2013 年度全学体験ゼミナール 多変数関数の微分:第 1 回 4 月 9 日 清野和彦 数理科学研究科棟 5 階 524 号室 (03-5465-7040) [email protected] http://lecture.ecc.u-tokyo.ac.jp/~nkiyono/index.html このゼミの基本情報 このゼミナールについて知っておいて欲しいことを箇条書きにします。 • 時間は 18:20 から 19:50 までです。本来の 6 限の時間より 10 分遅くなっていますのでお気 を付け下さい。 • 普通の講義の形式で進めますが、毎回途中で(多くの場合、最後に)問題を出します。 • 一問を選んで(こちらから指定する場合もあります) 「解答・感想・要望用紙」に解いて下さ い。最後に解答を配布しますので、それを見て添削するなどして正しい解答に修正してから 提出してください。(間違った部分を消す必要はありません。正しい解答を朱で書き足すな どで結構です。)解ける問題がない場合には、解答の丸写しでもよいので、必ず正しい解答を 書いてください。 • 言いたいことがある人は「解答・感想・要望用紙」にお書き下さい。どのようなことを書か れても結構です。イヤなことを書かれたから不合格にするなどということはありません。 • 提出した「解答・感想・要望用紙」の解答が間違っていた場合や、実験など都合で出席でき ない場合は、ホームページなどからプリントを入手してプリントにある問題すべてを解き、 自筆レポートとして 7 月 19 日(金)の数理科学研究科棟が閉まる(20 時)までに私の部屋 (5 階 524 号室) の扉にぶら下げてある袋に提出して下さい。直接ゼミの教室に持って来ても 受け取りません。 • レポートには正しい解答を書いてください。自力で解いたものの正しさに自信が持てないが どうしてもその解答をレポートに書きたい場合には、プリントの解答などの正しい解答を併 記してください。 • レポートはあくまでも救済措置ですので、ゼミ当日に提出される「解答・感想・要望用紙」 に比べて内容を厳しくチェックします。 • 途中計算もあまり省略せず、少なくともプリントの解答程度には書いて下さい。 • 欠席した分のレポートをすべてまとめて最後に提出してもよいですし、何回かに分けて提出 しても結構です。 • とは言え、欠席してしまったらなるべく早くレポートを提出することをお勧めします。なぜ なら、早めに提出されたレポートについては、不備があった場合そのことをホームページで お知らせすることができるので、再提出が可能ですが、締め切り近くに提出されたレポート 2 第1回 では再提出ができないからです。毎年、締め切り近くにまとめてレポート出した人の中から 結構な人数の不合格者が出ています。 • レポートの提出期限と提出方法を厳密に守って下さい。 • レポートを提出する際、絶対に数理科学研究科の事務の人の手をわずらわさないようにして ください。このゼミのレポートは、数理科学研究科の事務の人にも教養部の事務の人にも一 切何も知らせず、私が独自にやっていることですので、彼らに尋ねても何の情報も得られま せん。 • 一問正しく解けている「解答・感想・要望用紙」かすべての問題が正しく解けているレポー トの提出された回を合格とし、すべての回で合格した人をこのゼミの合格者とします。なお、 全学ゼミナールの成績は合否のみで点数はありません。 • 各自が第何回に合格しているかを上記のホームページに掲載します。(できるだけ)一週間 に一度更新(するように努力)します。 • 「解答・感想・要望用紙」を返して欲しい人は、日付の下にある「返却希望」に○を付けて 提出してください。 (できるだけ)次回のゼミでお返しします。ただし、クイズや初等幾何の 問題などには回答しません。また、プライバシーや思想信条に関わる質問にも回答しない場 合があります。回答が次回まで待てないという場合には、メールアドレスを書き添えてくだ さい。メールで回答します。 • レポートは返却しません。 • 私からの緊急でない連絡はホームページに掲載し、緊急連絡はそれ以外に皆さんの ECC の メールアドレス(上記の私のメールアドレスと @ 以下が同じアドレス)にメールでお知らせ します。ECC のメールを全然使わなさそうな人は転送処理をしておいてください。 (ただし、 ECC にはかなりの数の迷惑メールが来るので、携帯に転送するのはお勧めできません。) • 質問は随時受け付けますが、いきなり部屋に来られてもいなかったり仕事で都合がつかなかっ たりすることが多いので、メールで事前に都合を合わせることをお勧めします。 • 最後に、数学でよく使うギリシャ文字の表を載せておきます。ギリシャ文字の大文字、小文 字、発音のローマ字表記、カタカナ表記の順に並んでいます。 A B Γ α β γ alpha beta gamma アルファ ∆ E δ ε, ϵ delta epsilon デルタ Z H Θ ζ η θ zeta eta theta ゼータ, ツェータ I K ι κ iota kappa イオタ Λ M λ µ lambda ラムダ mu ミュー, ムー ベータ ガンマ イプシロン エータ テータ, シータ カッパ N ν Ξ ξ O o nu ニュー, ヌー xi グザイ, クシー omicron オミクロン Π P pi rho パイ Σ σ, ς T τ Υ υ sigma tau upsilon シグマ Φ X phi chi ファイ psi omega プサイ π, ϖ ρ φ, ϕ χ Ψ ψ Ω ω ロー タウ ウプシロン カイ オメガ 第1回 0 3 このゼミの概要 このゼミナールは 7 年前に「熱力学で使う数学」と題して始めたものです。 力学では時刻のみを変数とする 1 変数関数を使って物理量(運動量やエネルギーなど)を表す ので、高校で学んだ微積分で考察を進めることができます。ところが、熱力学では物理量(エネル ギーやエントロピーなど)が例えば「温度と体積を決めると値が決まる」というように複数の量を 変数とする関数で表されるため、多変数関数やその微分を用いないと物理量の変化を考察すること ができません。にもかかわらず、熱力学や熱化学(化学熱力学)は理系 1 年生の夏学期の必修科目 であり、一方、数学の授業で多変数関数の微分を学ぶのは夏学期の後半です。 もちろん、物理や化学と数学とでこのように整合性のないカリキュラムになってしまっているこ とには理由があり、カリキュラムを考えた人が非難されるようなことではありません。また、熱力 学で本当に学んで欲しい「物理としての内容」を理解するには数学の講義で学ぶほどキチンと多変 数関数の微分を理解していなくても問題ないということもあります。とは言え、見たこともない数 学の記号が数学ではない講義にバンバン出てきたらびっくりして講義全体が理解できなくなってし まう人もいて当然です。 というわけで、そのような人を対象に熱力学で使う多変数関数の微分を紹介しようという目的で 始めた授業だったので「熱力学で使う数学」という題名を付けたのです。 しかし、出席者からの情報や自分で熱力学の教科書に当たってみた結果、熱力学の講義で使う数 学は担当教員によってかなり違うこと、および、多変数関数の微分としては初等的かつ重要なこと である「極大極小の探し方」は使われない一方、(教員によっては)もっと高いレベルの数学を使 うことがあることを知ったので、「熱力学で使う数学」という題名に相応しい内容の講義をクラス 別でない全理系 1 年生向けにすることは不可能だという結論に達しました。 以上のような経緯により、このゼミでは熱力学とは無関係に標準的な「多変数関数の微分入門」 の内容を扱うことにし、熱力学については例で触れる(かも知れない)という程度に気にするだけ にします。それでも熱力学で使う数学の主要部分の理解には十分だと思います。 このゼミで扱う内容は以下の予定です。 多変数関数の三種類の微分の定義と互いの関連 1 変数関数では一つしかなかった微分の概念が多 変数関数では三つに分かれることを説明し、それらの関連を調べることで微分とは何である かを考える。 極大極小と 2 階微分 1 変数関数ではグラフの概形を調べるのに増減表を使ったが、多変数関数で 増減表を書くのはほとんど不可能である。そこで、多変数関数の 2 階微分を考えることでグ ラフの概形を調べる。 多変数関数の微分における合成関数の微分法 「連鎖律」とも呼ばれる公式を証明する。余裕があっ たら、写像の微分の概念を導入すれば 1 変数関数の場合の合成関数の微分公式と同じ公式だ と解釈できることを説明し、微分とは何であるかということについての理解を深める。 条件付き極値問題 2 変数関数の定義域が曲線だったり、3 変数関数の定義域が曲面だったりという ように、多変数関数の定義域が変数の数より次元の低い範囲になっていることがよくある。 