第109号(平成21年2月) - 血液製剤調査機構

血液製剤調査機構だよりバックナンバー特集記事
2
巻 頭 言
沖縄県の
献血推進事業に
ついて
沖縄県福祉保健部薬務衛生課長
金城 康政
沖縄県の血液事業については、
沖縄復帰前の昭和42年に財団法人沖縄赤十字社の下部組織でありま
した沖縄県血液センターから発足したことに始まります。当初は、
患者が治療に必要とした血液の2倍の量を
返却する
「2倍返血制度」であったため、
患者やその家族にも大きな負担となっておりました。その後、
昭和47
年の沖縄復帰とともに、
昭和39年の閣議決定を受けた本県の献血推進制度がスタートします。昭和47年に「沖
縄県献血推進協議会」を設置、
昭和56年「沖縄県献血推進員」の設置及び昭和62年「沖縄県献血者登
録制度推進委員会」
を設置し、
献血推進事業を進めてまいりました。
平成19年度の本県の献血状況は、
目標を上回る55,
405人の善意の献血者の御協力をいただき、
県内の
医療機関で必要な輸血用血液製剤を確保することができました。
また、
献血量の確保対策及び感染症等の
リスク低減を目的に推進しております成分献血・400mL献血におきましては、
その割合は併せて全体の97%を
占め、
400mL献血においては全国平均を上回る数値となっております。
しかしながら、
本県においてもここ数年、
献血者は減少傾向にあります。特に平成19年度血液製剤の供給
量の増加率が前年度よりも11%増加し、
安定供給のために献血量を増やすべく苦慮しているところであります。
今後、
少子高齢化の進行や医療技術の進歩、
疾病構造の変化等により、
血液製剤の使用量の増大が見
込まれることから、
本県としましては、
若年層献血者の拡大と年間を通じての安定的な献血の確保に重点を
置き、
献血推進事業の取り組みを進めております。
具体的な取り組みとしましては、
例年7月全国一斉に実施されます「愛の血液助け合い運動」の一環として、
日本赤十字社とともにキャラバン隊を編成し、
県内の市町村長へ知事メッセージの伝達を行い、
市町村による
献血たすきリレーなどを行います。
若年層献血者確保対策としましては、
県内高等学校の御協力をいただき、
献血教室と高校献血をセットで
実施し、
高校生に献血思想を理解し、
実際に献血を体験していただいております。
また、
「はたちの献血キャン
ペーン」において、
沖縄県献血推進学生協議会のはたちの学生から献血宣言を行っていただき、
広くはたち
の若者に対し、
献血の御協力を呼びかけております。
今後も、
県民の皆様の御理解をいただき、
国、
市町村及び日本赤十字社等関係機関との連携を深めなが
ら、
引き続き、
より安全な血液製剤を安定的に確保するため、
本県の献血推進事業に努めてまいりたいと考え
ております。
1
国内特集
薬事・食品衛生審議会血液事業部会が2008 年 12月25日に開かれ、厚生労働省血液対策課から平成 20 年度上半
期(H20.4-9)の血漿分画製剤の需給状況が報告されたのでその資料の一部を紹介する。
2
DOMESTIC
平成 20 年度の血漿分画製剤の需給状況(4 月∼ 9 月実績と需給計画との比較)
製造・輸入量
製剤名
換算規格・単位
①計
②うち国内原料
③供給量
上段:実績(達成率) 上段:実績(達成率) 上段:実績(達成率)
下段:需給計画
アルブミン
乾燥人フィブリノゲン
組織接着剤
血液凝固第Ⅷ因子
(遺伝子組み換え型含む)
25% 50mL(瓶)
1g(瓶)
接着面積(㎝2)
1,000単位(瓶)
乾燥濃縮人血液凝固
1,000単位(瓶)
第Ⅸ因子(複合体含む)
インヒビター製剤
ヒト血漿由来乾燥
血液凝固第ⅩⅢ因子
延べ人数(人)
(瓶)
トロンビン(人由来) 10,000単位(瓶)
人免疫グロブリン
抗HBs人免疫グロブリン
乾燥抗D(Rho)
人免疫グロブリン
2.5g(瓶)
1,000単位(瓶)
1,000倍
抗破傷風人免疫グロブリン
250単位(瓶)
乾燥濃縮人アンチ
トロンビンⅢ
500単位(瓶)
乾燥濃縮人活性化
プロテインC
2,500単位(瓶)
人ハプトグロビン
2,000単位(瓶)
乾燥濃縮人C1インアクチベーター
500倍(瓶)
下段:需給計画
1,497,500 45.6%
3,281,600
0
下段:需給計画
819,000 41.2%
1,989,100
0.0%
2,400
0
3,396,900
0.0%
2,400
5,780,300 52.5%
11,013,400
320,100
1,800 54.5%
3,300
3,053,100 58.9%
5,185,000
163,500 51.1%
1,424,400 41.9%
5,278,000 49.0%
10,772,400
66,600 60.3%
110,500
