医薬品をめぐる問題 第20回日本国際保健医療学会シンポジウム 「くすりギャップの解消を目指して」 • 研究開発 – 市場ニーズ vs. 公衆衛生ニーズ • 価格 世界の医薬品問題とNGOの活動 HANDS 藤崎智子 くすりギャップ解消に関わる 主要なアクター • 製薬業界・企業 – 研究開発型国際企業 • 国際機関 • 政府 • NGO – 開発支援NGO – 患者団体 – 消費者団体 • 財団 • メディア – 「適正な価格」とは? • 特許権 – ジェネリック薬の輸入・ 製造・販売への障壁 • 医療保険制度の不在 – 100%自己負担 • 国内の医薬品供給体 制の不備 – ない・足りない • 医療者による不適切・ 非合理な医薬品使用 • 医薬品規制の脆弱さ – 不正医薬品の流通 (事例1)オンコセルカ症治療薬: アイバメクチンの開発と対策拡大の事例 • 米国メルク社の動物用医薬品開発の過程で偶 然に発見 • ヒト用医薬品としての開発を会社が承認 • 臨床試験段階での官民協力 • 当初、商品化の可能性を探っていたメルク社 • メルク社が無期限の無料提供を決断 • 米国カーターセンター 「オンコセルカ症対策プロ グラム」発足 パートナーシップ、コンソーシアムの組織化・体系化 アイバメクチンの発見 民:製薬企業 (メルク社) 動物薬用の寄生虫治療薬の 通常スクリーニング過程で発見 担当の研究者がオンコセルカ症 への応用可能性に気付く ヒト用医薬品としての開発 アイバメクチンの市場化の可能性打診 情報提供を依頼 民:製薬企業 官:国際機関 (メルク社) (WHO、TDR) 開発継続を要望 専門研究機関との橋渡し 臨床試験準備への協力 メルク社開発担当重役がヒト用 医薬品として開発を継続することを 承認 1 ヒト用医薬品としての開発 臨床試験と価格交渉 アイバメクチン アイバメクチン市場化の可能性打診 情報提供を依頼 民:製薬企業 官:国際機関 (メルク社) (WHO、TDR) 開発継続を要望 専門研究機関との橋渡し 臨床試験準備への協力 官:国際機関 (WHO、TDR) 価格交渉 民:製薬企業 (メルク社) 臨床試験協力 官:感染被害国 の政府 メディアによる 世論形成 官民の直接対話の始まり アイバメクチンによる オンコセルカ対策の実施 臨床試験と価格交渉 アイバメクチン 官:国際機関 (WHO、TDR) 価格交渉 民:製薬企業 (メルク社) 臨床試験協力 官:感染被害国 の政府 技術支援 メディアによる 世論形成 メルク社商品化を断念。しかし撤退もできない アイバメクチン開発成功の要因 「顧みられない病気(Neglected Diseases)」に薬効をも つ新規化合物の発見と医薬品開発過程 • 動物薬開発中にヒト医薬品としての可能性に注目し た研究者の能力と人道的視点 • 開発をストップしなかったメルク社上層部の決定 • 企業にとって動物用医薬品として十分な経済メリット が確保されていた 民:製薬企業 (メルク社) 官:国際機関 (WHO、TDR) 委員参加 官:感染被害国 の政府 アイバメクチン 適正使用を保障 申請書提出 審査後、医薬品 提供+技術支援 医薬品提供 委員参加 NGO (カーターセンター メクチザン委員会) アイバメクチン開発成功の要因 製品化 • 早期開発段階で官民対話と協力が始まった • 世論がメルクの企業イメージ戦略判断を後押し 疾病対策の中核として適正に使用 • 単純な服薬形態と高い安全性を有する優れた医薬 品であった • カーターセンターという第三者非営利組織が、中立 組織として政治的リスクを吸収しつつ、専門家の協 力を結集してプログラムを推進する役目を負った 2 (事例2) HIV/AIDS治療薬へのアクセス 研究開発 • 先進国の保険医療制度に保障された市場 が確保されていた • 先進国政府の資金的投資と早期承認のた めの環境整備 エイズ治療へのアクセス拡大と 民間非営利セクターの役割 • 特許問題の永続的解決を目指す継続論議 • 治療薬供給のための資金確保 例:世界エイズ・結核・マラリア対策基金 • 治療法の改善に向けた提言 例:国境なき医師団(小児のエイズ治療) • 新しい対策の開発 例:国際エイズワクチン推進構想(IAVI) HIV/AIDS治療薬をめぐる攻防 価格設定・特許権 • ブラジル、タイ、南アフリカで、治療薬開発企業の 特許権保護と安価なジェネリック版ARV剤を輸入・ 製造しようとした政府が対立→訴訟 • 感染者団体、現地・国際NGOによる国際的な運動 の結果、企業側が訴訟を取り下げた • 2001年:世界貿易機関(WTO)ドーハ宣言により、 公衆衛生ニーズに基づいて、政府が強制実施権 や平行輸入を実施する道が開かれた • ジェネリック版ARV剤の現地生産や輸入の拡大 くすりギャップ解消と 民間非営利セクターの役割 • 「経済論」から「倫理的な問題」へパラダイムシフト をリード – 企業にとって新たな社会的インセンティブを創造 – これまで光の当たらなかった問題に国際社会の注意を 喚起 • 官民の多彩な関係者の橋渡し役 • 複数の利害関係者の集合体としてパートナーシッ プの具体化・組織化(例‐DNDi) • 資金源 – 民間財団の重要性がこれまでになく高まっている(継続 性が課題か?) 3
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