『国際課税委員会』が開

国際課税委員会(第9回)の概要
7月9日、経団連会館にて第8回の『国際課税委員会』が開催されました。今回は、
「国際課税をめぐる課題」と題して、財務省主税局参事官室の緒方補佐から話を聞き、そ
の後討論に入りました。なお、見解は個人の見解です。
緒方補佐の話の概要は以下の通りです。
1、外税控除の課題
国際的二重課税の調整方法としては、税額控除方式と国外所得免税の2つの方式がある。
外国税額控除方式の課題としては、限度額管理の方法の在り方(一括限度額管理(我が国
の現行制度)と所得種類別管理、国別管理等)、間接外国税額控除(対象範囲
等)、限度
超過額・余裕枠の繰越等の問題がある。
国外所得免除方式については、投資所得等、税額控除方式を採る範囲をどうするか、国
際的租税回避防止策をどうするかという問題がある。
わが国で採用している外税控除制度の検討の視点としては、必要以上になされている控
除への対応(具体的には、彼我流用、外国法人税の範囲、内外所得の区分等)、我が国への
配当還流という側面、事務負担への影響等を考慮する必要がある。
配当をどのようにとらえるかは難しい問題で、外国子会社からの配当については、法人
税に加えて配当への源泉徴収が加わるので、しばしば控除しきれない控除額が生じ、それ
を使用料等で枠を広げて相殺するということが実務で行われている。
子会社配当の受け取りについては、部分的な免除、間接外国税額控除、国内配当と同様
課税所得に入れない、という3つの選択肢がありうる。
限度額管理については、個別の管理がいいか大くくりの管理がいいか、内外の区分につ
いては、精緻な調整かマクロ的な調整か、という選択肢がある。
限度額ありの場合でも、国別限度額か、所得別か、パッシブ・アクティブ別か、一括か
という選択肢があり、制度の簡素性、彼我流用リスクの大小を基準として検討することに
なる。いずれにしても、パッケージとしての制度設計の必要性がある。
2、外国税額控除と資本輸出の中立について
資本輸出中立(Capital Export Neutrality)とは、【内国法人の拠点立地の判断に、法人
税が中立】ということ、つまり、内国法人が拠点をどこに置いても、全世界所得に対する
総税負担(自国・外国)の割合が、国内にのみ拠点がある内国法人の実効税率と同じ、と
いうことである。しかし、資本輸出中立(CEN)が成立しない局面もある。それは、現地留
保・再投資の場合、みなし外国税額控除がある場合、赤字法人の場合、高負担国拠点の場
合である。
第1の、現地留保・再投資の場合とは、海外拠点が支店ではなく現地法人である場合、
間接外国税額控除の対象となるが、親会社である内国法人に配当して始めて外国税額控除
が機能する。現地に留保され若しくは現地で再投資された所得に関しては、資本輸出中立
が保持されない。例えば、軽課税国で活動する子会社は、所得を現地に留保・再投資する
限りにおいて、軽課税の恩恵を受ける。これは、国外所得免除方式と同等の効果を持つと
いってもよい。
第2の、みなし外国税額控除(TS)の場合には、TS は資本輸出中立効果を減殺すること
が目的であるので、資本輸出中立が保持される外国税額控除制度の下では、進出先国にお
ける税負担の軽重は内国法人の総税負担に影響を与えないため、企業誘致のための進出先
国の優遇税制(税負担軽減)は無効化される。TS は、進出先国の優遇税制により減免され
た租税を(外国税額控除の適用上)納付したものとみなすため、この限りで資本輸出中立
が崩れる。
第3の、赤字法人の場合には、全世界所得が赤字で居住地国の納付税額が無くとも、特
定の拠点が黒字であれば、黒字拠点の所在地国で法人税を納付する。その場合、納付外国
税額は居住地国において損金算入できるが、後年度の税効果を考慮しても外国税額を相殺
するには至らない。税額控除が損金算入額より大きいためである。したがって、全世界所
得に対する総税負担は、黒字拠点の税負担が重いほど重くなる。
第4に、高負担国拠点の場合、“Ordinary credit”のもとでは、居住地国における実効税率
よりも実効税率の高い国に進出した場合、両国の実効税率の差に相当する部分は外国税額
控除で調整されない。他方、“Full credit”のもとでは、控除できない場合に還付することと
すれば、資本輸出中立が保持される。これは、企業全体の(全世界における)税負担割合
が居住地国の実効税率となるまで、高負担国に拠点を置く企業に補助金を付与することと
同じということになる。
国外所得免除方式は、資本輸入中立(Capital Import Neutrality)、【進出先国で、同一
の競争条件】
、つまり、進出先国において、進出法人の居住地国がどこであっても、国内源
