全文(884KB) - 新エネルギー・産業技術総合開発機構

ISSN 1348-5350
〒212-8554
神奈川県川崎市幸区大宮町1310
ミューザ川崎セントラルタワー
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2009.7.01
1047
BIWEEKLY
NEDO 海外レポート
Ⅰ.テーマ特集
ライフサイエンス・バイオテクノロジー特集
1. 国立衛生研究所 NIH の 2010 会計年度予算(米国)
1
2. 米国で ES 細胞研究に対する政府助成が解禁へ
13
3. 軟骨や骨の再生を促す新しい組織足場材料(米国・英国)
23
4. NIST が生体組織工学で利用できる標準物質の頒布を開始(米国)
26
5. 植物を用いた化学原料の持続的な生産方法を開発(オランダ)
28
6. 遺伝子組換え作物の栽培方法に関する規制レポート(EU)
30
7. 抗腫瘍遺伝子のガン細胞への選択的送達(EU)
35
8. 革新的医薬品イニシアティブによる官民共同研究がスタート(EU)
37
9. 携帯電話を使った超音波画像診断技術(米国)
42
0
Ⅱ.個別特集
レアメタルの回収及び代替材料の研究開発動向(欧米)
46
Ⅲ.一般記事
1.
エネルギー ・ 環境
CO2 回収技術、太陽技術、高燃費車・トラック技術に新助成(米国)
50
FutureGen プロジェクトの推進に向け前進(米国)
53
殺生物剤の安全性向上を欧州委員会が提案(EU)
55
URL:http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/
《 本 誌 の 一 層 の 充 実 の た め 、 掲 載 ご 希 望 の テ ー マ 、 ご 意 見 、 ご 要 望 な ど 下 記 宛 お 寄 せ 下 さ い 。》
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NEDO海外レポート
NO.1047,
2009.7.01
【ライフサイエンス特集】研究開発予算
国立衛生研究所 NIH の 2010 会計年度予算(米国)
はじめに
米国国立衛生研究所(NIH: National Institutes of Health)は、国立がん研究所(略称
NCI)や国立アレルギー・感染症研究所(同NIAID)などそれぞれ個別のミッションを持っ
た27 の研究所・センターから構成される集合体である。各研究所には独立した研究所と
して、予算と人員が配分されている。その一方で、全ての研究所はNIH という一つの集
合体としても活動している。
2009 年 5 月 7 日、バラク・オバマ大統領は 2010 予算教書の詳細を発表した。これは
2010 年度予算(2009 年 10 月 1 日~2010 年 9 月 30 日の予算)要求に係わるものである。
また、これに先立つ 2 月 17 日、2009 米国経済再生・再投資法(以下、ARRA)が第 111
米国議会を通過し、バラク・オバマ大統領の署名を得て成立した。ARRA は、雇用の維持・
創出、インフラ投資、エネルギー効率化、科学研究の支援、失業者の支援、国と地方財政
の安定化を目的としている。この予算は、2009 年度、及び 2010 年度に使用されるもので
あるが、それぞれの年度毎には分割されていない。又、2009 年度予算、2010 年度予算と
は別枠で確保されている。
本稿では、NIHの2010年度予算、及びARRA予算について概説する。
1.
予算の推移、用途
図1にNIH年度予算の推移とARRA予算を示す。ARRA予算は、年度予算のほぼ3分の1
に相当する。
予算(10 億ドル)
年度
図 1 NIH 年度予算の推移
出典①より研究評価広報部編集
1
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図2は、予算の用途別割合を示す。例年と比較して、この割合には大きな変化はない。
研究トレーニング,
2.7%
研究管理・支援,
4.6%
建物・設備, 0.4%
その他の研究・スー
パーファンド・所長室,
7.8%
研究プロジェクト助
成, 52.9%
研究センター, 9.9%
NIH所内研究, 10.6%
研究開発契約,
11.1%
図 2 2010 年度予算の用途別割合(総額 309 億 9,600 万ドル)
出典①より研究評価広報部編集
研究プロジェクト助成
52.9%
NIH の予算の中で最も大きな割合を占める。この予算は、NIH 外部の研究者や研究機
関に対して、研究の支援を行うための予算である。
研究開発契約
11.1%
外部機関との契約に基づく研究開発の予算である。
NIH 所内研究
10.6%
NIH を構成する 27 の研究所やセンターに所属する研究者が直接実施する基礎研究及び
臨床研究活動のために使用される。
研究センター
9.9%
学際的研究センターを支援するもので、大学を中心とする千数百ヵ所のセンターを支援
する。
その他の研究・スーパーファンド・所長室
7.8%
その他の研究:
「自立への道(Pathway to Independence)」と名付けられた研究者育成プ
ログラムなどが含まれている。
スーパーファンド:有害廃棄物区域に関する健康・環境問題の解決方法の探求を目的と
する、大学に対する研究助成。ここで実施される研究は、環境保護
庁(EPA)と連携した取り組みである。
所長室:所長の裁量により NIH 内で再配分される予算、共通資金(Common Fund)と
呼ばれる NIH 横断の研究プログラムの予算
2
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4.6%
研究管理・支援
データ管理やセキュリティ・システムの改善など、研究ポートフォリオを適切に管理す
るために必要な人的資源を確保する目的で使用される。
研究トレーニング
2.7%
NIH での研究者の訓練のための予算。
建物・設備
2.
0.4%
概要、研究所・センター別予算
NIH の 2010 年度予算要求額は、309 億 9,600 万ドルであり、2009 年度比で 4 億 4,300
万ドル(1.4%)増である。また、これとは別枠で、ARRA 予算 104 億ドルが割り当てられて
いる。
これらの予算は、27 の研究所やセンター、NIH 所長室、建物・設備費用などに割り振ら
れている。研究所・センター別の予算を、図 3(グラフ)
、表 1(数値)で示す。
0
1,000
2,000
3,000
4,000
5,000
がん研究所
アレルギー・感染症研究所
4,760
心臓・肺・血液研究所
3,050
総合医科学研究所
2,024
1,931
糖尿病・消化器・腎臓研究所
精神異常・発作研究所
1,613
精神健康研究所
1,475
小児・人間発達研究所
1,314
研究資源開発センター
1,252
NIH所長室
1,183
老化研究所
1,093
薬物乱用研究所
1,045
眼科研究所
696
環境健康科学研究所
684
関節炎・筋肉・皮膚研究所
531
ヒトゲノム研究所
510
アルコール乱用・中毒研究所
455
聴覚・伝達障害研究所
413
歯科研究所
408
医学図書館
334
生物医学画像・生物工学研究所
313
マイノリティー健康・健康格差センター
209
看護研究所
144
補完・代替医学センター
127
建物・設備
126
スーパーファンド研究プログラム
79
ファガティ国際協力センター
医学図書館プログラム評価
6,000
5,150
69
8
図 3 2010 年度予算(研究所・センター別)
単位:100 万ドル
出典①より研究評価広報部作成
3
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表 1 2010 年度予算(研究所・センター別)
単位:100 万ドル
2009
年度
研究所・センター
ARRA
予算
2010
年度
2010-2009
(%)
がん研究所 NCI
4,969
1,257
5,150
181
3.6
アレルギー・感染症研究所 NIAID
4,703
1,113
4,760
58
1.2
心臓・肺・血液研究所 NHLBI
3,016
763
3,050
35
1.1
総合医科学研究所 NIGMS
1,998
505
2,024
26
1.3
糖尿病・消化器・腎臓研究所 NIDDK
1,911
445
1,931
20
1.0
精神異常・発作研究所 NINDS
1,593
403
1,613
19
1.3
精神健康研究所 NIMH
1,450
367
1,475
24
1.7
小児・人間発達研究所 NICHD
1,295
327
1,314
19
1.5
研究資源開発センター NCRR
1,226
1,610
1,252
26
2.1
NIH 所長室 OD
1,247
1,337
1,183
-64
-5.1
老化研究所 NIA
1,081
273
1,093
12
1.1
薬物乱用研究所 NIDA
1,033
261
1,045
13
1.2
眼科研究所 NEI
688
174
696
7
1.2
環境健康科学研究所 NIEHS
663
168
684
21
3.2
関節炎・筋肉・皮膚研究所 NIAMS
525
133
531
6
1.1
ヒトゲノム研究所 NHGRI
502
127
510
7
1.6
アルコール乱用・中毒研究所 NIAAA
450
114
455
5
1.1
聴覚・伝達障害研究所 NIDCD
407
103
413
6
1.5
歯科研究所 NIDCR
403
102
408
5
1.2
医学図書館 NLM
331
84
334
4
0.9
生物医学画像・生物工学研究所 NIBIB
308
78
313
4
1.6
マイノリティー健康・健康格差センター NCMHD
206
52
209
3
1.5
看護研究所 NINR
142
36
144
2
1.4
補完・代替医学センター NCCAM
125
32
127
2
1.6
建物・設備 B&F
126
500
126
0
0.0
スーパーファンド研究プログラム
78
19
79
1
1.3
ファガティ国際協力センター FIC
69
17
69
1
0.0
8
0
8
0
0.0
NLM プログラム評価
出典①より研究評価広報部編集
4
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3.
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2010 年度に取り組む優先課題
2010 年度予算と、2009 年度に使用した ARRA 予算の残りにより、分野横断的な発見分
野を追求し、新しい研究者を支援し、臨床研究成果を臨床現場での治療法へトランスレー
ト注1するプログラムを継続する。以下に優先課題を示す。
がん研究:60 億 1,600 万ドル(対 2009 年度比
+2 億 6,800 万ドル(4.7%))
この予算増は、2010 年度~2017 年度の 8 ヵ年でがん研究費を倍増するという戦略を反
映したもので、2010 年はこの計画の最初の年となる。
毎年、1,400 万人以上のアメリカ人が癌と診断され、約 55 万 6,000 人が、がんで死亡し
ている。がん研究の進展は、癌以外の広範な疾病分野にも恩恵をもたらすと期待されてい
る。例えば、診断と個別医療の精度を高めるための先端画像技術、医薬品を患部に正確に
送達するためのマイクロシステムを開発することは、アルツハイマー病、パーキンソン病
をはじめとする多くの疾病の治療戦略にも恩恵を与える。
自閉症研究:
1 億 4,100 万ドル(対 2009 年度比
+1,900 万ドル(15.6%))
この予算は、2 億 1,100 万ドルの保健社会福祉省(Department of Health and Human
Services:HHS)全体のイニシアティブの一部を占める。自閉症領域の障害(ASD:autism
spectrum disorders)の原因や治療に関する研究を実施する。研究の目標には以下がある。
・ASD バイオマーカーの特定
・ASD スクリーニングの改善(症状が現れる前に病気を発見するための検査)
・ASD データベースの構築
・免疫系と中枢神経系の相互作用、遺伝と環境に対する危険因子の理解の進展
・ASD の人々を生涯にわたり助けるサービスの促進
幹細胞研究:9 億 7,700 万ドル(対 2009 年度比
+1,400 万ドル(1.5%))
2009 年 3 月 9 日、オバマ大統領は、それまでのヒト胚(はい)性幹細胞(ES 細胞)に
関する連邦の研究に対する制限を解除し、NIH に、ヒト幹細胞研究に対する支援を拡大す
ることを命ずる大統領令第 13505 号を発表した注2。NIH では、適切な保証措置を確立す
る条項を含んだヒト幹細胞研究に関する既存の NIH や他の広く認識されたガイドライン
を見直し、大統領令と調和する新たなガイドライン草案を作成、4 月 17 日に公開し 30 日
間の意見募集が行われた。これらを踏まえ、7 月 7 日には、保健社会福祉省長官が、新ガ
イドラインを発表する予定である。NIH は、新しいガイドラインの下で、ヒト幹細胞研究
注1
医学や薬学の基礎的な研究成果を臨床に応用する(翻訳する)ことを目的にチームで行う研究。
例として、新薬の開発においては基礎研究ののち、前臨床試験、第Ⅰ~Ⅲ相試験、承認審査とい
った多くのトランスレーションの過程がある。一言で言えば、基礎研究成果と医療実施の間にあ
る過程。TR と省略して言われることも多い。
注2
この大統領令については、本ライフサイエンス特集号の別記事「米国で ES 細胞研究に対する政
府助成が解禁へ」を参照されたい。
5
NEDO海外レポート
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に対する支出額を見積もる予定である。NIH は、この領域における支援は、大幅に拡大す
るだろうと見積もっている。
HIV/AIDS:
30 億 5,500 万ドル(対 2009 年度比
+4,500 万ドル(1.5%))
HIV/AIDS の制圧には、安全で効果的なワクチンや、予防措置が必要となる。このため
には、ウイルスと疾病をより良く理解し、新しいワクチン戦略を展開するための基礎研究
の顕著な進展が必要である。
ナノテクノロジー:3 億 2,600 万ドル(対 2009 年度比
+1,500 万ドル(4.8%))
環境健康科学研究所(NIEHS)への 900 万ドルの増加を含み、ナノテクノロジー安全性研
究支援に使用される。
NIH 共通資金: 5 億 4,900 万ドル(対 2009 年度比
+800 万ドル(1.5%))
この予算により、NIH 横断の共通資金イニシアティブを引き続き支援する。このしくみ
は、複雑な研究上の障壁を克服し、新たな病気治療法、予防策、診断法の発見を加速する
ために、単一の、あるいは小さな研究所やセンター自身では実施できない研究に焦点を当
てる。
新しい研究者:
NIH は、NIH から初めて独自の研究に対する資金提供を受ける主任研究者の平均年齢
が上がっているという傾向に歯止めをかけることに努めている。また、このような新たな
研究者による新規の応募の採択率が、ベテランの主任研究者と同等のものになることを狙
っている。特に、初期段階の主任研究者(最終学位取得あるいは専門医学実習後、10 年以
内の研究者)に焦点を当てている。
2010 年度は、このような新規の応募者の状況をより良くモニターするために、Era
Commons 注3上でのデータ収集内容を変更する。
研究プロジェクト助成:163 億 8,200 万ドル(対 2009 年度比
+2 億 4,300 万ドル(1.5%))
NIH は、2010 年度に 9,849 件の新しい競争的研究プロジェクトを支援すると見積もっ
ているが、これは 2009 年度比で 7 件の増加である(ARRA 予算によるものを除く)
。
2010 年度の新しい競争的な研究プロジェクトグラントの平均的なコストは、約 40 万ド
ルであるが、2009 年度推定比で 2%増である。2010 年度に支援される研究プロジェクト
助成の総数は、3 万 8,042 件と想定されている。これは 2009 年度比で、171 件の増加であ
る(ARRA によるものは除く)
。
注3
Web システムで、公募への応募とその後の状況、採択されたプロジェクトの進捗状況、報告書
の発行、連絡事項等の相互の情報交換が、ここを通じて行われる。
6
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表 2 2010 年度 テーマ(各種疾患、身体状態、研究領域等)別の研究予算
2008
会計年
度
2009
会計年
度
2010
会計年
度
臨床研究
9,629
9,931
10,086
155
1.6
遺伝学
6,872
7,066
7,173
107
1.5
癌
5,570
5,748
6,016
268
4.7
バイオテクノロジー
5,179
5,390
5,468
78
1.4
神経科学
5,224
5,372
5,444
72
1.3
予防
4,623
4,752
4,822
70
1.5
脳疾患
3,729
3,835
3,888
53
1.4
感染症
3,575
3,678
3,725
47
1.3
臨床試験
3,562
3,663
3,719
56
1.5
女性の健康
3,514
3,627
3,683
56
1.5
行動科学・社会科学
3,215
3,316
3,362
46
1.4
HIV/AIDS
2,928
3,010
3,055
45
1.5
バイオエンジニアリング
2,853
2,932
2,973
41
1.4
小児科関連
2,771
2,864
2,906
42
1.5
医療格差
2,614
2,691
2,725
34
1.3
少数民族の健康
2,396
2,474
2,508
34
1.4
新感染症
2,098
2,156
2,179
23
1.1
精神衛生
2,086
2,142
2,173
31
1.4
心臓血管
2,027
2,081
2,103
22
1.1
加齢
1,965
2,019
2,045
26
1.3
ヒトゲノム
1,259
1,297
1,317
20
1.5
幹細胞研究
938
963
977
14
1.5
-非胚幹細胞・ヒト以外
497
511
518
7
1.4
-非胚幹細胞・ヒト
297
305
311
6
2.0
-胚幹細胞・ヒト以外
150
154
155
1
0.6
-胚幹細胞・ヒト
88
91
92
1
1.1
-臍帯血・胎盤
46
47
48
1
2.1
-臍帯血・胎盤・ヒト
38
39
39
0
0.0
9
9
9
0
0.0
再生医療
723
743
753
10
1.3
アルツハイマー病
412
423
428
5
1.2
ナノテクノロジー
304
311
326
15
4.8
テーマ区分
上位 20 テーマ
トピックス
単位:百万ドル
-臍帯血・胎盤・ヒト以外
7
2009~
2010
増減
2009~
2010
増減率%
NEDO海外レポート
NO.1047,
2009.7.01
2008
会計年
度
2009
会計年
度
2010
会計年
度
食品安全性
244
250
253
3
1.2
自閉症
118
122
141
19
15.6
テーマ区分
2009~
2010
増減
2009~
2010
増減率%
出典③より、NEDO 研究評価広報部作成
注:・原資料でのテーマ区分数は 215 である。
・一つの研究プロジェクトが二つ以上のテーマに分類される場合がある。従って予算額は複数テーマで重
複計上される場合がある。
8
NEDO海外レポート
3.
