2011 年 1 月 /2 月号 - 日本翻訳連盟

Japan Translation Journal No.251
Japan Translation Federation
− CONTENTS −
社団法人日本翻訳連盟機関誌
2011 年 1 月 /2 月号
2011 年 年頭にあたって
丸山 均 JTF 副会長 (株)ジェスコーポレーション 代表取締役
Report
巻頭言 .......................................................... 1
≪特集≫ 20 周年記念翻訳祭 ....................... 2
経営者の声................................................... 9
現場の声 .................................................... 10
翻訳者の声................................................. 11
Honrenso
ほうれんそう No. 149 ............................... 12
Information
翻訳環境研究会報告 .................................. 14
西日本セミナー報告 .................................. 15
法人会員プロフィール............................... 16
個人会員プロフィール............................... 17
ニューフェイス ......................................... 18
事務局だより ............................................. 18
㪢㪠㩷
⠡⸶ຠ⾰
㧼㧹 ຠ⾰
⑼ቇ⊛ຠ⾰▤ℂ
ຠ⒳ㆡว
䉲䉴䊁䊛
⁛ 㪪㪘㪧 ␠⹺ቯ⠡⸶䊌䊷䊃䊅䊷
☨ 㪟㪧 ␠⹺ቯ⠡⸶䉰䊒䊤䉟䊟䊷
ᩣᑼળ␠Ꮉ᧛䉟䊮䉺䊷䊅䉲䊢䊅䊦
社団法人日本翻訳連盟
〒 104-0031
東京都中央区京橋 3-9-2 宝国ビル 7F
TEL ■ 03-6228-6607
FAX ■ 03-6228-6604
発行人■東 郁男(会長)
編集人■河野 弘毅
DTP ■(有)デジタル・ワークス
E-mail ■ [email protected]
URL ■ http://www.jtf.jp/
あけましておめでとうございます。本年
もよろしくお願い申し上げます。
JTF が 任 意 団 体 と し て 発 足 し た の が
1981 年 4 月ですから、今年でちょうど満
30 年を迎えることになります。
Japan as No.1 の 80 年 代 か ら、 一 転
して 90 年の バブル崩壊 、そして 失わ
れた 20 年 へと続くわけですが、この間
多くの翻訳会社の 栄枯盛衰 を見てきま
した。しかし古い話はやめにして、ここ数
年間の話を取り上げてみようと思います。
東京都の翻訳会社数が減少。なぜ?
私が 2007 年 10 月にタウンページのデー
タベースで「翻訳」「東京都」を検索した
ところ、812 社の事業所がヒットしました。
それが 2010 年 11 月に同じように検索
したところ、670 社に減っていました。わ
ずか 3 年間で 142 社(17%減)も減少し
ていたのです。しかしこれは東京都だけの
現象のようで、神奈川県では 131 社→ 125
社(6 社減)、愛知県では 84 社→ 95 社(11
社 増 )、 大 阪 府 で は 150 社 → 170 社(20
社増)と逆に首都圏以外では増えています。
過去に何回かタウンページを使って翻訳
会社数を調べたことはありますが、少なくと
も「翻訳会社数が減った」という現象はあり
ませんでした。ここへきてなぜ急に東京都だ
けが減少したのでしょうか?理由を3つほど
考えてみました。皆さんはどう思いますか?
(理由 3)インターネット環境の格段の進
歩。安くて性能の良い各種OA機器の普及
と高速通信網の発達により、日に日にネッ
ト環境は改善されつつある。 東京都心に近
い という翻訳会社の地理的アドバンテー
ジも少しずつ失われつつあるということか。
“翻訳業界”景気の今後の行方
2009 年 3 月期の上場企業の最終損益は、
非製造業が 4 兆 2,523 億円(黒字)
、金融
業が▲ 2,100 億円(赤字)、「電機機器」が
▲ 2 兆 3,400 億円(赤字)、
「自動車・部品」
が▲ 7,302 億円(赤字)
、その他の製造業
が 1 兆 2,284 億円(黒字)でした。
つまり「電気機器」と「自動車・部品」の両
業界だけで▲ 3 兆 702 億円という膨大な赤
字を生み出していたのです。騒がれた金融
業の赤字は実は▲ 2,100 億円に過ぎません。
あれから 2 年が経ち、上場企業の今年 3
月期決算は、製造業を中心に業績が急回復
する見込みです。
製造業が元気になれば日本の景気は必ず
上昇傾向に向かいます。現に 2010 年半ば頃
から、ようやく日本の翻訳業界にも活気が戻
りつつあると肌で感じています。2011 年の
翻訳業界は今までの反動もあり、大変な活況
を呈するのではないかと期待しています。
(理由 1)地方の翻訳会社が仕事を求め
首都圏に支店を出していたが、不況により
採算がとれなくなり撤退した。
(理由 2)リーマン・ショック後に金融翻
訳の仕事が冷え込んだため、表面には現れ
ない スクラップ&ビルド が頻繁に行わ
れた。理由は定かではないが登録されてい
る翻訳会社の顔ぶれは大きく変わっている。
1
Report
Japan Translation Journal No.251
≪特集≫
20 周年記念 JTF 翻訳祭
20 周年記念 JTF 翻訳祭が平成 22 年 12 月 13 日、
「翻訳で切り拓く日本の未来∼需要開拓と新技術∼」をテーマに、東京・
市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷(私学会館)で開催された。メイン会場では基調講演とパネルディスカッションが行われ、同
時にサブ会場で翻訳業界分科会と支援ツール分科会が 20 セッション行われ、また、翻訳プラザも開催された。続いて、交
流パーティーが開催された。
20 周年記念ということで過去最多の 700 名の方々が参加し、大変盛況であった。
【基調講演】「翻訳研究(Translation Studies)と実務の接点」
水野 的氏 日本通訳翻訳学会 副会長・事務局長
今日は、翻訳研究と実務を結び付ける
ようなお話をしたいと思う。前半は翻訳
研 究 の 紹 介、 特 に 等 価(equivalence)
についてお話しし、後半で具体的にこれ
を展開していく。
1964 年に Nida は、形式的等価と動的等
価について定義している。形式的等価とは、
形式と内容両面においてメッセージ自体に
注意を集中し、受容言語におけるメッセー
ジができるだけぴったりと起点言語の様々
な要素に一致するよう注意するというもの。
そのため、この形の翻訳では注釈により起
点言語と受容者言語との溝を埋める作業が
発生し、注釈的翻訳と言われるものである。
動的等価とは、翻訳の受容者とメッセージ
の関係は、オリジナルの受容者とメッセー
ジの間に存在した関係と実質的に同一でな
ければならないというものであり、その目
標は、「起点言語のメッセージに対して最も
密接で自然な等価」を追求することである。
1979 年に Koller は、指示的等価、暗示的・
含蓄的・内包的等価、テキスト規範的等価、
語用論的等価、文体的等価の 5 つの等価に
ついて定義している。また、1992 年には
Baker が、単語レベルの等価、単語レベル
を超えた等価、文法的等価、テキスト的等
価、語用論的等価などを定義しているが、
「本書では便宜上「等価」という用語を使う。
(...)ただし、等価はふつうある程度まで
は可能だとしても、さまざまな言語的・文
化的要因の影響受ける。したがってそれは
常に相対的である。」と言っている。
1984 年頃ドイツの Skopos(目的)理論が
盛んになる。これは実務翻訳から発した理
論である。原文に等価するように翻訳せよ
という要請があればそれが Skopos(目的)に
なる。目的のみが重要だという理論である。
2
また、このころを境に、等価の基準が起点言
語を離れ目標言語に移動していく。自然的
等価から方向的等価に移っていく。バック
トランスレーションしても起点言語に戻ら
ないのが方向的等価である。この目標言語
基準の理論もやがて「文化的展開」を迎える。
1990 年代に入ると、「機能の等価」と
い う 言 葉 が 使 わ れ 始 め る。Halliday は
1992 年に、
「良い翻訳とは、翻訳の行われ
る状況においてもっとも価値がおかれる
言語的特徴をとらえた翻訳、あるいは起
点言語テキストでの価値に即した翻訳で
ある」と言っている。高見は、1995 年に、
「機能的構文論」の中で、「聞き手が文中
のある要素の出現を予測できないと話し
手がみなす時、その要素はその文の焦点
