「四国技報」第12巻24号 平成25年1月1日 旧吉野川及び今切川における地震・津波対策の状況報告について 徳島河川国道事務所 工務第一課 設計係長 高橋 直人 河川調査課 計画係長 小谷 精司 1.はじめに 東日本大震災を教訓に、紀伊水道に注ぐ吉野川下流域の旧 吉野川及び今切川でも、東南海・南海地震など今後数十年か ら百数十年に一度程度の発生が予測される地震・津波に備え るため、平成24年9月末より耐震対策工事に着手しました。 写真-1 2.1 徳島阿波 おどり空港 旧吉野川 ついて紹介します。 今切川 吉野川 本稿では、地震・津波対策の検討経緯や工事の実施状況に 吉野川下流域の空中写真 地震・津波検対策の検討経緯 平成23年9月に公表された中央防災会議の専門調査会報告等では、今後の地震・津波対策を進めてい くにあたり、基本的に二つのレベルの津波が設定されました。一つは、発生頻度はきわめて低いもの の発生すれば甚大な被害をもたらす「最大クラスの津波」であり、住民避難を柱とした総合的防災対 策を構築する上で想定されるものです。もう一つは、最大クラスの津波に比べ発生頻度は高く津波高 は低いものの大きな被害をもたらす津波で、「数十年から百数十年に一度程度の発生が想定される規 模の津波」を対象に、海岸における防御と一体となって河川堤防、水門等により津波災害を防御する ものです。 この方針を踏まえ、吉野川下流域において必要となる河川堤防等の施設対応を実施していくため、 過去の著名な地震・津波の記録や、近い将来に発生が危惧される東南海・南海地震による津波の影響 を踏まえ、「数十年から百数十年に一度程度の発生が想定される規模の津波」に対する対策必要区間や 対策工の検討を行いました。 2.2 地震・津波対策の概要 (1)想定する地震・津波の規模 過去に徳島県下に影響を及ぼした南海トラフの地 震発生履歴(図-1)や、津波シミュレーション等に 基づく津波水位の比較結果を踏まえ、平成 15 年に中 央防災会議が公表した「東南海・南海地震同時発生 モデル(Mw8.6)」をもとに検討を行いました。 上記地震・津波モデルを用いた平面二次元の津波 シミュレーションの結果から、吉野川下流域を遡上 する津波の高さを算出し、対策必要区間を設定しま した。 図-1 南海トラフの地震発生履歴 (中央防災会議「東南海、南海地震等に関する 専門調査会」第 16 回資料より) 22 「四国技報」第12巻24号 平成25年1月1日 (2)対策必要区間の設定 対策必要区間は、地震による地殻変動と液状化に伴う沈下を考慮した河川堤防の高さに比べ、想定 する津波の高さがこれを上回る区間を設定しました。その延長は、旧吉野川で約 10km、今切川で約 13km の合計約 23km です。なお、吉野川においては、沈下した堤防を津波が越えない結果となったため対 策不要としています。 旧吉野川 今切川 吉野川 図-2 対策必要区間(吉野川、旧吉野川、今切川) (3)対策工の検討 河川堤防の対策は、図-3 に示すとおり計画堤防高まで築堤又は嵩上げを行うことを前提とし、嵩上 げ後の堤防が地震による地殻変動と液状化に伴う沈下で高さが不足するような箇所では、さらに沈下 の抑制を図る液状化対策を実施する方針としています。なお、液状化対策には様々な工法があります が、ここでは鋼矢板(矢板の剛性で液状化層の側方変位を抑制)や、締固め砂杭(SCP)(砂地盤の密 度増加と地盤の側方拘束)を基礎地盤に打設し堤防の沈下を抑制する工法を採用することとしました。 このほか、支川との合流部における水門の新設や、既設水門・樋門の耐震化・自動化・遠隔化等に より支川や開口部からの津波の浸入を防止すべく対策を進めているところです。 ①計画堤防高までの築堤又は堤防嵩上げ 計画堤防高 鋼矢板や締固め砂杭(SCP)を打設する工法 築堤 嵩上げ 無堤箇所 により河川堤防の沈下を抑制 暫定堤箇所 地震により沈下 ②液状化対策 計画堤防高 施設計画上の津波水位 沈下後堤防高 沈下後 図-3 河川堤防の対策イメージ 23 充填材の挿入・拡径, 振動締固めなど 鋼矢板 、鋼管 矢板の打設 など 「四国技報」第12巻24号 2.3 平成25年1月1日 工事状況報告(平成24年12月現在) (1)平成24年度の工事実施箇所 平成24年度は、対策必要区間内の河口堰下流区間で、旧吉野川で約 0.6km、今切川で約 3.0km の工事を実施しています。(図-4) 工事件数は旧吉野川・今切川合わせて 19 件であり、隣接して工事を実施する箇所も多数存在し、 各関係機関や工事施工業者間との連絡・調整を密に行い工事を進めています。 【旧吉野川】 ①平成 24 年度 矢倉堤防耐震対策(その1~2)工事 ②平成 24 年度 徳長堤防耐震対策工事 【今切川】 ③平成 24 年度 中村堤防耐震対策(その1~2)工事 ④平成 23-24 年度 笹木野堤防耐震対策(その1~3)工事 ⑤平成 24 年度 笹木野堤防耐震対策(その1~8)工事 ⑥平成 24 年度 加賀須野堤防耐震対策(その1~3)工事 ② ① 河口堰 ③ ④ ⑤ ⑥ 河口堰 ※ 工事施工場所や工事件数は変更になることがあります。 この地図は、国土地理院長の承認を得て、同院発行の2万5千分の1地形図を複製したもの(承認番号 平17四複、第61号)を一部転載したものである。 図-4 平成 24 年度耐震対策工事実施箇所 (2)標準断面図 施設計画上の津波水位 液状化対策の工事は、図-5 に示すとおり、 基 本 的 に 鋼 矢 板 及 び 締 固 め 砂 杭 (SCP)の 打 設による対策となりますが、工法選定につ いては、設計の段階で液状化層の深さや現 地状況(近接家屋や重要施設の有無)、コス 締固め砂杭 (SCP) ト等の総合判断により、工事箇所毎に最適 L=9.5m 鋼矢板(Ⅲw型) L=15.0m な工法を選定しています。 図-5 24 工事断面例(笹木野箇所) 「四国技報」第12巻24号 (a) 施工状況(全景) (b) SCP 打設状況(静的砂杭締固め) (c) 鋼矢板打設状況(油圧バイブロ) 写真-1 平成25年1月1日 (d) 鋼矢板打設状況(油圧圧入) 工事実施状況(笹木野箇所) (3)工事施工に伴う留意点(笹木野箇所) 工事箇所周辺は家屋が近接している箇所が多いことから、振動・騒音の少ない油圧圧入工法を鋼矢 板打設の標準工法とし、締固め砂杭(SCP)は静的砂杭締固め工法を採用しています。(写真-1) 鋼矢板圧入時の注意点として、通常矢板は一度ねじれてしまうとその後の矢板も全てねじれた状態 となり、更にそれが原因で最終的には矢板が圧入出来ない状況になる可能性があります。特に今回の 工事のように、20m級の長尺物の矢板を一連で施工する場合には、そのような状態になる可能性が高 くなるため、その対応策として当現場では、まずセクション部を連結せずに一度圧入し、地中を柔ら かい状態にして再度セクション部を連結して本打ちを行うようにしています。 3. 今後の予定 平成25年度も引き続き、現在実施している箇所の一連区間の完成を目指して耐震対策工事を実施 していく予定です。 旧吉野川及び今切川における地震・津波対策は、来るべき地震・津波への備えとして緊急的に取り 組んでいる事業です。そのため、対策が必要な残りの箇所についても関係機関等との協議・調整のも と対策工事を推進し、いち早く地域の安全・安心につながるよう努めていきます。 25
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