米国学術研究の動向 オバマ大統領、グローバルサイバースペース戦略を発表(5 月 16 日) 外交政策と並んでサイバーセキュリティ政策を国家の最優先政策として掲げるオバマ大統領は 16 日、オー プンでセキュアなインターネット環境の構築を目指す「国際サイバースペース戦略(International Strategy for Cyberspace)」を発表した。この政策提言書には、知的財産権を保護しながらインターネットの自由や経 済活動の促進や、サイバー攻撃の脅威に対応するための法的処置の強化などを含む、サイバースペース上の 安全確保に向けて国際的な協力を促すための政策目標および枠組みが示されている。情報技術産業協議会 (Information Technology Industry Council)のプレジデントおよび CEO を務めるディーン・ガーフィー ルド氏(Dean Garfield)は、「サイバーセキュリティの向上には国際協調が不可欠であり、米国がその協調 政策を定める上で主導権を発揮することは極めて重要である」とコメントし、オバマ政権の政策イニシアチ ブを歓迎している。 なお、本報告書は、 <http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/rss_viewer/international_strategy_for_cyberspace.pdf> か らダウンロード可能。 PhysOrg.com, White House unveils global cyberspace strategy http://www.physorg.com/news/2011-05-white-house-unveils-global-cyberspace.html 米国科学財団、一部の研究支援において申請書提出件数を制限(5 月) 米国科学財団(National Science Foundation:NSF)の生物科学局(Directorate for Biological Sciences: BIO)副局長が関係者向けに送付した書簡より、2011 年 9 月から、同局の分子・細胞生物学部門(Division of Molecular and Cellular Biosciences)における研究資金の申請・評価プロセスが変更されることが明らか になった。具体的には、3 年ほど前から研究支援申請件数が急激に増加し、これらの研究の評価・審査に係 る NSF 職員の負担が高まっていることを受けて、BIO では、研究評価プロセスを効率化し、且つ優れた研 究プロジェクトの採択率を高めるため、分子・細胞生物学部門への研究資金申請期間(申請・評価・不採択・ 再申請のサイクル)を 8 カ月ごとに区切り、1 期間ごとに提出できる申請書を研究者 1 人につき 1 件に制限 する。同局は、2011 年 9 月 6 日を最初の申請期限とし、以後、2012 年 5 月 21 日、2013 年 1 月 28 日をそ れぞれ期限として設定している。 American Institute of Biological Sciences, Some NSF Programs To Limit Researchers to One Proposal Per Funding Cycle http://www.aibs.org/public-policy-reports/2011_05_23.html#031084 エネルギー省、官学提携の新たなエネルギー教育イニシアチブを立ち上げ(5 月 24 日) スティーブン・チュウ・エネルギー長官(Steven Chu)は 24 日、クリーンエネルギー分野のリーダーを育 成するための活動の一環として、教育省(Department of Education)および全米理科教師協会(National Science Teachers Association:NSTA)と共同で、新たなエネルギー教育イニシアチブを立ち上げたことを 発表した。「米国の家庭エネルギーチャレンジ(America’s Home Energy Challenge)」と呼ばれるこのイニ シアチブは、米国の若者に対して省エネがもたらす利益について教育し、各家庭における効率的なエネルギ ーの利用方法に関する見識を深めさせながら、STEM 分野への学習の興味を駆り立てることを目的としてい る。NSTA が運営を統括する同イニシアチブにおける具体的なエネルギー教育の取り組み例としては、特定 の参加校における 3~8 年生を対象に、各家庭で省エネ活動を 3 ヵ月間実施し、前年度の同期間におけるエ ネルギー消費量と比較しながら、その省エネ効果を報告させる等がある。 U.S. Department of Energy, Secretaries Chu and Duncan, NSTA Announce New Energy Education Initiative to Promote Energy Awareness and Efficiency http://www.energy.gov/news/10343.htm オバマ大統領、米国の最優秀算数・理科教師に大統領賞を授与(5 月 27 日) 5 月 20 日、オバマ大統領は、全米の幼稚園から 6 年生までの児童に対して教鞭をとる算数・理科教師をホワ イトハウスに招き、「理数指導における大統領優秀賞(Presidential Awards for Excellence in Mathematics and Science Teaching :PAEMST)」の授与を行った。NSF が大統領府科学技術政策局(White House Office of Science and Technology Policy)に代わって運営する PAEMST は、幼稚園児~12 年生に対して優れた教 育を行う理数系教師に贈られる、米国教員向けの賞としては最も名誉なもので、1983 年に開始されてからこ れまでに 4,100 名以上の数学・科学教師が同賞を受賞している。PAEMST は、幼稚園から 6 年生までの小 学校教師と、7 年生から 12 年生までの中学校・高校教師を毎年交互に選抜しており、今年の PAEMST 受賞 者は、幼稚園から 6 年生までの小学校教師、計 85 名となっている。オバマ大統領の署名入り認定証と NSF から 1 万ドルの賞金が各受賞者に贈られた。 