「建築および都市の防災性向上に関する提言」 (第三次 - 日本建築学会

「建築および都市の防災性向上に関する提言」
(第三次提言)
の検証
2006 年 1 月 16 日
目
次
1.日本建築学会での地震防災研究10年の歩み
---------------------------------------(1)
2.
「建築および都市の防災性向上に関する提言」
(第三次提言)項目 -------------(3)
3.
「建築および都市の防災性向上に関する提言」
(第三次提言)の検証 ----------(10)
4.第三次提言の検証----------------------------------------------------------------------------- (11)
5.
「地震防災総合研究」第Ⅰ期−第Ⅲ期
活動報告〔参考資料〕 ------------------(17)
日本建築学会での地震防災研究 10 年の歩み
西川孝夫(首都大学東京)
日本建築学会(以下本会)の重要な課題のひとつに、安全で災害に強い建築・都市づく
りに関する研究がある。なかでも地震防災に関する調査研究については、本会の各専門委
員会組織の中でさまざまな活動を展開し、それに基づく技術的指針の提案と普及、あるい
は制度的対応についての行政や社会に対する提言等を行ってきた。またこの成果は、本会
独自の技術規準・指針に盛り込まれるだけでなく、建築分野の多くの基準の基礎として使
われ、わが国の建築・都市の防災性・安全性を高い水準に引き上げてきた。しかしながら、
1995 年 1 月に発生した兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)は、わが国における戦後最大
の震災となり、安心して住み続けられる建築・都市づくりの一翼を担ってきたと自負して
いた本会への衝撃は、きわめて大きなものであった。
本会の専門家集団はこの惨事を厳粛に受けとめ、地震発生直後から学術的調査・分析・
研究を開始し、復旧・復興支援活動に取り組んだ。また災害発生と同時に、「建築および都
市に関する広範囲の分野の研究者、技術者等により構成されている本会において、学際的・
横断的見地よりこれらの問題に取り組むべきである」との認識のもと、同年 1 月に「兵庫
県南部地震特別研究委員会を設置した。
緊急に取り組むべき特定研究 7 課題を以下のごとく選定し、
(1)強震記録と設計用地震動との関係
(2)耐震設計に要求される安全のレベル
(3)既存不適格建物の改善方策
(4)木造密集市街地の防災まちづくり方策
(5)災害時の対応行動と避難に関する計画のあり方
(6)復旧・復興計画のあり方
(7)歴史・文化・景観の保全と再生のあり方
1998 年 1 月には、74 項目にわたる「建築および都市の防災性向上に関する提言」(第三
次提言)を公表した。
この提言のまえがきでは、「地震対策は,国あるいは自治体の行政レベルの施策として取
り上げられなければ実効が伴わないことが多い。しかしながら,行政がどのような施策を
どの程度実行するかに際して最も重要な要素は国民、住民の防災に関する意識である。ま
た、行政が施策決定、あるいは実行する際にも必要なソフトを含めた防災技術・方法なら
びに理論的裏付けを用意しておく責務を有しているのは、本会も含めた防災に関する専門
家集団である。」と本会の果たすべき役割が表明されている。
さらに、1998 年 4 月に「地震防災総合研究特別研究委員会(第Ⅱ期)を設置し、第Ⅰ期
特別研究委員会が提起した以下の 4 つの重要課題を、継続的に取り組むべき横断的研究課
-1-
題であると定め、それぞれ小委員会を設置して研究を進めた。
(1)活断層等の地震情報を実際の防災計画に取り入れる研究
(2)総合的な耐震性能の評価法(性能表示型耐震設計法)の研究
(3)都市構造の防災化と生活復旧・復興システムの研究
(4)防災対策の原資に関する研究
各小委員会はシンポジウムなどを開催(参考資料)し、それまでの研究成果を世に問う
と同時に、委員会外からの意見の集約に努めながら 3 年間の研究を行った。
しかし、これらの研究が、3 年という短期間では必ずしも十分といえる成果を得るところ
までは至らなかったこと、および本会におけるこのような地震防災研究の重要性に鑑み、
2001 年 4 月より新たに第Ⅲ期特別研究委員会を継続することとなった。この第Ⅲ期委員会
では、第Ⅱ期の研究成果を受け、次の 3 つの横断的課題を設定して 3 年間の研究に取り組
んだ。
(1)危険度・耐震安全性評価の総合的な研究(危険度・耐震安全性評価小委員会)
(2)都市防災・復興方策の総合的な研究(都市防災・復興方策検討小委員会)
(3)都市の防災改善推進方策の総合的な研究(防災改善推進方策小委員会)
第Ⅲ期本委員会で進めてきたこの 3 つの課題の研究成果についてもシンポジウム、報告
書の作成などでその成果を公表してきた。
このように本会では阪神・淡路大震災以後、約 10 年間にわたって、都市の防災に関する
総合的研究を行ってきた。しかし、2004 年 3 月をもって一応特別研究を終了することとし
たが、計 10 年間近くに及ぶ特別委員会での研究を整理総括して、更なる研究を開始する動
機付けにしたいと考え、特に 1998 年の提言をもとに、何が実現し、なにが問題点として残
っているかを検証することを試みた。
提言で述べたことの多くが行政に取り入れられ実現しているように見えるが、依然とし
て手つかずで残っている問題もある。さらに提言では盛り込まれなかった事項も兵庫県南
部地震以降の地震被害の経験から生じている。たとえば昨年末のスマトラ沖地震で大きく
クローズアップされた津波災害に対する対策のありかた、同じく中越地震で問題となった
地盤災害、農村部での防災問題、十勝沖地震での長周期地震動に対する高層建築物などに
対する防災問題などである。
阪神・淡路大震災での教訓をもとに、この 10 年を振り返り、大震災以降の自然災害によ
る教訓をも勘案して、総合的な減災にむけて、行政はなにをなすべきか、研究者・学会は
どのような研究を行うべきか、国民はどう対応すべきか等を広く議論する機会を作ること
は非常に有意義でありかつ必要である。本会の資料がそのためにも有効に活用されること
を望むものである。なお、各期を通じての活動経過は参考資料を参照されたい。さらに、
その過程で発表してきた研究レポート等資料は建築学会の図書室で閲覧可能であることを
付記しておく。
-2-
「建築および都市の防災性向上に関する提言」(第三次提言)の検証
兵庫県南部地震以後に行われた建築学会の第三次提言を検証する。検証に際しては,各
提言の進捗状況や達成状況,学術研究のフォローアップ状況,現段階で提言に欠けていた
視点などについてアンケート調査を実施した。
所見は中項目のA1,A2 ごとあるいは提言ごとに行った。
□「第三次提言」の構造
大項目
建物の耐震
安全性の向
上
中 項 目
提 言
耐震安全レベルを選定するルールの確立…………提言 1∼2
性能表示型耐震設計法の導入と普及−−−−−−提言 3∼4
耐震設計における地震動の設定−−−−−−−−提言 5∼6
総合的な耐震性能を確保するための方策−−−−提言 7∼10
耐震安全性を確保する社会システムの構築−−−提言 11∼13
既存不適格建物の耐震性改善の方策−−−−−−提言 14∼17
歴史的・文化的建物などの保存と再生−−−−−提言 18∼22
耐震メニュー(案)
都市構造の防災化−−−−−−−−−−−−−−提言 23∼26
木造密集市街地の防災まちづくり−−−−−−−提言 27∼31
地震災害に強いコミュニティづくり−−−−−−提言 32∼34
防災性を考慮した歴史的町並みの保存−−−−−提言 35∼36
地震災害情報システムの確立−−−−−−−−−提言 37∼39
地震災害時の緊急対応と避難システム−−−−−提言 40∼42
被災者居住支援システムの体系化−−−−−−−提言 43∼48
都市の復興システム−−−−−−−−−−−−−提言 49∼53
A1
A2
A3
A4
A
A5
A6
A7
付.