であり、重要度が高い情報である。つま
り話し手が聞き手に特に伝達したい部分
を焦点、または重要度が高い情報と呼ぶ」
と し て い る。 具 体 的 に は、 英 語 で は、
SVO の語順でより重要度が高くなり、日
本語は SOV の順で重要度が高いといえる。
このような等価論を実際の英日翻訳に
あ て は め る と ど う な る か。 英 語 の It
is... 構文や、What ... is ... 構文では、is
の後にもっとも重要な情報を絞り込むよ
うに提示しているので、和訳時にもこの
部分を強調するようにする。
また、原文と訳文の文化的違いを明示的
に示さなければいけない言語の組み合わせ
もある。たとえば、「もってこい」という
命令文は日本語では成り立つが、この言葉
には「そう言っている人」「そう言われて
いる人」「対象」「どこからどこへという場
所」が含意されている。これらを明示しな
ければならない英語では、原文にない情報
を付け加えなければ文が成立しない。この
明示をどこまで行うか、含意をどこまで、
あるいはどうくみ取るかにより訳文は変わ
る。では何を追加し、何を省略すべきなの
か。これに対して、Gutt は、関連性理論
を使った翻訳理論を説いている。「翻訳は
オリジナル communicator のテキストがそ
れを含む表意と推意とともに目標言語の読
者に伝えられることとも定義される。つま
り、翻訳者の目標は、翻訳をできる限りオ
リジナルに解釈的に類似するようにするこ
と、同様の文脈効果を与えることである。」
としている。字幕翻訳のようにどうしても
一部を省略しなければならない場合、関連
性理論は有効な導きの糸となる。たとえば、
英 語 の I woke up THREE MINUTES
AGO. を ス ロ ベ ニ ア 語 に 訳 す と [I JUST
woke] と な る。 字 幕 翻 訳 者 に は、three
minutes ago = short time ago = just とい
う推論が働き、それによって圧縮された翻
訳を正当化するような「解釈的類似」に到
達できる。翻訳研究の理論はこのような形
で翻訳実務に結びつけることができる。
Report
Japan Translation Journal No.251
【パネルディスカッション1】 「英語の公用語化と翻訳の未来」
(敬称略)
<講演者>
鈴木 義里
大正大学表現学部准教授・
学術博士
<モデレーター>
河野 弘毅 (株)アイタス シニアローカ
リゼーションスペシャリスト
<パネリスト>(五十音順)
伊藤 彰彦 (株)十印 取締役副社長
斎藤 玲子
日本オラクル(株)
WPTG-Japan シニアラン
ゲージスペシャリスト
山本 ゆうじ 秋桜舎 代表 言語・翻訳コ
ンサルタント
前半:鈴木 義里氏
英語公用語化について 4 点にわたって
述べる。1.公用語が必須な例としての
インドについて。2.公用語とはどのよ
うなものか。3.日本での英語公用語化
について。4.英語の公用語化と翻訳と
の関係について。
10 億人以上の人口を擁するインドは、
多言語国家であり、絶対的な多数派を形
成する言語は存在しない(最有力のヒン
ディー語でさえ約 40%)。地域ごとに言
語が異なり、一国の国民同士なのに、相
互に意思疎通を行うことが難しい場合が
ある。さらに、主要な文字だけでも 10
種類にのぼるため、看板の文字を読むこ
とも困難である。このような言語環境の
国では、国家の共通言語が必要となる。
公用語とは、法律や規則で定められた言
語であり、インドでは、ムガル朝ではペル
シャ語が、イギリス統治下では英語が公用
語だった。独立後は「ヒンディー語」が国
家の公用語として憲法で規定された。また、
下位の法律などによって、英語も公用語と
同等の資格を保つことになった。さらに、
連邦を構成する州ごとに州公用語が制定さ
れている。このように、公用語はさまざま
なレベルで制定されることがありうる。
日本では、今年、複数の企業が社内公用
語を英語にするという発表を行った。しか
し、英語を話す必然性がない環境の中で、
この試みが成果を上げるのは厳しいだろ
う。今回の提案は、世界中で存在感を増し
ている英語とどう向き合うべきかという問
題と考えるべきだ。現在のような英語の「ひ
とり勝ち」はそのまま続くのだろうか?イ
ンターネットの世界では確かに英語のサイ
トはさらに増えるだろうが、世界中の人び
とが母語を捨てて英語に向かうということ
はないだろう。インドでも中国でも、ヨー
ロッパでもほとんどの人は自分の母語でサ
イトを閲覧しているし、この方向は今後も
強まるだろう。また、日本では、英語がで
きる人が増えている一方で英語嫌いが増え
ているという状況がある。今回の社内公用
語化の提案は、むしろ英語教育への苦言と
して受け止めるべきだ。必要なことは、英
語を含む外国語教育の改善である。
翻訳という観点からは、英語ができる
人が増えれば翻訳は不要となるという見
方もある。しかし、むしろ精度の高い翻
訳は必要性が高まると私は考えている。
つまり、翻訳は質がこれまで以上に要求
されるのではないだろうか。
鈴木義里氏
後半:パネルディスカッション
司会者(河野):従来の翻訳業界は受注
産業であるが、産業としての自立のため
には市場を自ら創造する発想が必要と考
え、英語公用語化の議論にそのヒントを
求めてこのパネルディスカッションを企
画した。最初に英語公用語化に関する各
パネラーの意見をうかがいたい。
伊藤:日本人全員が英語を話すようになる
ための公用語化は不要と思うが、国を挙げ
て産業を発展させるための国家戦略として
の公用語化はあり得るだろう。企業内では
目的次第。社員が英語を話せるようになる
ための教育手段としての公用語には反対だ
が、すでに英語で世界を舞台に活躍できる
人材がさらに飛躍できるための環境づくり
としての英語公用語化には賛成。
斎藤:必然性がないのであれば不要と思う。
当社では外国人が多いので会議でも外国人
3
Report
Japan Translation Journal No.251
がいるときは英語で話をするが、その頻度が高いため発想が英語的
になる。日本人同士の日本語の会議でもまず結論から話をするよう
になる。英語が公用語化されると言葉だけでなく文化も混ざるとい
うことを実感している。
山本:英語程度でつまずくのはなぜか。世界では数カ国語を話せ
るのが普通。中等教育では、英語以外の言語の科目も作ればよい。
UWC、国際バカロレアなどのバイリンガル教育も検討すべき。
また、日本語を国際語に育てる発想が必要。翻訳でも、表記の混
乱した現状のままの日本語ではハブ言語にできない。英語ではす
でに常識だが、日本語でも合理的な表記と最善慣行を検討すべき。
河野弘毅氏 鈴木義里氏
<英語教育について>
斎藤:学びたいと思う気持ちになる環境が必要。「なぜ英語が必要か?」ということを教えて欲しい。学ぶ上では、自分のやる気
スイッチを見つけることが重要。たとえば映画が好きなら、そこから入る(私の場合はそうでした)。
鈴木:今の中学高校の英語教育はコミュニカティブアプローチという手法を取っていて、文法はあまり教えない。ただ、文法教育
はやはり必要で汎用性の高い文法教育の必要性を感じている。
伊藤:英語は、それを学ぶ意味を考えることのない幼稚園児から始めるのが良いと思う。中学生になると「何のためにやるのか」
というモチベーションが必要になるので、英語にとけ込むという意味でタイミング的に遅い。
<日本の未来と翻訳の未来>
斎藤:今後も翻訳業界は安泰だと思う。コミュニケーション手段としての英語ができる人が増えても、翻訳物は商品なので商品と
しての価値は下がらない。
山本:現状の英語教育の方法論を徹底的に見直さないと英語教育は低迷したまま。モチベーションを育て、多聴多読することが必須。
英会話で話せる知人の輪を広げ、英語を実際に話す機会を増やす必要がある。
伊藤:公用語化が進むと、さらに多くの企業トップがグローバル展開とローカル展開との差を理解し始める。ローカルのお客様に自社製品/
サービスを買っていただくためにはローカリゼーションが欠かせないことを企業トップが自覚することは、
翻訳業界にとっては追い風となる。
河野:個人翻訳者へのアドバイスは?
斎藤:コミュニケータとして、翻訳物を納品した後の工程を意識することが大事。そこでは今後、英語がもっと使われるようになる。
たとえば、コメントや質問を英語で書くな
ど、「英日翻訳なのでやり取りも日本語文
化で」という考えから脱却することが大事。
山本:言葉を使うか、言葉に使われるか
だ。言葉を主体的に使う立場に回る必要
がある。公用語化や実務翻訳でのビジネ
ス英語は、美術や文学を語る英語に比べ
ればはるかにやさしい。
伊藤:英語ができると海外の翻訳会社や
企業と直接取引ができる。営業ツールと
なり、ビジネスハイウェイのチケットを
伊藤彰彦氏 斎藤玲子氏 山本ゆうじ氏
得たのと同じこと。活用してほしい。
募集職種
● 翻訳者 / QA チェッカ
募集言語
● 和文英訳 / 英文和訳 / 英文中訳 / 英文独訳 / その他
募集分野
● 医療・医薬・医療機器 / 半導体関連 / 化学分析 / その他 IT 関連
プ ロ の 仕 事 が こ こ に あ る!
