ニュースレターVol.9 (June 2010) - フラストレーションが創る新しい物性

NEWS
LETTER
科学研究費補助金 特定領域研究
フラストレーションが創る新しい物性
Vol.9
Vol.9 July 2010
目 次
¾
巻頭言
• 十倉
¾
好紀(東京大学大学院工学系研究科・理化学研究所基幹研究所)
········· 3
研究紹介
• ハニカム格子上の奇妙なスピン液体
― リングスピン液体、パンケーキスピン液体 ························· 4
川村
光(大阪大学大学院理学研究科)
• 磁性イオンをもつリラクサー誘電体における誘電性と磁性の競合 ························· 6
左右田
稔、若林
裕助(大阪大学基礎工学研究科)
• 局所拘束条件の下での巨視的な縮退とその解放 ························································· 8
求
幸年(東京大学大学院工学系研究科)
• CuO2 リボン鎖を持つスピン系の磁性と誘電特性の相関 ··········································· 10
安井
幸夫(名古屋大学大学院理学研究科)
• 遍歴電子フラストレート系 LiV2O4 と NaV2O4 の軌道状態 ········································· 12
伊藤
¾
平成 22 年度領域立ち上げ会議
• 報告
····················································································································· 14
吉野
• プログラム
¾
正行(名古屋大学大学院理学研究科)
元(大阪大学大学院理学研究科)
····················································································································· 15
日本物理学会シンポジウム「フラストレーションとスピン液体」
• 報告
····················································································································· 18
有馬
孝尚(東北大学多元物質科学研究所)
¾
成果論文リスト ················································································································· 19
¾
お知らせ ····························································································································· 23
¾
編集後記 ····························································································································· 24
-1-
-2-
巻頭言
巻頭言
十倉
好紀
フラストレーションは役に立つか?
・・・と聞かれたら、あなたはどう答えますか。
「役に立つ訳がない、欲求不満は健康に悪い。
」とジョークで誤魔化すのは、なしです。
同じようなことをマイケル・ファラディーが、一般向けの講演会で聞かれたそうです。電
磁誘導について、すなわち、
「磁石でほんの一瞬、電気を起こしたからと言って何の役にたつ
のでしょうか。」と。ファラディーの答は、「生まれたばかりの赤ん坊が何の役に立つかはわ
からない。」というものだったそうですが、同じような答ができるほど、自分の研究の革新性
の自信が持てる人は少ないかもしれません。
それでは、たとえば、
「近藤効果」は何の役に立つでしょうか。これが大きなアウトカム(技
術としても)を出していることは、ほとんど自明ですが、この研究の歴史を「イノベーショ
ン」の観点からどう理論づけするかは、
「研究経営」に関する国際会議の十分な研究対象とな
るようです。しかし、これが量子計算の分野で成果を生み出すかもしれないなどとは、10 年
前には考えられなかったアウトカムでしょう。
その伝で言えば、初めの質問も答えるのは簡単かもしれません。フラストレーションは、
還元化された物理概念ですから、この概念の発展としての物理現象が次々生まれ、これが新
しい物質科学を生み出すのに「役立ち」、やがては材料・機能として「役立つ」-人類の福祉
や社会持続性に貢献する-というのは、大変ありそうな話です。ここらで、この観点からも川
村領域が立ちあがったゆえの将来展望を整理しておくのもよいと思いますし、それは私も含
めて各人が自分の研究の展望を考えることと等価かもしれません。我々の基礎研究の成果は
結局遠い将来の期待値でしか測られませんから。
さて、概念を主体とする統合的な学術領域ができたのですから、本来の学術の意味で「役
立つ」のは、
「フラストレーション」から発達した、あるいは派生した、新しい物理概念です。
それは、何でしょうか。すでにいくつか候補があるかもしれません。既存の概念・手法を当
てはめて、あたらしい物理現象を説明する仕事も、その意義はなしとはしませんが、新概念
の提唱こそが理論家の真骨頂でしょう。それが、次々と新しい物質科学(いや社会科学でも
いいのですが)を生み出す原動力になりうる、すなわち「役に立つ」ものであれば、なおよ
いと思います。
「物理概念」は我々物理屋の拠って立つところです。それを生み出すための実
験が必要というなら、蛸壺を深くして沈思することも必要ですが、蛸壺に身を潜めるために
「役に立たない」実験を工夫することになってはいないかは、いつも自省していたいと私は
思っています。
-3-
研究紹介
ハニカム格子上の奇妙なスピン液体
― リングスピン液体、パンケーキスピン液体
計画研究「フラストレーションとカイラリティ」
阪大理
川村光
ハニカム格子は2色塗り分け可能な格子なので、フラストレーションとは無縁な
格子のように思われる。しかし、適当な条件下では、むしろ反強磁性近傍でこそ、
フラストレーション誘起の奇妙なスピン液体状態が実現しているようなのだ。
有馬さんから、研究紹介に何か書くよう御
かかわらず、0.4K まで通常の磁気秩序を示さ
指名を受けました。実は、領域代表のくせし
ずスピン液体的な挙動を示すことが報告され
て未だ書いていなかったのですが、有馬さん
ており、その起源に興味が持たれています[2]。
にはしっかりバレテいたようです。というわ
けで、本稿では、
(先の3月に修士で卒業した)
学生の奥村君、PDの大久保君、あとキ班の
求さんと一緒に最近やっているハニカム格子
上のハイゼンベルグモデルの秩序化に関する
話題を紹介させていただこうと思います[1]。
ハニカム格子は、bipartite な格子なので、
とりあえず up-down の単純な反強磁性秩序
波数空間で表示した系のエネルギー(のマイナス)
と相性が良く、一見フラストレーションとは
無縁な格子のように思われます。他方、最近
最近接相互作用 J1、次近接相互作用 J2 の
接格子点の数が3と小さく結合が弱いため、
ハニカム格子上の古典ハイゼンベルグモデル
例えば次近接相互作用のような要因で一旦フ
(以下、J1 J2 とも反強磁性的とします)の基
ラストレーションが生じると、色々興味深い
底状態は、J2 が臨界値(1/6) J1 より小さいと基
底状態は通常の2副格子反強磁性ですが、そ
れより大きいと、相互作用を波数空間にフー
リエ変換してみると分かるように(上図)、2
副格子反強磁性状態が不安定になり反強磁性
点をリング状に取り囲むような波数状態間で
無限縮退を起こします。もしこの無限縮退し
た状態間で系が揺らげば、特定の波数を選ぶ
現象も期待されます。実際、本特定領域の活
ことが出来ず、系は“スピン液体”的に振る
動の中でキ班の東さんらによって見出された
舞うことが期待されます。
S=3/2 ハニカム磁性体 Bi3Mn4O12(NO3) (BMNO)
しかし、実際はそう単純ではありません。
は、キュリー・ワイス温度が 257K であるにも
フラストレート系ではしばしば“order by
-4-
研究紹介
disorder”という機構が働きます。これは、熱
近傍では、系はリング縮退を極低温まで保つ
ゆらぎ(場合によっては量子揺らぎ)のため
ことが出来ます。このとき波数空間でのリン
低温で系の強い縮退が解かれる効果で、一旦
グの径は漸近的に小さくなるので、その意味
この機構が働くと、系は対称性が落ちた低エ
では状態は2副格子反強磁性状態に近いので
ントロピー状態 ― 要は秩序化した状態 ―
すが、反強磁性状態そのものは、あくまで局
に落ち着いてしまいます。実際、我々の計算
所不安定です。左下図に反強磁性境界 J2 =
によると、古典ハニカム系でもこの ”order by
(1/6) J1 近傍 J2 /J1 = 0.183 でモンテカルロに
disorder” 機構が働き、低温ではリング状の連
より計算したスピンの構造因子を示します。
続縮退は解けて、ハニカム格子上の向きに対
測定温度は T=0.015J1 と低いにも関わらず、
応した3回対称性が破れた対称性の高い方向
リング状の縮退と状態間での揺らぎが存在し
(最近接方向か次近接方向)に波数ベクトル
系がスピン液体的な状態―“リング液体”―
が走る状態が選ばれます。しかも、その3回
にあることが判ります。またこの状態で少し
対称性の破れに伴うエネルギースケール(あ
温度を上げると、リングの中央が“埋まり”、
るいは対称性の低下に伴う相転移温度のスケ
パンケーキ状のパターンが出現します。さら
ール)は通常 J1 程度であって、極端に低いわ
に、この“パンケーキ液体”状態に外部磁場
けではありません。自然は、スピン液体の出
を印加すると、今度は2副格子反強磁性秩序
現を嫌うのでしょうか?
