高砂報215号 平成22年6月22日 井出 正、真砂慶一郎、大越松司 加藤光敏院長、加藤則子管理栄養士校正 第137回葛飾高砂会報告 平成22年6月22日(火)午後1時から2時30分まで、クリニック B1集会室にて 38 名 が参加して開かれました。日本糖尿病学会年次学術集会(年一回の総会)が岡山で開催され、当 院からは各スタッフが演題4題、そのほかに皆様に報告しませんが、院長が血糖自己測定のワー クショップでの口演、座長など、各スタッフそれぞれに忙しい糖尿病学会でした。 1. 「さかえ」を読む会(12:30~1:00) 花島 実(患者会) ・加藤則子管理栄養士 今回は 7 月号の、 「高齢者の糖尿病・10 頁」と、 「夏に注意!・18 頁」を取り上げました。その中 で、●加齢に伴うミトコンドリア機能の低下。●重 篤な無自覚性低血糖が多くなる。●外出時には、サ ングラスや帽子で目を紫外線から守る(白内障予 防)ことを学びました。(写真上は有志による患者会 の前のさかえの抄読会) 2 . 岡山市で開催された日本糖尿病学会学術 年次集会で発表した内容の報告 (1) 治療中断に至ったインスリン導入患者さんの特徴と 中断理由の考察 酒井久美子看護師 治療中断とは ・糖尿病と診断され、治療を行っているにもかかわらず、通院をやめてしまった人のことで す。この方々の合併症が悪化することが 多く、問題になっています。 ・今回はインスリン治療を始めた後に、治療中断した人の特徴を調査しました。 [ 目的 ] インスリン注射を導入後に、治療中断した患者さんの特徴や要因を調査します。 [ 方法 ] 加藤内科クリニックにおいて、2007 年 7 月~2009 年 2 月にインスリン導入した糖 尿病患者 93 名(男/女=62/31 名)中、2009 年 9 月時点までに治療中断した患者の人数、 性別、年齢、導入時 HbA1c、体重、BMI、罹病歴、注射回数、合併症、職業の有無、同 居家族の有無、夜勤の有無等について調査をし、中断理由はカルテの情報と電話等で確 認しました。 [ 結果 ]93 名中、通院中断に至った患者は 14 名(約 15%)でした。14 名の内訳は男性 10 名、女性 4 名、平均年齢は 53.8 才、HbA1c は 10.3%、体重は 69kg,BMI(体格指数)は 25.7kg/m 、罹病歴は 2 10.9 年、注射回数(1/2/3/4 回)は 3/5/6/0 単位、職業は 11 名が有、3 名が無。合併症は糖 -1- 尿病網膜症8名、腎症(3期)3名、末梢神経障害0名、独居5名、夜勤あり5名。中断をした人達は 「体重が重い」「年令が若い」「独居率が高い」の3項目で、良好な人達と比べ大きな差があることが分 かりました。中断をした人達はインスリン導入時、HbA1c が高く、罹病歴が長い傾向があり、糖尿病網 膜症、糖尿病腎症の発症頻度が高いことが分かりました。注射回数と治療中断に関連は見られませんで した。 治療中断の主な理由としては(14 名中)経済的な負担(非正規雇用、自営業、一人暮らし)4名、他 疾患の増悪2名、転居2名、インスリンに対する抵抗感2名、受診時間確保困難(公務員、男性、仕事 が「忙しい」2名、不明2名。 (まとめ) ・ インスリン治療をしている患者さんでも治療中断をしてしまう人がいます。 ・ 経済的な理由や、仕事等が忙しい為、時間がなく病院へ行きたくても行けない患者さんもいます。 ・同居している家族がいると治療中断がしにくい。 ・ 患者さんが中断しないように、病院医療スタッフの取組みが必要と思われます。 ※(加藤光敏院長) この勉強会に参加している人達は治療中断などはしない方ですが、周りにそのような 人がいたら、ぜひ治療中断の怖さを教え、お近くの糖尿病に力を入れている先生の所での治療再開を勧 めて下さい。 3. 生活習慣病患者さんへの今後療養指導のあり方の考察 食生活に対する目標意識と現実に関する調査から 池田祥子管理栄養士 ○目的 生活習慣病患者の行動変容を支援する療養指 導として、心理的アプローチの重要性が注目さ れています。 そこで糖尿病を始めとする生活習慣病患者の 食生活に対する意識と実際の実行度について調 査をし、患者の行動変容を支援するため、どの ようなかかわり方が有効かを検討しました。 ○方法 ・ 平成 21 年 7 月~11 月に栄養指導を受けた患者さんにアンケート調査を実施しました。 ・ 食事で気をつけていることはあるか複数回答可で 12 項目の食生活について尋ねました。 ・ 同時に、普段の実際の食品摂取頻度について 100 名 も調査し、食生活における患者さんの目標意識と アンケート回答者 実際の食品摂取状況とを調査しました。 男性/女性 58/42 名 平均年齢 60.8±11.7 歳 BMI(肥満の判定) 25.2±5.2 摂取について、必要性は理解しており意識は高 平均栄養指導経験回数 3.3 回 いが実行できない人が少なくないことが分かり ※100 名中、糖尿病患者は 68 名 ○考察 ・ 体重や血糖管理に影響する間食の節制や野菜 ました。 調査時 HbA1c 7.6±1.4% 当院糖尿病患者 平均HbA1c 6.74±0.91% -2(2009 年 10 月、患者数 718 名) ・ 分かっているが変えられない患者さんが多いという事実をふまえ、説明やアドバイスを中心と した従来の栄養指導法だけでなく、行動変容できない原因について、患者自身の気づきを促す心 理的アプローチを 重視したカウンセリング法も併せて用いることが有効であると推定されまし た。 ・ 目標意識と実際の食事摂取状況との乖離が多く認められた、65才以上の高齢者及び女性には、 特にカウンセリング法を活用した栄養指導を行うことで、より効果的な支援が可能になると考え られます。 結果として、理解はしていてもなかなか行動変容できない患者に対し、行動変容を促すカウン セリングの要素をとり入れた栄養指導が効果的であると考えられました。 ※(加藤光敏院長) 同じ栄養指導でも、人によって、それからどの位勉強した経験があるかによっ て、管理栄養士として充分に経験を積んだ上で、ここをポイントとして大事な所を教えようと か、食事療法の基本から教えるなど、相手を見ながら相談に応じています。 4. 糖尿病患者の尿マグネシウム(Mg)値は HbA1c と正相関あり、尿中排泄が血清Mg値を低 下させる可能性を示唆した 加藤則子 管理栄養士 糖尿病患者さんの血液中のマグネシウムが低下して います。糖尿病になった人は何故マグネシウム値が低い のか、尿の中にマグネシウムがどの位含まれているのか を調べてみました。 血糖コントロールの不良は、空腹時から尿中のマグネ シウムの排泄を増加させ、糖尿病患者さんの低マグネシ ウム血症を起こすと推察されました。 (詳細省略) マグネシウムの上手な摂り方 [ そばのひ孫と孫は優しい子かい? 納得 ] そば、のり、ひじき、まめ、ごこく〈五穀〉、とうふ、マカダミアナッツ、ごま、わかめ、やさい、 さかな、しいたけ、ココア、かき(牡蠣) 、いも、なっとう、とうもろこし、くだもの このようなものにマグネシウムが多くさん含まれています。ぜひ、こういったものを食べて下さい。 ※(加藤光敏院長) 豆類、和食を中心に摂るのがよいでしょう 。 5. クラウド型(データセンター方式)眼底画像遠隔讀影スステム構築と外来での運用 加藤光敏院長 眼科でない医師にとって眼底写真の判断が難しい時、そ の写真を眼科専門の医師にインターネット上のセンター サーバーを利用したクラウド型遠隔讀影システムを通し て送ります。 このシステムは専門でない医師に有用であるというこ とで始まりました。これら眼底検査画像はネットワークを -3- 利用し、順天堂大学病院の眼科専門医が遠隔読影し、多数例をテストしました。 ○クラウドコンピューティング概念 従来のコンピュータ利用は、ユーザーがコンピュータのハードウエア、ソフトウエア、データ等を、 自分自身で保有・管理していたのに対し、クラウドコンピューティングでは「ユーザーはインターネ ットの向こう側からサービスを受け、サービス利用料金を払う」形になります。 ユーザーは、最低限の接続環境〔パーソナルコンピュータ等のクライアント、その上で動くブラウ ザ、インターネット接続環境等)を用意し、クラウドサービス利用料金を支払います。 実際に処理が実行されるコンピュータ及びコンピュータ間のネットワークは、サービスを提供する 企業側に設置されており、それらのコンピュータ本体及びネットワークの購入・管理運営費用や蓄積 されるデータの管理の手間は軽減されます。 クリニックで撮った、皆さんの眼底画像は2重に暗号化して保存されています。災害時の損害を防 ぐ為に、2ヶ所のサーバーに保存してあります。 クリニックからインターネットで内容を見ることができます。順天堂大学病院の眼科専門医がイン ターネットを通し、その眼底画像を見ても、写真は眼科には残りません。 東京と熊本のデータセンターに保存されるので、皆さんのデータは順天堂大学病院には残りません。 こうして皆さんのデータは保護されています。 当クリニックの眼底画像は非常にきれいです。明るさの調節、輝度調整、拡大縮小機能付きの最新 型のカメラとソフトを使用しています。 ・2009年7月以降250患者494眼の検査を実施しました。 ・眼底検査の診断レベルアップの為の眼底検査の遠隔読影サービスシステムがうまく稼働しました。 ・新システムでは、すべてのデータがサーバーに集約しているので読影側でも過去の画像・所見の参 照が容易で、従来のシステムと比較して診断精度の向上が図れると考えられました。 ・眼底画像データ及び読影(報告書)データはサーバー上で保管・管理される為、クリニック側では プログラムのバージョンアップやデータのバックアップ等のわずらわしい作業は発生しませんでし た。従って従来のシステムと比較して、クリニック側の負担が非常に少ないと判断されます。 最後に ・今回のシステムはインターネット回線に接続されたパソコンがあれば特別な設置工事やプログラム のインストール作業など無しに簡単に利用できる為、非専門医による一般診察・健康診査に広げれば 眼底検査の質の向上と均等化が望めると考えられます。 ・眼底の中心部のみの観察であることなど、無散瞳カメラの限界はありますが、このクラウド型シス テムは有用であり、内科に通院していながら糖尿病網膜症の存在に、全く気付かれない悲劇を、ほぼ 皆無にできると期待されます。 以上 (不許転載 患者会使用可 加藤内科クリニック 加藤光敏、加藤則子) -4-
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