報酬、待遇等委細は面談にて。
勤務形態、資格等は職種によって異なります。
詳細は、弊社ホームページでご確認ください。
十印はローカライズ、翻訳、マニュアル製作、通訳といった
http://www.to-in.com/ja
コミュニケーションの橋渡しに総合的にかかわるアジアのトップ企業です。
わたしたちが現在向かっている、
アジアから世界への飛躍を
応募もこちらのホームページからできます。
一緒ににめざしていく有能な人材を求めています。
お 問い合わせ
とおいん
株式会 社 十 印
東京都港区芝1-12-7 芝一丁目ビル 〒105-0014
4
応募に関するお問い合わせは、VM(外注管理)部まで
お願いいたします。
TEL 03-3455-8715
Report
Japan Translation Journal No.251
【パネルディスカッション2】 「強い翻訳者から学ぶ」
∼いかにしてお客様の満足を得るか∼
(敬称略)
<モデレーター>
川村 みどり (株)川村インターナショ
ナル 代表取締役、JTF 理事
<パネリスト>(五十音順)
ジェフ・ケイジョウ・ソーヤー
日英技術翻訳者
鈴木 立哉
金融翻訳者
溜箭 陽子
医薬翻訳者
松本 かおる IT 翻訳者
司会(川村):世界の言語サービス産業
は 2 兆円規模で、5 年後には 3 兆円規模
となり成長率が 13.15%というデータが
あ る。 日 本 の 市 場 は や っ と リ ー マ ン
ショックから立ち直って少しずつ仕事が
増えている状況である。需要は伸びてい
るが市場も変化している。キーワードは
市場の低コスト化とグローバル化。翻訳
産業は、高品質高価格ビジネスから、超
低コストの BtoC、その下に無料のクラ
ウドソーシング等、さまざまなセグメン
トに分かれてきている。本日お越しいた
だいた 4 人の翻訳者の方は仕事の充足度
の高い方たちである。なぜ充足度が高い
のか、どうやってお客様の満足を得てい
るのか、変化する市場にどう対応してい
るのかをお聞かせいただきたい。
鈴木:翻訳者として 9 年目の金融翻訳者。
ヘッジファンドや投資レポートなどの和
訳を主に行っている。
松本:システムエンジニアだったが出産
退職し 3 ヶ月間専業主婦をやったが嫌で
我慢できず、家でできる翻訳を仕事に選
んだ。翻訳者として 15 年目である。
ジェフ:自動車、化学技術を専門とする
翻訳者となり 5 年半。
溜箭:医薬翻訳者となり 5 年目。現在は
子供が小さいので短時間で効率的に仕事
をこなしている。
川村:ジェフさん以外は専門のバックグ
ランドがあるが、知識のない人が専門分
野の翻訳を目指すにはどうすればよい
か?
溜箭:医薬翻訳の場合はよく高校の生物
を勉強すると良いと言われている。独学
で良いから自分の専門のよりどころとな
る知識の核を学べると良い。
松本:興味のある分野を勉強するとよい。
IT 分野はすそ野が広いので入りやすい。
鈴木:自分にも専門はあるが、それより
も英語が好きだった。やはり好きなもの
を翻訳するのが良いのではないかと思
う。
川村:仕事の依頼が継続的に来るのはな
ぜか?
ジェフ:専門知識があることと訳文の質
が良いからだと思う。あとはコミュニ
ケーション力で、自分は日本語でコミュ
ニケーションできるので他のネイティブ
とはそこが違う。また時間外でも対応で
きるところ。
溜箭:専門知識に裏付けられた質の高い
翻訳を提供できるから。また、夜中や週
末でも柔軟な対応が可能。
松本:納期に遅れないことと時間に縛ら
れない柔軟な対応。翻訳は読者の目線で
訳し、校正者のことを考えてコメントし
ている。
〒160-0023 東京都新宿区西新宿6-10-1日土地西新宿ビル7F
鈴木:翻訳会社にはない個人翻訳者の付
加価値として、朝 6 時に仕事を受けて 8
時までに仕上げられたり、お客様が秘密
文書を「翻訳者1人以外誰も見ない」こ
とを信頼してくれるという点を挙げられ
ると思う。
川村:将来の市場変化にどのように対応
していくか?
溜箭:低コストを打診されたことがなく、
市場の変化をまだ実感していない。
松本:私もここ数年収入が変わらない。
ただ、国内の翻訳会社には円高を理由に
価格を下げられたことがあるし、海外の
翻訳会社からうけるドル建ての仕事には
円高のデメリットがある。
鈴木:2008 年 12 月に仕事が 2 割ほど減っ
て焦った。しかし年明けから JAT(日本
翻訳者協会)や翻訳者ディレクトリ経由
で仕事が来るようになり、翻訳会社も募
集をかけるほど余裕がないことを実感し
た。その後仕事が継続的に入り今のとこ
ろ困っていない。
ジェフ:今年は仕事が増えた。某 CAT
を購入したからでしょうね。
川村:グローバル化による影響は何かあ
るか?
ジェフ:自動翻訳機は脅威だ。将来、「翻
訳」というのは機械・ソフトで訳したも
のを人間の手でちょっと修正(エディッ
ト)で済むのではないか。またインドな
どの安い翻訳も脅威に感じる。
鈴木:金融翻訳も機械翻訳でできる分野
があるが、人にしかできない部分が圧倒
的。例えば「読み手を意識した」翻訳は
機械には無理。
Tel.03-5909-1181(代表) Fax.03-5909-1183
5
Report
Japan Translation Journal No.251
川村:翻訳者として情報発信をしているか?
溜箭:アメリアのプロフィール欄をこまめに更新している。まじめに書くと翻訳会社の人もきちんと読んでくれる。
ジェフ:JAT ホームページでプロフィールを乗せている。またイベントに参加している。最近では自分のホームページも建設中。
松本:翻訳者ディレクトリのプロフィールをこまめに更新している。海外のエージェントも見ていて、仕事が来ることもある。
鈴木:JAT、翻訳者ディレクトリ、アメリア等に情報公開している。トライアルにも積極的に応募している。ツイッターに営業日
誌を書いている。
川村:これまでのお話をまとめると、仕事が途切れない理由は、時間的にフレキシブルな対応、納期を守る、オーディエンスや後
工程を考えた翻訳をしているから。市場の変化に対しては、ネットを使った営業で情報をまめに更新する。
鈴木:一定期間、生活の全てを翻訳に捧げて「楽しかった」と思えれば翻訳で食いっぱぐれることはないと思う。苦しく感じたら
向いていない。止めた方が無難。
川村:好きかどうかとどの程度継続的に時間をかけられるかでビジネスとして成功するかどうかが決まると思う。
川村みどり氏
鈴木立哉氏 ジェフ・ケイジョウ・ソーヤー氏 松本かおる氏
溜箭陽子氏
ビジネス急拡大につき優秀な人材を多数募集中!
