既存施設(ストック)を有効に活用するためのツール作成について -施設

技−19
既存施設(ストック)を有効に活用するためのツール作成について
-施設評価手法の研究-
北海道開発局営繕部
技術・評価課
○千
大二郎
赤石
紀久
1.まえがき
官庁施設は、豊かで安全な暮らしを支える国民共有の資産として、親しみやすく、
便利で、かつ、安全なものとし、それぞれの行政機能を十分に発揮されなければなら
ない。また、膨大なストックとなっている既存施設の有効活用も求められている。
既存施設が経年及び損耗により機能劣化した場合には、回復するための修繕を長期
保全計画等に基づき的確に実施する必要がある。特に、昭和40年代から50年代に
か け て 整 備 さ れ た 庁 舎 等 の 多 く の 施 設 が 現 存 し て お り( 表 - 2 )、こ れ ら の 施 設 の 修 繕
需要に対し、計画的な対応が不可欠である。
本研究では、既存の現存率算出法(注1)を基に、より実態を反映した新たな現存
率算出法を提案する事により、施設の現状を的確に評価するとともに、施設毎の修繕
コストを適時に算出できるツールの作成を目的とする。
2.官庁施設の現状
国 家 機 関 の 建 築 物 等 に は 合 同 庁 舎・一 般 事 務 庁 舎 等 、様 々 な 施 設 が あ る 。
「保全業務
支援システム」に登録されている北海道内の建築物等は、昨年度で総延べ面積は約2
60万㎡(施設数は約1,500施設)と膨大なストックとなっている。経年別延べ
面積及び経年別施設数のシェアは表-1のとおりである。建設後30年を超過してい
る施設は、延べ面積・施設数で共に40%以上を占めている。また、10年後には、
建設後30年を超過している施設が、延べ面積で60%以上、施設数で70%以上に
なると予想される。
表-1
北海道内の国家機関の建築物等の経年別シェア
( H 17 保 全 業 務 支 援 シ ス テ ム に よ る 統 計 値 )
経年別延べ面積
経年別施設数
41 年 以 上
10 年 以 下
14%
14%
41 年 以 上 10 年 以 下
9%
12%
11 ~ 2 0 年
31~ 40 年
27%
Daijiro
Sen,
11 ~ 2 0 年
面積
約 260 万 ㎡
24%
31~ 40 年
33%
16%
施設数
約 1,500 施 設
21~ 30 年
21~ 30 年
20%
30%
Norihisa
Akaisi
表-2
北 海 道 内 の 国 家 機 関 の 建 築 物 等 の 建 築 年 別 延 べ 面 積 ・ 施 設 数( H 1 7 保 全 業 務 支 援 シ ス テ ム に よ る 統 計 値 )
用途別延べ面積(㎡)
用途別施設数(カ所)
3.新たな現存率算出法の提案
1)提案の目的
既存の現存率は、算定基準に則り、施設の部位毎の部材の劣化具合等を決定し
ているが、部位毎の耐用年数、部分的な修繕後の経過年数等が反映されていると
は言い難い状況にある。そこで、より実態を反映させるため、新たな現存率算出
法を提案することとした。
2)新現存率算定フロー
スタート
・官庁建物実態調査(注2)
・保全実態調査(注3)
施設情報入力
データを活用する。
・耐震診断(注4)
○施設規模
耐用年数は大蔵省令第十五号による
○部位毎の耐用年数
「 一 般 の 減 価 償 却 資 産 の 耐 用 年 数 」を 用 い る 。
・躯 体 (鉄 筋 コンクリート造 )--50 年 (事 務 所 の 場 合 )
・ 屋 根 (シート防 水 )--------20 年
・
・
○部位毎の経過年数
( 修 繕 済 み の も の は 修 繕 後 の 年 数 と す る 。)
・ 躯 体 (鉄 筋 コンクリート造 )--20 年
・ 屋 根 (シート防 水 )---------20 年
・
・
○部位毎の現地調査判定値
・ 躯 体 (鉄 筋 コンクリート造 )--0.90
・ 屋 根 (シート防 水 )---------0.85
・
・
エンド
新現存率が算出される。
3)新現存率の算出式
新現存率=(1-
経過年数
耐用年数
)x 現地調査判定値
4.新現存率を用いた修繕コスト算出表の提案
1)提案の目的
近い将来、膨大なストック(表-1)による修繕費用の増加が予想される。し
かし、修繕予算は年によって大きく変化しないことが予想されるため、修繕に要
する費用をなるべく平準化する必要がある。そこで、将来の修繕・更新等の費用
と実施時期を予測し、優先すべき工事を考慮した中長期保全計画の立案が不可欠
であるため、修繕コスト算出表を提案することとした。
2)修繕コスト算出表及び抽出フロー
3 )「 修 繕 コ ス ト 」 算 出 式 及 び 「 修 繕 時 期 」 の 設 定
修繕コスト
凡例
=AxBx(1-C)xDxExF
A : 建 設 時 の 建 設 コ ス ト ( 円 /㎡ )
