平 成 15 年 戦 略 的 基 盤 技 術 力 強 化 事 業 研究開発成果報告概要 事 業 管 理 法人名 管理番号 15R-1 財団法人 埼玉県中小企業 振興公社 代表者名 理 事 小坂 孝 所在地 〒 330-0854 埼玉県さいたま市大宮区桜木町一丁目 7 番 地 5 Te l : 0 4 8 - 2 6 2 - 7 7 5 1 技術分野:ロボット部品分野 技術区分:センサ開発技術 技術開発課題:低コスト化技術/信頼性・耐久性向上技術 テーマ名:「6 軸力覚センサに関する研究開発」 研 究 開 発 期 間 : 平 成 15 年 8 月 5 日 か ら 平 成 16 年 2 月 27 日 1.委託事業実施の背景と委託事業の概要 最 近 の ヒ ュ − マ ノ イ ド ロ ボ ッ ト の 開 発 の 高 ま り か ら 、 高 精 度 ・高 信 頼 性 ・低 価 格 の 6 軸 力 覚 センサが市場から求められ始めている。従来の多軸力センサは、殆どが歪ゲージ式の為、 低感度、起歪体の構造が複雑、過付加対策なし等の問題があった。最近になり、株式会社 ワコー等によって静電容量型3軸力覚センサが開発され、パソコンや携帯電話などの入力 装 置 (ポ イ ン タ ー )と し て 使 わ れ つ つ あ る も の の 、 本 セ ン サ の ロ ボ ッ ト 分 野 に お け る 研 究 開 発の余地はまだまだ大きいものと考えられる。したがって、そのために低価格化・高精度 化・高信頼化を目的として高感度、低感度 6 軸力覚センサを研究開発する。 2.委託事業全体の内容と目標 (1)技術の内容と新規性、独創性、改善性又は技術基盤強化性 ①技術の内容 株式会社ワコーが持つ静電容量型3軸力覚センサの技術を利用し、パワーアシストに使わ れる操作力検出用の高感度6軸力センサとワークの荷重を検出する低感度6軸力覚センサ の 2 種 類 の セ ン サ を 開 発 す る ことを目的とするものである。本 セ ン サ は 力 検 出 部 と 信 号 処 理 部 か ら 構 成 さ れ 、 力 に 応 じ た 信 号 を 出 力 す る 。 EEPROM 付 き C/V 変 換 回 路 は 静 電 容 量 を 電 圧 変 換 す る と と も に 、 特 性 を 補 正 し 、ア ナ ロ グ 信 号 / PWM 信 号 を 出 力 す る 。 信 号 処 理 部 は 力検出部からのアナログ信号をデジタル処理してパワーアシストに伝達する。信号処理部 に は MPU が 内 蔵 さ れ 力 検 出 部 か ら の デ ー タ を 演 算 処 理 し 、 更 に 精 度 を 高 め 出 力 す る 。 ②技術の新規性、独創性、改善性又は技術基盤強化性(新規性・独創性) 株式会社ワコーは、力、加速度、角速度などの物理量を 3 次元的に捉え、それを各軸成分 に分離して検出する 3 軸センサの開発に創業以前から取組み、既に20有余年経過し、こ の分野では日本、米国、欧州で特許的に独占し、優位性を保っている。ロボット用の静電 容量型3軸力覚センサには製品化の実績があり、既に製品化し販売している。更に、ニッ タ株式会社においてストレインゲージを利用した6軸力覚センサを開発した実績がある。 本研究開発では、この静電容量型3軸力覚センサとストレインゲージ型6軸力覚センサに おける技術を基礎とし、静電容量型6軸力覚センサを開発するものであり、独創性があ る。株式会社ワコーは世界的に見ても、静電容量型6軸力覚センサを事業化できる唯一の 企業と言える。 (2)技術目標値 暫定仕様値 型式(検出原理) 検出方向(軸数) 定格荷重 力 高感度型6軸力検出 静電容量 3軸力&3軸モー メント 低感度型6軸力検出 静電容量 3軸力&3軸モー メント 高感度型6 軸力検出 低感度型6 軸力検出 オフセ ット電 圧 分解 能 直線 性 周波数 応答 (±3d B) 1/2 Vcc 定格 の 1/ 2,000 ± 0.5 % DC∼ 500Hz モーメント 感度 力 モーメント 0∼±120N 0∼±12 N・m ±16.67m V/N ±166.7m V/N・m 0∼±1,000 N 0∼±1,000 N・m ±2mV/ N ±2mV/ N・m 他軸 感度 電源 電圧 消費電流 作動温 度範囲 ±1% +3V ∼ +6V 10mA以 下(電源 +5.0V 時) −10∼ +70℃ サイズ(信 号処理回路 込み) 過負 荷制 御 過負 荷信 号 φ30×20m m 定格 荷重 の2 倍 定格 荷重 φ150×20 mm 信 号 処 理 部 の 出 力 は PCI、 USB。 検 出 部 出 力 は ア ナ ロ グ 、 PWM を 予 定 す る 。 3.委託事業全体における技術目標値を達成するための課題と解決方法 本6軸力覚センサの性能は検出部の構成要素である検出機構部で決まる項目と電子回路的 (ソフトも含む)に補正できる項目がある。 検出機構部で決まる性能は応答周波数、サイズ、過負荷制御、過負荷信号であり、その他 の性能は全て電子回路的に補正できる項目である。 □検出機構部で決まる性能 ①定格荷重 定格荷重は検出機構部の剛性で決まる。定格荷重を検出機構部に負荷したときのヒステリ シスが1%以下になるようにする必要がある。検出機構部の剛性を高めれば、ヒステリシ スは小さくなるものの、感度の低下や過負荷制御・過負荷信号の性能が得られにくくなる 等 の 問 題 が 発 生 す る 。定 格 荷 重 と 感 度 及 び 過 負 荷 制 御 ・ 過 負 荷 信 号 の 性 能 と は ト レ ー ド オ フ の 関 係 で あ り 、設 計 上 十 分 注 意 す る 必 要 が あ る 。 感 度 は 回 路 的 に 補 正 で き る の で 問 題 に はなりにくいと予想しているが、過負荷制御・過負荷信号の性能は共に検出機構部で決ま るために、十分に検出機構部のFEM解析を行い、定格負荷と過負荷制御・過負荷信号と の関係を見極め、最適な構造を決める。 ②応答周波数 応答周波数は検出機構部の剛性で決まる。その為、定格荷重と同様に応答周波数は感度と 過 負 荷 制 御 ・ 過 負 荷 信 号 の 性 能 と ト レ ー ド オ フ の 関 係 で あ り 、設 計 上 十 分 注 意 す る 必 要 が あ る が 、 感 度 は 回 路 的 に 補 正 で き る の で 問 題 に は な り に く い と 予 想 し て い る 。こ こ で 重 要 な の は 応 答 周 波 数 と 過 負 荷 制 御 ・ 過 負 荷 信 号 と の 関 係 で あ る 。検 出 機 構 部 の 剛 性 を 高 め 、応 答 周 波 数 を 上 げ れ ば 、 過 負 荷 制 御 ・ 過 負 荷 信 号 の 性 能 が 得 ら れ に く く な る 。こ の 点 に 関 し、十分にFEM解析を行い、応答周波数と過負荷制御・過負荷信号との関係を見極め、 最適な構造を決める。 ③サイズ サイズは荷重の割合から考えると、力検出部の小型化が要求されている。力検出部には検 出 機 構 部 と 電 子 回 路 が 内 蔵 さ れ 、 こ れ ら を 含 め 、上 記 の サ イ ズ を 満 た す 必 要 が あ る 。検 出 機 構 部 と 電 子 回 路 の 構 造 を 工 夫 す る 必 要 が あ る 。電 子 回 路 は 最 終 的 に は I C 化 す る た め に 、 小 型 化 が 可 能 で あ る が 、 更 に 小 型 化 す る た め に 、携 帯 電 話 に 使 わ れ た 技 術 を 利 用 し 、 パ ッ ケージの小型化(例えば、BCC)や実装法による小型化(例えば、ボールボンド)を図 る必要がある。 ④過負荷制御・過負荷信号 過負荷制御・過負荷信号の機能については、定格荷重と応答周波数の項目で述べたとおり で あ る 。