新門司沖土砂処分場における浚渫土砂の減容化プロジェクト 北九州港湾

新門司沖土砂処分場における浚渫土砂の減容化プロジェクト
北九州港湾・空港整備事務所 第二工務課
第一工務課
◎河野正文
○吉本幸太
●久保敏哉
1.はじめに
関門航路
現在、関門航路及び新門司航路
は、近年の船舶大型化に対応する
ため、航路の拡幅、増深を行って
いる。発生する浚渫土砂は、北九
新門司港
新門司航路
北九州市
州空港に隣接する新門司沖土砂
処分場 3 工区(以下 3 工区という)
北九州空港
に処分している。
新門司沖土砂処分場3工区
3 工区は、平成 16 年に外周護岸
が完成した海面土砂処分場(南北
写真-1 新門司沖土砂処分場位置図
1,485m×東西 492m)で、当初計
画では、受入容量約 1,000 万㎥(東京ドームの約 8 個分)で、平成 20 年代半ばまで浚渫土
砂を受け入れ、その後、新たに建設する処分場に引き継ぐ計画であった。
新たな土砂処分場の建設にあたっては、関係者調整や諸手続等、実施までには相当の時
間を要することから、これまでの間、処分済みの土砂を減容化し、3 工区の容量を確保する
技術開発を行った。
本報告は、3 工区の限られた容量の中に当初計画土量以上の土砂処分を行うため取り組ん
だ浚渫土砂の減容化プロジェクトである。
プロジェクトの概要は、「浚渫土砂の的確な容量管理手法の開発」、「減容化ステップ 1:
浚渫土砂の脱水処理」、
「減容化ステップ 2:脱水処理土を活用した処分場嵩上げの築堤施工」、
「減容化ステップ 3:処分場内土砂の圧密沈下の促進」である。
埋立土の採取
脱水処理施設
埋立土砂を圧縮
嵩上げ築堤
+12.0m
+8.0m
海
空港
受入容量増加
埋立土の脱水処理
既設護岸
減容化ステップ
reuse 3 埋立土
国内で初めて、脱水処理
土を構造体として利用
図-1
既設護岸
減容化ステップ
reduse 1
減容化ステップ
recycle 2
築堤材に有効利用
3 工区減容化の概要
2.3 工区の減容化の流れ
3 工区の土砂処分と減容化の概要を図-1 で示し、写真-2 では 3 工区の減容化の流れを
示す。①浚渫船(海翔丸)舷外配送装置から、②配砂管により浚渫土砂吐出口に送り土砂
処分。減容化のフローは、③ポンプ船で再揚砂、④脱水処理プラント(ステップ 1)、⑤脱
水処理土仮置、⑥脱水処理土による築堤盛土(ステップ 2)、⑦浚渫土砂の圧密沈下促進(ス
テップ 3)、⑧余水処理の流れとなる。
■護岸改良(嵩上げ築堤部地盤改良)
③
⑤
原泥(埋立土砂)
土取り(ポンプ船)
⑧
④
脱水処理土仮置
脱水処理土
製作プラント
余水処理設備
②
浚渫土砂吐出口
⑦
⑥
鉛直・水平ドレーン
材の打設による
圧密
浚渫土砂の圧縮
築堤材盛土
①
海翔丸舷外排送装置
浚渫土砂
浚渫船
【2012年(平成24年) 6月】
写真-2
3 工区減容化の流れ
3.減容化の取り組み
3.1 処分場の的確な容量管理手法の開発
各航路の浚渫工程を計画通りに執行していくためには、処分場の容量を的確に把握し、
将来の受入容量を精度良く予測する容量管理手法の確立が重要なテーマである。3 工区に投
入する浚渫土は、含水比約 200%の超軟弱土(写真-1)である。ここでは、北九州空港埋立
事業で超軟弱土により造成した時に構築した自重沈下予測手法をベースに実績を積み重ね、
我が国で初めて大規模土砂処分場の泥面変化予測手法を確立し、的確な容量管理を行った。