=延べ面積x建設時コスト
修繕時期(算出年)
B:工事項目毎の工事費比率(%)
C:過去の修繕範囲(全体に占める割合)
1
新現存率:0 ~
新現存率:
新現存率:
1
3
2
3
~
~
3
2
3
1
→
5年以内
D:撤去工事加算率
E : イ ン フ レ 率 ( 当 面 は 1.0)
→ 10年以内
F:今回修繕計画範囲(全体に占める割合)
→ 10年を超える
5.まとめ
本研究で作成したツールを利用することで、より実態を反映した施設の現状評価と
将来必要となる修繕費用等の予測が行える。そこで、以下のような状況に役立てるこ
とが出来るものと期待する。
○予算要求時
各官署、各施設で将来必要となる修繕費用があらかじめ予測出来るため、修繕工事
の要求が中長期の施設整備計画に照らして、妥当なものかどうか判断することができ
る。
○施設管理者への保全指導時等
施設管理者へ、適切な保全指導の説明に活用出来る。説明にあたっては、新現存率
をレーダーチャート化したデータ(表-3)等を用いる。
表-3
新現存率レーダーチャート
K:新現存率を示す。
6.今後の課題
新 現 存 率 、修 繕 コ ス ト 算 出 表 に 用 い た 補 正 係 数 等 の 検 証・精 度 の 向 上 が 必 要 で あ る 。
建物実態調査の現地調査判定値は現地調査者の見解であるため、どうしても個人差が
生じる。今後は試行検証を繰り返しデータの蓄積を行い、汎用化を図るとともに、よ
り 客 観 的 に 評 価 す る こ と が 必 要 で あ る 。ま た 、今 回 の 研 究 で 活 用 を 考 慮 し て い な い「 グ
リ ー ン 診 断 」( 注 5 ) 及 び 「 S I B C 」( 注 6 ) デ ー タ を ツ ー ル 構 成 に 加 え れ ば 、 更 に
ツールの精度向上に繋がるものと思われる。
最後に、本研究にあたり、ご協力頂いた方々に深く感謝致します。
【参考文献】
1 )「 国 家 機 関 の 建 築 物 等 の 保 全 の 現 況 ( H 1 8 )」( 保 全 指 導 ・ 監 督 室
保全調査係)
2 )「 減 価 償 却 資 産 の 耐 用 年 数 表 と そ の 使 い 方 」( 日 本 法 令 )
【語句の説明】
注1)現存率算出法
建築物の新築時に対する老朽度の度合を示す現存率を算出する方法。
注2)官庁建物実態調査
「 官 公 庁 施 設 の 建 設 等 に 関 す る 法 律 」第 9 条 に 基 づ き 、官 公 庁 建 物 の 実 態 を 把 握 し 、予 算 措 置 の
要 否 及 び そ の 優 先 順 位 を 判 定 す る と 同 時 に 、長 期 営 繕 計 画 立 案 の 基 礎 資 料 と す る た め 、建 物 の 現 状
の実態調査を行うもので、現存率により評価を行う。
注3)保全実態調査
国 家 機 関 の 建 築 物 等 の 保 全 の 実 態 を 踏 ま え 、問 題 点 を 把 握 し 適 正 な 保 全 に 反 映 さ せ る 事 を 目 的 に 、
全 て の 国 家 機 関 の 建 築 物 等 を 対 象 に 「 保 全 に 関 す る 取 組 状 況 の 記 録 」、
「 施 設 全 般 の 保 全 状 況 」等 に
ついて調査・分析を行う。
注4)耐震診断
「 建 築 物 の 耐 震 改 修 の 促 進 に 関 す る 法 律 」 に 基 づ き 、地 震 に よ る 建 築 物 の 倒 壊 等 の 被 害 か ら 国 民
の 生 命 、身 体 及 び 財 産 を 保 護 す る た め 、一 定 の 規 模 以 上 の 建 築 物 の 所 有 者 が 、当 該 建 築 物 に つ い て 、
安全かどうかを調べること。
注5)グリーン診断
「 環 境 基 本 法 」の 理 念 に 則 り 、あ る 施 設 の 改 修 計 画 か ら 改 修 工 事 、運 用 、廃 棄 に 至 る ま で の ラ イ
フ サ イ ク ル を 通 じ 、環 境 負 荷 を 低 減 さ せ る 計 画 を 立 案 す る た め に 必 要 と さ れ る 環 境 保 全 性 に 関 す る
性 能 を 把 握 す る こ と を 目 的 と し て 行 う も の で 、設 計 図 書 、施 設 の 運 用 管 理 に 関 す る 記 録 等 の 調 査 を
実施する。
注6)SIBC
建 築 コ ス ト 情 報 シ ス テ ム( S e a r c h i n g s y s t e m f o r I n d e x o f B u i l d i n g C o s t )の 略 名 。国 土 交 通 省 ・
都 道 府 県・政 令 指 定 都 市 に よ り 提 供 さ れ た 建 築 コ ス ト 情 報 を 共 有 デ ー タ ベ ー ス と す る 公 共 施 設 建 設
事例のデータバンク。