155,300 46.4%
334,700
14,900 38.8%
14,900 38.8%
20,700 54.0%
38,400
38,400
38,300
8,100 43.3%
0
9,000 55.2%
18,700
0
16,300
40,900 31.4%
0
54,700 47.4%
130,200
0
0
0.0%
20,900
701,500 43.0%
1,629,600
9,400 29.1%
32,300
7,200 69.9%
0
115,500
0.0%
20,990
25,800
664,900 43.0%
1,545,000
0
11,900 46.1%
696,600 46.1%
1,511,800
0.0%
700
9,000 33.2%
27,100
0
4,700 51.1%
10,300
0
9,200
46,700 59.3%
0
38,900 50.3%
78,700
0
77,300
208,200 44.6%
208,200 44.6%
207,200 48.4%
466,400
466,400
428,200
0
0
380 190.0%
0
0
200
19,100 40.6%
19,100 40.6%
21,000 50.0%
47,000
47,000
42,000
740 185.0%
0
300 60.0%
400
0
500
自給率(供給ベース)
19年度
62.8%
20年度
(上半期)
60.1%
100.0% 100.0%
48.3%
48.4%
30.5%
34.0%
100.0% 100.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
100.0% 100.0%
95.9%
95.9%
2.8%
2.7%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
97.4%
98.0%
100.0% 100.0%
100.0% 100.0%
0.0%
0.0%
注1.数値は、製品の規格別に報告された数量を集計し、代表的な規格・単位に換算したうえ、四捨五入により100または10の整数倍で
表示した。
注2.液状タイプの組織接着剤については、接着・閉鎖部位の面積当たりの使用量を勘案して換算し、
インヒビター製剤については、体重
50㎏の人への投与量を標準として人数で算出した。
3
OVERSEAS
海外特集1
AABB協会報No.08−04(2008年8月28日付)
で若年献血者の採血副作用の軽減対策が提案されているので、
紹介
する。
この協会会報には、
20歳未満の献血者の傷害及び有害反応のリスクを緩和する方策に関する会員向け情報が含
まれる。AABBは、
高校及び大学での移動採血の刷新を期待し、
本会報を発行している。採血施設は、
この献血者の
集団における傷害及び副作用の発生を軽減するため、
いくつかのこれらの方針の実施を検討するとよいと思われる。
協会会報は、
AABB理事会が配布を承認したものであり、
承認のための要件や基準の発表、
新しい傾向またはベスト
プラクティスに関する勧告、
関連情報などを含むことができる。本会報には、
具体的な勧告は含まれず、
基準や承認要件
を作成するものではない。
これは、
AABB若年献血者副作用作業部会の報告書に基づいている。同部会は、
医師、
看
護師、
運営者、
広報及び法律専門家や米国血液銀行協会(AABB)、
米国共同体血液センターグループ(America’s
Blood Centers)、
米国赤十字社、
米国血液センター協同組合(Blood Centers of America)
からの代表者を含む。作業
部会は入手された情報を検討及び協議し、
現在の実践に基づき、
1)若年献血者における副作用の軽減、
2)副作用に
関連した献血者の傷害の解消、
3)若年献血者に関連した献血者教育及び同意の問題への対応、
という三つの目標
を取り上げた。
これらの報告書の全文は、
本会報の付属文書1と付属文書2に盛り込み、
これらの目標を達成する可能
性のある数多くの方策について記載している。いくつかの示唆された介入は、
研究やデータの裏づけがあるが、
その他
については一般的な行為や期待される行為であり、
ここに記載した目標を達成することを確証するものではない。
自発的献血は、国の血液供給の礎である。献血は、16 歳(州法が認める場合)から75 歳以上またはそれ以上の
年齢幅にある健康な集団から募る。年齢の高い献血者からの献血は、個人の健康問題やその他の適格性を阻む壁
によって減少しているため、過去数年間、採血施設は若年献血者からの献血をより重要視してきた。採血施設からの
報告によると、現在米国のすべての全血採血のうち、10∼20パーセントは20 歳未満の献血者から採取したものである
