2013年2月8日 ワシントン研究連絡センター 米国学術研究の動向 NIH、2012 年度の研究助成実績を発表(1 月 2 日) 国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)外部委託研究局(Office of Extramural Research)のサリー・ロッキー副局長(Sally Rockey)は、2012 年度の NIH による研究助成実 績を自身のブログ「ロック・トーク(Rock Talk) 」で発表した。公表したデータは以下のとお り。 2011 研究グラント全体の採択率 【変化なし】 2012 18% 18% $449,644 $454,588 $15,815,319,592 $15,923,746,065 28,656 29,515 18% 18% 5,264 5,340 13,145 13,743 R21 の採択率 【増加】 13% 14% R21 の採択数 【増加】 1,694 1,932 研究グラント全体の平均額 【増加】 研究グラント全体の総額 【増加】 NIH 研究グラントプログラム(NIH Research Project Grant Program: R01)(注 1)の申請数 【増加】 R01 の採択率 【変化なし】 R01 の採択数 【増加】 NIH 探査的・開発的グラント(NIH Exploratory/Developmental Research Grant Award: R21)の申請数 【増加】 研究所グラント(Research Center Grant) (注 2)の採択率 【減少】 研究所グラントの平均支給額 【増加】 37% 33% $1,863,037 $1,914,070 11% 16% 62,267 63,524 中小企業イノベーション研究(Small Business Innovation Research:SBIR) (R43/R44)の第 1 段階採択率 【増加】 NIH による研究グラントに対する、全体の申請 数 【過去最高】 (注 1)個々の、特定な、分野が明瞭な研究に対するグラントで、NIH で最も一般的なグラント。 (注 2)G12, M01, P20, P30, P40, P41, P50, P51, P60, PL1, U30, U41, U42, U50, U54 及 び R07 のコードが付くグラントプログラム。 なお、研究助成実績データの詳細は、<http://report.nih.gov/nihdatabook/>からダウンロ ード可能。 National Institutes of Health, FY2012 By The Numbers: Success Rates, Applications, Investigators, and Awards http://nexus.od.nih.gov/all/2013/01/02/fy2012-by-the-numbers-success-rates-applica tions-investigators-and-awards/ 連邦最高裁、ヒト胚性幹細胞研究の実施に対する訴訟上告を棄却(1 月 7 日) 連邦最高裁判所(U.S. Supreme Court)は 1 月 7 日、ヒト胚性幹細胞(human embryonic stem cells:hESCs)研究に対する連邦政府の助成の合法性を争う「シャーリー対セベリウス(Sherley v. Sebelius) 」訴訟の原告側の上告を棄却した。 この決定によって、2009 年から 3 年以上に亘った hESC 研究訴訟が終結することとなった。 同訴訟は、hESC 研究規制を解除した国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH) の新指針が、ヒトの胚細胞を破壊する研究に対する連邦政府の助成を禁じたディッキー・ウィ ッカー修正条項(Dickey-Wicker Amendment)に反するとして、2009 年 8 月に成体幹細胞研究 者 2 人によって提訴されたものである。 原告は、2010 年 8 月に地方裁判所において仮差止め命令を勝ち取り、NIH が助成する hESC 研究が一時的に中断されたが、2011 年 4 月には連邦控訴裁判所によって判決が覆されていた。 生物医学研究関係者は、今回の決定を科学者、患者、生物医学研究コミュニティ全体の勝利 と受け止めている。 Science Insider, Stem Cell Lawsuit Finally Over http://news.sciencemag.org/scienceinsider/2013/01/stem-cell-lawsuit-finally-over.htm l エルゼビア社、引用文献データを用いて科学者の移住及び共同研究の傾向を分析した論文を発 表(1 月 8 日) 学術誌出版社のエルゼビア社(Elsevier)は、論文で使われる文献引用データを用いて、科 学者の移住状況及び共同研究の傾向を分析した論文「科学者の国際移動及び共同研究に見られ る傾向 ~計量文献学的調査を通して~(International Scientific Migration and Collaboration Patterns – Following a Bibliometrics Line of Investigation)」を発表した。 本論文は、学術論文約 2 万編を含む同社データベース「スコーパス(Scopus)」の中から、2000 年から 2012 年の間に発表された論文を対象に、ブラジルや中国を含む研究新興国 10 カ国と、 日本や米国を始めとする研究先進国 7 カ国の計 17 カ国を出身とする論文執筆者 10 万 830 人分 のデータを使用して、執筆者の国境を越えた移住状況や、異なる国出身の科学研究者による共 同執筆率を分析したものである。 