地震に強い B1
都市・まち B2
B づくりの推 B3
進
B4
B5
地震災害時 C1
の対応及び C2
C 被災者の生 C3
活復旧・被
災地の復興
地震災害の D1 耐震安全性向上のための基礎的研究の促進−−−提言 54∼60
防止・軽減 D2 耐震診断・改修に関する技術開発−−−−−−−提言 61∼63
に関する研 D3 リアルタイム防災システム技術の開発−−−−−提言 64∼67
D
究・技術開 D4 防災まちづくり・都市の復興に関する研究開発−提言 68∼71
発の推進
D5 防災対策にかかわる財源と税制のあり方に関する研究
提言 72∼74
「建築および都市の防災性向上に関する提言」74 の提言を内容に応じて 4 大項目、20 中項
目に分類した構成(第三次提言参照)
1.大項目A:建物の耐震安全性の向上に含まれる提言のほとんどは行政および専門家集
団を対象としたものであるが、提言 1、2 などについては市民の協力なしに
は実現できない項目である。
2.大項目B:地震に強い都市・まちづくりの推進のほとんどは行政に向けた提言である
が、提言 26、30、35、あるいは 36 については、専門家集団、および市民と
の関連が深い。
3.大項目C:地震災害時の対応および被災者の生活復旧、被災地の復興は主として行政
の今後の施策についての提言。
4.大項目D:地震災害の防止・軽減に関する研究・技術開発の推進は今後推進すべき研
究・開発課題を示したもので専門家集団および財政支援と研究・開発の成
果の活用・普及の観点から行政を対象とした提言。
- 10 -
「建築および都市の防災性向上に関する提言」(第三次提言)項目
A
A 1
建物の耐震安全性の向上
耐震安全レベルを選定するルールの確立
【提言】
提言 1
建築主と設計者との共通の認識に基づいて耐震安全レベルを選定するルールを
確立すべきである。
提言 2
耐震安全レベルの選定には、公共性の視点に基づいた配慮がなされるべきであ
る。
A 2
性能表示型耐震設計法の導入と普及
【提言】
提言 3
総合的な耐震性能を明らかにした設計法を早急に導入・普及すべきである。
提言 4
適切な安全レベルを選定するために、安全のレベルをわかりやすく示した「耐震
メニュ−」の創設を提案する。
A 3
耐震設計における地震動の設定
【提言】
提言 5
震源の特性などを取り入れた設計用地震動の設定が必要である。
提言 6
地震活動度を明示出来る客観的指標を設定する必要がある。
提言 7
強震観測体制の強化によるデータの充実と公開を推進すべきである。
A 4
総合的な耐震性能を確保するための方策
【提言】
提言 8
地盤ー基礎ー構造物を一体とした耐震性能を評価した設計を行う必要がある。
提言 9
二次部材および家具等の耐震性能を評価した設計を行う必要がある。
提言 10
設備機器の耐震性能を評価した設計を行う必要がある。
-3-
A 5
耐震安全性を確保する社会システムの構築
【提言】
提言 11
関係者間の役割分担と責任の明確化を図り、設計の審査および工事監理・施工管
理・品質管理を徹底する必要がある。
提言 12
耐震性能の表示制度を創設し、耐震安全性が社会的に評価されるシステムを形成
する必要がある。
提言 13
高耐震性建築ストック形成の誘導策を推進する必要がある。
A 6
既存不適格建物の耐震性改善の方策
【提言】
提言 14 耐震改修を促進するため、優先する建物とその改修水準を特定し、一層の公共的
支援を推進すべきである。
提言 15 耐震安全性の現況把握と情報公開を法により義務づけるべきである。
提言 16 既存建築物改善を進めるための社会機構を整備すべきである。
提言 17 耐震改修促進法の多様な運用による実質的改善の推進とそのための行政体制の整
備を推進すべきである。
A 7
歴史的・文化的建物などの保存と再生
【提言】
提言 18 歴史的・文化的建物の被災状況を調査し、応急対策を提示できる緊急対応型専門
家ネットワークを確立すべきである。
提言 19 被災時の調査台帳となる地域別歴史的建物全国リストを作成すべきである。
提言 20 被災した歴史的建物に対する応急危険度判定マニュアルと緊急対応技術を開発普
及すべきである。
提言 21 歴史的建物の特性に応じた構造補強法を開発するとともに、その技術を広く公開
すべきである。
提言 22 歴史的建物の創造的保存を担う建築医を育成するとともに、地域文化財に対して
積極的な支援をすべきである。
-4-
B
地震に強い都市・まちづくりの推進
B 1
都市構造の防災化
【提言】
提言 23
自然地形・地盤などを考慮し市街地と都市骨格を整備すべきである。
提言 24
都市空間を分節化して、広域避難施設を確保することが必要である。
提言 25
緊急対応拠点施設は、施設の自立的な防災機能を確保するとともに適切に配置すべ
きである。
提言 26
水とみどりを基軸とした防災基盤施設を体系的に整備すべきである。
B 2
木造密集市街地の防災まちづくり
【提言】
提言 27
地域特性に応じた木造密集市街地総合改善プログラムを策定すべきである。
提言 28 多様な建築規制を柔軟に運用し、建替えを促進する仕組みが必要である。
提言 29 木造建物の改善には街区レベルでの総合支援制度を創設する必要がある。
提言 30 木造建物の密集した防災生活圏内部でのまちづくりには目標の明確化が必要であ
る。
提言 31
B 3
地区計画制度による最小限敷地の規制を徹底し、木造密集市街地の再生産を防止
べきである。
地震災害に強いコミュニティづくり
【提言】
提言 32 まちづくり推進組織を条例等で位置づけることが重要である。
提言 33 非営利のまちづくり中間セクターを位置づける立法化を推進し、支援を強化すべ
きである。
提言 34 地区内防災街路を整備して地区防災拠点施設をネットワーク化し、施設の自主運
営の仕組みを確立することが重要である。
-5-
B 4 防災性を考慮した歴史的町並みの保存
【提言】
提言 35
歴史的町並みにふさわしい地域防災施設を整備し、地域防災計画を推進すべきで
ある。
提言 36
地域防災組織の活性化を支援すべきである。
B 5
地震災害情報システムの確立
【提言】
提言 37 地震災害情報ネットワークの整備が必要である。
提言 38 公開と共有の原則に基づいて情報システムを運用すべきである。
提言 39 建物・都市情報データベースを体系的に整備すべきである。
C 地震災害時の対応および被災者の生活復旧・被災地の復興
