天理よろづ相談所病院における 320列CTの使用経験について

R.T. ルーチンワークと工夫
天理よろづ相談所病院における
320列CTの使用経験について
天理よろづ相談所病院 放射線部
辻 貴裕
はじめに
2008年10月から,関西圏内としては 2 番目の導入と
なった東芝社製320列CT Aquilion ONEが臨床稼働を開
始した
(図 1)
.全国的にみても本格的な臨床病院への導
入事例としては初期段階であったため,心臓や頭部検
査だけでなく,それ以外の部位について装置の特徴を
活かした適応方法を検討するという意味で期待されて
いる.
導入を決めた段階で,当院は2009年 4 月からDPC対
象病院となる予定であった.このため,従来なら入院後
に診断目的の心臓カテーテル検査を実施していた症例
を,適応があれば外来での心臓CT検査に置き換えるこ
とも予測していた.さらに,地域連携室を通じて,開業
医から心臓CT検査を含む紹介患者を受け入れる体制の
整備も進んでいた
(図 2)
.
このように心臓CT検査が増加する要因が重複してい
たことからも,検査のスループット向上を図ることを重
点項目として検討した結果,今回のCT装置を導入する
に至った.
当 院 で は2005年 か ら,GE社 製64列CT LightSpeed
VCTを用いて心臓CT検査を行ってきたが,現在では今
回導入したAquilion ONEに置き換わっている.心臓CT
の検査数は増加傾向にあり,循環器内科と放射線科医
師との連携で,心臓だけでなく胸部を含めた読影を行
い患者サービスの向上に努めている
(表 1,図 3)
.
320列Area Detector CT Aquilion ONEの特徴について
Aquilion ONEは最 速0.35秒/回転で 撮 影が 可能であ
る.固体検出器を0.5mm × 320列配置することで体軸方
向に最大160mmの幅で撮影が可能となり,1 スキャンで
心臓全体をカバーできるスキャン範囲が確保できるよう
になった.また,寝台は移動しないためバンディングア
ーチファクトのない画像が得られる.
心臓CT検査について
撮影方法は心拍数に応じて各撮影モードを使い分け
ている
(図 4)
.造影法については以下に示す
(図 5)
.
臨床症例
症例 1:ステント挿入例
(破損)
LAD
(left anterior descending:左前下行枝)
にステン
トを挿入した患者のフォローアップCT検査時に破損し
ているのが確認された
(図 6)
.
症例 2:CABG
(coronary artery bypass graft)
バイパ
ス術
SVG-4PD,SVG-#12,LITA-# 8 の 3 本をバイパスし
ている.3 回のワイドボリュームスキャン法を用いて撮
影した
(図 7)
.
症例 3:冠動脈瘤
当院でフォローされている冠動脈瘤の症例で 4,64,
320列の各MDCT装置によりバンディングアーチファク
トが減少しているのがよく分かる
(図 8)
.
症例 4:肺静脈剥離術術後
アブレーション治療後の症例で10%ごとのフェーズで
再構成された 4D-ボリュームレンダリング画像を用い
て,再狭窄の有無を確認している
(図 9)
.
頭部検査について
図 1 当院に設置された320列CT Aquilion ONE
脳全体を一度のスキャンでカバーできるため,ダイナ
ミックスタディを行っている.これにより動静脈の血流
動態情報が得られ全脳での還流評価が可能となった.ま
た全脳の血管描出が行えるため,非侵襲的な検査法とし
て血管造影検査に置き換わる可能性が期待されている.
造影方法について
現在,脳動脈瘤描出を目的にしている場合はイオメ
プロール350mgI/mLを使用し注入速度秒間 5mL,総量
50mLにより行っている.
1
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表 1 心臓CTの件数
(320列CT導入以降)
予約件数
地域連携室
当日検査
月,水,木曜日:午前 6 件
月,水,木曜日:午前 3 件
月,水,木曜日:午前 2 件
火,金曜日:午前 3 件
合計
月,水,木曜日:11件
火,金曜日:3 件
39件
計
2008年 4 月
2008年 5 月
2008年 6 月
2008年 7 月
2008年 8 月
2008年 9 月
2008年10月
2008年11月
2008年12月
2009年 1 月
2009年 2 月
(件)
140
120
100
80
60
40
20
0
320列CTを導入した2008年10月以降,検査数が増加している.
図 2 当院ホームページから地域医療連携室を通じて心臓CT検査が
予約できる.
