片頭痛治療の進め方

片頭痛治療の進め方
目次
はじめに
第1章
3
片頭痛とセロトニン
7
片頭痛とセロトニンの関わり
7
セロトニン神経とは
11
セロトニン神経の活性化はどうすればよいか
12
頭痛とストレートネックとの関連
16
ストレートネックという表現
19
小児片頭痛と「体の歪み(ストレートネック)」
20
セロトニンとストレートネックの相似性
23
第2章
片頭痛と遺伝
30
第3章
片頭痛体質とは何か
35
第4章
緊張型頭痛と片頭痛の違い・・機能性頭痛一元論
38
第5章
片頭痛はなぜ起きるのか
50
第6章
片頭痛治療の進め方
56
第7章
頭痛発作時の対処法
62
-1-
第8章
誘因探しの難しさ・・
「体の歪み」との関連から
73
第9章
片頭痛と生活習慣・・セロトニンとの関連から
78
セロトニン生活で、片頭痛体質改善を!
第10章
80
ストレートネック
87
ストレートネックの原因
93
頭痛に関連した体の仕組み
96
ストレートネックは如何にして形成され、どう治すか
100
ストレートネックを治すには・・
112
ストレートネックを解消するにはどうすればいい?
117
片頭痛を改善させる”頭痛体操”
130
参考図書
156
あとがき
157
-2-
はじめに
最近、「頭痛外来」という、まだ耳新しい専門科が、各所で誕生し注目されています。
これは、頭痛に悩む人がいかに多いかを示すものです。同時に、従来の診療科では、なか
なか診断がつかず、治療もいい方向に向かわないことから、頭痛の専門診療のニーズが高
まっている証拠でもあるのでしょう。
ところが、そうした「頭痛外来」が頭痛に悩む人の期待に十分応えられているかという
と、そうでもないようです。
頭痛を訴えて、医療機関に受診しますと、初診の際に、CT検査を受けるというのが、
通常のパターンです。脳に重大な疾患がないか、まず、そこをチェックするわけです。
次は、医師の問診に進みます。どんな痛みか、いつから痛むかなどを聞き、頭痛の種類
を判別、片頭痛と診断されれば、その治療薬を、緊張型頭痛と判断されれば、その治療薬
を処方して、「お大事に」・・・これで終わりです。
頭痛以外のいろいろの症状が出ていても、何の関係もないと考えているのか、聞こうと
しないところが大半です。鎮痛薬を飲めば治まる頭痛もありますから、いったん痛みから
解放されます。しかし、それでは解決にはなりません。片頭痛にせよ、緊張型頭痛にせよ、
頭痛そのものを完治させる薬は、まだありません。痛みという症状をとりあえず抑える「対
症療法」しか、とりようがないのです。
医療機関は現在、どこでも、こんな感じでしょう。頭痛のときに従来から受診していた
内科はもちろん、「頭痛外来」と銘打った”専門”診療科でも、大差はありません。
はっきりいえば、一時しのぎの治療というところがほとんどです。
薬で痛みを止めるだけでは、患者さんは、一生、薬と付き合うことになります。
それだけでも気が滅入ることですが、もっと危険な事態を招きかねません。
痛みとは、そもそも、体が、異常を外に知らせるために発するものです。
もし、人間に痛みというものが無ければ、発病にはなかなか気づかず、気がついたとき
には、もう手遅れということばかりになってしまうでしょう。
痛みは、大事なサインであり、警報なのです。痛みの根本原因を突き止められず、元々
の疾患の治療もせず、痛みだけを和らげる頭痛診療は、警報の電源だけ切って、それでよ
-3-
し、とするものです。警報が知らせる深刻な事態は、そのまま放っておくのですから、ま
すます悪化してしまう危険性は大きいに決まっています。
たとえば、火災が起きたときの火災警報が、痛みに当たります。火災警報だけを止めて
どうするのかということです。頭痛の大半を占める筋肉が原因の緊張型頭痛では、筋肉が
もうこれ以上、無理できないというので頭痛という警報を出しているのです。この警報だ
けを止めると、筋肉にはさらに無理な力が加わって、治すことがますます困難になります。
近年は、ペインクリニックという、痛みをとることを専門にした診療科も誕生していま
す。また、一般の病院ではブロック注射がよく行われています。
適切な治療をすれば治るはずの病気に、ブロック注射を施すと、それ以上無理が出来ず
働けなくなった筋肉に痛みがなくなるために、さらに無理をかけて、筋肉の状態はより重
症となり、治しにくくなります。
それでは、片頭痛の場合は、何のための危険信号なのでしょうか?
片頭痛は、”何らかの引き金”により、最初に脳の一部に小さな興奮が起こり、徐々に周囲
に拡大します(閃煇暗点など)。そのままでは脳に障害が起こります。そこで、脳周囲の血
管が拡張し血流が増加します。脳に酸素と栄養を供給している血管が、脳への架け橋のグ
リア細胞を介し脳を守ると考えられます。脳の血管拡張は強い痛みを起こしますが、脳の
障害を必死に守り、また危険信号を発しているとも考えられます。
片頭痛の治療は痛みを止めるだけではありません。脳を守るメカニズムを考えた治療が
必要です。(このように申されて「トリプタン製剤で治療しなさい」と主張されます)
しかし、このような見解は、”何らかの引き金”によって、”頭蓋内で起きた現象”を抑
える目的で、痛み止めの代わりにトリプタン製剤が使われただけに過ぎません。
その作用機序そのものは、”鎮痛薬と大差はなく、ただより効果のある薬剤”でしかなく、
結局は”対症療法”に過ぎません。何か、根本的に欠如した部分が存在しています。
このように、多くの頭痛診療が、痛みを一時的にとることしかできないのは、その原因
がよく理解されていないからです。医療機関がこのようなことに気がつけば、頭痛医療は、
飛躍的に実効性のある診療が行えるずです。けれど、残念なことに、多くの頭痛の専門家
はそのことに気づかず、旧態依然の診察と鎮痛薬・トリプタン製剤の処方を繰り返すだけ
です。
-4-
私は、平成 24 年 9 月に「頭痛とストレートネック」に関する調査を行い、慢性頭痛であ
る緊張型頭痛にも片頭痛にも高率にストレートネックが見られることを発表致しました。
すでに 1978 年には、東京脳神経センターの松井孝嘉先生は、ストレートネックが長期間
持続することによって引き起こされる「頸性神経筋症候群」という病態を提唱され、この
中には緊張型頭痛や片頭痛が含まれ、これに様々な自律神経失調症状が加わってくると指
摘されております。
しかし、日本頭痛学会の認定する頭痛専門医の間では、頭痛とストレートネックはエビ
デンスなしとの考えが一般的で、緊張型頭痛も片頭痛もその原因は不明とされ、片頭痛の
治療は、もっぱらトリプタン製剤の投与で一時的に頭痛を抑えようとする治療に終始して
おります。結局、片頭痛は不治の病との考えが一般的です。
今回の成績をもとに、片頭痛は、生まれつきセロトニン神経の働きが悪い「遺伝的素因」
を基盤として、後天的にストレートネックが形成される過程において発症してくるものと
考えています。この仮説をもとに、片頭痛の発生機序を想定致しました。
この仮説から、片頭痛の治療の原則は、生まれつきセロトニン神経の働きの悪い頭痛体
質を改善させるために、いかにしてセロトニン神経を働きをよくさせるかという工夫を行
い、セロトニン神経の働きを減弱させる生活習慣を改めることを主眼として、これに加え、
ストレートネックを改善させることによって、首こりから大後頭神経から三叉神経核に送
られる刺激をなくしてしまうことによって、「脳の興奮性」を少しでも軽くして頭痛発作の
「引き金」を減らそうとさせる考え方です。
このための、日常生活上の注意点と、ストレートネックを改善させるための体操・スト
レッチを行うことが、慢性頭痛に共通した治療法です。
前屈みで仕事をされておられる方は、毎日、引き起こされた「筋肉疲労」はその日に是
正・改善させていくことが極めて重要です。絶対に日々蓄積されていく「筋肉疲労」をた
め込まないことです。この帳尻が合わないと、いつまでも片頭痛は改善されません。この
ためには、体操・ストレッチ・エクササイズを日常生活に取り入れ、習慣化させることが
重要となってきます。
このようにすれば、「頭痛体質」があっても、片頭痛の発作そのものは起きなくなってき
ます。諦めないことが大切です。
繰り返しますが、片頭痛は、遺伝的素因(生まれつき「セロトニン神経」の働きが悪い「頭
-5-
痛体質」というものがあるとされます)もとに、幼少時からの脊柱の湾曲異常や、大半の
場合、日常生活を送る中で、前屈みの姿勢や体の歪みを起こす「生活習慣」のためストレ
ートネックが形成される過程から「片頭痛」が発症して来ます。
片頭痛の人は、生まれつき「セロトニン神経」の働きが悪く、このため姿勢保持が困難
となり、早い人では小児期から、成人では諸々の姿勢の悪さから「体の歪み」を生じて、
結果的にストレートネックを引き起こしてきます。
このため、この「生まれつき存在するセロトニン神経の働きの悪さ」をいかにして改善
・是正できるかが片頭痛治療の鍵を握っております。この生まれつき備わった「セロトニ
ン神経の働きの悪い頭痛体質」がどこまで改善できるか、ここは試みるしかありません。
従来、このような「頭痛体質は治らない」と考えて、対症的にセロトニンを補う「トリ
プタン製剤」を頭痛発作時に服用するしかないと治療されて来ました。
しかし、これまで多くの方々は自分で工夫され片頭痛を改善されて来られました。これ
らの方々の方法を参考にして、片頭痛の改善方法が少しずつ明らかになってきました。
この冊子では、この考え方を明確にすることによって、具体的に何を行うかをお示し致
しました。片頭痛改善のためには、片頭痛とはどのような病気であるか、そして自分の片
頭痛がどんなタイプなのかを知ることがまず大切です。
また、個々の患者さんの片頭痛の誘因の把握も極めて重要です。
要点は、この生まれつき備わった「セロトニン神経の働きの悪さ」を如何にして改善さ
せるか、さらに「セロトニン神経の働きの悪さ」を助長させる生活習慣を改めるかがポイ
ントになってきます。
さらに、「セロトニン神経の働きの悪さ」によって生じてくる「体の歪み(ストレートネ
ック)」をどのように改善させるか、が次に行うべき点です。
片頭痛治療は、この「2つの項目」の改善なしには到底考えられません。
一部の頭痛専門医が申されるように、片頭痛発作時の都度、片頭痛の特効薬とされる「ト
リプタン製剤」を”漫然と”服用さえしておれば、片頭痛が改善されるようなことは絶対
にありえません。「トリプタン製剤」はあくまでも、頭痛発作時の「一時凌ぎのお薬」でし
かないということを認識しておくことが重要です。
このため、まず最初に、慢性頭痛とセロトニンの関わりを理解することが出発点で、こ
れによってどのようにしてストレートネックが形成されてくるかを理解することです。
-6-
第1章
片頭痛とセロトニン
慢性頭痛の代表である片頭痛と緊張型頭痛は一次性頭痛と言われ、”脳の中には何も病気
がなく、
”「頭の痛みだけが病気」である、という頭痛””「頭痛そのものが脳の病気」”と表
現され、結局、片頭痛は「神秘な、不思議な病気」とされ、慢性頭痛そのものの原因は不
明とされています。これが現在の一般的な考え方です。
ところが、現代人が抱えている原因のはっきりしない痛みや自覚症状は、”セロトニンが
欠乏”して起こっていることが、最近では通説になっていると言われています。
セロトニンの低下は、
「衝動性、過敏性、こだわり、緊張」が強くあらわれ、視覚、聴覚、
嗅覚、味覚、触覚などの五感が過敏になり、わずかな刺激にも敏感に反応してしまい、
さまざまな自覚症状を訴えるようになります。
(原因不明の慢性痛や匂いに異常に敏感な女性なども、その一つです。)
セロトニン欠乏という本質を捉えていませんと、治療も対症療法になってしまい、脳の神
経伝達物質(セロトニン)の低下として治療されないまま、放置された人達がドクターシ
ョッピングへの道を辿るのが実情です。
この本質を捉えられている医師は、「慢性頭痛」=「セロトニン欠乏症」と言い切ってい
るほどです。
片頭痛とセロトニンの関わり
片頭痛とセロトニンに関しては、これまで断片的にその関連が論じられて参りました。
片頭痛の方は生まれつき「セロトニン神経」の働きが悪い「頭痛体質」を持っており、
このために、些細なことで痛みを感じやすくなっていて、これを「脳が興奮しやすく(脳
の過敏性)」なっていると表現されています。
また、脳内セロトニンの不足が色々な病気の原因の一つとして知られています。片頭痛、
不眠症、睡眠障害、冷え性、うつ病、産後うつ、更年期障害、月経前症候群などの様々な
病気が誘発されているとこれまで言われてきました。
-7-
Diksic らによれば、健常男性は女性より約 52%脳内セロトニンを産生する能力が高く、
またセロトニンの前駆物質であるトリプトファンが欠乏すると、女性では脳内セロトニン
合成が男性の 4 倍減少する、と言われています。(Diksic M. et al.,94: 5308-5313, Proc. Natl.
Acad. Sci. USA, 1997)
女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)は、
月経周期でその分泌量は大きく変わります。
特にエストロゲン(卵胞ホルモン)が減ると、それに伴って脳内物質のセロトニンも急
激に減ります。
その時に頭の中の血管が拡張することで片頭痛が起こると考えられています。
このエストロゲンが減少するのが排卵日や生理の初日前後です。
つまり排卵日や生理の初日前後にはエストロゲンが減少するためにセロトニンも減少→頭
の中の血管が拡張して片頭痛が起こりやすいということなのです。
月経周期に関係する片頭痛は、エストロゲンの変動の少ない妊娠中や閉経後には治まっ
てくる人も多くなります。
片頭痛を発症し始める年齢は生理が始まる 11 から 13 歳ごろが多いのも理解されると思い
ます。
このような考え方の根拠として、以下のようなものが、これまで述べられております。
-8-
月経周期と片頭痛の関連は 1970 年代に報告され、特に性ホルモンとして知られるエスト
ロゲンの血中濃度の変化と深く関係していることが示唆されました(Somerville, 1971)。エ
ストロゲンはセロトニン合成を促進し、セロトニンは血管収縮を引き起こすことから、排
卵や月経に伴うエストロゲン血中濃度の急激な低下がセロトニン濃度の低下、ひいては脳
血管の拡張を引き起こすという仮説が提唱されました。また、卵巣切除ラットを用いた実
験では、エストロゲンを補充してやることでセロトニン放出を増加、あるいは血管径を収
縮させることが出来ることが示され(Pardutz et al., 2002; Mehrotra et al., 2007)、性ホルモ
ンであるエストロゲンがセロトニンを介し脳血管径に影響を与え、月経周期に同期した片
頭痛発作を誘発している可能性が示唆されました。セロトニン神経の起始核である縫線核
にはエストロゲンの受容体が豊富であり、性周期に伴う気分の変動についても、エストロ
ゲン濃度の変動が影響していることが考えられます。
このため、片頭痛は男性より女性に多い頭痛なのです。
そして、季節的に、春は、脳内のセロ
トニンの変動が大きく、ほぼすべての片
頭痛の方々が一番苦手とする季節である
という事実があります。
基本的に、片頭痛発作の時には、セロ
トニンと呼ばれる脳内物質が減少あるい
は機能が低下することが知られていま
す。片頭痛発作の時に、セロトニン様作用をもつトリプタンがよく効くのは、機能低下状
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態に陥っているセロトニンをバックアップするためなのです。
このため、現在では、片頭痛の発作時にはトリプタン製剤の使用が推奨されています。
片頭痛の発症には、神経伝達物質のセロトニンが関与しており、セロトニンに限らず神
経伝達物質は、受容体という鍵穴にはまることで細胞に作用します。子供の場合は、脳の
セロトニン受容体が未発達で、セロトニンと受容体の結びつきが希薄なために、頭の痛み
が生じにくいと考えられています。セロトニンは小腸などの消化管の粘膜に多く存在する
ため、おなかの症状が強くでることが少なくありません。
人体のセロトニンの90パーセント以上が腸
内にあり、腸内セロトニンの働きは、脳内セロ
トニンとは全く異なります。腸内セロトニンは、
人間がストレスを感じれば感じるほど大量にで
ます。その結果、腸に不規則な蠕動運動が起こ
り、腹痛や下痢の原因になります。
緊張すると、便意をもよおすといった症状が起こるのは、腸内セロトニンの働きです。
ストレス性の大腸炎などは、腸内セロトニンが増加したことによって起こるのです。
ストレスを感じるとその状態を対応するた
めに、セロトニンは使われて減少します。
ストレス状態が続いている人は、セロトニ
ンがどんどん減少していくのです。
セロトニンをケアすることは、現代のストレ
ス社会の中で必要不可欠となってきていま
す。
片頭痛、また、日常のよく聞かれる慢性的
な「冷え性」
「便秘」
「膝や腰などの慢性痛症」
「女性特有のPMS(月経前症候群)、」や、
最近注目される「産後うつ」なども、ストレ
スと脳内セロトニンの不足が関係していると
考えられています。
- 10 -
以上のような点から、片頭痛とセロトニンは密接な関わりがあることが推測されます。
セロトニン神経とは
150 億もあると言われている脳の神経細胞の中で、セロトニン神経はわずか数万個しか
ありません。にもかかわらず、脳全体に情報を発信しているという点で非常に珍しい神経
なのです。
セロトニン神経は、脳幹のほぼ真ん中に位置する縫線核という部分にあります。
縫線核とは、左右の脳が中心で交わり縫い合わされたところにある神経核のことです。
セロトニン神経は、縫線核から脳全体にさまざまな情報を送り、心と体に影響を与えて
います。このとき、セロトニン神経はセロトニンという神経伝達物質を分泌して、情報の
やりとりをおこないます。
セロトニン神経の活動レベルは一日の中で絶えず変化していますが、その活動が活発で
あればセロトニンの分泌が多くなり、弱くなれば分泌が少なくなります。
分泌が多ければ、それだけ情報も伝わりやすくなるというわけです。
セロトニン神経が働くのは、おもに覚醒時です。
朝起きてから夜寝るまで、セロトニン神経は休むことなくインパルスを出し続けています。
つまり、起きている間中、セロトニンの分泌はおこなわれています。
そして、睡眠中には、そのインパルス活動が弱くなり、セロトニンはほとんど分泌されな
くなります。そのため脳内のセロトニンの濃度が下がり、脳全体を覚醒する作用もなくな
ります。
脳内セロトニンの働きは、以下のような5つがあるとされています。
その1:大脳に働きかけて覚醒の状態を調整する。
その2:心の領域に働きかけて、意欲、心のバランスに関係する。(うつ病に関係)
その3:痛みの調節をする。
その4:自律神経への働きに関係する。緊張への働きで血圧や代謝を上げる。
その5:姿勢筋に緊張を与える。
- 11 -
第 1 に「睡眠から覚醒へのシフトを行う」。睡眠時はほとんど活動しませんが、覚醒と
ともに活発に働き始めます。働きが不十分だと、目が覚めても頭がすっきりしない状態に
なります。
第 2 は「心の不安や緊張を取る」。通常、覚醒時は、脳波はベータ波が優位になるが、セ
ロトニン神経が活発に働くとアルファー 2 という特別な脳波が出現します。癒やしやリラ
ックスの働きをする脳波で、「クールな覚醒」と呼ぶものです。緊張や不安が取れ混乱も静
まるので、ネガティブ思考が減少し、元気になります。
第 3 は「痛みの制御」。痛みに対して過剰反応しないように調整する働きを持ちます。こ
れが正常に働かないと「線維筋痛症」を発症。痛みを生み出す外的要因はほとんどないに
もかかわらず体の各部に激しい痛みを感じ苦しむ病気ですが、セロトニン神経の働きを活
性化する治療薬で改善します。
第 4 は「自律神経を適度なレベルに保つ」。覚醒時には交感神経が、睡眠時には副交感神
経が優位になりますが、それらが低レベルであれば上げ、過活動なら下げ、適度なレベル
に保ちます。片頭痛の場合、自律神経系の機能異常が存在します。
第 5 は「正しい姿勢を保つ」。朝起きてセロトニン神経が動き出すと全身の抗重力筋が活
性化し、姿勢がシャンとし、瞼もパッチリで引き締まった顔の表情になります。
「このように、セロトニン神経は、過剰ストレスで生じる様々な症状、例えば、不眠、不
安、心の緊張、ネガティブシンキング、自律神経のバランス破壊、疲れた表情や姿勢など
と、実に深く関わっていることが分かると思います。つまり、この神経を活発に働かせる
ことが、ストレス耐性の高い心と体を作ることになるのです。
片頭痛の場合、ストレスが原因で起きる場合が多いようです。
セロトニン神経の活性化はどうすればよいか
それでは、セロトニン神経はどうすれば活性化できるのでしょうか。意外に簡単で、日
常生活の中で 2 つのことを実践すればよいのです。
1 つは、朝、しっかりと太陽の光を浴びます。重要なのは明るさ。蛍光灯の灯りはどん
- 12 -
なに明るく見えても照度は低く、太陽の明るさには及びません。できれば 30 分以上、外で
日の光を浴びましよう。
2 つ目は「基本的なリズム運動」をします。人間の様々な運動の中でリズムを伴うもの
とは 3 つあります。歩行、咀嚼、呼吸、です。
歩行については、ウォーキング、ジョギング、スクワットなどを 5 分から 10 分実践しま
す。朝、起きて、日の光を浴びながらウォーキングをするということは、まさに一石二鳥。
忙しい人は、通勤時間の中で歩く時間を多く作ればいいのです。
咀嚼については、朝、しっかりと朝食を取ること。野菜ジュースやヨーグルトだけで済
ます人が増加していますが、咀嚼という観点から見ると不十分と言わざるを得ません。
呼吸については、リズム正しい呼吸を繰り返すのがポイントです。それを様式化したの
が座禅です。お経を唱えるのもお勧めですが、日常生活では難しいので、リズム正しい呼
吸を意識しながらウォーキングするとよいでしょう。
良質の睡眠にも不可欠なセロトニン
逆説的ですが、ストレス耐性を高めるセロトニン神経は、ストレスに弱いのです。一日
- 13 -
中ストレスにさらされ続けるますと、その働きは弱まります。夜になると、情緒不安定に
なったりキレやすくなったり、表情も疲れるのは、このためです。だからこそ、なおさら
朝の活性化が重要になります。
また、疲れた心身を蘇らせるために重要なのは、夜の睡眠ですが、実はこれにもセロト
ニンが深く関わっています。脳内物質であるセロトニンは、夜になるとメラトニンという
物質に変化します。睡眠を誘い深い眠りをもたらす自前の睡眠薬です。
昼間にセロトニン分泌が不十分ですと、メラトニンが不足して夜よく寝れません。夜型
の生活を続けますと、良質の睡眠が得られないのはこのためです。なお、メラトニンは夜
暗くならないと十分に放出されませんので、夜にコンビニのような明るい場所で働くと寝
つきが悪くなります。
朝起きて、日の光を浴びて歩き、朝食を取り、夜はできるだけ暗くする。ストレス耐性
を高めるこの基本は、実は昔の日本人の生活だったことを思うと、現代社会で健康的に生
活することの難しさを痛感します。
- 14 -
セロトニンと姿勢の関係
「セロトニン」にはこれまで述べましたように、5つの機能がありますが、このなかで、
「よい姿勢の維持」という機能があります。それは、「抗重力筋」につながる運動神経に直
接刺激を与えることができる為、姿勢がよくなる、ということです。。
(抗重力筋…立った姿勢を維持する為に使われる筋肉のことです。首・お腹・背中・脚の
筋肉などを指しています。)
このように、セロトニンと抗重力筋には深い関係があります。抗重力筋とは、首筋、背
骨の周囲、下肢の筋肉、まぶた、顔面の筋肉等です。眠っているときはこれらの筋肉は休
んでいますが、人が起きているときには、これらの筋肉は常に働いています。
まぶたや顔面に筋肉は、顔にしまりを与えます。首筋や背骨の筋肉は姿勢を正しく保つ
ために大切な役割をしています。
セロトニンは、首筋、背骨の周囲、下肢の筋肉、まぶた、顔面の筋肉等筋肉に対し、運
動神経のレベルを上げる働きをしています。ですから、セロトニンが活性化されていると
きには、背筋がピンとしていて、顔にもハリがあるのです
実は、この「抗重力筋」、ラットを用いた動物実験では、抗重力筋に関わる脳の部位を
電気刺激しますと、脳内の「セロトニン(5HT)」という精神を安定させるホルモンの発火
を引き起こすことが明らかになっています。
人の脳内のセロトニン量の測定方法に関しましては、まだ一定の手法が確立していると
はいえませんが、少なくとも動物実験の結果から、「抗重力筋」と「セロトニン」には密接
な関係があると考えられます。
このような理由が直接関係しているかどうかは分かりませんが、実際、うつの方には、
猫背気味になっている方々が多いように感じます。
うつだから猫背になるのか?または猫背のようにしているから気分がうつ気味になって
いくのか?これはどちらが先に引き起こされる現象かは正確には分かりませんが・・・、
この点から推測されることは、セロトニン不足により、「体の歪み」が引き起こされる可
能性です。逆に、「体の歪み」のため、セロトニン不足を助長しているのかもしれません。
(ニワトリが先か、タマゴが先か、不明ですが・・)
- 15 -
特に、小児期に「体の歪み」が多いことが指摘されていますが、これも「生まれつき、
セロトニン神経の働きの悪さ」による「セロトニン不足」が関与しているのかもしれませ
ん。
この場合も、どちらが原因で、どちらが結果なのかは、症例毎に、点検する必要がある
と考えます。
以上のように、セロトニン不足のため「正しい姿勢」を保持することが困難なため「体
の歪み」を起こしやすくなって来ます。この結果、ストレートネックを併発してきます。
頭痛とストレートネックとの関連
平成 24 年 9 月に当医院で、頸椎レントゲン検査を行った 1969 例の中で、ストレートネ
ックの出現頻度を頭痛の有無との関連で比較してみますと、以下のようでした。
ここでの「ストレートネック」とは後に述べるような診断基準に従った「頸椎異常」指
しております。
頭痛あり
1,212 例中 1,023
例
84
%
例 83
%
その内訳は、以下のようでした。
緊張型頭痛
片頭痛
群発頭痛
頭痛なし
1,054
例中 874
155 例中
146
例
3 例中
3
例
例
27
757 例中
202
94 %
%
と明らかに、その出現頻度に差を認めました。
また、男性に比べて女性では圧倒的に「ストレートネック」の出現頻度が高かったこと
が示されておりました。
- 16 -
これまで、頭痛と首に関する研究を長年されてこられた先生は、緊張型頭痛は明らかに、
頸部筋肉の異常緊張が関与し、これを改善させることにより緊張型頭痛が完治すると述べ
ておられ、片頭痛の一部も、この頸部筋肉の異常緊張が関与し、これを改善させることに
より片頭痛が治るものがあると指摘されています。
私の成績では、緊張型頭痛以上に、片頭痛の場合にストレートネックの合併頻度が高か
ったということを示していました。
このような結果をみますと、少なくとも、ストレートネックが「片頭痛の誘発・増悪因
子」となっているものも存在することが推測されます。
「ストレートネック」→首や肩の筋肉からの侵害刺激情報
↓
↓
↓
脊髄を介して三叉神経脊髄路核
↓
↓
↓
中枢性痛覚過敏(central sensitization, CS)
↓
↓
↓
脳の過敏性、頭痛の慢性化
↓
自律神経失調症状 →
交感神経機能低下→頚性神経筋症候群
- 17 -
(慢性頭痛)
片頭痛も緊張型頭痛も共通して「頸部筋肉群の疲労」を基盤として発症すると考えられ
ます。この根拠として、両頭痛に共通してストレートネックが認められる点です。
片頭痛の遺伝的素因のない場合は、首の筋肉のこりは、大後頭神経に痛みのみ起きるこ
とによって、「純粋な緊張型頭痛」を発症します。
片頭痛の遺伝的素因があれば、すなわち、片頭痛の場合は、生まれつきセロトニン神経
が働きが悪いことによる「痛みの感じやすさ」が存在するところに、首の筋肉のこりの刺
激が、大後頭神経から三叉神経に絶えず刺激が送られ続けます。このため、「痛みの感じや
すさ」がさらに増強され、常時、
脳の過敏性が高まった状態が継続
していきます。
このような基盤ともとにして、
これまで言われてきたような、誘
因(引き金・・トリガー)が加わ
って、容易に、「片頭痛」発作が
引き起こされるものと思われま
す。
この際、トリガーとなるものが、
どの程度重なるかで、片頭痛発作
の程度が決まってきます。
まず神経系の変調があると予兆を、神経活性物質変化で前兆を、三叉神経が感作され
ると(軽度の頭痛)緊張型頭痛が引き起こされます。
さらに血管が賦活されると神経血管系感作を引き起こし(中等度~重度の頭痛)片頭痛
へ、中枢感作が起きるとひどい片頭痛(重度の頭痛)が起きて来ます。
このような起こり方をするため、片頭痛は人によって、また同じ人でも、そのときの体
調などによって、とてもひどいときとそうでもないときがあります。さらに、発作の起き
る頻度も、人によって、年1回であったり、週に2回であったりとまちまちなのです。
- 18 -
以上のように、頭痛はストレートネックと極めて深い関わりがあることが推測されます。
そして、これを無視した片頭痛治療はあり得ないと考えております。
ストレートネックという表現
片頭痛は基本的にセロトニンと深く関わっているように想像されます。このセロトニン
の働きのひとつとして”姿勢保持”に関与していると述べました。
セロトニン不足のために、姿勢が十分に保持できなくなる結果、「体の歪み」を起こして
くることが当然予測されます。このような「体の歪み」は、これらのカイロプラクター・
整体師・鍼灸師の方々は簡単な手法で把握されておられるようですが、医療機関ではこの
ような「体の歪み」は、脊柱の全体像をレントゲン透視下で見ることで判断しなくてはな
りません。
レントゲン透視下で脊柱全体を観察します
と、脊柱の走行に問題のある方々はすべて頸
椎にもその影響が及んでいます。脊柱全体を
1枚のフィルムに記録できないため、脊柱の
走行異常のある方々に対して頸椎の部分だけ
を撮影するしか方法はありません。その撮影
方法は、正面像、側面像として中間位・前屈
位・後屈位、斜位2方向の合計6方向の撮影
を行います。ここで大切な観察点は正面像で
の左右どちらかへの傾きと中間位・側面での
前彎の消失・直線化の所見に加え軸が前方へ
傾斜していることと、前屈位では検者が介助して前屈させることによって前屈が不十分で
あることを確認することが極めて重要です。
しかし、このような「頸椎X線検査」上での所謂”ストレートネックの所見”は、大半
の医師の間で「その診断基準」が一定せず、殆どコンセンサスが得られていません。
従って、片頭痛の原因としての「体の歪み(ストレートネック)」は全くといってよいく
らいに認識されていないようです。
- 19 -
しかし、カイロプラクター・整体師・鍼灸師の方々は、片頭痛治療上「体の歪み」を重
要視されます。この点が医師の考え方とは大きく隔たりがあるようです。
この考えに基づいて「頸椎レントゲン撮影」を行うに至りました。先程述べました、「頸
椎異常所見」を”ストレートネック”という表現をしますと殆どの方々から、ご批判され
るのが現状のようです。このため、この「頸椎異常所見」をどのような表現にすべきか迷
っているところです。
昨年、9月には、このような観点から「頭痛とストレートネック」と題して、当医院開
設以来の成績をまとめてみましたが、頭痛研究者の皆さんすべてから、”ストレートネック
”は日常茶飯事に見られる所見であり、このための結果に過ぎないと全く問題外とされま
した。この成績を述べ、その考案の中で、これまでの頭痛と頸椎異常を言及された先人の
方々の文献を掲載しましたが、どなたもストレートネックという表現はされていませんで
した。片頭痛ではなく、緊張型頭痛の場合にはこのような”頸椎異常”を数名の先生方が
指摘してこられましたが、これの方々も”ストレートネック”の表現はされてはいません。
長年、首といろいろな病気との関連について研究されて来られた先生も、表だってスト
レートネックという表現を意識的に避けておられるようです。この先生の論文を読んで初
めて、頸椎異常(ストレートネックの存在)が明らかになるといった状況ですが、ストレ
ートネックでなく別の表現をされておられました。
これまで、研究者によって「ストレートネックの診断基準」が明確でないことが、現在
の最大の問題点のように思われます。
小児片頭痛と「体の歪み(ストレートネック)」
ある整体師さんによれば、以下のように述べておられます。
「片頭痛がある子どもは、肩こりや自律神経失調症を合併している場合がほとんどで、
体のバランスの崩れも影響していると考えられます。
当院に頭痛で来院される患者さんの多くに、姿勢の乱れによる首の緊張が診られます。
首は、重い頭を支えているので、少しの体のバランスの崩れが影響する部位です。
- 20 -
首(頸椎)は、脊柱の上から7つ目までの骨で構成されていて、それぞれがスムーズに動
くことによって、首を前後左右に動かすことが出来るようになっています。
脊柱は、横から見るとゆるい S 字カーブを描いていて、これを生理的湾曲と呼ぶのですが、
このカーブの乱れが、首や体のいろいろな部分に不調をもたらします。
子供は脊柱の形成が未発達であり、脊柱の生理的湾曲(S 字カーブ)が完成されていませ
ん。
更に運動不足による筋力の低下により、S 字カーブがきちんと形成されないばかりか、
姿勢を維持する事が出来ない子供が増えています。
脊柱は、長い年月をかけて作りあげられます。S 字カーブの形成の乱れが、いろんな病
気に波及しますので、子供の姿勢を以下の点からしっかりチェックして下さい。
• 正座がきちんとできるか。
• あぐらがかけるか。
• まっすぐに立っていられるか。(傾いていないか。)
• 首の回旋がきちんとできるか。(前後左右に均等に動かせるか。)
猫背などの姿勢の悪さは、体全体の歪みですので、できるだけ早いうちにバランスを整
えることが大切です。」
以上のように述べ、小児の片頭痛でも「体の歪み」との関連性を指摘されております。
このように多数の整体師の方々は、小児の片頭痛患者さんの「体の歪み」をクドイばか
りに指摘されます。
また、ある歯科医の先生は、以下のように指摘されておられます。
子どもが片頭痛を起こしやすい原因としては以下の理由が考えられます。
• 長時間、変な姿勢でゲームをやっている
• 小型のゲーム機などを長時間やっている
- 21 -
• 食生活(栄養バランス)に偏りがある
• ストレスを溜め込んでいる
• 首の骨が歪んでいる
最近の子どもはゲームやパソコンを長時間続けてやっている子が増えてきています。ま
た、ゲームだけでなく変な体勢で本を読んだり、テレビを観ている子も要注意です。
姿勢が悪いと、肩こりや体の筋肉が緊張してしまい頭痛を引き起こす原因となります。
子供の姿勢には注意が必要です。
そして、「背骨伸ばし」のストレッチで、大半の小児片頭痛が軽快すると述べておられま
す。
以上のように、小児の片頭痛でも、大人と同様に片頭痛とストレートネック及び「体の
歪み」との関連が指摘されております。
私も、現在までに、小児の片頭痛患者さんで、頸椎レントゲン検査上、ストレートネッ
クがどの程度みられるか検討中ですが、特に前屈位での前弯の制限に注意を払い、かつ頚
部の筋肉群の圧痛の有無を必ず確認しております。このようにして、現在まで検査を行っ
た全員に、ストレートネックが確認されております。決して少ないとの印象はありません。
今後とも、症例数を増やしていく必要があると考えております。
しかし、整体師の方々のホームページを点検しますと、ごく「当たり前」のように記述
されております。これは、何を意味しているのでしょうか?