C 1
地震災害時の緊急対応と避難システム
【提言】
提言 40 大都市居住者の命を守る広域避難システムを構築すべきである。
提言 41 オープンスペースを系統的に活用するシステムを構築すべきである。
提言 42 都市と農山漁村の連携を促進し、被災者長期避難システムを構築しておくべきで
ある。
C 2 被災者居住支援システムの体系化
【提言】
提言 43 被災者居住支援対策を体系的に運用するために、包括的な施策(パッケージ)と
して公開すべきである。
提言 44 被災住宅を暫定補修し、活用するプログラムを構築すべきである。
提言 45 瓦礫処理クレジットの制度を確立し、住宅再建と連携した整理の仕組みを構築す
-6-
べきである。
提言 46 復興まちづくりを推進するための応急仮設住宅制度を創設すべきである。
提言 47 被災者住宅クレジットの制度を創設し多様な住宅支援を促進すべきである。
提言 48 応急仮設住宅の環境水準・性能を確保し、柔軟に運用する制度を創設すべきであ
る。
C 3
都市の復興システム
【提言】
提言 49 地震被害の詳細分析とともに、復興市街地に対するアセスメントを実施すべきで
ある。
提言 50
応急 から 恒久
べきである。
までを視野に入れた総合的な住宅復興プログラムを推進す
提言 51 住商工混在地域における新たな復興手法の開発が必要である。
提言 52 なれ親しんだ日常景観を再生させ、連続性をもって生活を再建すべきである。
提言 53 都市復興シナリオを事前に構築し、公開すべきである。
D 地震災害の防止・軽減に関する研究・技術開発の推進
D 1
耐震安全性向上のための基礎的研究の促進
【提言】
提言 54 活断層情報を地震対策に取り入れるための工学的研究が必要である。
提言 55 震源特性、地形および地盤の動特性を考慮した地震動の予測・評価法を確立する
必要がある。
提言 56 地盤−基礎−構造物の動的相互作用解明のための研究推進が必要である。
提言 57 基礎の地震時における挙動の解明と基礎の耐震設計法を向上させる必要がある。
提言 58 信頼性の高い高精度の地震応答解析手法を開発する必要がある。
提言 59 建築主と設計者との共通認識を形成するための総合的な性能表示型耐震設計法の
枠組みを構築する必要がある。
-7-
提言 60 二次部材・設備機器の地震応答の評価手法を開発する必要がある。
D 2
耐震診断・改修に関する技術開発
【提言】
提言 61 耐震診断の対象範囲の拡大と精度の向上のための手法開発を行うとともに耐震改
修のための技術開発を推進する必要がある。
提言 62 震災直後の罹災証明のための技術基準を定めておく必要がある。
提言 63 文化財建造物にふさわしい構造補強技術の研究開発を推進すべきである。
D 3
リアルタイム防災システム技術の研究開発
【提言】
提言 64 リアルタイム被害推定システムを一元化し、汎用できるものとして構築すべきで
ある。
提言 65 地域間の被害情報の共有化を目指し、被害情報ネットワーク・システムを構築す
べきである。
提言 66 防災GISのためのデータ整備と運用技術の開発が急がれる。
提言 67 リモートセンシング・データを防災活用するための技術開発が必要である。
D 4 防災まちづくり・都市の復興に関する研究開発
【提言】
提言 68 防災まちづくりにおける住民合意形成の手法やまちの安全性目標の評価手法を開
発すべきである。
提言 69 地震災害に強い都市づくりの事業効果に関する評価手法を開発すべきである。
提言 70 都市復興シナリオを事前に策定する技術を開発することが必要である。
提言 71 防災まちづくり・復興まちづくりを支援する専門家の育成が必要である。
-8-
D 5
防災対策にかかわる財源と税制のあり方に関する研究
【提言】
提言 72 住宅などの私的資本の防災強化に対する公的助成・支援のあり方を検討すべきで
ある。
提言 73 建替えなどの安全性強化に伴う固定資産税と都市計画税のあり方を再検討すべき
である。
提言 74 地震対策を実施する際の住民負担のあり方を検討すべきである。
-9-
第三次提言の検証
大項目
中項目
A 建物の
耐震安
全性の
向上
A1 耐震
安全レベ
ルを選定
するルー
ルの確立
実現できたこと
今後の検討課題
性能設計の実現に向けて施策(例示)
(1)建築審議会「性能規定化」を答申(1997)
・規制緩和による選択の自由の拡大 ⇒建築基準の性能規定化
・建築基準における国際調和の推進 ⇒性能評価法の国際的整合性ほか
・阪神・淡路大震災の教訓を踏まえた安全性の確保 ⇒工事完了検査、中間検査の徹底ほか
・民間組織の活用による行政の効率化 ⇒民間による建築確認・検査の推進
(2)建設省総合開発プロジェクト「新構造体系の開発」発足(1995−1998)
・目標性能 安全性、修復性、機能性 性能評価法 社会システム
(3)建設省、建築基準法改正に着手(1996)
・建築基準法改正(1998)
・建築基準法一部施行(1999)
・建築基準法施行令制定(2000)
・耐震メニューの検討(提案といった一部の条件整備について、学会及びその他民間においてな
されたが、社会的なルールとなるまでには至っていない。
・社会的合意、公共性に関して理解を得るまで途遠し、十分には達成されていない。
・集合住宅に免震構造が採用されるなど耐震性向上の動きは見られるが、公共性の視点に立っ
た配慮などの点に関しては、安全のレベルを選定するルールが確立した状況とは言い難い。
・地震荷重の不確実性について、建築学会の「建築物荷重規準・同解説 2004」で取りあげられ
たが、設計への取り込み方は十分ではない。
A2 性能 ・「耐震メニュー2004」の提案(建築学会)
表示型耐
震設計法
の導入と
普及
・「耐震メニュー」の提案では,「総合的な耐震性能を確保するための設計法の導入・普及」にま
では至っていない。
・「耐震メニュー」は建物を新築する際の建築主と設計者のコミュニケーション・ツールとして提案
されたもので、同様の考え方に基づく、耐震補強のための「耐震メニュー」の構築が必要。
・耐震メニュー」は、非構造部材・設備機器等の耐震性も考慮した総合的な耐震性能の確保をめ
ざしているが、具体的な設計法に関しては今後の研究が必要である。
A3 耐震
設計にお
ける地震
動の設定
・k−netの充実により地盤上等における強震観測は充実してきたが,建物における強震観測と
その公開体制は不十分である.
