e-briefing document - Herbert Smith Freehills

紛争回避ニュースレター
(第 121 号)
英国における仲裁: 2011 年と 2012 年の主な判決
本稿では、ロンドンを仲裁地としている結果、手続的にはイングランド
法に準拠する国際仲裁に関係している方や、今後関係する可能性の
ある方にとって興味深いと思われる、2011 年と 2012 年にイングランド
2012 年 11 月
東京オフィス
最近の刊行物
で下された主な判決の寸評を提供いたします。
仲裁人が差別禁止法との関係において、「雇用された者」としての
地位を有するかについて、広く注目を集めていたJivraj v Hashwani 1
事件(以下、「Jivraj事件」)の最高裁判所判決のほか、イングランド
控訴裁判所も、仲裁合意の準拠法について明確な指針を定め、
さらに訴訟差止命令や確認的仲裁判断の執行力に関する判決も
言い渡しました。
また、1996 年英国仲裁法(以下、「英仲裁法」)の解釈についての
重要な判決もありました。
上記刊行物をご希望の場合は
こちらまでご連絡くださいい。
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仲裁人の地位
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仲裁合意の準拠法
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訴訟差止命令
関連リンク
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英仲裁法第 66 条に基づく仲裁判断の執行
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Herbert Smith Freehills
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英仲裁法第 68 条に基づく異議申立て
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Global dispute
resolution practice
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お問い合わせ先
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Our Tokyo office
仲裁人の地位
最高裁判所は、広く批判を浴びた Jivraj 事件におけるイングランド控訴裁判所の判決を覆し、仲裁人は従業員ではなく、そのため差別
禁止法の適用対象にはならない、と判示しました。
本判決は、仲裁人が特定の宗教団体(本件ではイスマイリ派のイスラム教徒社会(Ismaili Muslim community))の一員でなければなら
ない、とする仲裁合意の有効性を支持しました。控訴裁判所は第一審判決を覆し、仲裁人選任契約は一身専属的に仕事を請け負う契約
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を構成するため、英国の差別禁止法 の適用対象となり、したがって当該仲裁合意は無効である、と認定しました。
1
2
[2011] UKSC 40.
具体的には、2003 年雇用平等(宗教または信条)規則、第 2 条 3 項。
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控訴裁判所はまた、イスマイリ派社会の一員であることが差別禁止法の適用対象外となる
ための「当該職務のための純粋な職業上の必要条件」であるという主張を退けました。
過去のバックナンバー
しかし、最高裁判所は、全員一致で、仲裁人は「雇用された者」ではなく、よって当該仲裁
2012 年 10 月
合意は差別禁止法に抵触するものではない、と第一審の裁判官と同じ結論に達しました。
派遣労働者の採用に影響を
及ぼす法律に関する最新情報
最高裁判所の判決は、仲裁人の選任に際して当事者に全面的な自由を与えるものである
ため、国際仲裁における当事者自治の原則を支持するものです。もっとも、この判決も
2012 年 9 月
論争を巻き起こしており、被上告人である Hashwani 氏は近般、欧州の差別禁止法の
対イラン制裁の強化
違反があったとして、欧州委員会へ苦情を申し立てました。欧州委員会がこの苦情を受け
2012 年 8 月
て何らかの措置を講じるのか、現時点では不明です。
P.R.I.M.E. ファイナンス:
金融業界における新たな紛争
解決手段
仲裁合意の準拠法
控訴裁判所は、Sulamerica CIA Nacional de Seguros SA and others v Enesa
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Engenharia SA and others事件判決 において、当事者間で、仲裁合意の準拠法に
ついて明示的な合意がなされていない場合に準拠法を決定するための指針を
2012 年 8 月(特報)
2012 年 6 月 7 日に署名された
日・イラク投資協定について
示しました。
2012 年 7 月
控訴裁判所は、仲裁合意の準拠法は①明示的に選択された法、②黙示的に選択された
国際化を目指して:CIETAC の
新仲裁規則(2012 年版)
法、さらに③仲裁合意に最も密接に、かつ最も実質的に関連する法を順番に検討する
ことによって決定される、と判示しました。
2012 年 6 月
本件では、事実について見れば、契約(保険契約)の実体的な内容はブラジル法が準拠
多数当事者や複数契約が関係
する仲裁で生じる問題への対処
方法
法となっていましたが、ブラジル法が仲裁合意の準拠法でもあるのかについては、これを
否定する複数の強力な要因がありました。とりわけ、当該仲裁合意では仲裁地として
ロンドンが指定されており、これは、イングランドの仲裁法が仲裁手続に適用されることに
対する承諾を示していました。また、ブラジル法によれば、当該仲裁合意は両当事者の
2012 年 4 月
シンガポールにおける仲裁法
改正について
同意がなければ法的強制力を有しません。これは、紛争を仲裁に付託する意義を大きく
損ねることから、当事者としては、仲裁合意の準拠法をブラジル法とする意思を欠いてい
2012 年 3 月
たことを示唆していました。
インドにおける仲裁をめぐる問題
について
仲裁合意の準拠法は、事案により異なるものであり、必ずしも契約全体の準拠法と同一で
あるという保証はありません。不確実性を回避するためには、仲裁合意そのものに、
2012 年 2 月
Med-Arb-裁判外紛争解決手続
明示的な準拠法条項を盛り込むことが推奨されます。
2012 年 1 月
自然災害:タイを焦点に
訴訟差止命令
控訴裁判所は、AES Ust-Kamenogorsk Hydropower Plant LLP v Ust4
Kamenogorsk Hydropower Plant JSC事件判決 において、裁判所は、たとえ仲裁
が実際に行われず、また提案もしくは予定もされていない場合であっても、仲裁合意に
違反して外国で提起された訴訟手続を差し止める訴訟差止命令を発する管轄権を
有する旨を確認しました。
できる、と判示し、「実際には、すべての面において裁判所によってのみ終局的な解決が
得られる」実体的な管轄権の問題を仲裁廷に提示するためだけに、当事者に仲裁手続を
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[2012] EWCA Civ 638.