これによると、国際的移住及び論文共同執筆は昨今増加傾向にあり、特に台湾から中国へ、 イランから米国へ、そしてインドとパキスタン間といった、政治的緊張が高い国々の間での移 住が高い率で発生しているという。 また、イラン、マレーシア、パキスタン、タイの科学者は、一時的に他国へ移住した後に自 国に戻る傾向が強い反面、ドイツ、インド、日本、米国の科学者は、移住先に永住する傾向が 強いことが明らかになっている。 なお、本論文は、<http://arxiv.org/ftp/arxiv/papers/1212/1212.5194.pdf>からダウンロ ード可能。 Inside Higher ED, Researchers analyze citation data to document trends in scientific migration and collaboration http://www.insidehighered.com/news/2013/01/08/researchers-analyze-citation-data-docu ment-trends-scientific-migration-and 連邦下院科学・宇宙・技術委員会、6 つの小委員会の委員長を発表(1 月 9 日) 連邦議会下院科学・宇宙・技術委員会(Committee on Science, Space, and Technology of the House of Representatives)委員長のラマー・スミス下院議員(Lamar Smith、テキサス州選出 共和党)は 1 月 8 日、同委員会に属する 6 つの小委員会の委員長を発表した。 今回選出された小委員会委員長の中には、下院議員初当選ながら、エンジニアでハイテク起 業家としての経歴を評価され、技術・イノベーション小委員会(technology and innovation subcommittee)委員長に指名されたトーマス・マッシー下院議員(Thomas Massie、ケンタッキ ー州選出共和党)や、研究小委員会(research subcommittee)委員長に指名された心胸外科医 で下院議員 2 期目を務めるラリー・ブショーン下院議員(Larry Bucshon、インディアナ州選出 共和党) 、エネルギー小委員会(energy subcommittee)委員長に指名された化石燃料産業の強 力な支持者であるシンシア・ラミス下院議員(Cynthia Lummis、ワイオミング州選出共和党) など、新しい顔ぶれも見られる。 なお、6 つの小委員会の委員長・副委員長のリストは、 <http://science.house.gov/press-release/chairman-smith-announces-science-subcommitte e-chairpersons>から閲覧可能。 Science Insider, Surprise Choices Mark New Leadership on U.S. House Science Panel http://news.sciencemag.org/scienceinsider/2013/01/surprise-choices-mark-new-leader.h tml 米国科学財団(NSF) 、米国の研究開発費に関する報告書を発表(1 月 11 日) 米国科学財団(National Science Foundation: NSF)は 11 日、2010 年から 2011 年にかけて の米国の研究開発費に関する報告書を発表した。 本報告書によると、米国の研究開発費は、2009 年の縮小の後、2010 年・2011 年にかけて回 復した。しかしそのペースは、米国経済の景気拡大のペースに遅れをとっている。概要は以下 のとおり。 米国における研究開発費は、2010 年に合計 4067 億ドル(現在ドル)を記録し、2009 年の 4038 億ドルを 29 億ドル上回った。2011 年の仮の見積りは 4140 億ドルと、さらに 73 億ド ルの伸びが見込まれる。 2009 年に前年割れ(18 億ドル減)したことは、1950 年代以来史上 2 度目の出来事だった が、これは 2008 年後半の金融危機と景気低迷によるもの。(図 1) 研究開発費の前年比伸び率は、2009-10 年に 0.7%、2010-11 年に 1.8%だったが、GDP の伸 び率(4.2%、3.9%)と比べると大きく後れを取っている。今まで 5 年・10 年・20 年平均の どの伸び率も研究開発費が GDP を上回っていたのと比べて、今回は傾向が大きく異なる。 また、インフレ率を考慮した研究開発費は、2009~2011 年のどの年も、2008 年水準を下回 る。これは、全体の 3 分の 2 以上を占める民間企業の研究開発費の伸び率が、米国経済の インフレ率に追い付いていないことによる。 図 1.米国における研究開発費の前年比(実施部門別、2006-11 年) 図 2.米国における研究開発費支出の実施部門(上)及び出資部門(下)の内訳(2011 年) なお、米国の研究開発費の対 GDP 比は 2.8%で、この比率は世界第 10 位。 (2010 年現在) 第 1 位のイスラエルは 4.4%。以下フィンランド 3.9%、韓国 3.7%。スウェーデン、日本(3.26%、 5 位) 、デンマークも 3%を超える。スイス 3%、台湾 2.9%、ドイツ 2.8%と続き、米国が 10 位。 