・各種の地震動予測情報が公表されつつあり、前記「耐震メニュー」で地震活動度を明示した指
標を組み込むことが検討されているが、今後の研究継続が必要である。
・限界耐力計算法の地震力の水平力設定のためのマイクロゾーニングによるスペクトラム提示な
どきめ細かい設計用地震動の設定方法の提言がなされていない。推本の結果や内閣府の強震
動予測の結果をどのように取り込むかが今後の課題である。
・地震発生確率、強震動予測など文部科学省、内閣府などで研究と検討が進んでいる。
・「震源の特性などを取り入れた設計用地震動の設定」については、兵庫県南部地震以前から学会でも取り上げられ
ており,兵庫県南部地震以降にあっては,強震動予測地図プロジェクトなどの各種プロジェクトが推進力となり,重要
構造物にとっては一般的なものになっている。
・地震調査推進本部により「地震活動度の客観的指標」発表。
・防災科学技術研究所のk−netやKIK−Netが全国を網羅しており,その利用度も高く,充実した観測網が完備しつ
つある。
A4 総合 ・地盤-建物一体として考える耐震設計法が建築基準法に取り入れられた。
的な耐震
性能を確
保するた
めの方策
・二次部材の耐震設計、設備機器の耐震設計については,個別に対応されることが多く、体系化
に至っておらず今後の検討が望まれる。
・二次部材等に対する耐震設計は技術レベルとしては整っているので,今後建設される建物に
対しては、徐々に適用されていくものと思われる。しかしそれら技術の既存の建物への適用は早
急に検討すべきである。
A5 耐震 ・住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)施行された。
安全性を (平成11年6月23日公布、平成12年4月1日施行、平成12年5月31日改正)
確保する 1) 瑕疵担保責任の特例
社会シス
2)住宅性能表示制度の創設
テムの構
3)住宅に係わる紛争処理体制の整備
築
指定住宅紛争処理機関 (47単位弁護士会)
住宅紛争処理支援センター((財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター)
・建築基準法の改正により、第三者検査機関の設立や中間検査の制度が創設された。
・品確法の耐震等級の表示制度や地震保険での耐震等級に基づく保険料の割引制度などが導入された。
- 11 -
A6 既存
不適格建
物の耐震
性改善の
方策
(1)耐震診断・耐震補強に関する動きが活発化した(1995年)
• 阪神・淡路大震災 (1月)
• 耐震改修促進住宅局長通達 (3月)
• 日本建築学会学校建築委員会報告 (3月)
• 既存建築物耐震診断・耐震改修等推進
全国ネットワーク委員会
(4月)
• 日本建築学会提言(耐震改修の促進) (7月)
• 地震防災対策特別措置法
(6月)
• 地震防災緊急事業5ヵ年計画ー文部省告示(7月)
• 防災基本計画改定
(7月)
• 建築物の耐震改修促進法施行
(12月)
(2)建築物の耐震改修の促進に関する法律
• 公布:1995.10
• 施行:1995.12
• 目的:耐震改修による耐震性の向上
• 対象:特定建築物
(多数の者が利用する一定の用途・規模の建築物)
• 特定建築物の所有者:耐震診断・改修の努力義務
• 所管行政庁:指導、助言、指示、計画の認定等
• 建設大臣:指針の策定、公表JBDPAに基づく
建築物の耐震改修の促進に関する法律(2)
• 特定建築物
用途:学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、
百貨店、事務所その他多数が利用するもの
規模:階数3以上、床面積1,000m2以上(持主:努力義務)
床面積2,000m2以上 (行政:指導、助言、指示)
• 計画の認定建築物についての特例
建築基準法 : 既存不適格建物の制限の緩和
耐火建築物に係わる制限の緩和
建築確認の手続きの簡素化
住宅金融公庫: 低利資金貸付の特例
(3)住宅の耐震改修に対する支援措置の創設(国土交通省 2002)
(4)木造住宅の耐震化への自治体の取り組みが行われた。
(5)耐震診断・耐震改修に関する動きが活発化した。
1)文部科学省
「学校施設の耐震化推進に関する調査研究協力者会議」報告書(平成15年4月)
「防災分野の研究開発に関する委員会報告」
2)内閣府中央防災会議 「東海地震対策専門調査会報告」、
「東海地震対策大綱」(平成15年5月)に、住宅、建物の耐震化が取り上げられた。
1.「建築物の耐震改修の促進に関する法律」制定による自治体の活動
1995年第1次提言とほぼ同時に「建築物の耐震改修の促進に関する法律」が制定され、
各地方自治体でも、次ページに示すように、既存建築物の耐震診断および改修が進められるようになった。
2.既存不適格改修促進を目指した基準法改正
平成16年(2004)6月2日 法律第67号の「建築物の安全性および市街地の防災機能の確保等を
図るための建築基準法の一部を改正する法律」により、既存不適格建築物に関する下記のような改善促進策が
盛り込まれた。
・建築物の提起報告検査制度の充実、強化
・著しく保安上危険な既存不適格建築物に対する勧告・是正命令制度の創設
・既存不適格建築物に関する規制の合理化(増改築などに伴う遡及工事の段階的実施を可能にした)
A7 歴史
的・文化
的建物な
どの保存
と再生
・「重要文化財(建造物)耐震診断指針」(文化庁 平成13年)が作成された。
・登録文化財制度(1996) 制定
・建築学会に建築歴史・意匠小委員会直属の「文化財建造物総目録作成WG」を1997年に発足。その後、2002年
から「歴史的建築リスト整備活用小委員会」として活動「歴史的建築総目録データベース」作成・インターネット公開。
・上記一連の活動は、建築学会各支部,建築家協会・建築士会の各支部、さらに歴史的建物に興味をもつ市民団体
の協力が得られ,「緊急対応型専門家ネットワーク」として緊急時に有効に機能する。
- 12 -
・市民の居住に対する意識やライフスタイル等を考慮し、「耐震改修」だけに限らずリフォームや
建て替え、住み替えなど市民のライフサイクルに即した多様な住宅耐震化支援策のメニューを用
意することが必要。
・法、社会制度等は整ってきているが、現実的、特に経済的な面が障害となって、実効をあげると
ころにまでは至っていない。
・公的な施策の動きは見られるものの、実効は得られていない。なお強力に推進すべきである。
