維持管理工学 - 長崎大学工学部工学科構造

H21年度 特定道守(鋼構造)コース
診断のための測定(2)
-劣化因子・環境測定等-
講義内容
劣化因子,環境測定
 振動,騒音測定
 塗膜劣化度測定
 腐食減厚測定
 防食電位測定(陽極消耗量調査を含む)

構造物の環境測定

表面への付着物質の分析
 どのような物質がどの程度付着しているか?
 塩分がどの程度付着しているか?

表面に発生した錆の分析
 基本的に付着物質の分析と同様.
 錆の発生により付着物質が錆内に混在し,付着物質のみ
の採取が困難
→ 錆ごと付着物質を採取して分析
採取位置

以下の事項を考慮して,最も代表的な部位を選定
 環境(方向,海,川,工場等)
 構造形式
 採取用足場

例えば道路橋では,
 1断面あたり:両外桁ウェブの外側と内側,および下フラ
ンジ下面の3部位
 橋軸方向に2断面以上
付着塩分量測定

ガーゼによって拭取り,塩素イオン検知管を用いて
測定する方法

ブレッセル(Bresle)法

電導度法(SSM)
各種塩分測定法の特徴
塩分測定法
長所
短所
ガーゼによって拭
取り,塩素イオン
検知管を用いて
測定する方法
他の方法に比べ測定面積が広いこ 測定結果は,測定物の表面状態に
とから,誤差が少ない.
左右されやすい.特に,無機ジンク
リッチペイントやMIO塗膜面,さび面
では正確な測定は困難.
ブレッセル法
測定結果は,測定物の表面状態に
左右されにくい.
1ヶ所あたりの測定面積が小さく,測
定結果の精度をあげるためには,多
くの測定が必要.測定セルの撤去時
に接着剤が残ることがある.現在,
測定セルが輸入取り寄せのため,入
手が困難.
電導度法
測定結果は,測定物の表面状態に
左右されにくく,またデジタル表示
なので,読み取り誤差が少ない.
脱イオン水を補填するだけで,繰り
返し測定できる.
1ヶ所あたりの測定面積が小さく,測
定結果の精度をあげるためには,多
くの測定が必要.塩素イオン以外の
水に可溶な電解質(塩化物,硫酸塩,
硝酸塩等)の総量を測定してしまう.
測定器具が高価.
ガーゼと塩素イオン検知管を用いる方法
必要器具







脱イオン水(蒸留水) 150ml
ガーゼ 30cm×30cm
ビニール(ゴム)手袋
マスキングテープ(幅20mm)
メジャー
ポリビーカー 250ml
塩素イオン検知器(北川式塩
素イオン検知管SB型)
回収量(mg/m2)

鉛系さび止め(回収率82%)
フェノールMIO(回収率63%)
エポキシMIO(回収率57%)
実塩分付着量(mg/m2)
電導度法

概要
表面に付着している塩分を脱イオン水に溶
出させ,この塩分溶出液の電導度を測定し,
塩分濃度に換算

必要器具
表面塩分計
脱イオン水
付着物質の分析
採取液全量(ガーゼも含む)を500mlのビーカーに洗い出す
約1時間煮沸する
ガーゼをよく洗い,洗浄液を原液に加える
冷却後全量をメスフラスコで500mlにし,これを試料液とする
pH
導電率
ろ過液
残渣
SS
全
固
形
分
Cl-
NO3-
SO42-
溶
解
性
固
形
分
さびの分析

採取方法

塗膜面より露出しているさび


塗膜下のさび



さび層にナイフを入れて削り取る
塗膜をナイフで切り取り塗膜ごと採取
採取したさびは薬包紙に包むか,直接ポリ袋またはポリビンに入れ
て密封
分析の種類

化学分析(1~5gの試料が必要)


塩素イオンや硫酸イオン等の定量分析
機器分析(約1gの試料が必要)

各種元素の定性分析やさびの同定
構造物周辺の振動,騒音測定

振動(公害振動)

発生源





人体の振動感覚を考慮した測定方法
規制値(振動規制法)はdB表示
加速度計等を用いた一般的な測定とは異なる
騒音

発生源




建設作業,道路交通,橋脚から伝播する地盤振動,発破振動等
工場,建設現場,自動車,軌道交通,航空機等
人体の聴感を考慮する必要あり
規制値は騒音レベルdB(A):聴感補正特性のA特性
低周波音



可聴域の下限(18~20Hz)以下の音波(国際的には0.1~20Hz)
高速道路の橋梁や高架橋の固有振動数に等しい低周波音の発生
低周波領域の周波数特性が平坦である専用の計器を利用
公害振動の評価

専用の振動レベル計で測定



3成分(水平2方向と鉛直方向)の振動
計
加速度レベル(A.L.)と振動レベル
(V.L.)の測定可
振動レベル(補正加速度レベル)