十 分 に F E M 解 析 を 行 い 、 定 格 荷 重 及 び 応 答 周 波 数 と 過 負 荷 制 御 ・ 過 負 荷 信 号 と の関係を見極め、過負荷制御・過負荷信号の機能が発揮できる構造を決める必要がある。 □電子回路で決まる性能 ①感度 感度は検出機構部の剛性で決まるが、検出機構部の剛性は上述の様に、定格感度、応答周 波 数 そ し て 過 負 荷 制 御 ・ 過 負 荷 信 号 の 性 能 の 複 雑 に 関 係 し て い る 。 そ の 為 、感 度 は 出 来 る だけ増幅回路のゲインを調整することで対応する予定である。感度と感度温度特性の調整 は E 2 PROM に そ の 特 性 デ ー タ を 書 き 込 み 、 逆 演 算 を す る こ と に よ っ て 補 償 す る 事 を 考 え て い る 。E 2 PROM は 力 検 出 部 の 内 部 に 配 置 さ れ る 信 号 処 理 IC に 内 臓 さ れ る 。 ②オフセット電圧 オフセット電圧は力検出のための静電容量素子や浮遊容量で決まる値であり、電気的に調 整可能である。この性能は他との関係が少なく比較的容易に調整することができる。オフ セ ッ ト 電 圧 と そ の 温 度 特 性 の 調 整 は 上 記 と 同 様 に 、 E 2 PROM に そ の 特 性 デ ー タ を 書 き 込 み 、 逆 演 算 を す る こ と に よ っ て 補 償 す る 事 を 考 え て い る 。E 2 PROM は 力 検 出 部 の 内 部 に 配 置 さ れ る 信 号 処 理 IC に 内 臓 さ れ る 。 ③分解能 一般に静電容量の変化で物理量を検出するセンサは他の検出原理(例えば、ピエゾ抵抗効 果 や 圧 電 効 果 ) と 比 べ 、分 解 能 が 高 い こ と が 知 ら れ て い る 。 こ こ で 要 求 さ れ て い る 分 解 能 1 /2000 は 問 題 な い 範 囲 と 考 え ら れ る 。 ち な み に 株 式 会 社 ワ コ ー で 開 発 し 、 地 震 検 出 用 ( P 波 検 出 用 ) に 用 い ら れ て い る 静 電 容 量 型 加 速 度 セ ン サ の 分 解 能 は 1 /10000 で あ る 。 ④直線性 静 電 容 量 型 の セ ン サ に と っ て 、 直 線 性 0.5% は そ の 検 出 原 理 ( C = ε S / d ) か ら 考 え て、電気的補正無しでは困難と思われる。そこで、信号処理部に内臓されたMPUによっ て補正する予定である。 ⑤他軸感度 既に開発した静電容量型3軸力覚センサの性能から考え、他軸感度1%はセンサの出力そ の ま ま で は 困 難 な 値 で あ る 。こ れ も 、 直 線 性 と 同 様 に 信 号 処 理 部 に 内 臓 さ れ た M P U に よ って補正する予定である。 ⑥電源電圧 電 源 電 圧 は 電 子 回 路 の 仕 様 で 決 ま る 。電 源 電 圧 は 3 ∼ 6 V は 問 題 の 無 い 範 囲 と 考 え る 。 ⑦消費電流 消費電流は電源電圧と共に、電子回路の仕様で決まる。ICの構成をCMOSにすること で、この件については容易に解決できると考える。 ⑧動作温度範囲 力検出部は主に検出機構部と電子回路から構成され、信号処理部は電子回路から構成され る 。 電 子 回 路 の 動 作 温 度 範 囲 ( -10∼ 70℃ ) は 問 題 な い 。検 出 機 構 部 自 身 の 動 作 温 度 範 囲 ( -10∼ 70℃ ) は 問 題 な い が 、 低 温 時 に 於 け る 、 電 極 へ の 結 露 が 重 要 な 問 題 で あ る 。こ れ に 対し、電極間にシリコーンゲルを充填し結露を防ぐことができる。