という。16 歳に献血資格を認める州では、この年齢群からの献血割合はさらに高くなっている。この献血層の伸びは、
高校における移動採血の増加と関係している。高校生の献血者は一般に、多くの理由で献血の機会を受け入れる。
その理由の中には、献血が「通過儀礼」であるという感覚、献血に関する医学的・技術的側面への関心、多くの場
合授業を免除される、などがある。また、延期率が低く、若いうちに献血を経験することにより、将来引き続き献血を行
う可能性が高くなることから、理想的な献血者であるともいえる。
若年献血者及び高校における移動採血からのデータが蓄積されるにつれ、この献血者群の副作用率は他に比べ
てより高いことが判明し、ある研究によると成人の率の5 倍も高いことが報告されている。傷害に至るまでの重篤な失神
反応が献血者に生じることは稀であるが、このグループでは比較的高くなる。さらに、年齢は、副作用リスクと反比例す
るようである。最近のいくつかの研究で、この現象や副作用を軽減する各種の方策について報告されている。こういっ
た結果が公表され、採血施設はこの問題に対する関心を高めている。このような新しい情報を認識し、献血者の安全
4
OVERSEAS
を確保し、献血経験を満足させることの重要性を理解することで、採血施設は若年献血者の安全性を確保する取り
組みを行っている。
ほとんどの献血は問題なく、副作用や不快症状もない。しかし、少数の献血者は静脈穿刺部位にあざや出血が生
じたり、軽い吐き気、またはめまい、気絶前症状、気絶または失神による虚脱またはひきつけなど、意識に変化が生じる。
作業部会は、失神等、献血者が転倒した場合に傷害に至る可能性がある意識反応の変化を、特に重視している。
献血後、合併症リスクに影響を及ぼすいくつかの因子として、反応に対する献血者の先天的な特徴や体質、採血職
員のスキルと経験、移動採血の設置場所及び環境の特徴、及び献血前後の献血者教育が挙げられる。
文献、発表研究、及び採血施設の経験から、全血献血後の高い失神併発率は、献血者の特徴と相関することが
報告されている。こうした特徴には、若年齢、初回献血、低体重、低血液量、女性、白人の民族性などが含まれる。
若い年齢、総血液量と初回献血の状態は、失神反応の主要な決定要素であり、独立したリスク因子であることが知ら
れている。
これらの誘発因子を考慮し、作業部会は以下等の副作用の軽減対策に関する多くの現場体験や文献報告を検討
した。
●
献血前教育
この分野の方策は、献血により生じる可能性のある不快症状の内容や対処方法に関する献血者の理解に影
響を及ぼす。この分野は、献血者教育の下で、さらに具体的に記載されている。
●
移動採血の環境及び設置
移動採血の設置に関する最も良い実践については、利用可能な発表されているデータや情報はほとんどないが、
作業部会は適当な換気、電気コンセント、副作用を管理するための健康診断スペースの重要性を認識している。
具体的な対策として、以下のものが協議された。
1. 作業を支持し、許容できる状況を確保するための設置場所選定手順及び、その条件が不適当になった場
合の作業の中断に関する手引書。
2. 献血者の流れの管理及びスタッフまたはボランティアの適当な配置。
3. 継続した回復方策のためのスペースがある献血環境の存在。
4. 献血者への付き添い。特に、イス・ベッドから献血後の場所(食堂)まで。
5. 栄養補給・水分補給のための献血前の区域。
6. 献血後の簡易食堂/軽食区域。
7. 食堂区域に、献血副作用を見分ける訓練を受けた適当な職員またはボランティアを配置。
8. 不安や気分不良を感じるかもしれない献血者の回復のための別エリア。
リストした方法に関連する追加的な実践及び情報については、付属の報告書に記載されている。
5
OVERSEAS
●
職員の管理及び採血者の技術
採血職員に対する訓練と管理は、すべての移動採血の成功と献血者の安全に不可欠である。高校における
移動採血では特に、特別なあるいは経験豊富なスタッフを配置することにより、献血者の副作用の影響と割合を
軽減することができるかもしれない。採血施設は、副作用の管理に関して、採血職員の配置、教育訓練、及び仕
事ぶりを定期的に精査するべきである。
●
介入
採血副作用、とくに若年献血者の副作用を防止するために、現在現場でさまざまな実践が行われている。実
践は発展しているが、採血施設は以下の方策を検討し、評価すべきである。
1. 献血者のサイズ/ 年齢の基準。 現在の適格性要件である最低体重 110ポンド(約 50 kg)、全血採血の上
限 10.5mL/kgは、献血者の多くを保護するのに十分である。これらの基準は、献血者の血液量の15%を超
えて採取することを妨ぐという推定に基づいている。一部の採血施設は、適格な献血者の推定血液量は