・プロジェクトマネージャー
・チェッカー / レビューア
・翻訳マネージャー / 翻訳コーディネーター / 翻訳者
・アカウントマネージャー
・ローカリゼーションエンジニア
・QA テスティングエンジニア
・IT サポートエンジニア
・マーケティングマネージャー
・ベンダーマネージャー
SDL ジャパン株式会社
詳細は右記 URL をご覧ください。http://www.sdl.com/jp/company/careers/default.asp
6
Japan Translation Journal No.251
Report
【東郁男 JTF 会長・翻訳祭企画実行委員長】(以下、交流パーティーにて)
今日はお疲れさまでした。1 日という長い時間、参加していただきありがとうござ
いました。このような大規模で開催するのは初めてでしたので、非常に不安があった
のですが多くの方にご参加いただきありがとうございました。今回新しい試みとして
翻訳支援ツール分科会、翻訳業界の分科会というものを開催いたしました。非常に面
白い、中身の濃い翻訳祭ができたのではないかと思っておりますが、運営側で不備が
あったかもしれません。そのあたりはご容赦いただければと思います。今回翻訳祭の
企画実行委員、翻訳連盟事務局、各分科会でボランティアとして運営にかかわってい
ただいた方に御礼を申し上げます。
翻訳業界は不況から脱出しつつあるあるかと思いますが、需要を創造し、生産効率
を上げながらいいものを生み出していく業界でありたいと思っております。本日はあ
りがとうございました。
7
Report
Japan Translation Journal No.251
【経済産業省 商務情報政策局 サービス産業課 企画官 中内重則氏】
本日は過去最大の規模で行われている 20 周年記念 JTF 翻訳祭の開催について、誠に
おめでとうございます。少子化の進展や団塊世代の一斉退職等を背景として、労働力人
口が減少している中で、サービス産業は GDP や雇用ベースで日本経済の七割を占め、
製造業と並ぶ「経済の双発のエンジン」であり、翻訳連盟におかれましても、重要な役
割を担われていくことを期待しております。当省では今年の 6 月に、日本の産業の今後
の在り方を示した「産業構造ビジョン 2010」を取りまとめ、公表しました。この中で、
とりわけ、医療や介護、健康関連の分野については、高い成長と雇用創出が見込まれる
重要な分野と位置づけています。また、アジアを中心に急増する医療ニーズに対して、
円滑に外国人患者を受け入れるための体制を整備するなど、医療の国際化に向けた取り
組みを進めているところです。これは翻訳業にも関連するもので、引き続きのご活躍を
願っております。最後になりましたが、日本翻訳連盟の今後の発展と翻訳業の健全なる
繁栄、更なる飛躍を期待いたしまして、私の挨拶と代えさせていただきます。
【植田忠志 JTF 理事・ほんやく検定委員長】(2010 年ほんやく検定表彰式)
祝辞を述べさせていただきます。今回の 3 名の方はすごいです。第 52 回ほんやく
検定は 2 月に第 53 回は今年の 7 月に行われました。第 52 回は英日翻訳で 356 名の
方が受験されましたが1級はわずかに 7 名でした。金子さんと曽根さんはその中の 2
人です。もっとすごいのは第 53 回で、英日 370 名中 1 級合格者は阿部さん1名だけ
でした。この非常に厳しい試験ですが、ポイントは商品として通用する翻訳であるか
どうかという点です。もっと平たく申し上げるとこの翻訳でお金を取れるかどうかと
いうことです。この厳しい難関を突破しました3名の方に改めておめでとうと申し上
げます。3 名の方々はご自分をぜひアピールしていただきたいですし、皆様もどうぞ
交流を深めていただきたいと思います。簡単ではございますが祝辞とさせていただき
ます。おめでとうございました。
報告者:早舩 由紀見(個人翻訳者)
1 級合格者:曽根寛樹氏 阿部菜穂子氏
乾杯挨拶:丸山均 JTF 副会長
8
合格者代表挨拶:金子英彦氏
関連団体祝辞:JAT 理事長 岩田ヘレン氏
中締め挨拶:井口耕二 JTF 常務理事
Report
Japan Translation Journal No.251
【経営者の声】社員や翻訳家の教育・成長のために、会社ができること
大里 真理子 (株)アークコミュニケーションズ 代表取締役
自分のキャリアを振り返ると、社内外
でよい教育を受けたと思う。自ら切り開
いた道(自費留学で MBA 取得)もあれば、
会社の教育プログラムに乗っかって得た
ものもある。仕事を通して得たスキルも
あれば、異業種交流会を通して得た気づ
きもある。
(株)アークコミュニケーションズを設
立した時、教育環境を整え、スタッフに
は大きく成長してほしいと願った。小さ
い会社なので大枚をかけて教育プログラ
ムを作るのは難しいが、この 5 年半ほど
に様々な試みを行った。この機会に 6 施
策ほど振り返り、皆様のご意見をいただ
きたいと思っている。
①英語会話
外部講師を招いて社内で初級・中級・
上級の英語会話クラスを開いていたこと
がある。今思えば、英語会話力の向上の
目的もあったが、福利厚生・社内コミュ
ニケーション活性化の意味合いが強かっ
た。ところが、クラスを 3 つも開くと会
議室が埋まってしまい、業務に支障が出
てやめてしまった(笑)。今なら、外の
空気を吸うためにも外部の学校に通わせ
るかもしれない。ちなみに一部のフリー
ランスの翻訳家の方にも声をかけてみた
が、反応は薄かった。翻訳家には英語会
話は不要、通うのに不便、趣味なら自分
の好きな環境で、が主な理由であろうか。
②本購入費のサポート
業務にかかわる資質を伸ばすことに役
立つ書籍の費用を会社が負担している。
残念ながら最近はあまり活用されていな
い。スタッフからは「業務にかかわる資
質」を狭義に捉えがちで申請しづらいこ
と、今やインプットの源は圧倒的にイン
ターネットで必要性が薄いからのようで
ある。翻訳家に対しても翻訳業務内容に
かかわる本の購入費用をサポートしてい
る。英語力より翻訳すべきコンテンツの
理解度を深めるサポートのほうが有益と
思ったからだ。しかしながら、昨今のプ
ロジェクトは短納期が多く、本を取り寄
せ読む暇もない事が多いのは残念なこと
だ。
③ ツ ー ル( 翻 訳 支 援 ソ フ ト(TM)
・DTP
ソフト・HTML など)の研修
ツールの学習は、社内で簡単な講義を
受け、ハンズオンで自習し、Q&A ベース
で理解を深めてもらう。社内にノウハウ
がないソフトウェアの場合は、外部セミ
ナーに出席させることもある。フリーラ
ンスの翻訳家には TM の使い方などを社
内で教えていたこともあるのだが、今は
やっていない。自習で使いこなせるテク
ニカルスキルがなければ、ローカライズ
の翻訳を頼めない、と判断したせいだ。
もっとも最近はビジネス系の翻訳にも
TM を使うようになったので、復活して
もよいのかもしれない。翻訳家を顧客へ
派遣する場合は DTP ソフトの不慣れが
生産性を下げるので、弊社内で事前に簡
単な講義と自習環境を提供している。こ
の手の研修は即効性が高いと感じている。
④一般ビジネススキル研修
格安外部セミナーを購入し、社員全員
に受けさせていたこともある。受講した
セミナーの内容を朝礼で発表してもら
い、本人の理解度を深め、参加しなかっ
た人へのフィードバックもした。やめた
理由は、プログラムが一巡して目新しく
なくなってしまったこと、基礎スキルが
多かったのでスタッフの資質が上がり物
足りなくなったこと。また「ロジカルシ
ンキング」の講座を1回受けたからと
言って効果が出るものでもなく、その後
のフォローにお金をかけたほうが賢明と
判断したからである。今や当時のセミ
ナーを受けていない社員も増え、復活さ
せてもよいのかもしれない。また社内勉
強会という形に変えて、講義&ディス
カッション形式の研修を行っている。
⑤ OJT でこまめにフィードバックを返す
実際に行った仕事に対して上司もしくは
同僚がフィードバックを返すという地道な
アプローチも行っている。翻訳家に対して
はチェッカーの修正・提案事項をすべて戻
し、それを反映すべきかどうかの判断をし
ていただいている。実践的効果の高い教育
方法と思うが、フィードバック提供側も受
け手側も負荷は高い。また、どうしても足
りていないところに対する改善提案が多く
なるので、受け手側がネガティブな気持ち
にならないように配慮をする(タイミング
や量や言い方)必要もある。
⑥外部講師(ファシリテーター・コーチ)に
よる弊社にカスタマイズした OJT 型研修
実務においてスタッフが問題点を見つ
け自ら問題解決が図れる一助とすべく、
外部ファシリテーターを呼んで、ワーク
ショップを何度も開いたことがある。当
初は私の期待が大きすぎたことや、外部
講師が弊社の業務をそれほど知らなかっ
たこと、メンバーもワークショップに不
慣れだったこともあり、失敗に思えた。
しかしながらこの経験を通じて、ワーク
ショップの進め方の知恵が社内に高まり、
今では社内スタッフだけでワークショッ
プを時々行っている。マンツーマンの指
導としては、一部の社員にコーチングを
受けさせている。現在もっとも力を入れ
ている研修形態と言えるであろう。
とまぁ、このように私の試行錯誤は今
も続くのだが、ひとつたどり着いた境地
がある。人を成長させようというのは経
営者のエゴだということだ。外野があれ
これ言って人を成長させることは出来な
い。自ら気づいて成長していただくこと
しか出来ないのだ。私が出来ることは、
成長するためのチャンス(仕事)を与え
る事、成長を妨げる外部要因は排除する
こと、放任しないで成長を見守ることの
3 つしかないようだ。もっともその 3 つ
が難しくて、私も教育を受け、日々勉強
しているのだが。
プロフィール:
(株)アークコミュニケーションズ代表取
締役。