スキャンモード 同 期
volume
ON
図 3 心臓CTの件数
スキャン特長
Ca score
CTA/CFA
Prospective CTA
Target CTA
・Ca score用
・予め決めた心拍位相のみ曝射
・1 beat 曝射
・Continuous/Modulationの設定可
(ModulationのON/OFF可)
・心機能解析用
・複数beatスキャンでセグメント再構成可能
・beat 数 = セグメント数
模式図
Ca score
CTA/CFA
Cont.
CTA/CFA
Mod.
・予め決めた心拍位相に対し幅を持たせた曝
射が可能
・X 線をON/OFFする
・複数beatスキャンでセグメント再構成可能
・beat数 = セグメント数
Prosp
CTA
・曝射位相中心を指定し,その曝射幅はms
にて指定
・心拍状況によらず収集したい心拍位相の
みを曝射するモード
・Heart NAVI,不整脈対応OFF
Target
CTA
図 4 Aquilion ONEスキャンモード
(心電同期ON)
臨床症例
症例 5:脳動脈瘤
右内頸動脈に動脈瘤が疑われた
(図10)
.
2
症例 6:右中大脳動脈瘤
激しい頭痛で来院した症例.右中大脳動脈MI末梢
分岐部に径10mm大の囊状動脈瘤とそこから後上方へ
突出するブレブが確認できる.ダイナミックボリューム
造影条件決定
−体重により注入レートを決定する−
体重 × 0.07mL/秒を注入レートとし10秒間注入,その後生食後押し
ex:体重60kgの場合
60 × 0.07 = 4.2mL/秒,4.2mL/秒 × 10秒 = 42mL
但し,注入レート上限を5.0mL/秒とする
Real Prep
上行大動脈にROIを設定し200HUにてAutoスタート
図 5 Aquilion ONE心臓検査造影方法
図6
LADステント
の破損
SVG-4PD,SVG-#12
LITA-# 8
ワイドボリューム 3 回
図 7 CABGバイパス術後
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図8
検出器数と
バンディング
アーチファク
トの減少
(右冠動脈瘤の症例)
左から 4 列,64列,
320列
狭窄があるか,動画で確認
図 9 肺静脈剥離術術後
図10 脳動脈瘤疑い
4
図11 右中大脳動
脈瘤
呼吸同期
0.35秒/回転
0.35秒/回転
ハーフスキャン
図12 呼吸同期スキャンの有効性
で撮影すると動脈瘤本体と血腫が分離できる
(図11)
.
その他の検査について
ボリュームスキャンはその他の部位にも応用してい
る.腹部では撮影範囲が限られているために適応部位
を肝臓,膵臓,腎臓などに絞っている.当院では主に
CTA,CTAPでの肝臓の血流評価に用いている.胸部で
は肺の動きに注目し,ダイナミックボリューム検査での
評価を行っている.また本装置は,呼吸同期撮影シス
テムが内蔵されているため,呼吸停止が困難な脳血管
障害の症例などでも,ワイドボリューム機能と呼吸同期
を用いることでモーションアーチファクトの少ない画像
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図13 小児胸部撮影
ワイドボリュームスキャン
64列ヘリカルスキャン
図14 心臓動態ファントムを用いたモーションアーチファクトの影響について
が得られている
(図12)
.さらに小児科ではボリュームス
キャンと0.35秒
(1 回転)
での撮影を併用することで,ま
さに一般X線撮影と同様に,スイッチを押す感覚で体動
を見ながら検査が可能である
(図13)
.
ま と め
約 6 ヵ月間Aquilion ONEを使用して,320列CTの特
徴を活かした検査方法について検討してきた.1 volumeで 撮 影 できる範 囲 が 最 大 で160mmで あることか
ら,第一に心臓,第二に脳血管,第三に胸部といった
部位で検査を行い臨床的な検討を進めている.ボリュ
ームスキャンでは,ヘリカルスキャンで起こるモーショ
ンアーチファクトが撮影面内の時相が一致するため,
連続性の良い画像が得られる
(図14)
.とくに,心臓で
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は被ばく低減を実現しながら安定した画像を得られる
ことが分かってきた.例え不整脈があっても,ECG編
集機能を活用して容易に最適な心位相を検索できる.
また,ZIO Stationを用いたポストプロセスの処理時間は
大幅に短縮していることから,総合的な検査時間の短
縮が実現できたと考える.このことは患者のスループッ
ト向上につながるとともに,従来よりも検査件数が増加
しているにも関わらず,検査当日に外来で結果説明を
行うという患者サービスを安定して提供できるようにな
った.
また筆者らは,この装置の特徴である動態機能検査
に注目しており,現在では肺について検討を重ねている
段階である.従来の装置では表現できなかった新しい
分野の扉を開けたいと願っている.