20log10(a/a0) (dB)
ここに,a0:基準振動加速度(=10-5m/s2),
a:振動感覚補正を行った振動加速度実
効値でありa=[∑af210cf/10]1/2で算出.た
だし,af:周波数f(Hz)の成分の振動加速
度の実効値,cf:周波数f(Hz)における相
対レスポンス.
騒音の評価

専用の騒音計で測定


計量法で定められた法定計量
器で普通騒音計と精密騒音計
の2種類あり
騒音レベル


音圧に40 phonの等感度曲線
の逆特性(周波数重み付け特
性“A”)で重み付けし、レベル化
した値
等価騒音レベルLeq
騒音のエネルギー平均値
測定位置

平面的な位置


橋梁の場合,通常,高架橋の橋脚直下,敷地境界線,橋脚中心から
10m,20m,30m,50m等
高さ方向の位置


振動レベル:地盤上
騒音や低周波空気振動:地盤面から1.2m
橋梁上部構造の床版下面1mの位置に低周波マイクロホンを配置し,床版
振動の大きさを推定することも多い.
塗膜劣化度測定

付着試験
 碁盤目・クロスカットテープ付着試験
 アドヒージョンテスト
インピーダンス測定
 色差測定
 光沢度測定

碁盤目・クロスカットテープ付着試験

概要


碁盤目状もしくはクロス状に素地に
達する傷を入れた塗膜を,セロハン
テープの粘着力を用いて強制剥離
使用器具



カッターナイフ
(JIS K 5400 塗料一般試験方法)
セロハン粘着テープ[24mm]
(JIS Z 1522)
切り込み用ガイド(2 or 5mm間隔)
(JIS K 5400 8.5.1)
引張付着試験(アドヒージョンテスト)

概要


端子を塗膜面に接着剤で接着し,
垂直引張力のみによる引張試験
を行い,塗膜を剥離
使用器具
アドヒージョンテスタ
 接着剤(エポキシ樹脂と主とする)
 サンドペーパー(#240程度)
 カッターナイフ

評価点(RN)
引張付着力(Mpa)
3
2.0≦X
2
1.0≦X<2.0
1
0.0<X<1.0
0
X=0
色差測定

概要


色差計を用いて色の変化を定量的
に測定.色差⊿E*が小さいほど変退
色が小さい.
JIS Z 8722(物体色の測定方法)4.3
「反射物物体の測定方法」により測
定され,色差⊿E*を次式で算定
⊿E*=[(⊿L*)2+(⊿a*)2+(⊿b*)2]1/2
ここに,⊿L*:明度指数,⊿a*:クロマティク
ネス指数(赤-緑方向),⊿b*:クロマティク
ネス指数(黄-青方向)
評価点
(RN)
色差
3
⊿E*≦1.0
2
1.0<⊿E*≦3.0
1
3.0<⊿E*≦10.0
0
10.0<⊿E*
光沢測定

概要




携帯用光沢計を用いて60度鏡面光沢度を測定し,その経時的な変
化や劣化状況を評価.
基準面(屈折率1.567のガラスの平面)に対する塗膜面の光沢度を
百分率表示
水洗前後に実施
使用器具



携帯用光沢計
洗浄用の水
ガーゼ
腐食減厚測定

目的

腐食が進んだ部材の力学性能評価




引張強度:抵抗断面の減少の程度
圧縮強度:座屈を誘発するような局部的腐食の進行程度
疲労強度:局部的な応力集中の程度
非破壊による測定方法

ノギスによる測定


マイクロメーターによる測定


孔食の深さを正確に測定.
超音波厚さ計による測定


鋼材断面が測定できる箇所(下フランジ等)に適用.
デプスゲージによる測定


主として平面的な大きさを測定.デプスバーを使えば深さも測定可.
腐食した鋼板に適用する場合,表面粗度を25a(100S)以下に仕上げ.
レプリカ法

石膏またはシリコン樹脂で型を取り測定.
電気防食に関わる測定・調査(1)

防食電位の測定
高抵抗電圧計の+端子を照合電極に,-端子を測定対象構造物に接続
 測定位置:流電陽極材料近傍とそこから最も遠い箇所
 測定した電位の最貴値(最高値),最卑値(最低値)及び平均値を算定
 照合電極の電位が種類によって異なることに注意.

電気防食に関わる測定・調査(2)

陽極消耗量調査

調査対象


調査方法


潜水士が付着物を除去後,形状寸法を測定(測定方法はあらかじめ決
定)
評価方法


設置条件の違いによる消耗状況を把握できるよう選定
初期質量と残存質量から消耗量を算出し,経過年を考慮して耐用年数
を推定
留意事項




関係法令(安全衛生(厚労省),海上作業(国交省))に準拠
潜水士の持つ資格,技能,経験
潜水士は2人以上の組み作業とし,潜水送気員・潜水連絡員をそれぞれ
1人配置
その他,潜水世話役や国際信号「A」標識の設置が必要