保護マットの貫入保護性能についての考察 - J

保護マットの貫入保護性能についての考察
○(正)清水 昭二 1),(正)狩野 真吾 2),(正)近藤三樹郎 3),増渕 光亮 4),渡部 直人 5)
1)ダイニック・ジュノ(株)
,2)東北大学(現DOWAエコシステム(株)),3)東ソー・ニッケミ(株)
4)日本シート工業(株),5)シーアイ化成(株)
1.はじめに
廃棄物最終処分場の遮水シート工に用いられる遮水シートの貫入抵抗は比較的小さいことから,保護材
として保護マットなどが導入されている.しかしながら保護材の保護性能についてはほとんど解明がなさ
れていない.保護マットは,比較的安易に入手でき経済的であることなどから,遮水シートの保護材とし
て一般的に使用されている.その保護性能については各種設定されているが,等圧膨張時の保護性能につ
いては清水ほか1)の,貫入抵抗に関しては近藤ほか3)の研究以外ほとんどないのが現状である.遮水シー
トそのもの設計手法の確立もさることながら,保護マットについても設計手法を確立しなければ,遮水工
としての安全性を見積もることも担保することもできない.保護マットの保護性能として重要である貫入
抵抗に関して,遮水シートと同様の性能表示が必要である.不織布の貫入性能の表示において未だに最大
貫入力値のみが表示されているが,保護性能概念の確立が必要との考えから,文献3)に引き続いて実験を
行い,貫入保護性能についての考察を行ったのでここに報告する.
2.実験方法
突刺貫入試験には,既往研究2)のASTM D 4833がある.この方
法の実験治具は,貫入棒の直径が8mmで,シートの取付架台の直
径が45mmである.不織布と遮水シートを重ねて供試体とした場
合,直径45mmに対し厚みが11mm程度となり,供試体の変形に
必要な領域が十分に確保できない.一方.石川ほかの研究3)で用
いたISO12236の試験は貫入棒の直径が50mmで,シートの取付架
台の直径は150mmであるが,貫入棒直径は安全すぎる傾向がある.
以上を考慮し,本研究では 貫入棒をASTM D 4833の直径8mm,
取付架台直径をISO12236の150mm に設定して実験を行った.
写真1
試験治具
貫入速度は50mm/minである.試験方法の違いによる実験結果の整合性は別途考慮する.供試体を表1に
示す.各単体の貫入性能を求め、その後不織布を貫入棒側としその下に遮水シートを配した供試体4種類
の性能を求めた.サンプリングタイムは0.25秒とした.従来方法の架台は筒状であり,供試体の変形や破
断状況を観察することはできなかったので,観測窓を設けビデオ撮影を行い,変形状況および破断状況を
撮影した.
表1 供試体仕様と貫入性能値
番号
供試体名
略 称
1 メタロセンポリエチレン MePE
2 超軟質塩化ビニル
SSPVC
3 軟質塩化ビニル
SPVC
熱可塑性オレフィン
4
FPP
/ポリプロピレン
9
DMP100+FPP
10 高密度ポリエチレン
1.5mm
D+M
D+SS
D+S
D+F
(11.5mm)
HDPE
【連絡先】土木シート技術協会
1.5mm
1.5mm
1.5mm
(10mm) ,
1200g/㎡
(11.5)
(11.5)
(11.5mm)
5 特殊織短繊維不織布 DMP100
6 DMP100+MePE
7 DMP100+SSPVC
8 DMP100+SPVC
仕 様
〒104-8321
1.5mm
第1極大 同左変位 破断時貫 同左変位
変形形状
貫入力N
mm
入力 N
mm
397
31
404
42.5 円錐近似
−
−
261.6
60.4 円錐近似
−
−
455
49.5 円錐近似
251.3
26.6
259.7
41.8 棒近接放物線
−
−
2140
96.6 円錐近似
−
−
−
−
−
−
1881.9・
88.1
(DMP100破断)
−
−
東京都中央区京橋1-18-1
2262
79.5
2172.2
93.34
2603.7
84.62
2190.5
84.22
(FPP破断)
640
26.2
シーアイ化成(株)内
TEL03-3535-4545
(清水)〒105-0012 東京都港区芝大門 1-3-4 ダイニックビル 6F ダイニック・ジュノ㈱TEL03-5402-1801
【キーワード】遮水シート、保護マット,試験,貫入抵抗
円錐近似
円錐近似
円錐近似
円錐近似
円錐近似
棒近接放物線
FAX03-5402-3181
単体での貫入性能
SMePE平均
SSPVC平均
SPVC平均
FPP平均
DMP100
HDPE平均
貫入力 N
2200
3.実験結果
貫入力と貫入変位は1対1に対応す
2000
ることから,ここでは両者をまとめて
1800
貫入性能と称する.
1600
実験で得られた極大時と破断時の
1400
貫入性能および観測された変形形状
1200
の特徴を表1に供試体仕様と共に示し
1000
た.
800
各単体供試体での実験結果を図1に
600
まとめて示す.図1には単体シート性
400
能としてHDPEシートを追加した.遮
200
水シートの貫入抵抗は低くてSSPVC
0
の約250N,高くてHDPEの650Nであ
0
る.さらに破断時の変位に着目すると,
大きくてSSPVCの60mm,小さい場
合はHDPEの27mmである.これに対
し DMP100 の
貫入性能は破
断時の貫入力
で2140N,変位
は 95mm で あ
り,遮水シート
に対し,3∼9
倍,1.5∼3.5倍
の性能がある
との結果が得
られた.