また、電極間にシリコ ーンゲルを充填することで、ゴミの侵入を防いだり、感度が2倍程度向上(比誘電率が 2)などの副次的効果も予想される。シリコーンゲルの充填による効果は静電容量型3軸 力覚センサを使って、既に検証済みである。 4.当該年度における技術目標値の達成の状況と意義(実績) パワーアシスト用に高感度型6軸力覚センサと低感度型6軸力覚センサを開発した。高 感度型6軸力センサは人の操作力を検出する為に、また、低感度型6軸力覚センサはワー クの荷重を検出する為に使われる。6軸力覚センサを設計するに当たり、両センサとも FEMに よ る 解 析 を 実 施 し 、 概 略 の 変 位 体 構 造 を 決 め た 。 そ れ に 基 づ き 、 変 位 体 を 含 む 検 出 機構部と静電容量を電圧に変換する電子回路を作成し、基本特性を測定した。 そ の 結 果 、 ほ ぼ FEM解 析 の 計 算 値 を 反 映 す る 測 定 デ ー タ が 得 ら れ 、 本 年 度 の 目 標 値 を 概 ね 満足する結果が得られた。 ①感度 : 高 感 度 型 ( 目 標 :50mV/N,500mV/Nm、実 績 :15∼ 50mV/N,400∼ 500mV/Nm) 低 感 度 型 ( 目 標 : 5mV/N,200mV/Nm、 結 果 : 0.3∼ 0.5mV/N,17∼ 18mV/Nm ) ② 直 線 性 : 高 感 度 型 ( 目 標 :15%、実 績 :1~15%) 、低 感 度 型 ( 目 標 :15%、 結 果 :1% ) ③ 他 軸 感 度 : 高 感 度 型 ( 目 標 :15%、実 績 :10~70%) 、低 感 度 型 ( 目 標 :15%、 結 果 :10~14% ) ④ サ イ ズ : 高 感 度 型 ( 目 標 :φ 50×40、実 績 :50×50×37) 低 感 度 型 ( 目 標 :φ 200×50、 結 果 :φ 160×34) 一 部 の 性 能 ( 低 感 度 品 : 検 出 感 度 が 低 い 、 高 感 度 品 : Mzの 感 度 が 低 い ) に 目 標 仕 様 を 満 足 していないものがあるが、回路的処理が構造的工夫で解決できるものと考える。また、6 軸 の USB接 続 ( 3軸 は 開 発 済 ) 、 評 価 用 測 定 機 ( 低 感 度 品 ) な ど の 一 部 未 達 成 な 開 発 項 目 もあるが、平成16年度早々には完成できるものと思われる。 また、実機テストで設置方法(アースのとり方等)の違いでノイズの発生が大きく変わる 等の課題が指摘された。センサの開発時では問題となるノイズは発生していなかったこと か ら 、 電 力 系 の ノ イ ズ が 信 号 系 に 影 響 し た た め と 考 え ら れ る 。 平 成 16年 度 の 開 発 に ノ イ ズ 対策の項目を追加して、本質的解決を図っていく予定である。 結論的には両センサとも実機組込み評価を行い、センサ出力に従いパワーアシストが動作 することを確認したことは意義深いと考える。 5.事業化の目標と当該年度に把握した事業化を取り巻く環境変化 平成15年度の開発期間中に6軸力覚センサに関する問い合わせがあった。いずれの場合 もロボット分野での応用と思われ、その際に、「従来のストレインゲージ型6軸力覚セン サは価格に問題点がある。」という指摘があった。本静電容量型6軸力覚センサはこれら 問題点を解決するものであり、ロボット分野に於けるニーズは更に高まっているものと思 われる。 また、現在、第3者による静電容量型力覚センサの商品化の報告はない。これは構成メン バーの所有する基本特許によるものと思われる。静電容量型6軸力覚センサが商品化され れば、低価格、高信頼性という特徴を生かし、ロボット分野以外の分野にも事業展開が可 能になることは変わりない。
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