整体師の方々は、多くの小児片頭痛に「体の歪み」を指摘され、歯科医の先生は、小児
の片頭痛が”背骨伸ばし”のストレッチだけで、軽快しているとの報告をみますと、まさ
に奇異な感じを受けます。
しかし、これまでの片頭痛の成書には、小児の片頭痛と「体の歪み(ストレートネック)
」
に関する記載は、私は見たことがありません。
- 22 -
今後、これらの小児期に見られるストレートネックと成人に見られるストレートネック
が全く別のものなのか、それともその延長線上にあるのか、その異同を1例ずつ確認して
いく作業が必要と思われます。
それは、小児期にみられるストレートネックが、生まれつき「セロトニン神経の働きの
悪さ」のために形成されるものなのか、発育途上のためなのか、あるいは成人のストレー
トネックと同様に後天的に「姿勢の悪さや体の歪み」によって形成されてくるものなのか
という点です。
これらをひとつずつ明らかにすることによって、ストレートネックが片頭痛の誘発・増
悪因子となりうるものかの解明の一助となるからです。
セロトニンとストレートネックの相似性
「頸性神経筋症候群」はストレートネックが長期間持続した状態とされています。そし
て、このために引き起こされる病態としては、以下のようなものが挙げられています。
頭痛・・緊張型頭痛、片頭痛の一部
めまい
過敏性腸症候群
ムチウチ
うつ
パニック障害
更年期障害
ドライアイ
多汗症
機能性嚥下障害
機能性胃腸症
血圧不安定
慢性疲労症候群
自律神経失調症
- 23 -
VDT症候群
一方、これまでも述べていますように、脳内セロトニンの働きは以下のような5つがあ
るとされています。
その1:大脳に働きかけて覚醒の状態を調整する。
その2:心の領域に働きかけて、意欲、心のバランスに関係する。(うつ病に関係)
その3:痛みの調節をする。
その4:自律神経への働きに関係する。緊張への働きで血圧や代謝を上げる。
その5:姿勢筋に緊張を与える。
セロトニン不足とストレートネックには、いろいろな点で相似性が見られます。
1.「痛みを調節する」働き
まず、片頭痛患者さんは、生まれつき「セロトニン神経」の働きが悪い「頭痛体質」
が備わっているとされています。そして、このために一寸したことで「痛みを感じやすく
なり」 容易に脳血管が拡張しやすくなっていて、「頭痛発作」を起こしやすいとされてい
ます。この点から、脳が興奮しやすく、「脳過敏」の状態にあると表現されています。
これを、てんかんとの関連性から述べる立場をとられる先生もおられるようです。
一方、ストレートネックが存在すれば、次のようなことが考えられます。首の後ろの大
きな筋肉には「僧帽筋」「頭板状筋」「頭半棘筋」という3つがあり、 「頭半棘筋」は、そ
の一番内側、深部にある筋肉です。ストレートネックがあれば、「頭半棘筋」が硬くなる、
つまり凝り固まります。この筋肉を大後頭神経が貫いていて、その部分が、首の凝りによ
って圧迫されることで、大後頭神経を刺激し、その刺激が三叉神経核に伝わります。この
ため、ストレートネックが存在する限り、この刺激が、絶えず三叉神経核に送られ続け、
中枢の感受性が変化し、”中枢感作症候群”となって、「脳の興奮性(過敏性)」を生じさせ
- 24 -
るものと考えられます。(以下、図1)
ストレートネック→首や肩の筋肉からの侵害刺激情報
↓
↓
↓
脊髄を介して三叉神経脊髄路核
↓
↓
↓
中枢性痛覚過敏(central sensitization, CS)
↓
↓
↓
脳の過敏性、興奮性の増大、片頭痛の慢性化
↓
自律神経失調症状 →
交感神経機能低下→頚性神経筋症候群
(慢性頭痛)
2.片頭痛の慢性化に関して
これまで、ストレスや睡眠不足など諸々の原因で「慢性的にセロトニンが不足」してき
ますと、「痛みに対する調節」がうまくいかなくなるために、痛みを誘発しやすくなり、こ
れが片頭痛の慢性化につながると考えられます。
一方、ストレートネックが長期間持続しますと、図1に示されるように、片頭痛の慢性
化を助長させることが推測されます。
3.自律神経機能との関連について
これまで、セロトニンは「自律神経への働きに関係する」とされております。
一方、ストレートネックが長期間、放置されて引き起こされる病態が「頚性神経筋症
候群」です。結果として、さまざまな自律神経失調症状が引き起こされ、片頭痛の場合に
は、頭痛発作が「天気」によって左右されたり、光が異様に眩しく感じられたり、めまい
が頭痛発作と関係なく出現したり、不眠、不安障害、パニック障害やうつ状態にまで発展
することもあります。
- 25 -
自律神経と背骨は深い関係にあります。背骨の調節を行い機能を正常にすることによっ
て、自律神経のバランスが整い、片頭痛の改善が期待できます。特に首の上部(上部頚椎)
が重要で、上部頚椎に問題が見られることが多いようです。
ストレートネックが存在しますと、体中至る所に様々な緊張が不自然な歪みや血行不良
を起こします。こうした機能低下の引き金となっている重要な筋肉があります。
それが胸鎖乳突筋と呼ばれる筋肉です。ちょう
ど頭の付け根(耳の後ろあたり)から、首筋(く
びすじ)
、鎖骨にかけて首の両側に付いています。
この筋肉の緊張は頭痛やめまい、耳鳴り、難聴
などの引き金になる原因筋と考えられ、おおかた
自律神経を司る筋肉とみるカイロプラクターもい
るほどです。
頭痛・片頭痛に悩む方の多くは、この筋肉の影
響によって、首のいたるところに突っ張りやコリ
・鈍痛を感じるのが特徴でもあります。(一度、首や肩を色々と押してみてください。痛み
やコリを感じる部分があるはずです)
そういったことから、この胸鎖乳突筋の緊張を和らげることが、頭痛・片頭痛のひとつ
の改善ポイントになってきます。
以上のようにカイロプラクター・整体師・鍼灸師の方々は考えて、「体の歪み(ストレー
トネック)」の施術をされておられるようです。
4.姿勢との関連について
先日も述べましたように「セロトニン」には5つの機能があり、このなかで、「よい姿勢
の維持」という機能があります。それは、「抗重力筋」につながる運動神経に直接刺激を与
えることができる為、姿勢がよくなる、ということです。。
この点から推測されることは、セロトニン不足により、ストレートネックが引き起こさ
れる可能性です。逆に、ストレートネックのため、セロトニン不足を助長しているのかも
しれません。(ニワトリが先か、タマゴが先か、不明ですが・・)
- 26 -
特に、小児片頭痛の場合にストレートネックが多いことが指摘されており、これも「生
まれつき、セロトニン神経の働きの悪さ」による「セロトニン不足」が関与しているのか
もしれません。
この場合も、どちらが原因で、どちらが結果なのかは、症例毎に、点検する必要がある
と考えます。
頭痛研究者は、片頭痛患者は「生まれつきセロトニン神経の機能が悪い」と主張される
にも関わらず、「頭痛とストレートネック」はエビデンスなしされます。この点は、明らか
に矛盾しており、このような観点から、「頭痛とストレートネック」が本当に「エビデンス
なし」と結論づけるだけのデータの集積が必要不可欠だろうと考えます。
ところが、以下のような「姿勢や体の使い方」をしていないか、振り返ってみて下さい。
◎ イスに座るとつい脚を組んでしまう
◎ ヒールの高いクツを長時間履いている
◎ 立っている時はたいていどちらかの足に体重を乗せている
◎ 横座りをする
◎ 立ち仕事や中腰の姿勢でいることが多い
◎ いつもどちらかを下にして横向きに寝ている
◎ または、うつ伏せになって寝ている
◎ 長時間座りっぱなしの仕事
◎ イスやソファーに浅く座ってしまう
◎ バックなどはいつも同じ方の肩にかける
◎ 重たいモノを持つ仕事をしている
◎ 赤ちゃんをダッコしていることが多いなど
◎前屈みの姿勢で長時間作業をする
いかがですか、思い当たることはありませんか?
このような「体の使い方」をしていると、知らず知らずのうちに仙腸関節がズレ、骨盤の
歪みから脊椎( 背骨) の歪みが生じてきます。
- 27 -
その結果として、ストレートネックを起こして来ます。このように後天的にストレート
ネックが形成されることもあります。
5.「うつ」との関連性
うつ病に伴う片頭痛の原因としては、脳内神経伝達物質セロトニンが減少することによ
って引き起こされると考えられています。
うつ病に伴う片頭痛は、通常の片頭痛と比較して特徴があります。
通常、片頭痛は突然発生し吐き気などを伴いますが、うつ病に伴う片頭痛は、朝起きた
時からすでに頭痛が起きており、それが持続するという点が特徴的です。
うつ病に伴う片頭痛の場合、うつ病の治療を行うことが片頭痛の治療にもつながります。
なお、片頭痛によりさらに気分が落ち込むようだと、さらに片頭痛がひどくなるといっ
た悪循環に陥りますので、早期のうつ病治療が重要になります。
この点は、セロトニンの働きの「その2:心の領域に働きかけて、意欲、心のバランス
に関係する。(うつ病に関係)」が挙げられます。
また、長年首と諸々の病気について研究される先生は、ストレートネックが長期間持続
することにより、「頸性うつ」を併発してくることを指摘されます。
6.更年期障害について
動悸、のぼせ、耳鳴り、眠れない、イライラする・・
中高年の女性に多いとされるさまざまな身体の異常とそれに伴う情緒不安定は、「更年期
障害」と言われています。ホルモンバランスの崩れによって起こるとされ、女性ホルモン
を補う治療方法が一般的に行われております。
また、本来閉経期前後の女性に多いはずの更年期障害が、若い年代に起こる若年性更年
期障害、男性にも似たような症状が出る男性更年期障害があると言っている先生もいます。
以上のように、40 歳代、50 歳代以降の女性に不定愁訴があると、ほとんどが更年期障害
と診断されるようです。血液検査を行って、女性ホルモンの1つである卵胞ホルモン(エ
ストロゲン)の分泌量が著しく減少していることが確認された場合は、薬でエストロゲン
- 28 -
を補うホルモン補充療法が有効とされています。この年代の女性で、エストロゲンが減少
しているのは当たり前ともいえます。
(エストロゲンとセロトニンの量は関連があると、従来から指摘されています)
ところがホルモン補充療法を行っても症状が改善されない人も少なくないのです。私の
知人のベテランの産婦人科医師の経験では、更年期障害と診断された方でも、ホルモン補
充療法で治せるのは4割程度だと言っています。残り6割の人の不調は別の原因で生じて
いるそうです。このような場合は、ストレートネックを疑ってみる必要があるのです。
もし、婦人科で更年期障害の治療を受けても症状がよくならないときは、首のこりがな
いかをチェックし、異常があれば頸部の筋肉の緊張を緩和させる治療を行うべきです。
首の筋肉の異常を治療すると、不定愁訴は霧散して、更年期障害といわれていた症状は
ホルモンの治療なしで完治するとされております。
更年期障害の片頭痛に関する臨床研究は、ある先生が行われておりますが、これらの成
績は、上のような考え方を裏付けるものと思われます。
以上のように概観しても、セロトニンとストレートネックは、かなりオーバーラップし
ている部分が極めて多いことが理解して頂けるかと思います。
- 29 -
現在、頭痛研究者の間では、頭痛とストレートネックは全くエビデンスなしと結論づけ
られておりますが、果たしてどうなのでしょうか?
以上のように、片頭痛はセロトニンと深い関わりがあり、セロトニン不足のため「体の
歪み」を引き起こすためストレートネックを呈して来ます。
また、逆に後天的にストレートネックを形成しても、このためにセロトニン不足を招来
する可能性があり、この2つが片頭痛発症に関与していることが想像されます。
このため、片頭痛治療を行う場合、このセロトニンとストレートネックの2つを常に念
頭におくべきと考えられます。
第2章
片頭痛と遺伝
片頭痛における遺伝的関与の形式は,家族性片麻痺性片頭痛など特殊な片頭痛では単一
遺伝子の異常によるものが明らかにされていますが,大部分の片頭痛では多因子遺伝であ
ろうと推測されています.即ち,遺伝的に規定された片頭痛発症閾値がそれぞれの患者に
あり,”環境要因”が加わって発症すると考えられています。
多因子遺伝の概念(Frants RR,1999)として以下のように考えられています。
1) 正常では,保護的遺伝子と有害遺伝子のバランスが保たれており疾病が発症しない.
2) 優性遺伝疾患では単一の有害遺伝子により疾患が発症する.
3-5)多因子遺伝疾患では 3 種類以上の遺伝子において異常があれば発症するが,ひとつの
遺伝子異常では発症しない.二つの遺伝子異常があるときには軽症であるか,あるいは無
症状である.環境要因がこの表現型を修飾するものと考えられています。
また、片頭痛を生じる単一遺伝子性疾患としては、家族性片麻痺性片頭痛 1 型、家族性
片麻痺性片頭痛 2 型、CADASIL、MELAS、Osler-Rendu-Weber 症候群がこれまで確認され
ております。(これらは、遺伝的要因の極めて濃厚で、治すことは現在できません。)
- 30 -
一般に母親が片頭痛の場合約 70 %、父親が片頭痛の場合約 30 %の確率で、子供が片頭
痛を発症するとの統計があります。両親が片頭痛の場合はなんと約 90 %の確率です。また
親子だけの遺伝ではなく、祖父、祖母からの遺伝(隔世遺伝)のケースもあるようです。
このように、片頭痛に遺伝的素因が関係することは確実です。
しかし、双生児に必ず、片頭痛が発生するわけではありません。すなわち、一卵性双生
児で、”遺伝的素因が全く同一である”はずのものが、必ずしも2人とも片頭痛を発症する
訳ではないという事実があります。
これは、何を意味しているのでしょうか?
その後の後天的な要素、環境因子等々が関
係している証拠ではないでしょうか?
一卵双生児の「片頭痛を発症」していない方に、もう片方の片頭痛を発症している人の
「片頭痛の誘発因子」を多数負荷すれば、恐らく、頭痛は誘発されるでしょう。
ただ、このような「実験」は人道上、許されることではないため、されていないだけの
話です。
もう一つ興味ある事実があります。それは、東京女子医科大学の清水俊彦先生が「頭痛
女子のトリセツ」の中で、以下のような興味深い記述をされています。ここに引用させて
頂きます。
もともと母親が頭痛持ちだったのですが、本人は今まで全く頭痛というものを経験した
ことがなかったある女性。
嫁いだ先では、旦那さんを含めて、おじいちゃん、おばあちゃん・・家族みんなひどい
頭痛持ちの家系でした。ところが頭痛の経験のなかった彼女が、嫁いだ途端にひどい頭痛
に悩まされるようになり、私のところへ来たのです。
- 31 -
話を聞いてみると、嫁姑の争いもなく生活環境的にはストレスも全くなく、特に問題は
ありませんでした。もしかして「片頭痛は伝染する病気なの?」といった疑問も湧いてき
ます。
が、じつはそうではありません。さらに話を聞いてみると、この嫁いだ先の食生活に問
題があることがわかりました。ほぼ毎日、洋食の連続。彼女は、もともと母親と同じ片頭
痛を起こすかもしれない体質を持っていました。そこへ、血管拡張物質を多く含んだ毎日
の食事が刺激となり、ついに脳の血管が耐えきれず、片頭痛を発症してしまったというわ
けです。
また、立岡良久先生は「頭痛退治読本」(悠飛社)の中で、以下のような記述をされてい
ます。
ある片頭痛の方は、煙が大きな誘因になっていました。この人はゴミ焼却炉のメインテ
ナンスを行う会社に勤務されていて、各地のゴミ処分場を飛び回って焼却炉の中に入り、
機械のメインテナンスをします。焼却炉の中には煙や塵が充満していて、それが目に入る
と、あとで必ず片頭痛が起き、さらに厳しい日程で日本全国を飛び回るため、疲れや睡眠
不足なども加わり、頭痛の頻度も痛みのひどさも増していました。
この人の場合には、まず焼却炉に入るときには必ずしっかりしたゴーグルをするように
し、目に塵や煙が触れないようにしました。また休みの日にはできるだけ睡眠を取り、疲
れをためないようにすることで、ある程度の改善はあったのですが、問題がもう一つあり
ました。会社の事務所でのタバコの煙です。仕事柄男性が多い職場で、事務所の中はタバ
コの煙がこもっている状態でした。朝、会社に行ったとたんに煙を吸い込んで頭が痛くな
る、というこの患者さんに、私は職場禁煙運動をしたらどう?とけしかけました。
タバコの煙は片頭痛だけでなく、心筋梗塞や脳卒中、肺癌のリスクファクターでもあり
ます。人が大勢集まる事務所で、このような病気のリスクファクターを放任しているとい
うことは、その会社の意識の程度を物語っているのだから、会社として禁煙にするように
働きかけてみたら、と提案してみました。
彼は1年間かけて会社のいろいろな部署を説得し、現在は喫煙コーナーが作られて、事
務所内は禁煙になったそうです。その後、この患者さんの片頭痛はずいぶん減り、今はた
まに薬を取りに来院される程度になりました。
- 32 -
このように、遺伝だけでなく、生活習慣や環境も影響があることは明確な事実です。
以上のような要因はそれ程多くないと私は考えております。これらの「環境因子」とし
て、最も大きいものとして「体の歪み・・ストレートネック」の関与を指摘したかったの
です。これまで、「頭痛とストレートネック」に関しては、全くエビデンスなしとされてい
ます。ところが、私の調査では、実に片頭痛の 94 %に、ストレートネックが存在しており
ました。この事実をどのように考えたらよいのでしょうか。
ストレートネックが存在すれば、以下のように推測されます。(再三ですが・・)
ストレートネック→首や肩の筋肉からの侵害刺激情報
↓
↓
↓
脊髄を介して三叉神経脊髄路核 (trigemino-cervical complex)
↓
↓
↓
中枢性痛覚過敏(central sensitization, CS)
↓
↓
↓
脳の過敏性、頭痛の慢性化
↓
自律神経失調症状 →
交感神経機能低下→頚性神経筋症候群
(慢性頭痛)
そして、この場合、慢性頭痛が片頭痛になるか、緊張型頭痛になるかは遺伝的要因の有
無によって決定されると考えられます。
片頭痛体質の本質的な部分と考えられる「脳の過敏性」と関与していると思われます。
以上のような観点から、「片頭痛は、遺伝的素因をもとに、日常生活を送る中で、諸々の
「環境因子」が加わって発症してきます。大半の場合は、この中の環境因子として、前屈
みの姿勢や体の歪みを起こす「生活習慣」のためストレートネックが形成される過程から
「片頭痛」が発症して来ると考えられています。」
このストレートネックは、早い人では小児期から存在することが指摘されています。
- 33 -
また成人の場合、このストレートネックが関与していると推測される方々の、片頭痛の
発症年齢が遅く、一般的には 25 歳以降が多く、極めて遅い場合は 40 歳以降の方もおられ
ることが、私の成績では明らかになりつつあります。
こういった意味で、片頭痛も「糖尿病のような生活習慣病」と同じような発症の仕方を
示し、”いわば生活習慣病”ともいえるような人も存在するように思っています。
以上のように片頭痛には、遺伝的要因の極めて濃厚な方から、極めて薄く問診上「家族
歴」の明確でないものまで含まれております。すなわち片頭痛における遺伝的関与の形式
は、単一遺伝子の異常によるものが明らかにされていますが,大部分の片頭痛では多因子
遺伝であろうと推測されています。これらを一括して、同一の「片頭痛」として扱ってよ
いかどうかという問題があります。これまでは、この2つを混同して考え、全てが曖昧な
形になり、片頭痛が治らないという考え方が従来されて参りました。
そして、このような大部分を占める多因子遺伝の場合、これに様々な「環境因子」が加
わって、初めて片頭痛が発症して来ることが知られております。ここに、治癒の可能性の
ある片頭痛が存在すると考えております。
従来、このような、環境因子を特定することが困難であるが故に、その環境因子を特定
することなく、一括して「片頭痛」として扱われてきました。私は、頸椎X線検査を行い、
ストレートネックの有無を調べることが、この環境因子の検索を行うために必要不可欠な
検査と考えております。このようにして、治る可能性のある片頭痛かどうかを判断します。
参考文献
竹島多賀夫、中島健二:日本内科学雑誌 2001:90(4):86-91
日本頭痛学会編。慢性頭痛の診療ガイドライン
清水俊彦:頭痛女子のトリセツ
遺伝子
マガジンハウス
立岡良久:頭痛退治読本(悠飛社)
間中信也:頭痛大学 インターネットのホームページ
寺本純:臨床頭痛学
診断と治療社
- 34 -
医学書院
第3章
片頭痛体質とは何か
片頭痛の方は生まれつき「頭痛体質」を持っており、本質的に些細なことで「脳が興奮
しやすく」なっていると言われています。
元々、興奮性が高い脳が、心や体のストレスに強く反応し、頭痛を起こします。このスト
レスは、天気、空腹、光、臭い、音、仕事、すべてです。
この「脳の興奮性」の原因が、これまで、セロトニンとの関連、さらにてんかんとの関
連性から推測されて参りました。
まず、片頭痛の方は生まれつき「セロトニン神経」の働きが悪い「頭痛体質」を持って
おり、これために、些細なことで「脳が興奮しやすく」なっていると言われています。
どのような機序で「セロトニン神経の働きの悪さ」が何故「脳の興奮性」を引き起こす
のか・・・この根拠は定かではありません。
本来の脳内のセロトニンの働きとしての「痛みの調節をする」機能と関係があるのかも
しれません。
これまで、脳内セロトニンの不足が、色々な病気の原因の一つとして知られています。
片頭痛、不眠症、睡眠障害、冷え性、うつ病、産後うつ、更年期障害、月経前症候群など
の様々な病気が誘発されているとこれまで言われて参りました。
健常男性は女性より約 52%脳内セロトニンを産生する能力が高く、またセロトニンの前
駆物質であるトリプトファンが欠乏すると、女性では脳内セロトニン合成が男性の 4 倍減
少する、と言われています。
そして、脳内セロトニンは女性ホルモンの影響を受けやすいとされています。
このため、片頭痛は男性より女性に多い頭痛なのです。
そして、季節的に、春は、脳内のセロトニンの変動が大きく、ほぼすべての片頭痛の方
々が一番苦手とする季節であるという事実があります。
このような観点から、頭痛体質は「セロトニン神経の働きの悪さ」(機能不全)と関係し
ているとされてきました。
このような頭痛体質を持った人に対して、いかにしてセロトニン神経を鍛え、セロトニ
ンを増やす工夫が試みられ、ヨガ、太極拳などで治療される方もおられ、これらは「セロ
トニン活性化」を目的とした方法です。この「セロトニン活性化」の方法をダイレクトに
- 35 -
日常生活に具体的に組み込む考え方もあります。
一方、高い反応性をもつ脳が起こす片頭痛反応は、非常に優れた脳機能の裏返しとされ
ています。脳の興奮性が高いということは、すなわち”聡明で知能も高いということ”を
意味しています。ノーベル賞に輝いた受賞者の片頭痛患者の割合は非常に高く、日本でも
樋口一葉や芥川龍之介が片頭痛であったことは、とても有名です。
片頭痛もてんかんも古くより知られており,日常よくみられる病気です.そして,片頭
痛に悩まされた天才的人物は少なくなく,天才にてんかんは稀でないことは何度も指摘さ
れてきました.しかし,天才にこれらの病気が多いということだけで,どのような因果関
係があるかについては論じられていませんでした。古川哲雄先生は「天才の病態生理・・
片頭痛・てんかん・天才から」という書籍で、まず片頭痛,てんかんについて述べ,両者
は密接な関係にあって,「片頭痛は本質的にてんかんの一種である」ことが強調されていま
す.そして,天才のインスピレーション,宗教創始者にみられる天啓,さらには天才的人
物の性格,行動などは、これらの病気の一部分症状であり,共通して基礎にあるのは”脳
の興奮性の亢進”であることを説明しています。
このように、従来「てんかんも片頭痛」も「神聖病」とも言われてきましたように、「科
学」では解明できない(聖域として)「脳の興奮性の亢進」が強調されて参りました。
この点から、片頭痛の患者さんは、天才と同一であり、片頭痛でない凡人とは”一線を
画すべき”存在として、崇められているようです。
それでは、この生まれつき存在する「脳の興奮性」は、以後どのような経過を辿るので
しょうか?
