根群域の塩分管理モニタリングシステムの開発

技術情報
根群域の塩分管理モニタリングシステムの開発
鳥取大学乾燥地研究センター
1.はじめに
近年の急激な世界人口の増加に伴って,
農産物,畜産物などの食料増産のために,
河川水,地下水などを水資源とする水利開
発,農地開発が行われたが,新開発農地は
既耕地と比較すると,水資源の枯渇,土壌
侵食などのリスクがあり,生産量を維持す
るためには,より一層,環境保全を考慮し
た 総 合 的 な 対 策 が 必 要 で あ る 1 )。 特 に , 乾
燥地・半乾燥地の場合,太陽エネルギーは
豊富であるが土壌中の養分は少なく,不適
切な過灌漑,排水不良,あるいは良質な灌
漑水が得られない,などの理由で,各地で
塩類集積 の 問題が生 じ ている。
井上
光弘
1980 年代 に は 60.2 Mha で,耕地 面 積の 24%
,ほぼ4分の1になっている。塩の影響
を受けている土壌は,乾燥地,半乾燥地に
限らず, 図 1 に 示す ように,100 以上の 国
で問題と さ れている 2 )。地球上 で ,7Gha が
耕 作 可 能 地 で , そ の う ち の 耕 作 地 1.5 Gha
の 23%は 塩 性 化が ,37%はソ ー ダ 質 化が 進
行している。農地土壌の塩類化の発現機構
5)
は , (1) 母 材 に 塩 を 含 む 土 壌 と 過 剰 な 良
質 灌 漑 水 に よ る 地 下 水 上 昇 , (2) 塩 分 を 含
む 灌 漑 水 の 供 給 ,( 3 ) 施 肥 に よ る 塩 の 付
加 , (4) リ ー チ ン グ ( 溶 脱 ) 量 の 低 下 に よ
る土壌塩 類 濃度の増 加 ,(5 ) 強風 による海
岸から農 地 への塩の 飛 散侵入,(6 ) 広 域森
林 伐 採 に よ る 地 下 水 上 昇 ,( 7 ) ウ ォ ー タ
ーロギン グ と二次的 塩 類化,
(8) 廃水や
排水の侵 入 4 ) な どが 考 えられて い る。しか
しながら,塩類集積が進行しないように,
根群域内の土壌水分と塩分濃度のモニタリ
ングを行い,必要に応じて,リーチングに
よって,根群域を適切な塩分状態になるよ
うに管理 す ることが 必 要である 。
4)
2.灌漑農地の土壌断面内の塩分評価
図 1 世界 の 塩類土壌 の 分布 2)
世 界 の 灌 漑 面 積 は 1965 年 に 150Mha,
1995 年に 255Mha, 1999 年に 274Mha と 増
加 し て い る 3 )。 こ の 面 積 は 樹 園 地 を 含 む 全
耕 地 面 積 (1.5Gha)の 約 18%を 占 め , 灌 漑 農
地で全食 料 の 40%を生 産してい る 。この灌
漑農地で,使用する灌漑の水質が低下する
と,表層に塩類集積が発生し,塩分濃度障
害によって作物の収量が低下,あるいは全
く収穫できなくなり,地面の所々に白い塩
類の結晶が観察できるようになり,やがて
植被率が極めて低い状況になる。このよう
な土壌の塩類集積障害を受けている面積は,
灌漑農地の土壌水分と塩分状態をモニタ
リングすることは,適切な灌漑の時期,灌
漑水量 ,灌 漑間隔を 判 断するた め に必要で,
根群域の塩分状態を正常に維持することが
持続的農業のために必要である。また,灌
漑水の塩分濃度と,地下水の塩分濃度なら
びに地下水位の高低状況が根群域内の土中
塩分濃度 の 変化に影 響 する。
灌漑水の塩分濃度を評価するために,総
溶 解 固 形 分 (可 溶 性 塩 類 総 量 TDS)と 電 気
伝 導 度 ( 電 導 度 EC) が 採 用 さ れ , た と え
