吹付け施工における鉄筋背面の充填性に与える影響因子の検討

吹付け施工における鉄筋背面の充填性に与える影響因子の検討
H01038
小森
健一郎
H01052
洲永
吉憲
指導教員
勝木
太
1. 背景
表−1 吹付け施工条件
現在コンクリート構造物は様々な原因によって劣化が進行しており、劣
化の現状をふまえた補修の技術の確立が強く求められている。劣化したコ
ンクリート構造物の補修には、劣化要因を直接はつり取り、断面修復材を
充填することで耐久性を回復できる断面修復工法が一般的に採用されて
いる。断面修復工法の施工方法の中でも吹付け施工は大断面に対して有効
であることで多く採用されている。しかし、吹付け後の断面修復材の品質
や充填度の確認が難しいなどの問題もある。特に鉄筋背面への充填性は補
修後の各耐久性能、再劣化などに大きな影響を与えると考えられ検討が求
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
母材条件
機械条件
配筋 吹付け
吹付け
はつり
鉄筋径
間隔
圧力 ノズル径
距離
2cm
D16
1cm
20cm
3cm
0.5MPa
D10
D22
10mm
10cm
30cm
0.4MPa
2cm
0.6MPa
D16
20cm 0.7MPa
0.9MPa
8mm
0.5MPa
12mm
められている。吹付け施工の鉄筋背面への充填性は、施工条件の違いによ
って左右されると考えられるが、現状ではノズルマンの技量と経験により
木枠
40cm,50cm,60cm
鉄筋
施工が行なわれているため、定量的評価が行なわれていない。そこで本研
15cm
究では吹付け施工の条件が鉄筋背面の充填性に与える影響度の違いを評
価することを目的とする。
2. 実験概要
40cm,
50cm,
60cm
10cm,
20cm,
30cm
本研究の使用材料は断面修復材として多く使用されているポリマーセ
15cm
メントモルタルとした。吹付け方法は、湿式吹付け工法を用いた。吹付け
15cm
方向については、床版を模擬したことと、鉄筋背面に未充填部ができやす
いと考えられる上向きで吹付けた。表−1 に今回検討の対象とした吹付け
施工条件を示す。まず、母材条件としては、はつり面から鉄筋までの距離
10cm, 15cm
20cm,
30cm
図−1 吹付け面から見た型枠
(はつり距離)を一般に行なわれている断面修復工法で可能性のある範囲
で 1cm,2cm,3cm とした。鉄筋径と配筋間隔については、道路橋や鉄道橋
で使用される可能性のある範囲で、鉄筋径を D10,D16,D22 に、配筋間隔
を 10cm,20cm,30cm とした。次に、吹付け機械条件としては、吹付け圧力
を準備実験によって吹付け可能であった範囲で 0.4MPa∼0.9MPa とした。
はつり面から鉄筋
背面までの距離
1cm,
2cm,
3cm
かぶり厚 2cm
吹付け材料
断面修復材
鉄
筋
モルタル
2cm
吹付けノズル径(直径)は吹付けガンの使用可能な範囲で 8mm,10mm,12mm
とした。なお、表−1 に示すように①の条件を標準とし、各吹付け施工条
件の違いによる空隙率の変化を実験的に確認した。
吹付け方向
図−2 脱型前の供試体断面図
図−1 に吹付け面から見た型枠を、図−2、図−3 に今回作成した供試
体の詳細を示す。供試体作製手順は、鉄筋背面へ 2 層に分けて吹付け、翌
日残りの部分に普通モルタルを打設した。3 日間養生の後、図−4 の点線
で示すように、はつり面から近い鉄筋の側面、はつり面から遠い鉄筋の側
面を切断し、残りの 2 面については両端から 10cm の場所をコンクリート
カッターを用いて切断し、その切断面を計測断面とした。そして撮影した
計測断面を画像解析ソフトを用いて吹付け施工条件ごとに鉄筋背面にで
図−3 切断した吹付け供試体
きた空隙を計測して空隙率を算出した。また、これらの結果をもとに各条
件による影響度の違いを明確にするために、重回帰分析を行なった。
10cm
供試体
3. 結果と考察
3.1 空隙解析
はつり面から遠い鉄筋
10cm
まず、母材条件の影響度について考察する。図−5 に、はつり距離と空
はつり面から近い鉄筋
隙率の関係を示すが、はつり距離が長くなると空隙率も大きくなる。これ
図-4 供試体切断図
は、はつり面から鉄筋までの距離が長くなると、1 層で施工する体積が多