NO.1047,
2009.7.01
ARRA 予算
合計 104 億ドルが、2010 年 9 月 30 日を期限として、研究活動、設備の建設・改修のた
めに使用される。下記は実施項目別の予算である。
表 3 ARRA 予算(目的別)
単位:百万ドル
項目
予算
生物医学研究
8,200
NIH 所外の研究インフラ、研究所・共有科学施設
1,300
NIH 所有の設備の建設・修理・改造
500
有効性の比較研究
400
出典①より、NEDO 研究評価広報部編集
有効性の比較
研究
4%
NIH所内建物・
設備
5%
生物医学研究
78%
NIH所外建物・
設備
13%
図 4 ARRA 予算の用途別割合
出典①より研究評価広報部作成
表中の有効性の比較研究(CER:comparative effectiveness research)とは、特定の症状の
患者の治療が可能な様々な選択肢を厳格に評価・比較する。例えば、競合する医薬品同士
の比較、全く異なるアプローチの比較(例えば外科手術と薬物治療)を研究する。
ARRA 予算の下での研究や設備の建設のために、様々な目的を持った資金提供の機会
(公募)が行われている。全部で 21 あり、この内の 17 は ARRA 限定である。研究、研
究設備、人材育成などのトレーニング、高校生・大学生に夏期休暇中の仕事を提供するも
のなど、様々なものがあるが、ここでは ARRA 限定の研究に関する新しい主要な機会提供
の内の二つを紹介する。金額や採択目標件数は、~2010 年 9 月 30 日までのものである。
9
NEDO海外レポート
3.1
チャレンジグラント
NO.1047,
2009.7.01
少なくとも総額 2 億ドル
200 件以上
グラントの正式名は、
「健康及び科学研究における NIH チャレンジグラント」である。
このプログラムは、15 の領域の研究を支援する。2 年間の資金提供で、生物医学、行動研
究で大きな成果を得られるものが対象となる。それぞれの領域毎に、NIH 及び各研究所・
センターが具体的な課題を設定している。助成への応募者は、課題を選んで応募する。下
記は、15 の領域である。
(01)行動、行動の変化、予防
(02)生命倫理学
(03)バイオマーカーの発見と評価
(04)臨床研究
(05)治療薬、治療方法の有効性の比較研究
(06)実現技術
(07)臨床試験の促進
(08)ゲノミクス
(09)医療格差
(10)医療データ処理のための IT 技術
(11)再生医療
(12)科学、技術、工学、数学教育(STEM)
(13)スマート生体適合材料
-
セラノスティクス(Theranostics)
セラノスティックスは、治療(therapy)と診断(diagnostics)を結合した言葉。
診断と治療の両方の機能を持つ薬剤を患部に選択的に、また適切な濃度で送達する
技術である。
(14)幹細胞
(15)トランスレイショナル・サイエンス(Translational Science)
各領域の下の課題の例として、「(11)再生医療」領域の課題にはどのようなものがある
かを、下記に掲げる。極めて具体的に課題が設定されていることが感じられる。
(1) アルコール性臓器障害における日(24 時間)周期リズムの役割
(2) アルコール性臓器障害における細胞器官及び細胞骨格の役割
(3) 外傷性脳損傷
(4) 内在性カンナビノイドシステムとアルコール病理学
(5) 筋骨格及び皮膚組織の再生
(6) 耳における有毛細胞の再生と維持
(7) 再生医療/組織工学及び創傷修復に関する基礎研究
(8) 有毛細胞の再生と維持
10
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2009.7.01
(9) 頭蓋顔面組織の再生
(10) 消化器官、肝臓、膵臓、腎臓、血液、泌尿器の再生と修復の促進
(11) 人工組織、あるいは再生組織における血管網
(12) 臓器の神経分布
(13) 間葉組織の再生・修復の為の造血幹細胞の使用
(14) 細胞の運命の分化転換あるいは有向再プログラミング(例:膵外分泌細胞から膵
臓ベータ細胞へ)
(15) ベータ細胞複製、あるいはベータ細胞マスの促進
(16) 代替細胞の有向複製および成体幹細胞からの分化
(17) 人工組織の血管網
(18) 人工組織の(支援の)ための先端生体適合材料
(19) 再生と発達のためのモジュール式プラットフォーム
(20) ヒト生体組織マイクロアレイ
(21) ヒト組織工学のための先端画像システム
(22) 幹細胞、人工組織の作成技術の拡大
(23) 再生能力の確立
(24) 細胞ベースの治療法開発(心臓血管疾患、肺疾患、血液疾患)
(25) 神経可塑性の画像化
3.2
GO グラント
総額 約 2 億ドル
件数の規定は無し
グラントの正式名は、
「研究及び研究インフラ向けの壮大な機会」である(GO は、Grand
Opportunities の略)
。2 年間で生物医学、行動研究で大きな成果を得られる研究、あるい
は今後の研究活動に有益な設備に対する助成である。年間コストが 50 万ドル以上のもの
が対象になる。応募者は自分で課題を決めることができる。
GO グラントの目的は、短期の助成が役立ち、新たな分野の基礎を築く、影響力の大き
いアイデアを支援することである。
応募者は特定の課題に取り組むことを提案して良い。あるいは、将来の科学的な進歩を加
速するためにのために設計されたユニークなインフラ/資源を創造することを提案して良
い。
編集・翻訳:
出典:
①
Department of Health and Human Services
Fiscal Year 2010 Budget in Brief
11
久我 健二郎
NEDO海外レポート
NO.1047,
2009.7.01
http://www.hhs.gov/asrt/ob/docbudget/2010budgetinbrief.pdf
②
National Institutes of Health
Summary of the FY 2010 President’s Budget
http://officeofbudget.od.nih.gov/pdfs/FY10/Summary%20of%20FY%202010%20Preside
nt's%20Budget.pdf
③
Estimates of Funding for Various Research, Condition, and Disease Categories
(RCDC)
http://report.nih.gov/rcdc/categories/
④
House Subcommittee on Labor-HHS-Education Appropriations Implementation of
ARRARaynard
http://officeofbudget.od.nih.gov/pdfs/FY10/NIH_ARRA_Implementation_Overview_Sli
des_03262009.pdf
⑤
Recovery Act Limited Competition: NIH Challenge Grants in Health and Science
Research (RC1)
http://grants.nih.gov/grants/guide/rfa-files/RFA-OD-09-003.html
⑥
CHALLENGE GRANT APPLICATIONS
Omnibus of Broad Challenge Areas and Specific Topics
http://grants.nih.gov/grants/funding/challenge_award/Omnibus.pdf
⑦
Recovery Act Limited Competition for NIH Grants: Research and Research
Infrastructure “Grand Opportunities” (RC2)
http://grants.nih.gov/grants/guide/rfa-files/RFA-OD-09-004.html
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NO.1047,
【ライフサイエンス特集】幹細胞
2009.7.01
政策
米国で ES 細胞研究に対する政府助成が解禁へ
-大統領令第 13505 号と NIH によるガイドライン草案の紹介-
目次
1.
概要
2.
大統領令第 13505 号
3.
NIH ガイドライン草案
3.1
ガイドライン草案に関する補足説明
3.2
ガイドライン草案
1. 概要
2009 年 3 月 9 日、オバマ米大統領がヒト胚(はい)性幹細胞(ES 細胞)注1研究に対す
る連邦予算の助成を解禁する大統領令注2に署名した。米国では、2001 年 8 月にブッシュ前
大統領が、倫理上の問題を理由に連邦予算による ES 細胞研究への助成を制限する声明を
発表して以来、それ以降に作製された ES 細胞を使う研究に対する政府助成が禁止されて
いた注3。今回公布された大統領令はこの制限を解除するものであり、今後、米国における
ES 細胞研究に弾みがつくことが期待される。
今回の大統領令では、公布日から 120 日以内に、幹細胞研究に関する国立衛生研究所
(National Institute of Health:NIH)の新しいガイドラインを策定するよう命じられてお
り、NIH はこれを受けて、4 月 24 日に新ガイドラインの草案を発表した。4 月 24 日~5
月 26 日までの期間、この草案に対するパブリックコメントが募集され、今月には最終的
なガイドラインが策定されることになる。
新しいガイドラインが策定されるまでの間は、現在 NIH の助成を受けて実施されてい
る研究プロジェクトにおいても、すでに審査・承認の完了している場合を除いて新規の ES
注1
注2
注3
embryonic-stem-cell. 受精卵(初期胚)を使って作製される幹細胞(stem cell)。体を構成するあらゆる細胞
に生育しうる「多能性」あるいは「万能性」などと呼ばれる性質(pluripotency)と、ほぼ無限に増殖させる
ことができるという特徴を持つ。ES 細胞を作製する際に胚が破壊されることが倫理的な問題となっている。
幹細胞とは、特定の細胞に分化する能力と、長期間にわたり未分化のまま分裂を繰り返す自己複製能力を持
つ細胞のこと。
The President Executive Order 13505, “Removing Barriers to Responsible Scientific Research
Involving Human Stem Cells”. (http://edocket.access.gpo.gov/2009/pdf/E9-5441.pdf)
受精時を生命の発生とする考え方では、ヒト胚(受精卵)の破壊は中絶あるいは殺人と等しいと見なされ
る。前政権は、新たな胚の破壊は殺人であり認められないという考え方に基づき、新たに作製された ES 細
胞を用いる研究への連邦助成を禁じた。
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細胞の利用は見合わされるという。また、NIH に助成を申請し、すでに審査されている研
究プロジェクトに対する助成金公布の決定も新ガイドラインの策定まで保留されるほか、
この間に受理された新規助成申請の審査も、新ガイドライン策定後に行われることになる
という。
本稿では、3 月 9 日に公布された大統領令第 13505 号の全文と、NIH が 4 月 24 日に発
表したガイドライン草案に関する補足説明(Supplementary Information)およびガイドラ
イン草案本文を紹介する。
2. 大統領令第 13505 号
2009 年 3 月 9 日付
大統領令第 13505 号
「Removing Barriers to Responsible Scientific Research Involving Human Stem Cells
(ヒト幹細胞を用いた責任を持って行われる研究の実施を妨げる障壁の撤廃)
」
アメリカ合衆国の憲法および法律が大統領である私に付与した権限により、以下のとお
り命ずる。
第1条
政策(Policy)
ヒトの胚性幹細胞(ES 細胞)および非胚性幹細胞を用いた研究には、身体の自由を奪
う多くの病気や障害に対する理解の促進と、より優れた治療技術の実現につながる可能性
がある。この将来有望な科学分野における過去 10 年間の目覚ましい進歩を受け、科学界
では、この分野の研究が連邦政府による助成を受けられるようにするべきだという意見が
大勢を占めるようになっている。
保健社会福祉省(Department of Health and Human Services:HHS)の下にある NIH
などの組織は、大統領注4の決定に基づき、ES 細胞を使う研究への助成やそのような研究
の実施を過去 8 年間にわたり制限されてきた。本大統領令の目的は、科学研究に対するこ
のような制限を取り除き、ヒト幹細胞研究の発展に向けた NIH の支援を拡大することに
よって、人々の役に立つ重要な新発見や新しい治療法の開発などに米国の科学者がより一
層貢献できるようにすることである。
第2条
研究(Research)
HHS 長官は NIH 所長を通じて、科学的に価値があり、責任を持って行われるヒト幹細
胞研究を、法律が許す範囲内で支援および実施する。これらの研究の中には、ES 細胞を
使うものも含まれる。
注4
ブッシュ前大統領のこと。
14
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第3条
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指針(Guidance)
HHS 長官は NIH 所長を通じて、本大統領令の日付から 120 日以内に、現行の NIH に
よる指針とその他の広く認められているヒト幹細胞研究関連のガイドラインを見直し、本
大統領令と一致する新しい NIH の指針を策定する。これらの見直しの対象の中には、然
るべき保護対策について規定した条項も含まれる。HHS 長官は NIH 所長を通じ、必要に
応じてこれらの指針を定期的に見直し、更新する。
第4条
一般的制約(General Provisions)
(a) 本大統領令は、関連法令に則り、利用可能な予算範囲内で実施されなければならない。
(b) 本大統領令に記載された一切の内容は、以下のいずれに対しても支障やその他の影響
を与えるものではない。
(i) 行政省(executive department)や局庁(executive agency)、あるいはそれらの責任者
に対し、法律によって与えられている権限。
(ii) 予 算 、 行 政 、 あ る い は 法 制 関 連 の 立 案 に 関 す る 行 政 管 理 予 算 局 (Office of
Management and Budget)長官の職務。
(c) 本大統領令は、合衆国およびその省、局庁、団体、それらの職員や被雇用者、またそ
の他すべての人々(の利益)に反するもの(party)の力により、コモン・ローあるいは
エクイティ注5に基づいた法的効力を持つ実質的もしくは手続き的な権利や利益を作り
出すことを意図したものではない。またそのような権利や利益を作り出さない。
第5条
廃止(Revocations)
(a) ES 細胞を用いた研究に対する連邦予算からの資金拠出を制限した 2001 年 8 月 9 日付
の大統領声明は、今後、政府の政策を示す声明としての効力を失う。
(b) 2001 年 8 月 9 日の ES 細胞研究に関する声明を補完する 2007 年 6 月 20 日付の大統領
令第 13435 号も効力を失う。
3. NIH ガイドライン草案
3.1 ガイドライン草案に関する補足説明
2009 年 3 月 9 日、バラク・H・オバマ大統領は大統領令第 13505 号「Removing Barriers
to Responsible Scientific Research Involving Human Stem Cells(ヒト幹細胞を用いた責
注5
common law, equity. 英米法には、法体系の中核となる、判例法主義に基づいたコモン・ロー(普通法)
という概念と、コモン・ローの不足を補うエクイティ(衡平法)という概念がある。エクイティは、コモン・
ローでは妥当な結論が得られない場合に救済法として発達した法分野である。
15
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任を持って行われる研究の実施を妨げる障壁の撤廃)」に署名した。この大統領令では、
HHS 長官が NIH 所長を通じて、科学的に価値があり、責任を持って行われるヒト幹細胞
研究を、法律が許す範囲内で支援および実施すること、また、これらの研究には ES 細胞
を用いたものも含まれることが定められている。
このガイドライン草案の目的は、2009 年 3 月 9 日に発表された大統領令第 13505 号を
遂行することである。また、同大統領令は NIH の資金を使った外部組織による研究に関
するものであるため、これらの研究に NIH が助成を行う際の方針と手順を定めること、
および、助成対象となる研究が倫理的に妥当で、科学的に価値のある、関連法令に則って
実施されるものとなるようにすることも、このガイドライン草案の目的である。NIH 内で
実施されるヒト幹細胞を用いた研究もまた、大統領令第 13505 号および本ガイドラインと
一致した内容の NIH 内部手順に従って進められることになる。
長期にわたり施行されている HHS の規則である連邦規則集 45 C.F.R. Part 46「被験者
の保護(Protection of Human Subjects)」は、研究で利用されるヒト細胞組織の提供者(ド
ナー)らに対する保護対策を定めたものである。これらの細胞組織には、成体幹細胞注6や