ば,TDS が 450mg/L 以 下,EC が 0.7dS/m 以
下では問 題 ないが,TDS が 2000mg/L 以上 ,
EC が 3.0dS/m 以 上 では 大いに問 題 があると
1
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し て い る 6 )。 ま た , 土 壌 の ソ ー ダ 質 化 に 灌
漑水の化学成分が影響し,ナトリウム吸着
比(SAR)が SAR=Na + / ( Ca 2+ + Mg 2 + ) 0.5 で計
算され, SAR が 13 以 上をソー ダ 質土壌と
い う が , Na + , Ca 2+ , Mg 2 + の イ オ ン 濃 度
[mmolc/L]を調査す る 必要があ る 。これらの
イオン濃度は,土壌を採集して実験室で化
学分析をする必要がある。これに対して,
農地の現場で,土壌水分と塩分濃度をモニ
タリングする場合には,化学成分の詳細分
析は困難であるが,総量を電気伝導度から
判断する こ とが可能 で ある。
2.1 4 極 法に よ る 土 中 塩 分 の モ ニ タ リ ン グ
断面積 A[m 2 ],長さ L[m]の 電気 抵抗体の
抵抗 R[Ω]は ,オーム の 法則によ っ て R = ρ
L/A で あ る 。 こ こ で , ρ は 比 抵 抗 , 1/ ρ は
比電気伝 導 度(導電率 ),1/R は 電 気伝導度
σ ( 電 導 度 ) [S] (ジ ー メ ン ス )で あ る 7 )。 比
抵抗の逆数が物体の電気の通りやすさで,
1/ ρ = (1/R)(L/A) [S/m]の比電気 伝 導度が物
質固有の値となる。たとえば蒸留水の比電
気伝導度 は 2~3μS/cm, 雨 水は 10μS/cm 程
度である。電気質溶液の電気伝導度はイオ
ン濃度と移動速度によって変化し,移動速
度は温度の上昇によって大きくなる。海水
の場合,1℃の上昇に対して2%電気伝導
度 が 高 く な る の で 基 準 温 度 ( 25℃ ) に 換 算
する。また,イオン濃度と電気伝導度は,
両対数紙で直線関係になることが知られて
い る 8 )。 土 壌 中 の 電 気 伝 導 度 の 測 定 は , 分
極の影響をなくすために交流電源を使用す
る。交流の場合,電極と土壌との間に接触
インピーダンスが存在するので,この影響
を 小 さ く す る た め に 4 極 法 が 提 案 さ れ た 7 )。
4極法は,塩分センサーの4電極の外側電
極に交流電流を流し,この電流の大きさを
知るため に ,外側の 回 路に基準 抵 抗 R f を 挿
入し,そ の 間の電位 差 V 1 と,内側 電極の電
圧差 V 2 を 測定する 9 )。最近の 新 しいデー タ
ロガーは,6 線ハーフブリッジ回路による
計測処理コマンド(たとえば,キャンベル
社製の CR800 の BrFull6W)を有し ているの
で,直 接,出 力値 (V 1 /V 2 )の値を測 定 できる。
したがっ て ,ある温 度 t で 測定 した電気 伝
導度 EC t は ,土壌中 の 抵抗 R s に 反比例し,
次の関係 が 成立する 。
ECt =
⎛ V1 ⎞
⎜ ⎟
⎝ V2 ⎠
1
= Gc
Rs
Rf
…………
(1)
ここで ,G c はセンサ ー の形状係 数 ,R f は 基
準抵抗である。4極塩分センサーで測定し
た電気伝 導 度 EC t の値 は,温度 t に依存す
るので,基 準温度 25℃ に補正し た EC 25 の値
は,次式 で 算定でき る 。
EC25 = ECt − 0.02(t − 25) ECt
… (2)
実験では,既知の塩分を含んだ溶液の電