くなり、材料が自重でダレ易くなる。そのため、はつり面および、1 層と
2 層目の境界の鉄筋背面に空隙ができやすいのではないかと考えられる。
った。このことから、D22 以上の鉄筋を使用すると径の影響を受け、鉄筋
20%
隙 16%
率
12%
%
)
率はあまり変わらなかったが、D22 を使用した場合には空隙率が大きくな
空
(
図−6 に鉄筋径と空隙率の関係を示す。
D10 と D16 を使用した場合の空隙
24%
8%
クロス部などの狭い箇所に空隙を生じさせやすくなることが分かった。な
4%
お、配筋間隔条件では、配筋間隔の違いによる空隙率に明確な差は確認で
0%
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
4
4.5
5
は つ り 距 離 (cm)
きなかった。
図-5 はつり距離と空隙率の
続いて、吹付け機械条件の影響度について考察する。図−7 にノズル径
関係
と空隙率の関係を示すが、ノズル径が大きくなれば、空隙率も大きくなる
傾向が見られた。これはノズル径が小さいと材料が鋭角に吹き出て施工し
は、吹付け圧力が 0.7MPa と 0.9MPa と大きくなると空隙率が小さい。こ
20%
20%
空
空
隙
隙 16%
16%
率
率
12%
12%
%%
8%
8%
)
)
などの狭い箇所を施工しにくくなるためだと考えられる。吹付け圧力条件
24%
24%
(
(
やすく、ノズル径が大きいと材料が広角に吹き出てしまい、鉄筋クロス部
4%
4%
れは、吹付け圧力が大きくなると、材料が分散して細かく吹付けられ、ま
0%
0%
た、材料が押し込まれて締め固められるためではないかと考えられる。
D10合計
D10合計
3.2 重回帰分析
D16合計
D16合計
鉄筋径
鉄筋径
D22合計
D22合計
図-6 鉄筋径と空隙率の関係
各吹付け施工条件が空隙率に与える影響度の違いを明確にするために、
Y(空隙率)=−02559+0.0393 X1+0.0035 X2−0.0006X3+0.0337 X4−
0.1772 X5
表−2 より、t 値の絶対値をみると X1、X4、X5、X2、X3 の順に大きい
ので、この順で Y(空隙率)への影響度は、X1(はつり距離)>X4(ノズル径)
>X5(吹付け圧力)>X2(鉄筋径)>X3(鉄筋間隔)となる。この結果より各吹
20%
空
隙 16%
率
12%
%
8%
)
す。偏回帰係数より回帰式は、以下の式となる。
24%
(
重回帰分析を行なった。重回帰分析によって求められた結果を表−2 に示
4%
0%
ノ ズ ル 径 8㎜ 合 計
ノ ズ ル 径 10㎜ 合 計 ノ ズ ル 径 12㎜ 合 計
ノズル径
図-7 ノズル径と空隙率の関係
付け施工条件による空隙への影響を定性的ではあるが、評価できたと考え
られる。
4. まとめ
① 母材条件において、はつり距離が長い、または、鉄筋径が 22mm を
超えると空隙率の増加につながると考えられる。
② 吹付け機械条件において、ノズル径が小さい、または、吹き付け圧
力が大きくなると空隙率が小さくなる傾向がみられる。
③ 重回帰分析によって、各吹付け施工条件の空隙率への影響度は、は
つり距離>ノズル径>吹付け圧力>鉄筋径>鉄筋間隔、の順となる
ことがわかった。
表-8 重回帰分析の結果
係数 標準誤差
-0.2559
0.1205
0.0393
0.0083
0.0035
0.0032
-0.0006
0.0019
0.0337
0.0095
-0.1772
0.0613
P- 値 下 限 95%
0.0463
-0.5072
切片
0.0220
X 1 (は つ り 距 離 ) 0.0001
0.2873
-0.0032
X 2 (鉄 筋 径 )
0.7631
-0.0045
X 3 (配 筋 間 隔 )
0.0021
0.0138
X 4 (ノ ズ ル 径 )
-0.3051
X 5 (吹 付 け 圧 力 ) 0.0091
切片
X 1 (は つ り 距 離 )
X 2 (鉄 筋 径 )
X 3 (配 筋 間 隔 )
X 4 (ノ ズ ル 径 )
X 5 (吹 付 け 圧 力 )
t -値
-2.1239
4.7340
1.0931
-0.3056
3.5395
-2.8890
上 限 95%
-0.0046
0.0566
0.0102
0.0034
0.0535
-0.0493