人工多能性幹細胞(iPS 細胞)注7などの非胚性幹細胞も含まれる。ヒトを対象とした研究
(human subject research)の中でヒト成体幹細胞あるいは iPS 細胞を使用する場合には、
治験審査委員会(Institutional Review Board)による審査が必要となる可能性がある。また、
同規則に詳しく記されている個々の要件ごとにインフォームド・コンセント注8が必要とな
る可能性もある。詳しくは、以下の Web サイトを参照:
http://www.hhs.gov/ohrp/humansubjects/guidance/45cfr46.htm
ガイドライン草案の中で述べられているとおり、ヒト ES 細胞はヒト胚に由来する細胞
であり、長期間にわたり分化せずに増殖することが可能で、三胚葉注9に分化する能力を持
つ。ヒト ES 細胞は胚から作られるが、ヒト胚そのものではない。
ヒト ES 細胞を用いた研究により、ヒトの発達における複雑な事象についての理解が進
む可能性がある。ガンや先天性欠損などといった極めて深刻な疾患の中には、細胞の分裂
や分化の異常に起因しているものがある。分裂・分化のプロセスにおける遺伝子や分子の
調節機構に対する理解が深まれば、これらの病気が発生する仕組みが明らかになり、新し
注6
注7
注8
注9
生きている人の生体組織から採取することのできる未分化の幹細胞。自己増殖能力と、元来存在していた
組織内の細胞など特定の細胞に分化する能力を持つ。
Induced pluripotent stem cell. 体細胞にいくつかの遺伝子を導入することで ES 細胞と同様の能力を持た
せた細胞のこと。2007 年に京都大学の山中教授の研究グループによって世界で初めて作られた。
informed consent. 十分な説明を受けた上での合意。日本語では、特に医療や治験などの分野で「治療や治
験の内容について患者や被験者が十分に説明を受け、理解した上で、それらを受けることに合意する」とい
った意味で用いられる。
胚発生の過程で形成される層構造のことを「胚葉(germ layer)」という。体を形成するすべての細胞は、発
生初期に生じる 3 つの一次胚葉(三胚葉:外胚葉(ectoderm)、中胚葉(mesoderm)、内胚葉(endoderm))の
いずれかから発生する。
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い治療戦略を立てることが可能になる。ヒト ES 細胞はまた、新薬のテストにも利用する
ことができる。たとえば、ヒト ES 細胞を分化させて作った体細胞を新薬の安全性テスト
などに利用することが可能である。
ヒト ES 細胞に期待されるもっとも重要な用途は、恐らく、細胞療法注10で利用するため
の細胞および細胞組織の作製であろう。今日、
疾患のある組織や損傷した組織の治療では、
ドナーから提供された組織や臓器を移植する方法が一般的である。だが、移植に利用でき
る組織や臓器に対する需要は、供給可能な量をはるかに超えている。幹細胞を誘導して特
定の細胞に分化されることにより、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症、脊髄損傷、火
傷、心臓疾患、糖尿病、関節炎など、さまざまな病気や障害の治療に役立つ、移植用の再
生可能な細胞や組織を作ることができるようになる可能性がある。
NIH は現在、ヒト ES 細胞を利用した研究に対して、前大統領の方針に従って定められ
た規制の下で資金助成を行っている。前大統領の方針では、ヒト ES 細胞を使う研究が連
邦政府による助成を受けるには、利用される ES 細胞が、2001 年 8 月 9 日東部夏時間の午
後 9 時よりも前に作製が開始した(胚が破壊された)ものであること、生殖補助のために
作製され、その後必要がなくなった胚から作られたものであること、インフォームド・コ
ンセントを得た上で提供された胚から作られたものであること、金銭的な対価授受なく提
供された胚から作られたものであること、という条件をすべて満たしていなければならな
かった。
今回のガイドライン草案では、生殖補助のために体外受精によって作製され、その後当
該の目的では必要とされなくなった胚から作られたヒト ES 細胞のみを使う研究に対して、
連邦政府による助成が認められている。成体幹細胞および iPS 細胞を用いたヒト幹細胞研
究に対する助成もまた、これまで通り認められる。このガイドライン草案では特に、ES
細胞を使った研究が NIH から助成を受けるために必要とされる、研究で使う細胞の作製
に関する条件と、インフォームド・コンセントの手順について述べられている。このガイ
ドライン草案では、体細胞核移植注11や単為生殖注12由来の ES 細胞、または最初から研究に
使う目的で体外受精により作製された ES 細胞など、定められた条件に従わない方法で作
製された ES 細胞を使う研究に対しては、NIH による資金助成は認められていない。
定められた条件に従って作られたヒト ES 細胞を利用する研究が NIH による助成を受け
る際には、その研究の性質により、HHS の規則である連邦規則集 45 C.F.R. Part 46「被
注10
注11
注12
cell-based therapy. 移植や再生医療など、細胞を用いた治療法。
somatic cell nuclear transfer. 核を除去した未受精卵に体細胞の核を移植して胚(クローン胚)を作ると
いう、いわゆるクローン技術のこと。
parthenogenesis. 卵と精子が受精して子を作る有性生殖に対し、卵子が受精することなく細胞分裂して子
孫を発生させる生殖様式のこと。ここでは特に、卵に人工的な刺激や操作を加えることで人工的に単為発
生を引き起こし、そこから ES 細胞を作製する技術のことを言っている。
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験者の保護」の中で定められている条件が適用される場合とされない場合がある。より詳
し くは、「Guidance for Investigators and Institutional Review Boards Regarding
Research Involving Human Embryonic Stem Cells, Germ Cells, and Stem
Cell-Derived Test Articles(ヒト ES 細胞、生殖細胞、および幹細胞由来の被検物質を用
いる研究に関する治験医師および治験審査委員会のためのガイダンス)注13」と「Guidance
on Research Involving Coded Private Information or Biological Specimens(暗号化され
た個人情報あるいは生物試料を用いる研究に関するガイダンス)注14」、またはこれらを後
継するガイダンスを参照。
幹細胞をヒト胚から得ることに対する NIH の資金助成は、ヒト胚研究への連邦予算の
充当を禁ずる条項(統合歳出予算法(Consolidated Appropriations Act, 2009, Pub. L.
110-161, 3/11/09))により禁じられている。この条項はディッキー・ウィッカー修正とも
呼ばれている。
このガイドライン草案では、条件に従って作製されたヒト ES 細胞や iPS 細胞を使う研
究であっても、NIH による資金助成を受けることができない場合もあるとしている。
NIH は今回のガイドライン草案の策定にあたり、2000 年に発行された NIH ガイドライ
ンのほか、米国内の各学会や国際幹細胞学会などといった科学者、生命倫理学者、患者活
動家団体、医師などからなる国内外の団体によって発行されている、周到に作成されたガ
イドラインを参考にした。
大統領令第 13505 号の中で定められているとおり、必要に応じて、NIH はこれらのガ
イドラインを定期的に見直し、更新することとする。
以下、ガイドライン草稿本文に続く。
3.2 NIH によるヒト幹細胞研究ガイドライン
I. ガイドラインの範囲
本ガイドラインでは、ヒト幹細胞を使う研究が国立衛生研究所(NIH)から助成を受ける
ために必要とされる条件について述べる。また、本ガイドラインには、ヒト胚性幹細胞(ES
細胞)あるいは人工多能性幹細胞(iPS 細胞)を使う研究のうち、NIH の助成を受けるこ
とのできないものに関するセクションも含まれている。
注13
注14
http://www.hhs.gov/ohrp/humansubjects/guidance/stemcell.pdf
http://www.hhs.gov/ohrp/humansubjects/guidance/cdebiol.htm
18
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本ガイドラインにおいて、
「ヒト ES 細胞」とはヒト胚に由来する細胞であり、長期間に
わたり分化せずに培養液中で増殖することが可能で、三胚葉の細胞および組織になること
が知られているものである。ヒト ES 細胞は胚から作られるものの、これらはヒト胚その
ものではない。
II. 研究で使われるヒト ES 細胞の適格性に関するガイドライン
A 大統領令
大統領令第 13505 号「Removing Barriers to Responsible Scientific Research Involving
Human Stem Cells(ヒト幹細胞を用いた責任を持って行われる科学研究の実施を妨げる
障壁の撤廃)
」には、保健社会福祉省(HHS)長官が NIH 所長を通じて、科学的に価値があ
り、責任を持って行われるヒト幹細胞研究を法律が許す範囲内で支援および実施すること、
また、これらの研究の中には ES 細胞を用いたものも含まれることが記載されている。
B ヒト胚に由来するヒト ES 細胞の適格性
生殖補助のために作製され、その後当該の目的では必要とされなくなった胚に由来する
ヒト ES 細胞が研究のために提供された場合、その細胞を利用した研究は NIH から資金助
成を受けることができる。ただし、そのためには、以下のことがすべて文書によって確認
できなければならない。
1. 生殖補助の目的では必要のなくなった胚の利用に関するすべての選択肢が、ドナーに
なりうる人に対して説明されたこと。
2. 胚の提供を促すような働きかけが行われなかったこと。
3. 胚の提供が行われた医療施設において、胚の提供に同意したか否かが、ドナーになり
うる人に対する医療の質に影響を与えないという方針が定められていたこと。
4. 生殖補助の目的でヒト胚を作製するというドナーの決定と、胚を研究のために提供す
るというドナーの決定が、まったく別に下されたものであったということ。
5. 生殖補助を目的として胚を作製した人から残った胚の提供を受けるにあたり、胚の提
供時にそのドナーによる同意を得ていたこと。つまり、ドナーになりうる人が、生殖
治療後に残った胚を研究用に提供する意思を前もって示していた場合であっても、実
際に胚が提供されるときに、再度、胚の提供に同意するという意思が確認されなけれ
ばならない。また、胚が実際に利用されるまでは、胚を提供する意思を取り消す権利
を持っているということが、ドナーに知らされていたこと。
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6. 生殖補助のためにヒト胚を作製するというドナーの決定が、ヒト ES 細胞を作製して
研究で使うという研究者の計画とは無関係に下されたものであったこと。いかなる場
合にも、生殖治療の担当医と、ヒト ES 細胞を作製した研究者や利用を計画した研究
者が同一人物であってはならない。
7. 生殖補助の目的で胚を作製し、残ったヒト胚を研究用に提供することを決心したドナ
ーから、書面でのインフォームド・コンセントが得られていること。ヒト胚を研究用
に提供するか否かの決定に関する以下の情報が、胚提供の同意書に記載されているこ
と。また、インフォームド・コンセントの中で、ドナーになりうる人とこれらについ
て話し合いが行われたこと。
a. 研究への胚の提供は自由意志により行われるということ。
b. 胚の利用に関するほかの選択肢についてもドナーが理解しているということ。
c. 提供された胚が、研究で使うヒト ES 細胞を作るために利用されるということ。
d. 研究で使うヒト ES 細胞を作製する過程で提供された胚がどうなるかということ。
e. 提供された胚に由来するヒト ES 細胞が、何年間にもわたり維持される可能性もあ
るということ。
f. 幹細胞の利用から医療上の恩恵を受ける特定の人に関する制限や方向性無しに、提
供が行われたということ注15。
g. 提供された胚は、胚のドナーに対して直接、医療上の恩恵を与えることを目的とし
た研究に利用されるわけではないということ。
h. ヒト ES 細胞の作製あるいは利用に先立ち、ドナーを特定できる情報を保管するか
否 か に つ い て の 記 述 ( HHS の 被 験 者 保 護 局 (Office for Human Research
Protections:OHRP)による関連ガイダンスに従うこと。OHRP の「Guidance for
Investigators and Institutional Review Boards Regarding Research Involving
Human Embryonic Stem Cells, Germ Cells, and Stem Cell-Derived Test Articles
(ヒト ES 細胞、生殖細胞、および幹細胞由来の被検物質を用いる研究に関する治
験医師および治験審査委員会のためのガイダンス)注16」と「Guidance on Research
注15
注16
特定の人に適用する、あるいは特定の人に対して適用を制限する、などという条件なく胚が提供された、
ということを言っていると考えられる。
http://www.hhs.gov/ohrp/humansubjects/guidance/stemcell.pdf
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Involving Coded Private Information or Biological Specimens(暗号化された個人
情報あるいは生物試料を用いる研究に関するガイダンス)注17」、あるいはこれらを
後継するガイダンスを参照)
。
i. ヒト ES 細胞を使った研究の成果には商業的な発展につながる可能性があるというこ
と。また、そのような発展があった場合にも、ドナーが金銭的利益やその他の恩恵を
受けることはないということ。
C. NIH から助成を受けるには
NIH の助成を受ける組織は、以下のことを保証しなければならない。
(1)研究に使うヒト ES 細胞が本ガイドラインのセクション II の A および B に従って得
られたものであること。
(2)助成を受ける組織は、連邦規則集 45 C.F.R. Part 74.53 注18の規定に従い、一貫性のあ
る適切な文書管理を行うこと。同行政令には、NIH がそれらの文書を利用する権限に
ついても記載されている。
助成を受ける組織の責任者は、これらの細胞を使った研究プロジェクトに対する NIH
への資金助成の申請および経過報告書の提出を承認する際に、上記の(1)と(2)について保証
しなければならない。
III. 定められた条件に従って得られたヒト ES 細胞またはヒト iPS 細胞を利用するにもか
かわらず、NIH から助成を受けることのできない研究
このセクションでは、ヒト ES 細胞およびヒト iPS 細胞、すなわち長期間にわたり未分
化のまま培養液の中で増殖することが可能であり、三胚葉の細胞および組織になることが
知られている細胞を使った研究の管理について規定する。定められた条件に従って作製さ
れた細胞を用いる研究であっても、それらの細胞が以下のように利用される場合には、
NIH から助成を受けることはできない。
A. ヒト ES 細胞(本ガイドラインに従った方法で得られたものであっても)あるいはヒト
iPS 細胞を、ヒト以外の霊長類の胚盤胞に導入する研究。
B. 動物の交配に関する研究のうち、ヒト ES 細胞(本ガイドラインに従った方法で得られ
注17
注18
http://www.hhs.gov/ohrp/humansubjects/guidance/cdebiol.htm
45 C.F.R. Part 74.53, “Retention and access requirements for records”.
(http://frwebgate.access.gpo.gov/cgi-bin/get-cfr.cgi?TITLE=45&PART=74&SECTION=53&YEAR=200
0&TYPE=TEXT)
21
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たものであっても)あるいはヒト iPS 細胞の導入が生殖細胞系に影響を与える可能性
があるもの。
IV. NIH から助成を受けることのできないその他の研究
A. 幹細胞をヒト胚から得ることに対する NIH の資金助成は、ヒト胚研究への連邦予算の
充当を禁ずる条項(統合歳出予算法(Consolidated Appropriations Act, 2009, Pub. L.
110-161, 3/11/09))により禁じられている。この条項はディッキー・ウィッカー修正と
も呼ばれている。
B. 本ガイドラインでは、体細胞核移植や単為生殖由来の ES 細胞や、最初から研究に使う
目的で体外受精により作製された ES 細胞など、定められた条件に従わない方法で作ら
れた ES 細胞を使う研究に対しては、NIH による資金助成は認められない。
(NIH 所長代理、Raynard Kington, M.D., Ph.D.)