National Science Foundation (NSF), U.S. R&D Spending Resumes Growth in 2010 and 2011 but Still Lags Behind the Pace of Expansion of the National Economy http://www.nsf.gov/statistics/infbrief/nsf13313/ NSF、第 4 次 PIRE プログラムの下、助成対象となる 12 事業を発表(1 月 15 日) 米国科学財団(National Science Foundation:NSF)は 1 月 15 日、第 4 次国際研究教育パー トナーシップ(Partnerships for International Research and Education:PIRE)プログラム の下、助成対象となる 12 事業を発表した。 2005 年に開始された PIRE プログラムは、 ①最先端の科学・工学における新たな知識体系及び発見の促進 ②米国における多様かつ国際的な科学・工学人材の育成 ③有効な国際共同研究に資するための、米国大学における組織面の強化 の 3 点の達成を目的とし、イノベーションを促進する国際的共同研究・教育事業を支援するも のである。 今回は、ミシガン工科大学(Michigan Technological University)が主導するバイオ燃料開 発が社会環境システムなどに与える影響に関する研究を始め、クリーンかつ安全で信頼性があ り、価格の手頃な代替エネルギー開発に関する事業が多く採択された。 なお、米国国際開発庁(United States Agency for International Development:USAID)及 び米国環境保護庁(U.S. Environmental Protection Agency)のほか、JSPS、JST、米州地球変 動研究機関(Inter-American Institute for Global Change Research:IAI) 、ロシア教育科学 省(Ministry of Education and Science of the Russian Federation) 、英国経済・社会研究 会議(United Kingdom Economic and Social Research Council:ESRC) 、英国工学物理科学研 究会議(United Kingdom Engineering and Physical Science Research Council:EPSRC)とい う米国内外の 8 機関が PIRE 事業を支援している。 今回採択された 12 事業の詳細は、<http://www.nsf.gov/od/oise/pire-2012-list.jsp>から ダウンロード可能。 National Science Foundation, NSF Supports Global Research to Advance Science and Engineering for Sustainability http://www.nsf.gov/news/news_summ.jsp?cntn_id=126531 連邦研究開発予算、2011 年度と 2012 年度は 2 年連続で減少するも 2013 年度は僅増の見通し(1 月 18 日) 米国科学財団(National Science Foundation)は、連邦研究開発(R&D)及び研究開発施設 (R&D Plant)の予算に関する報告書「2011 年度及び 2012 年度は連邦研究開発関連の予算が減 少 ~2013 年度案は僅かな増加~(Federal Budget Authority for R&D Declined in FYs 2011 and 2012; Modest Increase Proposed for FY 2013)」を発表した。 本報告書によると、連邦研究開発関連への拠出額は、2006 年度から 2010 年度までは物価上 昇率を上回る年率 0.4%で毎年増加していたが、2011 年度及び 2012 年度は、国防関連の研究開 発予算の削減が主因となり、物価上昇率を下回っている。 一方、2013 年度大統領予算教書では、国防関連分野の研究開発予算は前年度よりも減額が提 示されているが、宇宙・医療・エネルギー・商業分野など、国防関連以外の研究開発予算は僅 かに増加する見通しである。 なお、NSF、エネルギー省(DOE)及び国土安全保障省(Department of Homeland Security) の事業を含む科学一般及び基礎研究の予算については、若干の減額が示されている。 図:連邦研究開発関連の予算の年次変化:2010 年度~2013 年度 本報告書は、<http://www.nsf.gov/statistics/infbrief/nsf13312/nsf13312.pdf>からダウ ンロード可能。 National Science Foundation, Federal Budget Authority for R&D Declined in Fiscal Years 2011-12 http://www.nsf.gov/news/news_summ.jsp?cntn_id=126614 2013 年度の州政府高等教育予算は 31 州において増加(1 月 21 日) イリノイ州立大学(Illinois State University)の教育政策研究センター(Center for the Study of Educational Policy)とイリノイ州高等教育行政官(State Higher Education Executive Officers)が行った、高等教育向け州政府予算年次調査の今年の結果によると、2013 年度に高 等教育のために計上される州政府予算は、31 州において前年度よりも増加するという。 全体で見ると 2013 年度の州政府高等教育予算は前年度比 0.4%減であるが、2012 年度の前年 度比 7.5%減から大きく好転している。 