図-2 に示す、軟弱地盤の圧密沈下を促進する為のプラスチックボードドレーン材の打設
(以下鉛直ドレーン打設という)による土砂堆積層の沈下予測計算を行い、処分場内に設置
した沈下板による実測値と整合を図りながら、容量を管理するものである。
0.00
沈下量( m)
0.50
予測値
1.00
写真-3 超軟弱土
実測値
1.50
1.6m間隔
Cc: 0.95
Cv: 80
2.00
2.50
航路整備で発生した浚渫土砂
(超軟弱土砂)
※実測値は各ポイントに設置された沈下板による観測値
3.00
1.0
10.0
経過時間 (対数表示)
100.0
1000.0
写真-3 超軟弱土
図-2 鉛直ドレーン打設による土砂堆積層の沈下予測と実績
3.2 減容化ステップ 1:浚渫土砂の脱水処理
3 工区に処分された土砂は、含水比約 200%の超軟弱土であり、脱水処理(土砂の水分を
抜き体積を減らす)し、さらにこの土砂を築堤材として活用することで減容化するもので
ある。
脱水処理は、高圧フィルタープレスを用いた加圧脱水濾過方式で、強制的に間隙水を搾
り出し、土塊を製作するものである。
① 土取り
③ 加水による含水比調整
② 砂、貝殻等の除去
小型空気圧送船
④ 脱水助剤の添加
希釈水の加水
砂礫除去装置
PACの添加
作業工程は、写真-4 に
示す①土取り、②砂、貝
殻等の除去、③濃度調整、
ステップ1
④脱水助剤(PAC と消石灰
溶液)の添加、⑤スラリ
ーの貯留、⑥高圧脱水処
理にて脱水処理、⑦仮置
きとなる。
脱水処理土を築堤材と
して活用することから、
設計条件である内部摩擦
写真-4 脱水処理の工程
角φ=30°、粘着力
c=5.0kpa を確保するように
品質管理した。日々の品質
管理は、強度試験(針貫入
試験)と含水試験を各プレ
ス機毎に 1 日 2 回実施した。
処分場内の土砂(含水比
wn=150~250%:液性限界
図-3 脱水処理による土の体積変化
wL=90%)を固形状の脱水処理土
(含水比 wk=43~47%:塑性限界 ws=30%)まで脱水することで、容積は処理前の約 1/2~
1/3 になる(図-3)。
貯水槽
濃度調整槽」
反応槽
分級された砂
消石灰溶液の添加
⑤ スラリーの貯留
スラリー槽
⑥ 高圧脱水処理
⑦ 仮置き
高圧脱水処理イメージ図
高圧フィルタープレス
高圧フィルタープレス
高圧打ち込みポンプ
高圧フィルタープレス(建屋内部)
脱水処理土(処
理前の約1/2~
1/3の容積)
水
脱水処理土
脱水処理土
3.3 減容化ステップ 2:脱水処理土を活用した処分場嵩上げの築堤施工
3 工区では、これまで築堤材として山土を購入して造成してきた。脱水処理土を土木材料
として軟弱地盤上に活用することは全国で初めての試みである。築堤の造成フローを写真
-5 に示す。DL±0m~DL+4.0m 付近の水中部から潮間帯付近までは台船から投入し(写真-5 ①
②)、DL+4.0m~DL+12.0m 付近は、ブルドーザーによる撒きだしを行った(写真-5 ③④)。
盛土施工にあたっては、層別沈下計により水平変位、鉛直変位等の挙動観測を行った。
ステップ 1 及び 2 により、約 310 万㎥の減容化が図られる。
ステップ 2
①
②
③
④
写真-5 築堤の造成状況
3.4 減容化ステップ 3:処分場内土砂の圧密沈下の促進
3 工区では、処分高さを最大で DL+11.5m 程度まで計画しているが、容量が満杯になる前
に 3 工区の超軟弱な土砂を圧密(圧縮)する地盤改良により容量の拡大を図った。処分高さ