編集・翻訳:桑原 未知子
出典:The President Executive Order 13505
(http://edocket.access.gpo.gov/2009/pdf/E9-5441.pdf)
Draft National Institutes of Health Guidelines for Human Stem Cell Research
(http://stemcells.nih.gov/policy/2009draft.htm)
(参考資料)
NIH の幹細胞情報関連サイト:http://stemcells.nih.gov/policy/
NIH の助成関連ページ:http://grants.nih.gov/grants/guide/notice-files/NOT-OD-09-085.html
22
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【ライフサイエンス特集】再生医療
軟骨や骨の再生を促す新しい組織足場材料(米国・英国)
-スポーツ外傷や関節炎の治療に役立つ可能性のある研究-
マサチューセッツ工科大学の技術者らが、膝などの関節に移植すると骨や軟骨の成長を
促す働きをする新しい組織足場材料注1を開発した。
マサチューセッツ工科大学の材料科学工学教授で、ケンブリッジ大学の William
Bonfield とともに今回の共同研究チームを率いた Lorna Gibson 注2は、
「この足場材料を使
って、スポーツ外傷や関節炎による軟骨損傷などの新しい治療方法を実現できる可能性が
ある」と言う。
マサチューセッツ工科大学とケンブ
リッジ大学の科学者らが、膝などの
関節の修復を助ける組織足場材料を
開発した。上の層(緑色の矢印)が
骨の成長を促し、下の層(オレンジ
色の矢印)が軟骨の成長を促す。
Photo courtesy / Lorna Gibson.
「軟骨の一部を損傷した場合、損傷部位とその下にある骨を取り除き、その場所に今回
開発した足場材料を注入すればよい」と Gibson は言う。Journal of Biomedical Materials
Research の最近の号に掲載されている一連の記事の中で、この足場材料に関して研究者ら
が解説している。
共同研究者の一人であったケンブリッジ大学の Andrew Lynn が起業した英国企業、
Orthomimetics 社が、この技術の使用許諾を取得している。同社は最近、欧州において臨
床試験を開始する許可を受けた。
今回開発された足場材料は 2 つの層で構成されており、一方の層は骨を、もう一方の層
注1
注2
tissue scaffold. 血液細胞以外のほとんどの細胞は、生体内ではタンパク質、糖などからなる足場(細胞外
マトリックス)に付着して存在している。生体組織の欠損部位で細胞が自分自身の細胞外マトリックスを作
れるようになるまで、供給する必要のある人工の細胞外マトリックスのことを「tissue scaffold(足場材料)」
と呼ぶ。
Lorna Gibson は、Matoula S. Salapatas Professor 教授職にある。この職位は、かつてマサチューセッツ
工科大学に在籍していた Vasilios S. Salapatas 博士による寄付を受けて設けられた、同博士の亡母の名を
記念した教授職である。
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は軟骨を模している。この材料を関節に移植すると、新しい骨と軟骨が作られるように、
骨髄内の間葉幹細胞を刺激することができるという。今のところ、この技術が使えるのは、
必要な材料が直径 8mm 程度ですむ小さな損傷に限られている。
この足場材料の有効性は、ヤギを使った 16 週間の研究で確認された。ヤギの膝にこの
材料を移植したところ、骨と軟骨の成長が効果的に促進されたという。
Cambridge-MIT Institute 注3によって実現されたこの共同プロジェクトは、骨の成長を
助ける足場材料を開発しようと考えたところから始まった。研究チームが最初に目を向け
たのは、ウシ腱由来のコラーゲンと多糖鎖グリコサミノグリカンを使った、皮膚組織の足
場材料を作る既存の技術だった。骨の構造を模倣するために、彼らはこの材料にカルシウ
ムとリン酸塩を加え、コラーゲンでできた足場材料を石化(mineralize)する技術を開発し
た。
チームは次に、骨と軟骨の両方を再生するための 2 層からなる足場材料(「骨軟骨材料」
と呼ばれる)の作成に取り組むことを決めた。彼らは、骨組織の層と軟骨組織の層の境界
が徐々に移行する形状になっている骨軟骨材料を作成する技術を開発した。
「体内での形状と同じになるように、このような設計を目指した。これは、この技術の
特徴のひとつだ。
」Gibson は言う。
これまで軟骨損傷の治療方法には、あまり多くの選択肢がなかった。現在行われている
のは、軟骨から骨へとドリルで穴を通し、骨髄を刺激して幹細胞を放出させる方法や、同
じ関節内のいくらか負荷の低い場所から軟骨とその下層骨を移植する方法、あるいは体内
から採取した軟骨細胞を研究室で刺激して成長させ、再度体内に移植する方法などである。
今回開発された新しい足場材料を使えば、これらの方法と比べて、より効果的で低価格、
かつ簡単で痛みも少ない治療方法が実現できるようになるだろう、と Gibson は言う。
この研究へのマサチューセッツ工科大学からの参加者は、機械工学と生物工学の教授で
ある Ioannis Yannas、Harvard-MIT Division of Health Sciences and Technology (HST)
の Myron Spector、材料科学工学専攻の大学院生 Biraja Kanungo、最近同大学で PhD
注4
を取得した Brendan Harley(現在はイリノイ大学に在籍)と Scott Vickers、HST に所属
する大学院生 Zachary Wissner-Gross らである。また、ハーバード大学医学部の Hu-Ping
Hsu 博士もこのプロジェクトに参加した。
注3
研究者と実業家と教育者による競争力・生産性・企業家精神の促進を目指し、2000 年にケンブリッジ大学
とマサチューセッツ工科大学が設立した共同研究組織。
注4
ハーバード大学医学部とマサチューセッツ工科大学による教育・研究機関。ボストン周辺のティーチング
ホスピタルや各種研究センターなどとも連携している。
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ケンブリッジ大学からは、William Bonfield 教授、Orthomimetics 社の CEO となった
Andrew Lynn、Neil Rushton 教授、Serena Best、Ruth Cameron が参加した。
こ の 研 究 は 、 Cambridge-MIT Institute 、 Whitaker-MIT Health Science Fund 、
Universities UK 、 Cambridge Commonwealth Trust 、 お よ び St. John's College
Cambridge から資金助成を受けて実施された。
この記事は、2009 年 5 月 13 日付の MIT Tech Talk にも掲載された注5。
翻訳:桑原 未知子
出典:New tissue scaffold regrows cartilage and bone
http://web.mit.edu/newsoffice/2009/cartilage-0511.html
(Copyright Massachusetts Institute of Technology. Used with Permission.)
注5
http://web.mit.edu/newsoffice/2009/techtalk53-25.pdf
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【ライフサイエンス特集】再生医療
NIST が生体組織工学で利用できる標準物質の頒布を開始(米国)
再生医療のための生体組織工学は、現在成長中の新しい分野である。米国立標準技術研
究所(National Institute of Standards and Technology:NIST)は先週注1、同研究所として
は初めて、この分野で利用できる標準物質注2の頒布を開始した。今回 NIST が開発したの
は、代表的な生体組織材料にそれぞれ異なる間隙率注3を持たせた 3 種類のサンプルである。
NIST が新しく開発した生体組織工学向け標準物質の X 線(マイクロ)コンピュータ断層
撮影(CT)画像注4。左から RM 8395、RM 8396、RM 8397。Credit: NIST
これらの立体的な組織足場材料注5は、数年がかりで開発されてきた生分解性の材料であ
る。壊れた生体組織を修復する際に、これらの材料を体内に移植することによって、患者
自身の細胞の移植や増殖に適した構造を持つ足場を作ることができる。移植された足場材
料は体内で徐々に吸収され、最終的には生体組織に置き換わる。今のところ、このような
足場材料がもっともよく利用されているのは損傷した骨の修復治療であるが、そのほかの
用途についても研究が進められている。
3 次元足場材料には、生体適合性と生分解性のほかにも、多くの物理的な要件がある。
たとえば間隙率、つまり細孔の大きさは重要な要素のひとつである。足場材料内の細孔は、
細胞が中に入りやすく、また栄養を受け取りやすいように十分な大きさである必要がある
が、細胞が正常に増殖できるかどうかも、細胞を直接取り巻く環境によって影響を受ける。
細孔が大き過ぎる、あるいは細孔同士の間隔が離れ過ぎていると、細胞は正常に結合する
注1
注2
注3
注4
注5
本稿の原文は 2009 年 5 月 5 日付けのプレスリリースであるため、その前週となる。
standard reference material あるいは reference material. 1 つ以上の指定された特性について均質で安定
している、何かを測るときの基準として利用できるように作成された物質のこと。測定機器や測定手順の較
正、実験時の比較サンプルなどに利用される。
全体の中で間隙(かんげき)、つまり「すきま」が占める容積の比率。
CT はもともと断面画像を得る技術であるが、画像処理技術の発展により、コンピュータの処理結果を 3 次
元画像として表示することも多くなっている。
tissue scaffold. 血液細胞以外のほとんどの細胞は、生体内ではタンパク質、糖などからなる足場(細胞外
マトリックス)に付着して存在している。生体組織の欠損部位で細胞が自分自身の細胞外マトリックスを作
れるようになるまで、供給する必要のある人工の細胞外マトリックスのことを「tissue scaffold(足場材料)」
と呼ぶ。
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ことができなくなる。
今回頒布の開始された 3 つの新しい標準物質は、直径約 20 ミリメートル、高さ 5 ミリ
メートルのディスクであり、直径約 200 マイクロメートルのポリエステルの支柱でできた
十字交差構造を持つ層を重ねたものである。各層の支柱の間隔を変えることにより、それ
ぞれのディスクに 47%(平均支柱間隔が 200 マイクロメートル)
、60%(同 300 マイクロ
メートル)
、69%(同 450 マイクロメートル)という異なる平均間隙率を持たせた。これ
らは、生体組織工学を応用する際に、一般的に必要とされることの多い細孔サイズの範囲
である。
標準物質の材料として選ばれたポリカプロラクトンは、もともと傷口などの縫合糸とし
て利用されていた生分解性の高分子化合物であり、水や日光に曝されない限り、比較的強
く、安定した性質を持っている。ポリカプロラクトンは、米国食品医薬品局(Food and Drug
Administration:FDA)により再生医療における移植組織としての利用が認可されている
材料であるが、NIST の標準物質は体内での利用を目的とするものではない注6。
これらの標準物質の頒布が開始できたのは、FDA、米国立衛生研究所(National Institute
of Health : NIH) 、 お よ び 米 国 材 料 試 験 協 会 (American Society for Testing and
Materials:ASTM)のワーキンググループ WK6507「Reference Scaffolds for Tissue
Engineering」による協力を得て、数年にわたって実施してきた取り組みの成果である。
NIST による頒布物の中で、標準物質はもっとも広く流通し、利用されている。NIST
では 1,000 種類を超えるさまざまな標準物質を作成、分析、頒布しており、これらは世界
中で、製造業、臨床化学、環境モニタリング、電子工学、犯罪の科学捜査などを含むさま
ざまな分野で、機器と試験方法の正確さをチェックするために利用されている。
詳細は、NIST の標準物質に関する Web ページを参照:
http://ts.nist.gov/measurementservices/referencematerials
翻訳:桑原 未知子
出典:NIST Issues First Reference Material for Tissue Engineering
http://www.nist.gov/public_affairs/techbeat/tb2009_0505.htm#tissue
注6
NIST の公開する標準物質は、測定機器や測定手順の較正、実験時の対象サンプルなどとして利用されるも
のであり、実際に体内で利用されることはない。
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【ライフサイエンス特集】グリーンバイオ技術
植物モノづくり
植物を用いた化学原料の持続的な生産方法を開発(オランダ)
オランダのワーヘニンゲン大学の植物研究グループと微生物学グループが、イタコン酸
を産出できるジャガイモを共同開発した。
イタコン酸は、ファインケミカルの製造原料であるなど、化学工業における重要な原料
物質である。ワーヘニンゲン大学は、この化学原材料をバイオ技術によって製造すること
に成功したもの。これは、化学原材料の、より持続的(サステイナブル)な製造方法へ貢献
したことに意義がある。
化学原材料を植物を用いて生産するには、その植物の成長のために太陽エネルギーを利
用するので特段に「サステイナブル」である。研究者の一人である Ingrid van der Meer
は、「例えば、根茎は葉と比べてはるかにサステイナブルであることは既に分かってい
る。」と言っている。「今後は、植物のどの部分、細胞のどの部分にイタコン酸がもっと
も多く合成され貯蔵されるか研究したい。」とも述べている。
一般的に、化学産業は基礎化学品(platform chemicals)の出発原料として化石資源の誘導
体を使用するが、化石資源の利用は CO2 排出の原因となり、また化石原料は有限でもある。
化石燃料の枯渇までには更に 50 年があるが、今日、化学原材料の代替、望むらくは再生
可能な資源を開発する必要性が高まっている。このような観点から、ワーヘニンゲン大学
は植物を使って化学物質を産出し、従来の石油化学製品を置き換えることができないかと
いう研究をしている。
植物は、化学工業にとって化学原材料を供給する魅力的な生産システムを形成している。
植物は、一つの特定の物質を何千、何万トンという化学分野の要求を満たす大容量のスケ
ールで生産できる。 さらに、生来、植物は、分子育種(molecular breeding)技術によって、
比較的容易に適応できる優秀な「化学製造装置」を内蔵している。太陽エネルギーを利用
して植物が化学原材料を製造することはエコフレンドリーな合成方法でもある。
ワーヘニンゲン大学は、植物による化学物質の製造において、主に潜在的に大容量で使
われ、かつ比較的高価で、複数の化学製品の原料となりうる汎用化学品・化学品中間体に
焦点を絞っている。このような化学物質は基礎化学品とも呼ばれるもの。これらは膨大な
化学プロセスの基礎物質として用いられる。
この用途に用いられる化学物質の一つがイタコン酸である。イタコン酸はクエン酸に似
た構造を持つ天然化合物である。イタコン酸は種々の化学製品の製造に用いられる。例え
ばイタコン酸は、MMA 樹脂(ポリメチルメタクリレート)のモノマーであるメタクリレー
トモノマー(全世界で年間 3 百万トン生産されている)製造の出発物質として用いられる。
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自然界では、イタコン酸は細菌(アスペルギルス・テレウス菌)によって生産される。本
細菌の商業ベースの菌株によって、既にイタコン酸が工業生産されているが、この生産方
法はコスト面・エネルギー面から大規模生産には至らず、年間 1 万トン程度にとどまって
いる。
ワーヘニンゲン大学の研究者の第一の成功は、この細菌のイタコン酸の生産に関与する
遺伝子コードを同定したことである。その後、この遺伝子情報は遺伝子組換技術によって
ジャガイモに導入され、更に化学物質製造工場としての機能を拡大し、予想どおり植物(ジ
ャガイモ)はイタコン酸の製造能力があることが分かった。
科学者たちはまだ、実際にこのシステムを展開するための有望な方法を究明できてはい
ない。彼らは、ジャガイモへのイタコン酸の貯蔵を更に高められるか、及び如何にしてイ
タコン酸を最も効率よく収穫できるかを研究している。
ワーヘニンゲン大学の研究者は、将来的には、現在、石化資源から作られている多くの
化学物質の製造を代替するため、植物はサステイナブルな資源として使われると確信して
いる。本発見は小さなステップであるが、この理想実現にとっては重要な一歩である。
翻訳:吉村 大輔
出典:
http://www.wageningenuniversiteit.nl/UK/newsagenda/news/itaconzuur050309.htm
(© 2009 Wageningen UR. All rights reserved. Used with Permission.)
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【ライフサイエンス・バイオテクノロジー特集】
遺伝子組換え作物
遺伝子組換え作物の栽培方法に関する規制レポート(EU)
本稿では、遺伝子組み換え作物の栽培に関する EU の規制について、欧州委員会の発表
資料を紹介する。
まず、「1.
概要」としてニュースを、「2.
紹介する。
「3.
報告書サマリー」として、報告書の要旨を
技術的分離措置」では、報告書の中から、分離栽培方法に関する部分を抜
萃して紹介する。
1.