が誘起されることも分かりました。実際、こ
のような磁場誘起の反強磁性は、前述の
BMNO において、松田さんらによる最近の中
性子回折実験により観測されています。
結局、これらの現象は、局所不安定な反強
磁性秩序の近傍でフラストレーション起源の
連続縮退系が演じる現象として捉えられと思
います。その意味では、3角、4角、カゴメ、
いずれとも異なる frustration physics と言える
のではないでしょうか。
[1] S. Okumura et al, arXiv:1004:4441.
[2] O. Smirova et al, JACS 131, 8313 (2009).
しかし、実はここに抜け道があります。反
強磁性境界 J2 = (1/6) J1 近傍では、前述の対
称性の破れのエネルギースケールが漸近的に
川村
消滅してしまうのです。即ち、反強磁性境界
大阪大学理学研究科
-5-
光
研究紹介
磁性イオンをもつリラクサー誘電体における
誘電性と磁性の競合
計画研究「フラストレーションとリラクサー」
大阪大学基礎工学研究科
左右田稔、若林裕助
リラクサー誘電体においては、Polar Nano Region (PNR)と呼ばれる自発分極を
持ちながらランダムな方向を向いた局所領域が重要な役割を果たす。磁性イオン
をもつリラクサー誘電体に対する実験結果は、その PNR(構造の局所歪み)が磁性
に大きな影響を与えていることを示す。
広い温度領域で大きな誘電率を示すリラク
サー誘電体の研究例は非常に少ないものの、
サー(relaxor)と呼ばれる物質群は、現存する材
そういった物質が全く無いわけではない。例
料の中で最も大きな圧電効果を示し、数パー
えば、(1-x)BiFeO3-xBaTiO3 (BFO-BTO) [3,4] や
セントという低誘電損失、小さな温度係数を
LuFeMO4 (M=Cu, Co, and Mg) [5]などでリラ
もつ理想的な圧電・誘電材料として知られて
クサー的振舞いが観測されており、この系で
おり,コンデンサーやアクチュエータなど広
磁性と誘電性に関係があれば非常に面白い物
い分野で利用されている。通常の誘電体に見
理が期待できる。
られない,リラクサーを特徴づける物性は,
ここでは、(1-x)BiFeO3-xBaTiO3 (BFO-BTO)
ゆるやかな温度変化と顕著な周波数依存性を
を取り上げる。BiFeO3(x=0)は、TC~1100 K で
もつ誘電率である。一方、基礎研究分野では、
強誘電転移、TN~650 K で反強磁性転移を示す。
なぜこのような巨大な圧電・誘電応答が発現
一方、BaTiO3 (x=1)では、TC~410 K で強誘電
するのかという異常の起源、メカニズムの解
転移を示す。一般的にリラクサー誘電体では、
明に向けて様々な研究が長年にわたり行われ
Morphotropic Phase Boundary (MPB)近傍で誘
てきた。現在では、リラクサー特有の現象を
電率が最大値を示し、BFO-BTO においても、
すべて説明するような定説は未だ存在しない
x~0.33 (MPB) 付近でのみ誘電率にリラクサ
ものの,リラクサー特性の起源は基本的には
ー的振舞い(図(a)参照)が観測される。[3] 今回
本質的な不均質構造が生み出す現象として理
は 、 MPB 近 傍 の 0.67BiFeO3-0.33BaTiO3
解されている。この不均質性をもたらすミク
(BFO-1/3BTO) 単結晶を選び、中性子回折と
ロな構造として、Polar Nano Region (PNR)と呼
マクロ物性を比較することでこの系のリラク
ばれる“自発分極を持ちながらランダムな方
サー的誘電性と Fe3+起源の磁性の関係を詳し
向を向いた局所領域”の存在が広く認識され
く見た。
ており、リラクサーの微視的な機構を解明す
単結晶中性子回折実験を T=10 K~1000 K で
る上で最も重要な概念であると考えられてい
行ったところ、850 K 以下で核 Bragg 反射周
る。[1, 2]
りに異方的な核散漫散乱が観測された。850 K
本研究では、磁性イオンをもつリラクサー
以上で消失するこの核散漫散乱は、PNR の存
誘電体に注目した。磁性イオンをもつリラク
在を示していると考えられる。さらに、
-6-
研究紹介
1.2 10
4
ε'
8 10
4
0
200 Hz
1 kHz
2 kHz
10 kHz
20 kHz
100 kHz
200 kHz
うな振舞いは、同じくリラクサー的誘電性を
示す磁性体 LuFeMO4(M= Mg, Co)においても
観測されており、誘電分散をもたらす構造の
局所歪みは磁性に影響を与えていると考えら
れる。磁性イオンをもつリラクサー誘電体で
は、PNR(局所構造ドメイン)と磁気ドメインが
(a)
2000
1/2 1/2 1/2
1500
M(emu/g)
0.7
の特異な振舞いが観測されると期待される。
0.5
500
0
競合しており、各々のサイズ変化に伴い磁性
0.6
1000
0.1
0.8
resolution limit
(b)
FWHM(deg.)
Integrated Intensity(a.u.)
4 10
化に spin-glass 的振舞いも観測される。このよ
5
0.4
これらの結果は、電場によって分極ドメイン
を変化させることで、磁気秩序やその相関長
などを制御できる可能性を示唆している。
本研究は松浦直人氏、廣田和馬氏との共同
研究である。
0.08
[1] G. Burns and F.H. Dacol, Solid State
0.06
Commun. 48 (1983) 853.
0.04
[2] K. Hirota, S. Wakimoto and D. E. Cox, J.
0.02
0
ZFC
FC
(c) H=100 Oe
0 100 200 300 400 500 600 700
T(K)
BFO-1/3BTO における(a)誘電率、(b)中性子磁気反射
(積分強度、FWHM)、(c)磁化の温度変化。
左右田
BFO-1/3BTO では、Fe3+に起因する磁気反射も
観測される。G(NaCl)-type 反強磁性秩序に対
応する磁気反射点の積分強度、FWHM の温度
変化を図(b)に示す。TN~500 K 以下で観測され
る幅の広い磁気反射は、この系の磁性が短距
離磁気秩序であることを示す。T=400 K~500 K
における磁気反射の profile 幅は、核散漫散乱
の profile 幅とほぼ等しい。磁気秩序が PNR
の内側で発達していると考えられ、自発分極
を持つ局所領域(PNR)やそれらの domain wall
が磁気秩序の成長を抑制していることを示唆
稔
大阪大学基礎工学研究科
若林
裕助
大阪大学基礎工学研究科
Phys. Soc. Jpn. 75 (2006) 111006
[3] M. M. Kumar, A. Srinivas and S. V.
Suryanarayana, J. Appl. Phys. 87 (2000) 855
[4] T. Ozaki, S. Kitagawa, S. Nishihara, Y.
Hosokoshi, M. Suzuki, Y. Noguchi, M. Miyayama,
and S. Mori, Ferroelectrics 385 (2009) 155.
[5] Y. Matsuo, M. Suzuki, Y. Noguchi, T.