3,500mLを超える旨を要件とするために当該基準を変更することを検討している。その他の方策としては、
若年献血者の最低体重を120ポンド(約 55 kg)までに引き上げる、または若年献血者からの採血量を引き
下げる、などが挙げられる。
2. 気分転換の方策。副作用の自己報告の減少に基づき、視聴覚の娯楽などの気分転換の手法は、採血中
の献血者の気分を楽にする効果があることが報告されている。
3. 水分補給。数例の研究では、水(献血30分前、500 mL)を摂取した献血者は、副作用が有意に減少した
ことが報告されている。採血施設は、20 歳未満の献血者に飲み物を提供し、献血前 30 分以内に液体 500
mLを摂取するよう勧めるとよいだろう。
4. 筋伸張(Applied Muscle Tension; AMT)は、上腕や脚の大筋群を繰り返し、リズミカルに収縮させるもの
で、若年献血者の失神前反応を軽減させることが示されている。また、この手法は習得しやすく、安全に使
用できる。
5. 自動採血手順。2 単位赤血球の自動採取は、若年及び初回献血者において全血採血に比べ良好で安全
な側面を持っている。副作用リスクがより低くなるのは、一部に、生理食塩水の代替によると考えられる。高
校及び大学における血液成分分離装置による赤血球採取プログラムの拡大と、さらなる研究を推奨する。
6. 副作用後の指導。現在の基準では、採血施設は献血者の傷害を治療し、必要に応じて救急医療を提供
する手順がなければならない(BB/TS 基準 5.3.2.1)。献血者とその家族に向けた情報を盛り込むよう助言す
る。この問題は、献血者教育の下にさらに詳細に述べる。
稀なケースであることから、献血者の副作用から生じる傷害に関する情報は発表されていない。利用可能なデータは、
大規模な採血プログラムでの傷害クレームから得ている。現在の推定では、献血 200,000 回に1 回、重篤な傷害があ
ると予想される。献血者が失神反応を示し、床に倒れ、顔面やその他の骨折及び裂傷を招く際に傷害が生じる。こう
した失神反応を軽減することは、すなわちこのような種類の傷害を減らす。その他の環境上及び運営上の方策としては、
回復場所において副作用を管理する追加スタッフの使用と訓練を実施することである。また、食堂での観察や付き添い
方針の強化、副作用の認識に関する献血者教育も推奨される。回復時の高校生献血者を、転落や傷害を防止する
ため床マットに座らせることも、評価されているもう一つの方策である。これらの対策の影響の正確な評価は、負傷率に
6
OVERSEAS
関する情報のさらなる収集を待つところである。
献血前情報、献血の同意及び献血後の問題の管理方法に関する理解は、献血者に満足な献血経験を与え、献
血者が将来再び献血することを確実にするために重要である。若年献血者の供血に関しては、異なる背景、期待、
法的問題があるので、献血者教育と同意は特別な重要性を帯びている。高校における移動採血には、教育、法的責
任、及び親・保護者の関与に関する追加的な問題が含まれる。
献血前の不安は、副作用率の増加に関連する。共通の献血者の不安に対処し、有用な対処方法を示唆することは、
供血者の不安を和らげ、自己有効性(ある状況を管理する能力が自分にあるという確信)への姿勢や、献血に対する
将来の意思を向上させる。献血前教育の資料は、献血の決定の前に供血プロセス、潜在的な副作用、介入に関連
した情報が提供される意味で、同意プロセスの一環と考えられる。こうした資料が、年齢に応じた言葉づかいやイラス
トなどを用いて高校生向きに作成されれば、より大きな影響を持つことになる。また、ビデオなど、その他にも青少年に親
しみやすい形式で提示する場合もある。このような資料に盛り込む要素として、以下等が考えられる。
●
●
多くの献血者が無事に献血を行っており、副作用の多くは、起こったとしても、軽度である旨の一般的な記述。
副作用リスクが高くなる可能性があるのはどのような献血者か、及びその理由に関する記述(例:若年、初回、
女性または低体重献血者はとくにリスクが高い可能性がある)。
●
初回献血者に対し、過程について知らせるための、また未知の不安を軽減するための、献血過程に関する短い記述。
●
副作用を予防し、対処する技術を高めるための考えられる技術に関する説明、及び、これらの技術を忠実に守る
ことで考えられる利点の短い説明。
●
該当する場合検査結果に関する守秘義務と親・保護者の同意についての採血施設の方針を記載する記述。
必要な場合、採血施設は、有害反応の予防方策に関する教育的な取り組みに焦点を当て、副作用の軽減方法に
対処し、遅延性または長期的な献血者の反応の管理に対応し、献血場所から以下の集団に献血者を渡した後の看
護の継続性を検討するとよいだろう。
●
会長、移動採血のスポンサー、高校関係者
●
教育訓練、献血者募集及び採血の職員
