46 第 4 章 双対問題 4.1 ラグランジュ型双対問題 主問題: min s.t. f(x) gi (x) ≤ 0 i = 1, . . . , m hi (x) = 0 i = 1, . . . , l x∈X (4.1) f,gi ,hi から,ψ を次のように定義する. ψ(u, v) = inf {f(x) + x∈X m ∑ ui gi (x) + i=1 l ∑ vi hi (x)} (4.2) i=1 双対問題: sup{ψ(u, v) | u ≥ 0} (4.3) u,v 以下の例で,主問題と双対問題の関係を図を用いて説明する. 例 4.1 次の問題を考えよう. min s.t. −x1 x21 + x22 ≤ 4 (4.4) 問題 (4.4) の双対問題を定義すると次のようになる. sup{ψ(u) | u ≥ 0} (4.5) ψ(u) = inf {−x1 + u(x21 + x22 − 4)} (4.6) ただし, x1 ,x2 である. 主問題 (4.4) は簡単に解くことができて,最適解は (2, 0),最適値は −2 である.p,q を q = f(x) = −x1 p = g(x) = x21 + x22 − 4 とおく.さらに t ≥ 0 と 0 ≤ θ ≤ 2π によって,x1 = t cos θ,x2 = t sin θ とおくと q = −t cos θ p = t2 − 4 第 4 章 双対問題 47 となる.主問題が実行可能な領域は,p ≤ 0 (t ≤ 2) の範囲の範囲であることに注意してほしい.p と q の式から t を消去すると,θ ̸= 12 π, 32 π において, p= 1 q2 − 4 (cos θ)2 となる.また,θ = 21 π, 32 π では,q = 0,p ≥ −4 の半直線を表す.結局,(x1 ,x2 ) が R2 全体を動 いたとき,(p, q) のとりうる範囲は放物線 p = q2 − 4 で囲まれる領域である.この領域を G と呼 ぼう. ψ(u) について考えると, u があたえられたとき,G 上で q + up を最小にする値が ψ(u) であ る.α = p + uq とおくと,ψ(u) は,G に下から接する傾き −u の直線の q-切片である.したがっ て,双対問題は,u ≥ 0 において,q-切片の値を最大にする問題とみることができる.G の形状か ら,主問題の最適解は (p, q) = (−2, 0) をとおる傾き −u が −1/4 の場合で,最適値は −2 である. 上で,g(x) ≤ 0 を満たす制約領域は p ≤ 0 であると指摘した.制約条件を少し緩和した場合, すなわち min s.t. −x1 x21 + x22 ≤ 4 + ϵ (4.7) とした場合を考えよう.ϵ が −4 から増加していったとき,最適値の軌跡は G の下側の包絡線に相 当する.これを ϵ の関数とみなして,ϕ(ϵ) とおこう.ϕ が微分可能ならば,ϕ ′ (0) は,条件を緩 和したときの最適値の限界的な変化量とみることができる.これは,双対問題の最適解 u∗ にほか ならない. 例 4.2 線型計画問題で考えよう. min s.t. c1 x1 + · · · + cn xn a11 x1 + · · · + a1n xn = b1 a21 x1 + · · · + a2n xn = b2 .. . (4.8) am1 x1 + · · · + amn xn = bm −xj ≤ 0, j = 1, . . . , n ψ(u, v) は次のようになる. ψ(u, v) = inf x n ∑ cj xj + j=1 m ∑ vi i=1 n ∑ aij xj − bi + j=1 n ∑ uj (−xj ) j=1 (4.9) 和の順序を入れ換えて, ) ( m n m ∑ ∑ ∑ aij vi xj cj − uj + bi vi + ψ(u, v) = inf − x i=1 を得る.もし,cj −uj + について, ∑m i=1 j=1 (4.10) i=1 aij vi ̸= 0 ならば,ψ(u, v) は −∞ になってしまう.すべての j = 1, . . . , n cj − uj + n ∑ i=1 aij vi = 0 第 4 章 双対問題 ならば,ψ(u, v) = − 48 ∑m i=1 bi vi である.−vi = yi とおいて,双対問題は, max s.t. b1 y1 + · · · + bm ym a11 y1 + · · · + am1 ym ≥ b1 a12 y1 + · · · + am2 ym ≥ b2 .. . (4.11) a1m y1 + · · · + amn ym ≥ bm となる. 4.2 双対定理 定理 4.1 (弱双対定理) x を主問題 (4.1) の実行可能解,u, v を双対問題 (4.3) の実行可能解とする.