気伝導度 (EC w )に対し て,4 極塩 分センサ ー
で測定し た EC 25 の値を 得て,形状 係数を測
定する。この4極塩分センサーを土中に埋
設して測定すると見かけの土中の電気伝導
度(EC a )が測 定できる 9 )。EC a の値 は,土中
の体積含水率 θ と土壌溶液の電気伝導度
(ECw)と 関 係 が あ り , 次 式 を 提 案 し た 1 0 )。
( ECa − c) 2 + 4ab
( ECa − c)
+
ECw =
2a
2a
… (3)
ここで,係 数の a, b, c は体積含 水 率の 3 次
の多項式で与えられる実験係数である。一
方,土壌 中 の可溶性 溶 液の電気 伝 導度 EC w
は,土壌の1:5抽出液(乾土1に対して
5倍の水を加えた抽出液)の電気伝導度
EC 1:5 と次 式の関係 を 得た。
EC1:5 = (αθ − β ) ECw + γ
…………(4)
こ こ で , α, β, γ は 実 験 定 数 で あ る 。 以 上
の考え方に沿って,新居ら10)は,ダイコ
ン畑の深 さ 10cm の 4 極塩分 セ ンサーで 得
た EC w の経 時変化と,現地で採 取 測定した
EC 1:5 の 値 が よ く 一 致 し て い る こ と を 示 し
た。この よ うに,土 中 溶液の電 気 伝導度 EC w
の経時変化をモニタリングして,土中の塩
分濃度を 追 跡するこ と が可能で あ る。
2.2 TDR 法 による土 中 塩 分のモニタリング
時 間 領 域 反 射 率 測 定 (TDR) 法 は , 一 定
周波数(30MHz か ら 3GHz の高 周 波)の電
磁波が土中に埋設したロッド(金属製の電
極棒)を往復する速度を時間領域で測定し
て,み かけ の誘電率 を 測定する 方 法である。
物質の比 誘 電率は,空 気が1,水 が 80( 20℃),
氷が 3(-5℃),玄武 岩が 12,花 崗岩が 8,
砂岩が 10 のように ,物質によ っ て固有の 値
2
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がある。したがって,誘電率法は,土中の
水分量が増加すると誘電率が増加すること
を利用し た ものであ る 1 1 ) 。計 測シ ステムは,
高周波の電磁波パルスを発生し反射波をモ
ニターするケーブルテスター,土中に挿入
したロッド,ケーブルテスターとロッドを
接続する同軸ケーブル,から構成される。
同軸ケーブルとロッドとの接合部は,漏電
のためにエポキシ樹脂で固定し,波形のピ
ークを明確にするために工夫が必要である。
ロッドの部分は信号ロッドとシールドロッ
ドとから な り,シール ドロッド の 本数が,1
本,2 本 ,3 本のもの が 市販され て いる。こ
こでは,塩分濃度が高い条件でも土壌水分
量が測定できるように,ロッドの長さを
60mm に 短 くし,シー ルドロッ ド の本数を 3
本 に し た TDR 水 分 ・ 塩 分 セ ン サ ー
(SK-TDR1006-18T)を 開 発 し た 1 2 )。 測 定 シ
ステムに は ,キャン ベ ル社製の TDR100 を
用 い て , 土 壌 中 の み か け の 電 気 伝 導 度 EC a
を測定し た 。
ここで,I c は TDR ケ ーブルの 特 性インピ ー
ダンス (50 Ω),f T は温 度補正因 子 f T = {1−
0.02 (t − 25)},t は温度 ,K p は TDR プロー
ブ特有の 形 状係数で あ る。 Ould Ahmed ら 1
3)
