計測自動制御学会東北支部 第185回研究集会 (1999.12.14) 資料番号 (185-11) 水圧用圧力補償型流量制御弁の流動特性解析 Numerical Simulation of Pressure-Compensated Flow Control Valve for Water Hydraulics ○ 白井 敦*,林 叡*,早瀬 敏幸*,郭 南楠* ○ Atsushi SHIRAI, Satoru HAYASHI, Toshiyuki HAYASE and Nannan GUO *東北大・流体研 *Institute of Fluid Science, Tohoku University キーワード:水力学 (Water hydraulics),静特性 (Static characteristics),固有値解析 (Eigenvalue analysis), 数値解析 (Numerical simulation),流量制御弁 (Flow control valve) 連絡先:〒980-8577 仙台市青葉区片平 2-1-1 東北大学流体科学研究所 知能流システム研究部門 生体流動研究分野 白井 敦 Tel.: (022)217-5254,Fax.: (022)217-5311,E-mail: [email protected] ――――――――――――――――――――― 1.緒 言 2.数学モデル 圧力補償型流量制御弁は,供給圧力や負荷の大 2.1 基礎方程式 きさが変化しても吐出流量を設定された値に自 本研究で用いた流量制御弁の外観および内部 動的に調節する機能を持っており,様々な油圧機 構造の模式図を Fig.1 に示す.弁はスロットルの 器の駆動制御に用いられている.近年,環境問題 下流に圧力補償用スプールを設置している点に の高まりとともに作動流体として水が注目され 特徴がある.以下の解析では,弁本体の上流・下 るようになってきたが,水圧機器の開発は油圧と 流に 1m の管路を接続し,下流管路出口端には径 比較して日が浅く,未だ十分とは言えない.そこ が管内径の 1/3 のオリフィスを設置した.実機に で本研究では,水を作動流体とするよう設計され おける諸元は Table 1 に示す. た Danfoss 社製圧力補償型流量制御弁 Type VOH 解析で用いた基礎方程式を以下に示す.回路各 30PM1)を例に採り,その特性を解析した.ここに, 部の集中化された運動方程式および連続の式は, 水はその低粘度ゆえに潤滑性能が油より低いた 上流管路 め,機器の設計において摺動部のクリアランスを 油圧よりも大きくする必要があり,ここでの水の 流れが特性に大きな影響を与える事が考えられ る.そこで,圧力補償弁に働く流体力に注目した 弁の数学モデルを構築し,その特性を求めた. dQu A = u ρLu dt 8πµLu Ps − Pu − Qu (1) 2 Au 弁入口 dPu β (Qu − Q1 − Qb ) = dt Vu (2) Table 1 Parameters (a) Technical data Max. Inlet pressure Max. flow Min. flow Max. pressure drop across the valve Min. pressure drop (a) Outward1) 14 [MPa] 140 [bar] 5.0×10-4 [m3/s] 30 [l/min] 3.33×10-5 [m3/s] 2 [l/min] 14 [MPa] 140 [bar] 1.5 [MPa] 15 [bar] (b) System parameters Pd Pm Q1 Pu Q2 Ql Qb Spring stiffness K Mass of pressurecompensated valve m Initial compression of spring X0 Bulk modulus β Viscosity μ(293K) Densityρ(293K) 1.63×104 [N/m] 1.75×10-4 [kg] 4.13×10-4 [m] 2.10×109 [N/m2] 1.00×10-3 [Pa・s] 9.98×102 [kg/m3] 圧力補償用管路 Pb dQb A = b ρL b dt 8πµLb Pu − Pb − Qb (7) 2 Ab 圧力補償弁 (b) Cross-section Fig.1 Schematic of flow control valve ( dPb β = Qb − Ql + A0 X dt Vb (X ) ) (8) スロットル ここに,スロットル通過流量 ( dP β m = Q1 − Q 2 − A0 X dt V m (X ) ) (3) Q1 = C1 A1 2 (Pu − Pm ) ρ (9) 弁出口 圧力補償弁通過流量 dPd β (Q2 + Ql − Qd ) = dt Vd (4) Q 2 = 4C 2 A2 (X ) 2 (Pm − Pd ) ρ (10) 下流管路 下流管路出口端オリフィス通過流量 dQ A d = d ρL d dt 8πµL d Pd − Po − Q d (5) 2 Ad Qo = C a Aa 2 (Po − Pa ) ただし,Pa=0 (11) ρ 下流管路出口端 圧力補償弁隙間漏れ流量 dPo β (Qd − Qo ) = dt Vo (6) Ql = πD1 H l3 (Pb − Pd ) 12µLc (12) である.