この点に関しては、2つの考え方があります。
そのひとつは、「頭痛発作の都度トリプタン製剤による痛みの治療をしないと、易興奮性
が増大する」という考え方です。
もう一つの考え方として、片頭痛の患者さんでは、小児期から「体の歪み」(ストレート
ネック)が多く見られることが整体師の方々から指摘され、さらに成人でもストレートネ
ックが高頻度にみられるとこれまで指摘され、私も同様の成績を報告致しました。
このため、ストレートネックが存在すれば、再三述べていますように、次のようなこと
が考えられます。首の後ろの大きな筋肉には「僧帽筋」「頭板状筋」「頭半棘筋」という3
- 36 -
つがあり、 「頭半棘筋」は、その一番内側、深部にある筋肉です。ストレートネックがあ
れば、「頭半棘筋」が硬くなる、つまり凝り固まります。この筋肉を大後頭神経が貫いてい
て、その部分が、首の凝りによって圧迫されることで、大後頭神経を刺激し、その刺激が
三叉神経核に伝わります。このため、ストレートネックが存在する限り、この刺激が、絶
えず三叉神経核に送られ続け、中枢の感受性が変化し、”中枢感作症候群”となって、「脳
の興奮性」を生じさせるものと考えられます。
ストレートネック→首や肩の筋肉からの侵害刺激情報
↓
↓
↓
脊髄を介して三叉神経脊髄路核
↓
↓
↓
中枢性痛覚過敏(central sensitization, CS)
↓
↓
↓
脳の過敏性、興奮性の増大
↓
自律神経失調症状 →
交感神経機能低下→頚性神経筋症候群
(慢性頭痛)
このようにして、「脳の興奮性」が築かれていくものと推測されます。
睡眠・食事の乱れやストレスなどの「セロトニン不足」を助長させる生活習慣を基盤と
して、小児期から「体の歪み」(ストレートネック)が形成される過程において、片頭痛の
基礎が作られて来ると考えられます。
以上のように、遺伝的因子(素因)をもとに、「体の歪み」(ストレートネック)を持続さ
せる生活習慣のために、そのまま片頭痛に進展していくものと思われます。片頭痛の発作
が出現した時点では、月に1回程度の軽い発作で、市販の鎮痛薬で十分に対応できていた
のが、次第に鎮痛薬が効かなくなり、なおかつ発作の頻度が増えて来ます。この点は 30 歳
以降の方々が、全てを物語っております。このような状況に至っても、本来の「脳の興奮
性」の原因である「体の歪み」(ストレートネック)が改善されませんと、慢性化の道筋を
辿っていくものと思われます。
- 37 -
第4章
緊張型頭痛と片頭痛の違い・・機能性頭痛一元論
一次性頭痛は
軽度のものが緊張型頭痛
重度のものが片頭痛
これを「機能性頭痛一元論」と言います
片頭痛は明確な独立疾患である
実際診療場面で、片頭痛か緊張型頭痛なのか分からない場合に遭遇します。
このような場合、混合型頭痛と診断することもあります。ここが一番、やっかいな点で
す。ところが、昔から、このような場合があるため、これを機能性頭痛一元論という考え
で説明しようとした先生がおられました。
すなわち、同じ頭痛の別の現れ方ではないかと考えられているのです。
国際頭痛分類
第2版
1.1片頭痛
VS
による診断基準
2.2緊張型頭痛
・発作が5回 VS 10回以上ある
・以下の4項目のうち少なくとも2項目を持たす
・片側性
VS
両側性
・拍動性
VS
非拍動性
・中等度~重度
VS
軽度~中等度
・身体動作で増悪 VS
悪化しない
・以下の項目のうち少なくとも1項目を満たす
・悪心・嘔吐 VS
なし
- 38 -
・光過敏・音過敏
VS
一方なたは両方ともになし
・緊張型頭痛は片頭痛の否定形になっている
上の表は、片頭痛と緊張型頭痛の診断基準を簡略化したものです。一次性頭痛で片頭痛
でないものが緊張型頭痛と診断されています。ところが、片頭痛と緊張型頭痛の境界はき
わめて曖昧なものです。そもそも片頭痛の発症前後には緊張型頭痛としか言いようがない
”前奏”部分があります。すなわち、緊張型頭痛→片頭痛へ、次いで緊張型頭痛という経
過を辿ったり、同じ患者でも、あるときは緊張型頭痛単体の頭痛であり、ある時は緊張型
頭痛から「軽い片頭痛(片頭痛もどき)」へ移行したりとさまざまです。ただし、片頭痛の
素因のないものは、生涯にわたり緊張型頭痛のみを経験し、インフルエンザ、副鼻腔炎、
二日酔いなどのときのみに片頭痛様の頭痛を呈してきます。
片頭痛も緊張型頭痛もストレスと関係が深い
緊張型頭痛
←
片頭痛
特異度
両側性
( 数字は%)
100
前兆あり
100
嘔吐
84
動作による増悪
37
75
肩こり
90
72
ストレスあり
10
67
悪心
40
60
片側性
59
音過敏
圧迫性
50
50
拍動性
軽度~中等度
50
50
重症~中等度
- 39 -
41
光過敏
35
臭過敏
実際、症状も、重複するものが多いのです。
片頭痛と緊張型頭痛は連続体
(Featherstone . 1985 )
・50例を要素分析した結果、相違を見出せなかった
・二つの頭痛は質的な差はなく、量的な差である
・悪心、片側性、前兆、光過敏、拍動性疼痛、頭痛部位、家族歴などは程度の差に
すぎない
・「片頭痛」は Headache score が「tension 」に比して高得点である
・「片頭痛」は吐き気、前兆、片側性が共存しやすい
・片頭痛と緊張型頭痛は独立した頭痛単位ではない
境界があいまいなところから、片頭痛と緊張型頭痛は連続体contiumという説が生ま
れました。Featherstoneは50例の機能性頭痛の要素分析を行った結果、片頭痛と緊張
型頭痛の症状に質的な差はなく、程度の差にすぎず、両者は独立した頭痛単位ではな
いと結論しました。ただし、「片頭痛」に悪心、前兆、片側性が共存しやすいことを認
めています。
竹島多賀夫らは、慢性頭痛患者の症候を多変量解析して、片頭痛と緊張型頭痛の因
子を抽出しました。片頭痛因子は、拍動性、片側性、高度頭痛、悪心・嘔吐で、緊張
型頭痛因子は、締め付け感、圧迫感・頭重、後頭部の頭痛、肩こりであり、個々の患
者でみると両方の要因が共存して境界は不明瞭で、このため片頭痛因子を多く持つの
が片頭痛、緊張型頭痛因子を多く持つのが緊張型頭痛であると結論しました。
頭痛の泰斗Graham(1909-1990)は「片頭痛患者は小さな頭痛(small
大きな頭痛(big
headache)と
headache)を経験する」と一元論的な見方を示しています。
- 40 -
片頭痛の本質は「エスカレーシヨン」(Candy )
この図は片頭痛を理解する上で、重要です。
まず神経系の変調があると予兆を、神経活性物質変化で前兆を、さらに、三叉神経が感
作されると(軽度の頭痛)緊張型頭痛が引き起こされます。
血管が賦活されると神経血管系感作を引き起こし(中等度~重度の頭痛)片頭痛へ
中枢感作が起きると、ひどい片頭痛(重度の頭痛)が起きてくるというのです。
すなわち、片頭痛は三叉神経の脱抑制により緊張型頭痛が起こり、さらに神経血管系が
活性化されて初めて片頭痛が起こるとし、この過程が上図のようになります。
エスカレーシヨンの程度によって、緊張型頭痛~強弱さまざまな片頭痛が表出されるこ
とが理解されることと思います。
天気に喩えますと、片頭痛は「雨」、緊張型頭痛は「曇り」に相当し、両者には明瞭な差
があります。雨は曇り空から降り出します。つまり、緊張型頭痛が先行します。雨の降り
- 41 -
方も様々であり、片頭痛の臨床的多様性と一致します。
Candy は片頭痛と緊張型頭痛は共通の病態生理を持つと考えられるとして,一次性頭痛
一元説(Convergence Hypothesis)について解説しました。
片頭痛の発生過程は,まず患者の遺伝的素因にホルモン状況の変化や睡眠時間の変化,
アルコール摂取などの環境誘因が加わることで,片頭痛が起こりやすくなること,すなわ
ち脳の感受性が高まることから始まります。
次いで,気分や食欲の変調,肩こり,感覚や意識の変化,疲労などの前駆症状があり,
症例によっては眼がチカチカするなどの前兆を伴って頭痛が出現します。ここまでが前駆
期で,次の頭痛期は一般的に軽度の頭痛で始まり,病状が進行すると中等度〜重度となり,
光過敏や音過敏が増強,悪心・嘔吐などを伴って国祭頭痛学会分類診断基準を満たすこと
になります。そして頭痛が頂点に達すると,中枢性のアロディニア(異痛症)を呈するこ
とになります。
つまり,一次性頭痛一元説では,頭痛が軽度の段階でおさまる場合は緊張型頭痛とみな
しています。
機能性頭痛一元論
連続説は片頭痛のときに成り立つ
片頭痛
= big (true ) migraine
連続体
緊張型頭痛
= small migraine
緊張型頭痛
↑
症候的に緊張型頭痛と一致する
- 42 -
ということは、片頭痛での緊張型頭痛は small migraine で、本格的な片頭痛は big
(true ) migraine で、これが連続しているというのです。
緊張型頭痛はこれとは別に、独立して、存在するということです。
この差異は、片頭痛素因の有無で決まるとされています。
片頭痛の”緊張型頭痛”は
small migraine
・片頭痛患者は片頭痛、片頭痛様、緊張型頭痛を経験する
・各頭痛に対するスマトリプタンの効果を二重盲検法で検討した
・249 患者/ 1576 回の中等度~高度頭痛について分析
・投与後4時間目に、すべてのタイプの頭痛においてトリプタンはプラセボに勝った
・片頭痛
66 %
:
48 %
・片頭痛様
71 %
:
39 % P<
・緊張型頭痛
78 %
:
P < .001
.01
50 % P < .001
(早期服用のために有効率が高い?)
片頭痛患者さんは片頭痛、片頭痛様、緊張型頭痛を経験します。各頭痛に対するスマト
リプタンの効果を 249 患者に対して 1,576 回の中~高度頭痛について分析した結果、投与
後4時間目に、すべてのタイプの頭痛においてトリプタンはプラセボに勝りました。
つまり、片頭痛の前の緊張型頭痛(仮面片頭痛)にもトリプタンが有効ということにな
ります。
症候的には緊張型頭痛でも、本態的には片頭痛 small migraine ということです。
さらに、この点に関してさらに、詳しく述べることにします。
緊張型頭痛がひどくなると片頭痛になる?
- 43 -
「日常的に肩こりを自覚していて,疲れたり睡眠不足になると肩から後頭部に重い感じの
痛みが上がってくる。後頭部の鈍痛で終わるときもありますが,我慢していると頭仝体が
ガンガン痛んで吐き気も出現し,ひどいと嘔吐する。ガンガン痛いときには,家族の話し
声もうるさく感じて,静かな部屋で暗くして横になると少し楽になる」といった症例はよ
く遭遇します。ひどい頭痛はおそらく片頭痛と診断して問題はないでしょう。後頭部の鈍
痛に関しては、緊張型頭痛と診断される場合が多いと思われます。このように緊張型頭痛
で始まり、程度が強くなると拍動性の頭痛を伴うものを、オーストリアの Lance は
tension-vascular headache と命名しました。
片頭痛が緊張型頭痛に化ける?
「20 歳ころから時々片頭痛発作を起こし結婚後片頭痛発作が頻繁になるが、40 歳ころ
から緊張型頭痛が加わってきて、50 歳を過ぎると寝込むようなひどい頭痛発作は起こらな
い代わりに、だらだらと重く締め付ける感じの頭痛が続くようになった。」このような症例
は古い分類で混合性頭痛としていた典型例です。国祭頭痛学会分類では、以前のものは片
頭痛で、中年以降の頭痛は緊張型頭痛と診断されるでしょう。このようなパターンを片頭
痛が加齢とともに変化(transform)したということで、米国の Mathew は変容性片頭痛
transformed migraine という概念を提唱しています。ただ国祭頭痛学会分類のカテゴリーと
しては現在のところ認められていません。一方、片頭痛の治療に鎮痛薬などを乱用してい
ますと頭痛が発作性の型から、連日性になっていくことがあります。いわゆる薬物乱用に
よる慢性連日性頭痛ですが、これも 変容 transform した片頭痛の一種と考えられています。
片頭痛と緊張型頭痛の一元論
Featherstone (1985) は「 Migraine and muscle contraction headache: a continuum」と題す
る論文で、片頭痛と緊張型頭痛は連続したものであるとしました。これは2つの頭痛の症
状の違いは頭痛型よりむしろ頭痛の程度に相関するとするもので headache severity model
とも呼ばれています。事実、電気生理検査、生化学的検査、自律神経機能などの検討で、
両方の頭痛の差は程度の差のみで、質的に同様な異常を示すものが少なくないのです。脳
- 44 -
波の検討では片頭痛、緊張型頭痛いずれでも 6 & 14 Hz positive spike や、突発徐波などの
脳波異常を認めることがあり、家族性に脳波異常を伴う頭痛家系を調査すると、臨床頭痛
型は、同一家系内に片頭痛、緊張型頭痛のいずれもが認められました。セロトニンの代謝
異常、血小板機能の異常は片頭痛でよく知られていますが、緊張型頭痛でも少なからず異
常を認めました。血清中、唾液中マグネシウムの異常もいずれの頭痛でもみられます。瞳
孔機能検査、起立試験などの心血管系自律神経機能検査でも片頭痛、緊張型頭痛ともに末
梢交感神経機能低下が示唆されており、その差は質的な差ではなく程度の違いであるとの
報告もあります。ミネソタ多面人格試験などによるパーソナリテイ研究でも、片頭痛患者
と緊張型頭痛患者に特徴的な差異は認めないとされています。
実際の頭痛診療でどのように考えるか?
”片頭痛”と”緊張型頭痛”の関係が、本質的に同質のものであるのかまったく独立し
たものかという議論は、学問的に興味深いのですが、結論はなかなか出ないように思われ
ます。一方、”片頭痛患者”と”緊張型頭痛患者”の境界は不明瞭で、慢性頭痛の患者さん
の大部分は、片頭痛と緊張型頭痛の両方の要素を併せ持っています。
緊張型頭痛と片頭痛の関係
慢性頭痛患者の症状を多変量解析したところ、緊張型頭痛、片頭痛の因子を区別するこ
とができました。したがって、個々の頭痛発作に関しては緊張型頭痛と片頭痛を区別でき
ますが、個々の頭痛患者さんでみてみますと、両方の要素をそれぞれの比率で併せもって
いて、境界は不明瞭です。
片頭痛因子は、拍動性、片側性、高度頭痛、悪心・嘔吐などで、すべて国祭頭痛学会分
類の診断基準に含まれています。症状の上で緊張型頭痛、片頭痛の因子を区別することは
可能です。片頭痛因子を多くもつものが片頭痛患者であり、緊張型頭痛因子を多くもつの
が緊張型頭痛患者です。およそ半々でもつものが、片頭痛と緊張型頭痛を合併した患者で、
以前は混合性頭痛、連合性頭痛などと呼ばれていた患者群に相当します。
- 45 -
片頭痛と緊張型頭痛の多くは症状は重複
片頭痛と緊張型頭痛の症状の多くは重複していて、個々の症状のみで診断することは困
難です。たとえば、軽度~重度の頭痛、両側性および片側性の頭痛は両者に認められます。
また、片頭痛、緊張型頭痛ともに拍動性でないことが多い。さらに、緊張型頭痛の特徴
と認識されることの多い「肩こり」も多くの片頭痛で随伴しています。
片頭痛因子(血管症状)
拍動痛
片側性
高度頭痛
悪心・嘔吐
緊張型頭痛因子(筋症状)
締め付け感
圧迫感・頭重
後頭部の頭痛
肩こり
片頭痛は、一回の発作においても段階によって症状の変化がみられる頭痛です。大きく
分けると、予兆(前ぶれ症状)、前兆、頭痛発作、後症状になります。前兆(閃輝暗点:せ
んきあんてん)の有無には個人差がありますが、予兆は大抵の方にあります。予兆の症状
の中で、一番多いのが「肩こり」です。「生あくび」や「空腹感」が現れる方もいらっしゃ
います。
この予兆は、頭痛をよく知っている医師にとってはごく当たり前のことなのですが、国
際頭痛学会による「片頭痛診断基準」では、触れられていません。ですから、一般の医師
- 46 -
の中には、予兆を知らない方も多いようです。患者さん自身が誤解していらっしゃること
も多く、初診で来たときに、「肩こりから起こる頭痛だと思うのですが・・・」とおっしゃ
る方がよくいらっしゃいます。私はその後の頭痛の経過を詳しく聞きますが、もし予兆を
知らない医師であれば、
「肩こり」だから「緊張型頭痛」と診断してしまうことになります。
肩こりを訴えて首のレントゲンを撮った結果、首に異常が見つかり、「緊張型頭痛」と診
断される方も多いようです。片頭痛は女性に多い病気ですが、首がきゃしゃな人で 40 歳以
上であれば、首のちょっとした異常は多少なりともあります。肩こりや首の異常を理由に、
片頭痛の人が緊張型頭痛と診断されて薬を出されても、その薬はほとんど効果がありませ
ん。そこで、病医院に行くのをあきらめて自分で市販薬を買って対処しているうちに今度
は薬剤誘発性頭痛になって、毎日のようにつらい頭痛に悩まされる患者さんが非常に多い
わけです。私のところにいらっしゃる患者さんでは、以前他の病院で緊張型頭痛と診断さ
れた方の 8 割以上は片頭痛であることが判明しています。まず、医師も患者さんも、片頭
痛の予兆に「肩こり」があることを知っておくことが大切なのです。
片頭痛の痛み方そのものも、発作の過程や時期によって変化します。最初は、ドクンド
クンとした拍動性(脈に合わせて痛むこと)であっても、市販薬を乱用して薬剤誘発性頭
痛を引き起こしていれば、痛みはドーンとしたものに変わってきます。また、片頭痛は女
- 47 -
性ホルモンと関係が深い頭痛ですから、女性ホルモンの年齢的な変動によっても痛みは変
化し、更年期になるとやはりドーンとした痛みに変わるようです。拍動性の痛みでないか
らと言って、片頭痛を否定することはできません。
片頭痛だから片側が痛む、と思いこんでいる方も少なくないのですが、これも間違いです。
片頭痛でも、左右どちらかの痛みを強く感じる場合はあるにせよ、基本的には両側が痛む
ことが稀ならずあるのです。
このように予兆の「肩こり」だけでなく、「拍動性」「片側が痛む」という症状も、片頭痛
と緊張型頭痛の診断にはあまりあてにはなりません。
それではどのように見分けるかというと、片頭痛に特徴的な随伴症状で判断します。例
えば、「動くとガンガン響いてつらい」「吐き気がする、吐いてしまう」「光、音、匂いに過
敏になる」がそうです。これらは、痛みが拍動性ではなくても、肩こりを伴う場合でも、
片頭痛であればみられる特徴的な症状で、国際頭痛学会による「片頭痛診断基準」でも取
り上げられています。このような随伴症状があれば、片頭痛と思って間違いはありません。
自分で頭痛を見分ける際にも、頭を振るなど体を動かしてみて、頭痛がひどくなるかどう
- 48 -
かをみるのが有効です。「動くとガンガン響いてつらい」症状は、片頭痛であれば予兆のよ
うな比較的早い段階からみられますが、緊張型頭痛の場合は動いてひどくなることはあま
りありません。
頭痛が起こり始めた時、この頭痛がどこへ行くかはミステリーなのです。緊張型で終わ
るのか、緊張型頭痛経由片頭痛なのか、片頭痛直行なのか。これは患者さんにも分かりま
せんし、医者にはもっとわかりません。
頭痛体操やストレッチ、階段の上り下りをしてみても見極めがつかない場合は、飲み慣
れた使いやすい鎮痛剤を飲んで戴いて、30 分後に頭痛が悪化してくるようならトリプタン
系薬剤を飲んで下さい。また、朝から痛い場合は片頭痛と考えられますし、ご自分の経験
上片頭痛だとわかる場合には、最初からトリプタン系薬剤を服用して下さい。
以上のように、緊張型頭痛も片頭痛も共通して、ストレートネックを高頻度に認めるわ
けですので、このように臨床症状には、重複するものが多いということです。
片頭痛としての、特徴的な症状を把握しておくことが極めて大切なのです。
発作時の、おくすりの服用の仕方を考える際の重要な点になります。
- 49 -
以上の点は、片頭痛も緊張型頭痛も、ともにストレートネックを基盤として、頭痛が引
き起こされ、これらの頭痛がどのような”形”になるかは、その時、その時に、誘因(引
き金)が、いくつ重なるかで決定されるのではないでしょうか?
少ない”引き金”では軽い緊張型頭痛で終わり、複数の”引き金”が重なれば、重度の
片頭痛発作が引き起こされるものと思われます。
その程度も、さまざまだろうと思われます。
参考文献
間中信也:機能性頭痛一元論
脳神経外科速報
2012:22:96 ー 98
竹島多賀夫:緊張型頭痛と片頭痛の関係。頭痛診療のコツと落とし穴:2003:45 ー 47.
第5章
片頭痛はなぜ起きるのか
片頭痛の起きる仕組みは、現在三叉神経血管説と呼ばれる説が受け入れられています。
脳には大脳と小脳があり、下に脳幹という部分があります。大脳から小脳、脳幹はすべ
て繋がっていて、脳神経が縦横に走っています。
脳神経には1番から 12 番まで番号がついています。例えば神経1番は鼻に繋がってい
て脳に臭いを伝える、2番は視神経で視覚的なものを脳に伝える、8番は聴覚的なものを
支配し、9番 10 番は喉の筋肉を支配する、というように、それぞれの神経がさまざまな
感覚を脳に伝える役割を担っています。
それらの脳神経の1つに三叉神経があります。
三叉神経は、顔の感覚を脳に伝えるとともに、脳の中の血管や脳を取り巻いている膜の
感覚などを脳に伝える役割をします。
例えば頬を触ったとき、その感覚がどのような経路を辿って脳に伝達するかを考えてみ
ましょう。
まず「頬を触った」という皮膚の刺激が三叉神経の末梢に伝わります。刺激はそこから
三叉神経節に伝わり、三叉神経核というところを通って脳幹に伝わり、視床という感覚の
- 50 -
中枢部分を通って、感覚や痛みを感じる大脳のてっぺんに伝わって「頬に触った」という
感覚になります。もし三叉神経の末梢で感じたのが「触った」という触覚ではなく何らか
の「痛み」であれば、同じ経路を辿って大脳のてっぺんで痛みを感じることになります。
三叉神経説では、頭の中の血管を取り巻いた三叉神経が何らかの原因で刺激されて痛み
が生し、この経路を辿って痛みを自覚して片頭痛が起きるのではないかと言われています。
それではなぜ、血管を取り巻いた三叉神経が刺激されるのでしょうか。
人間に何らかのストレスがかかった場合、血小板内に備蓄されているセロトニンという
物質が血管内に放出されます。セロトニンは全身に分布していますが、脳の中では神経伝
達物質として作用し、感情に対する情報をまとめて安定させる、という役割があります。
セロトニンは血管を強力に収縮させますので、セロトニンが血液中に増加しますと血管
がキュッと縮みます。増加したセロトニンは、血小板内の備蓄が少なくなるに従って、だ
んだん減少します。血管内のセロトニンが減少すると、収縮していた血管が今度は急激に
バッと拡張します。このとき血管を取り巻いている三叉神経が刺激されて痛みに繋がると
言われています。
また三叉神経の末梢が刺激されると、サブスタンスPやCGRPと呼ばれる神経ペプチ
ドが分泌されます。これらの神経ペプチドは、血管作動性神経伝達物質と呼ばれるもので、
血管周囲に分泌されると炎症を起こし、血管がさらに拡がって痛みが出てきます。
これが三叉神経血管説と呼ばれる片頭痛の起きるメカニズムです。
この説はまだ仮説なのですが、メカニズムとしては非常にわかりやすいものです。
血管が拡がって三叉神経を刺激して痛みを感じ、また三叉神経は血管を取り巻いている
ため、心臓の拍動に合わせた血流のドクドクという動きでさらに刺激され、拍動の合わせ
てズキズキと痛むこともある、ということになります。
片頭痛の特徴である前兆や予兆は、血管の中にセロトニンが増加し、血管が収縮した際
に起きることがわかっています。目がチカチカしたり、過食になったり、また肩が凝った
りという症状が起き、その後、セロトニンが枯渇して血管が拡張したときに痛みが起きま
す。また痛み刺激が脳へ伝達される際には脳幹を通りますが、脳幹には自律神経の中枢網
がありますので、悪心や嘔吐を来すことになります。
- 51 -
片頭痛に効くトリプタンと
いう薬には、拡張した血管を
収縮させる作用と、サブスタ
ンスPやCGRPという痛み
の物質が分泌されるのを抑制
する作用の両方があります。
いわば片頭痛が起きる原因を
なくしてしまいますので、そ
れだけ効果が高いということ
です。
片頭痛は、ワインやビール、
チョコレートなど、食べ物が
誘因となって起きることがあ
ります。お酒は元々血管を拡
張させますので、それで片頭
痛が起きるのはわかります
が、では食べ物と片頭痛がど
う関わっているのかというこ
とは、実はまだはっきりとわ
かっていません。
ワインやビール、チーズ、チョコレートなどに多く含まれるチラミンという物質が関わ
っているのではないかと言われていますが、それにしても、そういうものを食べても頭痛
が起きないときもあります。
片頭痛
そのメカニズム
片頭痛の原因については、諸説ありますが、現在、最も有力視されているのは、顔面の
知覚を脳に伝える 三叉神経が密接に関わっているとするものです。脳の血管は収縮と拡張
を繰り返すことで、 脳内の血流量を一定に保つように調整しています。
- 52 -
そして、この調整を担っているのが、血液中の血小板から放出されるセロトニンという
神経伝達物質です。 ”何らかの原因(引き金・トリガー)”で、血小板からセロトニンが
大量に放出されると、脳の血管は収縮します。
ところが、そのセロトニンが出尽くすと、今度はその反動で脳の血管は急に拡張します。
その刺激によって、 血管周囲の三叉神経の末端から炎症物質がしみ出て、神経の炎症が血
管の周囲に引き起こされます。 同時に、急激に拡張した血管によって、周りの三叉神経が
- 53 -
圧迫されて痛みが大脳に伝えられるのです。
片頭痛発生器
以上のように、片頭痛の病態を説明する仮説として,これまで血管説,神経説および三
叉神経血管説の 3 つの機序が考えられ,それぞれ独立して唱えられてきました.今日では,
これら 3 つの仮説は片頭痛における病態の一部をそれぞれ反映しているものとして捉えら
れています.片頭痛の前兆は大脳皮質拡延性抑制(CSD)が主な病態であり,疼痛は三叉
神経血管系の神経原性炎症です.これらを引き起こすもの,結びつけるものとして”片頭
痛発生器”の存在が提唱されています.一方,片頭痛の痛みの起源に関しては,脳血管や
硬膜など末梢性に起因するという考えと,脳そのものにより三叉神経脊髄路核が活性され
て生じているものではないかという考えがあります.片頭痛の病態生理にはいまだに解明
されていない点がありますが,片頭痛とは,「素因を有する個体において何らかの刺激によ
り起こる神経系および血管系の異常反応である」ことに間違いないようです.すなわち,
「セ
ロトニンの生体内での異常変動が惹起する,全身反応を伴う頭蓋血管の異常状態」といえ
ます.
