Grassmann スキームと表現可能関手 @waheyhey 2013 年 12 月 22 日 概要 Ulrich G¨ ortz 先生の Algebraic Geometry I の表現可能関手の部分を自分なりに理解しようとまとめた つもりになっている,よく分からないノートです. [2014/5/19] やや加筆の上で内容充実を「計画」しました. 目次 1 表現可能関手 2 2 Grassmann 関手 4 3 準連接層の Grassmann 関手 6 4 Pl¨ ucker 埋め込み 7 1 1 表現可能関手 米田の補題より,圏 C とその上の前層の圏 C に対して,埋め込み C −→ C X −→ hX が定まる.ここで,hX := Hom(−, X) である. 定義 1(表現可能関手) 関手 F : C op → (Sets) は,ある C の対象 X と,同型 ξ : F ≃ hX が存在するとき, 表現可能であるという. 例 2 n ≥ 0 に対し,関手 (Sch)op −→ (Sets) X → Γ(X, OX )n は An = Spec Z[X1 , . . . , Xn ] で表現される.実際, Hom(X, An ) ≃ Hom(Z[X1 , . . . , Xn ], Γ(X, OX )) ≃ Γ(X, OX )n 注意 3 C には常にファイバー積が存在する.実際,F, G, H ∈ C ,F → H, G → H が定まっていたとき, C ∈ C に対して (F ×H G)(C) := F (C) ×H(C) G(C) とすれば,F ×H G は C の中でファイバー積の性質を 満たす.F, G, H ∈ C ,F → H, G → H が定まっていて,F, G, H はそれぞれ X, Y, Z ∈ C で表現されている とすると,F ×H G が表現可能なら,C にファイバー積 X ×Z Y が存在して,F ×H G は X ×Z Y で表現さ れる. 以下の命題は表現可能関手の一例を与えるとともに,スキームと表現可能関手の理論を展開する中でよく用 いる重要な命題でもある. 命題 4 S をスキーム,F を有限型な S 上の加群,v : E → F を S 上の準連接層の準同型とする.関手 F : (Sch/S)op → (Sets) を,S スキーム X に対し F (X) := {f ∈ HomS (X, S) | f ∗ (v) は全射 } で定めると,この関手 F は S の開部分スキームで表現される. 証明 ある開部分スキームが存在して,「X → S が U を経由する ⇔ Coker(f ∗ (v)) = 0」を示せば良 い.f ∗ は右随伴関手 f∗ を持つから右完全関手であり,Coker(f ∗ (v)) = f ∗ (Coker(v)) である.よって U := S \ Supp(Coker(v)) が性質を満たす.(F が有限型より Coker(v) も有限型だからこれは開集合になる.) 定義 5(表現可能な射) F, G ∈ (Sch),f : F → G を自然変換とする.任意のスキーム X と,自然変換 hX → G に対し,ファイバー積 F ×G hX が表現可能であるとき,f は表現可能であるという. 2 定義 6(表現可能な射の性質) P をスキームの射の性質で, 「性質 P を持つ射に同型射を右から合成しても左 から合成しても P が保たれる」ようなものとする.表現可能な射 f : F → G は,任意のスキーム X と自然変 換 hX → G に対して F ×G hX がスキーム Y で表現され,対応するスキームの射 Y → X が P を満たすと き,f : F → G は P を満たすという. 注意 7 hY ≃ F ×G hX / hX F /G 表現可能関手の間の自然変換は表現可能である.一般に f : X → Y が P を満たしても hf : hX → hY が P を満たすとは限らない.P が基底変換の下で安定な場合は正しい. 関手 F : (Sch/S)op → (Sets) と,スキームの開埋め込み j : U → X を考える.ξ ∈ F (X) に対し, F (j)(ξ) ∈ F (U ) を(位相空間上の前層の制限写像のように)ξ|U で表す. 関手 F : (Sch/S)op → (Sets) は,任意の S スキーム X と任意の開被覆 X = ∪ i∈I Ui に対して,次の条件 (Sh) を満たすとき,ザリスキ位相の層,または単にザリスキ層であるという. (Sh) ξi ∈ F (Ui ) が各 i について与えられ,任意の i, j ∈ I に対し,ξi|Ui ∩Uj = ξj|Ui ∩Uj が成り立つならば, ξ ∈ F (X) が一意に存在して,任意の i ∈ I に対して ξ|Ui = ξi が成り立つ. 次の命題はザリスキ層の定義より明らかである. 