このとき, f(x) ≥ ψ(u, v) (4.12) が成り立つ. [証明] ψ(u, v) の定義,および x, u, v の実行可能性より, ψ(u, v) = inf {f(x) + x∈X m ∑ i=1 ui gi (x) + l ∑ vi hi (x)} ≤ f(x) + i=1 m ∑ ui gi (x) + i=1 l ∑ vi hi (x) ≤ f(x) i=1 が成り立つ. 系 4.2 ¯ が主問題 (4.1) の実行可能解,u ¯ , ¯v が双対問題 (4.3) の実行可能解であり,f(¯ x x) = ψ(¯ u, ¯v) が成り ¯, u ¯ , ¯v は最適解である. 立っているならば,x 系 4.3 もし supu,v {ψ(u, v) | u ≥ 0} = ∞ ならば,主問題は実行不可能である. 定義 4.1 (双対ギャップ) 主問題の最適解を x∗ ,双対問題の最適解を u∗ , v∗ とし, ζ = f(x∗ ) − ψ(u∗ , v∗ ) とおく.ζ > 0 のとき,これを双対ギャップという. 弱双対定理より,常に ζ ≥ 0 である.例 4.1 では,主問題と双対問題の最適値は一致し,双対 ギャップは存在しなかった.しかし,双対ギャップが生じる場合もある. 例 4.3 次の問題を考えよう. min s.t. −x1 (4.13) x21 + x22 ≤ 4 (x1 , x2 ) ∈ X √ √ √ √ ここで,X は,A ( 6/2, 6/2),B (1, − 3),C (1/2, 2/2),D (2, 1) の 4 点からなる集合とす る.明らかに,最適解は点 A で達成される. 第 4 章 双対問題 49 問題 (4.13) の双対問題を定義すると次のようになる. sup{ψ(u) | u ≥ 0} (4.14) ただし, ψ(u) = {−x1 + u(x21 + x22 − 4)} inf (4.15) (x1 ,x2 )∈X である.X が 4 点からのみなる集合なので,4.15 は,次のように書き換えることができる. { } √ 6 13 1 ψ(u) = min −u − , −1, − u − , u − 2 (4.16) 2 4 2 ψ(u) は,図にある 4 本の直線のうち,もっとも小さい値を達成してる直線をつなげた関数として 表される.したがって,双対問題 4.14 の最適解は u∗ = 3/8 であり,最適値は −13/8 である.双 √ 対ギャップ ζ = − 6/2 − (−13/8) ≈ 0.40 > 0 である. 図表 4.1 例 4.3 の ψ(u) 定理 4.4 (強双対定理) X を非空な凸集合,f(x),gi (x) i = 1, . . . , m を凸関数,hi (x) i = 1, . . . , l をアフィン関数とし,制 約想定 ある x ^ ∈ X が存在してg(^ x) < 0; h(^ x) = 0 0 ∈ int h(X), h(X) {y | yi = hi (x), i = 1, . . . , l; x ∈ X} を満たすとする.このとき, inf{f(x) | gi (x) ≤ 0, i = 1, . . . , m; hi (x) = 0, i = 1, . . . , l ; x ∈ X} = sup{ψ(u, v) | ui ≥ 0, i = 1, . . . , m} (4.17) が成り立つ. ∑m さらに,(4.17) の両辺の値が有限ならば,最適解 x∗ と u∗ の間に, i=1 u∗i gi (x∗ ) = 0 が成り 立つ. 第 4 章 双対問題 50 証明は省いて,簡単な問題で直感的に説明する.例 4.1 と同様に,制約式が一本の不当式だけ からなる場合を考えよう. min s.t. f(x) g(x) ≤ 0 x∈X (4.18) q = f(x),p = g(x) とおき,G = {(p, q) | p = g(x), q = f(x), x ∈ X} とする.また,次のように ϕ(p) を定義する. ϕ(p) {f(x) | g(x) ≤ p, x ∈ X} (4.19) ϕ(p) は単調減少関数である.なぜならば,p1 ≤ p2 にたいして,ϕ(p2 ) の方が制約式が緩和され ている分だけ目的関数を小さくできるからである.p-q 平面上で,一般に G の形状は不定型であ るが,ϕ(p) は G の下にある単調減少関数の中で最大のものとみなすことができる.主問題の最適 値は,ϕ(0) であることに注意しよう. 一方,双対問題の最適値は,G に下から接する直線の q 切片によってあたえられる.図 4.2 で は,G の接線の q 切片と ϕ(0) が一致しておらず,双対ギャップが生じていることがみてとれる. 図表 4.2 双対ギャップの例 強双対定理は,目的関数・制約式が凸関数などの条件があると,双対ギャップが生じないことを 主張している.(4.17) で,f と g が凸関数,X が凸集合であるとしよう.このとき,ϕ(p) が凸関数 となることを示すことができる.