National Science Foundation, Outstanding Math and Science Teachers Honored by the President http://www.nsf.gov/news/news_summ.jsp?cntn_id=119681&WT.mc_id=USNSF_51&WT.mc_ev=click ロスアラモス国立研究所の新所長は兵器科学者(5 月 27 日) エネルギー省(Department of Energy:DOE)傘下のロスアラモス国立研究所(Los Alamos National Laboratory)の所長にチャールズ・マクミラン氏(Charles McMillan)が就任した。同氏は、ローレンス・ リバモア国立研究所(Lawrence Livermore National Laboratory)に 23 年間務め、兵器科学、実験物理学、 核保有、計算科学といった分野において高い見識を持つ。同国立研究所の元所長であるジョン・ブラウン博 士(John Browne)は、マクミラン氏について、「米国の核備蓄を維持するという同研究所の主要目標を達 成するためには、基礎科学研究プログラムへの支援を行うことが重要であることを十分に理解した人物」と 評価している。 American Association for the Advancement of Science, New Los Alamos Director Is Weapons Veteran http://news.sciencemag.org/scienceinsider/2011/05/new-los-alamos-director-is-weapo.html エネルギー省長官、次世代高効率照明の研究開発に約 1,500 万ドルの拠出を発表(6 月 7 日) スティーブン・チュウ・エネルギー長官(Steven Chu)は 7 日、発光ダイオード(Light Emitting Diode: LED)や有機発光ダイオード(Organic Light Emitting Diode:OLED)などの高効率照明技術の開発と普 及を促進するための 8 つの研究開発プロジェクトに対し、約 1,500 万ドルを拠出することを発表した。LED 照明及び OLED 照明は、従来の蛍光灯照明よりも 25 倍長持ちし、10 倍の省エネ効果がある。具体的にエネ ルギー省では、①LED 及び OLED 照明技術のコア技術研究(計 430 万ドル)、②製品開発(計 360 万ドル)、 ③固体照明(Solid-State Lighting:SSL)の製造(計 690 万ドル)の 3 分野において 8 つの研究開発プロ ジェクトに対して助成金を交付する。 U.S. Department of Energy, Secretary Chu Announces Nearly $15 Million for Next Generation Energy-Efficient Lighting http://www.energy.gov/news/10353.htm オバマ大統領、科学技術諮問委員会の新委員任命を発表(6 月7日) http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/microsites/ostp/gorenberg-rele NIH、新トランスレーショナル医療研究センターの 2012 年度予算案を提示(6 月 8 日) 国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)は、新設が予定されている国立先進トランスレー ショナル科学センター(National Center for Advancing Translational Sciences:NCATS)における 2012 年度研究予算案の詳細を明らかにした。この予算案は、厚生省(Department of Health and Human Services) のキャスリーン・セベリウス長官(Kathleen Sebelius)が、NIH 予算決定に大きな影響力を持つ上院労働 健康福祉教育関連省庁歳出小委員会(Senate Appropriations Subcommittee on Labor, Health and Human Services, Education, and Related Agencies)委員長のトム・ハーキン上院議員(Tom Harkin、アイオワ州 選出民主党)に宛てた書簡の中に含まれていたもので、NIH は、国立研究資源センター(National Center for Research Resources:NCRR)向けの研究プログラム資金 5 億 5,300 万ドル以上を、新研究センターの予算 に転用することなどを提案している。 Nature.com, NIH provides detailed budget of new translational medicine center http://blogs.nature.com/news/2011/06/nih_provides_capitol_hill_with_1.html エネルギー省、地熱発電技術の研究開発に 7,000 万ドルの拠出を発表(6 月 8 日) スティーブン・チュウ・エネルギー長官(Steven Chu)は 8 日、「2035 年までに国内発電電力の 80%をク リーンエネルギー源で賄う」というオバマ大統領の政策目標を実現するための取り組みの一環として、地熱 エネルギー分野における先端技術開発プロジェクトに対し、3 年間で 7,000 万ドルを拠出することを発表し た。同資金は、主に地熱資源の探知や資源の特性評価、採掘、貯蔵に係るエンジニアリング技術の向上・発 展のための革新的な研究開発に充てられることになっており、エネルギー省では、これらの事業によって、 地熱発電システムにおける先行開発費用削減や地熱発電の利用促進などが進むことを期待している。 U.S. Department of Energy, Department of Energy Announces up to $70 Million to Advance Technology and Reduce Cost of Geothermal Energy http://www.energy.gov/news/10354.htm (日本学術振興会 ワシントン研究連絡センター)
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