このような場合に極大極小を議論するには、上の「合成関数の微分法」を使った考察が必要 になる。(ラグランジュの未定乗数法。)簡単な場合にそれを紹介する。 また、微分ではありませんが、熱力学でほぼ必ず使われる線積分も折を見て説明しようと思ってい ます。 4 第1回 関数 1 微積分は 17 世紀後半ニュートンとライブニッツによって独立して発明(発見?)されたのですが、 そもそも関数という概念がこのライブニッツによって発明されたのです。だから、関数をキチンと 理解すれば微分の理解は大して難しくないと言っても言い過ぎではないかも知れません。そこで、 まず関数の定義とよく使う用語をまとめておきましょう。 1.1 1 変数関数 1 変数関数とは、 決められた範囲内の実数を一つ決めるごとに実数が一つ決まるという対応 のことです。もう少しイメージしやすく言い換えると、 一つのインプットと一つのアウトプットを持つ「何か」 (箱とかをイメージすればよい でしょう)であって、インプットには決められた範囲の実数を一つ入れることができ、 そのたびにアウトプットから実数が一つ出てくる というもののことです(図 1)。 これが定義ですが、関数を一つ持ってくるたびに「決められた範 ✓ ✏ 実数(入力) ✒ 何か 実数(出力) 図 1: 関数とは。 ✑ 囲の実数」とか「インプット」とかという言葉を使っていたのでは長ったらしくてやってられない ので、数学らしく記号を使って表します。以下、上に出てきたそれぞれの言葉をもう少し詳しく説 明しながら用語と記号を導入して行きましょう。 まず、インプットもアウトプットも実数なので、実数全体のつくる集合を表す記号を決めましょ う。その記号として R を使うというのが約束になっています。英語で実数を意味する “real number” の頭文字を取り、しかもいつも実数全体の集合の意味であることを表すために普通の R ではなく 白抜き太字の R を使います。 次に、インプットに入れることのできる「決められた範囲」について説明します。例えば、自動 販売機というものはインプットにお金を入れるものですが、お金なら何でも入れてよいかというと 普通そうではありません。例えば 1 円玉や 5 円玉は受け付けてもらえないでしょう。ということ は、どうがんばっても 1 円とか 2 円とか 11 円とかという 1 の位が 0 でないお金をインプットに入 れることはできないわけです。これと同じように、1 変数関数のインプットには実数なら何でも入 れてよいとは限らず、関数そのものの都合(例えば、インプットされた実数に対しその逆数をアウ トプットする関数では 0 をインプットすることはできない)や、その関数を考える具体的な状況の 都合(例えば、インプットの実数はものの重さをグラムで量った値なので負の数になることはあり 得ない)によって制限されることがあります。もちろん、実数なら何でもインプットしてよいとい 5 第1回 う場合もあります。このように、インプットに入れてよい実数の範囲は(何の制限も受けない場合 も含めて)決まっています。この「決められた範囲」という R の部分集合(R 全体も R の部分集 合です)のことを定義域と言います。 さて、先ほどからインプットインプットと連発していますが、かなり耳障りなので記号を使いま しょう。「入れる場所」っぽく ( ) とでも書けば気分が出るのですが、のっぺらぼうの顔文字みた いでしまりがないので、「場所」の方ではなく「インプットされるもの」の方を表す記号を使うこ とにします。もっともよく使われるのは、皆さんもおなじみの x です。つまり、 x とは定義域内の(特定のではなく)任意の実数を表している あるいは、もっと平たく x は定義域内の任意の実数と適宜置き換えられる文字 というわけです。 定義域内のすべての実数に変身できる文字であり、しかもどの実数に変身するかは全 く決められていない という意味を込めて x のことを独立変数と言います。なお、便宜上 x で説明しましたが、もちろ ん他の文字で表しても結構です。実際 X とか t とか u とか ξ とか他の文字が使われることもよ くあります。どの文字を独立変数としているのかをはっきりさせておきさえすれば何でもよいわけ なので、「独立変数 = x」と思いこまないように気を付けて下さい。 インプットの記号が決まったので(今は x を使うことにします)、次は関数の実体である「箱」 の記号を決めましょう。