このように、片頭痛は、これまで長い間、脳を取りまく血管の病気、つまり「血管性頭
痛」であると考えられてきました。しかし、片頭痛前兆の研究や片頭痛特効薬トリプタン
の作用メカニズムなどから、現在では血管の疾患ではなく、大脳の深い部分にある間脳あ
るいは脳幹と呼ばれる器官の付近に「片頭痛発生器」があると考えられるようになってき
ています。つまり片頭痛は「中枢神経疾患」であると考えられています。
片頭痛発生器とは
まず、片頭痛を考える上で重要なポイントは、
発作のトリガーが生じた時に、その発作が増強さ
れやすくなる特性を、もともと片頭痛患者が有し
ている可能性です。
これは、一部の遺伝性片頭痛患者において Ca2+
- 54 -
チャネル異常による神経細胞機能の変調が存在する事や、片頭痛患者において発作間欠期
に交感神経系の機能低下の存在することと一致します。(この点がストレートネックの関与
が示唆される点です)
このような”片頭痛を増強しやすいと考えられる母体”に、何らかの原因で脳幹に存在
していると考えられている“片頭痛発生器 (migraine geberator)”が活性化され、spreading
despression や三叉神経血管系の異常な活性化により頭痛が生じると考えられています。
つまり、全てヒトに片頭痛発生器があり、それが活性化されることはあるのですが、一
部の人に、その刺激を増幅してしまう“体質”があり、それが臨床的な“片頭痛”として
現れるとされています。
そして、その片頭痛発生器ですが、片頭痛発作発生源として脳幹の縫線核、青斑核およ
び、中脳水道周囲灰白質 (periaqueductal gray mater : PAG) なとが候補に挙げられていま
す。とくに 中脳水道周囲灰白質 PAG は前頭葉や視床下部から入力を受け、三叉神経脊髄
路核や脊髄後角へ投射する下行性痛覚抑制系の神経回路を形成する一部であり、高解像度
MRI により片頭痛患者で PAG における鉄含有量の増加が認められたことと合わせ、注目
されています。
また、中脳 中脳水道周囲灰白質 PAG の血管奇形からの出血で慢性片頭痛となった症例
が報告されており、この系の疼痛抑制の障害により頭痛発作が助長された可能性が考えら
れています。
片頭痛発生器への刺激、すなわち、前頭葉や視床下部へは、ストレスやいろいろな刺激
・食物などが原因となるということです。
一方、発作時にトリプタンの効果が認められない症例などの機序の一つとして、脳過敏
という概念も注目されています。これは、脳が外からの刺激に過敏になることで、片頭痛
発作が起こりやすい状態になっていること言います。主な症状は「臭い過敏」
、「音過敏」、
「光過敏」などで、片頭痛が正しく認識されていなかった結果、適切な治療が行われてい
なかった症例がこの状態となることが推測されています。
こうした脳過敏の起こるメカニズムとして脳幹部の機能低下と考えられており、こうし
た部位は鍼の鎮痛効果のメカニズムと一致することから、鍼治療はこうした脳過敏を正常
化することで片頭痛患者に寄与しているものと考えられています。
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さらに Arterial Spin Labeling MRI を用い、鍼刺激が片頭痛患者の脳血流に及ぼす影響に
ついて検討を行い、片頭痛患者に顔面部及び頸肩部に対し鍼刺激を行うと、鍼刺激中、鍼
刺激直後、鍼刺激 15 分後、鍼刺激 30 分後に有意な脳血流の増加が認められ、同部位は片
頭痛発生器と一致しさらに鍼の鎮痛メカニズムの中枢であることから、こうした部位への
反応が片頭痛の発作予防に関与する可能性があることについて報告されています。
この点も示唆的なものと思われます。
参考までに、セロトニン神経は、脳の中心にある「脳幹」の、さらに中央に位置する「縫
線核」という部分にあります。
「縫線核」は片頭痛発生器が存在する可能性のある部位でもあります。
第6章
片頭痛治療の進め方
片頭痛は、生まれつき「セロトニン神経の働き」が悪いため、「痛みを感じやすく」なっ
ているため、一寸した身体的・環境的な変化により脳の血管を拡張させて「頭痛発作」を
起こす病気です。また、セロトニン神経の働きがよくないため「姿勢」にも影響を及ぼし、
大半の方々は頸椎レントゲン検査でストレートネックが確認されます。このストレートネ
ックがありますと片頭痛の「誘発・増悪」因子の一つにもなってきます。
従来、この生まれつきのセロトニン神経の働きの悪い「頭痛体質」があるため、脳血管
が動脈硬化を起こして、血管が拡がらなくなる年齢まで治らないと諦める方々が殆どでし
た。ところが、これまで多くの方々が自分で工夫をされ、片頭痛を改善される方々が増え
て来ました。このような方々の方法をもとにして、改善方法が次第に明らかにされつつあ
ります。
これまで、国際頭痛センター長で日本頭痛学会の理事長である坂井文彦先生は、以前「片
頭痛医療」は「コミュニケーシヨン医療」であると以下のように述べておられました。
片頭痛の医療は患者さん参加型で
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1.おまかせ型・・・救急医療
2.医師指導型・・・従来型、一方通行(一般の病気の場合です)
3.患者さん参加型・・医師と患者さんのコミュニケーシヨン医療(片頭痛医療)
・知識をもつ
・症状を観察する
・医師に情報として伝える
・治す工夫を考える
片頭痛医療の特徴
1.自覚症状が主体である
2.問診が重要
→
3.頭痛情報の伝達
→
患者さん参加型
コミュニケーシヨン医療
→
臨床上の工夫が必要(頭痛日記など)
一般の病気は「おまかせ型」「医師指導型」の従来型の一方通行の医療であって、本質的
に「医師に言われるまま」従っていさえすれば治ってしまうものとされています。
ところが、片頭痛は、「医師と患者さんがコミュニケーシヨン」を取りながら、一緒に治
していく病気であり、”医師任せ”では治らないとされています。
このためには、患者さん自身が「知識を持って、自分の症状を観察し、医師に情報とし
て伝え、自分で治す工夫をする」ことが必要不可欠とされています。
それでは、片頭痛の根治を目指すための手順について、まず述べます。
1.まず、頭痛発作時の対処方法を会得します。
2.つぎに、片頭痛の起こり方を知ります。
3.発作回数が多い場合には、予防薬の服用を考慮します。
4.最後に、片頭痛を根本的になくす方法を行っていきます。
(1)セロトニン神経をいかに鍛え、減弱させない生活習慣を・・
(2)ストレートネックがある場合は、この是正に努めます。
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以上を順序立てて・出来れば平行して、着実に行っていきます。これを行いさえすれば、
発作は必ず起きなくなって来ます。ただ、発作時に一部の先生が申されるように「頭痛発
作の都度、トリプタン製剤を”漫然と”服用していさえすれば、治るといったものではあ
りません。この点が一番重要な点です。
1.頭痛発作時の対処法
まず、発作時にお薬を使うことになりますが、市販の鎮痛薬が効いておればそのまま服
用しますが、効かなければ「トリプタン製剤を使うことになりますが、現在5種類の製剤
があり、最初に発作の状況から推測して、このうちの1種類が処方されます。服用されて
その「効果」を確認して下さい。次回受診時に「その効きめ」を教えて下さい。これらの
5種類の製剤はそれぞれ、個々の患者さんとの相性がありますので、まず一番効果のある
ものを見つけることが大切です。(人によっては、全く効かない場合もあります。)
次に、トリプタン製剤を服用する場合、その服用のタイミングがあります。
自分の「頭痛発作のパターン」を的確に把握していませんと「最適な服用のタイミング」
を見つけることは不可能です。ご自分の発作のパターンを確認する必要があります。
このためには、一般的な片頭痛の経過を知り、これと自分の頭痛発作と対比して自分自
身の発作のパターンを把握しておくことが重要です。そして、パターンが把握できれば発
作の早期に服用することが、重要になってきます。
このようにして、発作時の対処法をまず見つけ会得する必要があります。
2.片頭痛の起こり方を知る。
本来、片頭痛は、発作が治ま
れば全く何ともありません。これ
は、何らかの引き金(誘因・トリ
ガー)が原因で起きていることを
意味しています。
このため、この引き金(誘因・
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トリガー)を確認することが極めて大切ですが、これを把握するには患者さん本人にしか
できないことです。せいぜい、医師ができることは、どのようなものが引き金(誘因・ト
リガー)になる可能性があるかを示すことしかできません。この引き金は、その日の体調
・環境などによって必ずしも、いつも同一とは限らず特定することは簡単ではありません。
このため、どういった状況で頭痛発作が起きたかを詳細に医師に伝えない限り、医師から
のコメントは得られないということです。
また、人によっては、いくら注意を払っても、この引き金を認識できない方が多いようで
す。これは、日常的に何気なく行っている動作が引き金になっていることが多いからです。
(このような方々は、「体の歪み」が関与している方が殆どです)
さらに、1.との関連もありますが、誘因に引き続いて、予兆、前兆、頭痛、寛解、回
復期と一連の経過をたどっていきますが、自分自身の「発作のパターン」を把握すること
で、発作前日・当日の状況を的確に見極めることが、誘因(トリガー)を見つけるために
重要になってきます。誘因さえみつかれば、半分は治ったようなものです。
しかし、引き金の見つかる確率は極めて低いようで、この理由は以前述べました。
3.発作回数が多い場合には、予防薬の服用を考慮します。
市販の鎮痛薬にしても「トリプタン製剤」
にしても、月に 10 回以上服用して来た場合
は必ず、再度受診の上、副鼻腔炎、甲状腺疾
患、貧血等々などの増悪疾患の合併の有無を
確認した上で、発作が頻回になった要因が何
かを「セロトニン生活」と逸脱していないか
どうか「生活習慣の乱れ」がないかを反省し
た上で、予防薬の服用を考える必要がありま
す。
このように、月 10 回以上の服用を持続さ
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れますと、以後「薬剤乱用頭痛」を併発してきます。このような「薬剤乱用頭痛」は片頭
痛の慢性化の最大の原因となり、ここから抜け出すことは容易ではなくなります。
片頭痛治療上、最も大切な点は、片頭痛の慢性化を如何にして防ぐかがポイントです。
いずれにしても、予防薬を服用しつつ、厳重な経過観察が必要になってきます。
予防薬の効き目の現れ方は極めて緩やかで、効果発現までに最低2カ月は必要とされて
います。
また、発作回数が増加する原因として、慢性のセロトニン不足やストレートネックが持
続しているためのこともあり、この点も考慮する必要があります。
4.片頭痛を根本的になくす方法
たちまち、頭痛発作時の対処方法を会得できた段階で、片頭痛を根本的になくす方法を
講じていきます。
最初に、説明致しましたように、片頭痛患者さんは生まれつき「セロトニン神経」の働
きが悪く、一寸した身体的・環境的変化により脳血管が拡張しやすく、このため頭痛発作
を起こしてきます。また、姿勢保持が困難となり、ストレートネックを引き起こしてきま
す。こういった観点から、まず、如何にして「セロトニン神経」を鍛え、減弱させない生
活習慣を徹底して行うかということです。
理想的な「セロトニン生活」を目指して、睡眠・ストレス対策・食事上の注意点を励行
しなくてはなりません。
このような「セロトニン生活」の効果が発現してくるまでは最低限3カ月は必要です。
さらに、ストレートネックをいかにして是正させるか工夫していきます。
このストレートネックを改善を考える場合、まず、歯のかみ合わせに問題がないか、足
に外反母趾や扁平足などがないか点検を行い、日常の作業環境を点検する必要があります。
ストレートネックを助長させるような作業環境に置かれていないかどうか逐一見直す必要
があり、何か問題がみつかれば是正していくことが大切です。
そして、前屈みで仕事をされておられる方は、毎日、引き起こされた「筋肉疲労」はそ
の日のうちに是正・改善させていくことが極めて重要です。絶対に日々蓄積されていく「筋
肉疲労」をため込まないことです。この帳尻が合わないと、いつまでもストレートネック
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は改善されません。
このためには、体操・ストレッチ・エクササイズを日常生活に取り入れ、習慣化させて
下さい。このようなことは自分でする必要があります。誰もしてくれません。
このストレートネックの是正も極めて重要な改善点です。
以上のような手順で、片頭痛を根治させていきます。
このような手順・方法はすべて、患者さん自ら行う必要があります。
発作時のトリプタン製剤の服用方法にしても、自分の頭痛発作のパターンを的確に把握
できませんと最適な服用のタイミングで服用はできません。
また、頭痛発作の誘因(トリガー・引き金)を見つけるにも、患者さん自身がしないこ
とには誰も見つけてはくれません。
そして、根本的に治すための「セロトニン生活」を徹底させるのも患者さん自身がしな
くてはなりません。さらにストレートネックを改善させるのもカイロプラクターや整体師
が治すのではありません。日々の日常生活を送る中でストレートネックにならない注意と
改善策を講ずることなしには是正できません。
一部の先生が提唱されるように「頭痛発作時の都度、トリプタン製剤を”漫然と”服用
していさえすれば、自然に片頭痛が治ってしまう」ようなことは絶対にあり得ません。
こういった意味で、片頭痛医療は「コミュニケーシヨン医療」であって、その場面・場
面で疑問に思ったことは医師と相談し、納得ずくで、それ以降の治療を進めていかなくて
はなりません。逆に言えば、患者さんが主体で、医師は”従”の立場で「助言者」にすぎ
ないのかもしれません。いちいち手取り足取り指導はしてくれません。患者さんが主体的
に疑問を持って、片頭痛と向かい合う姿勢が必要とされます。
ここが、一般の病気とは、根本的に異なる点です。
あたかもカリスマ教団の信者のごとく教祖様の教えに従えば治るといった”幻想”は直
ちに捨てることが、片頭痛を根本的に治すための最低限の条件です。
このようにして根治方法を模索していく訳ですが、しかしこのような方法を講じても確
かに約 10 %前後の方々は治らないことは事実です。このような方々は、遺伝的に単一遺伝
形式をとられる方や極めて特殊な型の片頭痛で遺伝形式が極めて濃厚な方々、さらにてん
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かん源性の片頭痛の場合は容易にはコントロールできないのが現状であることは認めなく
てはなりません。このような方々は「頭痛専門医」の手に委ねるしかないと思われます。
しかし、9割の片頭痛の方々は、例え「頭痛体質」が生まれつき存在したとしても、コ
ントロールできる可能性を秘めておられる方々です。
このような観点から、徹底した「セロトニン生活」と「体の歪みの是正」に一度はチャ
レンジすべきと考えます。最初から、片頭痛だからと諦めないことが重要と考えます。
私は、これまでの経験上、初回の片頭痛を発症した「片頭痛の疑い」の段階からこのよ
うな考え方で対処すべきと思っております。
片頭痛の診断は、5回以上同様の「頭痛発作」を経験して、やっと下されるように規定
されていますが、5回目の発作で診断されてから治療を開始するのではなく、初回の頭痛
発作が起きた「片頭痛の疑い」の段階から治療を開始すべきと思っております。
少なくとも 20 歳前後までには大半の方々は発症される訳ですから、この段階から行うべ
きと思っております。
といいますのは、30 歳を超えてきますと、多くの方々は、頭痛の頻度も回数も増加して
きます。これは 30 歳を境として「ストレートネック」の改善が困難となってくるためと推
察しております。少なくとも 30 歳までには「ストレートネックを改善」させておくべきと
考えております。これに成功すれば、極めて順調に片頭痛がコントロールできるような印
象を現段階で持っているからです。
現実に、片頭痛のコントロールができていない方々はすべて 35 歳以上の方々で、このよ
うな年齢になると、ストレートネックが固定化され改善が困難である事実と符合している
ものと考えております。
このような事実を踏まえて、決して諦めないことが大切と思っています。
それも、極めて早い段階から治療を開始すべきと考えます。
第7章
頭痛発作時の対処法
●痛くなったときの治療
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片頭痛治療は、実際頭が痛くなった時の薬です。現在は「トリプタン」という片頭痛に
非常に効果が高い薬があります。日本では 2000 年に販売が許可された片頭痛専門の治療
薬です。
トリプタンが出るまでは、片頭痛に使いやすくて効果的な薬がなく、一般的な鎮痛薬を
処方するしかありませんでした。片頭痛はこれらの鎮痛薬で治ることもあれば、全く効か
ないこともあり、患者さんにとっては、一度では効かず何度も飲んだり、痛くなるのが不
安で続けて飲んだりすることで、薬物乱用頭痛に陥る原因にもなっていました。
●痛くなるのを予防する薬
次の片頭痛治療は、片頭痛が起きるのを予防する薬です。
例えば1カ月に3回も4回も頭痛が起き、トリプタンを飲まなければならないというよ
うな頭痛頻度が高い患者さんには、トリプタンへの依存を防ぐためにも患者さんに適した
予防薬を処方し、頭痛が起きるのを防いだり頻度を少なくする必要があります。
予防薬を飲んでおくと、たとえ頭痛が起きても軽くてすみ、またトリプタンの効果も上
がるというメリットがあります。予防薬を飲むこと、そして頭痛が起きてしまったときに
はトリプタンを飲むことで、実際かなりの頭痛を解消することができます。
予防薬にはいくつかの種類がありますが、患者さんの症状や効き方の違いに応じて最も
適したものを処方します。
トリプタンは新しい薬ですが、予防薬として使用されているのは昔からある薬です。た
だ、片頭痛の予防薬として効果があるということが見直されたのは比較的最近のことです。
プロプラノロールは高血圧や不整脈の薬、バルプロ酸はてんかんの薬、トリプタノール
はうつの薬、というように、以前から片頭痛以外の病気の薬として長く使用されています。
これらの薬は、本来適用されている病気のほかに、片頭痛の予防にも効果があることが
わかったのですが、片頭痛予防薬としての保険適用はないため、元々その薬が使われてい
る病名で処方しなければなりません。当然、カルテにはうつやてんかんという病名を記入
する必要があります。
日本で一つだけ片頭痛の予防薬として保険適用されているのは、塩酸ロメリジンという
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薬で、これは 2009 年から発売されるようになっています。
これらの薬は、たとえほかの病気の病気の適用であっても、かなり昔から使い古されて
いますので、副作用も知り尽くされており、安心して使用することができます。
予防薬は、ずっと飲み続けなくてはいけないというものではありません。頭痛があまり
起きなくなったら飲むのをやめて様子を見ます。やめて起きるようなら、再度飲みます。
患者さんの中には、予防薬をやめても頭痛がほとんど起きなくなった方も多く、また頻度
が激減し、たまに起きたときにはトリプタンを飲めばすぐに治るので、頭痛がないのと同
じです、という人もいます。
このように片頭痛の治療は、まず自分の頭痛の起き方や体のリズムとの関係を把握し、
誘因と思われるものをできるだけ取り除くこと、それでも痛くなったら片頭痛治療薬を飲
むこと、そして頻発するようであれば予防薬を飲むこと、という3つから成り立っていま
す。
患者さんと医師が話し合いながら、この3つのコンビネーシヨンをうまく使って、でき
るだけ頭痛の頻度を減らし、最終的には頭痛のない生活、頭痛フリーの生活を手に入れる
ことが、現在の片頭痛治療の大きな目的といえるでしょう。
画期的な治療薬トリプタン
トリプタンの登場
トリプタンは片頭痛に非常に効果のある頭痛専用の薬で、日本では 2000 年に販売が許
可されました。トリプタンの登場によって片頭痛の治療は画期的に進歩しました。
トリプタンが出る前、頭痛で医者に来る患者さんに対しては、鎮痛剤か、片頭痛の治療
薬としてただ一つだけあったエルゴタミン製剤という薬を処方するのがせいぜいで、あま
りひどい場合は痛み止めの点滴をしたりしましたが、これといって効果的な治療法はあり
ませんでした。
エルゴタミン製剤という片頭痛薬は、使い方がとても難しい薬です。痛くなってから飲
んだのでは効かないので、痛くなる前に飲まなければなりません。患者さんは痛くなると
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大変だからと、頻繁に飲むようになります。すると薬物乱用頭痛を起こしてしまいます。
また、ある程度痛くなってから飲むと、頭痛が治まらないばかりか悪心嘔吐を起こします。
エルゴタミン製剤を使っていた片頭痛の患者さんたちの悪心嘔吐は、そのかなりが薬のせ
いだったと言われているほどです。
また医療機関が処方する鎮痛薬は、市販のものよりは多少強いのですが、片頭痛には効
かない場合も多く、忙しい中わざわざ医者に行っても、たいして効かない鎮痛剤をくれる
だけなら市販の薬でも同じ、医者に行っても無駄だ、と、頭痛持ちの患者さんたちを医者
から遠ざける原因にもなっていたように思います。
ところがトリプタンは、片頭痛を持つほとんどの患者さんに対して、非常に効果があり
ます。エルゴタミン製剤のように悪心嘔吐を起こしたり、飲むタイミングがとても難しい
ということもありません。午前中を潰して病院に行くだけの価値は絶対にありますので、
片頭痛で悩んでおられる方は是非一度は試してみて下さい。
トリプタンを治療で使う場合、口から飲む経口薬(頓服)、シュッと鼻から吸収する鼻吸
入タイプ、皮下注射という3つの方法があります。注射が最も効き目が早く、打って 10
分もすると頭痛が治まってきます。次に早いのが鼻吸入タイプで 15 分ほど、頓服の場合
は1時間ほどで効き目が現れます。
注射器タイプのトリプタンをいつも持っていて、痛くなったら自分で注射する患者さん
も多いようです。片頭痛ではほとんどの場合、痛くなったときにすぐに飲むことができる
よう、経口タイプの頓服を処方します。激しい頭痛で吐き気があり、口から飲むことが難
しい場合などは、鼻吸入タイプのものを使うこともあります。
頓服は水で飲みますが、以前、高校生の患者さんが、授業中に片頭痛発作が始まり、先
生に断って頓服を飲みに行こうとしたら、席を立つのを許されず非常に苦しい思いをした
と相談され、水がなくても口にいれると溶けるタイプのものを処方することも可能です。
トリプタンという薬は現在、4つの製薬メーカーから5種類発売されており、いずれも
「○○ トリプタン」という一般名がつけられています。
この5種類のトリプタンは、どれも片頭痛に効果がありますが、飲んで素早く効果の出
るもの、効き目が長く持続するものなど、それぞれ少しずつ異なります。さまざまなトリ
プタンがあれば、それだけ各患者さんの痛みの質に合わせて選ぶことができますので、患
者さんにとっても非常に便利です。
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トリプタン製剤の使い方
トリプタンは市販薬ではありません。医療機関を受診し、片頭痛という診断をされて初
めて、処方される薬です。片頭痛の痛みには非常に効果的ですが、使い方を間違えると治
る頭痛も治らず、薬物乱用頭痛になりかねません。
単に片頭痛だからトリプタン、群発頭痛だからトリプタンというのではなく、専門医に
自分の頭痛の様子や頻度などをきちんと話し、頭痛が起きる誘因を排除したり予防薬と併
用しながら、正しく使用することが必須です。
トリプタンは、これは明らかに片頭痛である、という頭痛が起きたときに飲みます。風
邪をひいたときの頭痛に飲んでも効果はありません。必ず、片頭痛のときに服用します。
またトリプタンも有効率 100 %ではありませんので、体調などさまざまな状況によって、
効かないときもあります。一度飲んで、2時間経ってもまだ痛みがあるか、ひどくなって
いる場合には、もう一度飲むことができます。1日に飲んでも良いと言われている個数は
トリプタンの種類によって異なり、2つまでのものと4つまでのものがあります。
市販の鎮痛薬には、かなりの量のカフェインが含まれていて胃を荒らすことがあり、ま
た1日に何度も飲むことはできません。それに比べるとトリプタンは体にとって優しい薬
と言えます。
ただし、頭痛が起きるかもしれない、と思って予防がてら毎日1錠ずつ何日か続けて飲
む、というのは避けなければいけません。他の薬と同様、薬物乱用頭痛を起こすことがあ
ります。1カ月に6回以上激しい頭痛が起きてトリプタンを飲むようであれば、主治医と
相談して予防薬を飲むべきでしょう。予防薬と併用することで頭痛の頻度が減り、トリプ
タンの効き目も良くなります。
またトリプタンにも副作用があります。服用してしばらくすると、胸の辺りが少しキュ
ッと締め付けられるようになることがあります。これはトリプタンの副作用で、患者さん
の心電図などをすべて確認しても異常がないことがわかっており、全く安全なので心配あ
りません。5分か 10 分すると症状は消えます。
もう一つ注意が必要なのは、トリプタン服用のタイミングです。服用のタイミングを間
違えると、本来なら治る頭痛も治らず、長い時間苦しむことになりかねません。
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トリプタンは、明らかに片頭痛だと思われる頭痛が始まったらすぐに服用するのが最も
効果的です。日本人の場合、痛みにできるだけ耐えることを美徳とする傾向があり、痛み
が始まってもなかなか鎮痛剤を飲まない患者さんも多いのですが、頭痛がひどくなってか
らでは、さすがのトリプタンも効果が出ない場合があります。
初めてトリプタンを処方された患者さんで、効かない、と訴える人によく話を聞いてみ
ますと、痛みをさんざん我慢して我慢して、もうダメだ我慢できない、というときになっ
てやっと飲んだ、という場合がほとんどです。トリプタンは痛みを止めるための薬、痛み
を我慢しなくても良いための薬なのですから、始まったな、と思ったらすぐに服用して下
さい。
また片頭痛には前兆のある方もいらっしゃいますが、トリプタンは前兆時に服用しても
全く効果がありません。また痛みが引く頃になって飲んでも効きません。あくまでも「痛
み」が始まったときに服用します。
誤った服用方法をしている例を紹介します。
24 歳の典型的な「前兆のある片頭痛」 の患者さんでした。この患者さんは、頭痛が始
まるときの前兆として目がチカチカする閃輝暗点があり、その後、激しい頭痛が始まる、
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3,4年前から起きるようになりました。
ある日の夕方、ひどい頭
痛が起きて翌日も痛みが残
っていたため、近くの医院
を受診したところ、トリプ
タンが注射されました。た
だ、このときは激しい頭痛
はすでにほとんど治まって
いたので、トリプタンの注
射が効いたかどうかわから
ない、と言います。その際、
トリプタンの内服薬を処方され、次に頭痛が起きたときに飲むように指示されたのですが、
飲んでも全然効かないと、来院されました。
トリプタンが効かないというので、初めは痛みが激しくなってしまってから飲んではな
いか、と思ったのですが、詳しく話を聞いてみますと、トリプタンを処方した医院で、目
がチカチカし始めたらすぐに飲むように、指示されたそうです。言われたとおり、閃輝暗
点が始まってすぐに飲んだのですが、全く効果がなく、激しい頭痛が1日続いて寝込んで
しまった、とのことでした。
この患者さんの場合は、明らかにト
リプタンを処方した医師の指示が誤り
で、患者さんの痛みを防ぐことができ
ず、さらにせっかくのトリプタンを無
駄にしてしまったケースです。
トリプタンは、「明らかな片頭痛の痛
みが始まったら即座に」という最も効
果的な正しい服用のタイミングを理解
して戴き、患者さんは、我慢せずに、痛みが始まったらすぐに飲むこと。これが、患者さ
んの苦しみを減らし、決して安くないトリプタンという薬を有効に活用するためには、大
切なことなのです。
- 68 -
トリプタンはなぜ効くのか
トリプタンが片頭痛に効果
があるのは、頭痛が起きる仕
組みの根幹部分に作用してい
るためです。「片頭痛はなぜ起
きるか」でもお話ししました
ように、片頭痛にはセロトニ
ンという物質が大きくかかわ
っています。セロトニンは神
経伝達物質のひとつで、感情
のバランスを安定させる役割
を持ち、血管を収縮させます。
ストレスなど何らかの理由で
セロトニンが分泌され、収縮
した血管は、役割を果たして
減少するにつれて今度は拡張
します。
血管が拡張することによって血管に絡みついた三叉神経が刺激され、頭痛が起きる、とい
うのが一つ。
さらに、三叉神経が刺激されると、サブスタンスPやCGRPなど炎症を起こす物質が
分泌され、血管を刺激して痛みが出てくる、というのが一つ。
この二つが片頭痛が起きるメカニズムでした。
このように血管の収縮と拡張に大きく影響しているセロトニンですが、トリプタンとい
う薬は、セロトニンと同じような作用を持っています。そのためセロトニンの代わりに血
管を収縮させ、拡張によって三叉神経が刺激されるのを防ぎます。
さらにセロトニンは三叉神経に取りついて、痛み物質のサブスタンスPなどが分泌され
るのを抑制する役割がありますが、ここでもセロトニンの代わりにトリプタンが三叉神経
に取りつき、サブスタンスPなどの分泌を抑制して痛みが出るのを防ぎます。
- 69 -
このようにトリプタンは脳の中でセロトニンとして働き、血管を収縮させ、サブスタ
ンスPなどの分泌を抑制する、という2つの役割を果たすことにより、片頭痛の起きる原
因そのものを排除します。つまりトリプタンは、片頭痛という病気のより本質に近いとこ
ろに作用して痛みを取るため、効果が高いというわけです。
トリプタンが出る前に使用されていた鎮痛剤や市販の鎮痛薬は、本質的な痛みの部分に
作用しているのではなく、痛みの伝達を途中でブロックして感じなくしているだけです。
そのため、痛みが強いと効果がなかったり、薬を飲んだときには少し良くなっても、し
ばらくして薬の効果が薄れてくるとまたすぐに痛くなったり(痛みはずっと続いているた
め)することがあります。
トリプタンも効かない場合
今までお話ししてきたように、片頭痛に非常に効果のあるトリプタンですが、それでも
有効率は 100 %ではありません。中には、トリプタンを使っても完全には治りきらなかっ
たり、部分的にしか効かないという場合もあります。
そのような場合には、患者さんと一緒になって、何とか少しでもよくなるように、あれ
これとさまざまな方法を試すようにしています。
トリプタンは5種類あります。すべて少しずつ異なりますから、どれが一番良く効くか
順番に飲んでみたり、また予防薬もいろいろな種類を試し、飲み方や飲む量を加減します。
さらに患者さんの生活パターンも変えてみて、少しでも頭痛が軽くなるような、また起
きる回数が減るような方法はないか、模索します。
特効薬でもときには取りきれないことのある片頭痛の痛み。
これがどこからくるのか、どういうメカニズムでこのような痛みになるのか。
片頭痛の治療は、解明しなければいけないことが、まだたくさんあります。それでも、
ずいぶん多くの患者さんの痛みがトリプタンという片頭痛治療薬によって解消されるよう
になりました。
片頭痛予防薬・・・どれだけ有効か?