Yoshimura, N. Fujimura, K. Yoshii, N. Ikeda, and
S. Mori, Jpn. J. Appl. Phys. 47 (2008) 8464.
する。さらに、磁気相関長の成長に伴い、磁
-7-
研究紹介
局所拘束条件の下での巨視的な縮退とその解放
計画研究「スピン・電荷・格子複合系における幾何学的フラストレーションと機能」
東京大学大学院工学系研究科
求
幸年
氷に見られるアイスルールのような局所拘束条件は、長距離秩序とも完全な無秩
序とも異なる特殊な強い空間相関をもたらす。このようなある種の“液体”状態
が絡んだ興味深い現象に関する我々の理論研究を紹介する。
フラストレーションのある系では、相互作
用を全系にわたって最適化することが出来な
いために、基底状態に巨視的な縮退が残る場
合がある。ここでは、氷におけるプロトンの
配置に見られるアイスルールのような局所的
な拘束条件がもたらす巨視的な縮退に着目す
る。アイスルールとは、正四面体の頂点に置
かれた4つのイジング的な自由度に対して、
2つが同じ状態、残りの2つがそれとは異な
るもうひとつの状態をとることを課す拘束条
件である。このようないわゆる“2-in 2-out”
の条件は、氷だけでなく、パイロクロア格子
上の電荷秩序系やスピンアイス系など、固体
物理全般にわたって広く見られている。
こうした局所拘束条件はunderconstraint
である(変数の数が条件数より多い)ため、
uniqueな長距離秩序を選ぶことが出来ず、巨
図1:(上) パイロクロア格子上の3-up 1-downスピン
視的な縮退をもった無秩序な基底状態をもた
“液体”状態の概念図。(下) 長距離相互作用を制御し
らす。しかしこの無秩序状態は、局所拘束条
た際に現れるスピンの“気液固”相図。
件に起因する隠れたゲージ構造を反映して、
ベキ的な準長距離秩序という特殊な空間相関
スピン“液体”
・“固体”転移
まず、古典スピン系における面白い例とし
を有することが知られている。
このような、大局的には無秩序だが局所相
て、パイロクロア格子上のbilinear-biquadratic
関から生じた強い空間相関をもった状態は、
ハイゼンベルグ反強磁性体の磁場中での振る
いわば「臨界的」な“液体”状態とも見なす
舞いを考える。このモデルでは、中間磁場領
ことも出来るため、種々の摂動に対する応答
域において、各四面体上で3-up 1-downの共線
をはじめとして様々な興味深い現象の源泉と
的なスピン配置をもった半磁化プラトー状態
なる。以下では、こうした“液体”状態の特
が現れる。我々は、このプラトー状態におい
異性に絡んだ話題を2つ紹介する。
て相互作用のレンジや種類を制御することに
-8-
研究紹介
より、3-up 1-downのアイス的な“液体”と磁
にどのような影響を与えるのかが興味の対象
気秩序をもつ“固体”の間の相転移の性質を
である。我々は、ミニマルなモデルとして拡
詳細に調べた[1]。相転移は一次転移であり、
張Falicov-Kimballモデルを考え、局在粒子が
相互作用の種類に応じて任意の秩序相が実現
アイスルールに従う場合の伝導電子の電子状
さ れ るこ とか ら、“液体 ” 的な 基底 状 態は
態を多角的に調べた[2]。とりわけ、正四面体
multi-furcativeな状態にあると考えられる。
内のフラストレーションをあらわに取り込ん
この系ではこの他にも、このプラトー“液
だ伏見カクタス格子とよばれる格子構造のも
体状態”とスピンネマチック相などの多極子
とで厳密解を見出した。この厳密解はフラス
秩序相との相転移も現れる[1]。これは スピン
トレート電子系における希少な例である。
“液体”間の“液体”相転移とみなすことも
厳密解から得られた結果として最も注目す
出来る。これらを含めて、この系はスピンの
べきは、強相関領域で実現する“電荷アイス”
“気液固”相関の様々な転移を詳細に調べる
絶縁体が融解する量子臨界点において、非フ
ことが出来る格子の舞台を与えている。
ェルミ液体的な振る舞いが現れる点である[2]。
この相転移には量子ホール系との関連も垣間
みられ、また、電荷アイス状態においては分
数電荷励起の存在が示唆される。フラストレ
ート伝導系の典型モデルのひとつとして今後
さらなる展開が期待出来る。
本稿の内容は、パイロクロア反強磁性体に
関してはNic Shannon(英Bristol大)、Karlo
Penc(ハンガリーSZFKI)、電荷アイス系に
関しては宇田川将文、石塚大晃(東大院工)
各氏との共同研究によるものである。
[1] N. Shannon, K. Penc, and Y. Motome,
Phys. Rev. B81, 184409(2010).
[2] M. Udagawa, H. Ishizuka, and Y. Motome,
Phys. Rev. Lett. 104, 226405(2010).
図2:(上)正四面体状見カクタス格子。赤青の丸印は
アイスルール配置の一例を示す。(下)伏見カクタス格
子上の拡張Falicov-Kimballモデルの基底状態相関図。
電荷アイスの量子融解
次に、アイスルール的な縮退をもった系と
伝導電子の結合による興味深い現象に話を移
求
す。ここでは、アイスルール系のもつ特殊な
東京大学大学院工学系研究科・物理学専攻
空間相関が、伝導電子の電子構造や伝導特性
http://www.motome-lab.t.u-tokyo.ac.jp/
-9-
幸年(もとめ
ゆきとし)
研究紹介
CuO2 リボン鎖を持つスピン系の磁性と誘電特性の相関
公募研究「量子スピンが引き起こすマルチフェロイック相の新奇物性の探索」
名古屋大学大学院理学研究科
安井
幸夫
量子スピン(Cu2+; S=1/2)をもつ CuO2 リボン鎖系(LiVCuO4, LiCu2O2, PbCuSO4(OH)2)
は磁気秩序に伴い強誘電性が現れます。中性子磁気構造解析および強誘電分極測
定により調べた磁気構造と強誘電性の相関を紹介します。また、この系は S =1/2,
J1-J2 model 物質の側面もあり、exotic な量子状態の出現が期待されます。
幾何学的フラストレーションがある場合や、
照)をもつ LiVCuO4 がマルチフェロイック物
スピン間の相互作用に競合があるスピン系が
質であることを見いだした[1]。マルチフェロ
どのような基底状態を示すのか、また、低温
イックのメカニズムに迫るには詳細な磁気構
でどのような磁気的挙動を示すのかは基本的
造の理解が重要と考え、単結晶を用いた中性
でありながら未解決な大きな問題である。特
子回折実験を行った結果、b 軸方向に不整合
2+
に Cu スピンなどの量子スピン系の場合、量
な変調ベクトル(Q~0.466b*)を持ち、スピンが
子効果によって特異な物性現象を示したり、
ab 面内で回転する helical 磁気構造を持つこと
新規な量子状態の出現が期待され大変興味が
を確かめた(図 1)
。単結晶を用いて強誘電分
持たれる。このような系が低温で磁気転移を
極 P を測定した結果、P は a 軸方向に出現し
起こす場合があるが、そこでの磁気構造は複
ているという結果が得られたので、強誘電性
雑で非自明なものになることが多い。例えば、
と磁気構造の間には P ∝Q×e3 (e3: helical axis)
スピンが中途半端な角度に傾いた磁気構造や、
の関係式があることがわかった。この関係は
helical や conical の螺旋型の磁気構造が挙げら
複数の既報の理論的指摘に合致したものであ
れる。このような磁気構造を持つ物質では磁
る[2]。S=1/2 で Cu のサイトが 1 種類の簡単な
性だけでなく他の物性量にも様々な異常が観
系なので、スピン・軌道相互作用を考慮した
測されており、異常ホール効果が1つの例で
微視的理論により、強誘電分極もいち早く計
あるが、他にも、螺旋型の磁気構造に誘起さ
算され[3]、マルチフェロイック出現のメカニ
れた強誘電性も挙げられる。この現象は(反)
ズムの理解が進んだ。
強磁性と強誘電性が共存していることからマ
一方、LiVCuO4 より少し複雑な結晶構造で
ルチフェロイックと呼ばれ、磁性と強誘電性
は共存しにくいという従来の概念を覆した。
e3
研究開始当時に報告されていたマルチフェ
ロイック物質は、いずれも複数の磁性サイト
を持ち、かつスピン S ≥1 の古典スピン系であ
ったが(TbMnO3, HoMn2O5, Ni3V2O7 等)、我々
は S=1/2 の量子スピン系でしかも単一サイト
c
b
Q
Cu2+
a
P
O2-
しか持たない CuO2 リボン鎖(CuO4 四角形が
図 1. CuO2 リボン鎖の模式図。LiVCuO4 は ab-helical