といってもまさか箱の絵を描くわけにも行かないので、独立変数と同様に 文字で表すことにします。関数は英語で “function” なので多くの場合 f を使います。(もちろん どんな文字を使ってもよいことは独立変数の場合と同じです。)「この関数に f という名前を付け る」というわけです。だから、この関数のことを「関数 f 」と呼ぶことになります。 しかし、これではインプットとアウトプットがありません。そこで、 「関数 f には x がインプッ トされるんですよ」ということ、つまり、 「関数 f の独立変数を表す文字として x を使うことにし ています」ということをはっきり表したいときには f (x) と書くことにします。 そうするとアウトプットはどうなったのでしょう。実は f (x) がアウトプットの記号です。つまり、 関数 f に x をインプットしたとき f (x) がアウトプットされる と見るわけです。そうです。確かにちょっと曖昧なんですよね。「f (x) は関数を表す」と思うこと もできて、その場合 x は定義域内の実数の入る「場所(インプット用の穴?)」を表します。一方、 「f (x) はアウトプットされる実数を表す」と思うとこともできて、その場合 x は定義域内の実数 そのものを表していることになります。しかし、この二つの違いを表すために新しく記号を決める と記号だらけになってかえって混乱してしまうので、このまま行きます。慣れの問題ですので心配 はいりません。アウトプットではなく関数そのものを表す場合には f (x) ではなく必ず f を使うよ うにすると混乱は避けられるのですが、例えば sin x を sin だけで済ますのはちょっと気持ちが悪 いですし、ましてや x2 などこれ以外に表しようがないでしょう。概念が曖昧なわけではないので すから、記号の曖昧さはあまり気にしないようにするのがよいと思います。 以上の曖昧さとは別に、関数そのものではなく「アウトプットされた実数」をはっきりきっぱり 表したい場面もあります。その場合はインプットされる実数を文字で表したようにアウトプットさ れる実数も文字で表せばよいわけです。多くの場合、インプットされる実数を表す独立変数に使っ 6 第1回 た文字の後ろの文字(もちろんアルファベット順で)を使います。独立変数が x ならアウトプット される実数としては y がもっともよく使われます。すると、関数の記号は、インプットとアウト プットを明示する形で y = f (x) と書かれることになります。x がインプットの場所で y がアウトプットの場所、あるいは x がイ ンプットされた実数で y がアウトプットされた実数ということです。 「x を f にインプットしたら y がアウトプットされる」のだから (x)f = y が自然じゃないかと思うかも知れませんが、一番重 要なのはアウトプットされる実数なのですから「y は f に x をインプットしたときのアウトプッ ト」という順序で書き表すのがよいと思います(図 2)。 ✓ ✏ x f y y = f (x) 図 2: 関数の記号。 ✒ ✑ 上のようにアウトプットされる実数を明示的に書いた場合、それのことを従属変数と言います。 いろいろな実数に変身するが、その変わり方は独立変数の変わり方に従う という意味です。しかし、実際にはあまり独立変数、従属変数という言葉は耳にしません。独立変 数のことを単に変数と言ってしまい、従属変数のことは関数の値と言うのが普通です。 さて、独立変数の取りうる実数の範囲を定義域と言ったように、従属変数、すなわち関数の値の 取りうる実数の範囲にも値域という名前があります。独立変数を定義域内で隈無く動かしたとき従 属変数の動く範囲が値域ですので、考えている関数が扱いやすいものでない限り値域を求めること は難しい問題となります。 なお、定義域をはっきり明示した書き方をしたい場合には、写像の記法を流用して f: X →R と書きます。(X が f の定義域で、R の部分集合です。) f は X 内の実数を R に運んで行く矢印 というイメージです。この書き方で、さらに独立変数の文字をはっきりさせるには f : X ∋ x → f (x) ∈ R と書き、さらにさらに従属変数の文字まではっきりさせるには、 f: X ∋x→y ∈R と書きます。ただの矢印「→」は「どの集合からどの集合への関数(写像)か」を表すときに使い、 縦棒のついた「→」の方は「どの元をどの元に対応させるのか」を表すときに使うという使い分け の約束があります。 