言葉や時間、距離の壁を越え、お客様の思
いや本質が伝わるコミュニケーションサー
ビスをモットーに、翻訳&ローカリゼー
ション、Web&Cross Media 企画制作、人
材派遣事業に携わる。東京大学卒。ケロッ
グ経営大学院卒 MBA。
「楽しく、新しく、
正しく」をモットーに、お客様とご一緒に
ビジネスを加速させることが願いです。
URL: http://www.arc-c.jp/
E-mail: [email protected]
9
Report
Japan Translation Journal No.251
【現場の声】リーマンショック後の日中翻訳の現状と対策
深山 太継 (株)メディア新日中 コンテンツ部
まず始めに、株式会社メディア新日中
いるが、普通、翻訳会社の大半はフリー
部分が多い。したがって文面の翻訳だけ
の紹介を少しさせていただく。弊社は翻
ランスの翻訳者に発注し、社内でクオリ
でなく、文法や語順、記号の用法の違い
訳業界に携わって約 15 年になる。中国
ティチェック(QC)を行うのが主流で
などを考えなければ、原文に忠実と言う
国営の新華通信社の金融、企業、産業
あろう。前述したようにリーマンショッ
よりも「原文そのままの移植」になって
ニュースを毎日数十本、夜中に翻訳し、
ク後は翻訳のボリュームが減り、フリー
しまうのだ。もっと悪く言えば単なる
編集作業を経て毎朝、日本経済新聞社系
ランスへの発注も厳選されてきた。そこ
「変換」に終わってしまう。翻訳した情
のプラットフォームに配信している。ま
でフリーランスの翻訳者がとる行動は、
報そのものに間違いがあるというわけ
た、電機、機械、化学、医薬品などのメー
複数の翻訳会社に登録することだ。
「他
でもないが、翻訳者や翻訳会社から言え
カー、法律関係、広告代理店など多分野
社にもエントリーをしておけば仕事が
ば、あくまで原文に忠実に翻訳するのが
のクライアントから専門性の高い翻訳
回ってくるかもしれない?」そんな発想
仕事であると言い訳できてしまう。
を受注している。
かも知れない。
より滑らかで自然な日本語に仕上げる
コストパフォーマンスとして弊社で
だが、翻訳会社にとってフリーランス
には、高い日本語力と想像力、創作力が
は、日本での翻訳作業と平行して、北京
の翻訳者に依頼する上で一番頭を悩ま
必要になるが、こうした作業は時間がか
の現地法人にオペレーション業務を置
せる問題は翻訳の質である。「自分はア
かるし、このような能力のある翻訳者も
くことで人件費を抑えている。適正な翻
ルバイトで翻訳会社もちゃんとチェッ
少ない。単なる移植と変換で済ませてお
訳料と、日中双方のネイティブによる和
クするだろう。」この様な考えをもたれ
きながら、「原文に忠実な翻訳」と言い
文中訳、中文和訳、英文中訳、中文英訳
ると、こちらも別の労力を使わなければ
訳するような翻訳者・翻訳会社には気を
で、確かな翻訳のエキスパートをめざ
ならず、却って効率が悪くなる。質の高
付けなければならない。
し、クオリティを落とすことなくご利用
い翻訳者を確保するには有料でのトラ
いただけることを心がけている。
イアルも一つの手だ。近年、履歴書や翻
■リーマンショック後の日中翻訳
1. 業界の傾向
■プロフィール
訳経歴をメールで一方的に送ってきて
1984 年生まれ。
エントリーを願う方が増えたが、こちら
大学で国際協力を学び、中国近代史を専
も質を見極める上でトライアルを行わ
攻。
GDP が毎年 10%近い成長率をみせる
なければならない。トライアルの時には
日中交流を目的とした NPO の設立に参
中国ではあるが、リーマンショックの余
ほどほどの出来であるが、しばらくする
加。イベントの企画・制作。
波はニーズが増えていた日中翻訳業界
と質が低下する場合もまれにある。だ
2007 年 4 月、株式会社メディア新日中
にも押し寄せた。グローバル化の中で日
が、トライアルを有料にすることで、翻
に入社。
本のメーカーや商社、サービス業などの
訳者の本気度を試すことができると考
主に新華社ニュースの配信の管理、マ
グローバル企業は中国以外にも取引が
える。プロ意識のある翻訳者は有料でも
ネージメントを担当。北京オリンピック
あるためだ。日本にとって、中国は最大
どれくらいのレベルで行えば、仕事が
の時はビザ発給機関であった北京国際
の貿易相手国であり需要はあるが、中国
回ってくるかを理解している。トライア
メディアセンター ( 現在は解散 ) の日本
以外の諸外国での収益の落込みが響き、
ルを有料化することで、敬遠されること
の窓口としてマスメディアの方達へ取
予算削減にともない翻訳の発注も減少
を恐れるのであれば、一定の期間、質を
材ビザの取得をサポート。中国映画祭や
した。特にメーカーの取扱説明書など、
保った翻訳者へは返金をすればよい。質
昆劇などの文化事業の現場責任者も勤
使い回しがきく分野では以前に翻訳し
の悪い翻訳者にコストを掛けてトライ
める。現在はホームページの中国語化や
たことのない箇所のみを翻訳発注し、必
アルを行う必要はない。これに関しては
広告など PR 業務も扱うなどマルチに
要最低限のボリュームに抑える傾向が
翻訳業界全体に言えることであろう。
行っている。
リュームが減ることで相対的にデフレ
■日中翻訳の問題点∼原文に忠実であ
URL: http://www.mjcworld.com/
E-mail: [email protected]
となる。
ることの良し悪し∼
見受けられた。翻訳件数が減らずともボ
また、尖閣諸島問題を始めとして、中
「原文に忠実であること」は、翻訳の
国の一部で起こった反日デモ報道によ
現場でよく言われることの一つだ。しか
り、日本のクライアントの神経を刺激し
し、実際には母国語運用能力の不足に対
たのも少なからず影響したといえる。
する言い訳として使われるほうが多い
気がする。
2. 翻訳者エントリーの動向と対策
弊社は社内スタッフで翻訳を行っては
10
日本語と中国語は文法が全く異なる言
語だ。文書作成に使う記号体系も異なる
Report
Japan Translation Journal No.251
【翻訳者の声】いまだに続く模索の日々
長坂 俊宏 技術翻訳者
28 年勤めた翻訳会社を定年で退職した
ときには、フリーランスとしてそれなり
の収入でやっていくことを想定していた
のですが、例の金融危機からやや遅れて
仕事の激減を経験し、大きく目算が狂っ
てしまいました。その後も風の便りに翻
訳者からメーカーに就職してそれまでの
翻訳者としての受注者から発注者側に
なった人や大学に入り直した人や廃業し
た人の噂も耳に入ってきたりしました
が、身の振り方は、それこそ、夫婦 2 人
で仕事をしているかどうか、過去の翻訳
本の印税や翻訳以外の副収入の有無など
によっても個々人で大きく事情が異なっ
てきます。翻訳の受注状況の厳しい環境
に対してこちらが真っ先に手をつけたこ
とは、駅の目の前に賃貸で借りていた広
いマンションを出て、駅から遠く離れた
しかもずっと狭い中古物件を購入するこ
とでした。蔵書が多いため、住みたいと
思う気にいった広い部屋の分譲マンショ
ンが駅前にないため、長く賃貸物件を利
用してきたのですが、今回の緊急事態に
備えて、経済事情を優先させることにし
ました。15 年以上利用してきている倉庫
業者に預ける段ボールを増やすことで狭
い部屋にも対応させたりなどして、これ
で住居費が半分以下になり、かなりの節
減が可能となりましたが、決してそれだ
けでは十分ではなく、なんらかの方法で
増収を図ることも画策しなくてはなりま
せんが、いまだにそれは実現しておらず、
やや悠長ではありますが、これまで長く
従事してきた技術系の分野をさらに拡大
することをもくろんでおります。
理想的には、実際にその分野の仕事そ
のものに従事していればよいのですが、
現実的にはそれも難しいため、いわば、
現在進行中の価格競争に巻き込まれにく
い分野への進出をあれこれ考え、時間的
にも効率的にも効果的な方法として、技
術系の原書とその邦訳本を調達し、それ
らを逐一厳密に比較検討することで、そ
れらの分野に使用されている表現や専門
用語を学習していくやり方をとっており
ます。
1970 ∼ 1980 年代における産業翻訳と
いうのは、日本人による英訳作業が大半
でした。当時はまだネイティブによる日
本語学習人口は極めて少なく、ましてや
翻訳者として生活をたてようとした人は
非常にまれな状況でした。1980 年代末
に日本が次第に世界レベルでも経済的に
力を発揮するようになるにつれて、それ
を飯のタネにすべく日本語の学習者も増
えてきて、通勤電車の中でも講談社現代
新書などを読んでいる外国人などを見か
けて感動したものです。それと同時にそ
れまで日本に輸入される外国製品の取扱
説明書が英語のまま出荷されていたもの
が、大事な日本の潜在顧客を目の前にし
てこれじゃぁいかん、ということで外国
メーカーもようやくマニュアルを日本語
化する必要性に気がつき始めたのが、や
はり、1980 年代末です。和訳が徐々に
産業翻訳として浸透し始めたのもその頃
です。
日本人が英訳を身につける方法として
自分がとった最 も効果的な独学方法は、
邦訳がすでにあれば、その日本語の訳文
をまず自分で英訳し、それを原文の英語
と比較して、表現方法の相違点を詳細に
検討していくやり方です。当時利用した
題材の 1 つは、『日経サイエンス』の核
融合に関する和訳記事で、それを自分で
英訳し、その後、Scientific American の
原文と比較する、というものでした。そ
れを 20 代の後半に実行して、自分の拙
い英文を改善する上でまさに自分の全細
胞に浸み入るかのような著しい効果を短
時間でリアルに体感したのですが ( いま
だにその感触は覚えているからすごいも
のです )、しかし、なんといってもこれ
にはすごいエネルギーを要し、若いとき
はいざ知らず、今更これをする気には