●
高校生とその両親
●
学校看護師
理想的には、この情報は献血日が近くなってから配布する。
7
OVERSEAS
副作用後の教育と看護。採血施設は、献血者の有害事象に対し治療をし、必要に応じて救急治療を行うプロセス
を有しなければならない(BB/TS 基準 5.3.2.1)。両親・保護者または学校看護師との連絡を強化するための対策は、
献血場所を離れた後、遅れて生じる副作用の管理を向上させ、また、採血施設は、以下の対策を検討するとよいだろ
う。
●
州法に従い、献血者の意識消失またはその他の副作用あるいは傷害が見られた場合の両親・保護者への連絡。
●
献血場所及び帰宅後に副作用が生じた若年献血者のケアの継続。
自主性、真実性、慈善、無危害の原則をうまく取り入れた献血のインフォームド・コンセントの実施は、一律には採用
されていない。献血の同意は、単に書類上の署名ではなく、献血者、場合によっては献血者の親・保護者への教育
を含めたより広義のプロセスであることを銘記しておくことが重要である。さらに、16 歳及び 17 歳の未成年からの血液
採取の同意には、ある種のジレンマと課題がある。例えば17 歳の献血への同意を認めている州法は、有害反応の場
合の後続的な医療処置にも未成年の同意権を認めるかについては、ほとんどの場合触れられていない。16 歳の献血
を認める州法は、親・保護者の許可・同意を求める場合が多く、従って完全な自由を意味するものではない。こうした
州が、説明を受けた医療行為の決定を行うのに必要な意思決定権を未成年に認めているとしても、親・保護者はか
れらの未成年に対し依然として法定責任を負う。
検査結果に関する献血者への通知方針は、未成年に関する州法規定に照らして慎重に検討されなければならない。
また、未成年は一般に、保護者の許可がなければ研究に参加することは禁じられる。しかし、採血施設は施設内倫理
委員会が承認した研究プロトコルの下、ある種の必要とされるまたは選択した検査を行うことができる。こうしたプロトコ
ルは、未成年に該当する同意要件に対応している。
重ねて言うが、思春期献血者(及び親・保護者)に対し、献血プロセスや起こりうる結果(副作用)に関する情報
を提供することで、採血施設は必須の同意要件を満たしている。採血施設は、以下の実施を考慮すべきである。
●
年齢及び同意要件については、州法に従う。
●
思春期/未成年のインフォームド・コンセントについて具体的に記した文献に精通する。
●
同意プロセスの一環として、献血者と親・保護者の両方に情報提供する。一部の施設は、必要に応じて、情報
提供のパンフレットと同意文書の両方の機能を兼ね備えた親・保護者の同意書を提供している。
●
若年かつ/または初回献血者は副作用率が高いという具体的な情報をインフォームド・コンセントのプロセスに組み
込む。
●
必要に応じて、副作用及び陽性の検査結果に対する治療について、保護者に提供する情報に関する記述を盛
り込む。
8
OVERSEAS
ほとんどの献血は問題なく終了するが、一方で軽度の合併症でさえ再献血の可能性を減少させる。献血後の重度
の傷害は、稀ではあるがあらゆる年齢群の中で発生する。しかし思春期の献血者はそれよりも年上の大人の献血者と
比べて過度に影響を受ける。実質的な献血経験のすべての局面は、合併症のリスクに何らかの影響を持つ。作業部
会は、若年献血者の有害反応に関する現在の見解や実践について、総合的な検討を行った。若年献血者及び高校
における移動採血がもたらす特殊な課題に対応する上で、採血施設にとって、この情報が有益となるかもしれないこと
をAABBは確信している。リスク・ゼロは成人においてさえ到達しがたいものであるが、未成年者の合併症率について
は、献血安全性に絶えず注意を集中する持続した運営上の努力に対し、継続した配慮が求められている。AABBは
採血施設に対し、副作用から生じる傷害と献血者副作用率に関し、介入の有効性を継続して監視し、報告するよう
勧告している。米国における国家ヘモビジランス・プログラムを策定しようとするAABBの取り組みは、献血後の有害事
象に対する一貫した報告の枠組みとなるだけでなく、稀ではあるが医学的に重篤な献血関連合併症を予防する取り組
みの有効性を監視するためのメカニズムとなる。
(付属文書1及び付属文書2は省略した。)
(鈴木 典子)
9
OVERSEAS
海外特集2
連邦保健福祉省の下でAABB(米国血液銀行協会)が実施している「米国の血液の収集と利用の調査」は、2
年ごとに行われ、現在 2007 年の実施報告書が公表されている。今回の報告(2006 年実績)は前回調査(2004 年実
績)との比較も行われている。その中の「第 9 章 病院における血液製剤の価格」は、規模別及び地域別に差があ
る病院購入血液製剤単価や、医療保険での償還率について掲載していることから、その内容を紹介する。