辺を共有し一次元的に連なった構造、図 1 参
磁気構造をもち、P ∝Q×e3 の関係が成立(P は強
誘電分極、Q は変調ベクトル、e3 は helical axis)。
- 10 -
研究紹介
μc=0.85μB
P
PbCuSO4(OH)2
Q
b
45°
χ (emu/mol)
c
e3
a
μab=0.45μB
0.04
H//CuO2–plane, H b
H CuO2–plane
H//CuO2–plane, H//b
0.03
0.02
TN
H=1T
0.01
19.85
ε
ε
図 2. LiCu2O2 の低温相(T=12K)での磁気構造をスピン
TN
P
の回転面のみ表した模式図。
1
あるが同様の CuO2 リボン鎖をもつ LiCu2O2
もマルチフェロイックを示すことが他グルー
気構造がかなり複雑なために、完全な決定は
なされていなかった。最近、我々は中性子散
乱と 7Li-NMR を組み合わせて、ゼロ磁場下の
磁気構造を決定し、そこでは P ∝Q×e3 の関
係が成立することを示した[5](図2参照)。
スピンの回転面は楕円になっており、このこ
とに量子揺らぎが関係しているという理論的
指摘があるので興味を持っている。ただし、
磁場中での磁気構造と強誘電性との関係性は
未だ理解できておらず、今後の課題である。
我々は PbCuSO4(OH)2 を取り上げ、この系が
CuO2 リボン鎖系でマルチフェロイックを示
す第 3 の例であることを見いだした。図 3 上
T (K)
3
0
4
図 3. PbCuSO4(OH)2 の磁化率の温度依存性(上図)お
プにより報告された[4]。LiCu2O2 の磁気構造
について、これまでに多くの報告があるが磁
2
1
2
19.80
P (μC/m )
2
よび誘電率εと強誘電分極 P の温度依存性(下図)。
model 物質”という側面を持っているので、
本特定領域メンバー等によって精力的に理論
的研究がなされている。その1つには高磁場
印加によりスピンネマティック相の出現が提
案されている[6]。PbCuSO4(OH)2 は他の 2 つの
系と比べて J1 と J2 の値が小さく、磁場効果が
大きく現れるので、このような観点による研
究対象に適した物質系であると期待している。
本研究は佐藤正俊氏、小林義明氏、加倉井
和久氏、寺崎一郎氏との共同研究の成果です。
ここに深く謝意を表します。
[1] Y. Naito et al.: JPSJ 76 (2007) 023708.
[2] H. Katsura et al.: PRL 95 (2005) 057205 など.
[3] H. J. Xiang et al.: PRL 99 (2007) 257203.
図は PbCuSO4(OH)2 の単結晶を用いて測定し
[4] S. Park et al.: PRL 98 (2007) 057601.
た磁化率の温度依存性であるが、TN=2.8K で
[5] Y. Yasui et al.: JPSJ 78 (2009) 084720 など.
反強磁性に転移することがわかる。また、TN
[6] M. Sato et al.: PRB 79 (2009) 060406(R)など.
では誘電率ε-T 曲線に明瞭なピークが観測さ
れ、TN 以下で有限の強誘電分極 P も出現する
ことから、PbCuSO4(OH)2 もマルチフェロイッ
クを示すことが分かった。現在、単結晶を用
いた詳細な実験を進めており、上述の2つの
物質系の実験結果も考えあわせて、CuO2 リボ
ン鎖をもつ一連の系全体のマルチフェロイッ
ク発現機構を理解していきたい。
CuO2 リボン鎖系は磁気フラストレートし
安井幸夫
た量子スピン系、言い換えると“S=1/2 の J1-J2
名古屋大学大学院理学研究科
- 11 -
研究紹介
遍歴電子フラストレート系 LiV2O4 と NaV2O4 の軌道状態
公募研究「NMR によるフラストレートしたスピン・電荷・軌道結合系の電子状態の解明」
名古屋大学大学院理学研究科
伊藤正行
遷移金属酸化物において、幾何学的フラストレーションを持つ遍歴電子系は、重
い電子系的振る舞い、特異なスピン・シングレットを伴う電荷秩序、金属絶縁体
転移などの新奇な物性を発現する。これらの物性を理解する上で、軌道状態を知
ることが重要である。単結晶N M R法を用いた LiV2O4 および NaV2O4 の軌道状態と物性
に関する私たちの最近の研究を紹介する。
遷移金属酸化物において、三角格子、パイ
で有効であることが分かってきた。これは、
ロクロア格子などの幾何学的フラトレーショ
ナイトシフトに寄与する超微細相互作用の中
ンを持つ強相関電子系では、d 電子が持つ電
で、双極子相互作用が、電子軌道の形を反映
荷・スピン・軌道の自由度とフラストレーシ
して、異方的なナイトシフトを与えることを
ョン効果が相まって、LiV2O4 に見られる重い
利用している。本稿では、この NMR の特徴
電子系的振る舞い[1]、AlV2O4 で現れる七量体
を生かして、遍歴電子フラストレート系
からなるスピン・シングレット状態[2]、二重
LiV2O4 と NaV2O4 に対して行った最近の私た
鎖構造を持つバナジウム酸化物における電荷
ちの研究について紹介する。
秩序を伴う金属絶縁体転移など、新奇な物性
スピネル型構造を持つバナジウム酸化物
が発現する。これらの物性の発現には、d 電
LiV2O4 は、V 原子がパイロクロア格子を形成
子の軌道状態が密接にからんでおり、軌道状
したフラストレーション系である。3d 電子系
態を知ることが重要である。
で、初めて、重い電子系的挙動が発見され[1]、
私たちの研究グループは、これまでに、核
その発現機構に興味が持たれてきた。これま
磁気共鳴(NMR)法を用いて、遷移金属酸化物
でに、局在性の強い a1g 軌道と遍歴的な eg’軌
を対象に、軌道秩序、軌道揺らぎなどの軌道
道間の近藤効果、幾何学的フラストレーショ
状態に着目した研究を進めて来た。その結果、
ン効果、強相関効果、軌道ゆらぎなど多様な
軌道液体が期待された LaTiO3 では、軌道秩序
理論研究が行われて来たが、どのモデルが妥
が生じていることを、YTiO3 では軌道揺らぎ
当かは、未だに決着していない。私たちは、
のために電子の四重極モーメントが半分程度
単結晶試料を用いた V 核の NMR 実験を行っ
に縮むこと、また、Lu2V2O7 では、三方対称
た。その結果、ナイトシフトは、三方対称の
の結晶場によって分裂した a1g 軌道が秩序化
結晶場を反映して、一軸異方的なナイトシフ
していることを見出した[3]。
ト Kax を持ち、これと等方的なシフト Kiso との
上記の研究は、磁気秩序状態での NMR 測
比 Kax /Kiso は、-0.4 程度になることが分かっ
定を用いたが、最近、一連のバナジウム酸化
た。どの電子軌道がどの程度占有されるかに
物の単結晶試料を用いた NMR による私たち
よって、この値は異なり、例えば、dxy が完全
の研究から、常磁性状態のナイトシフトの測
に分極したときには、κをコア偏極に伴うパラ
定も、軌道状態とその電子占有率を調べる上
メータとすると、2/7κとなる。LiV2O4 で観測
- 12 -
研究紹介
された上記の値は、三方対称の結晶場によっ
した dzx, dyz 軌道と、leg 方向に伸びる縮退の解
て分裂した a1g 軌道の電子占有率が大きいこ
けた dxy 軌道から構成されることがわかった。
とを示している。また、重い電子系的振る舞
この 2 種類の軌道は rung 間に強磁性的相互作
いは、圧力に敏感である。さらに、LiV2O4 は
用、leg 間に反強磁性的相互作用を持つことが
高圧下で絶縁体化することが知られているが、
予想される。従って、NaV2O4 は、この 2 つの
フラストレーションの強い系における金属絶
磁気的相互作用が競合したフラストレーショ
縁体転移は、新奇な格子変形や軌道秩序を伴
ン系となる。その結果、常磁性相において強
う状態へ転移することが予想されており、今
磁性相関が支配的であるにもかかわらず、ら
後、高圧下 NMR 実験を進めたい。
せん構造を持つ磁気秩序状態に転移すると考
えられる。このように、NaV2O4 のフラストレ
V(1)O6
ーションに起因する磁性は、軌道状態と密接
V(2)O6
に関係していることが明らかになった。
本研究は、武田晃(名大院理)、田中萌(名大院
理)、清水康弘(名大高等研)、新高誠司(理研)、
Na, Ca
高木英典(理研)、桜井裕也(物質・材料研究機構)
b
の各氏との共同研究である。
a
b
c
参考文献:
[1] S. Kondo et al., Phys. Rev. Lett. 78, 3729
図1.NaV2O4 の結晶構造
(1997).