は ,電 気 伝導度が 7.32dS/m の 塩を含む
灌漑水を用いてハウス内のソルガム栽培を
行い,土 中 塩分濃度 が 100 日 で 20dS/m の
範囲まで 上 昇するこ と を TDR 法 と,サ ンプ
リングによる土壌溶液の電気伝導度の測定
で確認し た 。
2.3 市 販 測 器による土 中 塩 分のモニタリング
灌漑 農地 の土壌 表面 から深 さ 20cm 付 近
の根群域で,土壌水分量,塩分濃度,地温
を同時にモニタリングできる携帯型の測器
が市販されている。米国のデカゴン社製の
ECH 2 O プ ロ ーブモデ ル ECHO TE,英国のデ
ル タ T 社 製 の WET2, 韓 国 未 来 セ ン サ ー 社
製の WT1000N の諸元 を表1に 示 す。
表1
携 帯 型水分塩 分 温度測定 セ ンサー
センサー名
図 2
ECHO TE
WET2
WT1000N
ロッド数
3
3
3
ロッド長
53 mm
67 (62 mm)
115 (62 mm)
ロッド間 隔
10 mm
15 mm
12 mm
ロッド材
非金属製
金属製
金属製
EC
0 - 8 dS/m
0 – 3 dS/m
0 – 6 dS/m
地温
-40~50℃
-5~50℃
-10~60 ℃
水分精度
±3%
±3%
±3%
記録方式
手 動 ・自 動
手 動 ・自 動
手動
土 壌 溶液の電 気 伝導度 EC w の増
加による T DR波形 の 変化
図 2 に示す ように入 射 パルスの 相 対電圧
(V o )と 反 射 パ ル ス の 相 対 電 圧 (V f )に 注 目 し ,
反射係数 ρ = (V f - V o )/ V o の 波形処 理から電
気伝導度 を 測定する 。TDR プ ロー ブで測定
する土中 電 気伝導度 σ (S/m)は ,
σ=
fT K p 1 − ρ fT K p
=
Ic 1 + ρ
Ic
⎛ 2V0 ⎞
− 1⎟ …… (5)
⎜⎜
⎟
⎝ Vf
⎠
図3
携 帯 型水分塩 分 温度測定 セ ンサー
いずれのセンサー(図3)も,土壌固有
の校正を行えば測定精度を向上できるが,
3
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根群域の塩分濃度が高くなると,土壌水分
量を過大 評 価するこ と になる 1 4 )。また,図
2でも明らかなように,海水のように電気
伝 導 度 が 40dS/m を 超 え る 塩 分 濃 度 に な る
と,波形 解 析が困難 に なり, TDR 法では土
壌水分量 を 測定でき な い。
3.根群域から下方への浸透量評価
根群域の塩分濃度が上昇すると,灌漑水
量に加えて,さらに,リーチング(溶脱)
水量を根群域に与える必要がある。リーチ
ングによる根群域から下方への浸透量を圃
場で計測し、リーチング効率を推定するた
めに,根群域を撹乱しないで根群域から下
方への浸 透 量を測定 す る必要が あ る。
我が国の砂地圃場の施肥量は,他の畑よ
りも多く,硝酸態窒素の地下水汚染が問題
になってきた。そこで,下方へのフラック
ス(単位時間に単位面積を通過する水量)
の測定だけでなく,土壌溶液を採集できる
と,溶液の化学分析も可能となり,環境負
荷を調査するための強力なツールとして,
使用できる計測装置の開発となる。ここで
は,下方浸透量計測装置の概要と測定結果
について 述 べる。
3.1 深 部 降下 浸 透 量 の 測 定 方 法
深部降下浸透量の測定方法には,いくつ
かの方法 が ある。
水収支式を利用する方 法
F w = R n - T r - E v - R f - ⊿W …….
F w = K(θ)⊿H /⊿ z ……….