病院は8 種類の血液製剤について、2006 年に1ユニット当たりに支払ったドル平均額を報告することを求められた。
各血液製剤の平均病院支払い価格を、表 9-1に示し、2004 年の価格と比べた。表 9-2は米国の地域ごとの各製剤の
平均病院支払い価格を示し、全国平均との統計比較を行った。表 9-3は病院の手術件数ごとに分類した各製剤の平
均支払い価格を示した。
2006 年に白血球除去 RBCの1ユニット当たりの全国平均額の中央値は$213.94であった(表 9-1)。これは2004 年
$201.07よりわずかに増加した。米国公衆衛生局(USPHS: United States Public Health Service)地域ごとに分析する
と、病院が支払った額の平均値は、ノースイースタン及びサウスウェスタンの諸州において全国平均値より有意に高か
った(地域I、 II及びIX)。 一方有意に低いのは、サウスイースタン及びセントラルの諸州に見られた(地域IV、V、VI
及びVII)
(表9-2)
。
手術件数ごとに分析すると、最大の病院(1 年に少なくとも8,000 件の手術を報告する病院)は、RBCの平均価格よ
り有意に低く平均$206.64を支払い、一方その他の手術層の病院は平均値のまわりに集まっていた(表9-3)。
表 9-1 2006 年及び 2004 年に病院が支払った 1 ユニット当たりの平均額($)
血液製剤名
2006年
2004年
変化 %
213.94
201.07
6.4
血漿(採血後24時間以内に凍結)
59.84
56.29
6.3
全血由来血小板(白血球除去未・照射未)
84.25
63.67
32.3
538.72
510.05
5.6
赤血球(白血球除去)
アフェレーシス血小板(白血球除去)
クリオプレシピテート
*計算は単純推定値に基づく。
10
*
平均額($)
53.31
― ―
OVERSEAS
表 9-2 USPHS 地域ごとの 1 ユニット当たりの平均病院血液製剤価格($)
平均ドル価格**
USPHS
病院数*
地域
赤血球
平均
確率値
凍結血漿
平均
確率値
全血由来血小板
平均
確率値
アフェレーシス血小板 クリオプレシピテート
平均
確率値
平均
確率値
Ⅰ
82
253.03
<0.0001
58.68
0.4271
77.00
0.3295
554.76
0.1718
54.40
0.7082
Ⅱ
160
243.16
<0.0001
59.47
0.7819
79.83
0.7314
598.23
<0.0001
62.46
0.1897
Ⅲ
161
209.77
0.0871
57.08
0.0629
72.49
0.1317
538.45
0.9748
45.72
<0.0001
Ⅳ
312
196.72
<0.0001
54.27
0.0172
79.52
0.6980
513.70
0.0001
43.66
<0.0001
Ⅴ
302
199.87
<0.0001
59.00
0.7593
85.16
0.9294
516.80
0.0003
53.08
0.9530
Ⅵ
196
206.72
0.0014
63.43
0.2023
60.90
0.0003
540.66
0.7710
51.81
0.6475
Ⅶ
108
199.58
<0.0001
52.55
0.0004
133.56
0.2298
485.38
<0.0001
45.80
0.0001
Ⅷ
57
223.63
0.1066
78.06
0.0013
139.00
0.2496
591.82
0.0723
59.69
0.0350
Ⅸ
186
238.56
<0.0001
62.25
0.2711
176.17
0.0903
555.94
0.0050
64.11
0.0278
Ⅹ
42
222.89
0.0627
84.51
0.1296
175.00
0.0979
596.75
0.0628
85.03
0.0221
1,606
213.94
全病院
59.84
84.25
538.72
53.31
*すべての質問に回答を提供しない病院があるため、各血液製剤の回答数は変動する。
**計算は単純推定値に基づく。
表 9-3 手術件数ごとの 1 ユニット当たりの平均病院血液製剤価格($)
平均ドル価格**
年間
病院数*
手術件数
赤血球
平均
確率値
凍結血漿
全血由来血小板
平均
確率値
平均
確率値
アフェレーシス血小板 クリオプレシピテート
平均
確率値
平均
確率値
100−999
294
216.53
0.3514
72.89
<0.0075
97.69
0.3889
545.35
0.5285
58.85
0.3797
1,000−1,399
127
211.49
0.5237
59.25
0.7836