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たいていの片頭痛患者さんは抑制治療だけで済むのですが、人によって、頭痛の回数が
多い、抑制薬を使いすぎる、抑制薬が効かない、頭痛の回数を減らしたいという患者さん
に対しては、予防薬が併用されています。この予防薬としては
1.ベータ遮断薬
2.カルシウム拮抗薬
3.カルデサルタン
4.抗うつ薬
5.抗てんかん薬
6.ビタミン類
7.ボツリヌス毒素
等々の薬剤が使われています。
しかし、これらの薬剤が、すべての患者さんに効くというわけではありません。
予防薬の効果については、医師もよいようには感じていない場合がありますが、じつは
その程度の効果しかないからです。
ところが、なかには非常に効いた、という患者さんもいますし、よく効くと思っている
医師もいます。このような場合は、大抵初診の患者さんに使った場合です。予防薬の実際
の効果ではなく、患者さんが診断を受けたり、薬をもらったことによって安心したために、
精神的影響によって頭痛が減ったということが多いのです。
また、頭痛の回数は減らないけれど、痛みが弱まったという人もいます。だからといっ
て、抑制薬を使う回数が減るほどの効果はありませんが、痛みが弱まったために日常動作
が改善し、それだけでもよいと感じる人も少なくありません。
このように、予防治療の有効率は決して高いものではありません。
ほとんどの薬剤が、有効率は 30 ~ 40 %、すなわち 10 人中3~4人しか効きません。し
かも、個人差が激しいので、薬によって有効率は異なります。効かなかった場合には、他
の薬に代えてまた、2~3カ月様子をみる、という気長な対応が必要です。
また、効果を確認できるまでの期間も短くないのです。
予防治療に使われるどの薬剤も、効果を発揮するまでには4週間くらいはかかります。
はじめの2週間くらいはまったく効かないのが普通です。3~4週めになっていくらか
頭痛の回数が減っていると感じたら、効果があったと考えてよいとされています。なかに
- 71 -
は、2カ月めになってやっと効果がはっきりしてくることもあります。
以上が、従来の片頭痛予防治療の有効率の実態です。
最近経験した、47 才の女性ですが、9 才頃から頭痛があったということでしたが、29
才の時に出産され、この後から頭痛発作が酷くなったそうで、31 才を超えてからは週に1
回は寝込むほどの激しい発作を繰り返され、近くの「頭痛外来」で診てもらっておられた
ということです。
ありとあらゆる予防薬を半年おきに投与され、さらにトリプタン製剤の「内服薬」を一
つずつ試されたようですが、全く予防薬の効果はなく、どのトリプタン製剤も効果がなく、
現在は、イミグランの点鼻薬を使って、2日間寝込んで、発作が治まるのをじっと耐えて
おられたようです。
このため、これまでMRIでは異常なかったとのことでした(また、甲状腺機能・貧血
はなく、副鼻腔炎もなかった)ので、「頸椎レントゲン検査」をさせて頂きました。その結
果「ストレートネック」が確認されました。そこで、改めて、さらに問診を追加致しまし
た。
その結果、ストレートネックを来す原因として、「姿勢の問題・・猫背」「歯のかみ合わ
せの問題」さらに「足の問題・・扁平足・浮き足」の3つの問題が明らかになりました。
頸部の筋肉部分には多くの箇所に圧痛点が確認されました。
そこで、このような3つの問題を抱えている以上、絶えず「片頭痛を誘発させる刺激」
が3カ所から送られているため、通常の「トリプタン製剤」では頭痛発作そのものを「抑
制」できないし、予防薬自体効果がなかったと、申し上げました。今後、これらの原因を、
一つずつ是正しない限り、問題は解決しないと説明し、それぞれの解決策を説明申し上げ
ました。
このように、頭痛発作の多い方は、諸々のチェックは当然必要ですが、予防薬を併用を
考える場合、必ず、ストレートネックの有無を確認し、もしあれば、こちらの原因を追及
した上で、これらの除去を同時に行っていく必要があると考えます。
従来、片頭痛治療にあたって、セロトニン・ストレートネックに対する視点がなかった
ため、片頭痛の回数が増えてきたり、トリプタン製剤の効き目が悪い場合、予防薬の効果
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が悪かったのはこのためで、予防薬を服用する場合は、必ず「セロトニン生活を心がけ・
ストレートネック是正に努めることが必要不可欠です。
予防薬だけを漫然と服用するだけでは何も解決はしません。
第8章
誘因探しの難しさ・・「体の歪み」との関連から
片頭痛の治療上、第一に大
切なのが「誘因探し」です。
片頭痛は、様々なことが引
き金になって起きることが知
られています。例えば心筋梗
塞を防ぐには、そのリスクフ
ァクターである高血圧や運動
不足を解消することが大切で
あるのと同様、片頭痛を防ぐ
には、引き起こす原因を探し
だしそれを除去することが大
切であると従来から言われて
参りました。
片頭痛の誘因には、飲食物
やストレス、人混みなど、さ
まざまのものがありますが、特定する際に難しいのは、人によって誘因が異なること、ま
たそのときの体調によっては、誘因があったからといって必ずしも片頭痛が起きるとは限
らないということです。
片頭痛が起きたときには、その前に何を食べたり飲んだりしたか、そのとき何をしてい
たか、回りの環境はどうだったか、などを分析し、片頭痛が何によって起きたのかを考え
てみましょう。同じ事が原因で何度も頭痛が起きるようであれば、それが自分の片頭痛の
誘因だと判断し、必要のないものはできるだけ避けることで、片頭痛が起きるのを防ぐこ
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とができるとされています。
片頭痛の誘因となるものは、睡眠不足や睡眠過多、人混み、赤ワイン、ビール、チョコ
レート、ハム、ソーセージ類などがよく知られています。このほかにも何か強い臭いが刺
激になって起きる場合、また夢中になって読書やテレビゲームをしたとか、夜遅くまで友
人たちと喋っていたなどということも、誘因になることがあります。
人によって、またそのときの
体調によって、環境によって、
片頭痛を引き起こす誘因はさま
ざまです。睡眠不足が続きスト
レスも重なっている、というと
きに赤ワインを飲んだら激しい
頭痛がきた、というように、い
くつかの誘因が複合的に重なっ
ているときにも注意が必要です。
しかし、人によっては天気・
気圧に関係して起きる方も多い
ため、このような気象といった不可抗力のものが関係している場合は取り除くことができ
ないと諦めておられる人もおられるようです。
このため、これまで多くの先生が「発作時の記録」の重要性を指摘されて来ました。
最近では、小橋雄太さんは、そのブログ「イミグラン錠・副作用なしに偏頭痛を治しち
ゃえ」の中で、頭痛発作時に、その発生前日と当日の状況を詳細に記録を重ね、これを積
み重ねる事によって、共通の発生要因を探り、原因と思われるものに対してひとつずつ対
処していく方法を述べています。
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小橋さんは記録のための「専用ノート」を用意して、ノートが真っ黒になるまで詳細に
記録されたようです。まさに執念というほか無かったのではないでしょうか?小橋さんが
述懐されておられるように、なまじトリプタン製剤が効いていたらここまではしなかった
と・・述べております。
この点は、私も片頭痛患者さんを最初に診せて頂いた際に、発作時の状況を記録して頂
くようにお願いしています。その際に、私は、北里大学の坂井文彦・五十嵐久佳先生らが
考案された「頭痛ダイアリー」を利用させて頂いていますが、頭痛発作時に「思い当たる
ことがあれば」適用欄にメモしてもらうようにお願いするのですが、大半の方は、頭痛の
起きた日と程度は記載されるのですが、肝心の「思い当たること」の記載はありません。
いつも、私は、再来時に、この点をお聞きするのですが、決まって返ってくる「返答」は
何がきっかけになったのか、原因はよく分からないということです。
片頭痛発作は、何か引き金になるものが無い限り起きないと、くどいばかりに説明する
のですが、理解されません。あたかも、突如に、起きて来るという返事しか得られません。
これまでは、当医院では、一般的に、誘因(トリガー)となりうるものをすべて記載した
ものを、お渡しして、発作時に何が関与していたかを見つけ出すようにお願いしていまし
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た。具体的に、どこで、どのような状況で起きたのか、例えば、その日の体調はどうであ
ったか(食事はちゃんと摂取していたか、睡眠は十分であったか、あるいはいつもより寝
過ぎていなかったか、生理中ではなかったか)また、天気がどうであったか、さらに、ど
のような場面で頭痛が起こり始めたか、等々、気がついたことを記録してもらうことです。
このような誘因を見つけ出せるのは、患者さん本人しか出来ないことだからです。
最も、患者さんにして欲しくないことは、片頭痛の原因が、CTで分からなければ、M
RIであれば、原因が分かるのではないかと考えて、MRIを撮影してもらうことです。
MRIを撮影したからといって、片頭痛の原因は絶対にわかりません。(脳自体の器質的
な病変は発見は出来ますが、誘因そのものの探索には無力です)
いずれにしても、患者さん本人が、片頭痛発作時の状況の把握・分析の積み重ねを行う
ことが、片頭痛克服するための、最低必要条件だろうと考えて行って参りました。
発作時の記録方法ですが、私は、これまで、「頭痛ダイアリー」を利用しておりますが、
このダイアリーの摘要欄の空欄が狭いためか、ほとんどの方は記載されません。ただ頭痛
の起きた日と、その程度くらいしか記入されません。このため、小〇雄〇さんのように、
専用のノートを用意して、発作状況を詳細に記録するのが一番よいように思います。
このように記録を重ねるだけで、自分自身で、発作の誘因が探り出せる方々は極めて少
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ないのですが、このような方々は、自分で対
処されて、発作を起こらなくされています。
問題は、いくらこのように発作時の記録を
お願いしても、発作の引き金が何かを見いだ
すことができない方がおられます。これらの
方々は、次の2つが原因として考えられます。
一つは、発作の誘因が、日常生活そのもの
の中にある(体の歪みにある)ために気がつ
かない場合と、もうひとつは、自分の「片頭
痛発作」のパターンがよく理解されていない
場合です。
この「片頭痛発作のパターン」がよく分か
っていない場合に、発作の誘因の分からない
方は、一般的な「片頭痛発作」に関する知識
がなお不足しているため、自分の発作パター
ンが、よく理解できていないものと思われま
す。ということは、片頭痛を克服するには、片頭痛の”一般的な知識”が必要とされるこ
との「証明」だろうと思います。
敵を知り(一般的な片頭痛の知識)、己を知る(自分の片頭痛を知る)ことが、片頭痛克
服のスタートとだろうと思われます。
発作の誘因は、患者さん以外の人間には、誰も分からないことで、本人の原因探索の意
志がない限り、見つけることは不可能です。ここに片頭痛治療の難しさがあります。こん
な面倒なことをする位なら、痛み止めを飲んで我慢しようといったことが、根治にまで至
らない理由であることは想像できるだろうと考えます。
もうひとつ。発作の誘因が、日常生活そのものの中にあるために気がつかない場合です。
このような方々は、全く誘因に気がつくことは到底不可能です。
最近、来院された 50 歳男性の患者さんは、片頭痛の家族歴が不明で、頸椎レントゲン
検査では、これまで述べたような頸椎異常を示していました。発作の誘因として思い当た
るものはなく、ただ趣味の「ラジコンの組み立て」を4,5時間にわたって長時間「うつ
むき姿勢」で行ったり、横になって、右側臥位で2,3時間ビデオ鑑賞を行って、枕を高
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くして就寝すると、翌朝、必ず、頭痛発作が起きると述懐されていました。
この方は、「姿勢」に関連して、発作が起きており、本人は、トリガーを自覚されておら
れませんでした。このように「姿勢」に関連したものは、自分では、まず、トリガーを自
覚できません。
私は、このような引き金となる要因としての「体の歪み」との関連を付け加えるべきと
考えております。そして、これは日常生活を送っているだけで、誘因に繋がるというやっ
かいなものなのです。
それは、最近の誘発因子調査によりますと、
「睡眠不足」71.1 %、
「頸・肩の凝り」67.1
%、「旅行・外出」65.3 %、「過労」52.9 %、「目の疲れ」44.5 %、「緊張」43.6 %、「睡眠過
多」27.6 %などが挙げられました。また、チョコレートや赤ワインなどの特定の食品によ
り頭痛が誘発されたとする人は極めて少数でした。
このように、誘発因子として 「頸・肩の凝り」が高頻度に、挙げられています。
実地臨床の場面でも、発作直前に、頸筋の異様な凝り・痛みを訴えられることを経験し
ます。この事実は、絶対に無視すべきでないと考えます。
特に、事務系のお仕事に携わっておられる方が、長時間パソコンとにらめっこした後に、
発作が誘発された経験をお持ちの方は、いらっしゃると思いますが、いかがでしょうか?
しかし、現実に片頭痛でお悩みの方々の大半は、この引き金に気づいておられません。
これは「体の歪み」が関連していることの証拠とも言えます。
このように、日常何も意識せずに行っていることが関係している場合は、当然本人が気
がつくこと自体無理なことだと考えます。
また、一方、薬剤乱用頭痛となったり片頭痛が慢性化してしまった場合には、このよう
な手法での誘因(引き金)の探求はさらに困難を極めてきます。こうした場合は、予防薬
を服用しながら、セロトニン生活を徹底して行い、さらに「体の歪み」を是正することを
並行して行わない限り、これらの困難な状況からの脱却は不可能と考えております。
第9章
片頭痛と生活習慣・・セロトニンとの関連から
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片頭痛の治療は、トリプタン製剤が出現する以前から、基本的な考え方として、規則正
しい生活を行って、食事をバランスよく摂り、睡眠を十分にとり、リラックスするように
と、生活指導がなされて参りました。これはエルゴタミン製剤の時代からずっとです。
(このように至極、当然のような生活様式でありながら、片頭痛の方は、このような一
般常識である「生活様式」からかなりかけ離れている方が多いように見受けられます。)
しかし、当時は、このような生活様式のあり方が「セロトニン不足」と関連づけた考え
ではなく、あくまでも、経験的に考えられていました。
日本頭痛学会・日本神経学会の作成した「片頭痛診療ガイドライン」には、このような
生活指導に関しては、全く触れられておりません。
平成 20 年、第 36 回日本頭痛学会において、東邦大学生理学教室の有田秀穂教授によっ
て「血中セロトニンは脳内セロトニンの変動を反映するか?」という招待講演が行われて
以来「セロトニン神経をいかにして活性化するか」について検討が重ねられ、巷では「セ
ロトニン生活」といった「言葉」まで作られ、また、医療関係者でない一般人から、この
方式で、「片頭痛を克服した」と主張されるまでに至っています。
従来行われて来た生活指導の「規則的生活・十分な睡眠・バランスのよい食事摂取・リ
ラックス」が、「セロトニン生活」で行えることが、医学的に証明されたと言えます。「セ
ロトニン生活」を、日常生活に具体的に取り入れる方法を示したのは、山崎有為で、自ら、
この方式を実践して「片頭痛を克服」したと「頭痛解体新書」の中で述べています。
山崎とは別に、禅、太極拳、ヨガの方式も、これと同様の考え方と思われます。
ところが、トリプタン製剤が出現後は、このような基本的な生活指導をせずに、薬だけ
を服用すればよいといった風潮が優勢となり、これが「片頭痛は治らない」という考えや
批判につながり、現在でもなお、片頭痛は不治の病とされています。
最近では、エビデンス医療を重要視する余り、このような「基本的な生活習慣」による
「片頭痛治療効果」のエビデンスがないために軽視されているのか、または当然のことと
して触れていないのでしょうか?(言うまでもないこととして)。
恐らくは、厳重な「セロトニン生活」を徹底して行っていけば、いつの日かは、片頭痛
は起こらなくなるものと期待され、これを試みる方々が多くなったようですが・・
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ただ、誰も、生きている以上「聖人君子」のように「セロトニン生活」の全てを行うこ
とが可能であるとは限らず、この点は、妥協しながら、片頭痛と「お付き合い」しなくて
は、いけない場合も当然あります。このような場合が多いことは否定しません。
このよう状況であるからこそ、頭痛外来も、トリプタン製剤メーカーも、
「お互いが潤う」
ことによって、丸く収まっているのかも知れません。しかし、片頭痛患者さんにとっては、
たまったものではありません。
あくまでも、理想的な形の「生活様式(ライフスタイル)」にすれば、発作は「必ず、起
きなくなる」といった、夢を「医師たる者は示すべき」ではないでしょうか。
それとも、片頭痛患者さんがいなくなれば、頭痛外来は干上がり、トリプタン系製剤メ
ーカーの収益が激減してしまうため、以上のような点を無視されているのでしょうか?
セロトニン生活で、片頭痛体質改善を!
1.セロトニン神経は、どんなはた
らきをするのでしょうか?
セロトニン神経は、脳の中心にあ
る「脳幹」の、さらに中央に位置す
る「縫線核」という部分にあります。
そして、大脳皮質や大脳辺縁系、視
床下部、脳幹、小脳、脊髄など、あ
らゆる脳神経系と結合し、脳の広い
範囲に影響を与えている神経です。
セロトニン神経は、目覚めと共に活発化する交感神経に影響し、覚醒後のアクティブな行
動を可能にするために、カラダを適度なスタンバイ状態にするはたらきをします。
心の面では、クールな覚醒、つまり平常心を保つはたらきをします。セロトニン以外に
も心の状態を演出する神経には、快感や陶酔感を増幅する「ドーパミン神経」と、様々な
ストレスによって覚醒反応を引き起こす「ノルアドレナリン神経」があります。セロトニ
ン神経は、この2つの神経に対して抑制作用を及ぼし、興奮と不安のバランスを図り、心
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の状態を中庸に保つはたらきをします。
2.セロトニン神経が弱まるとどんなことが起きるのでしょうか?
セロトニン神経が弱まると、中枢神経系のバランスが崩れ、様々な症状を引き起こしま
す。覚醒状態をうまくコントロールできなくなるため目覚めが優れず、その後もなかなか
調子が出ません。また、うつ状態やパニック発作、摂食障害(過食や拒食を繰り返す)な
ど、俗に“現代病”と呼ばれている症状の多くが当てはまります。また、ストレスが加わ
った時に過激な行動が抑えられなくなる「キレる」という状態も、セロトニン神経が弱ま
った時に起こる症状と重なります。
かつて、セロトニン神経を破壊された
ラットを、マウスと共に飼育するという
動物実験が行われました。すると、ラッ
トはマウスを殺して食べてしまうという、
通常みられない行動を引き起こしました。
しかし、ラットの脳にセロトニンを補給
するとこの症状は消失したといいます。
動物実験をそのままヒトに当てはめて考えることは妥当ではないかもしれませんが、セロ
トニンが極端に欠乏した状態の1つの例証といえます。
また、脳内セロトニンの不足が色々な病気の原因の一つとして知られています、片頭痛、
不眠症、睡眠障害、冷え性、うつ病、産後うつ、更年期障害、月経前症候群などの様々な
病気が誘発されていると考えられています。
女性は男性の 52%しか脳内セロトニンがなく、さらに生理前や更年期による女性ホルモ
ンの変化により脳内セロトニンが少なくなると考えられています。その事から、片頭痛、
冷え性、産後うつ、更年期障害、月経前症候群、などは女性に多いと考えられています。
3.セロトニン神経はどうして衰えてしまうのでしょうか?
セロトニン神経には、歩行、呼吸、咀嚼などの基本的なリズム運動によって活性化され
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るという特性があります。毎日の生活の中で、こうしたリズム運動を自然に繰り返してい
れば、セロトニン神経は正常レベルに保たれます。したがって、こうした運動を極端に抑
えた生活を継続することは、セロトニン神経の減弱を招きます。例えば以下のような生活
習慣には要注意です。
・あまり外出をしない
・移動にクルマを頻用し、歩くことが少ない
・コンピュータ操作などで1日数時間にわたって同じ姿勢をとり続ける
・夜ふかし、朝寝坊の昼夜逆転生活
また、加齢による身体機能の衰えも運動不足に繋がります。セロトニン神経の活性には
太陽の光も影響しますから、インドア指向の最近の子供たちの生活、とくに連日、息をつ
めてゲームをやり続けるという習慣などは、セロトニン神経が減弱しやすくなるのです。
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4.セロトニン神経を鍛えるにはどうしたらいいのでしょう?
まずは、セロトニン神経の活性を妨げる生活習慣を改善することが第一です。朝起きて
太陽の光を浴び、適度な運動とバランスのよい食事を摂るなど、規則正しい生活を心がけ
ましょう。その上で、意識的な呼吸法やリズム運動を実践すると効果的です。ただし疲れ
過ぎたり、栄養の摂取をサプリメントなどに頼り過ぎると、かえってセロトニンの過剰摂
取を招くことも。また、こうした規則的な生活を継続させることが重要です。
1.セロトニンを増やすための5つのポイント
(1.)早寝早起きの規則的な生活を心がける
セロトニンは、太陽の出ている日中に分泌されやすく、睡眠中は日が沈んでからは分泌
が少なくなります。これは後述のメラトニンの働きと関係していますが、人間が本来持っ
ている生活リズムは『日中に活動し夜は寝る』と言うもので、この原則を守ることがセロ
トニン神経の活性化に効果的だといわれています。
(2.)太陽の光を浴びる
セロトニンは、睡眠ホルモンであるメラトニンと相対する性質があります。
セロトニンは脳の覚醒を促し、メラトニンは睡眠に作用します。
メラトニンが分泌している間はセロトニンの分泌は少なく、逆にセロトニンが多く分泌
されている間はメラトニンの分泌は少なくなります。
太陽の光(のような非常に強い光・明かり)を浴びると、睡眠ホルモンであるメラトニ
ンの分泌がストップし、代わりに脳の覚醒を促すセロトニンの分泌が活発化されるのです。
昼夜逆転の生活をしていたり、日中部屋の中にばかりいると、セロトニンとメラトニン
の分泌のバランスが崩れ、不眠症になったり、うつ病になりやすくなったりしてしまうの
です。
毎朝日光を浴びる行為は、セロトニンを鍛えるだけで無く、生活リズムを整えることに
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もつながります。
(3.)リズミカルな運動をする
スクワットや階段の昇り降りなど、一定のリズムを刻む運動を反復して行うとセロトニ
ン神経が活性化されるとされています。
先日国民栄誉賞を受賞された、女優の森光子さんも 70 歳から体力維持の目的でスクワッ
トを始めて、これまでずっと継続して来たそうです。
89 歳でも舞台に立ち続ける彼女の元気の源も、このリズミカルな運動にあるといえるで
しょう。
同様に活発な活動をされている黒柳徹子さんもスクワットを毎日しているのも知られて
います。
スクワットに限らず、
『ウォーキング』や『深呼吸/腹式呼吸』
、最近人気の『フラダンス』
など、リズムの良い運動を継続して続けていくことが、セロトニン神経の活性化に役立つ
とされています。
また、こういった運動を 5 分以上行うとさらに効果的であると言われています。
(4.)食事をする際に、よく噛む
食事の際は必ず物を噛みますね。
このものを噛む動作(咀嚼:そしゃく) も、一定のリズムを伴った運動であるといえま
す。
上述のリズミカルな運動と同じく、セロトニンの活性化に役立ちます。
「運動はちょっと苦手・・・。」と、考えられている方でも、食事は必ず取るでしょうか
ら、食事の際によく噛んで食べることを心がけてみてはいかがでしょうか。
『ものをよく噛む』と言うことは、栄養の効果的な摂取や、消化を助けることにもつな
がりますし、あごの筋肉の維持など、セロトニンの活性化以外にも様々なメリットがあり
ますし、どなたでも簡単に試せる方法です。
(5.)トリプトファンを含む食品を食べる
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セロトニンの材料
= 『トリプトファン』 +『 ビタミン B6』
ガソリンが無ければ車が走らないように、材料がなければ人間の体はセロトニンを作る
ことができません。
体内でセロトニンを生成するには、必要な材料が幾つかあります。
セロトニンは脳内の『ほう線核』と言う部位で作り出されます。
ほう線核でセロトニンを作り出すために必要な材料の一つが『トリプトファン』と言う
物質です。
トリプトファンとは必須アミノ酸の一種です。
トリプトファンは、体内では生成することができない物質で、食事により体内に取り込
む必要があります。
また、セロトニンを体内で作り出すには、トリプトファンのほかにもう一つ『ビタミン B6』
が必要です。
トリプトファンとビタミン B6 が『ほう線核』で合成されることで、セロトニンが生成
されるのです。
トリプトファン
⇒必須アミノ酸の一種。食物から摂取する必要がある。
ビタミン B6 ⇒たんぱく質やアミノ酸の合成や分解を補助する働きを持つ。
セロトニンの原料となるトリプトファンとビタミン B6 を体内にバランスよく摂取する
ために、これらの栄養素を豊富に含んだ食材を摂ることを心がけましょう。
トリプトファンを含む食品の一覧
セロトニンの材料となるトリプトファンは食事を通じて私たちの体に補給されています。
チーズなどの乳製品、納豆や肉類などのお馴染みの食品にもトリプトファンは含まれて
います。
トリプトファンを配合しているサプリメントや栄養補助食品も広く販売されています。
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普段の食生活で以下のような食品を意識して食べて、セロトニンの生成を促進させまし
ょう。
バナナ 10mg/100g
豆乳 53mg/100g
牛乳 42mg/100g
ヨーグルト 47mg/100g
プロセスチーズ 291mg/100g
ひまわりの種 310mg/100g
アーモンド 201mg/100g
肉類 150 ~ 250mg/100g
赤身魚 200 ~ 250mg/100g
糸引納豆 242mg/100g
すじこ 331mg/100g
たらこ 291mg/100g
白米 89mg/100g
そば 192mg/100g
Wiki:トリプトファンより引用
ビタミン B6 を含む食材
赤身の魚(マグロ・カツオなど)
肉類(豚肉・鶏肉・牛肉など)
レバー(豚・鶏・牛)
豆類(大豆・小豆など)
果物(バナナ・プルーンなど)
尚、ビタミン B6 は腸内の細菌によっても一部体内で作られるため、一般的には不足し
にくい栄養素であると言われています。
- 86 -
ただし、もう一方のトリプトファンは、体内にはもともと存在しないアミノ酸です。
セロトニンを鍛えて健康な生活を送るには、上記のような食物を摂るように心がけ、普段
の食生活から意識して変えていくことががとても重要であると言えるでしょう。
片頭痛という病気は、脳血管が何らかの誘因で拡張しやすい体質からくるものです。こ
の「頭痛体質」は「セロトニン不足」が関与していると想定されています。
この「セロトニン不足」に対してどう対処するのか、これまで東邦大学の有田秀穂教授
らの知見をもとに「セロトニンを増やす、活性化させる」方法が提唱され、上記のような
ことに注意するようにこれまで言われてきました。
有田秀穂先生の著書「セロトニン生活のすすめ」等々、ありますので、一冊はご覧に
なられることをお薦め致します。
第10章
ストレートネック
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正常な首のカーブ
ストレートネック
ストレートネックは、文字通り首の骨が真っ直ぐになっている状態ですが、カーブを描
いているのが正常ですので、真っ直ぐであることは、「歪んでいる」ということです。
初診
3ヵ月後
頚椎(首の骨)は、少し前にカーブしているのが正常なのですが、何らかの原因により、
まっすぐになってしまう状態をストレートネックといいます。また、進行すると、逆に反
る 頚椎後弯変形(後方ネック) になる場合もあります。
重い頭を細い首で支えるには、適度なカーブにより重心をとらえる必要があります。頚
椎のカーブは、衝撃を吸収する役割もあり、とても大切なのです。
そのカーブが失われてしまうと、頭を首の筋肉だけで支えることになり、慢性的な肩こ
り・首のハリが起こり、いろいろな症状が現れます。
ストレートネックは、パソコン作業のようなデスクワークの人に多く発症しており、座
っている時の姿勢が大きく影響していると考えられます。
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また、ゲームや勉強を長時間続ける子供たちにもストレートネックが増えています。
右上の図を見てください。
緑のラインが頚椎のカーブ、赤のラインが重心線です。
左の頚椎は正常なカーブを描き、頭部は頚椎でしっかり支えられています。
右のストレートネックを見ると正常なカーブは失われ、頭は頚椎より前に来ています。
ストレートネックの場合、頭部や重心線が背骨より前に来てしまう為に、重い頭(約4~
5kg)を首の筋肉で支えなければなりません。
ですので、慢性的に首や肩がこり、それらの筋肉の緊張から頭痛などのトラブルを引き起
こします。
ストレートネックの方というのは、 いわばサスペンションの効かない車に乗っているの
と同じ状態です。
常に頭の重さは周囲の椎間板や筋肉や神経に過剰なストレスを与え続けていますので、
そういった期間が長期間続いてくると、 結果的に頚椎ヘルニアや慢性的に繰り返す寝違え
や頚椎症の原因になってきてしまいます。
ストレートネックは全身の歪み
脊柱(背骨)全体を見て下さい。
脊柱は頚椎・胸椎・腰椎・仙椎(仙骨)とい
う構成になっています。
頸椎(首)は、その脊柱の一部分です。
病院へ行くと、首だけをレントゲン撮影しま
す。レントゲンの結果、首が本来のカーブで
なくなっている(位置がずれている)とスト
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レートネックと診断されます。
レントゲンは、骨や軟骨を診るには凄い道具です。骨と骨のすき間を見ることや骨や軟骨
の変形は診れます。しかし、 骨や軟骨には神経がないのです。
レントゲンで写らないものは、関節包・ 骨膜・ 靭帯・ 筋肉・ 皮膚で、これらには、神
経があります。 痛みの原因となるものは、レントゲンには写らないのです。
また、結果と原因は違います。頸椎(首)が真っ直ぐ(ストレートネック)になってし
まう原因は、身体のいろいろな部分が関係しているのです。
ストレートネックの人は、100%、身体の生理的湾曲(S字カーブ)が崩れています。
「からだ」全てが正常に機能する為には正常な骨格でなければなりません。
骨格には筋肉が付いていますので、 骨格の位置のずれにより筋肉も正常に機能できなくな
ります。
ストレートネックの人は、頸椎に歪みがあるので、胸鎖乳突筋や肩甲挙筋に影響します。
また、 骨格がいびつ(歪み)だと内臓もいびつになります。 特に胸郭や骨盤には、大
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事な臓器がありますので、ストレートネックの人は、内臓が弱い場合が多いです。
ストレートネックの牽引治療に注意!!