[2011] EWCA Civ 647.
第 107 項の Rix 控訴裁判所裁判官の見解を参照。
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国際商業会議所の新仲裁規則:
国際仲裁における実効的な
ツールとなり得るか?
2011 年 11 月
控訴裁判所は、仲裁合意を保護・保全するためには自ら差止めによる救済を与えることが
開始するよう求めることは、「不必要な費用と遅延」を生じさせる、としました。
2011 年 12 月
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リビアに関する最新情報
当事務所のギニア・オフィス
英仲裁法第 66 条に基づく仲裁判断の執行
開設のお知らせ
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West Tankers Inc v Allianz SpA and another事件判決 において、控訴裁判所は、
ハーバート・スミス・フリーヒルズ
消極的確認を与える仲裁判断を自ら執行することができる旨を確認しました。
は、当事務所の戦略の中核に
本判決は、長期にわたる一連の West Tankers 事件のうち、最新のものとなります。大元
となる事件は、船舶の衝突とこれによる保険金の請求に起因するものでした。そして
据えているシングル・グローバル・
プラットフォームのより一層の充実
当事者では、紛争をイングランドにおける仲裁に付託することに合意していたにもかかわ
らず、保険会社はイタリアの裁判所において訴訟を提起しました。これに対し、
を図るために、2013 年初頭に、
ギニア共和国コナクリにてオフィス
イングランドの高等法院は、当事者に仲裁の利用を命じる「訴訟差止命令」を発しました。
しかし 2009 年になって、欧州司法裁判所は、この訴訟差止命令がブリュッセル規則との
整合性を欠くとして、イタリアの裁判所は自らの管轄権について判断すべきである、と判示
しました。この結果は、英国の仲裁関係者の間で、落胆をもって迎えられました。
を開設することとなりました。
これは、当事務所にとってアフリカ
初のオフィスであるとともに、
2012 年 10 月 1 日付の当事務所
イタリアでの訴訟が係属している中、ロンドンにおける仲裁手続も平行して行われ、
の合併以降、初の新規オフィス
仲裁人は申立人(West Tankers)が、衝突について法的責任を負わない、と認定しました。
開設となります。当地域において
これは、「消極的確認」でした。申立人は、この仲裁判断を得ることにより、イタリアの
目覚しい経済成長を続けている
裁判所でこれに反する判決が出された場合に、その判決のイングランドにおける執行を
ギニア共和国に拠点を開設する
封じ込めようとしたのです。
ことは、当事務所のアフリカ関連
控訴裁判所は、2012 年 1 月に、「消極的確認」が(仲裁判断は裁判所による判決と同様
に執行できるとする)英仲裁法第 66 条に基づいて執行可能である、との判断を示しまし
た。これにより、控訴裁判所は、仲裁判断が、争点遮断効または既判力(すなわち、当該
争点についての判断が示された以上、別の事件において相反する結果が出ることは認め
られない、という効果)を生じさせるものであることを認めたことになります。
業務に対する意欲の表れでもあり
ます。ギニア・オフィスは、
西アフリカ地域のコーポレート
およびプロジェクト業務に注力
する予定であり、特に当事務所の
エネルギーおよびインフラ関連の
この判決は、他の加盟国において相反する判決が出される可能性を前にしてもなお仲裁
クライアントの皆様には、今後
判断を支持しており、イングランドの裁判所が仲裁支持の立場を取っていることを確認
ご利用いただく機会があれば、
するものです。ただし、本判決をもって、これに相反するイタリアの裁判所の判決が
幸いに存じます。
ブリュッセル規則に基づいてイングランドで執行されるのを防ぐことができるのかについて
は、まだ明らかになっていません。
プレスリリースの詳細につきまして
は、こちら(英文および仏文のみ)
をご覧ください。
英仲裁法第 68 条に基づく異議申立て
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Chantiers De L'Atlantique S.A v Gaztransport & Technigaz S.A.S事件判決 に
おいて、商事裁判所は、仲裁手続において不正があったと認定しながらも、当該仲裁判断が不正により得られたものであることを理由に
仲裁判断の取消しを求めた申立てを棄却ました。
本件では、仲裁廷が主たる証人の証言によって著しく欺かれたことが認定されました。しかし、Flaux裁判官は、仲裁判断が不正により
得られたこと、または申立人に対して著しく不当なものであったことを証明するためには、不正の開示が、仲裁の結果に影響を及ぼしたで
あろうことを立証しなければならない、と判示しました。換言すれば、仲裁判断の取消しが認められるためには、不正と仲裁判断との間に
因果関係があることを立証しなければなりません。Flaux裁判官は、本件の事実関係について、「仮に真の状況が仲裁廷に開示されて
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いたとしても、恐らく仲裁判断には影響しなかったであろう」 との考えを示しました。
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8
[2012] EWCA Civ 27.
[2011] EWHC 3383 (Comm).
第 292-296 項参照。
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ピーター・ゴッドウィン
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© Herbert Smith Freehills LLP 2012
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