詳細を見る

技 術 解 説
GMRヘッド磁気特性評価装置
山本 雅一*
GMR(巨大磁気抵抗効果)ヘッドは、コンピュータのハードディスクに搭載される磁気セ
ンサであり、昨今の記憶密度の上昇に伴いセンサ内部が微細化される一方、高速で回転す
るメディア上に配置されるために、高温に耐えるものでなければならない。さらには、高
密度のポイントのデータを取得するために高感度が要求されている。GMRヘッドは従来の
MRヘッドと違い、高感度を実現するためにスピンバルブ型のGMRヘッドが主流となって
いる。スピンバルブ型のGMRヘッドは、耐熱性の確保が困難であり、ヘッドメーカは耐熱
性にすぐれたヘッドの開発にしのぎを削っている。記憶密度が非常に短い周期で上昇して
いく現在では、いかに早くデバイスの評価を行えるかが問題となる。
1. はじめに
サスペンション
従来のGMRヘッドの評価試験ではエレクトロマイグレ
スライダ
ーション評価が行われており、高温環境下に設置したデバ
イスに定電流ストレスを印加して抵抗変化のみを測定して
いた。しかし、抵抗の変化はわずかであり、評価装置には
高精度な抵抗測定能力が要求される一方、測定した抵抗値
からGMRヘッドの磁気特性の劣化を正確に捉えることは
困難であった。今回ご紹介するGMRヘッド磁気特性評価
装置は、GMRヘッドの抵抗変化のみならず、GMRヘッド
に磁気を印加し、その磁気特性を直接測定し、評価する装
電極
電極
置である。
反強磁性層
固定層(強磁性)
Cu層(非磁性金属)
フリー層(強磁性)
2. GMRヘッド
2-1 ハードディスクの構造
〈GMRヘッドリードセンサ部〉
ハードディスク、GMRヘッドの構造は、それぞれ図1,
図2 GMRヘッドの構造
図2のようになっている。
アームと呼ばれる腕の先端に、磁気センサ(GMRヘッド)
を搭載したスライダが取り付けられている。スライダは、
ディスクに対して、非接触で読み書きの動作を行う。
2-2 GMRヘッドの動作原理
最新のハードディスク装置の読み出しヘッドの一つであ
るスピンバルブ型GMRヘッドには、反強磁性体を利用し
たGMRスピンバルブ膜が用いられている。スピンバルブ
ディスク
スライダ
アーム
膜は、数ナノメートル程度の厚さの反強磁性層、強磁性層
(固定層)、Cu層、強磁性層(フリー層)から構成されて
いる。この内、反強磁性層下部の強磁性層は、通常固定層
と呼ばれ、反強磁性層があるために、磁化の向きが固定さ
れており、外部磁界に反応しにくくなっている。非磁性金
属であるCu層下部の強磁性層は、通常フリー層と呼ばれ、
外部の磁界の影響を受けやすい状態となっている。このフ
リー層は、ディスク上の磁化の影響を受けて、磁化の向き
図1 ハードディスク構造
が変わる。磁化の向きが変わることにより、内部抵抗が大
きく変化して、ディスク上の情報を読み取ることができる。
*エレクトロニクス技術部
エスペック技術情報 No.29
この性質を示す膜をスピンバルブ膜と呼ぶ。
6
3. システム構成
3-1 システムの外観および主な仕様
3-2 システムブロック図
写真1にシステムの外観を、表1に主な仕様を示す。写真1の
図3に、システムブロック図を示す。10ch分のシステム
システムでは、負荷ボックス毎に、温度・電流・磁場・試験
ブロックを表現している。集中管理用のパーソナルコンピ
時間の違う試験を最大60chまで同時に試験することができる
ュータとは、G P - I B と R S - 4 8 5 のみで接続されており、容
システムとなっている。各負荷ボックスには、最大10個の
易に増設が可能な構成となっている。
GMRヘッドをテストボードに装着することができ、そのボー
ドは負荷ボックスにワンタッチで取り付けることができる。
パーソナルコンピュータ
RS-485
負荷ボックス
負荷ボックス
負荷電源
磁石制御基板
温度調節器
コントロールボックス
テストエリア
GP-ⅠB
制御CPU
GP-ⅠB
計測CPU
電磁石
EM基板
ホットプレート
ホール素子
テストボード
RH基板
スキャナ基板
図3 システムブロック図
4. 試験方法
テストボード
負荷ボックス
写真1 システム外観
試験については、シーケンシャルプログラムを設定でき、
表1 主な仕様
100ステップまでの任意の設定をファイルとして保存して
項 目
電流出力範囲
定電流出力
抵抗測定
(50Ωにおいて)
電流出力精度
印加出力特性(以下RH特性)測定モード、電流ランプモ
ード、エレクトロマイグレーション評価測定モードの各設
定を行うことができる。
0.1mA
測定値 ±2%(50Ω±1Ω)
測定では、GMRヘッドをホットプレートで加熱して所
1mA
測定値 ±0.2%(50Ω±0.1Ω)
定の温度にてコントロールした状態で、GMRヘッドのリ
電流モニタ範囲
DC±0.01∼DC±20.0mA
ード端子に定電流を印加して抵抗値を測定すると共に、定
モニタ電流 ±50μA
(0.1mA以上において)
電流コンパレータ範囲
DC±0.1∼DC±20.0mA
電流コンパレータ速度
50μs
電流コンパレート精度
発生磁場範囲
発生磁場精度
磁場測定
設定電流 ±5μA
(0.1mA以上において)
設定・測定条件を設定できる。(図4)設定条件には、磁場
±5Vを保証する
電流モニタ精度
発生磁場
DC±0.01∼DC±20.0mA