・耐震改修のための優先順位等を決め改修を促進することについては、地方公共団体が学校、
庁舎等の公共建築物の耐震化を進めているが、その促進については地域によって格差がある。
・情報公開については公共建築物については行なわれているところもあるが、民間建築物につ
いてはプライバシー保護の問題もあり行なわれていない。
・各自治体で診断費用を補助、さらには改修費用の一部を補助する仕組みまで整ってきたが,そ
の普及はあまり進んでいない。
横浜市の事例を挙げる。
①木造住宅診断士派遣事業(1981年以前の住宅を対象とする無料耐震診断)
②木造住宅耐震改修促進事業(「倒壊危険」住宅の耐震改修工事費用の一部を助成、最高54
0万円)
③木造住宅耐震改良工事資金融資制度(「やや危険、危険」住宅の改修工事の一部を融資、最
高400万円)
診断にあっては1995年から2001年9月までに約9000件の実績、木造住宅改修促進事業で
は1999年の開始以後、2001年9月までに166件の申請に止まっている。
付. 耐震
メニュー
(案)
B 地震に B1 都市 ・都市構造防災化事業など、総合的な取り組みが事業制度化され、大都市を中心に計画策定。
強い都 構造の防 ・「基幹的広域防災拠点」や「臨海防災拠点」の整備,防災拠点ネットワークの形成。
市・まち 災化
・防災公園街区整備事業や防災緑地緊急整備事業など防災公園の整備。
づくりの
・東京都では震災以降「防災都市づくり推進計画」策定
推進
・技術的な知見は、蓄積されてきたが現実の整備は遅れている。
・景観法に基づく新しい都市景観づくりと連動した「水と緑」による市街地の分節化は、21世紀の
都市構造の防災化が課題。
B2 木造
密集市街
地の防災
まちづくり
・自治体の財政悪化から、助金に対する自治体負担分が十分に確保できないことや、地域の関
1)密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律(密集法)施行。
係権利者にとっても経済の後退から投資意欲が低下したこともあり、事業は決して促進されてい
(公布H9.5.9、施行H9.11.8)
防災上危険な密集市街地について、防災機能の確保と、土地の合理的、健全な利用を図るため、都市計画に防災 ない。
再開発促進地区を定め、下記の措置を講じる
1. 耐火性能の高い建築物への建替えの促進
2. 延焼等のおそれのある危険な建築物の除却
3. 防災街区整備地区計画制度の創設
4. 土地に関する権利の移転等の促進
5. 建築基準法の接道の特例
6. 防災街区整備組合制度の創設
・東京都では『防災都市づくり推進計画<整備計画>』および『木造住宅密集整備プログラム』
(いずれも数値目標をもつ)策定
・建設省の「防災まちづくり総合技術開発プログラム」が発足,「総プロ」により、GISを使った即地的で
より精緻な災害シミュレーションの手法が開発
・東京都では、「防災街区整備地区計画」プログラム策定
・東京都では,建築安全条例(平成15年3月改正)で「新防火地域」を定め、災害時に危険性の高い準防火地域等の
建築物は、すべて防火性能の高い「準耐火」以上の性能とする施策を導入
・密集市街地法や防災街区整備事業など、木造密集市街地の改善を目論んだメニューの整備
・東京都区部で、条例や地区計画により最小限敷地の基準を規定し、狭小宅地発生の防止に取り組む自治体が増え
ている。(基準値はおおむね50∼60m2の範囲)
B3 地震
災害に強
いコミュニ
ティづくり
・地方の行政組織での取り組みが行われるようになった。
・特定非営利活動促進法(平成10年3月)が制定
・災害ボランティアやまちづくりNPOなど新しいコミュニティづくりの担い手も登場し、社会の仕組みの中で市民権を得
る。
・まちづくり中間セクターを制度的に位置づける自治体や、活動組織のネットワーク化(たとえば都市計画家協会、横
浜まちづくりネットワーク)
・伝統的な防災技術の見直しや技術開発
・伝統的建造物群保存地区では自主防災活動の推進や防災計画の策定
・歴史的町並み保存のための都市計画道路等の見直し、景観法の制定
・重要伝統的建造物群保存地区である高山市上三之町での火災においては、地域防災設備が有効に機能し大火に
ならずに済んだ。世界遺産に選定された白川村荻町では、放水銃の一斉放水が、イベントとして注目されている。
・重要伝統的建造物群保存地区における、地域防災施設の整備は順調に進み、白川村荻町などにおいては、景観と
なじみのよい放水銃カバーのデザインなども開発。
B4 防災
性を考慮
した歴史
的町並み
の保存
B5 地震
災害情報
システム
の確立
・内閣府による「地震被害想定支援システム(DIS)」、「地震被害早期評価システム(EES)」の情報システムが開発、
公開され、自治体が活用。
・(独)消防研究所における「簡易型被害想定システム」を含む消防活動を支援する情報システムの開発でも、公開さ
れ、一般の活用可能。
- 13 -
C 地震災
害時の
対応及
び被災
者の生
活復旧・
被災地
の復興
C1 地震
災害時の
緊急対応
と避難シ
ステム
・対応行動マニュアルの作成、発災対応型訓練、図上訓練やDIGなど新しい手法による災害対策本部訓練の実施。
・コンピューターによる緊急対応支援ツールの開発,訓練ツールの活用。
・地域組織と行政(災害対策・消防・警察などの部局)とが連携して、発災対応型訓練や、夜間避難訓練、泊まり込み
型避難所訓練など訓練としての創意工夫。
・「オープン−スペースを系統的に活用するシステム」の先進的な取り組み。
・都市−農山漁村の連携による「長期避難システム」の構築
・地方の行政組織により十分理解され、しかるべく計画もされているが、現実の達成度合いという
ことになると、十分なレベルには達していない。
・早期予測システムによる緊急対策の必要性。
・大都市地域での広域避難システムは、東京都をはじめ大都市では避難場所・避難道路の指定
による広域避難計画が策定されているが、全域的な広域避難訓練は未だ行われたことはなく、
広域避難を計画通りに実践できる保証はない。実際の広域避難マニュアルとその実践的システ
ムの構築は残された課題。
C2 被災
者居住支
援システ
ムの体系
化
・「被災者生活再建支援法」平成16年に改正・拡充
・被災者が生活・住宅・仕事を再建していく上で「連続的」かつ「複線的」に復旧復興を果たしていくための「居住支援施
策のパッケージ化」