命題 8 任意の表現可能関手はザリスキ層である. 関手 F : (Sch/S)op → (Sets) に対し, (i) F ′ : (Sch/S)op → (Sets) について,開埋め込み f : F ′ → F が存在するとき,F ′ は F の開部分関手で あるという. (ii) 開部分関手の族 {fi : Fi → F }i∈I は,任意の S スキーム X と g : hX → F に対して,Fi ×F hX を表 現する X の開部分スキームたちが X の開被覆をなすとき,F のザリスキ開被覆であるという. 定理 9 F : (Sch/S)op → (Sets) を, (a) F はザリスキ層で, (b) F は表現可能関手 Fi たちにより,ザリスキ開被覆 {fi : Fi → F } をもつ. を満たすような関手とする.このとき,F は表現可能である. 証明 (概要のみ) Fi たちを表現するスキームが貼り合わせ条件を満たすことを確かめ,それらを貼り合わせ 補題により張り合わせる.このスキームが F を表現することが分かる. 3 2 Grassmann 関手 体 k に対して,k 上の n 次元線形空間の d 次元線型部分空間全体をパラメーター付けるようなスキームを 構成したい.そのために,まずはアフィンスキーム Spec k に対し k 上の n 次元線形空間の d 次元部分空間全 体を対応させるような対応 Grassd,n を考える.すなわち, Grassd,n (Spec k) := {V ⊂ k n | V は d 次元線形部分空間 } となるように定める.体の拡大 Spec K → Spec k に対しては,係数拡大する写像を対応させれば確かに Grassd,n は関手になる.この関手を一般のスキーム X にまで定義を拡張することを考える.このとき,”d 次 元線形部分空間”の適切な言い換えは何か.そのために次の命題を考える. 命題 10 S をスキーム,U を有限型の OS 加群,E を有限階数の局所自由層,ι : U → E を OS 加群の準同型 とする.このとき,以下は同値である. (i) 任意のアフィン開集合 U ⊂ S に対し,π : E|U → U|U が存在して,π ◦ ι|U = id. (ii) ι は単射で,E/ι(U) は局所自由層. (iii) 任意の s ∈ S に対し,κ(s) ベクトル空間の射,ι ⊗ idS : U ⊗ κ(s) → E ⊗ κ(s) は単射. (iv) 任意の f : T → S に対し,f ∗ ι : f ∗ U → f ∗ E は単射. (v) U は有限階数の局所自由層で,ι∨ : E ∨ → U ∨ は全射. 証明 長くて面倒くさいです.やる気が出たら書きます.すみません. 包含写像 ι : U → E が命題 10 の同値条件をみたすための必要十分条件は,任意の s ∈ S に対し s の開近傍 V が存在して U|V が E|V の直和因子になることである.このとき,U を E の局所直和因子という. 系 11 S をスキーム,π : E → U を同じ有限の階数をもつ局所自由 OS 加群の準同型とする.このとき,次 が同値. (a) π が同型. (b) 任意の s ∈ S に対し,π ⊗ idκ(s) : E ⊗ κ(s) → U ⊗ κ(s) が全射. 証明 命題 10 で ι := π ∨ とすればよい. ”d 次元部分空間”を,”On /U が階数 n − d の局所自由層”と言い換え, Grassd,n (S) := {U ⊂ OSn | OSn /U が階数 n − d の局所自由層 } n と定める.また,f : T → S に対して Grassd,n (f )(U) := f ∗ U で定める.命題 10 より,f ∗ U → f ∗ OS = OTn n は単射になり,よって OTn /f ∗ U = f ∗ (OS /U) は局所自由である.これにより Grassd,n は S スキームの圏か ら集合の圏への反変関手である.この関手 Grassd,n を Grassmann 関手という. さて,X の被覆をなすような開部分スキームたち {Ui } の上の加群の層 Fi たちは,Fi|Ui ∩Uj = Fj |Ui ∩Uj と なるとき,開集合 U ⊂ X 上で { } ⊕ F(U ) := {si } ∈ Fi (U ∩ Ui ) | si|Ui ∩Uj ∩U = sj |Ui ∩Uj ∩U for all i, j i 4 とすることで X 上の加群 F を定める.よって Grassd,n はザリスキ層であるから,表現可能関手による開被 覆ができれば定理 9 より Grassd,n は表現可能である. I を n − d 個の元からなる {1, . . . , n} の部分集合として,Grassd,n の部分関手を GrassId,n (S) := {U ∈ Grassd,n (S) | 合成 OSI → OSn OSn /U が同型 } I ≃ U ⊕ (OSn /U) ≃ OSn なる U たちを対応させる. で定める.