7 第1回 なんだかんだ言ってきましたが、関数の一番わかりやすいイメージはなんと言ってもグラフだと 思います。定義域(を含む R)を横軸に、値域(を含む R)を縦軸に取り、定義域内のすべての x について (x, f (x)) という点をプロットしてできる図です。微分を理解するのにも式で書かれたこ とをグラフ上のイメージとして把握するのが一番よいと思いますので、いつもグラフを思い描くよ うに習慣付けるとよいでしょう。 1.2 多変数関数 多変数と書きましたが、2 変数で理解できれば 3 変数以上は全く同様ですので、もっぱら 2 変数で 書きます。 1 変数関数とは一つの実数をインプットすると一つの実数がアウトプットされる「何か」でした。 ということは予想通り、2 変数関数とは 二つのインプットと一つのアウトプットを持つ「何か」であり、インプットには決めら れた範囲内の実数を一つずつ入れることができ、そのたびにアウトプットから一つの 実数が出てくる というもののことです(図 3)。 ✓ ✏ x z f z = f (x, y) y 図 3: 関数の記号。 ✒ ✑ 記号は 1 変数のときのものを自然に流用します。インプットが二つあるので、独立変数が二つ必 要です。よく使うのは x と y の組み合わせです。他にも u, v とか s, t とか ξ, η などというのも 使います。y が独立変数に格上げ(格下げ?)されてしまったので、従属変数を明示したいときに は、例えばその次の文字である z を使うのが一般的です。関数そのものを表す記号は一変数のと きと同じ f をよく使います。というわけで、2 変数関数を表す記号は f, f (x, y), z = f (x, y) などとなります。定義域、値域という言葉の定義も 1 変数のときと全く同様です。 1 変数のときには独立変数が一つしかなかったので「独立」という言葉が大げさに感じられたか も知れませんが、2 変数以上になると、独立変数たちは本当に他の変数と無関係な「たがいに独立 な変数」ですので、独立という言葉が生きてきます。ただし、定義域の「形」と関連して独立変数 の「独立」について注意すべきことがあります。独立変数を x と y としたとき、x と y は「独立」 なので x にどんな実数が入っていようと y にも自由に実数を入れられる、と思うかも知れません が、普通はそうはなっていません。例えば、定義域が 0 ≤ x ≤ 1, 3 ≤ y ≤ 5 なら、x に 0 以上 1 以 下のどんな実数が入っていようとも、y には 3 以上 5 以下のどの実数も確かに入れられます。しか し、定義域が x2 + y 2 ≤ 1 なら、x に 0 が入っているときは y には −1 以上 1 以下の任意の実数 を入れられるのに、x に 1 が入っているときには y には 0 しか入れられません。このように「独 8 第1回 立」とは言っても、それは決められた定義域からはみ出さない範囲での「独立」であることに注意 して下さい。このことを理解するには、定義域を xy 平面の部分集合として視覚的に捉えるのがよ いと思います。 このように定義域を平面(の一部)と思うと、1 変数関数のときと同様に 2 変数関数においても グラフを考えることができます。1 変数関数のグラフが平面内の曲線になるように、2 変数関数の グラフは空間内の曲面になるのです。例えば、2 変数 (x, y) を地図上の点の座標だと思い関数の値 f (x, y) をその地点における高さとすると、グラフは地面の起伏を表す曲面になるわけです(図 4)。 ✓ ✏ z = f (x, y) のグラフ z y x 定義域 図 4: 2 変数関数のグラフ。 ✒ ✑ 最も簡単にグラフがイメージできる関数は定数関数、すなわち独立変数の値が何であろうともい つも同じ値を取る関数です。f (x, y) が x, y によらずに定数 c であったとすると、z = f (x, y) の グラフは xyz 空間において z 軸と z = c で交わり xy 平面と平行な平面になります。 定数関数とはいわば「0 次関数」ですので、もう少し複雑でしかも典型的な例として 1 次関数と 2 次関数のグラフがどのようになるか見ておきましょう。 1.2.1 1 次関数と平面 x と y の 1 次関数、すなわち 1 次式で表される関数 f (x, y) = px + qy + c について考えてみましょう。