カルシウムフェライト型酸化物 NaV2O4 は、
[2] Y. Horibe et al., Phys. Rev. Lett. 96, 086406
図 1 に示すように、VO6 八面体が形成する二
(2006); Y. Shimizu et al., Phys. Phys. Rev. 78,
重鎖が b 軸方向に伸び、そのトンネル中を Na
144423 (2008).
が占める構造をとる。この二重鎖は、三角格
[3] T. Kiyama et al., Phys. Rev. Lett., 91 167202
子を基本とした擬一次元構造を持つため、低
(2003); J. Phys. Soc. Jpn., 74, 1123 (2005); Phys.
次元性と幾何学的フラストレーション効果が
Rev. B, 73, 184422 (2006).
[4] K. Yamaura et al., Phys. Rev. Lett., 99, 196601
期待できる。NaV2O4 は、ネール温度 140K で
反強磁性に転移すると考えられているが、3d
(2007).
遷移金属を含むカルシウムフェライト型酸化
物の中で唯一の金属であり、その電子状態に
興 味 が 持 た れ て い る [4] 。 私 た ち は 、 こ の
NaV2O4 の局所磁性を明らかにするために単
結晶試料を用いた NMR 測定を行ない、140 K
で反強磁性的な転移を起こすにもかかわらず、
常磁性相では強磁性相関が支配的であること、
および、磁気秩序相においてらせん磁性が現
れることを明らかにした。また、ナイトシフ
トの測定結果から、V の 3d 電子が占有する t2g
伊藤正行
軌道は二重鎖の rung 方向に伸びる 2 つの縮退
名古屋大学大学院理学研究科
- 13 -
会議報告
「平成 22 年度立ち上げ全体会議」報告
2010 年 5 月 10 日(月)から 12 日(水)の 3 日間にわたって、「平成 22 年度立ち上
げ全体会議」が、独立行政法人「理化学研究所」で開催されました。計画班 38 名、公
募班 29 名、領域外から 41 名の方々が参加されました。2 年前の、2008 年 6 月の「平成
20 年度立ち上げ全体会議」も、同じ理化学研究所で開催されました。今回は、新たに
公募研究で加わったメンバーとともに、特定領域の後半戦のスタートを切る会議でした。
会議では、絶縁体や金属を舞台としたフラ
ストレーションによるスピン液体状態とそ
こに隠れた様々な秩序の可能性の探求、フ
ラストレート系特有のマルチフェロイック
スの探求と新しい材料の探索、フラストレ
ート系を舞台としたトポロジカルな構造の
形成とその秩序化の探求、など様々な切り
口からの研究報告がなされ、今後の展望が
議論されました。フラストレーションとい
うコンセプトに根ざした研究が特定領域の中で実験• 理論ともに確実に進展している
ことが印象づけられました。
会議 2 日目の懇親会には 68 名の方が参加されました。評価者の先生方、また領域代
表の川村先生から、特定領域の後半戦で、
「領域外の科学者、一般の方々にもその意義
が通じる」、フラストレーションによる「新しい成果」を得るために一層努力するよう
にとのメッセージを頂きました。
(吉野
- 14 -
元)
特定領域研究「フラストレーションが創る新しい物性」平成 22 年度立ち上げ全体会議
プログラム
5 月 10 日(月)
セッション1(座長:前川 覚)
13:00 ~ 13:10
川村 光(大阪大学 大学院理学研究科)
はじめに
13:10 ~ 13:35
鹿野田 一司(東京大学 大学院工学系研究科)
有機スピンフラストレート系のモット転移
13:35 ~ 14:00
石原 純夫(東北大学 大学院理学研究科)
ダイマーモット絶縁体と分極揺らぎ
14:00 ~ 14:25
中辻 知(東京大学 物性研究所)
Pr 近藤格子系における近藤効果とフラストレーション
14:25 ~ 14:50
加倉井 和久(独立行政法人日本原子力研究開発機構)
偏極中性子による複雑磁気構造の研究
14:50 ~ 15:15
藤山 茂樹(独立行政法人理化学研究所)
共鳴磁気 X 線散漫散乱を用いたイリジウムパイロクロアのスピン相関
15:15 ~ 15:45
coffee break
セッション2(座長:有馬 孝尚)
15:45 ~ 16:10
十倉 好紀(東京大学 大学院工学系研究科)
らせん磁性体のエレクトロマグノン
16:10 ~ 16:35
安井 幸夫(名古屋大学 大学院理学研究科)
量子スピンが引き起こすマルチフェロイック相の新奇物性の探索
16:35 ~ 17:00
野田 幸男(東北大学 多元物質科学研究所)
YMn4+(Mn1-xGax)3+O5 における磁気相互作用の選択的希釈化と構造変化
17:00 ~ 17:25
勝藤 拓郎(早稲田大学 理工学術院)
V 酸化物における三量体相転移
17:25 ~ 17:50
岡本 佳比古(東京大学 物性研究所)
フラストレート遍歴電子反強磁性体“YMn2Zn20”における重い電子状態
5 月 11 日(火)
セッション3(座長:川村 光)
9:20 ~
9:45
9:45 ~ 10:10
10:10 ~ 10:35
坂井 徹(独立行政法人日本原子力研究開発機構)
カゴメ格子反強磁性体における新奇な異常量子現象の理論的・数値的研究
河野 昌仙(独立行政法人物質・材料研究機構)
異方的2次元フラストレート磁性体の有限温度の性質
初貝 安弘(筑波大学 大学院数理物質科学研究科)
フラストレーションとバルクエッジ対応
- 15 -
10:35 ~ 11:05
coffee break
セッション4(座長:松浦 基浩)
11:05 ~ 11:15
大和田 謙二(独立行政法人日本原子力研究開発機構)
リラクサー班の新体制について
11:15 ~ 11:40
松浦 直人(東北大学 金属材料研究所)
中性子スピンエコー法によるリラクサーPMN-30%PT の格子ダイナミクス
11:40 ~ 12:05
左右田 稔(大阪大学 基礎工学研究科)
(1-x)BiFeO3‐xBaTiO3 におけるリラクサー的誘電性と磁気秩序の関係
12:05 ~ 12:30
東 正樹(京都大学 化学研究所)
菱面体晶ー正方晶固溶体 BiFeO3-BiCoO3 系における MPB の可能性
12:30 ~ 13:30
lunch
セッション5(座長:陰山 洋)
13:30 ~ 13:55
真中 浩貴(鹿児島大学 大学院理工学研究科)
三角スピンチューブにおける新奇な磁気状態の解明
13:55 ~ 14:20
益田 隆嗣(東京大学 物性研究所)
正三角スピンチューブ CsCrF4 の中性子散乱
14:20 ~ 14:45
菊池 彦光(福井大学 大学院工学研究科)
新しいフラストレート格子磁性体の探索
14:45 ~ 15:10
細越 裕子(大阪府立大学 大学院理学系研究科)
有機磁性体による幾何学的スピンフラストレーションの創出と量子効果
15:10 ~ 15:35
富安 啓輔(東北大学 大学院理学研究科)
幾何学的フラストレート系におけるスピン励起と格子振動の中性子非弾性
散乱研究
15:35 ~ 16:05
coffee break
セッション6(座長:高山 一)
16:05 ~ 16:30
木村 剛(大阪大学 基礎工学研究科)
イルメナイト型酸化物における磁場中誘電特性および電気磁気効果
16:30 ~ 16:55
吉野 元(大阪大学 大学院理学研究科)
フラストレートしたジョセフソン接合配列における乱れた磁束固体とその
スライディングおよびジャミング
16:55 ~ 17:20
小野瀬 佳文(東京大学 大学院工学系研究科)
B20 構造を有する遷移金属化合物におけるスカーミオン格子と異常ホール効果
17:20 ~ 17:45
小野田 繁樹(独立行政法人理化学研究所)