また、当該予算が増加する州における前年度比増加率は、そのほとんどが 5%増未満と小さ く、 「回復」というよりは「安定化」の段階と評価されている。 一方で、2012 年度においては、高等教育予算前年比増減率が 12.1%増と最高であったイリノ イ州と、41.3%減と最低であったニューハンプシャー州との格差は約 53 ポイントであったのに 対し、2013 年度は最高のワイオミング州が 13.7%増、最低のロードアイランド州が 13.5%減 で、格差も 27 ポイントにまで縮小されるなど、上向き傾向が見られる。 なお、同調査結果の詳細は、<http://grapevine.illinoisstate.edu/tables/index.htm>から ダウンロード可能。 Inside Higher ED, State appropriations for higher education up in 31 states, report says http://www.insidehighered.com/news/2013/01/21/state-appropriations-higher-education31-states-report-says オバマ大統領の就任演説における科学技術・高等教育部分について(1 月 22 日) 1 月 21 日にオバマ大統領の第 2 期大統領就任式典が行われ、約 18 分間にわたる就任演説の 中でオバマ大統領は科学技術分野の案件についても言及した。 具体的には、①数学・科学教員の育成及び研究機関、②気候変動への取組、③持続可能エネ ルギー源の開発及び雇用・産業の活性化に触れた。気候変動に関しては、気候変動懐疑論者の 存在を認識しながらも、気候変動問題への取り組みの喫緊性について説いた。 ①数学・科学教員の育成、研究機関 「…時代の変化とともに国民も変化しなければならないことは、我々は常に理解してきた。 建国精神に忠実であるためには、新たな課題への新たな対応が求められる。個人の自由を守 るためには、結局は集団行動が求められる。…誰も一人では、子どもの将来に必要な数学・ 科学全般の教師を訓練できないし、米国に新たな雇用や事業をもたらす道路・ネットワーク・ 研究所も築けない。これまでになく我々は一つの国・一人の国民として、共にそれらの課題 に取り組まなければならない。 」 ②気候変動への取組 「…我々国民は、アメリカ国民としての責務が、自らのためだけでなく全ての子孫のためで もあると確信している。我々は、気候変動という脅威に対応していく。もし対応を誤れば、 我々の子どもや将来の世代を裏切ることになるだろう。科学に基づく確かな判断を否定する 者もいるかもしれないが、燃え盛る森林火災・深刻な干ばつ・強力なストームによる壊滅的 な打撃は誰も避けられない。 」 ③持続可能エネルギー源の開発及び雇用・産業の活性化 「持続可能なエネルギー源の確保は、長く、時には困難な道のりとなるだろう。しかし、我 が国はこの変遷に逆らうことはできないし、我々が先導しなければならない。我々は、新た な雇用や産業を生む技術で他の国々に遅れを取ることはできないし、その約束を果たしてい かなければならない。そのために我々は、国の経済活力や国の宝 ― 森、川、畑、雪に覆わ れた山々 ― を維持するのだ。 」 なお、オバマ大統領就任演説全文は、 <http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2013/01/21/inaugural-address-president-b arack-obama>から閲覧可能。 American Institute of Physics, Inauguration Speech on Climate Change, STEM Education, Research Labs, Sustainable Energy and Jobs http://www.aip.org/fyi/2013/015.html H5N1 亜型鳥インフルエンザウイルス研究者ら、インフルエンザ研究を再開(1 月 23 日) 2012 年 1 月 20 日から自主的に研究の一時停止を行っていた H5N1 亜型鳥インフルエンザ研究 者らは、研究一時停止の目的がほぼ達成されたことを理由に、H5N1 研究を再開させることを発 表した。 今回の発表は、1 月 23 日付で科学情報誌「サイエンス(Science)」及び「ネイチャー(Nature)」 のウェブサイトに掲載された、40 人の H5N1 研究者が連名で作成した書簡において行われたも ので、当該ウイルス研究に対する予算を有し、また、当該研究を行う研究所が遵守する安全規 則が確定している国の研究者については、ウイルス再生を含む実験を再開できるが、それ以外 の国の研究者は、現時点では研究を再開するべきではない、との見解を明らかにしている。 なお、米国と日本は共に後者であり、本発表では、このような国家では、研究所安全ガイド ラインや研究助成申請審査ガイドラインが最終的に承認されるまで研究再開に踏み切るべきで ないとしている。 なお、研究者からの書簡は、 <http://www.sciencemag.org/content/early/2013/01/22/science.1235140.full>から閲覧可 能。 ScienceInsider, H5N1 Researchers Announce End of Research Moratorium http://news.sciencemag.org/scienceinsider/2013/01/h5n1-researchers-announce-end-of.h tml
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