(7)
こ こ で , F w : 地 下 水 涵 養 量 ( フ ラ ッ ク ス ),
K:不飽和 透水係数( θ:水分量の 関数),H:
全水頭(= h + z ),h :圧 力水 頭,z :深
さである。動水勾配をテンシオメータで測
定し,土壌水分量を誘電率水分計で測定す
る。しかし,不飽和透水係数を決定するこ
とは困難で,降雨直後のマクロポアーを流
れる降下浸透量をテンシオメータの変化で
求めるのは困難であることが知られている。
ライシメ ー タによる 降 下浸透量 測 定方法
パンライシメータの場合,底部の圧力を
大気圧で集水し,重力水を不撹乱で採集で
きるが,採水効率が低いという問題がある
(図4)。
角型キャピラリーライシメータの場合は
底部にキャピラリーシートを敷き,ウィッ
クライシメータの場合は2つのタンクの間
にろうそくの芯に用いるウィックを採用し
て,底部の圧力を負圧に維持して,土壌溶
液を採取する。しかし,いずれの場合も装
置埋設時にライシメータ内外の土壌を撹乱
すること,採水効率が容器の高さに依存す
ることが 問 題となる ( 図4)。
別の方法として,熱フラックスを利用し
たヒートパルス法がある。外部温度の影響
が少ないので実用的であるが,大きなフラ
ックスと,小さなフラックスで誤差が大き
いことが 知 られてい る 。
(6)
ここで ,F w:地下 水涵 養量,R n :降 水量,T r :
蒸散量,E v :蒸発量,I r :灌漑量,R f :表面流出
量 ,⊿W:水 分 減少 量 で あ る。 こ れ ら の項 の
中で,降水量,灌漑量,表面流出量はそれ
なりに測定できる。また,蒸散発量を気象
データとペンマン式などから推定し,水分
減少量は,誘電率水分計で測定した土壌水
分量から推定することは可能である。しか
し,高い精度で推定することは,困難であ
る。とくに,圃場において,蒸発量と蒸散
量の測定 は 困難であ る 。
ダルシー則 を利用する方法
図4 各種 ライシメータによる採水 方法
4
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3.2 自 動 フラ ッ ク ス メ ー タ の 開 発
自 動 フ ラ ッ ク ス メ ー タ は , (1) 根 群 域
の 土 壌 層 を 乱 さ な い こ と , (2) 土 壌 槽 内 外
の圧力水 頭(図5の h 1 と h 2 )が 等 しくなる
よ う に , 自 動 吸 引 す る こ と , (3) 採 水 量 は
ロードセルで自動計測できることが特徴で
ある(図 5 )。
土壌槽と バ ッファー の 水は内 径 2cm の チ
ューブを通して負圧状態のデシケータ内の
容器に入り,ロードセルでその重量変化が
記録され る(図6)。こ こでは ,容 器 1000mL,
土壌槽の 表 面積 200cm 2 で,累積フ ラックス
が 50mm ま で自動測 定 した 1 5 )。デ シケータ
内の圧力 は ,土壌槽 外 の 2 個のテ ンシオメ
ータの平 均(図6 の h 1 と h 3 )と,土壌槽上
のテンシ オ メータの 値(図6の h 2 )の差が,
0.5cm で 負 圧 の 度 合 い を 調 節 す る 。 こ の 操
作はすべ て 吸引制御 シ ステムで 行 った。
3.3 自 動 サ ク シ ョ ン 制 御 に よ る 下 方 浸 透
水採取装置の開発
野外で実験を行う場合,現場で交流電源
を使用できない場合が多いので,太陽電池
でバッテリーを充電して直流電源で動作で
きるシステムに改良した。自然の降雨浸透
状態で,土壌溶液を採集するため,図7に
示すように,溶液採取器のフィルター部の
サクションを制御して,溶液採取器周囲の
流れを乱さないように,畑地の下方フラッ
クスを測定できる計測制御システムを構築
した 1 6 )。地中埋設 部 には,土壌 溶液採集 タ
ンク,ロードセル方式の電子天秤,排水ポ
ンプ,電磁 バルブ V 1 ,4極塩分 セ ンサーが
ある.土壌溶液採集タンクの水位を重量で
計測し,ある水位以上になればタンク内の
溶液を排水し,ある水位以下になればタン
ク内に溶液採取器からの土壌水を貯めてい
くという構造で,水位(重量)の高低を判
断して,排 水ポンプ を ON, OFF す る制御プ
ログラム を 開発した 。
図5 自動フラックスメータによる採水
図7 土壌溶 液採取システムの自動 制御
装置の概要
図6 自動 吸引フラ ッ クスメー タ の概要 1 5 )
3.4 下 方 浸透 水 採 取 装 置 の 圃 場 へ の 適 用
鳥取大学乾燥地研究センター内の圃場に
200 cm×200 cm の実 験 区を設け , 採水フィ
ルターの 埋 設深さが 50 cm に なる ように,
吸引判定 用 にマイク ロ テンシオ メ ータ 3 本
を深さ 47.5 cm に設置 し(図8 ), TDR セン
サ ー お よ び マ イ ク ロ テ ン シ オ メ ー タ を 20,
30, 40cm の 深さに設 置 した。4 極 塩分セン
サーを採水チューブ内に設置し,採水フィ
ルターよ り 5 cm 下 で滴下す る よう採水 容
器と電子天秤を観測ピット内に設置した.