スカーミオンの自発的格子形成と準古典輸送理論
18:00 ~ 20:00
懇親会(広沢クラブ 2階、会議室)
- 16 -
5 月 12 日(水)
セッション7(座長:大和田 謙二)
9:20 ~
9:45
9:45 ~ 10:10
鄭 旭光(佐賀大学 工学系研究科)
特異量子磁性を示した新奇 d 電子系物質 M2(OH)3X の単結晶成長と
磁気構造決定
前川 覚(京都大学 大学院人間・環境学研究科)
パイロクロア格子・三角格子量子スピン反強磁性体のフラストレート磁性
10:10 ~ 10:35
中澤 康浩(大阪大学 大学院理学研究科)
新奇なスピン液体相を形成する分子性化合物の熱的性質
10:35 ~ 11:05
coffee break
セッション8(座長:網代 芳民)
11:05 ~ 11:30
伊藤 正行(名古屋大学 大学院理学研究科)
NMR によるフラストレートしたスピン・電荷・軌道結合系の電子状態の解明
11:30 ~ 11:55
吉田 誠(東京大学 物性研究所)
Volborthite における2種類のスピン状態の共存
11:55 ~ 12:20
門脇 広明(首都大学東京 理工学研究科)
フラストレート系におけるトポロジカルな励起の研究:現状と今後の計画
12:20 ~ 13:20
lunch
セッション9(座長:常次 宏一)
13:20 ~ 13:45
永長 直人(東京大学 大学院工学系研究科)
マルチフェロイック物質のスピン動力学シミュレーション
13:45 ~ 14:10
桃井 勉(独立行政法人理化学研究所)
低次元フラストレート磁性体におけるスピンネマティック状態と動的観測量
14:10 ~ 14:35
堀田 知佐(京都産業大学 理学部)
異方的三角格子における電荷のフラストレーション
14:35 ~ 15:00
求 幸年(東京大学 大学院工学系研究科)
フラストレーションのある強相関電子系における相競合:これまでの成果と
今後の研究計画
15:00 ~ 15:10
川村 光(大阪大学 大学院理学研究科)
おわりに
講演時間:25 分(質疑応答 5 分を含む)
- 17 -
会議報告
日本物理学会シンポジウム
「電子自由度が引き起こす強誘電性の新規物性」
強誘電性の起源としては従来、極性を持った分子の配向の秩序化や、陽イオンと陰イオンの
逆向きの変位が考えられてきました。もちろん、それに伴って電子密度分布も変化するわけで
すが、電子自由度が強誘電性の主因だとは見なされてきませんでした。しかし、近年、電子分
布、電子軌道配列、スピン配置といった電子の自由度が強誘電性を誘起していると考えられる
例が次々と見つかり興味が持たれています。その最も顕著な例は、マルチフェロイクと称され
る物質群です。すなわち、ある種のフラストレート磁性体で磁気秩序が強誘電性を発現するこ
とが発見されて以来、磁性と誘電性の結合に興味が持たれるようになっています。その他にも、
格子系の自由度というよりは電子配置の自由度が強誘電性のカギを握るような物質も複数見出
され、盛んに研究されています。
このような状況を踏まえて、今春の物理学会年会で「電子自由度が引き起こす強誘電性の新
規物性」というシンポジウムが開かれました。このシンポジウムでは、電子自由度が引き起こ
す強誘電性とそれに関連する新規物性について、強誘電体分野の専門家と磁性や強相関系の分
野の専門家の見地を交えて議論を行うことを主眼としました。これによって、誘電体分野の研
究者とそれ以外の分野との研究者の交流を図り、それが誘電体分野全体の発展につながること
を目的としているのです。
このシンポジウムでは、スピンの秩序がもたらす強誘電性について、その起源、電磁波応答、
薄膜などの話題が提供されました。スピンの秩序がもたらす強誘電性は、特異な電気磁気結合
や光物性という観点から興味深いことが改めて分かりました。これをフラストレート磁性の立
場から眺めると、例えば、誘電応答を通じてスピン系の情報を得られる可能性があるわけで、
新しい展開につながるのではないかと思います。また、電荷の空間配列がもたらす強誘電性に
ついても議論が行われました。すなわち、強相関電子系では電荷整列を起源とする絶縁体が時
折観測されますが、そのパターンによっては強誘電性を引き起こすというものです。具体的に
は、LuFe2O4、ET 塩などの誘電応答の理論的取り扱いが紹介されました。これらの物質は(擬
似)三角格子という幾何学的フラストレーションを有しています。この格子の上では電荷の配
列も簡単には決まりません。また、配列する電子は必然的にスピン自由度も持っていますので、
そのスピンがどのように配列するかが様々なチャンネルを通じて電荷配列に影響を及ぼすこと
になります。そのような意味で、特異な電気磁気結合が期待できるということでした。
このように、電子自由度が引き起こす強誘電性はフラストレーションという概念と深く結び
付いています。実際、私たちの特定領域でも、計画班、公募班ともにマルチフェロイクに関連
した研究項目が含まれています。今後、新しい概念が生まれる可能性も大いにあり、楽しみな
分野です。
(有馬孝尚)
- 18 -
発表論文のリスト
397. “Raman scattering study in iridium pyrochlore oxides”, T. Hasegawa, N. Ogita, K. Matsuhira,
S. Takagi, M. Wakeshima, Y. Hinatsu and M. Udagawa: J. Phys.: Conf. Series 200, 012054/14 (2010).
398. “Spin-Gap Observation in the Triangular Lattice Antiferromagnet InMnO3 by High-Field
ESR”, H. Ohta, N. Matsumi, S.Okubo, M. Fujisawa, T. Sakurai, H. Kikuchi, K. Furukawa
and T. Nakamura: J. Phys.: Conf. Series 200, 022041/1-4 (2010).
399. “High field ESR measurements of S=3/2 honeycomb lattice antiferromagnet Bi3 Mn4 O12 NO3 ”,
S. Okubo, F. Elmasry, W-M Zhang, M. Fujisawa, T, sakurai, H.Ohta, M. Azuma, O.A.Sumirnova,
N. Kumada: J. Phys.: Conf. Series 200, 022042/1-4 (2010).
400. “51 V-NMR Study of Honeycomb Lattice Antiferromagnet InCu2/3 V1/3 O3 ”, Y. Fujii, D. Takahashi, Y. Kubo, H. Kikuchi, A. Matsuo, K. Kindo, S.Okubo and H. Ohta: J. Phys.: Conf.
Series 200, 022010/1-4 (2010).
401. “Development of high-pressure, high-filed and multi-frequency ESR apparatus and its application to quantum spin system”, T. Sakurai, T. Horie, M. Tomoo, K. Kondo, N. Matsumi,
S. Okubo, H. Ohta, Y. Uwatoko, K. Kudo, Y. Koike, H. Tanaka: J. Phys.: Conf. Series 215,
012184/1-4 (2010).