ちょっとなれない。しかも、70 ∼ 80 年
代と違って今は、比較的英訳はネイティ
ブがやる傾向が強く、よくも悪くも棲み
分けができつつあり、和訳は母国語で書
くため、あえていちいち翻訳作業はせず
に、あくまでも注意を要する文章あるい
は句単位の文要素に注意しながら比較対
照学習を進める、という方法をとってい
ます。『福翁自伝』にも福沢諭吉が似た
ような方法 ( 自分でまず日本語に訳し、
しばらく寝かせてから今度は逆に訳す )
をとったことが記されていますが、今は
当時とは比較にならないほど多くの邦訳
がすでに出ているため、それを利用しな
い手はありません。技術系や学術系の用
語は分野によって訳語が異なるので、そ
のへんにも注意が肝心です。辞書にわざ
わざ掲載されていないことが多い動詞系
用語の名詞との特異な組み合わせや動詞
の訳し分けに注意を喚起する上でもこの
やり方は効果があります。
私が翻訳にかかわるようになり始めた
のは、学生時代に職場の地理的条件や通
勤などに左右されない収入確保に備える
方法として産業翻訳の通信教育を始めた
のがきっかけですが、この業界にも長く
いるので、今は、特に通信教育を利用し
なくても、上記のような特異分野の具体
的な日本語と英語がペアになった基本資
料がありさえすれば、あとはいかように
も自宅で分野の拡大が可能な状態になっ
ています。あとは、実際にそれで収入が
得られるようになるのにどのくらいの時
日を必要とするか、ということだけです。
昔は、実際に仕事のありそうなところに
足を運んで、担当者と会って、というよ
うな形での個人営業が必須と思われまし
たが、今は、ネットの活用でそれをしな
くてもなんとかなりそうです。そういう
意味では、翻訳という仕事も景気の変動
に影響を受けざるを得ないものではあり
ますが、地方在住の方でも収入の手段が
得られるという点では、インターネット
の普及にも助けられ、時間的、地理的な
条件に左右されにくい貴重な職種の一つ
であることに変わりはありません。
11
Honrenso
Japan Translation Journal No.251
No.149
誌上勉強会(57)医薬翻訳(第 43 回) 森口 理恵
今回は、薬物乱用に関する米国食品医薬品局(FDA)の文章
を訳します。ここでは FDA の専門家が Q&A 形式で処方薬の誤
用・乱用問題を説明しています。質問 1 は misuse(誤用)と
abuse(乱用)とは何かという内容で、質問 2 と回答が次の文章
です。
Q: What’s the difference between misuse and abuse?
A: It mostly has to do with the individual’s intentions or
motivations. For example, let’s say that a person knows that he
will get a pleasant or euphoric feeling by taking the drug,
especially at higher doses than prescribed. That is an example of
drug abuse because the person is specifically looking for that
euphoric response.
In contrast, if a person isn’t able to fall asleep after taking a
single sleeping pill, they may take another pill an hour later,
thinking, “That will do the job.” Or a person may offer his
headache medication to a friend who is in pain. Those are
examples of drug misuse because, even though these people did
not follow medical instructions, they were not looking to “get
high” from the drugs. They were treating themselves, but not
according to the directions of their health care providers.
However, no matter the intention of the person, both misuse
and abuse of prescription drugs can be harmful and even lifethreatening to the individual. This is because taking a drug other
than the way it is prescribed can lead to dangerous outcomes
that the person may not anticipate.
出典:http://www.fda.gov/ForConsumers/ConsumerUpdates/
ucm220112.htm
第 1 文:Q: What’s the difference between misuse and abuse?
質問 1 では、misuse を「患者に処方された医薬品を本人が処
方された理由以外に使うか、処方された本人以外の人が使うこ
と」、abuse は「処方薬を “get high”(ハイになる)目的で使う
こと」と説明しています。「どう違うの?」と尋ねているのが
この文章です。
訳例:Q:誤用と乱用はどう違うのですか?
第 2 文:A: It mostly has to do with the individual’s intentions or
motivations.
第 3 ∼ 4 文:For example, let’s say that a person knows that he will
get a pleasant or euphoric feeling by taking the drug, especially at
higher doses than prescribed. That is an example of drug abuse
because the person is specifically looking for that euphoric response.
具体的な例を挙げる文章です。原文では第 3 文で動機や意図
を提示して、第 4 文で「この場合は乱用」と述べていますが、
日本語では「∼で服用する場合は乱用」と補うと読みやすくな
ります。
訳例:例えば、その医薬品を服用するとき、特に処方量を越
えて服用すると快感や気分の高揚が現れることを本人が知っ
ており、その効果を期待して服用することは「乱用」にあた
ります。
第 4 ∼ 5 文:In contrast, if a person isn’t able to fall asleep after
taking a single sleeping pill, they may take another pill an hour later,
thinking, “That will do the job.” Or a person may offer his headache
medication to a friend who is in pain.
第 2 パラグラフは、誤用の説明です。第 4 ∼ 5 文で例を挙げ
ています。第 5 文は頭痛薬を人にあげる例で、“a friend who is
in pain” は頭痛とは限りませんが、ここは「頭痛」と訳しても
問題はないでしょう。第 4 ∼ 5 文は例のみ挙げている文章です
が、第 6 文の冒頭にある「∼は誤用にあたる」を持ってきても
よいでしょう。
訳例:一方、睡眠薬を 1 錠服用しても眠れないときに「もう
1 錠飲めば効く」と思って 1 時間後に 1 錠追加する場合や、頭
痛の友人に自分の頭痛薬をあげる場合は、誤用にあたります。
第 6 文:Those are examples of drug misuse because, even though
these people did not follow medical instructions, they were not looking
to “get high” from the drugs.
because 以下は 4 ∼ 5 文が乱用にあたらない理由を述べてい
ます。“get high” の引用符がついているのは、専門家が使う表
現ではないため。専門家は第 1 パラグラフにあるように get a
pleasant or euphoric feeling といいます。第 1 パラグラフは「ハイ
になる」とは訳さずに、専門家らしい表現で訳しましょう。
medical instructions は、処方薬を受け取るときに医師や薬剤師
から説明される内容のことです。「医師や薬剤師の指示」や「医
師の指示」と訳してよいところですが、次の文章で同じ内容を
繰り返しているので、訳例では「指示」とだけ訳しています。
the individual は「本人」と訳せます。
訳例:主には本人の意図や動機の違いです。
12
訳例:指示から外れた使い方ですが、「ハイになる」目的で
服用しているわけではありません。
Japan Translation Journal No.251
第 7 文:They were treating themselves, but not according to the
directions of their health care providers.
