安全研究センター成果報告会 2013/1/16 巨大地震が原子力機器健全性に 及ぼす影響評価に関する研究 安全研究センター 機器・構造信頼性研究グループ 勝山 仁哉 本発表の一部はJNES委託業務の成果である 研究の背景と課題 東北地方太平洋沖地震 福島第一原子力発電所 • • • 原子炉建屋最下階の基礎版上での観測値 (単位: Gal) 1号機 2号機 3号機 発生年月日: 2011年 3月 11日 460 550 507 観測値 地震規模: マグニチュード9.0 基準地震動Ssによる最大加速度 487 438 441 基準地震動を大きく超える揺れ 基準地震動Ss: 新耐震設計審査指針 (2006) 一部の機器に塑性域に至る荷重がかかった可能性 – 通常運転時には弾性域を越えない。 – 仮に地震により一時的に塑性域に至ったとしても、継続的に大きな変形を起こさない。 – 検査で見つかったき裂に対して運転期間内の進展量を予測して健全性を評価。 (ただ し弾性域の評価) ① 塑性域の地震荷重を受けた機器類におけるき裂進展評価手法が確立されていない。 ② 新耐震指針では、基準地震動を超えた場合を想定して残余のリスクを考慮することと 明記されているが、その評価方法は定められていない。 ③ 基準地震動を超えた場合、塑性域に至る荷重はどの機器類で発生するか、それらの 機器類はどの程度の地震荷重を受けるかを評価する手法の整備が不十分。 残余のリスクとは: 想定した基準地震動を上回る地震動の影響により、 施設の損傷、放射性物質の拡散、周辺公衆の被ばくをもたらすリスク 1 研究計画の概要 ① 塑性域の地震荷重を考慮したき裂進展評価手法の提案 ② 確率論的破壊力学 (PFM) 解析コードの開発と適用範囲の拡張 ③ 構造応答解析による地震荷重評価手法の整備 (システム計算科学センターと連携) 地震荷重の評価(入力データの作成) 配管の地震時破損評価 構造応答解析 (③) 地震荷重を考慮したき裂進展評価 (①) き裂 配管応答 地震荷重 建屋応答 PFM解析コードによる破損確率解析 (②) 破損確率 経年劣化に伴う 破損確率 入力地震動 運転時間 (年) 2 ①塑性域の地震荷重を考慮したき裂進展評価手法の提案 弾性域の荷重にのみ適用可能 不規則な波形を一定振幅に置き換えて評価 ◎ 塑性域の荷重に対応したパラメータ (J積分)の適用性確認 ◎ 不規則な波形に対応したき裂進展評価手法の構築 ○ 過大荷重によるき裂進展速度の加速・遅延効果の定式化 ○ 配管におけるJ積分データベースの整備 114.3 mm 8 mm 300 mm 貫通き裂 平板試験片を用いた要素試験 1800 mm 初期き裂 (60o) 配管試験体を用いた実証試験 3 荷重 塑性域の荷重に対応したパラメータ (J積分)の適用性検討 J積分 き裂進展に伴うエネル ギー解放率 (塑性域で も適用可能) J積分は荷重‐変位 曲線下の面積(エ ネルギー)に比例 弾性域 変位 (変形) 平板試験片を用いた要素試験 試験結果 試験結果 き裂進展速度 (m/cycle) き裂進展速度 (m/cycle) (疲労+延性き裂進展) 1.E-04 1.E-04 1.E-05 従来手法で評価 した結果 1.E-06 弾 性 域 1.E-06 J積分で評価した結果 1.E-07 1.E-07 10 1.E-05 K (MPa√m) 100 10 J (kJ/m2) • J積分でき裂進展評価が可能であることを確認 100 4 荷重 不規則な波形に対応したき裂進展評価手法の構築 地震荷重データ 変位 入力 配管応答解析 荷重 建屋応答解析 25 出力 変位 15 J J (kJ/m2) 20 10 5 0 0 50 100 150 サイクル数 (-) 200 250 1サイクル毎にJ※を算出する 手法を提案 ※ 疲労き裂進展に寄与するJ積分値 5 配管試験体を用いた実証試験 16 試験結果 提案手法による評価結果 従来手法による評価結果 14 12 初期き裂 (60o) き裂進展量, mm 10 8 6 4 配管に模擬地震動を負荷 してき裂進展量を測定 2 0 0 3 6 9 模擬地震動の繰り返し数, 回 12 15 • 提案した手法により、従来手法よりも精度良く き裂進展を評価可能 6 塑性域の地震荷重を考慮したき裂進展評価手法の提案 • 有限要素法解析により、配管にき裂が存在する場 合のJ積分データベースを整備 • 基準地震動を超えた地震荷重によるき裂進展及び 破壊評価を通じて耐震裕度評価を行う。 