この場合、グラフは平面になります。実は、 グラフが平面になる関数 ⇐⇒ 1 次関数と定数関数 が成り立ちます。この小節ではこのことを証明しておきましょう。 そのために、まず 1 変数関数のとき、グラフが直線である関数がやはり 1 次関数と定数関数であ ることを復習しましょう。 1 次関数 f (x) = px + c 9 第1回 のグラフは、傾きが p で y 軸と y = c で交わる直線です。逆に、傾きが p で y 軸と y = c で交 わる直線は f (x) = px + c のグラフです。 (直線が x 軸と平行なときは p = 0 となって定数関数の グラフとなります。)しかし、この見方を直接 xyz 空間内の平面の式に当てはまるように拡張する のは難しそうです。なぜなら、「平面の傾き」というものが何であるのかを(現時点では)知らな いからです。 そこで、上の直線の式を移項して整理することで、 px + (−1)(y − c) = 0 と変形してみます。これをどう見るかというと、 [ ] [ ] x p 直線上の点 (x, y) は、ベクトル と定ベクトル との内積が 0 になる、 y−c −1 すなわち、 [ ベクトル x y−c ] [ が定ベクトル と見るわけです1 。つまり、 [ 直線 y = px + c は点 (0, c) を通り p −1 p −1 ] と直交する点 (x, y) 全体 ] を法線ベクトルとする直線 ということです(図 5)。 法線ベクトルなら、空間内の平面に対しても(定数倍を除いて)一つに ✓ ✏ y y y = px + c y = px + c p c c p 1 O x O 1 x 図 5: y = px + c という直線の傾きと法線ベクトル。 ✒ ✑ 決まりますから、この見方は空間内の平面に直接適用できます。 まず 1 次関数や定数関数のグラフが平面になることを見ましょう。1 次関数(または定数関数) f (x, y) = px + qy + c に対し、 z = px + qy + c の z を移項して 0 = px + qy − z + c 1 座標は成分を横に並べて丸括弧で、ベクトルは縦に並べて角括弧で書くことにします。 10 第1回 とし、内積を利用してこれを p x q • y =0 −1 z−c と書けば、 z = px + qy + c のグラフが、 p 点 (0, 0, c) を通り q を法線ベクトルとする平面 −1 であることが分かります。 逆に、グラフが平面になる関数は 1 次関数と定数関数であることを示しましょう。まず、関数の グラフになることは忘れて、平面とはどうのようなものか法線ベクトルを使って書くと、 p x−a xyz 空間内の平面とは、通る点 (a, b, c) と法線ベクトル q によって、 y − b r z−c p と q の内積が 0、すなわち r p(x − a) + q(y − b) + r(z − c) = 0 (1) と表せる ということになります。これは xyz 空間内のすべての平面を表す式です。しかし、我々が知りた いのはすべての平面ではなく、x, y の関数のグラフのになりうる平面だけです。つまり、上の式の うち z について解くことができるものだけです。その条件は r ̸= 0 であり、その上で式 (1) を z について解くと、 p q z = − (x − a) − (y − b) + c r r となります。p, q, r (r ̸= 0) は何でもよいわけですから、この式で − pr , − rq を改めて p, q と書くこ とにしましょう。すると、 z = p(x − a) + q(x − b) + c となります。さらに、括弧を外して整理した後の式の定数項 −pa − pb + c を改めて c と書くこと にすれば、 z = px + qy + c となります。p と q は 0 かも知れないので、この右辺は 1 次式または定数です。これで、グラフが 平面になる関数は 1 次関数と定数関数であることが分かりました。 問題 1. 3 点 (0, 0, 3), (1, 1, 6), (1, −1, 2) を通る平面をグラフに持つ 2 変数関数を求めよ。 問題 2. z = 2x + 3y + 4 のグラフの平面上の直線で xy 平面に平行であり点 (0, 0, 4) を通るもの は何本存在するか? 