おくことができる。各シーケンシャルステップでは、温度
最大出力電圧
出力電流モニタ
出力電流
コンパレータ
仕 様
モニタ電流 ± 100μA
(0.1mA以上において)
±47400A/m[±600 Oe]
F.S±0.5%[±3 Oe]
磁場測定範囲
±47400A/m[±600 Oe]
磁場測定精度
±79A/m[±1 Oe]
GMRヘッド出力電 電圧測定範囲
圧測定(RH特性)
電圧測定精度
期的に磁場を印加してリード端子電圧をモニタする。
±10mV
±8μV
使用温度範囲
30℃∼200℃
(使用環境:常温において)
温度調節幅
±0.5℃ at 200℃
(制御ポイントでの温度制御幅)
図4 シーケンスプログラム設定画面
温度制御
7
温度分布
±3.0℃ at 200℃
昇温時間
30℃から150℃まで15分以内
冷却時間
150℃から30℃まで35分以内
※測定環境常温(23℃)
エスペック技術情報 No.29
4-1 試験設定詳細
シーケンスプログラムの各ステップに対して任意の測定
モードを設定可能である。各測定モードについて説明する。
①RH特性測定モード(QST)
・GMRヘッドの出力特性を測定するモードである。RH
特性評価試験として、GMRヘッドのリード端子に定電
流を印加すると共に、磁場を印加(図5)してGMRヘ
ッドの出力特性を測定する。測定結果は、RH特性グ
ラフ(図9)として表現することができる。
・任意のステップに設定が可能である。
・任意の測定電流・印加磁場を設定できる。最大25サイ
クルの繰り返し測定が可能である。
③エレクトロマイグレーション評価測定モード(EM)
・GMRヘッドのエレクトロマイグレーション評価として
抵抗値を測定するモードである。エレクトロマイグレ
ーション評価試験として、GMRヘッドのリード端子に
ストレスとなる定電流を印加(図7)して抵抗値を測
定する。測定結果は、抵抗測定トレンドグラフ(図8)
として表現することができる。
・任意のステップに設定が可能である。
・長時間のエレクトロマイグレーション評価用の測定モ
ードである。
・電流をストレスと印加すると共に、磁場を印加するこ
とも可能である。
・各種演算データを表示・保存することが可能である。
(演算データ項目例)
:出力振幅
Pk-Pk AMP(μV)
:非対称性
Pk-Pk ASYM(%)
・取得した演算データにより、寿命判断が容易になる。
図7 エレクトロマイグレーション評価測定モード設定画面
5. 測定結果
5-1 グラフ表示
抵抗測定結果およびRH特性測定結果は、グラフ表示す
図5 RH特性測定設定画面
ることができる。抵抗測定のトレンドグラフ(図8)および
RH特性グラフ(図9)
・RH特性時系列変化率グラフ(図10)
②電流ランプモード(CR)
・GMRヘッドの印加電流依存特性を測定するモード
である。
の例を以下に示す。
(1)抵抗測定トレンドグラフ
GMRヘッドのリード端子の抵抗を、ストレス印加状
・任意のステップに設定が可能である。
態にてシーケンスプログラムで設定した記録周期毎
・最大20段階の任意の測定電流にて電流依存測定を行う
に測定記録している。
ことが可能である。
・最大で各チャンネル200ポイントのデータを取得でき
るので、設定電流において複数回抵抗値を測定するこ
とも可能である。
図6 電流ランプモード設定画面
エスペック技術情報 No.29
図8 抵抗測定トレンドグラフ例
8
5-2 測定データ間の比較
(2)RH特性グラフ
シーケンスプログラムで設定されたタイミングにて、
GMRヘッドの出力電圧をモニタしたデータをX軸(磁
場)、Y軸(出力電圧)で表現する。一回の測定タイ
ミングにおいて複数サイクルのRH特性測定を行うこ
とができ、複数サイクルのデータを平均化して表示
エレクトロマイグレーション試験での抵抗測定における
初期からの変化率と、RH特性測定におけるデバイス出力
の出力電圧幅(Pk-PkAmp)の変化率の比較を表2に示す。
表2より、RH特性測定では、抵抗測定とは比較にならな
いほどの変化率(劣化特性)の得られたことがわかる。
したり、すべての演算データを表示したりする機能
表2 抵抗測定データとRH特性データの変化率の比較
も有している。また、複数のタイミングのデータを
同時にプロットすることができる。図9は、試験開始
抵抗測定データ
RH特性データ
時と試験終了直前のデータを同時にプロットしたも
初 期
43.993Ω
3683.509μV
のである。
100時間
エージング後
44.017Ω最大(+0.05%)
43.945Ω最小(−0.11%)
3373.339μV(−5.86%)
6. おわりに
今後もハードディスクの高密度化は進み、磁気ヘッド開
発周期も短縮化されていくと考えられる。この磁気ヘッド
の開発に、本装置が少しでもお役に立てれば幸いである。
白色:試験開始時 青色:試験終了直前
図9 RH特性グラフ例
(3)RH特性時系列変化率グラフ
図10は、シーケンスプログラムで設定したタイミン
グで測定された出力電圧から得られたRH特性演算デ
ータの一例である。ストレス印加時間と出力振幅(最
大出力値と最長出力値の幅)の時系列変化率の関係
を表しており、時間の経過とともに出力振幅が小さ
くなっていくのがわかる。
図10 RH特性時系列変化率グラフ例(Pk-PkAmp)
9
エスペック技術情報 No.29