ストレートネックの症状がある人は、必ず左右の歪み(捻れ)も一緒に起こっています。
ストレートネックであっても、左右のバランスが取れていれば症状は出ないのですが、ほ
とんどの場合、真っ直ぐな上に左右バランスの崩れが加わり、症状が出てしまうのです。
ですから、 捩れた状態での牽引治療はとても危険です。
ムチウチ症や椎間板ヘルニヤや首の狭窄症の患者に整形
外科が牽引治療を勧めますが、首が不安定な時に牽引を
すると靭帯を痛めたり、椎間板を痛めやすいのです。
ストレートネックは、身体全体の歪みです。
首だけを引っぱって治そうとしてもダメなのです
主な症状
ストレートネックの方の多くは、肩こり、
首のハリ、頭痛を訴えます。
ひどくなると、手のシビレや吐き気、め
まいなども表れます。
首の筋肉が常に緊張してる状態なので、
寝違いも起こりやすくなります。
頚椎には、椎骨動脈という太い血管が左右に通っているのですが、ストレートネックの歪
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みによって血流が悪くなります。
また、首には頚動脈洞という血圧を安定させる部位があるのですが、首の歪みによって機
能が低下し、血圧が不安定になることもあります。
首を傾けたり回りしたりした刺激により、めまいが起こったり、ひどいときには失神する
場合もあります。(頚動脈洞失神)
::::: 胸鎖乳突筋の異常緊張 :::::
ストレートネックの人は、胸鎖乳突筋が異常緊張しています。
頭痛、めまい、耳鳴り、不眠症など、自律神経失調症のような症状を引き起こします。
胸鎖乳突筋をしっかり弛緩させる事が、ストレートネックおよびむち打ち後遺症の最重要
課題です。
• 過度の涙の分泌
• 充血
• 眼輪筋の痙攣(まぶたがぴくぴくする)
• 視野の不明瞭
• めまい
• 鼻炎
• 耳鳴り
• 難聴
• 平衡失調
• 吐き気
• 眼瞼下垂
• 額の発汗
• 車酔い 、船酔い
• 血管性の頭痛(片頭痛)
ストレートネックとは直接結びつかないように思える症状も、実は身体のゆがみが招い
たストレートネックが原因であったりするのです。
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ストレートネックの原因
ストレートネックの原因
1
姿勢の問題
姿勢の悪さ、猫背は「ストレートネック」を来す大きな要因になっており、長時間の前
屈みの姿勢を持続することは、頭痛の悪化に繋がると経験的に指摘されていました。
ストレートネックを呈しておられる方は、常に頭の重さは周囲の椎間板や筋肉や神経に
過剰なストレスを与え続けていますので、 そういった期間が長期間続いてくると、頸椎に
歪みがあるので、胸鎖乳突筋や肩甲挙筋に影響します。
解剖学的に、三叉神経の尾側核は、頸髄の神経回路とも連絡しています。この点から、頸
椎X線所見で異常を認める(ストレートネック)方々が、頸部筋肉群に影響を及ぼして、
三叉神経尾側核に繋がって、絶えず刺激を送っていることは明確です。
以上の詳細は、東京脳神経センターの松井孝嘉先生の著書をご覧ください。
ストレートネックの原因
2
「体の歪み」
あなたの日常生活を振り返ってみてください。以下のような姿勢や体の使い方をしてい
ませんか?
◎ イスに座るとつい脚を組んでしまう
◎ ヒールの高いクツを長時間履いている
◎ 立っている時はたいていどちらかの足に体重を乗せている
◎ 横座りをする
◎ 立ち仕事や中腰の姿勢でいることが多い
◎ いつもどちらかを下にして横向きに寝ている
◎ または、うつ伏せになって寝ている
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◎ 長時間座りっぱなしの仕事
◎ イスやソファーに浅く座ってしまう
◎ バックなどはいつも同じ方の肩にかける
◎ 重たいモノを持つ仕事をしている
◎ 赤ちゃんをダッコしていることが多いなど
このような体の使い方をしていると、知らず知らずのうちに仙腸関節がズレ、骨盤のユガ
ミから脊椎( 背骨) のユガミが生じてきます。
仙腸関節のズレは、脊柱に影響が及びひいては頸椎にまで及んで、ストレートネックを
最終的に引き起こしてきます。この詳細は、後で述べます。
このような「体の歪み」もストレートネックの一因にもなっていることが考えられ、こ
こに注目して、カイロプラクター、整体師、鍼灸師らは治療を行い、成果を挙げておられ
ます。
ストレートネックの原因
3
歯の噛み合わせの悪さ
これまで、片頭痛と歯科的問題との関連を指摘するものが多く、ネット上で紹介されて
います。その代表的なものは、内田信友先生の「N.H.R.頭痛解消法」です。歯のかみ合わ
せの悪さが「ストレートネック」を起こして頭痛の原因となるという考えです。
このため、先生独自の提唱する「体操」と「テンプレート療法」を行うことによって、
片頭痛が改善されると述べておられます。
また、歯のかみ合わせの悪さが、咀嚼する度に三叉神経核に異常な刺激を送り続け、こ
れが「脳の興奮性」を高め、これが片頭痛の原因となるとも考えているようです。
噛み合わせと片頭痛治療
園田 哲也
NHK あさイチ噛み合わせ治して偏頭痛が治る
「片頭痛」特効薬は存在しない。上西 雅一
(慢性頭痛の根本原因は「下アゴのずれ」にある)
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港デンタルクリニック
歯科頭痛外来
などの色々なホームページで紹介されております。
詳細は、これらのホームページに直接アクセスして下さい。
ストレートネックの原因
4
足病変との関連
笠原厳は、「外反母趾、指上げ足(浮足)、扁平足など足裏の異常があると、足裏が不安定
になり、重心が踵の方へ移動して歩き方も悪くなってしまい、そして、悪い歩き方は時間
経過に伴い、首に過剰な衝撃波やねじれ波という有害なストレスを歪みの多い首へ繰り返
し伝えてしまうため、何倍もの負担を加え続け、次第に変形(歪みや微細な疲労骨折)を起
こして頭痛を発症させてしまう。」と述べておられ、ストレートネックの原因の一つとされ
ています。
ですから足裏のバランスを整えて、重力の上に効率よく立ち、そして正しい歩行をする
ことが重要だと述べています。
この詳細は、「笠原巌の公式ホームページ」をご覧下さい。
ストレートネックの原因
5
慢性的セロトニン不足
ストレスが、片頭痛の誘発因子の方は、かなり多いようです。一般的には、ストレスか
ら一気に解放されて起こるようです。これは、感情だけでなく神経も含めた体全体が急激
にリラックス状態になるので血管も急激に拡張して片頭痛を誘発するのです。
これを、防ぐために、 過度なストレスを感じないように普段の生活を送れば、そのギャ
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ップでストレスが解放されたときに過剰な反応をしないので、そういう生活を心掛けるよ
うに工夫をします。
さらに、セロトニン不足を引き起こす「不規則な生活習慣・食事・睡眠不足」等が日常
的になって来ますと、精神的に「うつ状態」となり、これに伴って姿勢も悪くなり「スト
レートネック」を引き起こす原因となっています。
しかし、最近の考えでは、どちらが原因か分からないという意見もあります。
これらも、片頭痛の発症要因・増悪因子にもなる可能性があります。
頭痛に関連した体の仕組み
私たちの身体を支え
る背骨(脊柱)は「脊
椎骨」という小さな骨
が積み重なった構造を
しており、椎骨と椎骨
の間にはクッシヨンの
ような働きをする「椎
間板」があります。椎
骨と椎骨はベルトのよ
うな「靱帯」でしっか
り繋がれています。
私たちが首と呼ぶの
は、脊柱の最上部から
7個までを指し、解剖
学的には「頸椎」と言
います。そして、この
上にある約6キログラ
ムの頭部を、頸椎をはじめとする椎骨(背骨)と頸部の筋肉が支えているのです。頸椎を
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はじめとする椎骨は複雑な構造で連なっており、その周囲をいくつもの筋肉群が取り巻い
ているので、頭を左右に動かす、首を回す、首を曲げるなどの複雑な動きが可能になるの
です。
また、頸椎には脳と直結する「脊髄」を保護する役目もあります。頸椎の中央には、「脊
柱管」というトンネル状の空間があり、その中を脊髄が通っています。脊髄から神経が枝
分かれし、脊柱の隙間から出て、肩や腕へ伸びています。この枝分かれした神経の根元を
「神経根」といいます。
「自律神経」は脳や脊椎の神経根から出て神経節をつくり、さらにそこから各臓器に連
絡しています。このように自律神経は、身体中に細かい神経のネットワークをつくり、身
体の各部署の働きを自動的に調節しています。
首は脳の一部であり、頸椎が主体となった神経の通り道であり、同時に肩や背中の筋肉
の一部が首と連携して頭部を支え、動かす中心的な役割を果たしているのです
首の動きをあやつる筋肉群
さまざまな筋肉に囲まれ、重い頭
を支えているのが頸椎です。頸椎の
まわりの筋肉には、「僧帽筋」「頭板
状筋」「頭半棘筋」「胸鎖乳突筋」な
どがあります。
僧帽筋、は首から背中にかけて大
きく広がる筋肉で、問題を起こす筋
肉首の筋肉のなかでは一番表層、つ
まり皮膚に近いところにあります。
この筋肉の首・肩部が収縮すること
で、肩をすくめるように肩甲骨を上
内方へ引き上げます。
頭板状筋は、僧帽筋の下にあり、
椎骨の後ろから上外方に伸びて後頭
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骨の外側と結んでいます。両側が同時に収縮すると、頭を後ろへ反らせ、片側だけ収縮す
ると、そちらのほうへ頭が回転します。
頭半棘筋は、頭板状筋の下にあり、ほぼまっすぐに上下に走って後頭骨と椎骨の後外側
を結んでいます。頭を後ろへ反らせる働きがあります。
胸鎖乳突筋は、耳の後ろにある骨の出っ張りとその付近から胸骨と鎖骨を結んでいます。
左右同時に収縮すると、首をすくめてあごを突き出す形になります。片方だけ収縮すると、
顔を反対に回しますが、頭全体は前傾しながら同じほうに傾きます。
以上4つの筋肉のほかにも、小さいながらも重要な筋肉がいくつもあります。頸椎と後
頭骨をつなぐ「大後頭直筋」「小後頭直筋」、頸椎の外側と後頭骨の外側をつなぐ「上頭斜
筋」「下頭斜筋」などです。いずれも頭を後ろに引
いて直立に保つ働きをしています。
これらの首の筋肉のこりがひどくなると、自律
神経を圧迫し、常に交感神経が副交感神経よりも
優位になると考えられています。そのために、頭
痛や頭重、全身倦怠感、めまい、不眠、イライラ
感、動悸、血圧不安定、発汗、目の乾燥など、さまざまな不快な症状が出てくるのです。
しかし、正確なメカニズムはわかっていません。今後、解明すべき課題です。
頭痛に関係のある神経
頭痛をもたらす神経として重要な
ものに「大後頭神経」があります。
大後頭神経は、第1頸椎と第2頸椎
の間から出て、後頭部や側頭部を中
心に、顔を除くほとんどの頭部へと
分岐していく神経で、頭半棘筋を貫
いています。その部分が、首のこり
によって圧迫されることで頭痛が起
きてきます。
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このような直接の原因に注目するなら、緊張型頭痛より、むしろ「頸性頭痛」と呼んだ
方が適切と思われ、松井孝嘉は、「頸性頭痛」という呼び方を提唱されています。
片頭痛の場合、その起きるメカニズムには、さまざまな説がありますが、脳の動脈の拡
張が原因であるという説が一般的です。三叉神経の末端は動脈周囲まで分布していて、動
脈が拡張することにより、その末端が引っ張られるために痛みが起きると考えられます。
脳には 12 対の脳神経があります。三叉神経は、脳の前のほうから数えて5番目の脳神経で、
脳から出て途中で眼神経、上顎神経、下顎神経の3つの神経に分かれることから「三叉」
という名がついています。おおまかにいえば、脳から出て、顔面を覆うように広がる神経
と思えばいいでしょう。
頭半棘筋に凝りが出ると、それが大後頭神経を刺激し、その刺激が三叉神経に伝わりま
す。大後頭神経と三叉神経は脳のなかで、三叉・頚神経複合体 trigemino-cervical complex
を形成していて、連結していますので、大後頭神経の刺激は三叉神経核にも伝わりま
す。この解剖学的所見から、脳の過敏性に関与し、片頭痛との関連が推測されます。
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ストレートネックは如何にして形成され、どう治すか
いかにして、ストレートネックは形成されていくか
”こりがこりを呼ぶ”悪循
環サイクル
肩こりや首こりとは、簡単
に言えば”体を動かさずにいる
ことによって起こる筋肉疲労で
す。筋肉疲労というのは、運動
をすることで起こるものと思わ
れがちですが、動かない姿勢を
ずっと続けていることによって
も、かえって特定の筋肉を疲労
させてしまいます。
なかでも、肩こりや首こりを
招くのは、長時間座りっぱなし
の姿勢を続けているとき、何時
間もパソコンに向き合っていた
り、休まずに車の運転をし続け
たりしている場合です。そうい
うとき、肩や首の筋肉はずっと
収縮したまま緊張し続けていま
す。その緊張状態の持続が筋肉疲労を招き、”こり”を起こす原因になるのです。
肩や首の筋肉が緊張して疲労すると、筋肉の中を走る血管が圧迫され、その部分の血行
が妨げられます。そして、血行が悪くなると、当然、その部分への酸素や栄養の供給が不
十分になってきます。
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本来、筋肉は酸素を使ってブドウ糖を燃焼
させて、必要なエネルギーをつくり出してい
ます。ところが、血行が悪く、酸素が十分に
行き渡っていないと、ブドウ糖が不完全燃焼
を起こし、乳酸などの老廃物質に変わってし
まいます。この老廃物質が筋肉や神経を刺激
して”こり”や”痛み”として知覚されます。
さらに、そのままじっと動かさずにいると、
血行はますます滞り、筋肉内に老廃物質がど
んどん貯まっていってしまいます。血流が促
されるのは、周囲の筋肉が収縮・弛緩を繰り
返すときですから、その筋肉運動がない限り、
”こり”は次々に発生していくばかりです。それに、”こり”や”痛み”の情報が脳に達す
ると、その情報がフィードバックされて、患部の筋肉や血管の緊張をいっそう高めてしま
います。すると、それによって、また多くの老廃物質が生産され、”こり”がひどくなって
いってしまうのです。
つまり、肩や首のこりや痛みを放っておくと、いずれ、”こり”が”こり”を呼ぶという
悪循環サイクルができてしまうことになります。そして、その悪循環が日々重ねられてい
くうちに、肩や首の筋肉がガチガチに固まり、より重度の症状へ繋がっていってしまうわ
けです。
6キロの頭を支える首の筋肉が疲労すると
ところで、みなさんは自分の「頭」がどれくらいの重さなのか、ご存じですか?
正解は6キログラムほどです。2リットル入りのペットボトルなら、約3本分に相当し
ます。これは、買い物カゴや袋に入れて手に持っても、かなりズシッとくる重さですよね。
このズシッとくる重いかたまりを「首」はいつも支えているわけです。
しかし、いつも直立姿勢で首の上にのってくれていればいいのですが、そうとは限りま
せん。前かがみやうつむきの姿勢をとったとき、首の後ろ側の筋肉にかかる荷重負担は、
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直立姿勢をとっているときに比べ、なんと約3倍になると言われています。
そこで、みなさん、胸に手を当てて考えてみて下さい。
前かがみやうつむき姿勢をとっている時間が、いかに多いかということを。
いかがでしょう。今は、1日中パソコンの前に座って仕事を仕事をしているような人も
決して珍しくはありませんし、仕事を離れても、携帯電話やゲームなどの画面に釘付けに
なっている人がたくさんいらっしゃいます。
要するに、日々の生活において、前かがみやうつむきの姿勢をとっている時間が非常に
長くなったお陰で、首の筋肉がコチコチにこり固まってしまっている人がとても増えてき
ているのです。
6キロもある頭を日々支え続けているうえ、3倍もの負担がかかる姿勢を何時間も続け
られたら、首としてもたまったものではないでしょう。そんな習慣を毎日続けていたら、
首の筋肉が悲鳴を上げるのも当たり前です。首こりや肩こりに悩む人が増えるはずです。
このように首の筋肉に負担をかける習慣を続けていると、たび重なる筋肉の緊張から次
第に頸椎のカーブが失われ、
「ストレートネック」と呼ばれる状態に陥りやすくなるのです。
この「ストレートネック」になると、こりや痛みがいっそうひどくなりますし、首・肩周
囲の骨や関節にもいろいろな悪影響が出やすくなります。そして、頸椎症に移行しやすく
なってしまうのです。
それに、首にはたいへん多くの神経や血管が集中しています。首の筋肉や関節の異常な
どによって、これらの神経や血管が圧迫されると、自律神経の働きが乱れ、さまざまな不
定愁訴が起きることが多いのです。その症状は、頭痛、吐き気、耳鳴り、めまい、イライ
ラ、不眠など、実に様々です。ときには、こうした不調が自律神経失調症やうつ病など、
こころの病気にまで発展することもあります。
すべてはS字カーブがあってこそ
首や肩のこりや痛みには、骨格のバランスの歪みが大きく絡んでいます。
人体の中心には、頭蓋骨から骨盤まで。脊椎が通っています。脊椎は7個の頸椎、12 個
の胸椎、5個の腰椎で構成されています。脊椎がS字状にゆるやかに湾曲しているのがお
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分かり頂けますね。このS字カーブは、荷重負担や衝撃をうまく分散させるようにできて
います。このカーブも一種の免震システムのようなものです。1カ所に強い力が加わって
も、それをしなやかに受け止めて、衝撃や負担をうまく緩和させることができる非常に合
理的なデザインなのです。このゆるやかなカーブがあってこそ、私たちは重い頭を乗せな
がらも、直立して活発な活動をしたり、さまざまな運動をしたりすることができるわけで
す。では、もしも、このS字カー
ブが崩れたり、なくなってしまっ
たりしたら、どうなるのでしょう
か?
そうなると、荷重負担を分散さ
せることができないため、約6キ
ロもある頭の重みがまともに脊椎
にかかってきてしまいます。そし
て、脊椎のまわりの筋肉などの組
織にも大きな負担がかかることに
なります。とくに脊柱起立筋とい
う、頭や体を倒したり起こしたり
する筋肉が緊張しっぱなしにな
り、首、肩、腰などにこりや痛み
が生じることになるのです。なか
でも、頸椎のカーブが失われると、
首や肩のこりや痛みへと直結しま
す。
「仙腸関節」は腰だけでなく、首や肩にとっても重要
また、こうした脊椎のバランスの歪みには、骨盤にある関節の善し悪しが大きく影響し
ています。それが「仙腸関節」です。
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骨盤はいくつかの骨が組み
合わさってできています。お
おまかに言えば、中央の仙骨
の左右にふたつの腸骨があ
り、骨盤特有のハート型をつ
くっています。その仙骨と腸
骨のつなぎ目部分の関節が仙
腸関節です。仙腸関節前後左
右に数ミリほど動くことが分
かっています。この数ミリの”遊び”が体全体のクッシヨンのような役割を果たしている
のです。このクッシヨンは、体に荷重負担や衝撃がかかったとき、それを逃がすためとて
も重要なポイントになっています。ですから、仙腸関節の動きのいい人は、頸椎や腰椎な
ど脊椎にかかる負担を和らげることができるわけです。
逆に、この仙腸関節の可動域が狭くなったり、ほとんど動かなくなったりすると、その
支障は、脊椎や周囲の筋肉にもろに現れます。これまでは脊椎と仙腸関節のコンビで負担
を受け持っていたのが、共同作業ができなくなって、脊椎がひとりですべての負担を背負
うことになるのです。その荷重労働が日々重なれば、いずれ脊椎は悲鳴を上げてしまいま
す。脊柱起立筋などのまわりの筋肉が疲労したり、腰椎や頸椎の椎間板にトラブルが生じ
たりすることでしょう。こうした無理が重なった結果、こりや痛みなどの症状が生み出さ
れていると考えられるわけです。
しかも、仙腸関節は、仙骨と腸骨のひっかかりが生じやすく、たいへん機能異常を起こ
しやすいところです。そして、この骨盤の関節の機能異常は、腰痛だけでなく、首や肩こ
りや痛みにも影響しているケースがたいへん多いのです。
是非、このようなことをよく覚えておくようにして下さい。
首・肩のトラブルを根本的に解決する治療の「3点セット」
首や肩のトラブルを根本的に解決していくには、どこをどういうふうに治せばいいのか。
ここでは、そのメカニズムについて見ていくことにしましょう。
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そのための大きなポイントは、次の3つです。
1.ストレートネックを治す
2.頭と首の境目(後頭骨と第1頸椎の間をゆるめる
3.仙腸関節、第1肋椎関節の動きをよくする
この3点セットで治療を行えば、首や肩こりや痛みをもたらしていた歪みなどの問題を
根本的に解決させることができます。これによって、症状をすっきり解消させることがで
きるのです。
しかも、これは、首・肩そのものの悩みだけでなく、頭痛、吐き気、めまい、耳鳴り、
手のしびれ、イライラといったさまざまな不定愁訴を解消させるのにも大変有効です。
きっと、これらにトライすれば、まるで自分の体だと思えないほどに、首や肩が軽くな
るはずです、
それでは、どうしてそのような効果を上げることができるのか、そのメカニズムを順次
説明していくことにしましょう。
一番の原因はストレートネック
まずは、「ストレートネック」の問題です。
そもそもストレートネックとは、ゆるやかに湾曲しているはずの頸椎のカーブが消失し、
まっすぐになってしまっていることを指します。頸椎は7個の椎骨で成り立っていますが、
とくにそのうちの5番、6番、7番の頸椎のカーブがなくなってしまうことが問題なので
す。首・肩こりや痛みは、結局、これが一番の原因なのです。先程、脊椎がS字状カーブ
を持つことによって荷重負担や衝撃を分散させていることについて述べましたが、そのS
字の起点である頸椎のカーブがなくなってしまうために、全体のバランスが大きく崩れて
しまうのです。本来カーブしているはずの頸椎がまっすぐになってしまうと、6キロもあ
る頭の重みがまともに頸椎にかかってくることになります。そうすると、頸椎をサポート
している首まわりの筋肉にも大きな負担がかかり、とくに首の後ろ側の筋肉が緊張しやす
くなります。そして、その緊張は肩の筋肉にも伝わり、首から肩にかけての血行が妨げら
- 105 -
れる。これによって、首や肩の筋肉がこり固まりやすくなるわけです。
こうなると、日常的に首こ
りや肩こりに悩まされるのは
もちろん、外からの衝撃にも
弱くなるため、ちょっとした
ことで首を痛めやすくなりま
す。
さらに、ストレートネック
だと、筋肉だけでなく、頸椎
そのものに異常が起こりやす
くなります。日頃から6キロもある頭の重さをまともに受け続けていれば、当然ながら、
頸椎と頸椎の間にある椎間板にも圧力がかかり、そこに疲労がたまりやすくなります。そ
うすると、椎間板がつぶれて頸椎症の症状が現れたり、頸椎椎間板ヘルニアを起こりやす
くなったりするのです。つまり、病気がどんどん進行していくような悪循環を招く土台が
できてしまうことになるわけです。
頸椎というものは、カーブがあってこそ、本来の力を果たせるものなのです。そのカー
ブがなくなってしまったら、それは首・肩はもちろん、全身に不調やトラブルを生むはじ
まりと考えなくてはなりません。
頸椎に”カーブがある”ということは、全身のトータルバランスにとって極めて重要な
ことなのです。
従って、このようなストレートネックを呈しているということは、以上ののように首の
筋肉の痛み刺激が常時、三叉神経尾側核へ送られ、これが”脳の興奮性を高める”要素と
なっていることを忘れてはなりません。この点は、解剖学的事実で明確なことです。
これらの事実が、片頭痛の慢性化に繋がっていく最大の原因と考えられるわけで、清水
俊彦先生の提唱される「脳過敏症候群」そのものと考えられます。
ただ、首や肩にとくに症状やトラブルを感じていない人の中にも、じつはストレートネ
ックになっている人や、なりかけている人が少なくありません。現代では、むしろ”スト
レートネックではない人”のほうが珍しいくらいです。私の見るところ、成人男女の8割
- 106 -
方は、程度の差はあれストレートネックの兆候があると言っていいとさえ思っています。
なぜ、そんなに多いのか・・・
その背景には、現代人の生活習慣の問題が大きく影響していたのです。
パソコン作業による”前かがみ””うつむき”が元凶
ストレートネックを生み出す最大の原因。
それは、前かがみの姿勢やうつむきの姿勢などを長時間続けるような生活習慣にありま
す。原因の 99% は、ここから来ていると言っていいでしょう。
みなさんも、日頃、いかに前かがみやうつむきでいることが多いか、ご自分の生活を振
り返ってみて下さい。
パソコンの画面に釘付けになっている時間がとても長くありませんか?パソコンを使っ
ていなくても、デスクワークをしていたり、携帯電話やゲームの画面を見ていたり、座っ
て本を読んでいたり、車を運転したり・・・。1日のほとんどの時間を前かがみやうつむ
きで過ごしているという人も少なくないのではないでしょうか。そういう毎日の生活習慣
が、ストレートネックをつくる”大もと”になっているのです。
とくに、パソコン作業を長時間続けていると、座りっぱなしのまま、知らず知らずのう
ちに前かがみやうつむきになってしまいます。なかでもノートパソコンを使っていると、
画面の位置が低く、目線が下向きになってしまうため、前かがみ・うつむきになりがちで
す。ひどい人になると、猫背になって、顔とあごを前に突き出すような姿勢で作業をして
いたりします。
このように前かがみ・うつむきの姿勢を長時間続けると、首や肩の筋肉が緊張しっぱな
しになって、こりが進んでしまいます。そして、こうした「筋肉が緊張しっぱなしになる
状態」が日々積み重なると、ガチガチに緊張した筋肉に常に頸椎が引っ張られるかたちと
なって、本来のカーブが少しずつ消失していってしまうのです。
なお、こういったストレートネックの症状は、基本的には長い月日をかけてジワジワ進
むものです。しかし、なかには急速に進むこともあります。たとえば、四六時中、前かが
みになって根をつめるパソコン作業を行うような日々を続けたとしたら、ほんの2,3週
間ほどでカーブが消失してしまうことも少なくありません。また、ときには車の追突事故
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などでムチウチになり、ストレートネックが一気に加速することもあります。
とにかく、頸椎とは、非常にナイーブにできているところなのです。
前に述べたように、人の頭は6キロほどあり、それがうつむき姿勢をとったときには、
首にかかる荷重は3倍にもふくれあがるのです。
ですから、うつむきっぱなしで首に疲労をため込んだり、首に大きな衝撃を加えたりし
てはいけません。
いいかげんに現代人は首を酷使する毎日から脱却しなくてはなりません。そして「首を
いたわる生活習慣」を身につけるべきなのではないでしょうか。
アクセサリーでもストレートネックになる??