・東京都における「生活復興マニュアル」(1998∼2003、現「震災復興マニュアル施策編」)
・東京都都市震災復興マニュアル(2003)の制度的提案と政策化
・「被災市街地復興特別措置法」公布
・東京都では「事前復興計画」取り組み、復興都市計画の進め方をマニュアル化した「都市復興マニュアル(1997)」、
復興体制の事前準備と生活・住宅・雇用(経済)に対する現況復興対策をパッケージ化した「生活復興マニュアル
(1998)」、都市復興で目指すべき都市像を描いた「震災復興グランドデザイン(2000)」を策定(震災復興検討会議の事
前設置など、事前復興への取り組み)
・東京都「震災復興マニュアル・プロセス編/施策編(2003)」を策定
・東京都における「時限的市街地(仮設市街地)」地域に仮設を積極的に建設してそこから街の復興を再開発していく
プロセスでの新しい制度提示。
・静岡県住宅復興計画「ふじの国住宅復興プラン」を策定
・地方の行政組織には十分理解されているが、積極的なシステム構築には至っていない。
・住宅再建への支援の充実については、全国知事会や国会議員からの「共済制度」の提案など
多くの議論。
結果的に「被災者生活再建支援法」が1998年に制定されたが,その後、鳥取県西部地震や高知
水害などに適用され、2004年に改正・拡充されたが、罹災証明に連動する被害調査に始まる手
続きは極めて煩雑で、「住宅再建への支援」は行わないこととともに改善すべき課題は多い。
・東京都時限市街地のための「時限的都市計画決定」などの新しい制度の提案を政府に対して
行っているが、事前復興計画に関する法制度的な整備は進んでいない。
C3 都市
の復興シ
ステム
D 地震災
害の防
止・軽減
に関する
研究・技
術開発
の推進
D1 耐震
安全性向
上のため
の基礎的
研究の促
進
・活断層の評価が地震調査研究推進本部で開始。
・地震災害の防止・軽減に関する研究・技術開発の推進に関する提案
・防災対策の戦略の構築(リスクマネジメント等)
・リアルタイム地震情報伝達システムの開発
・ 建築学会の巨大地震関連の特別委員会におけブロードバンド地震動の作成
・科学振興調整費によるプロジェクト研究
・文部科学省の「大都市大震災被害軽減化特別プロジェクト」
・防災科研による三次元大型震動台の開発(E-デイフェンス)
D2 耐震 ・静岡県耐震補強のための技術開発,技術コンペなどの実施。
診断・改 ・被災者生活再建支援法によって新たな「罹災証明」の認定制度が示された。
修に関す ・耐震補強技術の推進方策については、大都市大震災被害軽減特別プロジェクトにおいて開発が進んでいる。
る技術開
発
・復旧復興過程において「罹災証明」の認定制度が示されたものの、極めて複雑な評価システム
で、簡便化/迅速化に対応していない。
D3 リア ・内閣府のEESやDIS、総務省消防研究所の簡易型想定システム,「リアルタイム防災システム」の実現。
ルタイム ・リモートセンシングデータの防災対策技術,被害状況の把握技術としての活用。
防災シス
テム技術
の開発
・リアルタイム被害推定の重要性の提言、如何に効果的であるかの研究が遅れている。
- 14 -
D4 防災
まちづく
り・都市の
復興に関
する研究
開発
・防災まちづくりにおける住民合意形成手法や街の安全性目標の評価手法の研究開発
・防災まちづくり・防災都市づくりの事業効果の評価手法の試み,延焼シミュレーションによる不燃化効果の測定に加
えて、耐震性向上や街路整備効果など防災まちづくり事業効果をGISで評価する「防災まちづくり支援システム」開
発。
・東京都「震災復興グランドデザイン(2000)」事例。
・「阪神大震災復興まちづくり支援機構(1996設置)」設置
・「復興まちづくり支援機構」開設(2004年11月)
・建築学会「防災まちづくり読本」や「都市防災システム図集」の刊行及び、まちづくり人材の育成のための教育システ
ムの構築
D5 防災
対策にか
かわる財
源と税制
のあり方
に関する
研究
・被災者救済の手厚い方策の実現。以下例示。
1.住宅再建支援に道を開いた鳥取県西部地震と自治体
○鳥取県
鳥取県西部地震(2000年10月)後に行った住宅復興補助制度は、住宅金融公庫など災害復興住宅融資への利子
補給、鳥取県災害復興住宅建設資金融資、に加えて、被害を受けた住宅の再建、補修、液状化復旧、石垣・擁壁の補
修に最高300万円を県と市町村で援助した。さらに,将来に備え、県と県内の市町村が毎年1億円を積み立て、25年で
50億円を積み立てる被災者住宅再建支援基金制度(補助限度額は住宅再建が300万円、補修は150万円)を2001年6
月に発足。
○新潟県
中越地震後、新潟県は国の支援制度に上乗せ、全壊及び大規模半壊住宅に対して生活支援に100万円、応急修理
に100万円、半壊住宅の生活支援に独自に50万円応急修理に50万円の上乗せをした。
○中野区
居住安定支援制度(2,003年末から検討中)自然災害で全半壊した住宅に対し,瓦礫の撤去や住宅ローンの利子を補
助、200万円まで。(私有財産に公費は使えない財務省見解)なお、阪神大震災では1棟当り、平均250万円の住宅解体
費が公費でまかなわれた。
2.被災者生活支援の充実
災害救助法改正(1953)では、半壊住宅の応急修理を国と県が分担する制度、60万円まで支給であったが、被災者
生活再建支援法(1998)により、全壊は300万円、大規模半壊は100万円までの解体費や生活必需品の購入費が対象
となったが,住宅再建関連は含まれていない。現在この制度をもとに、住宅再建支援制度への拡充に向けての運動が
なされている。
提言72∼
74
・研究としては一定のレベルに達していると思われるが、実施について今後の課題に残されてい
る。
防災対策にかかわる財源と税制のあり方に関する研究の中では
提言 72 住宅などの私的資本の防災強化に対する公的助成・支援のあり方を検討すべきであ
る。
提言 73 建替えなどの安全性教科に伴う固定資産税と都市計画税のあり方を再検討すべきで
ある。
提言 74 地震対策を実施する差異の住民負担のあり方を検討すべきである。
これら3項については、地震防災総合研究特別委員会の防災改善推進方策検討小委員会で研
究を続け、シンポジウムなどでその必要性、また、研究成果を発表してきたが、実効は上がるま
で至つていない。今後の研究課題である。
提言のなかから、学会の委員会として取り組むべきと考えられた研究テーマについては、第2