概要
欧州連合(European Union: EU)の加盟国は、この数年で、慣行農業注1と有機農業、およ
び遺伝子組換え作物(genetically modified crops、以下 GM 作物)栽培の共存のための法規
導入に関して大きく前進した。GM 作物の栽培が徐々に拡大するのに伴い、このような法
的枠組みの導入が進んできた。欧州委員会は加盟国や関係者との連携の下、穀物毎の技術
的分離方法に関する勧告を引き続き策定していく計画である。2009 年 4 月に欧州委員会
から発表された、遺伝子組換え作物と慣行農業および有機農業との共存に関する第 2 回レ
ポートでは、こうした点が主な結論として述べられている。
第 1 回レポートが発表された 2006 年に比べて 11 ヵ国多い 15 の加盟国が、これまでに
共存に関する法律を制定した。他の 3 加盟国が欧州委員会に法案の予告を行っている。
加盟国が導入した共存方法は、行政手続きや分離方法の技術的特性という点で、加盟国
により異なっている。こうした違いは、非 GM 作物に GM 作物が混入する可能性に影響を
与える農業上、気候上の要因といった地域的な差異を反映している。欧州委員会が国別共
存対策の効率をさらに向上させる目的で設立した欧州共存委員会(European Coexistence
Bureau: ECoB)は加盟国と連携して、作物別のベストプラクティス(最良実施例)文書を
作成中である。
欧州委員会は、共存政策に関する補償ベースのアプローチ[GM 作物と非 GM 作物の混
入から生じる経済的損失に対する補償]は正しい選択肢であると確信しており、この件でさ
らなる協調対策を導入する必要性を感じていない。また、加盟国間の協力を促進し、分離
対策に関して科学に基づく実用的なアプローチを推進する努力を強化すると約束している。
2011 年に欧州委員会は進捗状況を報告することになっており、これには国別共存対策の導
注1
JAS 法で規定された特別栽培農作物(農薬使用回数が半分以下、化学合成肥料の使用料が半分
以下などと定義される)との対比で用いられるようになった言葉で、その地域で一般的に行われ
ている生産方式を指す。 (参照:農業でよく使われる用語集 慣行農業
(http://www.noah.ne.jp/syokuiku/yougo/yougo_ippann.html))
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入と実施に関する最新情報が含まれる予定である。
1.1
背景
GM 作物と非 GM 作物や有機農業生産物との共存を確実にする措置は、消費者と生産者
に選択肢を与えるものであり、個人の嗜好と経済的機会を調整するものである。GM 作物
については、栽培の許認可が与えられる前に環境面や健康面の問題に取り組む必要がある
一方で、共存対策が経済的なインパクトを持つことにも留意が必要である。
共存ルールの下で適用されている分離措置により、GM 作物の栽培が可能になる一方で、
GM 作物が偶発的に混入したことで被る経済的な不利益から非 GM 作物の生産者を保護す
ることができる。2003 年の欧州委員会の勧告に従い、共存措置は科学的根拠があり、均衡
がとれているものでなければならず、全体として GM 作物の栽培を禁止するような規制で
あってはならない。
EU における GM 作物の栽培は、世界の他の地域に比べて極めて限定的である。今日 EU
で栽培されている GM 作物は、ある種の害虫による疫病に耐性を持つよう遺伝子を組み替
えたトウモロコシだけである。この GM トウモロコシは 2008 年に、チェコ共和国、ドイ
ツ、スペイン、ポルトガル、ルーマニア、およびスロバキアで栽培され、その栽培面積は
EU のトウモロコシの全作付面積の 1.2%に当たる約 10 万ヘクタールであった。
詳細については以下のサイトを参照されたい。
http://ec.europa.eu/agriculture/coexistence/index_en.htm
出典:Commission publishes new report on national strategies to ensure coexistence of
genetically modified crops with conventional and organic farming
(http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/09/532&format=H
TML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en)
2.
報告書サマリー
2.1
はじめに
・GM 作物に関する EU のルールは包括的である。
①GM 作物の栽培は、厳密な安全性評価に基づいた許認可が必要である(環境面、健康
面の影響)
。
②GM 作物由来の食料や飼料は、GM 作物を使用していることを示すラベルを貼り、消
費者に通知しなければならない。
③GM 作物が慣行農業や有機農業と、持続的かつ確実に共存できるよう、技術的、行政
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的手続きが取られなければならない(たとえば、隣接するほ場の植物との他家受粉の
制限)
。
・欧州では GM 作物の栽培はまだ比較的小規模である(2008 年の数字)
。
①全世界での作付面積:1 億 2,500 万ヘクタール。
②EU の作付面積:6 加盟国あわせて 10 万ヘクタールで、主としてスペインで栽培され
ている(ある種の疫病に耐性のある MON810 と呼ばれる GM トウモロコシ 1 種類の
み)
。
2.2
GM 作物との共存について
・欧州の諸国でこれまでに実施された GM 作物との共存措置に関する概観が述べられてい
る。政府(特にまだ自国で措置を導入していない政府)や利害関係者は、この新しい政
策分野での各国のアプローチを比較するのに役立てることができる。
・GM 作物との共存に関する欧州委員会の作業を要約している。
2.3
主な結論
・欧州諸国は近年、GM 作物との共存に関する法律の策定という点で大幅に前進した。
・GM 作物の生産は、若干拡大した(それでも非常に限定的である)
。
・GM 作物は、現段階で既存の非 GM 農業に対して明白な損害を与えていない。
・GM 作物との共存措置は国によりまちまちである。これは農業条件(ほ場の規模、気象
条件など)が地域により異なることも、その理由の一つである。
・隣接する国同士で異なるルールが設定されていても、現段階では問題が起きていない。
2.4
各国政府と EU のそれぞれの役割
一般的に、地域の農業条件、気象条件を考慮すれば、最も効果的かつ効率的な GM 作物
との共存措置を特定できるのは、EU ではなく各国政府である。
・地域の条件により、ある種の作物の共存が難しいところでは、その作物の GM 品種だ
け、あるいは非 GM 品種だけを栽培できるエリアを設けることができる。そうした措
置の実施は、そのエリアの全ての農民による自発的な決定に基づかなければならない。
こうすることで、彼らは従来作物、有機栽培、GM 作物のうちどれかを選択すること
ができる。
・GM 作物と非 GM 作物の混入から生じる経済的損失の可能性に対する責任ルールの設
定
全ての EU 加盟国は、
それぞれの民法で経済的損失に対する補償制度を設けている。
GM 作物との共存を対象とした特別な補償制度を持つ加盟国もある。EU はこの件に
関する各国の民法に干渉したり、標準化[EU が統一的なルールを設定すること]したり
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する必要性を認めない。
しかし、どのように GM 作物との効果的な技術的共存措置を策定するかに関して、政府
が明らかにより良いガイダンスを求めていることに鑑み、EU はガイドラインを策定すべ
く欧州共存委員会(European Coexistence Bureau: ECoB)を設置した。
2.5
今後の見通し
EU は以下の措置を実施する。
・各国の対策が EU 内の競争を歪めることのないよう、GM 作物との共存に関して持続
的に監視および報告する
・各国の当局とのネットワーキングを継続する
・GM 作物との共存措置に関する、作物別の技術的ガイダンスを策定する
・GM 作物種子に関する新たなルールを策定する必要性について、経済的な評価を行う
・さらなる研究を実施する
出典:Citizens' summary U report - coexistence of GM crops with conventional and
organic farming
(http://ec.europa.eu/agriculture/coexistence/com2009_153_sum_en.pdf)
3.
技術的分離措置
大部分の加盟国はこれまでに、食品や飼料に含まれる GM 作物の比率が、設定された上
限(0.9%)を超過しないよう共存措置を策定している。しかし GM 作物の混入を可能な限
り抑えようとする加盟国もある。また、将来的に GM 作物に対する上限(ゼロではない)
を設ける可能性を持つ加盟国もある。
12 の加盟国は、1 つ以上の作物で分離措置を採用した。一般的に空間的な分離措置は、
GM 作物のほ場と、他家受粉可能な隣接する非 GM 作物との間の隔離距離を置くことで実
施される。この隔離距離は時には、部分的あるいは全面的に、GM 作物用のほ場と非 GM
作物用のほ場との間のバッファーゾーン(緩衝地帯)を設けることで確保できる。バッフ
ァーゾーン内で栽培、
収穫された他家受粉可能な非 GM 作物は、GM 作物として扱われる。
バッファーゾーンの設定が、隔離距離を補うものとして強制的に導入されている加盟国も
ある。開花時期の違いを利用することを許容している加盟国も 2 ヵ国ある。
ある加盟国は近隣諸国に対して義務的な協議を求めており、また別の加盟国は、自国の
土地が[隣国で]GM 作物を栽培する際の隔離距離として利用される場合に、書面での合意
を求めている。
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現段階で国別の分離措置が取られているのはトウモロコシで、ジャガイモ、テンサイ、
飼料用ビート、小麦および菜種に対する措置を導入している加盟国もある。
6 ヵ国では、GM 作物用のほ場と有機農業作物用のほ場の分離措置は、GM 作物用のほ
場と慣行農業作物用のほ場の分離措置よりも厳格なものとなっている。他の 6 ヵ国でも、
同様の分離措置が導入されている。種子の生産に使用されるほ場の場合、異なる分離措置
が規定されている加盟国もある。
分離措置は加盟国によってまちまちである。たとえば、トウモロコシ生産の場合、GM
トウモロコシと慣行農業で生産されるトウモロコシとの隔離距離は 25 メートル~600 メー
トル、有機栽培されるトウモロコシとの隔離距離は 50 メートル~600 メートルが設定され
ている。
ある加盟国は、GM 作物の生産者に対して、既存の養蜂場との間でも隔離距離を遵守す
るよう求めている。
すべての加盟国で、GM 作物の生産者と GM 種子を扱ったり GM 作物を収穫したりする
業者は、分離対策を講じなければならない。GM 作物ほ場に隣接する非 GM 作物の生産者
が分離措置の共同実施に自発的に合意した場合にのみ、彼らはある種の[結果]責任を取る
ことが求められる。種子生産者との共存に関しては、この責任を種子生産者に求める加盟
国もあれば、GM 作物の生産者に求める加盟国もある。
こうした業者のほ場間では分離措置を実施しないことを業者間で合意することを認める
加盟国もあれば、すべてのケースでの分離措置実施を義務づける加盟国もある。
農業の様々な作業中(種まき、収穫、収穫後の作業、輸送および貯蔵)における分離を
規制する加盟国もあれば、隣接するほ場からの分離にのみ取り組む加盟国もある。
出典:REPORT FROM THE COMMISSION TO THE COUNCIL AND THE
EUROPEAN PARLIAMENT on the coexistence of genetically modified crops
with conventional and organic farming
(http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=COM:2009:0153:FIN:E
N:PDF)
編集:久我 健二郎、原訳:吉野 晴美
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【ライフサイエンス特集】ナノ粒子
抗腫瘍遺伝子のガン細胞への選択的送達(EU)
ガンの研究者達は、さまざまな障害にもかかわらず、この致死率の高い病気と闘うため
の実験的治療法として、遺伝子治療の研究を進めてきた。今回、欧州横断的な研究チーム
によって、ナノ粒子を用いて抗腫瘍性遺伝子を選択的にガン細胞へ送達する技術が開発さ
れたことにより、ガンの遺伝子治療の取り組みへの足がかりができた。研究者らは、2011
年中には人体での臨床試験を開始できるだろうという期待を示している。この研究の成果
は、最近、
「Cancer Research 注1」に掲載された。
研究チームによれば、これまで、遺伝子を安全かつ効率的に運搬できる媒体がなかった
ことが、遺伝子治療の臨床利用への可能性を阻んできたという。彼らは、過去の研究の中
で、腫瘍を持つマウスの体内で、ポリプロピレンイミンデンドリマー注2のナノ粒子を使っ
て、ウイルスを用いないトランスフェクション注3により遺伝子を腫瘍細胞に導入できるこ
とを発見していた。
また、安全性を向上させるために、ナノコロイドの安定性について詳しく調査し、導入
された遺伝子の精密な生体内分布を観察したという。
「遺伝子治療には、安全で効果的なガン治療を実現しうる大きな可能性がある。しかし
そのためには、遺伝子のガン細胞への導入方法など、依然として大きな課題が残っている。」
論文執筆者の一人であるロンドン大学の Andreas Schatzlein 博士はこのように言う。
「ナ
ノ粒子がこれほど選択的に腫瘍を標的としたのは今回が初めてであり、これは大きな前進
だ。
」
今回遺伝子の送達に用いられたポリプロピレンイミンデンドリマーは、DNA と結合す
ると、腫瘍細胞の中に入ったときにだけ溶解する安定した複合体を形成するという。
「生物
物理学的な特性解析を行った結果、DNA と結合した状態にあるデンドリマーが、溶液の
中で自然に超分子集合体を形成する性質を持つことがわかった。この集合体は、透過性と
保持特性が高く、実験で使った腫瘍組織内で溶けるために必要な性質をすべて持ちあわせ
ていた」という。
今回の研究はマウス実験のみによるものであったが、研究チームは、ヒトを対象とした
臨床試験も 2 年以内に開始できるだろうという楽観的な見方を示している。この技術を使
注1
注2
注3
米国ガン学会の発行している学術雑誌。http://cancerres.aacrjournals.org/
polypropyleneimine dendrimer. デンドリマーとは、中心から規則的に分岐した構造を持つ樹木状の高分
子のことであり、ポリプロピレンイミンという化合物のデンドリマー。
transfection. 細胞内に核酸などの生体物質を導入すること。
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NEDO海外レポート
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えば、健康な細胞はそのまま維持されるため、制御の難しいガンの治療への有効性が証明
できるかもしれない。
フランス国立衛生医学研究所(Institut National de la Sante et de la Recherche
Medicale:INSERM)の Georges Vassaux 博士率いる研究チームは、ナノ粒子に閉じこめ
られた遺伝子が、ガン細胞を破壊する能力を持つタンパク質を作り出すように細胞に命令
するということを明らかにした。
「ナノ粒子内の遺伝子は、細胞の中に入るとそこがガン環境であることを認識し、遺伝
子スイッチがオンになる」と Schatzlein 博士は言う。
「その結果毒性が生じるが、この毒
は健康な組織には影響を与えず、有害な細胞だけに作用する。
」
研 究 者 ら に よ れ ば 、 遺 伝 子 の 導 入 さ れ た 細 胞 が ヨ ウ 化 ナ ト リ ウ ム 共 輸 送 体 (Na/I
symporter:NIS)というタンパク質を作り出すことが、マウスの全身スキャンによって確
認されたという。また、導入遺伝子の発現はガン細胞内でのみ見られ、健康な細胞の中で
は観測されなかったという。
「NIS 遺伝子導入後の遺伝子発現の画像化は、最近ヒトでも実証された技術だ。今回の
成果は、ガンの遺伝子治療における新しい手法として、ナノ粒子の持つ可能性に光を当て
るものだといえる。
」研究者らはこのように強調する。
この研究は、スペインの Instituto Aragonés de Ciencias de la Salud、フランスのボル
ドー大学、英国のナショナルヘルスサービス(NHS)ロンドン事務所などの参加も得て実施
された。
翻訳:桑原 未知子
出典:Nanoparticles: the missing link in cancer gene therapy
http://ec.europa.eu/research/headlines/news/article_09_04_23_en.html
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【ライフサイエンス特集】医薬品
革新的医薬品イニシアティブによる官民共同研究がスタート(EU)
2009 年 5 月、欧州委員会と欧州製薬業団体連合会(EFPIA 注 1)により、15 件の新しい医
薬品研究プロジェクトが選定された。総助成額は 2 億 4,600 万ユーロであり、革新的な医
薬品を市場に迅速に投入することを目的としている。これらのプロジェクトは、薬剤の安
全性を向上させるだけでなく、健康問題(糖尿病、疼痛、重度のぜんそく、精神疾患など)
への理解を深める上でも役立つことが期待される。またこれらのプロジェクトでは、医薬
品の開発に従事する研究者と臨床医学者への教育も支援する。
今回のプロジェクトは、官と民(今回は、欧州委員会と製薬業界)のパートナーシップ
である「ジョイント・テクノロジー・イニシアティブ(JTI: Joint Technology Initiative)注
2」の中の、「革新的医薬品イニシアティブ(IMI:
Innovative Medicines Initiative)注 3」の
第一期公募により選定された。今回の選定により、IMI は重要なマイルストーン(一里塚)
に達した。このイニシアティブは、一般的で前競争的(競争的なものとなる前)な知識を
高めることを目的に掲げており、大規模なコンソーシアム(連合)に所属する研究機関、
患者団体およびステークホルダーらと連携して、製薬関係の競争者達が自身の保有する資
源を共同出資する初の機会となる。欧州委員会の投資額は 1 億 1,000 万ユーロであり、製
薬業界からは 1 億 3,600 万ユーロが現物(in-kind)で拠出されている。選定されたプロジェ
クトは現在、最終協議段階に入っている。
「この特別な官民パートナーシップが実を結んで嬉しい。私達の目標は、欧州がバイオ
製薬研究のチャンピオンズリーグとなることだ。経済危機の折、このような協力モデルは、
EU の競争力における目標と、国民の健康への需要の双方について、適切な対応策といえ
る」と、欧州委員会の科学・研究担当委員ヤネス・ポトチュニックは話している。
バイエル・ヘルスケア(Bayer Healthcare)社の CEO であり EFPIA の会長でもある
Arthur Higgins は次のように話す:「産業界と欧州委員会のこの革新的な協力モデルが、
欧州全域で大変積極的に受け容れられて嬉しい。IMI はデータの共有と知識の交換に関す
る新しい規範となるだろう。」