また,圧力補償弁の運動方程式は次式で Throttle 表される. Control volume A δ K F X + (X 0 − X ) + 0 (Pm − Pb ) + (13) m m m m Pu Q1 X H2 H0 X = − ここに,F は弁に作用する流体力,δは減衰係数 であり,以下に示す. Pm θ F3 2.2 圧力補償弁とケーシングの隙間に作用する Q2 Pd 粘性力 圧力補償弁の移動速度を無視した場合,補償弁 Pressure compensator とケーシングの隙間における流量 Ql と断面平均 流速 v の関係は Ql = Fig.2 Control volume πD1 H l3 (Pb − Pd ) = πD1 H l v 12µLc をそれぞれ u1,Q1,u2,Q2 とすると,圧力補償弁 に作用する力 F3 は H l2 (Pb − Pd ) ∴ v = 12µLc (14) 隙間内において流速が放物分布を持つとすると, 弁表面におけるせん断応力は, dQ F3 = ρu1 Q1 − (H 2 + 12 H 0 ) 1 dt dQ 2 − ρ u 2 Q 2 + 12 X dt (18) となる.ここに, H τ = l (Pb − Pd ) 2 Lc (15) u1 = 2(Pu − Pm ) cos θ ρ (19) u 2 = 2(Pm − Pd ) cos θ ρ (20) となる.よって,式(13)の正の向きに留意すると, 弁に作用する粘性力 F1 は, F1 = − πD1 H l (Pb − Pd ) 2 (16) で表される.また,圧力補償弁の振動で誘起され るクエット流れによる粘性力 F2 は,弁速度を V dQ2/dt において Pm-Pd=const.とすると,式(18)は, F3 = 2C1 A1 (Pu − Pm ) cos θ − 8C 2 A2 (Pm − Pd ) cos θ (21) − 4C 2 (H 2 + H 0 + X )∆L 2ρ(Pm − Pd )V とすると F2 = − である.X>0 において,dQ1/dt が dQ2/dt に等しく, 1 2 πµD1 Lc V Hl (17) 1 2 となる.なお,X≤0 の場合は F3 = 2C1 A1 (Pu − Pm ) cos θ (22) で表される. 2.3 運動量理論に基づく流体力 2) となる.ここに,θ≒69°とした. 以上のことより,式(13)における流体力 F およ Fig.2 で示される検査体積を考える.流入口およ び減衰係数δは,X>0 において び流出口における流速の軸方向成分および流量 πD1 H l (Pb − Pd ) 2 + 2C1 A1 (Pu − Pm )cos θ F =− δ= + 4C 2 (H 2 + 12 H 0 + 12 X )∆L 2ρ(Pm − Pd ) [m 3 /s] πµD1 Lc Hl 0 4 3 0.30mm 2 d − 8C 2 A2 (Pm − Pd )cos θ [ × 10 -4 ] H =0.45mm (23) Q 5 0.14mm (24) 1 0.03mm 0 0 で表される. 2 4 6 8 10 12 14 ∆ P [ MPa ] 3.静特性解析 (a) Calculated result 式(1)∼式(13)において時間微分項を 0 と置き, これらを連立させて定常値を求める.圧力補償弁 とケーシングとの隙間 Hl を 1.0×10-5m と固定した 場合の,スロットル開度 H0 が 0.03mm,0.14mm, 0.30mm および 0.45mm における本弁の圧力―流 量特性を Fig.3 に示す.ここに,Fig.3(a)が本解析 で得られた結果であり,Fig.3(b)はカタログに掲載 されたデータである.また,ΔP は弁入口と出口 の間の圧力差,Qd は弁出口の流量である.Fig.3(a) (b) Catalogue data1) より,ΔP が 1.5MPa 以上では流量はほぼ一定に Fig.3 Pressure-flow characteristics なるが,H0 が大きい場合はΔP の増加とともに Qd が微かに減少し,H0 が小さい場合は増加している. 5 [× 10 -6 ] Fig.4 に,ΔP=1.5MPa における Qd を基準として, スロットル開度 H0 によってΔP=14MPa における 0 -5 3 はΔP=1.5MPa における Qd との差を表している. ∆ Q [m /s] Qd がどのように変化するかを示す.ここに,ΔQ 理想的な流量制御弁であればΔQ は常に 0 となる が,図より,H0≤0.13mm ではΔQ>0,H0>0.13mm ではΔQ<0 であり,H0 が大きくなるに従ってΔQ -10 -15 が小さくなっている.この傾向は Fig.3(b)にも見 られるが,Fig.3(a)は,H0 が大きな領域において圧 力補償が過剰に働いている.これは,圧力補償用 スプールに働く流体力の見積もりに原因がある と考えられる. -20 0.0 0.1 0.2 H 0 0.3 0.4 0.5 [mm] Fig.4 Effect of H0 on ΔQ of flow rate 6 Hl を大きくすると,H0 にかかわらず同程度の流量 [× 10 -4 ] の増加が見られる.