期、第3期の委員会でWGを設けて検討した結果、一通りの結論が得られている。その他の研究
テーマについても、学会の常置委員会、あるいは個々の研究者により、着実に進められている。
問題は、研究等から得られた知見の現実場面への適用であるが、必ずしも実効が上がっていな
い部分の少なくない。今後の研究と行政等に対する働きかけが必要と考える。
- 15 -
〔参考資料〕
「地震防災総合研究」第Ⅰ期−第Ⅲ期
活動報告
兵庫県南部地震特別研究委員会 (1995 年 1 月∼1998 年 3 月)第Ⅰ期
地震防災総合研究特別研究委員会(1998 年 4 月∼2001 年 3 月)第Ⅱ期
地震防災総合研究特別調査委員会(2001 年 4 月∼2004 年 3 月)第Ⅲ期
本委員会は、兵庫県南部地震を契機に設けられた「兵庫県南部地震特別研究委員会(第期3年間、委員
長:岡田恒男)
」,「地震防災総合研究特別研究委員会(第Ⅱ期3年間、委員長:西川孝夫)」,「地震防災総
合研究特別調査委員会」
(第Ⅲ期3年間,委員長:直井英雄)のⅢ期9年間にわたり地震防災に関する総合
的な研究を検討してきた。
Ⅰ.兵庫県南部地震特別研究委員会<第Ⅰ期>(1995 年 1 月∼1998 年 3 月)
1.課題
・特定研究課題
1) 強震記録と設計用地震動との関係
2) 耐震設計に要求される安全のレベル
3) 既存不適格建物の改善方策
4) 木造密集市街地の防災まちづくり方策
5) 災害時の対応行動と避難に関する計画のあり方
6) 復旧・復興計画のあり方
7) 歴史・文化・景観の保全と再生のあり方
・短期的および中・長期的課題の検討
1) 災害に強い都市づくりの推進
2) 既存不適格建物の耐震対策
3) 耐震性能を明確化した設計法の開発
4) 災害情報システムの確立
5) 地震災害の防止・軽減に関する基礎的研究の振興
2.成果の還元
1) シンポジウム,研究集会等
①市民対象
1)第1回市民シンポジウム
「安心して暮らせる住まいとまち/阪神・淡路大震災から学ぶもの」
(1995 年 10 月 21 日/イイノホール)
(参加者:
365 名)(1995 年 11 月 10 日
NHK 教育 TV「金曜フォーラム」にて放映)
2)第2回市民シンポジウム
- 17 -
「どう実現する安全な住まい−耐震診断・補強のすすめ−」(1997 年 1 月 16 日/イイノホール)(参加者 350 名)
(1997 年 2 月 21 日
NHK 教育 TV「金曜フォーラム」にて放映)
3)市民講座開催(1995 年 11 月 11 日∼11 月 25 日)(平成7年度科学研究費研究公開促進費補助)
「わが家の
耐震対策/阪神・淡路大震災からの教訓」全国10会場(参加者数 1,258 名)講座資料「わが家の地震対
策」刊行(20,000 部作成)
4)第1回公開シンポジウム
「阪神・淡路大震災から1年/建築および都市の防災性向上へ向けて」(1996 年 1 月 26 日∼1 月 27 日/
建築会館ホール・芝浦工業大学・ヤマハホール/3会場参加者 766 名)
5)第2回公開シンポジウム
「阪神・淡路大震災から2年/建築および都市の防災性向上へ向けて」
(1997 年 3 月 15 日/建築会館ホー
ル)(参加者 120 名)
② 専門家対象
1)「建築物の耐震性能はどうあるべきか」(1996 年 5 月 24 日)
2)北海道大会総合研究協議会「阪神・淡路大震災から学ぶもの」(1995 年 8 月 17 日/道新ホール)
3)「建築物の耐震安全のグレードをどう設定するか」(1996 年 7 月 4 日)
4)「復興まちづくりと防災まちづくり」(1996 年 7 月 19 日)
5)「耐震性能を実現するために何をすべき」(1996 年 10 月 25 日)
6)「耐震安全性の制御の可能性」(1997 年 1 月 31 日)
7)「木造密集市街地整備の法制度の問題・課題」(1997 年 2 月 24 日)
8)「防災まちづくりの計画手法と防災性能評価の課題」(1997 年 3 月 21 日)
9)「耐震設計における安全レベルの設定手法」(1997 年 5 月 28 日)
10)「木造密集市街地整備・改善に果たす参加型まちづくりの役割について」(1997 年 5 月 28 日)
11)「避難行動と避難所のあり方」(1997 年 6 月 23 日)
12)「災害対応時に必要な地区の空間・施設のあり方」(1997 年 7 月 7 日)
13)「迅速な復旧とまちの復興につなげる「被災者居住」のあり方」(1997 年 7 月 30 日)
14)近畿大会総合研究協議会「建築および都市の防災性向上に向けて−阪神・淡路大震災での教訓を踏ま
えて」(1996 年 9 月 14 日/滋賀県立大)
15)関東大会総合研究協議会「阪神・淡路大震災から得た教訓と今後の課題−日本建築学会最終提言に向
けて−」(1997 年 9 月 13 日/日大)
16)「災害時の都市と農村の連携」(1997 年 10 月 13 日)
17)「性能明示型耐震設計に向けて」(1997 年 10 月 22 日)
18)「事前都市復興計画のビジョン」(1997 年 10 月 30 日)
19)「歴史的都心・住宅地の耐震安全性の向上」(1997 年 11 月 1 日)
20)「復旧・復興計画策定への支援ツール被災地復興における課題」(1997 年 11 月 21 日)
21)「被災地復興における課題」(1997 年 12 月 4 日)
22)「兵庫県南部地震−強震記録と設計用地震動との関係」(1997 年 12 月 8 日)
- 18 -
2) 出版
1)「安心して暮らせる住まいとまち/阪神・淡路大震災から学ぶもの」
(彰国社)
,
2)「地震に強い家づくりまちづくり」刊行(彰国社)
3) 講座資料「わが家の地震対策」発行(20,000 部)
3) 提言 (後掲)
○第一次提言「建築および都市の防災性向上へ向けての課題」(1995 年 7 月 19 日)
○第二次提言「被災地の復興および都市の防災性向上に関する提言」
(1997 年 1 月 16 日)
○第三次提言「建築および都市の防災性向上に関する提言」(1998 年 1 月 16 日)
Ⅱ.地震防災総合研究特別研究委員会<第Ⅱ期>(1998 年 4 月∼2001 年 3 月)
1.課題
・特定研究課題
1) 活断層等の地震情報を実際の防災計画に取り入れる研究、
2) 総合的な耐震性能の評価法(性能表示型耐震設計法)の研究、
3) 都市構造の防災化と生活復旧・復興システムの研究、