いいかえれば,GrassId,n は U ⊕ OS 包含から定まる自然変換を ιI : GrassId,n → Grassd,n とする. 補題 12 次が成り立つ. (a) ιI は表現可能で,開埋め込みである. (b) GrassId,n は Ad(n−d) で表現される. (a) X をスキーム,g : hx → Grassd,n を自然変換で,(米田の補題によって)U ∈ Grassd,n (X) と 証明 対応しているようなものとする.スキーム S に対して定義から, (GrassId,n ×Grassd,n hX )(S) = {f ∈ Hom(S, X) | f ∗ (U) ∈ GrassId,n (S)} I であるから,ある開集合 U ⊂ X が存在して「f : S → X が U を経由する ⇔ vf : OS → OS⊕n → OS⊕n /f ∗ (U) が同型」を示せばよい.系 11 より vf が同型である必要十分条件は vf が全射であること だから,命題 4 よりこれは X の開部分スキームで表現される.X と g は任意より,証明は完了した. (b) S をスキーム,U ∈ GrassId,n (S) とする.このとき,ω : OSI → OS⊕n /U は定義より同型.uU : OS⊕n → ∼ OS⊕n /U −− → OSI の核は U で,uI : OSI → OS⊕n を自然な包含とすると,uU ◦ uI = idOSI となる.逆 −1 に,u : ω OS⊕n → OSI で u ◦ uI = idOSI なるものが与えられたとすると,Ker u ∈ GrassId,n (S) である. ⊕n すなわち,F (S) := {u ∈ HomOS (OS , OSI ) | u ◦ uI = idOSI } で定めたとき, F (S) −→ GrassId,n (S) u −→ Ker u は全単射.これは S について functorial なので,関手の同型 F ≃ GrassId,n が定まる.J := {1, . . . , n}\ I として,F (S) → HomOS (OSJ , OSI ) を,u を OSJ に制限する写像として定めればこれも全単射で, HomOS (OSJ , OSI ) ≃ Γ(S, OS )J×I ≃ Hom(S, AJ×I ) であるから,F ≃ Hom(−, Ad(n−d) ) となり示さ れた. 定理 13 証明 Grassd,n は表現可能である. 定理 9 より {ιI : GrassId,n → Grassd,n }i∈I がザリスキ開被覆であることのみ示せばよい. X をスキーム,g : hX → Grassd,n を自然変換とする.補題 12 より GrassId,n ×grassd,n hX は表現可能で, ⨿ これを表現する X の開部分スキームを U I とする.f : I U I → X が全射を示せば良い. 体 K に値をとる点 x : Spec K → X をとる.対応する表現可能関手の射と g と合成することにより Grassd,n の K に値をとる点,さらにこれに対応する K n の線型部分空間 V を得る.しかし定義より,x が Hom(Spec K, U I ) → Hom(Spec K, X) を経由する必要十分条件は,射が ιI (Spec K) : GrassId,n (Spec K) → Grassd,n (Spec K) を経由する,すなわち K I ≃ K n /V となることである.V の標準基底を補って K n の標準 5 基底をとれば,このような I は必ず存在することがわかる. Spec K UI /X x GrassId,n g ιI / Grassd,n (上の図式はスキームとそれで表現される関手を同一視している.) 体 K は任意だから,以上より f : ⨿ I U I → X は全射.よって {ιI : GrassId,n → Grassd,n }i∈I はザリスキ 開被覆である. 定義 14(Grassmann スキーム) 関手 Grassd,n を表現するスキームを,Grassmann スキームという. これで目標であった Grassmann スキームが構成できた. 例 15(射影空間) 射影空間は d = 1 のときの Grassmann スキームである. 3 準連接層の Grassmann 関手 この節では,まず前節までの Grassmann の拡張を扱う. S をスキーム,E を S 上の準連接層,e ≥ 0 を整数とする.