107.32
0.3159
544.20
0.5784
57.17
0.4679
1,400−2,399
367
216.69
0.2687
59.41
0.8165
89.02
0.6697
538.62
0.9858
53.64
0.9037
2,400−4,999
485
213.19
0.7250
57.30
0.0633
77.27
0.3471
539.86
0.8103
53.86
0.8532
5,000−7,999
204
214.00
0.9845
56.57
0.0622
74.78
0.2879
535.79
0.7004
50.51
0.2696
≧8,000
129
206.64
<0.0093
52.27
<0.0001
84.22
0.9990
522.54
0.0109
48.23
0.1041
全病院
1,606
213.94
59.84
84.25
538.72
53.31
*すべての質問に回答を提供しない病院があるため、各血液製剤の回答数は変動する。
**計算は単純推定値に基づく。
採血後 24 時間以内の凍結血漿の病院支払い価格は、全国的に平均が$59.84であり(表 9-1)、2004 年の平均
$56.29より6.3% 高かった。USPHS 地域ごとに分析すると、マウンテン諸州の地域 VIIIではより高く、サウスイースト及び
セントラル諸州の地域IV及びVIIでは統計的に低い支払いであった。
小規模(1年につき100-999件の手術)の病院は、全体平均より有意に高い平均支払い額($72.89)を報告した(表
9-3)。一方大規模病院(1年につき≧8,000件の手術)は$52.27の支払いで平均より有意に低かった。
11
OVERSEAS
白血球除去や照射をしない1ユニットの全血由来濃厚血小板(プールではなく個別濃縮)の全国の病院平均価格
は、2006 年では$84.25であった(表 9-1)。これは、2004 年の価格から大幅な増加(32.3%)であったが、その増加は
細菌検出要件に関連する経費を反映している可能性がある。
サウスセントラルの諸州であるUSPHS 地域 VIの病院は、支払いが全国標準より有意に低かった。病院の手術件数
ごとの価格の違いはなかった。
1ユニットのアフェレーシス血小板について、病院は平均 $538.72を支払った。これは2004 年の$510.05に比べ 5.6%
の微増である。手術件数ごとに分類すると、最大規模病院は他の病院より有意に低い支払いであった。
平均値は、ニューヨーク-ニュージャージー及びパシフィックサウスウエストであるUSPHS 地域 II 及びIXで有意に高か
った。サウスイースト、セントラル及びノースセントラル諸州である地域 IV、V、及びVIIにおけるアフェレーシス血小板の
平均病院価格は有意に低かった。
1ユニットのクリオプレシピテートの平均病院価格は、2006 年では$53.31であった。この成分の価格がNBCUS へ報
告されたのはこれが初めてであった。多くのその他の成分と同様に、平均値との相違は統計的に有意ではなかったが、
価格は病院の手術件数が増加するにつれ低下した。
マウンテン及びウエスタン諸州であるUSPHS 地域 VIII、IX 及びXの病院では有意に高く支払った。一方ミッド・アト
ランティック及びサウスイースタン諸州であるUSPHS地域III及びIVの病院では米国平均値より有意に低かった。
本調査は、病院に造血前駆細胞(アフェレーシス、骨髄及び臍帯)の経費を質問した。本質問への回答率はわず
か 23.9で、7ヶ所の病院が各々にアフェレーシス、骨髄及び臍帯の経費を報告しただけで大変低かった。その分散と
標準偏差は、そのデータを参考にできないほど高かった。この回答率はこれらの製剤を用いる多くの病院が外部から購
入しないで病院自体で採取していることを示唆している。
12
OVERSEAS
5 種類の血液製剤について老人医療健康保険制度と低所得者医療扶助制度(CMS)の病院通院患者定額償
還システム(OPPS)償還率を、表 9-4に報告した。血液製剤の病院価格は2004 年から2006 年の間に5.6%から
32.3% 増加したが、大部分のCMS OPPS 償還率は、輸血用血漿が25.9% 低下した以外は、20.6%から60.7% 増加
した。
これらの数値に基づくと、1ユニットのRBCの償還は、平均病院価格のおよそ76%;1ユニットの輸血用血漿は平均
支出のおよそ118%;1ユニットの全血由来血小板は平均支出のおよそ61%の償還率である。1ユニットのアフェレーシ
ス血小板の償還は病院が支払った平均経費の92%を補っている。クリオプレシピテートでは、1ユニットの平均病院支
出のおよそ88% である。
ここにCMS OPPS 率を報告したのは、それが個別の血液製剤の老人医療健康保険制度償還のための唯一の