が約 DL+6.0~+7.0m の時点で、3 工区の 648m×250m=16.2ha の範囲に排水材となる鉛直ド
レーンを打設し、堆積している軟弱土層の過剰間隙水圧を消散させて 3 工区の圧密沈下を
促進させるものである。鉛直ドレーン打設時点は、水域又は泥上であることから、フロー
ト式プラスチックボードドレーン(以下 PDF 工法)
(Plastic board Drain by Floating system)
を採用した。
PDF 工法による圧密沈下促進の原理(図-4)は、鉛直ドレーンを原地盤の粘土層(約 DL-23m
付近)まで打設し、水平ドレーンを接続することにより、間隙水を排出させる仕組みであ
る。通常、鉛直ドレーンの排水層はサンドマット(敷砂)によって行うが、ここでは水平
ドレーンがサンドマットの機能を持つもので、敷砂層分も減容化に加わることとなる。排
水の流れは、水平ドレーンに接続した暗渠材から一定間隔に設置された釜場に集めた水を
水中ポンプにより場外に排水する。
ドレーンピッチ 1.6m×1.6m の正方形配置で、1 本あたりの打設長は約 30m で、ドレーン
の総延長は約 2,000km(鉛直+水平ドレーン)になる。
工事実施にあたっては、改良効果としての沈下量、圧密度を確認するため、沈下板、間
隙水圧計による沈下管理を行い、沈下予測と沈下実績の整合を図り的確な容量管理を行っ
た。
ドレーン打設後、さらにその上に投入される浚渫土砂が載荷重となり圧密促進される。
原地盤の粘土層と投入した浚渫土合わせて約 6m 圧密沈下することで、約 220 万㎥の減容化
が図られる。
PDF船を移動させる
ためのウインチ
新規浚渫土
▽DL+6~7m
鉛直ドレーン打設+水平ドレーン
水平ドレーン
DL-7m
DL-21.5~-22.4m
鉛直ドレーン打設状況
投入済み浚渫土
鉛直ドレーンと水平ドレーンを組み合わせ、
圧密沈下を促進(PDF工法)
護岸嵩上げ
護岸嵩上げ
圧密沈下後
▽DL+11.5m
鉛直ドレーン
沖積粘性土
新規浚渫土
鉛直ドレーン打設+水平ドレーン
DL-21.5~-22.4m
鉛直ドレーン
DL-7m
水の流れ
水平ドレーン
ドレーン排水概念図
図-4 ドレーン打設による 3 工区の圧密沈下の促進
4.おわりに
本プロジェクトでは、次期処分場建設までの期間、航路等の整備工程を遅らせることな
く浚渫土砂を計画的に受入れるため 3 工区の減容化の技術開発を行った。
的確な沈下予測による容量管理手法を開発し、①浚渫土砂の脱水処理、②脱水処理土の
築堤材有効活用、③土砂処分場内の圧密沈下促進により、合計約 530 万㎥の減容化を図る
ことが可能となった。処分場建設当初計画の約 1,000 万㎥に対し、見込みの容量は約 1,530
万㎥と約 1.5 倍となった。
浚渫土砂処分場の計画的な容量確保は、航路等の整備を実施する上で重要な課題である。
本報告の減容化の取り組みで得られた技術が他の土砂処分場でも参考となれば幸いであ
る。
参考文献
○一般社団法人 水底質浄化技術協会 技術委員会:浚渫土の減容化と有効活用 新門司沖土砂処分場と大島干潟,水底質浄化技術協会
現場研修報告
○佐藤哲也・中道正人・矢野米生・右田宏文・片桐雅明・山本修司(2008):機械脱水処理土を用いた盛土の試験施工,沿岸技術研究センター
論文集,No.8
○長野敏之(りんかい日産建設(株)PFP チーム)
:高圧フィルタープレス機を用いた浚渫泥土の減容化技術