任意の S スキーム h : T → S に対して, Grasse (E)(T ) := {U ⊂ h∗ (E) : OT 部分加群 | h∗ (E)/U は階数 e の局所自由層 } で定める.任意の S 射 f : T ′ → T は,写像 Grasse (E)(T ) −→ Grasse (E)(T ′ ) U −→ f ∗ (U) n n が定まる.特に,E = OS かつ e = n − d とすることで,Grassn−d (OS ) = Grassd,n ×Z S を得る.また,任 意の全射 v : E1 → E2 は自然変換 iv : Grasse (E2 ) → Grasse (E1 ) を誘導する. 命題 16 次が成り立つ. (i) E を S 上の準連接層,e ≥ 0 を整数とする.このとき,Grasse (E) は S スキームで表現される関手で ある. (ii) E1 , E2 を S 上の準連接層,v : E1 → E2 を全射とする.このとき,誘導される自然変換 iv : Grasse (E2 ) → Grasse (E1 ) は閉埋め込みである. 上の命題を次の手順で示す. 補題 17 G ⊂ E を準連接部分層とする.Grasse (E) の部分関手 Grasse (E)G を,任意の S スキーム f : T → S に対し, Grasse (E)G (T ) := {U ∈ Grasse (E)(T ) | G → f ∗ E → f ∗ E/U が全射 } により定める.このとき,自然変換 Grasse (E)G → Grasse (E) は表現可能で,開埋め込みである. 6 補題 18 Grasse は Zariski 層であり,よって Grasse (E) の表現可能性は S = Spec R と R 加群 E に対して ˜ である場合に帰着される. E =E 補題 19 R を環,E を R 加群,I を有限生成部分 R 加群 G ⊂ E の集合とする.このとき,開部分関手 e (Grass (E)G˜ )G∈I は Grasse の開被覆である. ■Grassmann の基底変換 S をスキームとする.E を S 上の準連接層,e ≥ 0 を整数とする.また,u : S → S ′ をスキームの射とすると,任意の S スキームは u との合成により S ′ と考えることもできる.T を S スキー ムとすしたとき,自然な同型 HomS ′ (T, Grasse (E) ×S S ′ ) ≃ HomS (T, Grasse (E)) ≃ HomS ′ (T, Grasse (u∗ E)) があるので,米田の補題により Grasse (E) ×S S ′ ≃ Grasse (u∗ E) を得る. 任意のスキーム S に対して, Grassd,n,S := Grassd,n ×Z S で定める.このとき. Grassd,n,S ≃ Grassn−d (OSn ) ≃ Grassd ((OSn )∨ ) となる. ■射影束と線型部分束 S をスキーム,E を S 上の準連接層とする.射影空間の場合と同様に,E から定まる 射影束を, P(E) := Grass1 (E) と定める.定義より,P(E) は,任意の S スキーム h : T → S に対し,ある T 上の可逆層 L ヘの全 射 h∗ E → L の同型類の集合 P(E) を対応させる関手を表現する.特に,構造射 p : P(E) → S に対し, idP(E) ∈ Hom(P(E), P(E)) に対応する普遍全射 h∗ E → Luniv が存在する. n+1 ∨ 特別な場合として,S = Spec Z かつ E = (OSpec Z ) の場合を考えると, 1 n n+1 n+1 n ∨ ∨ n P((OSpec Z ) ) = Grass ((OSpec Z ) ) = Grass (OSpec Z ) ≃ Grass(n+1)−n,n+1 ≃ PZ である.さらにスキームの射 u : S ′ → S に対して,S ′ スキームとしての同型, P(E) ×S S ′ ≃ P(u∗ E) が存在する. ■Grassmann の接空間 4 Pl¨ucker 埋め込み 参考文献 [1] R.Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer. [2] U.G¨ortz, T.Wedhorn, Algebraic Geometry I, Vieweg+Teubner, 2010. [3] B.Fantechi et al, Fundamental Algebraic Geometry - Grothendieck’s FGA Explained, American Mathematical Society, 2005. 7
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