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(様式11)
論文審査の要旨(課程博士)
生物システム応用科学府長 殿
審査委員 主査
㊞
副査
稲澤 晋
㊞
副査
荻野 賢司
㊞
副査
副査
学位申請者
銭 衛華
Wuled Lenggoro
亀山 秀雄
㊞
㊞
物質機能システム学 専修 平成 23 年度入学 学籍番号 11701103
氏名 豊田 岳志
申 請 学 位 博士( 工学 )
英文:Synthesis of C2+ Alcohols on Molybdenum-based Catalysts from Carbon
論 文 題 目 Monoxide and Hydrogen
和文:一酸化炭素及び水素からモリブデン系触媒での C2+アルコール変換
論文審査要旨(2,000 字程度)
昨今の中東情勢等による供給不安、途上国の需要増大などにより、原油供給量は不安定である。これらか
ら、天然ガスや石炭などの従来の燃料への回帰や、バイオマス等の再生可能エネルギーがさらに重要視され
つつあり、石油以外の Gas to Liquid(GTL)やバイオマス由来燃料等の開発を積極的に行なうことが提案さ
れている。随伴ガス、シェールオイル、石炭、バイオマス廃棄物または製鉄時の排ガスなどの炭素源をガス
化処理することによって合成ガスは得られる。主な合成ガスの利用として、GTL が挙げられ、F-T (Fischer –
Tropsch) 燃料油、メタノール、ジメチルエーテル(DME)等へ合成するプロセスがすでに商業化されている。
これらの変換プロセスでは、炭素数 2 個以上のアルコール類 (以下、C2+アルコール類) 等の含炭素化合物は
副生成物として生成されるが、C2+アルコール類はインクや塗料、溶剤、香料、ガソリンの凍結防止剤やアン
チノック剤等へ化学工業で幅広く利用されており、近年、需要量も増加している。また C2+アルコール類の
商業的製造方法は、オレフィンの水和やヒドロホルム化により製造されており、化石資源を原料として製造
されているため、合成ガスの製造に未利用バイオマスである稲わらやバイオマス廃棄物である汚泥等の再生
可能エネルギーを利用することで、これらの C2+アルコール類の製造プロセスは化石資源に依存しないプロ
セス設計が可能となる。以上から、合成ガスから C2+アルコール類への変換触媒の開発は今後、喫緊の課題
となる。C2+アルコール合成には Rh 触媒が広く用いられているが貴金属であり高価なため、商業化は未ださ
れておらず安価な卑金属類が望まれている。そこで本研究では、Mo のような安価な卑金属をベースにして、
合成ガスから C2+アルコール合成触媒の開発を目的とした。アルコール類の炭素鎖成長を向上させるため、
さらに F-T 合成用金属やアルカリ金属類等を助触媒とした触媒を調製し、合成ガスからの C2+アルコール合
成試験を行った。また触媒の細孔特性、酸量、還元能の他に、金属の価数の影響や金属の CO の解離/非解離
吸着特性を解析することで、触媒発現機構や C2+アルコール生成反応機構の解明を試みた。
第 1 章「緒言」では合成ガス製造法及び利用法、C2+アルコール類の利用技術、C2+アルコール生成触媒の
既往研究を系統的にまとめ、現状の触媒の課題等を挙げた。これらの知見をもとに本研究の位置づけの確立
や目的を述べた。
第 2 章「C2+アルコール生成における MoS2 ベース触媒の助触媒金属の影響」では助触媒として用いたコバ
ルトやカリウムの担持量による C2+アルコール活性の影響を検討した。MoS2 触媒では生成物中の 5-7 割が炭
化水素類であったが、MoS2 触媒に Co を添加することにより、C2+アルコール選択性が著しく増加し、炭化水
素類、CO2 は減少した。これは触媒上の複合金属相である CoMoS 相の形成がアルコール生成に有利な効果
を示したためであることが XPS 測定により判明された。さらに CoMoS2 触媒に K を添加すると K/Mo 比が
0.1 (mol/mol) までは CO2 の選択率が増加したが、0.2 以上では抑制され、C2+アルコール類やメタノールの選
択性が増加した。また、炭化水素類選択率は K/Mo 比が 0.4 まで増加する程に抑制された。CO2 は非解離型
CO 吸着種と、解離した酸素吸着種と反応することで生成され、アルコール類生成の中間物として生成され
ると考えられ、メタノール生成経路の中間体であるホルミル吸着種は、触媒の酸作用による脱水反応でアル
キル基を経由し炭化水素類が生成されると考えられている。ゆえに K 添加により炭化水素類が抑制され、メ
タノールが生成された。さらに K/Mo 比が 0.2 以上で C2+アルコール選択性が向上することが判明した。
第 3 章「アルミナ担体を用いた MoS2 ベース触媒の C2+アルコール製造」では Al2O3 を担体として触媒調製
を行い、担体の酸量・酸強度における C2+アルコール選択性の影響を検討した。担体の焼成温度を 600 °C か
ら 1100 °C まで増加させると、Al2O3 が相から相へ相転移され、触媒の酸量・酸強度がそれぞれ減少したこ
とが XRD 及び NH3-TPD 測定により、それぞれ判明された。C2+アルコール類の反応選択率は焼成温度が増
加する程に増加し、1100 °C で 40%と最大となった。炭化水素類は焼成温度の増加とともに 46%から 21%に
半減された。触媒の酸量・酸強度が減少する程、C2+アルコール類の選択性に有利となった。
第 4 章「セリア担体を用いた VI 族金属類ベースの触媒の C2+アルコール製造」では、担体の影響や Mo 以
外の VI 族金属類である Cr や W、触媒の活性化方法による影響を検討した。SiO2、Al2O3、CeO2 担体におけ
る C2+アルコール選択性は CeO2>SiO2>Al2O3 となり、炭化水素類及び CO2 の選択性は Al2O3>SiO2>CeO2
となった。炭化水素類の生成が増加したのは第 2 章と同様に Al2O3 担体上の酸点におけるホルミル中間体の
脱水反応により、炭化水素類の生成が増加したことが示唆された。CeO2 担体において CO2 選択性が抑制され
たのは、CeO2 の酸素吸蔵能が一因であると示唆される。VI 族金属類において C2+アルコール類の選択性は
Mo>W>Cr の順で減少した。触媒の活性化法として、硫化及び還元もしくはその両方の処理を施した場合、
硫化処理で C2+アルコール選択性が最も向上した。硫化物触媒上では CoMoS 相が形成されていることが XPS
や H2-TPR により確認され、アルコール選択性に重要な影響を及ぼすことが判明された。
最後に、第 5 章「結論」で各章の要約と本論文の結論をまとめた。以上、本研究では合成ガスから C2+ア
ルコールへの反応において、以下の知見を得た。担体または K 添加により触媒の酸量を減少することで、
炭化水素類を抑制し、アルコール類生成が有利となる反応経路を解明し、CeO2 担体の酸素吸蔵性による酸
素吸着種の抑制が CO2 選択性を減少させることに成功した。また、触媒上の CoMoS 相の形成がアルコ
ール類の生成に有利であると判明できた。