簡易な評価基準であるからである。血液製剤の大部分の償還は、入院患者業務向けに作られたdiagnosis-related
group (DRG)支払の一部であり、DRGのその他の側面から引き出すことは不可能に近い。老人医療健康保険制度
以外に、他の支払者等は本報告に含まれていないさまざまな手段を用いて血液製剤の支払いをする。
表 9-4 血液製剤の CMS 病院通院患者定額償還方式による償還価格
償還コード
血液製剤名
CPT/HCPCS
償還価格
APC
2006年**
2004年*
変化 %
赤血球(白血球除去)
P9016
954
163.16
119.26
36.8
凍結血漿(採血後8-24時間の凍結)
P9017
955
70.40
95.00
−25.9
全血由来血小板
P9019
957
51.50
41.44
24.3
アフェレーシス血小板(白血球除去)
P9035
09501/1014
493.12
408.81
20.6
クリオプレシピテート
P9012
952
47.10
29.31
60.7
*連邦保健福祉省老人医療健康保険制度;病院通院患者定額償還システムへの変更及び
暦年2004年度支払価格;最終規則 w/コメント期間
**老人医療健康保険制度;病院通院患者定額償還システムへの変更及び
暦年2006年度支払価格;最終規則 w/コメント期間
CMS=老人医療健康保険制度と低所得者医療扶助制度;CPT=医師診療行為用語(current procedural terminology )
; HCPCS=health-care common procedure coding system;APC=ambulatory patient classification
要約すると、1ユニットの全血由来血小板の平均病院価格は2004年から2006年の間に32.3%の増加があった。RBC、
輸血用血漿及びアフェレーシス血小板は、同じ期間に7%に満たない増加であった。調査した血液製剤の平均価格は、
米国公衆衛生局地域 VIII、IX 及びX(マウンテン及びウエスタン諸州)では他の地域より高く;地域 IV、V、VI 及び
VII(サウスイースタン及びセントラルの諸州)では他より低かった。従来の調査に見られたように、大規模病院ほど製剤
ごとの全国平均より低い価格であったが、それは購入した量に基づく供給業者とのより有利な価格合意の結果であると
思われる。供給業者は病院に対し、期限切れが近い製剤には優遇価格を設定して提供している可能性もあるが、そ
れは規模の大きい輸血部門だけが実行できる選択肢でもある。
(鈴木 典子)
13
本欄には、2008 年 12月∼2009 年 1月に当機構ホームページ
(Today's News)にアップした記事を掲載しました。
省略記事に関しては、ホームページをご覧下さい。
14
15
16
献血量は、血小板成分献血において併せて
採血された血漿の量を含まない
Blood Program in Japan 2007の発行(2008 年12月)
血液凝固因子製剤・文献情報 No.51の発行(2009 年 1月)
東京は「土筆んぼ」を待つ時節となりました。 元旦以降も飛び切り寒い日があるでもなく、雪景色を見ることも
なく、穏やかな?冬でした。 近年は地球温暖化の影響からか、関東地方も季節のメリハリ感が年々薄らいできて
いる観があります、心配なところです。 読者の皆様方の地元の季節感は如何なものでしょうか。
当機関誌の掲載記事も、よりメリハリ感のある内容の盛り込みに努めてまいりますので、乞うご期待ください。
また、記事に関するご意見等ございましたら、お寄せ戴ければ幸いです。
(後藤 輝明)
訂正とお詫び
血液製剤調査機構だよりNo.108の国内特集記事「平成20年度血液凝固因子製剤必要量調査の結果報告」において、表1
「平成19年4月以降に国内で供給されている血液凝固因子製剤(第VIII因子、第IX因子、
インヒビター用、
フォンヴィレブランド
因子)」の製剤の分類に一部誤りがありました。正しくは、第VIII因子製剤は、
クロスエイトM(日本赤十字)、
コンファクトF(化学及
血清療法研究所)、コージネイトFSバイオセット
(バイエル薬品)、
アドベイト
(バクスター)の4製剤、第IX因子製剤は、
ノバクトM
(化学及血清療法研究所)、PPSB-HT「ニチヤク」
(日本製薬)、
クリスマシン-M(ベネシス)
の3製剤、
インヒビター用製剤は、
ファイバ
((バクスター)、
ノボセブン
(ノボノルディスクファーマ)の2製剤、
フォンヴィレブランド因子製剤は、
コンファクトF(化学及血清療法
研究所)、
コンコエイト-HT(ベネシス)の2製剤です。ここに訂正してお詫びいたします。
なお、
当機構ホームページ上の当該・表1は修正しておりますので、併せてご参照戴ければと思います。