第48回日本理学療法学術大会(名古屋) P-A基礎-169 棘下筋の筋線維別筋厚と肩関節外旋筋力との関係性 宮本 崇司 1), 辛嶋 良介 1), 羽田 清貴 1), 奥村 晃司 1), 川嶌 眞人 2) 1) 社会医療法人玄真堂 川嶌整形外科病院 リハビリテーション科 , 社会医療法人玄真堂 川嶌整形外科病院 整形外科 2) key words 超音波画像診断装置・棘下筋厚・肩関節外旋筋力 【はじめに】 近年、超音波画像診断装置を用いた棘下筋厚の計測に関する報告が散見され、筋の形態的情報を把握する上で有用とされ ている。棘下筋の形態的特徴を調べた報告では、棘下筋を筋線維別に計測しているものや筋厚と筋力との関係性に関する 報告は少ない。今回、棘下筋の上部及び下部線維の筋厚を計測し、筋線維別の形態的特徴を明らかにすると共に、肩関節外 旋筋力との関係性を検討したので報告する。 【方法】 対象は上肢に既往のない成人男性 10 名 20 肩(平均年齢 27.7 ± 4.0 歳)。平均身長 171 ± 5.8cm、平均体重 65.4 ± 7.4kg、平 均 BMI19.1 ± 1.9、全員右利きであった。まず、棘下筋上部及び下部線維の筋厚を超音波画像診断装置(日立メディコ社製 ApronEUB-7000HV)を用い、9-14MHz のリニア式プローブにて計測した。計測姿勢は椅子坐位、上肢下垂位、肩関節内外 旋中間位とした。計測部位は、肩甲棘内側と肩峰外側端間の距離を計測し、肩甲棘内側より 25%の位置より肩甲棘に対し 垂線を下ろした。棘下筋上部と下部線維は触診にて判別し、肩甲棘内側 25%の位置より下ろした垂線上に各線維の計測位 置を油性ペンでマーキングした。計測は、計測位置にプローブの中心を一致させ、棘下筋上部及び下部線維に対し長軸方 向にプローブを走査し、B モード法にて静止画を撮影、装置に付属してある画像解析機能を使用し筋厚を計測した。筋厚は 肩甲骨から棘下筋表層の筋膜内側までを棘下筋厚とし 0.1mm 単位で計測した。次に、徒手筋力測定器ハンドヘルドダイナ モメーターを用い、両肩関節外旋の等尺性最大筋力を計測した。計測は、MMT の手技に準じて行った。筋厚及び筋力共に 計 3 回計測を実施し、全て同一検者で行った。解析は、筋厚及び筋力の 3 回のデータを加算平均し、筋線維別の筋厚、外旋 筋力の平均値を算出した。また、筋厚に対する筋力の比率(筋力筋厚比、N/mm)を算出した。統計では、筋線維別筋厚と肩 関節外旋筋力で Pearson の相関係数を求めた。また、筋線維別筋厚の差、同一筋線維筋厚の左右差、筋力筋厚比の左右差に ついて対応のある t 検定を行った。統計には統計ソフト R-2.8.1 を用い、危険率は 5% 未満とした。 【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき、被検者に本研究の趣旨を十分に説明し同意を得た。当院の倫理委員会の承認を得て実 施した。 【結果】 計 20 肩の筋厚の平均値は、棘下筋上部線維 9.0 ± 1.5mm、下部線維 12.6 ± 2.4mm であり、下部線維が有意に高い値を示し た(p<0.01) 。筋力の平均値は、外旋 126.6 ± 16.5N であった。筋厚と筋力の相関係数は、棘下筋上部線維と外旋にて r=0.61、 棘下筋下部線維と外旋にて r=0.71 と両筋線維共に外旋筋力間に正の相関を認めた。左右各 10 肩の筋線維別筋厚の平均値 は、棘下筋上部線維筋厚にて右 8.7 ± 1.6mm、左 9.2 ± 1.5mm、下部線維筋厚にて右 12.7 ± 2.4mm、左 12.5 ± 2.5mm で あり両線維共に左右間で有意差は認められなかった。筋力筋厚比の平均値は、外旋 / 棘下筋上部線維にて右 14.9 ± 3.4 N/ mm、左 13.9 ± 1.4 N/mm、外旋 / 棘下筋下部線維にて右 10.1 ± 1.3 N/mm、左 10.3 ± 1.2 N/mm で、左右間で有意差は認 められなかった。 【考察】 筋線維別の筋厚は、棘下筋上部線維に比べ、下部線維の方が有意に厚いという結果であった。これは、諸家による MRI を 用いた棘下筋線維別の生理学的筋断面積の報告と一致する結果であった。また、両線維共に外旋筋力との間に正の相関を 認め、特に棘下筋下部線維では強い相関を認めた。棘下筋上部線維に強い相関を認めなかったことは、下部線維は純粋な 外旋筋であるのに対し、上部線維は外転の補助筋としての働きがあることが関与していると考えられる。以上より、外旋 筋力の決定には棘下筋上部線維より下部線維の方が強く影響している可能性が示唆される。また、両線維共に筋厚に左右 差は見られなかった。健常成人男性における線維別棘下筋厚は左右同等程度であると考えられる。筋力筋厚比は、筋の筋 力発揮能力として捉える事が出来る。筋力筋厚比において両線維共に左右差を認めなかったことは、健常成人男性におい て棘下筋の筋力発揮能力は同等程度である可能性が示唆された。 【理学療法学研究としての意義】 今回検討した筋力筋厚比は、筋の筋力発揮能力として捉える事が出来る。従来より、筋体積あたりの関節トルクとして固 有筋力が算出され、筋の筋力発揮能力として捉えられている。筋体積を筋厚、筋幅と筋長との積とし、筋幅と筋長に変化が ないと仮定すれば、筋厚は筋体積を決定する重要な要素であり、筋厚と関節トルクの比より筋の筋力発揮能力が推定でき る可能性がある。超音波画像診断装置による筋厚評価は、今後、簡便に筋の筋力発揮能力を評価する方法として応用可能 ではないかと考えられる。
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