泉所得に対する総税負担(自国・外国)の割合が同じという効果を持つ。もっともこれは、
全ての国が国外所得免除方式を採用する場合のことでもある。
国外所得免除が貫徹されない局面とは、投資所得、CFC (外国子会社合算税制)、その
他の租税回避防止措置という局面である。
第1の、投資所得については、本国で直接受け取る海外からの投資所得(配当、利子、
使用料)については、原則として外国税額控除方式(OECDモデル条約でも同様)がと
られている。つまり、国外所得免除方式は排除されている。これは、投資所得については、
源泉地国課税を減免して最終的な課税を居住地国に委ねるのが国際潮流であることから、
国外所得免除の対象とする必要が少ないばかりか、免除してしまうと投資所得について二
重非課税が蔓延する恐れがあることによる。現在厳選地価税はなるべく軽減しようという
流れにあり、その意味でも国外所得免除方式をとる必要性は少ない。むしる、二重非課税
の生じないよう、居住地で適切に課税することが重要な課題となっている。なお、米国大
統領報告書でも、Mobil な所得は、居住地課税となっている。
第2の、CFC については、国外所得免除の下では、タックスヘイブン等を活用した租税
回避行為を野放しにする恐れがある。そこで、国外所得免除方式であっても、外国子会社
合算税制(以下、「CFC」)を措置するのが通例となっている。CFCは、タックス・ヘ
イブンに留保された所得を(配当されたものとみなすなどして)課税所得に加えるもので
あり、国外所得免除の例外であるといえる。
第3の、その他の場合というのは、租税回避防止のための方策、つまり、条約締約国に
進出した場合にのみ、国外所得免除とか、軽課税国に進出した場合に、国外所得免除不適
用という措置を取る場合である。また、免除となる国外所得に対する費用配賦に関して、
費用配賦ルールの設定の仕方が、企業の総税負担に直結することに留意する必要がある。
米国ではこの問題が大きく議論されている。
以上の論点を踏まえて、二重課税の調整の2つの制度比較(外税vs免除)を行うと、
1、外国税額控除と国外所得免除とで、差異が生じない局面は以下の4つ。
‐
現地留保
現地法人税負担のみ
‐
投資所得
必ず外国税額控除
‐
みなし外国税額控除 現地減免分が有効
‐
高課税国への進出
調整されない
(ただし、外国税額控除の下で、限度額管理が緩やかな場合、調整される場合もある。)
2、外国税額控除 (資本輸出中立)が、進出企業の競争条件を悪化させるかという点につい
ては、資本輸出中立は進出先国選択に関する「中立」であり、進出先国における進出企業
の競争条件が他国企業よりも劣る結果になる場合があるという問題、進出先国が(居住地
国に比べて)軽課税の国であった場合、国外所得免除方式の国の企業は進出先国の税のみ
負担すれば良いのに対し、外国税額控除方式の国の企業の税負担は本国の実効税率による、
という問題が指摘されている。
3、他方で、国外所得免除(資本輸入中立)が、「税の引下げ競争」の激化するかという点
については、資本輸入中立は海外企業を受け入れる国の側から見た「中立」であること、
進出企業の側から見れば、進出先国の税負担が直接に企業全体の税負担を左右するため、
なるべく税負担の低い国に進出する誘因が働くこと、したがって、(海外展開する企業を抱
える)大国が国外所得免除を採ると、税の引き下げによる外国企業誘致競争が起きる恐れ
が強い。資本誘致合戦が生じ、受け入れ国の競争が激化する恐れがある。
制度面での比較については、国外所得免除方式の方が簡素ということは、本当であろうか。
内外の費用配賦の問題、インセンティブが起きやすい移転価格の執行強化の問題、子会社
配当の取り扱い、租税回避のリスク/防止策のコス等を総合的に勘案する必要がある。と
りわけ無体財産権の取り扱いについて、先進国は、IP 開発の拠点は自国に残したがるとい
う政策を考慮する必要がある。
3、非居住者の受取利子,
次に、非居住者受取利子の課税をめぐる問題がある。既存の非課税措置は、オフショア
勘定、レポ取引、振替国債、振替地方債、民間国外債(「ユーロ債」)である。非居住者受
取利子の課税をめぐる問題としては、ダブルSPC(WSPC)スキームの問題がある。
租税条約のとる、使用地主義、つまり、PE帰属の利子について、国内源泉所得として課
税権を認める考え方と、国内法のとる、債務者主義、内国法人の発行する社債の利子につ
いて、国内源泉所得として課税権がある、外国法人の発行する社債の利子は、国内PEに
帰属する(負担する=損金)ものであっても、課税しないという考え方の隙間を縫った租
税回避が生じており、これをふさぐ必要があるのではないか。
これに対して種々の議論が行われた。
次回は、8月31日に、国税庁から参加いただき質疑応答を行う予定です。
(文責
森信)