV-vis スペクトル これからの展望 バイオマス資 源からの高 分 子 材 料 開 発は、 再 生可能エネルギーと並んで世界中で活発に研究さ れている。海外でのバイオマス資源の利活用は自 国の農業支援も兼ねている実情がある。穀物など の農 産 物 由 来のバイオマス資 源を日本 国 内 で利 用していたのでは、コスト面で諸 外 国に太 刀 打ち できない。日本 国 内で最も利 用 価 値 があるバイオ マス資源は、非可食の廃棄物系バイオマス資源、 特にリグノセルロース系である。日本としてバイオマ 図 3 POBC の合成スキーム ス資源の研究をするには非可食の廃棄物系バイオ マス資源の利活用を推進する必要がある。 POBC-a, b, c は自立 性フィルムへと成 形 加 工 することが 可 能であり、引 張 試 験によって力 学 的 強 度を評 価したところ、POBC-b, c のフィルムは 柔軟性が非常に高いという結果を見出した(図 4)。 現在、私たちは OBCA をポリマー原料として用 いて、様々な高分子の合成を進めている。その中 には既 存の生 分 解 性 高 分 子よりも力 学 的 特 性 が 優れている材 料の開 発にも成 功している。さらに は、昨 年 度からフルフラールから様々な化 合 物 群 の合成と汎用高分子の開発プロジェクトを開始して いる。これらの研 究を通じて、 非 可 食 バイオマス 資源の利活用を今後も進める。 参考文献 (1) Tachibana, Y.; Masuda, T.; Funabashi, M.; Kunioka, M. Biomacromolecules 2010, 11 , 2760–5. (2) Tachibana, Y.; Masuda, T.; Funabashi, M.; Kasuya, K.; Kunioka, M. In Biobased Monomers, Polymers, and Materials ; Patrick B. Smith, R. A. G., Ed.; Acmerican Chemical Society, 2012; 図4 POBC の引っ張り試験 pp. 91–110. (3) Tachibana, Y.; Yamahata, M.; Kasuya, K. 光学特性の評価をしたところ、可視光領域にお Green Chem . 2013, 15 , 1318–1325. いて透明性が高いという特徴を有していた(図 5)。 また、環境中での生分解性を有することも明らかに している。 - 67 −
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