402. “Spin-dependent-magnetoresistance control by regulation of heat treatment temperature
for magnetite nano-particle sinter”, H. Kobori, T. Asahi, A. Yamasaki, A. Sugimura, T.
Taniguchi, A. Ando, H. Kawanaka, Y. Naitoh, and T. Shimizu: Annalen der Physik 18,
935-938 (2009).
403. “Nonlinear Magnetic Susceptibility Measurements at GPa-Level Pressures”, M.Mito, S.Tominaga,
Y.Komorida, H. Deguchi, S. Takagi, Y. Nakao, Y.Kousaka, J.Akimitsu: J.Phys.Conf. Series
215, 012182/1-6 (2010).
404. “AC Susceptibility Measurement in High Frequency Region up to 10kHz using a SQUID Magnetometer MPMS”, K.Tsuruta, M.Mito, K. Iriguchi, Y. Komorida, H. Deguchi, S. Takagi,
T. Ohta: J.Phys.Conf. Series 200, 092013/1-4(2010).
405. “Chirality scenario of the spin-glass ordering”, H. Kawamura, J. Phys. Soc. Jpn. 79(1),
011007-(1-16) (2010).
406. “Z2 -vortex ordering of the triangular-lattice Heisenberg antiferromagnet”, H. Kawamura, A.
Yamamoto and T.Okubo, J. Phys. Soc. Jpn. 79(2), 023701-(1-4) (2010).
407. “From the Frenkel-Kontorova model to Josephson junction arrays - the Aubry’s transition
as a jamming-glass transition”, Hajime Yoshino, Tomoaki Nogawa and Bongsoo Kim: Prog.
Theor. Phys. Suppl. 184, 153-171 (2010).
408. “Anomalous Hall effect”, N. Nagaosa, J. Sinova, S. Onoda, A. H. MacDonald, and N. P. Ong:
Reviews of Modern Physics 82, 1539-1592 (2010).
- 19 -
409. “Instability of magnons in two-dimensional antiferromagnets at high magnetic fields”, T. Masuda, K. Kitaoka, S. Takamizawa, N. Metoki, K. Kaneko, K.C. Rule, K. Kiefer, H. Manaka,
and H. Nojiri: Phys. Rev. B 81(10), 100402(R)/1-4.
410. “Universal Magnetic Structure of the Half-Magnetization Phase in Cr-Based Spinels.”, M.
Matsuda, K. Ohoyama, S. Yoshii, H. Nojiri, P. Frings, F. Duc, B. Vignolle, G.L.J.A. Rikken,
L.-P. Regnault, S.-H. Lee, H. Ueda, and Y. Ueda Phys. Rev. Lett. 104 (2010) 047201/1-4.
411. “Frustrated Magnetism and Cooperative Phase Transitions in Spinels.”, S-H. Lee, H. Takagi,
D. Louca, M. Matsuda, S. Ji, H. Ueda, Y. Ueda, T. Katsufuji, J-H. Chung, S. Park, S-W.
Cheong, and C. Broholm J. Phys. Soc. Jpn. 79 (2010) 011004/1-14
412. “Novel Iron Oxides with Square Planar Coordination from Low Temperautre Synthesis”,
Cedric Tassel, Yoshihiro Tsujimoto, Hiroshi Kageyama, Kazuyoshi Yoshimura J. Jpn. Soc.
Powder Powder Metallurgy 57, 181-185 (2010).
413. “Magnetic Excitations in Infinite-Layer Antiferromagnetic Insulator”, Keisuke Tomiyasu,
Hiroshi Kageyama, Changhoon Lee, Mike H. Whangbo, Yoshihiro Tsujimoto, Kazuyoshi
Yoshimura, Jon W. Taylor, Anna Llobet, Frans Trouw, Kazuhisa Kakurai, and Kazuyoshi
Yamada J. Phys. Soc. Jpn. 79, 034707/1-4 (2010).
414. “Electronic structure and anomalous band-edge absorption feature in multiferroic MnWO4 :
An optical spectroscopic study”, W. S. Choi, K. Taniguchi, S. J. Moon, S. S. A. Seo, T.
Arima, H. Hoang, I.-S. Yang, T. W. Noh, Y. S. Lee: Phys. Rev. B 81, (20) 205111/1-7
(2010).
415. “Orbital dilution effect in ferrimagnetic Fe1−x Mnx Cr2 O4 : competition between anharmonic
lattice potential and spin-orbit coupling”, S. Ohtani, Y. Watanabe, M. Saito, N. Abe, K.
Taniguchi, H. Sagayama, T. Arima, M. Watanabe, Y. Noda: J. Phys.: Cond. Matt. 22 (17)
176003/1-6 (2010).
416. “Observation of Spin Helicity Using Nonresonant Circularly Polarized X-ray Diffraction Analysis”, H. Sagayama, N. Abe, K. Taniguchi, T. Arima, Y. Yamasaki, D. Okuyama, Y. Tokura,
S. Sakai, T. Morita, T. Komesu, H. Ohsumi, M. Takata: J. Phys. Soc. Jpn. 79 (4) 043711/1-4
(2010).
417. “Electronic Ferroelectricity in a Dimer Mott Insulator”, M. Naka, S. Ishihara: J. Phys. Soc.
Jpn. 79 (6) 063707/1-4 (2010).
418. “Magnetic properties and ferromagnetic microstructures in Al-doped La1-xSrxMnO3”, S.
Mori, K. Yoshidome, Y. Nagamine, K. Takenaka, S. Sugai: J. Phys. Conference Series, 200,
012129/1-4 (2010).
419. “Doping effect on charge ordered structure in RFe2O4 (R=Lu and Yb)”, Y. Matsuo, S. Mori,
K. Yoshii and N. Ikeda: J. Phys. Conference Series, 200, 012128/1-4 (2010).
420. “Formation of a Three-Dimensional Network of V Trimers in A2V13O22 (A=Ba, Sr)”, J.
Miyazaki,K. Matsudaira, Y. Shimizu,M. Itoh, Y. Nagamine, S. Mori, J. E. Kim, K. Kato,
M. Takata, and T. Katsufuji: Phys. Rev. Lett. 104, 207201/1-4 (2010).
- 20 -
421. “Crystal growth and ferroelectric properties in Bi0.5 K0.5 TiO3 -Bi0.5 Na0.5 TiO3 crystals”, A.
Morishita, Y. Kitanaka, M. Izumi, Y. Noguchi, and Masaru Miyayama: Key Eng. Mater.
445, 7-10 (2010).
422. “Materials design and characterization of (Bi1/2 Na1/2 )TiO3 -Bi(B’,B”)O3 ceramics”, Y. Oshima, Y. Kitanaka, Y. Noguchi, and M. Miyayama: Key Eng. Mater. 445, 59-62 (2010).
423. “Monte Carlo Study of Relaxor Systems: A Minimum Model of Pb(In1/2 Nb1/2 )O3 ”, Y.
Tomita, T. Kato, K. Hirota, J. Phys. Soc. Jpn., 79, 023001/1-4 (2010).
424. “Domain rearrangement and spin-spiral-plane flop as sources of magnetoelectric effects in
delafossite CuCrO2”, M. Soda, K. Kimura, T. Kimura, and K. Hirota: Phys. Rev. B 81(10),
100406(R)/1-4 (2010).
425. “Study of Slow Lattice Dynamics in Relaxor Ferroelectric PMN-30%PT by Neutron Spin
Echo Technique”, M. Matsuura, H. Endo, M. Matsushita, Y. Tachi, Y. Iwasaki, and K.
Hirota, J. Phys. Soc. Jpn. 79 (2010) 033601.
426. “Direct observation of ferromagnetic-domain network leading to colossal magnetoresistance”,
Y. Murakami, H. Kasai, J. J. Kim, S. Mamishin, D. Shindo, S. Mori and A. Tonomura, Nature
Nanotechnology 5 (2010) 37-41.