ちなみに、前かがみやうつむき姿勢以外にも、ストレートネックになりやすい傾向や生
活習慣がいくつかあります。これについても簡単に述べておきます。
まず、男性か女性かでは、どちらかと言うと女性のほうがなりやすい傾向があります。
とくに目立つのは、20 代、30 代の若い女性です。首が長くて細い女性や、胸の大きな女性
もなりやすい傾向があります。ただし、これはあくまで傾向です。
(この頻度は、片頭痛が女性が男性の4倍近くあるという傾向に一致しています)
男性だから安心というわけではありませんし、首が太い人でもストレートネックになる人
はたくさんいます。むしろ、前かがみやうつむきの姿勢を長く続けていれば、老若男女を
問わず、誰でもストレートネックになる危険があると考えておくほうがいいでしょう。
それと、意外に大きな原因となっているのが、服装やアクセサリーです。たとえば、き
つく締め付けるタイプのブラジャーをつけていたり、冬場に首や胸もとを大きく開けた服
を着ていたりすると、首や肩などの血行が悪くなり、ストレートネックを助長してしまう
ことがあります。また、ネックレスやイヤリングなどのアクセサリー類も、その重さが首
の負担になっているケースが少なくありません。なかでも重いネックレスを常日頃から好
んでつけているような方は、つけるのを考えなおしたほうがいいでしょう。
さらに、かばんの持ち方やかけ方にも注意が必要です。重いかばんや荷物などを片方の
手で長時間持っていると、片側の首や肩だけがったり痛くなったりするものです。
こういう習慣がいけないのです。なお、肩から斜めにかばんをかける習慣も首の筋肉や神
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経を圧迫しやすく、ストレートネックや手のしびれに繋がることがあります。首や肩の健
康を考えるなら、かばんはリュックサックにするのがベストです。
前述したように、頸椎というところは、とてもナイーブなつくりをしていますから、で
きるだけ負担を軽くして、何かを持ったり運んだりする際も、できるだけ左右均等に荷重
がかかるように工夫するほうがいいのです。
以上のような原因以外に、ストレートネックを引き起こすものとして、体の歪み、歯の
かみ合わせの悪さ、足に外反母趾・扁平足。浮き足などの異常がある場合や、生まれつき
腹筋・背筋の発達が悪くて猫背になる場合もあり、これらの原因も一応念頭におくべきで
す。この点は、以前に述べた通りです。
頭を打ったり首を痛めたりした経験はありませんか?
ストレートネック、すなわち、首疲労を起こすもう一つの原因があります。
それは、過去に「ムチウチなどの外傷」を負った経験があり、首の筋肉組織を痛めたこ
とによってさまざまな不調が起こる場合です。
みなさんも、子供の頃から現在に至るまでの自分の過去を振り返ってみれば、頭を強く
打ったり首を痛めたりした経験は何度かあるのではないでしょうか。
いちばん多いのは、車の追突事故をはじめとした交通事故で首を痛める場合です。
そのほかにも、子供の頃、鉄棒やジャングルジムなどから落ちたりしたことがあったか
も知れませんし、自転車やオートバイで転んで頭部を打ったことがあったかもしれません。
また、学生時代、ラグビーやサッカー、格闘技などの激しいスポーツをしていて、頭や首
を痛める場合も多いのではないでしょうか。
じつは、そういうふうに強い衝撃を受けた際に生じた「首の筋肉の損傷」は時間が経っ
てもなかなか治らないことが多いのです。なかには、子供の頃に首を痛めて以来、何十年
も不調を引きずっているような場合もありますし、何年も前に首を痛めた影響が今頃にな
って出てくるような場合もあります。首の筋肉は常に働いて頭を支えていかなくてはなり
ませんから、他の筋肉と違って損傷が治りにくく、小さなトラブルが尾を引きやすいので
す。また、頭部外傷でも首の筋肉を痛めて、ムチウチと同じ症状が現れることがあります。
- 109 -
頭部に外傷を受けて脳神経外科を受診しますと、頭の検査だけをして「異常ありません」
と帰されるケースがほとんどです。けれど、外傷を受けたあとしばらくして、ムチウチと
同じ症状が出て困っている人は非常にたくさんいます。
ちなみに、このような患者さんの首のレントゲン撮影をしてみますと、たいていの場合、
7個並んだ頸椎がまっすぐになってしまっています。本来は下のほうへ向かうにつれ、頸
椎がゆるやかにカーブしているはずなのですが、そのカーブが失われてしまっているので
す。これは「ストレートネック」といって、首の筋肉が本来の働きを果たせなくなること
で起こる現象です。首の筋肉が硬くなり、伸びなくなっているために、そのしわ寄せが頸
椎に及び、並びがだんだんまっすぐになっていってしまうのです。
これは、首疲労から不定愁訴を起こしている患者さんには、ほとんどの場合、このスト
レートネックが見られます。
過去に頭や首を痛めた経験のある人、また、整形外科などで、「ストレートネック」を指
摘されている人は、首の筋肉のどこかに通常の働きができなくなっている部分がある可能
性が大きいのです。その分、首疲労に陥る危険が高いことになりますので注意が必要です。
ムチウチに対する治療で、事故後、よく患部をカラーで固めたり、牽引治療を行ったり
する人もいますが、私はこうした治療は逆効果だと考えております。カラー固めるのは首
の筋肉のこりを固まらせて治癒を遅らせますし、牽引で無理に首を引っ張ると、傷ついた
患部組織にさらに新しい外傷を加えることになり、いつまでも症状を長引かせる原因にな
ります。これまで、このような治療が行われてきたため、ムチウチの方々を長年苦しませ
る結果となっていました。
これまで、片頭痛の慢性化のリスク要因には医療介入できない因子として、女性、社会
的経済的階層(低い教育歴と低収入)、婚姻状態(未婚)、頸部または頭部外傷の既往など
が挙げられておりました。ということは、頭痛専門医は、頸部または頭部外傷の既往に関
しては、片頭痛とストレートネックの関与が全く念頭になかった結果と考えられます。
また、相撲解説者の舞の海秀平さんは「片頭痛もち」で有名ですが、舞の海さんは、現
役時代の「ぶつかり稽古」で首の筋肉に損傷を受けていたのでしょうか、引退して3~4
年後に片頭痛を発症されたようです。東京の超有名な頭痛専門医を受診され、「元来の片頭
痛と頸椎の椎間板ヘルニアが引き起こす頭痛が複合したもの」と診断されたようです。
ここでも、首の筋肉疲労という視点が全くないための診断と思われます。
最近の私の経験したことですが、長年糖尿病と高血圧症で通院されておられた建設会社
- 110 -
の社長さんが、ある日追突事故を起こされ、すぐに近くの整形外科を受診され、頸椎レン
トゲン検査をされ、「骨には異常がない」と言われ、湿布と鎮痛薬を処方されたそうです。
その足で、私の所へ「定期受診」をされました。ところが、診察を私が再度行いますと、
頚部痛と吐き気を訴えられ、頸部の筋肉群に圧痛を多く認めたため、安静の指示はなかっ
たため、3日間安静・臥床の指示を改めてを行ったところ、整形外科では「仕事はしてよ
い」と言われたとのことで、私の安静の指示を無視され、そのまま仕事に行くといって帰
られました。ところが、その1週間後、吐き気、頚部痛、めまい、頭痛を訴えて来院され
ました。結局安静が守られず、その結果悲惨なことになり、これまで安定していた血圧が、
それ以降血圧の変動が激しく安定せず、頭痛・めまい・頚部痛が持続し3カ月間大変な思
いをさせられました。
このように、整形外科医は頸
椎レントゲン検査に異常がない
と、軽く考えやすいのですが、
頸椎周囲の筋肉には、かなりの
ダメージを受けている(これは
レントゲンには写りません)訳
ですから、症状を長引かせない
ためにも、最低3日間の安静・
臥床が必要です。
このような整形外科医が、な
お存在することが信じられませ
ん。
悪く言えば、”患者製造”のた
めの診療科なのでしょうか?
少なくとも、事故直後に診せ
てもらっておればと悔やまれま
した。
ストレートネックかどうかの自己チェック法は?
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ストレートネックかどうかは、レントゲン検査ですぐにわかりますが、自分で見分ける
方法もあります。図のように壁を背に”気をつけ”の姿勢で立ってみて下さい。
あごを引いて立ったとき、後頭部と肩甲骨、お尻が壁につきますか?左の図のように、後
頭部と肩胛骨、お尻の3点を結ぶ線がまっすぐ一直線になっているのが”正しい姿勢”で
す。無理に力を入れずとも、こういった姿勢がすんなりとれるようであれば、まずストレ
ートネックではないでしょう。
一方、後頭部が壁につかなかったり、意識して頭を後ろへ反らさないと壁に後頭部がつ
かなかったりする人はストレートネックの可能性大です。ストレートネックの人は肩胛骨
に比べて頸椎が奥に入っているため、まっすぐに立っていても、背が丸まったり、頭が前
に出てしまったりする傾向が強いのです。
ストレートネックを治すには・・
元のカーブに戻すにはどうすればいい?
それでは、ストレートネックに
なってしまった頸椎を、元の健康
な状態に戻すにはどうすればいい
のでしょうか。
一番大切なことは、自分自身で
普段の生活習慣を改めることです。
まずは、パソコンと向かい合っ
たり、前かがみやうつむきの姿勢
を続けたりする時間を極力減らす
べきでしょう。仕事の都合上そう
もいかないという場合は、できる
かぎり姿勢に注意を払い、こまめ
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に休憩をとるようにして下さい。
ほんのちょっとした心がけを実行するだけでも、頸椎の状態はけっこう変わってくるも
のです。たとえば、デスクワーク中や車の運転中に、あごを引く姿勢ととる習慣をつける
だけでも、ストレートネックはかなり改善していきます。私は、運転中などはいつも赤信
号で停車するたびにあごを引いて姿勢を正すように心がけています。そんなふうに姿勢を
正す”意識づけ”をしていると、日々の習慣が積み重なって、頸椎がだんだん健康な状態
へと戻っていくものなのです。つまり、「日々の悪い姿勢の積み重ね」で招いてしまったク
セは、「日々のいい姿勢の積み重ね」によって矯正していくのが一番いい訳です。
先程、悪い姿勢を続けていれば2,3週間ほどでストレートネックになってしまうと述
べましたが、実は、これは逆についても言えることです。すなわち、正しい姿勢をとる習
慣をしっかりと2,3週間も続けていれば、元の健康なカーブが戻ってくるはずです。姿
勢の改善さえきちんとできれば、ストレートネックは自己努力で十分に治すことができる
ものなのです。
見方を変えれば、それほどまでに頸椎は姿勢の影響を受けやすい部位だということなの
です。正しい姿勢を身につけて、いったんはストレートネックが治ったとしても、また姿
勢が悪くなるようなことが続けば、再びカーブがなくなってしまうことでしょう。
とにかく、ストレートネックは「すべての首と肩の病気の入り口」のようなものですか
ら、この入り口を開けっ放しにしてしまってはいけません。是非、日頃から襟を正した生
活習慣を心がけ、病気への”隙”を与えないようにしましょう。
不定愁訴を伴う症状は「頭と首の境目」が治療のカギ
ここでポイントになるのは、首の後ろ側の上部。後頭骨と第1頸椎の間です。この部分
をゆるめておくことが、首の健康をキープするうえで、大変重要になってくるのです。
後頭骨というのは、頭蓋骨の一番下の骨であり、第1頸椎は、7個ある頸椎の一番上の
骨です。つまり、「頭」と「首」の境目にあたるところ、この部分を関節包内矯正を用いて
広げたり、レーザーなどを当てて温めたりすると、非常に治療がうまくいくことが多いの
です。首、肩のこりや痛みばかりではありません。この部分への治療が威力を発揮するの
は、首や肩の不調に加えてさまざまな不定愁訴を訴えている場合です。首にトラブルが起
- 113 -
こると、同時多発的に頭痛や
めまい、吐き気、耳鳴り、イ
ライラといった症状が起こる
ことが少なくありません。首
を痛めた後、体のあちこちに
不調が現れ、自律神経失調症
のような症状(バレリュウ症
候群)が出ることもあります。
そういった数多くの不定愁訴
が現れるタイプの不調にもこの部分をゆるめることが大変有効です。
実は、なぜ、この「頭と首の境目」を緩めると、こうした好成績の治療ができるのか、
そのメカニズムについては、よくわかっていません。ただ、この部分は脳と首の接点であ
り、大脳と体をつなぐたくさんの神経や血管が集中しているところです。この重要な部分
の隙間が狭くなると、自律神経系や血流などにさまざまな影響が出るのではないかと推測
しています。神経や血管が圧迫されると、大脳から体の各器官への指令がうまく伝わらな
くなってなってくる可能性があります。それで、肩や首の不調とともにさまざまな不定愁
訴が現れてくるのではないかと思われます。
私は、この「頭と首の境目」の部分が、首や肩の状態を左右する非常に大きなカギなの
ではないかと思っています。
このカギが閉まってしまっているか、開いているかは、首・肩の健康に大きな違いが出
てきます。カギを開けてちょっとゆるめてあげるだけで、それまで堰き止められていたい
ろいろな”流れ”が回復するような気がします。恐らく、ここを緩めることで、脳から体
へ向かう血液の流れや、脳脊髄液の流れ、神経伝達の流れなどが一斉に回復するのではな
いでしょうか。
当医院には、首・肩こりや痛みはもちろんのこと、さまざまな不定愁訴に悩まされ続け
た方がたくさん来院されています。そういう大多数の患者さんが、「頭と首の境目」にレー
ザーを当てたり、関節包内矯正を行ったりすることによって実際に治っているのです。
ですから、いろいろな不定愁訴を伴う首こりや肩こりも、決してあきらめることはあり
ません。
「頭と首の境目」のポイントに狙いを定め、脳と体の連絡をよくする治療を行えば、
すっきり治すことが可能なのです。
- 114 -
「脳と体の連絡をよくすること」は自分でもできる
私は、「後頭骨と第1頸椎の間」が狭くなってくるのには、やはりストレートネックが
関係しているのではないかとにらんでいます。
頸椎が7個の骨で構成されていることは先に述べましたが、ストレートネックでカーブ
が失われるのは、5番、6番、7番などの「下のほうの頸椎」です。ただ、これらの支障
は、当然ながら「上のほうの頸椎」にも影響を及ぼしています。すなわち、頸椎の1番か
ら4番はもちろんのこと、後頭骨にも影響しているはずです。
つまり、”下”が悪くなれば”上”も悪くなる。おそらく、カーブが消失して頭の重みを
支えきれなくなった「下のほうの頸椎」が、負担を「上のほうの頸椎」へ押し返すことで
「頭と首の境目」を狭くしてしまっているのではないでしょうか。
ですから、原因を突き詰めれば、やはり、前かがみやうつむきなどの生活習慣の問題に
行き着くのだと思います。逆に言えば、日頃、そういった悪い姿勢を長く続けていれば、
誰でも不定愁訴などの厄介なトラブルに見舞われる可能性があるということです。
常日頃から姿勢に気をつけ、ストレートネックを防ぐとともに、「頭と首の境目」に対し
ても細心のケアを心がけておくべきです。”ちょっとした工夫”をしているかいなかで、首
や肩のトラブルにどれだけ悩まされるか大きく変わって来ます。
私は「首の問題からさまざまな不定愁訴に悩まされる人」はもちろんのこと、「ひどい首
や肩こりに悩まされる人」「そんなにひどくはないけど、首や肩がこっている人」「今は健
康だけど、仕事でうつむき作業の多い人」など、いろいろなレベルの方々に、このケアを
行うことをおすすめしています。
これを習慣にすれば”脳と体の連絡”がよくなって、首や肩の症状以外にも、さまざま
な不調に対する予防効果が期待できます。
首という部分は、脳と体をつなぐ唯一の架け橋です。
ですから、その連絡橋の”流れ”を滞らせたり狭くしてしまったら、あちこちに不調が
出るのは当たり前です。連絡橋の”流れ”をいつもスムーズにしておくことは、極めて大
切なことです。
肩をすぼめがちな人は「第1肋椎関節」に注意しよう
- 115 -
ちょうど鎖骨の下側に「第1肋骨」があります。この第1肋骨のつけ根、胸椎と接する部
分が第1肋椎関節なのです。ここは、首から胸部へ向かう血管や神経が密集している場所
です。しかし、狭い場所にあまりにたくさんの血管や神経が通っているため、この関節が
固まっていると、それらの血
管や神経が圧迫されやすくな
ります。この圧迫によって肩
こりや手のしびれが引き起こ
されやすいのです。「胸郭出口
症候群」にも、ここの関節の
可動域が狭いことが関係して
います。
ですから、関節内包矯正に
よってこの第1肋椎関節を動かして、血管や神経への圧迫をとると、それだけで肩こりや
手のしびれがウソのようにきれいになくなるということが少なくありません。
ちなみに、日頃から肩をすぼめている人は、この第1肋椎関節部分が狭くなる傾向があ
ります。また、パソコン作業が多い人には、前かがみで両腕を前に出し、肩をすぼめなが
ら作業をしている人が多いので、この部分を狭くしてしまいがちです。
首と腰はつながって動いている
脊椎と骨盤とは非常に深い関係で結ばれています。仙腸関節を触りながら頭を動かすと、
仙腸関節も動いているのがわかります。つまり、脊椎と骨盤にある仙腸関節とがコンビを
組んで、お互いに連動しながら、頭や体の重みを支えているのです。
このコンビは運命共同体のようなものです。すなわち、仙腸関節に異常があれば頸椎や
腰椎にも異常が出ますし、頸椎や腰椎に異常があれば、仙腸関節にも異常が生じます。で
すから、首や肩の不調の原因に仙腸関節が関係している場合は大変多いのです。また、仙
腸関節の異常から、首痛と腰痛の両方に悩まされているという方も多くおられます。
仙腸関節の機能異常を解消する決めては、やはり関節内包矯正です。
それと、後述します「仙腸関節のストレッチ」が大切です。
- 116 -
仙腸関節への関節内包矯正は、仙骨の位置を調整することによって行います。この仙骨
は、脊椎を一番下で支えている土台のようなものですから、仙腸関節を開いて、これを的
確に動かすことにより、腰椎や頸椎の微妙なバランスの歪みを正すことができるのです。
言ってみれば、仙腸関節を動かすことによって、腰椎や頸椎を動かしているということ
です。仙腸関節に関節内包矯正を行うと、ストレートネックの人も元のカーブのある状態
に戻りやすくなりますし、頸椎症や頸椎椎間板ヘルニアなど、椎間板の症状も解消させる
ことができます。
なお、仙腸関節に対するケアは自分でもできます。これは後に述べます。
とにかく、この仙腸関節は、首から遠く離れていても、首に与える影響はとてつもなく
大きいのです。例えば、腰痛の治療目的で、関節内包矯正を行いますと、肩こりまで解消
する場合が多く経験されます。首と腰とはいつもつながって動いています。
どちらかのバランスの崩れは、必ずもう一方のバランスの崩れへとつながります。
ちゃんと治るのに、治さないのはソン
首や肩のトラブルを根本的に解決していくには、どこをどういうふうに治せばいいの
か、そのメカニズムいご納得いただけたでしょうか。
これまで紹介してきたような「3点セット」の治療を行っていけば、首や肩の悩みはほ
とんど解消することが可能です。長年つきあわされてきたしつこいこりも、つらくて眠れ
ないほどの痛みも、頭痛、吐き気、耳鳴り、手のしびれといった不定愁訴も、ちゃんと治
すことができます。しっかりと生活習慣や姿勢を正しくして頂ければ再発しません。
ですから、治さなければソンです。治そうと思えば治せることなのですから、何も手を
打たずにがまんしたり引きずったりするのは、実にソンなことなのです。
ストレートネックを解消するにはどうすればいい?
「あご引きエクササイズ」を行うのを習慣にして下さい
頸椎という部分はもともと働き者で、首のいろいろな方向への運動に合わせてさまざ
- 117 -
まな動きがとれるように出来ています。しかし、いつもいつも、うつむきや前かがみの同
じ姿勢ばかりとっていたら、どうなることでしょう。働き者の頸椎も「ああ、いつもこの
角度でこの姿勢をとっていればいいんだな」というように、動くのをさぼりがちになって
きます。とりわけ、”さぼり屋”なのが5番、
6番、7番の頸椎です。この首の下のほうの
骨が動きをさぼるから、ストレートネックにな
ってしまうわけです。
ですから、ストレートネックを解消したり予
防したりするためには、この ”さぼり屋”の
5番、6番、7番の頸椎を一生懸命働くように
しなければなりません。
その方法は簡単です。ちゃんと動かせばいい
のです。うつむきなどの姿勢をとっているとき、意識して5番、6番、7番を動かし、「さ
ぼっていないで動け」と教育すればいいわけです。
一番のお勧めは、あごを引くエクササイズです。
やり方はとても簡単で、あごを引き、そのあごに手を添えて首の重心を後ろへ押し戻す
だけです。このとき、さぼり屋
の頸椎、すなわち、頸椎の下の
ほうの部分が動くようなイメー
ジを頭に描きながら押し戻すよ
うにしてください。
「えっ?これだけでいいの?」
と思われそうですが、このエク
ササイズを習慣にすれば、スト
レートネックを防止し、また、
ストレートネックを少しずつ改善させて、元のカーブへと戻していくことができます。デ
スクワークなど日常で前かがみの姿勢をとることが多い人は、15 ~ 30 分に一度くらい、
この「あご引きエクササイズ」を行うようにしてみて下さい。私は運転するときは、赤信
号で車を停止させるたびにこれを行うように心がけています。
意識づけさえしてしまえば、簡単に続けられるはずです。頸椎は、日頃からちゃんと動
- 118 -
かしていれば、着実に機能を取り戻していくものなのです。なにしろ、ストレートネック
は、首の健康を冒す”すべてのはじまり”のようなものです。
首や肩に負担をかけないパソコンとの付き合い方は?
ノートパソコンよりもデイスクトップ型パソコンのほうがおすすめ
パソコン作業などで長時間うつむきの姿
勢を続けていると、ストレートネックにな
りやすく、数々の首や肩のトラブルを招い
てしまいます。
それを避けるには、パソコンに向かう時
間を減らすのが一番いいのですが、仕事上
そうもいかないという方は、とにかく、常
にあごを引いた姿勢をとるように心がけて
ください。それと、こまめに休憩をとることです。「あご引きエクササイズ」を 15 ~ 30
分ごとに行うほか、少なくとも1時間に一度は席を離れて、体を伸ばしたり首や肩を回し
たりするといいでしょう。
また、ノートパソコンを使用していると、どうしても目線が低くなり、うつむき、前か
がみの姿勢をとってしまいがちです。ノートパ
ソコンをお使いの方は、なるべく目線が水平に
保てるデスクトップ型のパソコンに変えるよう
にするといいでしょう。
このような「あご引きエクササイズ」とは別
に、東京脳神経センターの松井孝嘉先生は「首
の555体操」を考案されています。
「簡易版・首の関節包内矯正」のやり方は?
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2個のテニスボールを使って簡単に行うことができます
頭と首の境目、すなわち、後頭骨と第1頸椎の間を広げる「簡易版・首の関節包内矯正」
のやり方をご紹介しましょう。先に紹介したように、これは、首や肩のこりや痛みに悩ま
されている方はもちろん、頸椎のトラブルからくるさまざまな不定愁訴に大変有効です。
用意するのは2個の硬式テニスボールです。それを図のようにガムテープで動かないよ
うにくっつけます。あとは、
それを後頭部のすぐ下に当
て、そのまま仰向けになる
だけ。頭の重さが乗ると、
テニスボールの硬さがちょ
うどいい具合に頭と首の境
目の関節への刺激となりま
す。これにより、関節がゆ
るみ、筋肉や神経の圧迫が
軽減されます。そして、血
液や脳脊髄液の流れがよくなり、首や肩へさまざまな健康効果をもたらしてくれます。
きっと、矯正後は、首や肩が軽くなり、頭もすっきりしてくるはずです。ただ、首はナイ
ーブな箇所ですから、決してやり過ぎないよう
にして下さい。
この「簡易版・首の関節包内矯正」は1回3
分、1日3回までにとどめるようにして下さい。
「簡易版・腰の関節包内矯正」のやり方
は?
これも2個のテニスボールを使って仙腸関
節を刺激します
仙腸関節の不調は、首の問題にも大きく関わってくることは、先程述べました。
- 120 -
使用するのは、前項と同じように、2個のテニスボールをガムテープで固定したもの。
これを腰の仙腸関節の位置に当てて、図のようにその上に仰向けになるだけでいいので
す。この矯正も。1回の時間は
3分以内。1日3回までにして
下さい。「イタ気持ちいい」感
じがするのは、仙腸関節が刺激
されている証拠です。これによ
り関節の動きがよくなり、結果、
頸椎や腰椎にかかる荷重負担が
軽減されるのです。
この「簡易版・関節内包矯正」
は、ぜひ、「首」と「腰」をセットにして行うようにするといいでしょう。ふとんの上でな
く、畳やフローリングで行う必要がありますが、起床後と就寝前の習慣として、朝晩1回
ずつ行うのがお勧めです。
これに加えて「仙腸関節のストレッチ」を行って下さい。
肩こり、首こりと体型にはとんな関係があるか?
頭が大きい人はこりやすいというのは俗説です
肩こり、首こりと、その人の体型との因果関係には、いろいろな俗説があるようです。
まず、「頭が大きい人は、こりやすい」というのはウソです。頭の重さは誰もそんなに変わ
らないのです。むしろ、それよりも大切なのは頭ののせ方です。うつむきなど、頭を傾け
るクセがついていると、首や肩にかかる負担がたいへん大きくなります。そういう重心の
のせ方がうまいかどうかで、こりやすさに差がついてくるのです。
また、体型も関係ありません。ただし、女性の方で、バストが大きいかどうか多少関係
します。胸が大きい方は、無意識に肩をすぼめる姿勢をとっていることが多く、それが肩
や首のこりにつながっているようです。また、なで肩体型の人、首が細い人は、やはりこ
- 121 -
りやすい傾向があります。これらの人は、とくに胸郭出口症候群になりやすく、肩や首の
こりはもちろん、手や腕のしびれを訴える場合が多いのです。
湿布は温湿布がいい?それとも冷湿布?
どちらでも、気持ちいいと思うほうでOKです
よく、首や肩を痛めたときに、温湿布を貼るか、冷湿布を貼るかで悩んでしまう人がい
ます。結論から言えば、どちらでもいいのです。自分が気持ちいいと思うほうでOK。
患部の炎症が強い場合は、冷湿布を選んだほうがいいでしょう。
それよりも覚えておいていただきたいのは、湿布を長時間貼り続けないことです。湿布
を貼る時間は3時間くらいで十分です。張ったまま寝てしまったり、1日中貼り続けてい
たりしてはいけません。あまり永く貼っていると、低温やけどを起こすこともあり、かえ
って状態を悪くしてしまうこともあります。もし、その時間内で痛みが治まらないような
ら、痛み止めの薬などで対応するようにして下さい。また、温湿布の代わりに携帯用カイ
ロを貼ってもいいですが、これも8時間以内にしましょう。
首には温めるポイントがあるって本当?
「首の後ろ」と「痛む側の前側・斜め横」あたりを温めてください
首こりや肩こりがひどいとき、温めるべきポイントがあるのをご存じでしょうか?
覚えておいていただきたいポイントは2か所です。
「首の後ろ」と「痛む側の前側・斜め横」
あたりです。後者は、耳と鎖骨を結ぶラインの下のほうと覚えておくといいでしょう。
この2か所を、常日頃から温めるように心がけておくのが、首の健康ケアにはたいへん
お勧めです。是非、入浴でシャワーを浴びる際や、ドライヤーで髪を乾かす際に、お湯や
温風をよく当てて、これらの部分を温めるようにしてみて下さい。おそらく、それだけで
も、首や肩の血流がよくなって、こりや痛み具合が変わってくるはずです。
首の後ろを温めたほうがいい理由は、すでに皆さんお分かりですね。首の後ろ側の筋肉
- 122 -
は特に疲れが貯まりやすいた
め、いつも温めて血行をよく
しておく必要があるのです。
一方、「痛む側の前側・斜め
横」を温めたほうがいい理由
は、そこが”トリガーポイン
ト”になっているからです。
つまり、その部分が、痛みを
引き起こす”引き金”となる
神経が出ているポイントになっているのです。
なお、首や肩が痛くて温湿布を貼るときも、これらのふたつのポイントを重視するよう
にするといいでしょう。
肩や首の健康にいい入浴法は?