写真2 DMP100の破断前
DMP100
HDPE
SPVC
MePE
SSPVC
FPP
20
40
60
80
100
貫入変位 mm
図1
単体での貫入性能曲線
写真3 DMP100の破断直後(左の0.07秒後)
写真4 FPPの破断時頃の変形状況
写真5 SSPVCの破断時頃の変形状況
写真2,3にはDMP100の破断時前後をビデオから写真を採取し示した.写真の時間間隔は0.07秒である.
また,遮水シートの変形状況の両極端としてFPPとSSPVCの破断時前後の写真をビデオから採取し写真
4,5に示す.供試体の変形状況を観測した結果,貫入棒の貫入とともに供試体は円錐状(断面は直角三角形)
に変形すると仮定した近藤らの研究2)とは異なり,放物線状を描いた変形をすることがわかった検討の結
果,既往の仮定は貫入力・貫入変位曲線が線形である領域で成り立つことがわかった.貫入時の変形にも
円錐に近い放物線と貫入棒と接する距離が長い放物線との2種類に分類できることがビデオの撮影からか
らわかった.今回の実験では変形途中までは円錐形状だが,それ以降破断に至るまでは貫入棒に密着する
感じで供試体が伸びていく変形も見られ,破断に至る過程は供試体により異なることがわかった.また
DMP100の変形は破断するまでほぼ円錐形であることが判明した.
図2に遮水シートとDMP100不織布を重ね合わせた実験番号6∼9の貫入力・変位曲線を示す.複合供試
体の破断時貫入力・変位は,いずれのケースでも不織布単体の性能に近い傾向を示した.これは,複合供
貫入力 N
貫入力 N
貫入力 N
試体も不織布単体も変形の形状がどちらも同じ
3000
貫入性能DMP100基本
DMP100
DMP100+SMePE平均
円錐形であったことによると考えられる.すなわ
2500
DMP100+SPVC平均
ち,単体では貫入棒に密着する感じで変形した遮
DMP100+SSPVC平均
2000
DMP100+FPP平均
水シートの突起先端部分が,不織布があることに
よって破断につながる局所的な変形をまぬがれ
1500
たためと考えられる.このように不織布の破断に
1000
至るまでの変形は円錐状であることが,遮水シー
トの破断時の貫入力および変位を向上させる効
500
果があるものと考えられる.
0
図2に示すように,二層状態では遮水シートは
0
20
40
60
80
100
貫入変位 mm
DMP100の破断貫入力相当で破断し,DMP100
の破断時変位相当で破断した.すなわち,遮水シ
図2 複合供試体の貫入力・変位曲線
貫入に関する保護性能 基本性能
2500
ートは不織布とほぼ同時に破断しており,遮水シ
ートの破断時性能が不織布の性能にまで向上し
(DMP100+SMePE) 平均
2000
SMePE平均
たといえる.この向上した分を保護効果と判断す
1500
DMP100
ることができ,本研究ではこれを保護ポテンシャ
1000
ルPoと定義する.すなわち,
500
Po1=二層貫入性能−遮水シート単体貫
Po2=二層貫入性能−遮水シート単体貫
0
0
20
40
60
80
100
入性能−不織布単体貫入性能
貫入変位 mm
Po1は単体シートより増加した貫入性能であ
り,Po2は不織布が貢献した貫入性能である
.図3 複合供試体と単体の貫入
2500
貫入力に関する保護ポテンシャル
図3,4にDMP100不織布とSMePEシートの
(保護Po1=2層性能−シート性能)
(保護Po2=2層性能ーシート性能−不織布性能)
場合の保護ポテンシャル例を示した.図3では遮
2000
水シートの破断時性能値が向上したことと不織
保護Po1
1500
保護Po2
布による貢献具合を見ることができ,貢献は図3
1000
のPo1およびPo2の描く曲線の面積,すなわち仕
事量を評価することにより明瞭になるといえる.
500
4.まとめ
0
本実験より以下のことが明らかになった.
0
20
40
60
80
100
貫入変位 mm
①貫入時の変形は円錐形でなく放物線形状であ
り,凹凸状況の異なる2種類の形状がある.
図4 保護ポテンシャルの概念例
②貫入性能は遮水シートの貫入性能の変化すなわち破
断時の貫入力と貫入変位で示せる.
③不織布の保護効果は,保護ポテンシャルPoで表せる.
④遮水シート工の貫入性能は,構成する遮水シートと不織布の貫入性能の単純和には等しくない.
なお,本実験は土木シート技術研究会が,神奈川県産業技術研究センター加藤三貴研究室で行った実験結
果をまとめたものである.ここに謝辞を申し上げます.
参考文献
1) 清水昭二・小田勝也・狩野真吾・佐藤晶英・渡辺克也・竹内克昌:保護マット不織布の性能試験方法:
第15回廃棄物学会研究発表会講演論文集、2004.
2) 近藤三樹郎・狩野真吾・小田勝也・佐藤晶英・渡辺克也:土
木遮水シート突刺し貫入試験結果の応用、第15回廃棄物学会研究発表会講演論文集、2004.
3)近藤三樹郎・狩野真
吾・増渕光亮・岩井勉・竹内克昌:保護マットの貫入抵抗とその保護マットについての考察、第17回廃棄物学会研究
発表会講演論文集、2006.
4)石川雅洋,狩野真吾,小田勝也,竹内克昌,渡辺克也:保護マットの貫入試験とその
応力ひずみ曲線化,第41回地盤工学研究発表会講演論文集,2006.