そうすると,G に下から接する傾きが非正の接線のなかで q 切 片が最大になるのは,p < 0 で傾きが 0 で接する場合か,p = 0 で接する場合である.いずれの場 合も q 切片と ϕ(p) の値は一致し,双対ギャップは生じない. 定義 4.2 (鞍点) 問題 4.1 において,次のようにラグランジュ関数を定義する. η(x, u, v) = f(x) + m ∑ i=1 ui gi (x) + l ∑ i=1 vi hi (x) (4.20) 第 4 章 双対問題 51 ¯ ∈ X,u ¯ ≥ 0 であり,任意の x ∈ X と u ≥ 0,v にたいして x ¯ , ¯v) ≤ η(x, u ¯ , ¯v) η(¯ x, u, v) ≤ η(¯ x, u (4.21) ¯ , ¯v) を鞍点 (saddle point) と呼ぶ. が成り立つとき,(¯ x, u 図表 4.3 鞍点のイメージ 定理 4.5 (鞍点定理) ∑l ∑ ¯ ∈ X,u ¯ ≥ 0 である (¯ ¯ , ¯v) が関数 η(x, u, v) = f(x) + m x x, u i=1 vi hi (x) の鞍点であ i=1 ui gi (x) + ることの必要十分条件は,次の a),b),c) が成り立つことである. ¯ , ¯v) = min{η(x, u ¯ , ¯v) | x ∈ X} a) η(¯ x, u b) gi (¯ x) ≤ 0, i = 1, . . . , m; hi (¯ x) = 0, i = 1, . . . , l; ¯ i gi (¯ c) u x) = 0, i = 1, . . . , m ¯ , ¯v) が鞍点であることの必要十分条件は,x ¯ が主問題の最適解,(¯ さらに, (¯ x, u u, ¯v) が双対問題の 最適解となることである. [証明] 前半: ¯ , ¯v) が関数 η(x, u, v) の鞍点であるとする.鞍点の定義より a) が成り立つ.また,η の定義 (¯ x, u と鞍点の性質より,任意の u ≥ 0 と v にたいして f(¯ x) + m ∑ i=1 ¯ i gi (¯ u x) + l ∑ i=1 ¯vi hi (¯ x) ≥ f(¯ x) + m ∑ i=1 ui gi (¯ x) + l ∑ vi hi (¯ x) (4.22) i=1 となる.これが成り立つためには,b) gi (¯ x) ≤ 0, i = 1, . . . , m と hi (¯ x) = 0, i = 1, . . . , l が成り ∑m ¯ i gi (¯ 立っていなくてはならない.また,(4.22) で u = 0 とおくと, i=1 u x) ≥ 0 を得るが,一方 ∑m ¯ i ≥ 0,gi (¯ ¯ i gi (¯ でu x) ≤ 0 より, i=1 u x) ≤ 0 でなくてはならない.以上より,c) がいえる. ¯ ∈ X,u ¯ ≥ 0 である (¯ ¯ , ¯v) が,条件 a),b),c) を満たすとする.まず,条件 a) より, 逆に x x, u ¯ , ¯v) ≤ η(x, u ¯ , ¯v) が成り立つ.さらに,条件 b) ,c) から,η(¯ ¯ , ¯v) もいえる. η(¯ x, u x, u, v) ≤ η(¯ x, u ¯ , ¯v) は鞍点である. よって,(¯ x, u 第 4 章 双対問題 52 後半: ¯ , ¯v) が鞍点であるとする.条件 b) から,x ¯ は主問題の実行可能解となる.また,u ¯ ≥0か (¯ x, u ら,(¯ u, ¯v) が双対問題の実行可能解であることもわかる.さらに, ¯ , ¯v) = f(¯ ϕ(¯ u, ¯v) = η(¯ x, u x) ¯ は主問題の最適解,(¯ が成り立つので,弱双対定理より x u, ¯v) が双対問題の最適解であることがい える. ¯ が主問題の最適解,(¯ 逆に,x u, ¯v) が双対問題の最適解であるとしよう.双対定理より f(¯ x) = ¯ ϕ(¯ u, v) である.一方,主問題,双対問題の制約条件より ϕ(¯ u, ¯v) = min{f(x) + m ∑ ¯ i gi (x) + u i=1 ≤ f(¯ x) + m ∑ i=1 ¯ i gi (¯ u x) + l ∑ ¯vi hi (x) | x ∈ X} i=1 l ∑ ¯vi hi (¯ x) = f(¯ x) + i=1 m ∑ ¯ i gi (¯ u x) ≤ f(¯ x) i=1 ∑m ¯ i gi (¯ という不等式が成り立っている.f(¯ x) = ϕ(¯ u, ¯v) であるためには, i=1 u x) = 0 でなくてはな らない.以上より,条件 a),b),c) が成り立つことが確かめられた. 課題 1. 主問題を min s.t. ex x≥0 とおく. (a) 主問題を解き,最適解と最適値を求めよ. (b) 双対問題を作り,双対問題の最適解と最適値を求めよ.
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