European Federation of Pharmaceutical Industries and Associations
JTI の詳細については海外レポート 1018 号「官民の新たな研究開発のパートナーシップ JTI が
開始(EU)」も参照されたい。http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/1018/1018-05.pdf
注3
http://imi.europa.eu/index_en.html
注1
注2
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患者により良い製薬をより早く届けることを目指す
今回選定されたプロジェクトは、製薬の研究開発(R&D)プロセスにおいてボトルネック
となっている遅れの主な原因に取り組む。欧州の製薬業界の競争力を高めるとともに、患
者のためにより良い医薬品をより早く開発するための支援を行うことを総合的な目標とし
ている。これらのプロジェクトによって、製薬の安全性と有効性の予測能力が高まり、研
究者間のデータ交換が増進され、製薬部門の教育と訓練が改善されるだろう。
選定プロセスにステークホルダーから多大な関心が集まる
公募の申請件数は約 150 件に上った。最初のレビューでは、共同プロジェクトチームを
結成するために、EFPIA の会員団体の中から、研究機関、中小企業、学術機関、患者団体、
および規制機関で構成された最良のコンソーシアムが選定された。厳格な科学的基準と、
特定されたボトルネックに対する潜在的な影響力を基にして、これらのチームから 15 件
のプロジェクトが選定された。
公共部門及び中小企業の研究開発能力を飛躍的に高めるための欧州の助成
EFPIA の各製薬企業は、スタッフ、研究設備、機材及び臨床研究を含む研究開発資源を
提供することによってプロジェクトに参加する。欧州委員会(EC)の資金は、他の参加者(公
共機関、中小企業、患者団体、学術機関)のみに割り当てられる予定となっている。
今後の予定
15 件のプロジェクトの契約交渉は 2009 年 11 月までに終了させなければならない。第
二期公募は 2009 年秋の予定であり、腫瘍学、感染症の診断、慢性炎症性疾患、および知
識マネジメントに関するプロジェクトが公募される。
背景
2007 年に設立された IMI は、最初に創立された JTI の一つである。2008 年~2013 年
期の IMI の総予算は 20 億ユーロである。(欧州委員会と産業界が 10 億ユーロずつ拠出。)
欧州共同体と産業の双方が代表を務める IMI 共同事業(JU: Joint Undertaking)は、
2007
年の設立以降、IMI の実施、提案の公募、およびグラント(助成金)の授与に責任を担っ
ている。
IMI についての詳細はウェブサイト注 4 や IP/08/662 注 5 を参照されたい。
注4
注5
http://imi.europa.eu, http://www.imi-europe.org
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/08/662&format=HTML&aged=
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共同技術イニシアティブについての詳細は:http://cordis.europa.eu/fp7/jtis/を参照され
たい。
15 件の研究プロジェクトのリストと、5 件の共同技術イニシアティブの名称については、
以下を参照されたい。
選定されたプロジェクトと期待される成果について
1.非遺伝毒性の発癌機構(Non-genotoxic carcinogenesis)
期待される成果:発癌の予測における早期バイオマーカー注 6 の役割を分析し、その信頼
性を高める。
2.イン・シリコ(in silico)注 7 で毒性を予測するエキスパートシステム(expert system)注 8
期待される成果:薬理的な二次予測を行うためのイン・シリコのエキスパートシステム。
純粋に化学的性質に関連した毒性を予測する注 9 ためのイン・シリコのエキスパートシス
テム。
3.トランスレーショナル注 10 な安全性バイオマーカーの検証
期待される成果:新しい特異的(specific)で感受性(sensitive)がある、安全性バイオマー
カーと、ヒトサンプルの個別のアッセイ(分析)。非臨床研究と早期臨床研究の間にお
ける予測の改善を目指す。
4.製薬の便益およびリスクの監視強化
期待される成果:医薬品および薬剤疫学の新しい方法論。
5.島細胞(islet cell)の研究
0&language=EN&guiLanguage=en
バイオマーカー:生体内の生物学的変化を定量的に把握するために、生体情報を数値化/定量
化した指標。生物学的指標ともいう。
注7
「in silico」は、「コンピュータの中で(を用いて)」の意。「in vivo」(生体内で)や、「in
vitro」(試験管内で)に対応して作られた用語。
注8
AI(人工知能)技術の一つ。ある分野における専門知識を体系的に蓄積して推論規則を適用す
ることで、蓄積されている既知情報から未知の判断や知見を導き出すコンピュータ・システム。
注9
化学物質の構造を手がかりに、有害性(毒性値)などを定量的に算出する仕組み(QSAR)を指し
ていると思われる。
注 10
トランスレーション(翻訳)とは、医学や薬学の基礎的な研究成果を臨床に応用することを目
的にチームで行う研究。一例として、新薬の開発においては基礎研究ののち、前臨床試験、第Ⅰ
~Ⅲ相試験、承認審査といった多くのトランスレーションの過程があり、多くの人々が係わる。
一言で言えば、基礎研究成果と医療実施の間にある過程。
注6
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期待される成果:1 型及び 2 型糖尿病の予防的治療と治癒的治療の開発の助けとなる、
β細胞機能を保存する手法を特定できるように、β細胞の増殖、分化、アポトーシス(細
胞死)についての理解を深める。
6.血管エンドポイント(endpoint)注 11 のためのサロゲートマーカー(surrogate marker)注 12
期待される成果:糖尿病の臨床研究における、微小血管/大血管のハードエンドポイン
ト注 13 のための、バイオマーカーおよびサロゲートエンドポイント注 14。ならびに、新た
な治療法をテストするための、イン・ビーボ(in vivo)もしくはイン・シリコの新ツール。
7.疼痛の研究
期待される成果:様々な種類の疼痛を伝達する経路と機構の理解向上。患者を層別化す
るためのマーカー。ならびに、新しい鎮痛薬を効率的にテストするための疼痛の定量的
評価。
8.精神疾患の新しい治療法を開発するための新ツール
期待される成果:臨床的評価に適した血液マーカー、CSF(脳脊髄液)マーカー、造影
手法、および/もしくは電気生理学的手法。これらは、精神疾患に密接に関連する薬理
学的な感受性マーカーを用いて、前臨床モデルに使用される。
9.神経変性疾患
期待される成果:アルツハイマー病、パーキンソン病、及び多発性硬化症の患者への新
しい治療法の臨床的効果について、より予測の精度を高めるための、動物モデルとヒト
モデル。
10.重症の喘息の理解向上
期待される成果:新しいバイオマーカーの妥当性評価を可能にし、メカニズム試験/治
験用の診断基準の策定を可能にする、大規模で長期的な患者コホート注 15。
11.慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の治験成果の記録
注 11
エンドポイント:治療行為の有効性を評価するための評価項目。
サロゲートマーカー:真のエンドポイント(true endpoint)との科学的な関係が証明されている
ようなバイオマーカー。
注 13
ハードエンドポイント:バイアス(偏り)に左右されない、客観的に実証される身体的測定値。
例えば心臓病の治療において、血圧はハードエンドポイント、患者が訴える胸の痛みはソフトエ
ンドポイントである。
注 14
サロゲート(代用)エンドポイント:短期間で評価できる暫定的なエンドポイント。
注 15
コホート研究(分析疫学における手法の一つ。特定の因子に暴露した集団と暴露していない集
団について、研究対象となる疾患への罹患率を調査・比較することで、因子と疾患の関連を検討
する研究手法)に用いられる母集団。
注 12
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期待される成果: COPD 患者の経験について理解を深める体制をつくり、治験成果を
測定するための優れた戦略策定につなげる。
12.欧州薬剤研究養成ネットワーク(European Medicines Research Training Network)
期待される成果:欧州のバイオ製薬研究訓練プラットフォーム。欧州全域の新興の科学
/技術の訓練コースを効率的な編成にするために、持続可能で学際的な産学連携の手法
を提供する。
13.医薬品訓練プログラムの安全科学
期待される成果:安全性に関する全研究分野を統合した訓練プログラム。動物の安全性
データとヒト/患者の安全性データを関連付ける。これにより、新しい医薬品をより総
体的に評価する。
14.製薬医学(Pharmaceutical Medicine)注 16 の訓練プログラム
期待される成果:大学院で製薬医学(プロセスや成果の品質管理を含む)の訓練プログ
ラムを実施するために、学術センター間のネットワークを構築する。
15.医薬品安全性監視(Pharmacovigilance)の訓練プログラム
期待される成果:予防的な医薬品安全性監視と、医薬品のリスク管理を支援するために、
産業界と規制機関から、医薬品安全性監視の専門家を養成するための特別プログラムを
作成する。
ジョイント・テクノロジー・イニシアティブ(JTI)について
JTI は、EU の第 7 次研究開発枠組み計画(FP7)の新たな主要構成要素である。JTI は、
公的研究機関、私的研究機関、企業間の新たなパートナーシップを創造する手法である。
研究の焦点は、研究と技術開発が欧州の競争力と QOL 注 17 に貢献できる領域である。
これまでに 5 件の共同技術イニシアティブが策定されている。①IMI(革新的医薬品)、
②ARTEMIS(組込み型コンピュータ・システム)、③Clean Sky(航空および航空輸送)、
④ENIAC(ナノエレクトロニクス技術 2020)、⑤FCH(水素・燃料電池)。
翻訳:大釜 みどり
出典:http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/09/802&format=HTM
L&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
注 16
臨床薬理学、毒性学、生物統計などを包括的に研究する医学領域の学問。
Quality of Life (QOL): 生命の質とも訳される。人間としてより充実した生活を送るために、生
活を物質的な面から量的にとらえるのではなく、生活の質や人生の質を重視しようとする考え方。
狭義では、患者の日常生活をいかに苦痛の少ないものにするかという意味で用いられる。
注 17
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【ライフサイエンス特集】医療機器
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携帯電話の利用
携帯電話を使った超音波画像診断技術(米国)
-手のひらサイズの医用画像撮像装置-
ワシントン大学(セントルイス)のコンピュータ・エンジニアらが、医療とコンピュー
タの技術に小型化・単純化の手法を取り入れて、USB 超音波プローブと携帯電話を組み合
わせることにより、小型で持ち歩けるコンピュータ環境と手のひらサイズの医用画像撮像
装置を開発した。
自ら設計した省電力撮像装置を使
って、同僚である David Zar の頸動
脈の超音波画像を撮る William D.
Richard(左)。
(David Kilper/WUSTL Photo)
同大学のコンピュータ理工学准教授である William D. Richard 博士と同研究員の
David Zar は、2008 年にマイクロソフト社から提供された 10 万ドルの資金を使って、
Microsoft Windows Mobile
注1
搭載のスマートフォン 注2 と接続して利用できる、市販用
USB 超音波プローブを開発した。超音波プローブをスマートフォンと接続して使えるよう
にするためには、電力消費やデータ転送速度から画像生成アルゴリズムにいたるまで、プ
ローブの設計や機能のあらゆる面を調整する必要があった。これらの取り組みの結果、腎
臓、肝臓、膀胱、眼などの撮像や、前立腺や子宮のスクリーニング検査および生体組織検
査(生検)を行う際の腔内撮像、また、静脈内注射や中心静脈カテーテル挿入時の静脈・
動脈撮像に利用できる、スマートフォンに対応した USB 超音波プローブを作ることが可
能になった。この成果は、医療および地球規模のコンピュータ利用形態の両方に大きな影
響を与えることになるだろう。
「プローブと携帯電話を使うことにより、画像をさまざまな場所へ素早く送ることがで
きるようになった。
」Richard はこのように言う。
「救急車や緊急治療室にこれらのスマー
トフォンが置かれるようになる日を想像してみて欲しい。さらに言えば、このようなタイ
注1
注2
マイクロソフト社の携帯端末向けソフトウェア。(オペレーティングシステム(OS)とアプリケーションの
パッケージ製品。
コンピュータを内蔵した携帯端末であり、携帯電話、PHS、PDA(Personal Digital Assistance)などの機能
を併せ持つ高性能携帯電話のこと。
42
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プの携帯電話は、Windows OS の稼働する完全なコンピュータだといえる。
発展途上の国々
では、熟練した医療従事者は少ないものの、人口の 90%近くが携帯電話の電波を利用して
いる。そのような環境においては、携帯電話が重要なコンピュータとしての役割を果たし
うる。
」
プローブと USB で接続されたスマート
フォンの画面に映し出された Zar の頸動
脈の画像。
(David Kilper/WUSTL Photo)
「21 世紀の医療を特徴付けているのは、画像診断の利用だ。
」Zar は言う。
「しかし、世
界中の人口の 70%は、画像診断を受けられない環境で暮らしている。電気の通っていない
非都市地域では、MRI や CT スキャナの利用が難しいためだ。
」
装置の小型化
Zar によれば、この新しいシステムでは、発展途上国の遠隔地で暮らす人々に対して、
携帯電話を使ってデータを収集・送信する基本的な方法を教えることになるという。これ
らのデータは、何マイルも先、あるいは地球の裏側ほどにも離れた場所にある、画像を分
析・診断できる専門家のいる中央施設へと送られる。携帯電話用のソフトウェアとプロー
ブ用のファームウェアを Zar がプログラムし、消費電力の低いプローブの電子設計を
Richard が担当した。Richard が初めて超音波システムの設計に携わったのは 25 年前のこ
とである。当時のシステムはキャビネット並の大きさであったが、その後、彼が小型化を
進めた結果、今では 1 インチ注3×3 インチの小さな回路基板となっている。携帯型の超音
波プローブは通常、高価なものでは 3 万ドル程度で販売されている。しかし、今回開発さ
れた USB プローブの中には 2,000 ドル以下で販売されるものもある。さらに、最終的に
は 500 ドルで販売できる装置の開発を目指しているという。
この技術のもう一つの有望な用途に、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne
Muscular Dystrophy:DMD)患者の介護者向けの装置がある。DMD は、幼児から少年期
の男子が罹患して、20 代後半で命を奪われることの多い退行性疾患であり、今のところ有
効な治療方法は見つかっていない。病気の進行を遅らせるために現在もっとも一般的に行
われている処置は、毎日のステロイド投与である。しかしステロイド療法では、投与量に
よって、行動障害や体重増加などといった副作用が生じることが多い。近年、研究者の間
注3
1 インチ = 2.54cm
43
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では、筋肉組織の物理的変化からステロイドの効果を判断できるということが知られるよ
うになった。これらの筋肉の変化は超音波検査で測定することが可能であるため、今回開
発された技術を利用して、副作用を最小限に抑えつつ、効果を最大限引き出せるように、
ステロイドの投与量を調整できるようになる可能性がある。
超音波プローブの電子回路は、25 年前に
はキャビネット並の大きさであったが、小
型化が進み、今では 1 インチ×3 インチの
小さな回路基板になっている。
(写真左)
ワシントン大学(セントルイス)の
Richard と Zar は、小さな携帯型の超音波
撮像装置とスマートフォンを結びつけた。
(写真右)
「つまり、車椅子などを使って検査のために患者を定期的に病院やクリニックへ連れて
行く代わりに、世話をする人が超音波検査の方法を覚えて、患者の筋肉の状態を監視する
ことができるようになる。
」Zar は言う。
「この手法を用いれば、ステロイドの投与量を効
果の出る最低限の分量に抑えることができるため、患者と介護者の生活の質をより一層向
上させることができる。また、うまくいけば患者の寿命が伸びることも期待できるだろう。
我々はこの用途の実現を本当に楽しみにしている。スキャンにかかる時間はほんの 1 分程
度であり、取得したデータをクリニックへ送信するだけで、検査の結果を受け取ることが
できるようになる。ワシントン大学(セントルイス)の医学部で DMD の研究を行ってい
るグループも、我々の開発した装置に非常に興味を示しており、自分たちの研究プランに
取り入れることができるのではないかと期待を寄せている。
」
第三世界での実証試験
Richard と Zar はまた、マサチューセッツ工科大学の研究者らと協力して、発展途上国
における一連の医療技術実証試験の中にこの技術の試験を含めるという可能性についても、
話し合っているという。
「我々は今、この技術を使ってこれまでに実現してきたことを活用し、できるだけ多く
の用途を見つけ出すという段階にきている」と Richard は言う。
このような用途のひとつに、軍事的な利用がある。たとえば兵士が多数の金属片で負傷
したような場合に、小さな携帯型プローブと電話機を使って衛生兵が素早く診断し、その
兵士を別の場所へ移送するべきか、あるいは戦場のどこかで治療可能であるかを判定する
ことなどができるようになる。
44
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2009 年 2 月に実施されたマイクロソフト社のイベント「Microsoft Research Techfest
2009」で、Richard と Zar は、この携帯電話対応型 USB 超音波プローブの完成品のデモ
ンストレーションを行った。また、4 月 14~16 日にワシントン DC で実施された「2009
World Health Care Congress」という医療関連の会議では、Zar がこの技術に関する発表
を行った。
翻訳:桑原 未知子
出典:Ultrasound imaging now possible with a smartphone
http://news-info.wustl.edu/tips/page/normal/13928.html
(Copyright 2000-2009, Washington University in St. Louis, One Brookings Drive, St.