そのため,H0=0.45mm におい 5 てΔQ が Fig.3(b)と一致するように Hl を定めると, H =0.45mm 0 H0=0.03mm においてΔQ が大きくなりすぎるので, これが主原因とは考えにくい. -6 HH =2 × 10 =2× 10 -m6m l l -6 - 6 HH =1 0××1010 m m =10 3 l 本研究では圧力補償弁からの水の流出角度を l -6 - 6 HH =2 0××1010 m m =20 d Q [m 3 /s] 4 l l ll トルと補償弁の距離が短く,また,補償弁のス H =0. 03mm 0 1 0 ポテンシャル流れの 69deg.としているが,スロッ -6 - 6 HH =3 0××1010 m m =30 2 プール形状が複雑なため,実際にには 69deg.より 0 5 10 15 ∆ P [MPa] も変化する可能性がある.そこで,Fig.6 に,圧力 補償弁からの水の流出角度を変化させた場合の Fig.5 Effect of clearance Hl on 圧力―流量特性を示す.図より,H0=0.03mm の場 pressure-flow characteristics 合には流出角度による流量の変化はほとんど見 られないが,H0=0.45mm では角度が増加するに 6 [× 10 -4 ] 従って流量の減少量が減っていることがわかる. Fig.4 より,本モデルでは H0 が大きな領域におい 5 て圧力補償が実機より過剰に働いていることか H =0. 45mm Fig.3(b)と同じ静特性が得られると考えられるが, 3 この問題は今後の検討課題とする. 65de g. 69de g. 75de g. 80de g. Q d [m 3 /s] ら,水の流出角度を適切に設定することにより 0 4 2 4.動特性解析 1 H =0. 03mm 式(1)∼式(13)を連立させて解く事により,本シ 0 0 0 5 10 15 ∆ P [MPa] Fig.6 Effect of flow angle θ on pressure-flow characteristics ステムの動特性が解析できる.ここでは,管路抵 抗を考慮して,4 次の Runge-Kutta 法を用いてこれ らの式を解いた. 動特性を解析するに先立ち,システムの安定性 を固有値解析に基づき調べた.その結果,不安定 そこで,まず,圧力補償用スプールと弁ケーシ ングとの隙間厚さ Hl について検討する.Fig.5 に, スロットル開度 H0=0.03mm,0.45mm における圧 力―流量特性を種々の Hl について示す.図より, になるのは管路のモードであり,スロットルの開 度,管路の長さ等,種々の条件によって複雑な挙 動を示すことを確認した.そのため,本システム には弁の上流,下流に2本の管路が存在するが, ΔP の変化に対する不安定化するモードの固有値 150 実部σの推移である.図において,ΔP=10.5MPa 100 近傍で急激にσの値が変化しているのは上流管 路と下流管路のモードの干渉によるものである. σ [rad/s] 50 Fig.8 に,動特性解析の例として,供給圧力をス 0 テップ状に変化させた場合の下流管路端からの 吐出流量の時間変化を示す.Fig.7 より,Lu=0.3m -50 -100 -150 では,Ps=7MPa でシステムは安定である.時刻 0 0.3 0m 0.5 0m 0.8 5m 0.9 0m 1.0 0m 0 において Ps を 2MPa 増加させた場合,流量は振動 5 10 15 を始めるが次第に減衰していくことがわかる.一 方,Ps を減少させた場合,Fig.7 からも明らかなよ ∆ P [MPa] Fig.7 Variation of real part σ of eigenvalues for various upper pipeline length Lu at Ld=1.0m and うにσ>0 であり不安定である.そのため,Qo は 時間の経過とともに振幅が増大している. H0=0.22mm 5.結 言 4 [× 10 -4 ] Danfoss 社製圧力補償型流量制御弁を例に採り, 圧力補償弁にかかる流体力に注目した数学モデ ルを構築し,静特性を求めた.その結果,高圧力 3 なった.この流量の変化は圧力補償弁における噴 2 流の流出角度に大きく影響を受ける.そのため, Q o [m 3 /s] 差に おけ る流 量の 変化を 再現す る事 が可 能と より精度の高い解析を行うためには,流路の三次 7MPa ->5MPa 7MPa ->9MPa 1 元性等も考慮した流動解析を行う必要がある.ま た,固有値解析より本システムは管路モードが不 0 -0.02 0.00 0.02 0.04 0.06 安定になることを確認した. Time [s] Fig.8 Transition of flow rate Qo at Lu=0.3m, Ld=1.0m and H0=0.22mm 参考文献 1) Danfoss, NessieTMTech. Note. 2) 竹中・浦田: 油力学, 34/57,養賢堂 (1970) 互いの干渉により,どちらのモードであるかを特 定することは条件によって非常に困難となる. Fig.7 に一例を示す.Fig.7 は,種々の Lu における,
© Copyright 2024 ExpyDoc