第 6 文の内容を繰り返している部分です。treating themselves
は、(快感を得るという目的ではなく)、眠れない人が眠る、頭
痛を楽にするという医薬品本来の目的で使うことを意味する表
現です。ここは「症状を緩和する」などと訳すとよいでしょう。
medical instructions と directions of their health care providers の意
味は同じですが、読者にわかりやすいように言い換えています。
訳例:症状を緩和する目的で使ってはいますが、医療従事者
の指示に反する使い方であるため、誤用です。
第 8 文:However, no matter the intention of the person, both misuse
and abuse of prescription drugs can be harmful and even lifethreatening to the individual.
「誤用と乱用はいずれも有害」と言い切りで訳したい気持ち
にもある箇所ですが、睡眠剤を 1 錠余計に服用すると常に害が
生じるというわけでもないので(そんな製品は大変困りますの
で)、can の意味は訳文にしっかり反映させましょう。
訳例:どのような意図による服用であっても、誤用と乱用は
いずれも害を及ぼす可能性があり、命に関わることすらあり
ます。
第 9 文:This is because taking a drug other than the way it is
prescribed can lead to dangerous outcomes that the person may not
anticipate.
ここは第 8 文の内容をさらに重ねている箇所です。
Honrenso
今回のような一般向けの文章では、文章の意図をよく考えて
読みやすい文章を心がける必要があります。業界の諸問題に普
段からよく通じておき、今は何が問題なのかを知っておきま
しょう。
次回は、米国疾病管理センター(CDC)が作成した糖尿病の
文章を訳しましょう。
Having Problems with High Blood Glucose
For most people, blood glucose levels that stay higher than
140 mg/dL (before meals) are too high. Talk with your health
care team about the glucose range that is best for you.
Eating too much food, being less active than usual, or taking
too little diabetes medicine are some common reasons for high
blood glucose (or hyperglycemia). Your blood glucose can also
go up when you re sick or under stress.
Over time, high blood glucose can damage body organs. For
this reason, many people with diabetes try to keep their blood
glucose in balance as much as they can.
Some people with type 2 diabetes may not feel the signs of
high blood glucose until their blood glucose is higher than 300.
People with blood glucose higher than 300 are more likely to
have dehydration. Dehydration can become a serious problem if
not treated right away.
出典:http://www.cdc.gov/diabetes/pubs/pdf/tcyd.pdf
翻訳は、2 月 28 日までに森口理恵まで電子メールでお送りく
ださい(Email: [email protected])。電子メールの件名は 「ほ
んれんそう No. _訳文」 としてください。皆様のご参加をお待
ちしております。
訳例:処方箋の指示から外れた使い方で医薬品を用いると、
本人が予想もしないほど危険な状態が現れることがあるから
です。
13
Information
Japan Translation Journal No.251
JTF 翻訳環境研究会報告
************************************
平成 22 年度第 7 回 JTF 翻訳環境研究会
平成 22 年 11 月 11 日(木)14:00 ∼ 16:40
【開催場所】剛堂会館
【テーマ】「あなたも翻訳家になれる ∼出
版翻訳家の仕事術∼」
【講師】枝廣 淳子氏((有)イーズ 代表取
締役、出版翻訳家・環境ジャーナリスト)
************************************
枝廣氏は環境ジャーナリスト・出版翻
訳家として幅広く活躍する一方で、翻訳
者の育成にも力を注いでいる。今回の講
演からは同氏の環境問題や翻訳に対する
強い情熱とそれを支える客観的な分析お
よび合理的な方法論、そして自らの知識
や経験をフルに活用しつつ、周囲の力も
生かす姿勢が浮き彫りになった。
出版翻訳家としての歩みと仕事の進め方
最初の訳書はひょんなことがきっかけ
となったが、それを自らチャンスに変え、
確実にものにしたことで、出版翻訳家と
しての第一歩を踏み出した。環境の専門
家としての実績も買われ、その後もコン
スタントに訳書を出し続けている。ベス
トセラーとなった「不都合な真実」は 10
万ワード以上にも上る分量にもかかわら
ず、 翻 訳 期 間 は わ ず か 25 日 だ っ た が、
そうした厳しい条件に対応できた理由は
2 つある。1 つめは同時通訳者としての
経験を生かしたユニークな翻訳法(サイ
ト・トランスレーション)、2 つめは専門
用語の調査を担当してくれる「リサーチ
チーム」とのコラボであり、これにより
翻訳と調査の時間を大幅に短縮できた。
翻訳者育成の取り組み
2 つの会社を経営し、NGO の代表も
務める枝廣氏は多忙を極める中で「日本
に伝えたい良書は世界に数多くあるが、
自分一人の力には限界がある」との思い
から「自分でやるよりやってもらえる人
を増やそう」と考えるようになり、翻訳
者の育成にも取り組んでいる。そうした
中で出版翻訳家に必要な要件や翻訳力を
つける方法、翻訳を仕事として続けてい
くためのポイントが見えてきた。
出版翻訳家への道
出版翻訳の世界に入る方法としては、
リーディングや下訳者として実績を積ん
だ上で参入するケースが多く、持ち込み
はまれだ。実務翻訳者としての専門分野
を武器に進出するパターンもある。ただ、
出版だけで食べていくのは難しく、ビジ
ネス翻訳あるいは他の仕事で稼ぐ必要が
ある。
翻訳を仕事にするために―3 つのステップ
まずは「1. 正確かつ読みやすい翻訳が
できる力」が必要となる。「翻訳とは著者
の差し出すものを大事にそのまま、読み
手に渡すことである」と考え「何も足さず、
何も引かず」を心がけている。特に「正
確さ」は重要であり、誤訳をなくすため
に英文法の力、細部への注意力、自分の
誤訳を発見する力を培う必要がある。「読
みやすさ」のカギを握るのは、文章の構
成把握力、日本語の語彙、
「ヘンな日本語」
に対する感応度、読みやすさのチェック
と向上のためのプロセスとコツである。
大きく伸びる人の特徴として、常に「さ
らによいやり方はないか」考えながらト
14
レーニングする姿勢がある。
プロとアマの違いは「大量の翻訳を、
短期間に、同じ質の高さで、こなせるか
どうか」にあり、「2. プロとして仕事が
できる自分マネジメント力」が求められ
る。「計画、実行、振り返り」の PDC サ
イクルを着実に回す力や時間 / ストレス
管理が不可欠で、特に自分の持ち時間を
増やす努力、やるべき / やりたいことの
優先順位付け、時間当たりの効果・効率
を上げる工夫が求められる。
仕事のチャンスをつかむには「3. 仕事
を見つけ、広げていくソーシャル・スキ
ル」も欠かせない。社交性ではなく、人
や情報につながる力である。似た者同士
の強いネットワークではなく「知人の知
人」のような「弱い絆」を大切にしたい。
効率的・効果的なトレーニングで仕事の
チャンスをつかむ
これらの能力を身につけ実際の仕事に
つなげる場として「トラた まコミュニ
テ ィ」(http://es-inc.jp/toratama/) を 開
設し、「トラ」ンスレーターの「たま」
ごさんはもちろん、元たまごの現役翻訳
者にも役立つ様々な講座を提供してい
る。各自のニーズに合わせて自分のペー
スでトレーニングができるという点で、
従来の翻訳講座とは一線を画しており、
価格も手頃で参加しやすい。
講演を聞いて
今回は出版翻訳家による初めての研究
会、しかも講師は著名な枝廣氏とあって、
集まった聴講者は熱心に聞き入り、質問
も活発に出た。紹介されたトレーニング
法をはじめ、実務翻訳者にとっても大い
に参考になる密度の濃い講演で、あっと
いう間の 2 時間半だった。
報告者:飯村 育子(翻訳者)
Information
Japan Translation Journal No.251
「日本翻訳ジャーナル」で好評連載中