Louis, MO 63130. Used with Permission.)
45
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【個別特集】
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レアメタル
レアメタルの回収及び代替材料の研究開発動向(欧米)
白金、パラジウムおよびロジウムなどの白金族グループは、金と銀と同じ希少資源(レ
アメタル)である。それらは、高価であり、希少で重要な工業材料である。白金族は重要
な触媒であり、高導電率で耐腐食性が高いため電子回路に使用される。また、希少で見栄
えが良いため、宝飾品や蓄財品としても人気がある。近年、それらの金属に依存した多く
の新しい技術が増えているが、多くの場合、価格が商業化の妨げになっている。したがっ
て、レアメタルの供給を維持するために幾つかの戦略が実施されている。
例えば
1.リサイクリング-これらの金属は一般に不活性で、工業プロセスや電子機器から回収
し、簡単に再生することができる。
2.触媒プロセスの効率改善-例えばナノテクノロジーのような新しい技術は、特定のプ
ロセスで必要な触媒金属の総量を減らしている。
3.代替材料-例えば、鉄やコバルトのようなより豊富に存在する元素を使った生体模倣
触媒は、触媒中のレアメタルにまさる可能性がある。燃料電池は、この分野における技術
開発の駆動力となっている。
上記の戦略に関してEUと米国内で実行された新しい研究開発には以下のものがある。
1.リサイクリング
・Chematur Engineering 社(スウェーデン、カルスクーガ)とジョンソン・マッセイ社 (英
国、ロンドン)は、超臨界水の酸化を使用し、触媒から貴金属を再生するプロセスを開発
した注1。一般的な触媒の再生は焼却処理によるが、この新技術は、AquaCat と呼ばれる燃
焼環境の改善を提供している。すなわちその技術は、外部ソースからの熱エネルギーをほ
とんど必要せず、コストの高い排気ガス処理プロセスも無くし、材料の物理的ハンドリン
グの総量を減らすことにより、格納を容易にしている。
・ユミコア社(ベルギー、ブリュッセル)は、世界最大の携帯電話のリサイクル業者で、
50,000 台の携帯電話機を処理し、金と銀をそれぞれ1kg ずつ抽出している。ユミコア・
アントワープ工場では、年間約 250 万台の携帯電話を処理している。金は携帯電話のトラ
ッキング回路に使用される。また、シリコンチップは腐食防止のため金に含浸される。銀
はハンダ付け材料として使用されている。また携帯電話は、プラチナ、パラジウムそして
注1
http://www.platinummetalsreview.com/dynamic/article/view/47-4-163-166
46
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ハフニウムなどの高価な金属を少量含んでいる。電話のバッテリーからはリチウムとニッ
ケルを回収することができる。
ユミコア社は、スクラップされたコンピュータやその他の電子製品を回収しているが、そ
の中から年間 6t 程度の金を回収している。ドイツの競合会社である Norddeutsche
Affinerie 社は、ハンブルグに拠点を置き、同じような回収品から毎年、約 3.5tの金、約
1 億 1000 万ドル相当を回収している注2。
・カーディフ大学(ウェールズ)とバーミンガム大学(イングランド)の科学者らは、道
路粉塵から高価な金属をリサイクルする方法の研究をしている。全ての車の触媒コンバー
タは、白金を使用している。しかしながら、白金は何年もたつうちに排気パイプから徐々
に抜け出てくる。研究者らは毎年、何 kg もの白金が街路や道に飛散していると見積もっ
ている。科学者らは、白金を再生使用するためのコスト効率が良く、継続可能な方法を開
発するために回収に十分な高濃度で白金が存在する場所を探そうとしている。
1 つの主要な場所は、道路清掃車のコンテナである。触媒コンバータに存在する白金、パ
ラジウムとロジウムは、非常に希少なもので、数 ppm の濃度の場所を採掘するのでも経
済性がある。道路粉塵サンプルの代表的な分析値は、数百 ppb から 2ppm の希少金属含有
率であった注3。また研究者らは、金属を捕集するバクテリアあるいは重力と磁気を使用し
た金属の選別を行い、様々なゴミから高価な金属を抽出している注4。
・英国の火葬場の約半分は、火葬後の遺体の灰に残る高価な金属のリサイクル計画に参加
している。金歯や宝石などが火葬中に溶融され、灰から回収することが可能である。墓地
および火葬場協会が取引の主体となってこの計画を進めている注5。
2.触媒プロセスの効率改善
・バスク(スペイン、ビルバオ)大学の科学者らは、より安く効率的にメタノール燃料電
池を製造出来る新しい材料を開発した。研究者は、プラチナの比率を 1%まで減らすこと
が可能な合金触媒化合物を発明した。これらの合金は、例えばニッケル、ニオブ、アンチ
モンまたはルテニウム元素から構成され、特に、一酸化炭素の分子を効率的に二酸化炭素
へ変換させるユニークな特徴を持っている。二酸化炭素の気体は触媒に吸着しないため、
触媒工程において有利に働く。もし、白金合金がアモルファス状であれば、電気伝導特性
は改善され、腐食しにくくなる(有効な中間体として作用する)。さらに、結晶状態の白
金よりも 80~100 倍の動作能力がある注6。
注2
注3
注4
注5
注6
http://business.timesonline.co.uk/tol/business/industry_sectors/technology/article5860606.ece
http://www.sciencedaily.com/releases/2007/07/070703172040.htm
http://cat.inist.fr/?aModele=afficheN&cpsidt=14640739
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/7941646.stm
http://www.basqueresearch.com/berria_irakurri.asp?Berri_Kod=1729&hizk=I
47
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・米国 エネルギー省エイムズ研究所(アイオワ州、エイムズ)の研究者らは、水素燃料電
池に使用するパラジウムの代替品を開発中である。パラジウムは、燃料電池のプロトン交
換膜に悪影響を与える可能性のある水蒸気および一酸化炭素を除去することによって水素
を浄化するのに使用される。代替金属はパラジムよりも安く、容易に入手できるもので、
その中を水素が通過でき、そして、長くて薄いチューブにできるだけの十分な延性を持つ
ものでなくてはならない。また代替金属は、酸素と水蒸気が通常、水素中の不純物として
存在するため、耐酸化性を持っていなければならない。さらに、水素を取り込む時に繰り
返し冷熱(加熱・冷却)サイクルを受けても、もろくならないことが必須である。科学者
らは、そうした特性を念頭に置いて合金設計を行っている注7。
・ライス 大学(テキサス州、ヒューストン)とジョージア技術工学協会 (ジョージア州、
アトランタ)の科学者は、金とパラジウムのナノ粒子が、トリクロロエテン(TCE)を浄
化する上で、最も効果的な触媒であることを発見した。TCE は、米国の地下水中に存在す
る最もよく見られる毒性の強い有機有害物質の一つであり、金属電子部品を脱脂するため
の溶媒として広く使用されている。科学者らは、パラジウム触媒の 4 形態の効果を比較し
た:バルクパラジウム、酸化アルミニウム基板上のパラジウム粉末、純粋なパラジウムナ
ノ粒子およびパラジウム原子の薄い皮膜で覆われた金のナノ粒子からなるハイブリッドナ
ノ粒子である。金属粒子が徐々に小さくなるに従い、粒子中の原子は高いパーセンテージ
で粒子の表面に存在することが認められる。反対に粒子が大きくなると、原子は他の化学
物質と接触が不可能な金属の内部に閉じこめられる。例えば、バルクパラジウムでは、粒
子表面に存在するパラジウム原子は 4%以下だった。純粋なパラジウムナノ粒子では、金
属表面上に 24%が存在していた。金-パラジウムナノ粒子中では、パラジウム原子の
100%が反応可能な位置にある。科学者たちは、金-パラジウムナノ触媒は、バルクパラ
ジウム触媒よりも約 100 倍の速さで TCE を分解することを発見した。そして、この研究
は他の貴金属触媒反応の効率を向上させることに応用でき、そうなれば必要な金属量を減
らすことができる注8。
他のグループにおける最近のレポートでは、ナノ粒子金属を使用することにより、同様
な改善効果を見出すことができている注9注10。
・ペンシルバニア州立大学(ペンシルバニア州、University Park)の研究者らは、水素を
発生させる微生物電解質セル中のプラチナ触媒を、効率性を失うことなくステンレス鋼ブ
ラシと置き換える方法を見出した。ステンレス鋼ブラシカソードは、白金触媒カーボンク
ロスと同じ比率と効率で水素を生産できる。研究者らは、ステンレス鋼のカソードを使用
して、0.6V の印荷電圧において、約 5.5A/立方フートを発生させた。ステンレス鋼ブラシ
を生産するためにはより多くのステンレス鋼を必要とするものの、ステンレス鋼ブラシは、
白金触媒カソードより 5 倍程度安い。白金が必要なために微生物燃料電池の開発が抑制さ
注7
注8
注9
注10
http://www.ameslab.gov/final/News/2007rel/Palladium.html
http://nanotechweb.org/cws/article/tech/21620
http://news.brown.edu/pressreleases/2009/03/palladium
http://www3.lehigh.edu/News/RCEASnews_story.asp?iNewsID=3129
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NEDO海外レポート
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れてきたが、ステンレス鋼による代替品は科学者らの研究推進を可能にするだろう。研究
者らは、ブラシの間に取り込まれる水素気泡を最小にするなどの改良を行うことによって
ステンレス鋼の効率をさらに良くすることができると考えている注11。
3.代替材料
・ジョセフフーリエ大学 (フランス、グルノーブル)の科学者らは、貴金属触媒を必要と
しない分子システムによる水素生産に成功している。研究者らは、光増感(光エネルギー
を捕捉)と触媒(水から水素を開放するために集められたエネルギーを使用)、両方の能
力がある分子システムを開発した。今のところ、水素を製造に使用するために開発された
全ての技術システムは、貴金属に依存している。新しいシステムは、コバルトベース触媒
を使用し開発された。自然中の超分子は、光増感と触媒の両方の役割を演じている。光の
助けを受けながら、有機分子からの電子は、水から水素を分離するのに使われている。こ
れは、貴金属(パラジウム、ロジウムおよび白金)を使用したシステムと比較して、コバ
ルトによる触媒作用がより高効率だということである。ルテニウムは、今も光増感剤とし
て利用されている。この取り組みにおける次のステップの一つは代替物質を見つけること
であろう。有機分子を追加するのを避けるために水をプロトンと電子の供給源として使用
することが最終的ゴールになるため、この結果は、水素を光生成する方向にむけて、かな
りの進展を示している注12。
・エイムズ研究所(アイオワ州、エイムズ)のチームは、亜鉛化合物の新しい一群を発見し
た。これは他の材料における幾つかの物理的特性と性質を帯びるように調整されたもので、
その範囲は銅から希少元素であるパラジウムまで、あるいは磁石、半導体さらには超電導化
合物にまでおよんでいる。こうした化合物の組成は約 85%が亜鉛であり、それらは大変安
くユニークな特性のため、ある状態の下では、レアメタルに置き換わる可能性もある。
・ロスアラモス国立研究所 (ニューメキシコ州、ロスアラモス)の科学者らは、固体
高分子形燃料電池(PEFC)カソード用の非貴金属/ヘテロ原子ポリマーのナノ化合物
触媒で、低コストの新しい分野の開発を行った。この触媒は、より高い酸素減少反応
特性を長時間維持する能力がある。最適化を行わなくても、コバルト-ポリピロール
混合触媒によって約 0.15 W/ cm2 パワー密度を可能とする H2-O2 燃料電池を 100 時間
以上安定して使用することができる注13。
元翻訳
(出典:SRI Consulting Business Intelligence Explorer Program)
注11
注12
注13
http://live.psu.edu/story/38214
http://www2.cnrs.fr/en/1112.htm
http://www.nature.com/nature/journal/v443/n7107/full/nature05118.html
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土橋
誠
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【エネルギー・環境】
CO2 回収技術、太陽技術、高燃費車・トラック技術に新助成(米国)
オバマ政権の広範で積極的な研究開発政策を反映し 3 億ドルを投入
2009 年 6 月、米国エネルギー省のスティーブン・チュー長官は、様々なクリーンエネ
ルギー技術(石炭からの二酸化炭素(CO2)回収、太陽光発電、高効率な乗用車・トラック
など)の促進のため、3 億ドル強の助成を行うことを発表した。この動きは、エネルギー
を使用し生産する方法を転換するとともに何百万もの雇用を創出するという包括的戦略を
掲げた、オバマ政権のコミットメントを反映している。
「エネルギー効率や風力エネルギーといった既存技術をただ導入するだけでも、新しい
雇用の創出や、CO2 による汚染を低減させられる可能性は非常に高い。しかし、私達は転
換力がある新しい解決策を開発する必要もある」とチュー長官は話す。「一科学者として、
私はこれらのブレークスルーが手の届く範囲だという楽観的見方をしている。今回のよう
な投資は、これらを達成するための重要な役割を担っている。」
今回の取組みには以下の 3 分野が含まれる。
①高効率自動車
チュー長官は、高効率な商用車と乗用車の開発のために、最大で 2 億 4 千万ドルを投資
することを発表した。この助成には、米国エネルギー省(DOE: Department of Energy)の
年間予算とともに、米国再生・再投資法(ARRA: American Recovery and Reinvestment
Act)の約 1 億 1 千万ドルも含まれている。
助成金の公募は以下の二分野に分けられている:
(1) 効率的な「クラス 8 のトラック注 1」のための、システムレベルでの技術開発、統合
および実証、
(2) 軽量自動車注 2 の先進的な駆動系技術。
上述(1)の目標は、クラス 8 の大型トラックの車両輸送の効率を 50%増加させることで
ある。助成を受けるプロジェクトは、空力抵抗の抑制、車両重量の軽減、および、動力伝
達系のハイブリッド化(エネルギー変換機器は一種類だけでなく二種類)などの、先進的
エンジン技術および自動車システム技術の効率の改善に重点を当てる。
注1
クラス 8 のトラックは、3 万 3 千ポンド(約 14.96 トン)以上の商用大型トラックと定義され
ている。
注2
米国環境保護庁(EPA)の分類によると、総重量が 8,500 ポンド(約 3,856kg)以下の乗用車
や軽トラック(スポーツ用多目的車(SUV)、ミニバン、ピックアップトラックなど)を指す。SUV
やミニバンが軽トラックに分類されている点に注意。
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上述(2)のプログラム分野では、乗用車用の効率的なエンジンおよび駆動系装置の研究開
発の促進に取り組む。コスト競争力があるこれらの要素によって、2009 年の標準車と比較
して、ガソリン車については少なくとも 25%燃費が向上し、ディーゼル車については少な
くとも 40%燃費を向上できるだろう。
今 回 の 資 金 提 供 公 募 (FOA: Funding Opportunity Announcement) の 完 全 版
(DE-FOA-0000079)はウェブサイト注 3 で参照されたい。
②太陽エネルギー
チュー長官は先進的な太陽光発電(PV)技術の研究、開発および設計を促進するために、
24 件の新しい太陽エネルギープロジェクト注 4 を選定したことを発表した。
これによって、
太陽光発電のコストの削減を支援する。競争して選ばれたプロジェクトはオバマ大統領の
米国再興・再生法から最大 2,200 万ドルの助成を受け、民間のパートナーからはコスト分
担(マッチングファンド)で 5,000 万ドル強の資金援助を受ける。
新しいプロジェクトは自動組立工程の開発から半導体工程に及ぶ。プロジェクトは製造
コストと製品コストの削減を目標としており、多くの太陽光発電産業に短期的な影響を与
える可能性がある。
さらに、チュー長官は、国内の太陽エネルギー設備導入訓練のインフラ開発に対して、