問題 3. xyz 空間において z 軸の負の向きに平行に重力が働いているとする。原点 (0, 0, 0) を通 る平面があり、原点にそっとおいた質点が点 (3, 4, −5) に向かって滑り出した。この平面をグラフ に持つ 2 変数関数を求めよ。 11 第1回 解答 問題 1 の解答 求める関数を f (x, y) とします。 その 1 求める関数 f (x, y) が 1 次(以下の)関数であることは分かっているので、f (x, y) = px + qy + c とおきましょう。すると、「3 点 (0, 0, 3), (1, 1, 6), (1, −1, 2) を通る」という条件は、 f (0, 0) = 3 f (1, −1) = 2 f (1, 1) = 6 すなわち 3=p·0+q·0+c 6=p·1+q·1+c 2 = p · 1 + q · (−1) + c という連立方程式になります。これを解くと、 p=1 q=2 c=3 となります。よって、f (x, y) = x + 2y + 3 です。 □ その 2 平面の法線ベクトルを計算する方法で求めてみましょう。(0, 0, 3), (1, 1, 6), (1, −1, 2) の 3 点が 平面上の点なのですから、そのうちの一つを始点とし別の一つを終点とするベクトルは求める平面 に平行です。たとえば、 1−0 1 1−0 = 1 6−3 3 1−0 1 −1 − 0 = −1 2−3 −1 の二つのベクトルは求める平面に平行となります。この二つのベクトルは平行でないので、この二 p つのベクトルに直交するベクトルが求める平面の法線ベクトルです。法線ベクトルを q とお r くと、これは上の二つのベクトルとの内積が 0 ですから、 p + q + 3r = p − q − r = 0 となります。この連立方程式を解くと、r を 0 でない任意の実数として、求める法線ベクトルは −r −2r r 12 第1回 であることが分かります。また、求める平面は、例えば点 (0, 0, 3) を通るので、(x, y, z) が平面上 の点であるための必要十分条件は −r x−0 y − 0 • −2r = 0 r z−3 です。これを z = の式に変形すると、 z = x + 2y + 3 となります。よって、f (x, y) = x + 2y + 3 です。 □ 問題 2 の解答 2 z = 2x + 3y + 4 の法線ベクトルは 3 です。これは z 軸に平行ではないのでこの平面は −1 xy 平面に平行ではありません。一方、(0, 0, 4) を通り xy 平面に平行な直線は (0, 0, 4) を通り xy 平面に平行な平面 z = 4 にも乗っています。よって、求める直線は z = 2x + 3y + 4 と z = 4 と いう二つの平行でない平面の交わりですので 1 本だけ存在します。 □ 問題 3 の解答 質点が原点 (0, 0, 0) から点 (3, 4, −5) 3 るすべての力の合力が ベクトル 4 −5 に向かって動き出したということは、その質点に働いてい の正の定数倍だということです。質点に働いている力は 重力と平面からの抗力ですから、重力を 0 p 0 (g > 0)、抗力を q とすると、 −g r 0 p 3 0 + q = s 4 −g r −5 すなわち、 p = 3s q = 4s r = g − 5s となる正の実数 s が存在するということになります。 (2) 3 一方、抗力は平面の法線方向に働く力ですので、平面に平行なベクトルである 4 と直交 −5 します。よって、 3p + 4q − 5r = 0 13 第1回 が成り立ちます。これに 3 つの式 (2) を代入すると、 9s + 16s + 25s − 5g = 0 すなわち、 s= g 10 となります。 以上より、抗力、すなわち平面の法線ベクトルの一つが 3 g 4 10 5 であることが分かりました。今、平面は原点を通るのですから、点 (x, y, z) が平面上の点であるこ とは、ベクトルとして法線ベクトルと直交することと同値です。従って、平面は 3x + 4y + 5z = 0 すなわち と表せます。よって、求める 2 変数関数は 4 3 − x− y 5 5 です。 □ 3 4 z =− x− y 5 5
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