5
技術情報
深 さ 別 の TDR セ ン サ ー お よ び テ ン シ オ メ
ータ,電子 天秤の測 定 は 1 時間 毎 に記録し,
センサー類の測定・記録装置および自動制
御システ ム は地表に 設 置した 1 6 )(図8)。
採水効率を評価するために,雨量データ
から降雨 フ ラックス q r [cm/h],下 方浸透水
採取装置 を 用いて採 水 フラック ス q e [cm/h],
TDR セン サ ーで求め た 深さ別の 土 壌水分量
の変化か ら 実験区内 の 0~50 cm 深 の水分貯
留量変化 q s [cm/ h]を算 出して,下 方浸透水
採取装置 の 採水効率( WCE)を 次 式で求め
た。
WCE (%) = 100 × q e / (q r – q s ) ・・・ (8)
WCE が 100 %未満の 時 は,自然 の 下方浸透
フラックスよりも採水量が少なく,逆に
100 %以 上 の場合は ,多く採取 し たことに な
る。東ら 1 7 , 1 8 ) は 2004 年 8 月 18 日~10
月 7 日の 50 日間の実 験 で,WCE を 算出し,
92~115%と い う 高 い 値 を 得 た 。 微 妙 な サ ク
ション制御が要求される砂質土壌における
採水であったことも考慮に入れると,開発
した下方浸透水採取装置は非常に効率のよ
い採水システムで,4極塩分センサーによ
る塩分の経時変化をモニターして,必要で
あれば採取した溶液の化学分析も可能であ
る。下方浸透水に含まれる硝酸態窒素など
の化学成 分 の変化に つ いては Higashi ら 1 7 )
の報告を 参 照された い 。
4.おわりに
土壌中には種々の塩分を含んだ溶液が存
在する。塩類集積などの土壌劣化が進行し
ないように,持続的農業を行うためには根
群域の塩分管理が重要で,根圏の土壌水分
量と塩分濃度をモニタリングすることは有
効な手段である。近年,誘電率に基づく土
壌水分計( 図9,TDR センサー な ど)が 数
多く開発され,同時に4極法などの土中の
電気伝導度を測定できる技術が発展してき
た。ここでは,塩分濃度を測定する技術情
報をまとめた。また,リーチング効率,水
収支や塩収支などを正確に把握するために
必要な下方浸透水の量と質を採取できる装
置につい て ,最近の 研 究を紹介 し た。
現在,砂丘畑,農場の畑,森林の各現場
で,土壌中の水分測定,塩分濃度の測定,
下方浸透量の自動測定を継続している。現
場での問題は,雷による計測装置の破損,
動物によるコードの破損などのリスクもあ
る。しかしながら,長期の自動計測によっ
て,土壌水 分量,塩分 濃度の変 化 とともに ,
下方浸透水の量と質のモニタリングが可能
になると,現場での有益な情報を得ること
ができる。今回,開発した下方浸透量計測
装置よりも,さらに安価で実用的な計測装
置の開発は,多くの地点で同時に計測でき
る利点があり,環境物質の面源負荷の評価
に役立つ こ とが期待 で きる。
図9
図8
圃場における下方浸透水採
取装置設 置 状況 1 7 )
種 々 の誘電率 水 分計
最 後に,この技術 情 報が,大学 ,官公庁,
民間会社など研究機関相互の縦横の連携と,
6
技術情報
学会や分野を超えて,基礎的,応用的な研
究情報の 共 有に貢献 で きれば幸 い である。
謝辞
本技術開 発 は,21 世紀 COEプ ロ グラム
「乾燥地科学グログラム:環境計測グルー
プ」,日本学 術振興会 科 学研究費 補 助金(平
成 16-18 年 度・基盤 研 究B,乾 燥 地の灌漑
農地における不撹乱土壌の塩分動態と下方
浸透量の計測技術の開発,代表者:井上光
弘,16380159)の援助を 受けて遂 行 された。
ここに, 記 して感謝 の 意を表す 。
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