最大 2,700 万ドルを投資する計画を発表した。今回の取組みに対する助成として、DOE
は、2,200 万ドルの年間予算だけでなく、米国再生・再投資法からの 500 万ドルも使用す
る。
DOE による今回の取組みは、グリーンジョブ注 5 を創出するというオバマ政権のコミッ
トメントを強調しており、太陽産業の全労働者を訓練し、再生可能発電の大幅な増加を支
援する準備を確実に行うことを目標にしている。この訓練の対象者には、太陽光発電、太
陽熱暖房、および太陽熱冷却の各産業に従事する設置業者、技術者、販売員、および関係
するその他の労働者が含まれる。
今回の FOA には、以下の二種類の助成対象が含まれる。
http://www.grants.gov
http://www1.eere.energy.gov/solar/pv_supply_chain.html
注5
「環境に対する影響を持続可能な水準まで減じる経済的に存立可能な雇用」と定義される。2007
年 6 月、国際労働機関(ILO)総会で提唱された。
注3
注4
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・国立機関(一ヵ所):モデル訓練カリキュラムの開発・普及、訓練の最優良事例、
および、太陽エネルギー関連職のキャリアを形成する(career pathway)ための情報の推
進を行う。
・選定された地域訓練プロバイダー(数ヵ所):太陽エネルギー・インストラクター
向けの上級コース(太陽技術、教育設計、およびコース開発)を開設する。
③ CO2 の回収・貯留
CO2 排出量削減のための技術開発というオバマ政権のコミットメントの一環として、チ
ュー長官は 9 件のプロジェクト注 6 に 1,130 万ドルを助成することを発表した。この 9 件の
プロジェクトは、将来の石炭ガス化複合発電(IGCC: integrated gasification combined
cycle)の発電プラントで CO2 の削減ができるような、CO2 燃焼前回収技術を開発する。
今回の FOA「石炭ガス化プラント用の CO2 燃焼前回収技術注 7」は、2009 年度予算のも
のである。
CO2 燃焼前回収プロセスは、燃料を水素と CO2 のガス状混合物に変換する。その後、CO2
は分離され、水素が燃焼される(CO2 は排ガスに排出されない)。燃焼後回収プロセスと
比較して、燃焼前回収プロセスは CO2 の圧力と濃度がかなり高い。このことは、新しい
CO2 回収技術(膜、溶剤、吸着剤など)が燃焼前回収プロセスに採用される可能性をもた
らしている。
本日の発表は、発電施設および工業施設、学術機関、ならびにその他の全米で活動して
いる機関の間を結ぶ、CCS 関連のインフラに直接投資を行うものである。選定された 9 件
のプロジェクトは次の 3 つの分野を含む:①高温膜および高圧膜、②高効率溶剤、③固体
吸着剤。
編集:NEDO 研究評価広報部、原訳:大釜 みどり
出典:http://www.energy.gov/news2009/7453.htm
注6
http://www.energy.gov/news2009/documents2009/CCSonepager.pdf
https://e-center.doe.gov/iips/faopor.nsf/8373d2fc6d83b66685256452007963f5/b8b6e9eaad62
c503852574a600688af2?OpenDocument
注7
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NEDO海外レポート
【環境】
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二酸化炭素回収・隔離
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FutureGen
FutureGen プロジェクト注1の推進に向け前進 (米国)
2009 年 6 月、エネルギー省(Department of Energy: DOE)のスティーブン・チュー長官
は、炭素回収・隔離(carbon capture and sequestration: CCS)
注2
プロジェクト用の、初の
完全に統合された商業規模のプラント建設(於:イリノイ州マトゥーン)を推進させるこ
とで、フューチャージェン産業同盟(FutureGen Industrial Alliance、以下、フューチャ
ージェン同盟)と合意した旨発表した。
「FutureGen にとって重要な前進となる今回の合意は、雇用創出、クリーンエネルギー
の開発、気候変動をもたらす汚染物質の排出削減を目指す包括的計画の一環として、急速
に発展している CCS 技術へのオバマ政権の関与を反映するものである。FutureGen は、
商業規模で CCS 技術を実証する最重要施設として非常に有望である。この技術を開発す
ることは、米国や世界中からの温室効果ガス排出削減に極めて重要である。
」とチュー長官
は述べた。
ディック・ダービン上院民主党院内総務補佐(イリノイ州選出)は、以下のように語った。
「DOE とフューチャージェン同盟との今回の合意は、イリノイ州にとってもアメリカに
とっても歴史的なものである。私の議員生活の中で、科学的にも実用上も、ましてやイリ
ノイ州にもたらすであろう経済的利益の観点からも、FutureGen 以上に重要なプロジェク
トはない。オバマ政権のためにこのプロジェクトを存続させようと私に協力してくれた上
院の仲間、イリノイ州議会からの代表団のメンバーおよびイリノイ州当局者はもちろん、
チュー長官のリーダーシップにも感謝したい。
」
DOE とフューチャージェン同盟との暫定合意の条件に従い、同省は 7 月中旬までにプ
ロジェクトに関する「意思決定の記録」を発表する予定である。また、以下の活動が 2009
年 7 月末から 2010 年初頭まで実施される。
・予備設計活動の早急な再開
注1
注2
FutureGen (フューチャージェン)プロジェクトとは、石炭ガス化発電で発生する二酸化炭素を
回収・貯留することによりニア・ゼロエミッションを達成しようとする世界初のプロジェクト。
プラントの建設地はイリノイ州マトゥーンで、エネルギー省とフューチャージェン産業同盟
(FutureGen Industrial Alliance)による官民パートナーシップの下で推進される。(参照:
FutureGen Clean Coal Project
(http://www.fossil.energy.gov/programs/powersystems/futuregen/))
また「炭素隔離式の石炭火力プロジェクト FutureGen の最新状況(米国)」、NEDO 海外レポ
ート 1018 号、2008 年 3 月 5 日 (http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/1018/1018-03.pdf)
も参照されたい。
炭素回収・隔離とは、発電所や工場等の大規模排出源から排出された二酸化炭素を他のガスから
分離回収し、安定的な地層に貯留するか海底に隔離すること。
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・建設地に固有な予備設計の完成と、費用の再見積もり
・同盟のスポンサー企業注3数の増加
・完全な資金調達計画の策定
・地下の特性分析を追加的に実施するか否かの検討
詳細な費用見積と資金調達計画の策定が終了した後、DOE とフューチャージェン同盟
は 2010 年初頭にプロジェクトを推進すべきか、断念するかの結論を出すことになる。双
方とも、プロジェクト推進の決定を下すことを望んでおり、プロジェクト全体の資金調達
計画を含む協力協定を更新する計画である。資金は NEPA 注4に基づく環境アセスメントの
実施結果を受け、段階的に条件付きで供与される。
このプロジェクトに対する DOE の最終拠出額は 10 億 7,300 万ドルになるとみられ、そ
のうち 10 億ドルがアメリカ再生・再投資法に基づく CCS 研究用の予算である。フューチ
ャージェン同盟の最終拠出額は、4 億~6 億ドルになるとみられる(目標である参加企業
数 20 社の各々が今後 4~6 年の期間に 2,000 万ドル~3,000 万ドルずつ提供すると仮定し
た場合の合計)
。フューチャージェン同盟は、DOE の支援を受け、施設を建設、運転する
のに必要な追加的資金を連邦以外から調達する方法を模索することになろう。これには、
秋に予定されている残余持ち分のオークションにより、研究プロジェクトの終了後にも存
続する施設の価値(評価額)を把握することが含まれる。
翻訳:吉野
晴美
出典:Secretary Chu Announces Agreement on FutureGen Project in Mattoon, IL
(http://www.energy.gov/news2009/7454.htm)
注3
注4
2008 年 11 月現在のスポンサーは以下の 11 企業・組織:American Electric Power Service
Corporation、Anglo American Services (UK) Limited、BHP Billiton Energy Coal Inc、China
Huaneng Group、CONSOL Energy Inc、E.ON U.S. LLC、Foundation Coal Corporation、
Peabody Energy Corporation 、 Rio Tinto Energy America (RTEA) Services、 Southern
Company Services, Inc、Xstrata Coal Pty Limited。
(http://www.futuregenalliance.org/alliance/members.stm)
NEPA (National Environmental Policy Act、国家環境政策法)は米国の環境アセスメント制度
の根拠法で 1969 年に基本事項が制定された。詳細は 1978 年の国家環境政策法施行規則により
策定された。
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【環境】殺生物剤
殺生物剤の安全性向上を欧州委員会が提案(EU)
欧州委員会は、健康および環境に対する保護の水準を上げるための提案を行った。同提案
は、欧州連合(European Union: EU)の市場で使用され販売されている殺生物製品(biocide
products)の安全性を大幅に高めることを目的としている。また、最も有害な物質、特に癌
を引き起こす可能性のある物質を段階的に排除し、既存の法律では規制対象になっていな
い品目(殺生物剤を使用した家具や繊維など)に対して新ルールを導入するよう提案して
いる。提案は、簡素化された法律を導入する一方で、企業が有害な小動物や病原菌への対
策を取るうえで、より安全な製品を開発するための新たなインセンティブを備えている。
ヘルシンキに本拠地のある欧州化学物質庁(European Chemicals Agency: ECHA)が、中央
集権的なアプローチを通じてこうした製品の一部の許認可に関与することになる。この提
案は 2013 年に効力を発する見通しである。
欧州委員会のギュンター・フェアホイゲン副委員長(企業および産業担当)は、スタブ
ロス・ディマス環境担当委員と共同声明を発した。
「殺生物剤は、有害生物の拡散を抑制す
るうえで決定的に重要な役割を果たしている。しかし、欧州の市民や環境の安全を阻害す
るものであってはならない。この新たな提案は、安全で、認可を受けた製品のみが EU 全
域に流通し、最も危険な物質が我々の市場から排除されるのを確実にするものである。私
は、この提案が欧州の市民および企業に大きな利益をもたらすものであると確信してい
る。
」
環境と健康にとっての朗報
殺生物剤は、ヒトや動物の健康に有害な小動物や病原菌(糸状菌や細菌を含む)といっ
た生物を抑制するために使用されており、殺虫剤、消毒剤、産業用の化学物質(船舶用の防
汚塗料や、原材料の防腐剤など)が含まれる。今回の提案は 1988 年の殺生物剤に関する指
令を修正し、指令を実施するに当たり特定された多数の問題点に取り組むものである。殺
生物製品によりもたらされるリスクを更に軽減することを目的としており、法律の対象範
囲を、殺生物製品を生産する装置や、食品と接触する可能性のある原材料に含まれる殺生
物剤にまで拡大する。
欧州委員会の提案は、最も有害な作用物質、特に癌または不妊を引き起こす可能性のあ
る物質の使用を防止し、可能な限り安全度のより高いものに置き換えるための新基準を導
入しようとするものである。その使用が非常に懸念されると特定された物質を含む製品は
比較評価の対象となる。これは、最大のリスクのある製品を排除し、安全な製品だけが市
場に出回るようにするためである。
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この新ルールはまた、たとえば家具や衣服の質と機能を維持するために用いられる殺生
物剤を使用した品目にも適用される。新ルールの適用後は、認可された殺生物剤のみが家
具や衣服などに使用されることになる。殺生物剤を使用した品目には警告用のラベルが貼
られるため、消費者は情報を得た上で選択することができ、子供やアレルギー体質の人を
リスクから保護することができるようになると考えられる。
ある種の殺生物剤は EU レベルで認可
低リスクの殺生物剤や新たに発見された物質の使用を促進するために、欧州委員会はそ
れらを EU のレベルで認可することを提案している。EU レベルで一元的に認可すること
により、EU 市場全域でそうした製品がより簡便に、確実に入手可能になる。すでに
REACH 注1の管理に責任を負っている ECHA が、この種の許認可に関連する科学技術的試
験を実施することになろう。
ECHA はまた作用物質の科学的リスク評価のための活動を調整する。この任務は今日ま
で、イタリアのイスプラにある欧州委員会共同研究センターで実施されてきた。
ほとんどの殺生物製品は、引き続き加盟国によって認可される。認可決定までの時間を
短縮し、他の EU 加盟国の市場へのアクセスを促進し、重複作業を防止するために、各加
盟国による既存認可事項の相互承認に関するルールが簡素化される。
新提案により殺生物剤に関する既存の指令注2が規則に改められる。規則は加盟国に対し
て直接適用されるため、加盟国は国内法を導入することなく規則を実施できる。新たな規
則は、殺生物剤に関する現行の指令を破棄し、これを代替するものである。
不要な動物実験の回避
新提案は動物実験を更に削減する。新規則の下では、動物実験は一度だけ実施される。
欧州委員会の化学物質に対する法律である REACH の場合と同様、動物実験の認可を申請
する企業は、公正な補償を受ける代わりに動物実験の結果を共有することが求められる。
その上、殺生物製品の安全性と効率を示す実験は真に必要な場合に限ることが求められる。
注1
注2
REACH(Registration, Evaluation, Authorization, and Restriction of Chemicals、化学物質の
登録、認可、評価、制限に関する規則)は欧州で導入された化学物質に関する規制で、2008年6月1
日から運用が開始された。NEDO海外レポート1028号に掲載された以下の記事も参照されたい。
①「REACH - 欧州化学物質庁(ECHA)が運用を開始」
(http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/1028/1028-01.pdf)
②「REACH - 欧米企業の取り組み事例」
(http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/1028/1028-02.pdf)
③「REACH - ドイツにおける規則導入をめぐる動き」
(http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/1028/1028-03.pdf)
EU における「指令(directive)」は加盟国に対する直接的な強制力はない。各加盟国は指令の内
容をもとに国内法を制定する。
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データ保存ルールもまた、整合性と透明性が増したものに改変される。
詳細は以下のサイトを参照されたい。
①殺生物剤に関する EU の政策について
→http://ec.europa.eu/environment/biocides/revision.htm
②欧州化学物質庁(ECHA)について
→http://echa.europa.eu/home_en.asp
翻訳:吉野
晴美
出典:Environment: Commission proposes to improve the safety of biocides and to
simplify authorisation procedures
(http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/09/913&format=H
TML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en)
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