の誌上勉強会ということで、楽しみにし
ていた今回のセミナー。講師は医薬翻訳
者である森口理恵氏であった。柔らかい
なかにも辛口のコメントが飛び交うその
講義では、時間があっという間に過ぎて
いってしまった。
は今回の事前課題での題材となっている
細菌について正確な情報を取材する重要
さを説きながら、そのテクニックをも惜
しみなく伝授。特に力を入れて教えてく
ださったのは、どのように Google 検索
結果の中から信頼度の高い記事を検出
し、メディカル分野で使われる適切な単
語を見つけ出してゆくかということであ
る。今回の課題ではヘリコバクター・ピ
ロリについて書かれていたのだが、同細
菌の簡単な解説を検索し、大雑把な内容
を把握した上で、それに関する動詞を抑
えてゆくというものだった。問題となっ
た動詞 eradicate は、辞書を見れば「根
こそぎにする、根絶する」とあるが、こ
の世の中から完全に失くしてしまうと言
う意味をもつ「根絶」は、ピロリ菌が原
因で発病した萎縮性胃炎、胃潰瘍や十二
指腸潰瘍等の治療をする上で不適切な用
語であると森口氏は指摘し、適切な動詞
を検索するために同細菌について取材す
ることの大切さを改めて指摘された。
まずは翻訳者としての姿勢を明確に定
義された。それは一つのプロジェクトに
参加している気持ちを持って翻訳に望め
ということ。つまり、ただ自分の担当業
務である外国語と日本語の置き換え作業
だけではなく、翻訳すべき文書が何のた
めに書かれ、誰の為のものであり、どの
部分の文書なのかを把握する必要がある
ということである。読み手を考えて訳し
なさいというのはよく耳にすることであ
るが、プロジェクトに参加していると思
いなさいと言うのはとても積極的な態度
を示唆する分かりやすいアドバイスであ
る。
同時に「英日辞書を見るのを止めれば
翻訳が上手になります。」という興味深
い発言もあった。これは英日辞書を見る
のをやめなさいということではなく、英
日辞書で見つかった訳語に引っ張られな
いように気をつけようという指摘であ
り、これは翻訳を実際にしているものに
とっては身に染みて分かるポイントだっ
たのではないかと思う。そして英日辞書
だけではなく、英英辞書、国語辞書、ネッ
ト検索を組み合わせて適語をきちんと探
すという作業が必要であり、言い換えれ
ばそれを怠ることは翻訳者として失格で
あるという意味であろう。
今回も事前課題が配布され、当日セミ
ナーでは森口氏からのコメントがあった
が、一つずつ原本と試訳を見比べながら
細かく翻訳をしてゆくクラシックな講義
ではなく、どういった訳し間違えが専門
知識の欠如や、翻訳家の情熱の無さを現
してしまうのかといった、至って簡潔か
つ的を射た内容であった。
今回の森口氏のシステマチックな講義
は、ご自身が翻訳をされる上で、どのよ
うな過程を踏まれているのか手に取るよ
うに分かるものであり、まるで同氏の思
考そのものを読み取るような錯覚に陥っ
た。まさに一人のメディカル翻訳者の仕
事法そのものが、同セミナーに凝縮され
ており、たった一つの課題で翻訳技法そ
のものが垣間見られた大変興味深い講義
であった。
西日本セミナー報告
************************************
平成 22 年度第 3 回 JTF 西日本セミナー
平成 22 年 10 月 22 日(金)14:00 ∼ 17:00
【開催場所】大学コンソーシアム大阪・
キャンパスポート大阪 ルームE
【テーマ】「ほんれんそう」ライブ 2010 !
∼オフィス環境整備術も伝授!∼
【講師】森口 理恵氏(医薬翻訳者)
************************************
テキストが論文などであれば、ネット
上で同じものを見つけられることがある
ため、まずは検索をしなさいと指導。そ
して誰が何のために書いたものであるの
か、つまり先ほどの「プロジェクトに参
加しているつもりでそのテキストに向か
う姿勢」を繰り返し注意された。さらに
いると言われている昨今であるが、まさ
にその手法のフル活用である。裁断器や
複数のページを一度にスキャンできる機
器を紹介され、さらにはデジタル化した
図書の蔵書管理、そしてそれを使っての
検索方法など、ここでも惜しみなくご自
身の翻訳スキルが紹介され、まさにセミ
ナータイトル通りライブ感溢れる講義で
あったと言えるだろう。
報告者:高本 美佐子 (ILC 国際語学センター)
さらに最後の 1 時間では、オフィス環
境整備術として、部屋に充満した専門誌
のデジタル化のお話をされた。iPad の普
及により、本棚の本をデジタル化する人
が増え、スキャナーが飛ぶように売れて
15
Information
Japan Translation Journal No.251
法人会員プロフィール
株式会社 日本ユニテック
〒 105-0001
東京都港区虎ノ門 3-8-27
巴町アネックス 2 号館
TEL: 03-5733-7611
FAX: 03-5733-7614
Email: [email protected]
URL: http://www.utj.co.jp/
「情報」という日本語は、私たちにとっ
てなじみ深い言葉の一つです。その英語
information の語根となるラテン語動詞
は infomare といい、陶器師が粘土を形
成するときのように「ものを形作る」とい
う意味があるそうです。株式会社日本ユニ
テックは、情報が氾濫するこの時代に、正
確であり分かりやすい情報を形作ること
と、その情報を確実に伝達するための信頼
できて使いやすい情報システムを開発する
ことを目標にしている会社です。
■社名に込められている思い
日本ユニテックという社名には、Unite
Technology & Unique Technology と い
う意味があります。そのフレーズには、
技術を結び合わせることによって、そし
てユニークな技術を創出することによっ
て、社会や個人の幸せに貢献できればと
いう思いが込められています。
■生い立ちとビジネス分野
日本ユニテックは、1983 年に日本語組版
システムを開発する会社として創業しまし
た。そのシステムを開発するために、ドキュ
メントをテキスト情報(文章)とスタイル
情報に分け、テキストにはタグ付けをする
という技術を開発しました。HTML と CSS
16
に似ていることにお気づきになると思いま
す。しかし、これは HTML の基になった
SGML が、ISO で標準規格となったときよ
りも前のことです。当時としてはたいへん
ユニークな技術だったと思います。
それ以来、【ドキュメント・ソリューショ
ン】を会社のコアコンピタンスとして大切
にしてきました。現在は、ドキュメント情
報をワンソースマルチユースするためのシ
ステム、データベースパブリッシング、そ
れを管理する情報システムなどを受託開発
しています。加えて、システム化する際に
必要なドキュメント分析やその標準化、ワー
クフロープロセスのご提案などのコンサル
業務も行い、包括的なソリューションとし
てサービスを提供しています。また、最近
では iPad などの携帯端末向けの電子ブッ
クや電子カタログのソリューション、業務
向けアプリケーション開発にも注力してい
ます。
いった付加的なエンジニアリングサービス
を行えることは、私たちの特長の一つです。
■「+U effect」
− 人をつなぐ、技をつなぐ
日本ユニテックでは、「+U effect」と
いうサービスコンセプトをもっていま
す。ご紹介した翻訳サービスやシステム
開発に加えて、私たちの強みを生かした
次のサービスも提供しています。
調査研究委託:標準規格やその適用方
法、e-Leaning、オープンガバメントな
どの国内および海外の動向を調査したり
アンケートを実施したりして、報告書と
してまとめる業務です。
セミナー:Adobe FrameMaker や SDL
Trados などのアプリケーションの使用
法、また、昨今話題の EPUB や DITA な
どの標準規格のセミナーを開催していま
す。少人数制により細かな点までフォロー
できますし、理解したことをすぐに実践
できるハンズオンによって、必要なスキ
ルをしっかりと身につけていただくこと
ができます。カリキュラムや開催日数を
カスタマイズしたり、出張開催したりと
お客様の様々なご要望に対応しています。
【 翻 訳 サ ー ビ ス 】 を ド キ ュ メ ン ト・ ソ
リューションの一つと考えています。会社
の生い立ちと関係しますが、主な分野は、
IT 関連です。たとえば、ソフトウェア製品
の UI やメッセージ、マニュアルやヘルプ
日本ユニテックが提供している「翻訳」
などの翻訳は少なくありません。それらも、
「調査研究委託」
「セミナー」
ソフトウェアの一部であって、ユーザーが 「システム開発」
というサービスは、一見すると関係性があ
システムを確実に利用するために欠かすこ
まりないように思えるかもしれません。し
とのできない大切なものだと思います。そ
かし、その根底はドキュメント・ソリュー
れゆえ、翻訳の品質がソフトウェアの評価
にも影響を与えるという認識を持ち、正確
ションという強みで結びついています。こ
であり分かりやすく、ユーザーが必要とす
うしたサービスのコラボレーションによ
る情報を形作ってゆきたいと考えています。 り、お客様が求めることに最大の効果をも
たらすソリューションを提供すること、そ
翻訳に際して、ソフトウェア技術者から
して、ビジネスを通して人と人との結びつ
アドバイスを受けたり、複雑なシステム動
きをも深めること、それが私たちの目指し
作環境上での実機検証や整合性チェックと
ている「+U effect」です。