7 ②PFM解析コードの開発と適用範囲の拡張 スタート 解析条件 ・環境,形状 ・運転応力,溶接残留応 力分布,etc 確率変数 解析条件設定 確率変数サンプリング ・溶接残留応力分布 ・き裂進展速度 ・欠陥検出確率, サイジング精度,etc 運転状態を模擬 モンテカルロ法 破損評価 運転応力, 溶接残留応 力等を負荷 き裂進展評価 運転開始 イベント発生 ・漏えい ・破壊(破断) 運転終了 ・供用期間中検査(ISI)(欠陥検出性及びサイジング精度) ・過渡事象,地震荷重によるき裂進展 破損確率評価 課題 ストップ • 塑性域の地震荷重を考慮したき裂進展評価手法の導入 • 現状の解析対象は直管突合せ溶接部に限られるため、構造材料不連続部等 への適用範囲の拡張 8 塑性域の地震荷重を考慮したき裂進展評価手法の導入 • 提案したき裂進展評価手法をPASCAL‐SPに導入 • 仮に評価時点で地震が起きると仮定して破損確率を評価 解析条件 配管 内半径 273.9 mm 肉厚 38.9 mm 深さ 対数正規分布 半長 対数正規分布 き裂形状 運転に伴うき裂進展 地震動 (平均値: 1.06mm) (平均値: 12.8mm) 提案手法 従来手法 1.00E-02 1.00E-03 疲労 2.25Sm※ (評価時点で地震が 発生すると仮定) ※ クラス1配管許容状態Csにおける1次応力の許容応力 (降伏応力の1.5倍に相当) 1.00E-01 破損確率 (-) 炭素鋼管 1.00E-04 0 10 20 30 40 50 60 運転時間 (年) • 配管の破損確率は、従来手法による評価に比べて高くなる。 巨大な地震が発生した際の冷却材損失事故の発生頻度評価に有用 9 構造材料不連続部等への適用範囲の拡張 • き裂が顕在化しているものの、 溶接残留応力評価が難しく、そ のため健全性評価も困難な PLR配管鞍型管台部等の構造 不連続部を対象。 外表面 外表面 内表面 内表面 溶接部 配管鞍型管台部における溶接残留応力解析 • 構造材料不連続部における溶 接残留応力及びき裂進展評価 手法を開発・改良。 • 原子炉圧力容器上蓋・下部ヘッ ド等のNi基合金溶接部も対象。 構造材料不連続部におけるき裂 進展挙動を把握し、PFM解析の 適用範囲を拡張。 STEP 0 STEP 20 鞍型管台におけるき裂進展試解析 10 耐震裕度を評価するための手法の提案 PFM解析コードを用いて、基本地震動を超える地震荷重を考慮した機器の 破損確率評価等を行い、冷却材損失事故の発生頻度を評価。 ① 地震の大きさに対する裕度 2倍 ② 繰返し数に対する裕度 3倍 1倍 ・・・ 11 ③構造応答解析による地震荷重評価手法の整備 システム計算科学センターと連携 12 既存解析技術との比較 • 高精度な構造応答解析が可能 経年劣化等による強度低下を考慮した評価が可能 塑性域に至る可能性のある機器類について、機器類が受ける地震荷重を推定し、 き裂進展評価や破損確率評価に適用。 13 まとめ 平成 24 25 26 27 28 き裂進展評価手法の改良 PFM解析コードの開発・ 適用範囲の拡張 構造応答解析による 地震荷重の整備 • • • 日本機械学会維持規格等が定める健全性評価手法の高度化に寄与 基準地震動を超える地震に対する原子力施設の耐震裕度の評価 地震PSAの分解能や精度の向上 14 15 J積分とは J積分はき裂進展に伴い解放される蓄えられたエネルギ • 蓄えられたエネルギは外力の仕事、すなわち荷重‐変位曲線の下の面積に等しい • き裂進展に伴い解放されたエネルギは中図斜線部に等しい • J積分値は中図の斜線部の面積に比例 き裂が深く、き裂進展に伴う荷重‐変位曲線の傾きの変化が分かっている ⇒右図のように一つの荷重‐変位曲線から求められる。 a δa J積分値 a δa 荷重,P 荷重 荷重,P δaのき裂進展に伴い 解放されたエネルギー き裂の進展に伴 い傾きが変化 荷重 き裂長さaの試験片と き裂長さa+δaの試験片で比較 変位, u 変位,u 16 き裂進展速度の遅延・加速を評価可能なJ補正式の提案 ① き裂鈍化の影響 ② (i) (ii) (iii) ① ③ 引張 ④ き裂先端塑性域の影響 ② (i) 過大荷重 引張 圧縮 (ii) 遅延・加速領域 ai Zi aol Zol (iii) 遅延・加速終了 Zi ai ③ 圧縮 aol ④ J eff ,i J max,i J i J max,ol Zol Zi Z a a ol i ol 1 R 1 Rol x aol Zol Jをき裂鈍化の影響とき裂先端塑性域の影響の積で補正することで、 17 き裂進展速度の遅延・加速を評価 過大荷重の影響評価 き裂進展速度 da/dN (m/cycle) 1.E-04 過大荷重前 過大荷重前 過大荷重後 過大荷重前 過大荷重後 過大荷重後 疲労き裂進展速度(維持規格R=0) 1.E-05 1.E-06 1.E-07 1.E+00 1.E+01 1.E+02 2 J (kJ/m ) 提案したJ補正式を用いて、 • 従来手法に比べて、塑性範囲におけるき裂進展評価が可 能になるとともに、遅延効果を推定可能となった。 • 1つの補正式で、加速効果を含めた推定が可能となった。 18 配管試験体を用いた実証試験 初期き裂 (60o) 配管に模擬地震動を負荷 してき裂進展量を測定 き裂進展量 (mm) 1 試験結果 提案手法による評価結果 従来手法による評価結果 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 100 サイクル数 (-) 200 • 提案した手法により、従来手法よりも精度良く き裂進展を評価可能 19
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