4) 防災対策の原資に関する研究
2.成果の還元
1) シンポジウム,研究集会等
① 市民対象
1)メモリアル・コンファレンス
IN東京 (00.1.17∼1.18)
「阪神・淡路大震災から5年を顧みて、その教訓を世界と21世紀に発信する」
(本会他共催)建築会館
ホール(参加者延べ 1000 名)
2)「阪神・淡路大震災から5年」特別事業開催(神戸)
(00.1.27∼1.28)
(1)建築および都市の防災性向上に関する提言から5年−
阪神・淡路大震災を鑑みて−・講演「阪神・淡路大震災5年間の取組み」
(2)パネルディスカッション「阪神・淡路大震災の教訓をどう生かすか」
(3)公開研究会「阪神・淡路大震災復興の5年」
(1)∼(3)神戸国際展示場2A会議室(参加者延べ 500 名)
②専門家対象
1)「東京の防災まちづくりの今」(1998 年 12 月 21 日)
2)「都市復興の課題−主に事前復興課題について−(1999 年 3 月 5 日)
3)「地震情報をどのように防災対策に活用するか」(1999 年 3 月 17 日)
4)「木造密集市街地におけるまちづくりの目標像」(1999 年 6 月 11 日)
5)「都市復興の目標像と都市骨格」(1999 年 10 月 4 日)
- 19 -
6)「防災対策を促す新しい地震保険の構築に向けて」(1999 年 11 月 1 日)
7)「防災まちづくりの住民合意と実現手法格」(1999 年 12 月 6 日)
8)「耐震設計における安全レベルの設定手法」(2000 年 1 月 21 日)
9)
地震防災総合研究特別研究委員会報告会「地震被災度危険の評価およびその公開を前提とした防
災対策のあり方について(2000 年 3 月 17 日)
10)「都市の地域性と防災都市づくり」(2000 年 6 月 16 日)
11)「復興まちづくりへの支援組織と支援基金−HAR基金の展開を中心に−
(2000 年 7 月 25 日)
12)「防災対策を促す新しい地震保険の構築に向けて−討論記録集−(2000 年 9 月)
13) 東北大会研究協議会「地震被災度危険の評価およびその公開を前提とした防災対策
のあり方について(2000 年 9 月 9 日)
14)「比較震災復興学−台湾から何を学び、阪神から何を学ぶか−」
(2000 年 10 月 25 日)
15)「自己責任による改善と社会による補完」(2000 年 11 月 1 日)
16)「地震情報とその地域防災計画へのとりこみについて」(2000 年 2 月 14 日)
17)「地震危険度の把握と改善のための活用」(2001 年 1 月 22 日)
18)「地震防災総合研究特別委員会
総合耐震安全性委員会
報告書」(2001 年 3 月)
19)「防災対策原資小委員会」報告書(2001 年 3 月)
20)「震災時の被災危険度低減策を地域のまとまりで考える−火災延焼防止を中心に−
(2001 年 3 月 12 日)
21)「総合的な耐震安全設計の実現に向けて」(2001 年 3 月 22 日)
22)「21世紀の都市防災・復興方策へ∼阪神・淡路大震災を越えて∼」
(2001 年 3 月 27 日)
Ⅲ.地震防災総合研究特別調査委員会<第Ⅲ期>(2001 年 4 月∼2004 年 3 月)
1.課題
・特定研究課題
1) 危険度・耐震安全性評価の総合的な研究
2) 都市防災・復興方策の総合的な研究
3) 都市の防災改善推進方策の総合的な研究
2.成果の還元
1) シンポジウム,研究集会等
① 市民対象
1)日本建築学会大会(関東)記念事業「日本の大都市はどこまで安全か−都市の安全・安心を考える−」
(2001 年 9 月 19 日)建築会館ホール/参加者 380 名)
- 20 -
2)第6回「震災対策技術展」関連講演会
「どう活かす地震の教訓−地震災害の軽減に向けて」(2002 年 2 月 14 日/横浜)
3)第 7 回「震災対策技術展」関連講演会
(1)「危険情報の開示と地震災害の軽減」(2003 年 1 月 31 日/神戸)
(2)「どう活かす地震の教訓―地震情報の正しい理解と活用―」(2003 年 2 月 7 日/横浜)
4)地震防災に関する総合的な対策の確立に向けて−地震防災総合研究特別調査委員会活
動報告−(2003 年 3 月 19 日/建築会館ホール)
5)第8回「震災対策技術展」関連講演会(横浜)
「どう活かす地震の教訓
−建物の耐震性向上にむけて−」(2004 年 2 月 6 日/横浜)
② 専門家対象
1)地震防災総合研究特別研究委員会報告会「活動報告と建物の安全性能評価」
(2001 年 5 月 9 日)
2)「地震情報を活用した設計地震動の評価に向けて」(2001 年 12 月 4 日)
3)「被災直後の被害調査のあり方をめぐって」(2002 年 1 月 25 日)
4)「どう活かす地震の教訓−地震災害の軽減に向けて−」(2002 年 2 月 14 日)
5)「震災復興初期段階の専門家による支援のあり方をめぐって」
(2002 年 6 月 7 日)
6)「地震災害を軽減化するための土地利用関連施策をめぐって∼危険情報の開示・土地利用コントロ
ールの面から∼」(2002 年 11 月 1 日)
7)「地震情報の正しい理解」と「地震災害の軽減」(2002 年 11 月 25 日)
8)「危険情報の開示と地震災害の軽減」(2003 年 1 月 31 日)
9)「どう活かす地震の教訓−地震情報の正しい理解と活用−」(2003 年 2 月 7 日)
10)「木造密集市街地の再生∼都市再生の新しい姿∼」(2003 年 3 月 4 日)
11)「地震防災に関する総合的な確立に向けて−地震防災総合研究調査委員会活動報告−(2003 年 3
月 19 日)
12)「いざという時のための地域コミュニティ形成と支援ツールの現在」
(2003 年 6 月 6 日)
13)東海大会研究協議会「地震防災に関する総合的な対策の確立に向けて−地震防災総合研究特別調査
委員会活動報告−」(2003 年 9 月 6 日)
14)「大地震を想定した都市防災・復興対策を考える(その2)∼事前事後の防災・復
興都市計画∼」(2003 年 10 月 31 日)
15)「∼事前事後の防災・復興都市計画∼」(2003 年 10 月 31 日)
16)「情報開示と全員参加」(2003 年 11 月 17 日)
17)「都市防災・復興方策のさらなる展開に向けて」(2003 年 12 月 17 日)
- 21 -