427. “Oxygen-vacancy-induced 90◦ -domain clamping in ferroelectric Bi4 Ti3 O12 single crystals”,
Y. Kitanaka, Yuji Noguchi, and Masaru Miyayama, Physical Review B, 81(9), 094114/1-8
(2010).
428. “X-ray Intensity Fluctuation Spectroscopy Using Nanofocused Hard X-rays:Its Application
to Study of Relaxor ferroelectrics,”, K. Ohwada, K. Namikawa, S. Shimomura, H. Nakao,
H. Mimura, K. Yamauchi, M. Matsushita, and J. Mizuki: Jpn. J. Appl. Phys., 49(2),
020216/1-3 (2010)
429. “Electric Control of Spin Helicity in Multiferroic Triangular Lattice Antiferromagnet CuCrO2
with Proper-screw Order”, M. Soda, K. Kimura, T. Kimura, M. Matsuura, K. Hirota: J.
Phys. Soc. Jpn, 78(12), 124703/1-6 (2009).
430. “Crystal Structures and Electric Properties of (1-x)BiFeO3 -BiCoO3 Thin Films Prepared by
Chemical Solution Deposition”, Y. Nakamura, M. Kawai, M. Azuma and Y. Shimakawa:
Jpn. J. Appl. Phys. 49, 051501/1-4 (2010).
431. “Exchange-striction associated with the elliptical proper helical magnetic structure in the
ferroelectric phase of CuFe1−y Gay O2 ”, N. Terada, T. Nakajima, S. Mitsuda, M. Matsuda,
K. Kakurai, Y. Tanaka and H. Kitazawa: J. Phys.: Conf. Ser. 211, 012005/1-6 (2010).
432. “Orbital order and partial electronic delocalization in a triangular antiferromagnet Ag2 MnO2 ”,
S. Ji, E. J. Kan, M.-H. Whangbo, J.-H. Kim, Y. Qiu, M. Matsuda, H. Yoshida, Z. Hiroi, M.
A. Green, T. Ziman and S.-H. Lee: Phys. Rev. B81, 094421/1-7 (2010).
433. “Nematic, vector-multipole, and plateau-liquid states in the classical O(3) pyrochlore antiferromagnet with biquadratic interactions in applied magnetic field”, N. Shannon, K. Penc,
and Y. Motome: Phys. Rev. B 81, 184409/1-24 (2010).
- 21 -
434. “Quantum Melting of Charge Ice and Non-Fermi-Liquid Behavior: An Exact Solution for
the Extended Falicov-Kimball Model in the Ice-Rule Limit”, M. Udagawa, H. Ishizuka, and
Y. Motome: Phys. Rev. Lett. 104, 226405/1-4 (2010).
435. “Trimer V3 spin singlet state and pseudo gap in LiVS2 studied by
51
V and 7 Li nuclear
magnetic resonance”, T. Tanaka, Y. Kawasaki, S. Endou, S. Kimura, Y. Ideta, Y. Kishimoto,
T. Ohno, N. Katayama, M. Nohara and H. Takagi: J. Phys. Soc. Jpn. 78, 054709/1-5 (2009).
436. “Conversion of magnetic structure by slight dopants in geometrically frustrated antipervoskite Mn3 GaN”, K. Takenaka, T. Inagaki and H. Takagi: Appl. Phys. Lett. 95, 0132508/13 (2009).
437. “Quasiparticles of string solutions in the spin-1/2 antiferromagnetic Heisenberg chain in a
magnetic field”, M.Kohno: J. Phys.: Conf. Ser. 200, 022027/1-4 (2010).
438. “Spectral Properties of Interacting One-Dimensional Spinless Fermions”, M.Kohno, M.Arikawa,
J.Sato, and K.Sakai: J. Phys. Soc. Jpn. 79(4), 043707/1-4 (2010).
439. “Formation of a Three-Dimensional Network of V Trimers in A2 V13 O22 (A=Ba, Sr)”, J.
Miyazaki,K. Matsudaira, Y. Shimizu, M. Itoh, Y. Nagamine, S. Mori, J. E. Kim, K. Kato,M.
Takata, and T. Katsufuji: Phys. Rev. Lett. 104, 207201/1-4 (2010).
440. “S(2) slave-boson formulation of spin nematic states in S=1/2 frustrated ferromagnets”, R.
Shindou and T. Momoi: Phys. Rev. B 80, 064410/1-12 (2009).
441. “Interplay of strongly correlated electrons and localized Ising moments in one dimension”,
C. Hotta, Phys. Rev. B, 81(24), 245104/1-9 (2010).
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お知らせ
◇ 「フラストレート系」特定領域・国際会議
International Conference on Frustration in Condensed Matter (ICFCM)
日時:2011年1月11日(火)~14日(金)
場所:仙台国際センター
世話人:有馬孝尚(東北大多元研)
,川村光(阪大理)他
http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/public/icfcm/index.html
◇ Highly Frustrated Magnetism 2010
日時:2010年8月1日(日)~6日(金)
場所:Baltimore(米国)
http://physics-astronomy.jhu.edu/hfm2010
◇ 第6回トピカルミーティング「フラストレーションと量子輸送」
日時:2010年10月15日(金)~16日(土)
場所:宮島グランドホテル(広島)
コンビーナ:常次宏一(東大物性研)
,中村裕之(京大工)
,花咲徳亮(岡山大理)
,
川村光(阪大理)
◇ 日-加ジョイント会議(タイトル未定)
日時:2011年5月28日(土)~31日(火)
5月28日は CIFAR
meeting を兼ねる
場所:バンクーバー(カナダ)
オーガナイザー:Taillefer, Gingras, 川村光, 高木英典
◇ 第7回トピカルミーティング「複合自由度」
(タイトル未定)
日時:2011年度前半(予定)
世話人:求,香取,川村
他
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川村特定もあと二年になりましたが、今年度より公募
研究の新メンバーも加わり、益々の発展があると確信して
います。さて、京大グッズ売場には、前野先生のエレメン
タッチの他にも面白い商品がいくつか並んでいます。その
中に、京大の風景を貼付けた正四面体を点共有させた紙の
模型(シェルピンスキー四面体)があります。これを豪華
にしたものが、京大博物館に展示されています。
昨夏のことですが、京大人間環境学研究科の酒井敏教授と積水化学がこの模型(た
だし材料は塩ビ)からなる日除けを京都八幡高校につくったという記事を毎日新聞朝刊
で目にしました(写真は毎日新聞WEBより)。お台場の日本科学未来館にも作られたそ
うです。木陰に入ったときに感じる清涼感のある理想的な日陰がつくれるのが売りで特
許も取得済みのようです。パイロクロア上にいる電子が動いたとき、そもそも幾何学的
フラストレーションはどれだけ効くのか、といった話題が本特定領域の会議の中でもた
まにでますが、この日除けの中を通り抜ける風を伝導電子に見たてたときこの現象をう
まく説明できたら面白いかも、などとそのときは妄想していました。
今、調べてみますと、酒井教授のご専門は気象、流体力学で、ヒートアイランド対
策として自然の樹木の知恵を拝借した結果なのだそうです。つまり、樹木の枝分かれは
フラクタルで、ほぼ相似形で平面状の葉が無数に集まって隙間の多い多面体的な構造が、
光や熱をさえぎる一方、風通しは良くし、地面と葉そのものの表面温度を低く保つ、こ
の原理を人工フラクタルにより実現したとのこ
と。意外だったのは、上述の京大グッズは、フ
ラクタルを専門とされている立木秀樹先生の教
育啓蒙活動によるもので、この日除けとは特に
関係はなさそうです。しかし、同じ研究科の先
生ですから、きっと良い出会いはあったのだと
想像しています(前川先生、いかがでしょう
か?)。
陰山 洋
特定領域研究「フラストレーションが創る新しい物性」
ニュースレター Vol.9
2010年7月発行
発行者
川村 光(大阪大学 大学院理学研究科)
編集担当 有馬孝尚(東北大学 多元物質科学研究所)
陰山 洋(京都大学 大学院工学研究科)
編集協力 菅谷 久仁子(大阪大学 大学院理学研究科)
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