あごまで浸かる全身浴がおすすめです
首や肩 は冷 やしてはいけませ
ん。冷えると血行が悪くなり、
こりや痛みなどの症状が一層進
んでしまいます。ですから、ど
のようなときも、外気の寒風や
クーラーの風などが当たらない
ように注意を払っておかなけれ
ばなりません。
そして、それはお風呂の入り
方についても言えることです。
皆さんは日頃、どんな入浴の仕方をしていらっしゃいますか?シャワーだけでさっと済
ませるくらいでは、なかなか全身の血行をよくする効果は得られませんから、やはり、39
- 123 -
~ 40 度くらいのぬるめのお湯にゆっくり浸かるほうがいいでしょう。ただ、いつもゆっく
りお湯に浸かっているという人も、半身浴はあまりお勧めできません。半身浴は体は温ま
りますが、かえって首や肩を冷やしてしまう可能性があるのです。もし、半身浴をする場
合は、タオルなどをかけ、首や肩を冷やさないように十分に配慮してください。
また、いつもゆっくり全身浴をしているという人も、浴槽のふちに腕をかけるなどして、
肩や首をお湯から出していては、それほど肩や首は温まりません。できれば、両ひじをお
湯の中に入れ、あごまで浸かるスタイルで入浴するようにするといいでしょう。これなら、
首や肩の血行もバッチリです。
ただし、温めすぎてのぼせないように十分気をつけて下さい。
関節の動きをよくするとダイエットにもいい?
基本的にやせる方向にシフトします
首や肩、腰などの関節の動きを正常化すると、無駄な脂肪が落ち、やせていく人が少な
くありません。では、なぜやせるのか?
それは、関節がなめらかに動くようになったことにより、それまで使われていなかった
筋肉が使われるようになるからです。関節周囲の筋肉を 100 %使って動けるようになると、
筋肉の熱生産効率がアップして代謝が引き上げられます。それにより、脂肪がよく燃焼す
るようになり、気になる部分の脂肪が落ちていくことに繋がっていく訳です。
たとえば、頸椎の関節の動きをよくし、ストレートネックを改善させると、首やあごま
わりの脂肪が落ち、「二重あご」や「ずんぐり首」が解消されていきます。また、代謝改善
とともに血流がよくなるため、顔をはじめ、頭頸部に滞った不要物を排出させる機能が高
まります。それにより、顔のたるみやむくみ、血色の悪さなどの悩みも改善されます。
また、骨盤の仙腸関節の動きを正常にすると、下半身やおなか部分の脂肪がよく落ちる
ようになります。仙腸関節の可動域が広がると、腸腰筋などの体の深部にある筋肉がさか
んに使われはじめます。それによって代謝がアップし、とくに下半身やおなかの脂肪が燃
やされるようになる訳です。
じつはダイエットには、関節の動きがいいかどうかがとても大きく関係しているのです。
- 124 -
こりや痛みなどの悩みが解消するうえに、気になる脂肪も落ちてくれれば一挙両得です。
肩たたきやマッサージは強めにしてはいけません
弱めの行うのが基本です
「昨日、マッサージをちょっと強めにやってもらったら、今日になっていっそう痛みが出
てきて困った・・昨日はあんなに気持ちよかったのに・・・」・・こんな経験をされた方も
少なくないことでしょう。いわゆる”もみ返し”というものです。
この不快な痛みは、強く叩いたり、マッサージを行うことによって、筋肉組織を損傷させ、
炎症を引き起こした結果なのです。絶対に行ってはならない事項です。
肩たたきやマッサージなどで強すぎる力が加えられると、筋肉は割合簡単に傷ついてし
まいます。ですから、肩たたきやマッサージはなるべく弱めにやってもらうのが基本です。
本当は、ちょっと物足らない位がちょうどよいのです。とくに、こりがひどいときは、肩
や筋肉の状態も悪くなっていますから、”なでるくらいのソフトさ”でも十分なのです。
でも、強めがお好きな方もおられますよね。「ああ、そこそこ・・」「そこをもうちょっ
と強く」といった感じでやってもらわないと気が済まないという方は結構多いものです。
このような方の肩はコチンコチンに硬くなっています。ここに強く刺激を与えることは
益々筋肉を傷つけ、結果的にはどうにもならなくしてしまいます。
また、軽く触ったくらいで痛みを感じるほどの症状があれば、マッサージは絶対にして
はいけません。このような場合は、レーザー照射などで深部の血行を改善させるような治
療手段が必要になります。それも根気強く行わないと改善は望めません。
首の筋肉は繊細にできていますので、マッサージによって反って症状をこじらせてしま
いますので、この点は十分注意しなくてはなりません。
ツボ押しグッズを手放せないんだけど・・
ツボ押しグッズで首や肩を刺激するのはよくない習慣です
- 125 -
私の元にいらっしゃる患者さんには、肩や首を刺激する「ツボ押しグッズ」をいつもか
ばんに入れている方が少なくありません。その”ヒミツ道具”は、柄のついたカギ状にな
っていて自分で肩の後ろのほうを刺激できるものや、U字状に首をはさんで首まわりを刺
激するものなど、じつに様々です。
しかし、こうしたツボ押しグッズに頼るのは、とてもよくない習慣です。前項でも述べ
たように、首の筋肉という組織はたいへん傷つきやすく、1か所に集中的に力を加えると
炎症を起こしてしまうものなのです。とくに首の筋肉は繊細ですから、ヘタに強い力を加
えると症状を大きく悪化させてしまいかねません。
首の筋肉って、運動して鍛えたほうがいいの?
いいえ、その必要はありません
首の筋肉が強いか弱いかは、こりや痛みには関係ありません。普通の生活が営めている人
なら、頭を支えるだけの筋肉量は首に備わっているはずです。ですから、ことさら「首の
筋肉を鍛えなきゃ」とがんばる必要はないのです。
首の運動やストレッチは、先に紹介したストレートネック防止の「あご引きエクササイ
ズ」を行うだけで十分です。あとは、首や肩が疲れたときに、軽く首や肩を回すくらいで
OKです。繰り返しますが、首の筋肉疲労は、頭の重さや首の筋肉の弱さではなく、首に
負担をかけっぱなしにしてしまう姿勢の悪さが問題なのです。
なお、運動というほどではありませんが、散歩はお勧めです。デスクワークの合間など
にその辺をぶらりと歩いてみれば、気分転換にもなるし、体の緊張もほぐれます。机にへ
ばりつく生活を変えるためにも、是非習慣にするといいでしょう。
首や肩こりを悪化させない服装は?
首・肩を大きく露出する服や、重い服は避けましょう
最近、若い女性には、首から鎖骨にかけてのデコルテ部分を大きく開けたファッシヨン
- 126 -
を好まれる方が多いようです。しかし、こうした服は首や肩を冷やしてしまいがちです。
こりが気になるなら、首や肩を露出しない服を選ぶほうがいいでしょう。
また冬場、外に出るときは、マフラーやショール、ネックウオーマーなどでしっかり首
や肩を保温して下さい。なお、夏でも油断は禁物です。エアコンの冷気に首や肩がさらさ
れると、とたんに冷えて、こりが悪化してしまいます。その際は、首にスカーフを巻いた
り、肩に薄手のショールをかけたりしてガードするといいでしょう。
さらに厚手のコートやジャケットなどの重い服、体をきつく締め付けるブラジャーなど
も、肩こりを悪化させてしまいます。服や下着は、できるだけ軽い素材でできた動きやす
いものを選ぶようにして下さい。
ネックレスの重みが首に負担になるって本当?
本当です。アクセサリには十分気をつけてください
首は常に6キロもある頭を支え続けています。毎日酷使されている首には、たとえ1グ
ラムであっても、それ以上負担を増やさないのが賢明です。でも、そこへ重いネックレス
やイヤリングの負担が加わったとしたらどうなることでしょう。
つまり、首の健康のためには、なるべくネックレスなどのアクセサリーは控えるほうが
いいのです。パーテイなどでつける際は、できるだけ軽いものを選ぶようにするといいで
しょう。また、重い帽子やウイッグなども避け、”首から”を出来るだけ軽くするように心
がけてください。
先にも触れましたが、重いアクセサリーをつけるのを習慣にしていると、ストレートネ
ックが進んでしまいます。そうやって、自分の首をキレイに彩るためのアクセサリーによ
って、自分
の首を痛めてしまっている女性は、決して少なくないのです。
枕はどんなものがいいのか?
基本的には「枕なし」で寝ることをお勧めします
- 127 -
私は肩こりや首こりを訴え
られるストレートネックの患
者さんには、「枕なし」で寝て
みることをお勧めしています。
首や肩のこりの原因が「高い
枕」にあることも少なくない
からです。
高い枕をしていると、首や
肩の筋肉が引っ張られたまま、
眠りにつく格好になります。これによる筋肉の緊張が、こりにつながっている場合がある
のです。また、高い枕をしていると、寝返りなどの拍子に首が不自然な角度に曲がること
が多く、寝違えも起こしやすくなります。ですから、一度枕をはずして寝てみてください。
それで、こりや痛みが緩和されるなら、それまでの枕の高さが合っていなかったというこ
とです。寝る際の枕は、頸椎のカーブを少し助けてあげられる高さがあれば十分です。本
当は、バスタオルを三つ折りくらいにして頭の下に敷く程度の高さがちょうどよく、ほと
んどなくてもいいくらいなのです。枕がないと、どうしてもしっくりこないという方も、
できるだけ低い枕に変えてみるといいでしょう。
ただ、仰向けで寝ているときは、枕なしでも十分ですが、横向きに寝るときは、頭が傾
いて首が少しだけ曲がる格好になるため、低めの枕があるほうが首に負担をかけずに済み
ます。このため、私は、図のように、頭の左右両脇に低い枕をおいて寝ることを推奨して
います。これであれば、あお向けのときも横向きになったときも、首にかかる負担が少な
くて済み、快適にぐっすり眠ることができるのです。
牽引治療は逆効果になるって本当?
本当です。
私の医院にも、ストレートネックがあるからといって、整形外科で「頸椎の牽引療法」
をされて、頭痛を増強されて、多数の方々が来院されます。このような治療をされる「整
- 128 -
形外科医」は、このような患者さんが以後受診されないことを「軽快」されたと判断され、
その弊害を認識することなく、このような牽引療法をされています。
単純に考えて、ストレートネックに対して、首を引っ張ることによってどのような効果
があるのでしょうか?首を引っ張ることによって、益々、首の筋肉にダメージを与えてい
ることに全く考えが及ばず、また医学論文に「全く、目を通されない」医師集団としか思
えません。少なくとも、頭痛診療を行う医師にとっては、許せない診療行為です。
このような「整形外科医」がなお存在することを、認識しておくべきです。
肩こりや首こりを防いでくれる食べ物ってあるの?
お酢や青背魚を積極的に摂りましょう
肩こりや首こりを防ぐには、食生活にも気をつけることが大切です。
残念ながら、これを食べれば、すぐにこりや痛みが軽くなるというような食品はありま
せんが、血行よくしたり筋肉の状態をよくしたりするために、積極的に摂ったほうがいい
食品はいくつかあります。
まず、アジ、イワシ、サンマ、サバ、マグロなどの青背魚です。これらの魚の脂肪には
DHA(ドコサヘキサエン酸)やIPA(イコサペンタエン酸)といった成分が豊富に含
まれ、いずれも血行を促進する効果があるのです。また、筋肉をつくる元になるのはたん
ぱく質ですが、これらの魚の肉は、そのたんぱく源としてもたいへん良質です。刺身や焼
き魚はもちろん、いろいろな調理法がありますから、バリエーシヨンを工夫しながら摂る
ようにしていくといいでしょう。
なお、血行をよくする栄養素としてはビタンミンEも挙げられます。ビタミンEはアボ
ガド、カボチャなどのほか、アーモンドやクルミなどのナッツ類に豊富です。
それと、もうひとつ。ぜひ、積極的に摂っていただきたいのが「お酢」です。
じつに、酢には筋肉の疲れを解消したり代謝をアップさせたりする作用があり、体のこ
りをとるのにたいへん役立つのです。酢の物やマリネなどを摂るのはもちろんのこと、い
ろんな料理に酢を活用していくことをお勧めします。また、黒酢のように直接飲むタイプ
の酢も増えてきているので、健康習慣として取り入れてみるのもいいでしょう。
- 129 -
さらに、クエン酸にも、酢と同様の効果があります。
クエン酸は、梅干し、レモン、グレープフルーツなどに豊富に含まれるほか、最近はサ
プリメントとして多くの商品が出回っています。スポーツ選手にも、筋肉疲労解消のため
にこうしたサプリメントを利用している人が少なくありません。
みなさんも、こうした食品をうまく組み合わせて、自分流の「肩こり・首こり防止メニ
ュー」をつくってみてはいかがでしょうか。
片頭痛を改善させる”頭痛体操”
片頭痛の場合も緊張型頭痛の場合も、頸椎レントゲン検査を行ってみますと、かなりの
頻度で、ストレート・ネックを始めとして様々な頸椎の湾曲異常がみられます。
これらの変化は、両頭痛に共通して言えることですが、内田信友先生は「歯のかみ合わ
せの悪さ」に原因があると指摘されますが、これ以外にも「姿勢」に関連して、長時間の
パソコン作業や前屈みの姿勢を持続されることによって起きてきます。そして「片頭痛の
遺伝的な体質」をもっている人は「片頭痛」を、ない人では「緊張型頭痛」を起こしてく
ることが推測されます。
片頭痛の方でも、頭の片側でなく、両側とくに後頭部に痛みを訴えたり、なかには拍動
性でなく、緊張型頭痛のような締め付けられるような重苦しい痛みを訴えられる場合があ
るのは、このような状態が関連していると考えられます。
このような両方の慢性頭痛に対して「頭痛体操」が勧められています。
国際頭痛センター長
新百合ケ丘ステーションクリニックの坂井文彦先生は以下のよう
に述べられています。
頭痛体操は、首の後ろの片頭痛圧痛点をストレッチし、その刺激で脳の痛み調節系を活
性化するのが目的です。首の後ろからは頸髄神経が脳に向かい、脳幹で片頭痛の三叉神経
系の回路とつながっています。
- 130 -
頭痛体操の方法
- 131 -
「軽く両足を開いて立ちます。両腕を前方に伸ばし、手の掌は下にむけて、肘を半分曲げ
て下さい。正面を向いたまま、頭は動かさず、両肩を水平に大きく回します。頸椎(けい
つい)を軸として肩を回転させ、頭と首を支えている筋肉(インナーマッスル)をストレ
ッチします。
顔はまっすぐ前を向いて、肩を回します。首が軸になります。力は抜いて、でも肩は大き
く回して下さい。首がコマの芯なり、そのまわりを肩が回っている感じです。片頭痛の圧
痛点がストレッチされるのを感じながら、続けて下さい。
体操は2分して頂きます。朝夕一回づつ、それぞれ2分間程度の体操で首の硬さがほぐ
れます。ただ、片頭痛の発作中は、絶対に行わないで下さい。
体操で圧痛点がストレッチされ、そこから痛み調節系に良い信号が送られるのです。脳
の痛み調節系が活性化されると、痛みへの敏感さが随分少なくなります。
この体操は、緊張型頭痛、片頭痛に限らず、頭痛が起きる時に共通して起こるからだの
異変に対して行う体操です。
実は、頭痛が起きる時、共通して首の上の方にシコリができることが多いのです。
このシコリを緩和することを目的とした体操です。
この体操の実際は、以下のサイトでご覧下さい。
エーザイのホームページで、「医療関係者向けサイト」→「マクサルト」→「頭痛診療の
コツ」→「ドクターボイス」の中の「頭痛体操の有用性」でご覧になれます。
http://www.eisai.jp/medical/products/maxalt/support/voice.html
鹿児島の歯科医の内田信友先生が「 N.H.R.頭痛解消法」 で提唱されておられる体操をお
勧めしております。その体操は3つです。
- 132 -
1.背骨を伸ばす
2.肩首のスットン体操と首周囲・頭のマッサージ
3.両手振り運動
これを、1日 15 分間毎日行うことです。
現在、私の通院中の患者さんにも行って頂いておりますが、毎日根気強く行われている
方々には絶大な効果があり、発作頻度が激減し、殆ど起こらなくなった方もおられます。
これに加えて、
「仙腸関節のストレッチ」をお勧めします。このやり方は、ネット上で、you
tube
に紹介されていますので、ご覧下さい。
このような体操・ストレッチを行いつつ、日常生活を行う上で意識的に「姿勢を正しく」
するように注意しながら、長時間にわたって前屈みの作業をする方々には、この姿勢が一
番よくないことを認識して頂いて、仕事の合間をみて、上記の2.3の体操をして頂くよ
うに指導しております。
これ以外にも、YOU TUBE で「頭痛体操」で検索されれば、いろいろな体操のビデオが
閲覧できます。
このような、頭痛体操を毎日、欠かさずに行うことによって、頭痛の頻度が減少してい
くことが期待されます。
実際、これらの「頭痛体操」を毎日、欠かさずに行われる方々は、片頭痛の発作頻度が
激減されることが経験されております。
とくに、ストレートネックを呈しておられる頭痛の方々には、絶大な効果を発揮してい
ることは、間違いのない事実です。
- 133 -
仙腸関節のストレッチ
矢じりのポーズ
1 初めは仰向けで開始
2 右ヒザを曲げて体を左側にひねる
腰、膝ともに、直角になるように脚を曲げ、体を右に倒してください。右手のひらを床に
触り、左手でヒザを軽く触っておいてください。
3 右ヒザを左手でぐいっと押しこむ
一回1の体勢に戻してから、左手で右ひざをちゃんと抑えつけながら、顔と上半身を反対方
- 134 -
向に倒してください。膝が床につけば一番いいです。呼吸は自然に行いながら、10秒キー
プします。
4.左ひざを曲げて体を右側に倒す
5 左ヒザを右手でぐいっと押しこむ
6 以上を3セット行ってください。
ワイパー運動
1 初めはうつ伏せから
- 135 -
2 ヒザを直角に曲げます
アゴを
支えるため両手を組んでください。目線は少し下を見てください。そして、両膝をくっつ
け直角に曲げてください。このとき足首は軽くくっつけて曲げてください。
2 下半身を右に倒します
足首が離れないようにすることです。徐々に右側に下半身を倒していきます。もうこれ以
上無理というところまできたら、息を止めて5秒間だけキープします。このとき、腰の筋肉
が何かに引っ張られている感覚をイメージしてください。一度、2の体勢になってから
- 136 -
4 左に倒します
3と同様に左に倒してください。倒しにくい方向は筋肉が偏っている可能性が高いため、多
めに倒しにくい方向をやることが重要です。
脚あげブリッジ
1 仰向けから開始します
まず、床に横たわり仰向けの状態で体全身を脱力します。腕は自然と体の横に伸ばしてく
ださい。このとき掌を天井に向けます。
つま先、かかとをぴったりくっつけて、足首を直角に立ててください。そして、リラック
スして、ゆっくりと、呼吸を行ってください。
2 頭頂部を床にくっつけます
- 137 -
あごを前に突き出し、頭頂部を床につけて、背中を床から話してください。お腹と頭頂部
だけで体を支える感じにしてブリッジする感じにします。ヒジを使っても大丈夫です。
3 最後に脚を上げます
足首の角度を直角90度に保った状態のまま、ゆっくりと両脚をあげて行きます。30センチ
くらい床から離れたら息を3秒間止めてください。その後ふっと体全身の力を抜き、両脚を
床に落とします。
この「仙腸関節のストレッチ」については, YOU TUBE に動画が掲載されておりますの
で、直接ネット上でアクセスされご覧下さい。
首こりにしない、させない生活習慣とエクササイズ
- 138 -
ノートパソコンの長時間使用は要注意
私は、首のこりは、現代人の生活に密接に関係があると考えています。パソコンや携帯
電話、ゲームなどのIT機器の影響が大きいのではないかと考えられるのです。
とくに、ノートパソコンは、キーボードを打ち、液晶画面をみるときの姿勢が、うつむ
き姿勢になるので、首への負担が増えます。電車の中でも、カフェの中でも、テーブルや
膝の上に置いてさかんにキイボードを叩いている人を見かけますが、うつむいてのぞき込
んでいる姿を見ていると、首の筋肉にかなりの負担がかかっているはずです。
現代人にとってパソコンは、ビジネスに限らず、趣味や日常の生活管理にも必需品です
が、パソコンを使うときは、なるべくデイスクトップタイプとし、姿勢を正しく保つよう
に心がけましょう。
携帯電話もゲーム機も、首のこりを作る大きな原因の一つです。
部屋でも屋外でも四六時中携帯ゲームや携帯電話の液晶画面を見ながらゲームをする人
が増えています。若いときから、うつむき姿勢が習慣になってしまうと、やがて多くの人
に首のこりから自律神経失調症状が引き起こされることは、まず間違いないでしょう。
首の異常が続くと、不定愁訴の原因となり、症状は慢性化してきます。こうなると、と
ても治りにくくなるので安静にして理学療法などで首のこりを根気よく和らげてやるしか
治療の方法はありません。
15 分に1回の休憩が基本
首こり、すなわち頚筋症候群の予防は、なにより首を休ませることです。長時間にわた
ってノートパソコンやゲーム機に夢中になって続けてはいけません。勉強や書類書きなど
も同じです。15 分に1回は首を休ませるようにしましょう。休む時間は約 30 秒が目安で
す。背もたれに寄りかかり、後頭部(首と頭の境界あたり)に両手を当てて、少し見上げ
るようにあごをあげます。こうすると、動作そのものは短時間でも、首の後ろの筋肉をゆ
るめることになります。これは私が考案した、首をリラックスさせるための「首反らし運
動」です。短時間で首の筋肉の疲れがとれ、首こりの予防となります。ぜひ、実行して下
- 139 -
さい。パソコンやゲームを続けていると、気づかないうちにずいぶん時間がたっているこ
とがあります。15 分に1回の休憩するつもりが、気づいたら 30 分、1時間たっていたり
します。そこで 15 分ごとに知らせるタイマーをセットしてはどうでしょうか。要するにこ
まめに休みを取ることなのですが、結構忘れてしまうのが、人間です。
- 140 -
ホットタオルで首を守る
首は神経が集中して通る道ですから、冷えは大敵です。もともと首は、夏でも冬でも外
気にさらされ冷えやすい部位です。
夏でもクーラーで冷えすぎているオフィスがよく見られます。クールビズが推奨され、
エコモードのクーラーも普及してきましたが、まだまだ冷えすぎのオフィスや電車に行き
当たります。とくに女性は冷えが大敵です。腰掛けで腰や足を冷房から守っている人をよ
くみかけますが、案外首は見逃されがちです。首を冷やさないようにマフラーやスカーフ
を巻いて防衛しましょう。
首の裏(うなじ)が冷えているのには気づきにくいものです。手を当てると驚くほど冷
えていることがあります。マフラーやスカーフは、うなじが隠れ頭部にかかるくらいまで
首筋に幅広く、ゆったりと巻いて下さい。
いったん冷えてしまった首を温める方法を紹介しておきます。
水に濡らしたタオルを軽く絞って、ラップに包んで電子レンジで約1分間加熱し、乾い
たタオルにくるんで、首に巻き付けます。タオルが冷めたら、再び電子レンジで加熱して
利用します。この方法で、就寝前の数十分、起きてからの数十分のホットタオルを習慣に
すれば、首にとってとてもやさしい毎日が送れることでしょう。
お風呂は首までつかりましょう
首を冷えから守る対策は、日常生活でちょっとした工夫を習慣づけることが大切です。
もちろん、マフラーやスカーフも大切ですが、日本人にはお風呂の習慣があります。最近
の若い人たちは、朝シャンといって朝のシャワーだけですます人が多いと聞きます。首を
守るためには、シャワーではなく、40 度前後のお風呂に首までつかることをお勧めします。
リラックスするには、半身浴で長い時間つかっているのがよいと思っている人が多いよ
うです。しかし、首までたっぷりつかり、首を温めると首こり予防効果が高まります。
お風呂から出たら、濡れた髪はすぐにドライヤーで乾かしましょう。濡れた髪が冷たく
なってうなじに当たると、お風呂の効果どころか、逆効果になってしまいます。
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女性のつらい症状は首で治る
松井孝嘉
法研
から掲載
ドライヤーは、お風呂の後に髪の毛を乾かすだけでなく、寒い日や冷房の効きすぎなどで
「首が冷えてるな」と感じたときにも、うなじを中心に温風をあてると効果的です。
- 142 -
普段から首に意識を向けましょう
首に優しい生活を心がけることが大切です。首の大敵は、冷えです。たとえば、首に冷
気を当てない、冷やさない、マフラーなどで温めるように気配りしてください。ゲームや
ノートパソコンなどでうつむき姿勢になり、首に長い時間力を加えて首を疲れさせない、
また、頭部外傷や頚部外傷には気をつけましょう。
読書するときも、うつむき加減になっていることが多いのではないでしょうか。掃除や
料理をするときも、下を向いて作業をしています。自転車に乗ったとき、スポーツサイク
ルでは上半身が前傾になるので、首に負担がかかっています。シテイサイクル(ママチャ
リ)のような、サドルに乗って背筋の伸びる自転車のほうが首にとっては楽なのです。
普段から首の状態を意識しましょう。最も正しい姿勢は、首が頭の真下から支えるよう
な形になっている状態です。
お風呂でシャンプーするとき、けっこう長い間うつむいていないでしょうか。短い時間な
ら何の問題もありません。すでに不定愁訴の出ている人や、普段から長い時間かけてシャ
ンプーしている人は、気をつけましょう。
長い時間うつむき姿勢になるときは、必ず 15 分で頭を後ろへたおしましょう。
通勤時にバックをお持ちかと思います。重い肩掛けバックをいつも決まって片方の肩に
かけていると、一方の肩だけに負担がかかってしまいます。首や肩の筋肉に知らず知らず
こりが生じ、首こりの原因になります。バックの重量を減らしたり、手提げバックに換え
るなどして首の負担を和らげて下さい。
首の筋肉を頻繁に休ませるようにし、首をいたわりましょう。
次に首こりを防ぐ4原則をまとめてみました。
1.うつむき姿勢を長く続けない
2.首を冷やさない
3.疲労をためない
4.頭や首への外傷を避ける
- 143 -
首の筋肉を強くするエクササイズ・・毎日続けることが大事
女性は男性に比べて筋肉の量が少ないので、筋力も強くありません。しかし、頭部は約6
キログラムもあり、男女ともほとんど同じ重量です。そこで、女性は首の筋肉を強くする
エクササイズを実行すれば、頸筋症候群になりにくい体を作ることができます。筋肉をつ
けるといっても、ボデイビルダーのような太い首になる必要はないのです。今より少し首
を強くするよう毎日少しずつ鍛えていきましょう。首の筋肉に異常のある方はしないで下
さい。
これは首を曲げるときに、頭が動く反対方向に少しずつ力を加える方法です。1回のエ
クササイズにかかる時間は長くて 10 分程度です。できれば1日に2回行うと効果的です。
リラクゼーシヨンの運動も、この筋肉を鍛える運動も、継続することがとても大事なポイ
ントになります、
動作の最中は息を止めないで下さい。ゆっくりと呼吸をしながら行います。
これから紹介していく首を鍛えるエクササイズは、あくまでも予防のために行うものです。
はじめは倒すときに負荷を全くかけないで、倒した頭を元に戻すときは、むしろ、手でア
シストするようにしてください。すでに症状が出ている人は、首の筋肉に異常がある可能
性が高いので、首に負担をかけるこのエクササイズは行ってはいけません。
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女性のつらい症状は首で治る
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松井孝嘉
法研
から掲載
女性のつらい症状は首で治る
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松井孝嘉
法研
から掲載
女性のつらい症状は首で治る
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松井孝嘉
法研から掲載
女性のつらい症状は首で治る
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松井孝嘉
法研
から掲載
以下は、東京脳神経センターの松井孝嘉先生の考案された体操です。
「首」の555体操 ~副交感神経アップで健康になれる!~
555 体操には、背もたれのあるイスを使用し、深く腰掛けて行ってください。
①首の柔軟体操
Ⅰ
首を左右にゆっくりまわします。
頭を前方に倒して、まず左からゆっくりと一周させます。
続いて右からまわします。この運動を5回繰り返します。
②首の柔軟体操
Ⅱ
首筋をしっかり伸ばして顔をゆっくりと右に向けます。
このとき体は正面を向いたまま動かさず、左肩を軽く後ろに引きます。
そのあと顔を正面に戻します。これを5回、繰り返します。
続いて先ほどと逆の動きをします。顔をゆっくりと左に向けます。
体は正面を向いたまま動かさず右肩を軽く後ろに引きます。
- 149 -
この運動も5回繰り返します。
③首の後ろの筋肉をゆるめる
両手を組んで後頭部にあてて、頭をゆっくりと後ろに倒します。
倒した状態で5まで数えて、ゆっくりと頭を元に戻します。
この運動も5回繰り返します。
④首の斜め後ろの筋肉をゆるめる
右手を右の耳の後ろにあてて頭を右後ろにゆっくりと倒します。
- 150 -
倒したまま5まで数えてゆっくりと元に戻します。
手は戻す運動を手助けるようにします。この運動も5回繰り返します。
⑤首の斜め後ろの筋肉をゆるめる
今度は左手を、左耳の後ろにあてて、
先ほどの反対側である左後ろに倒していきます。
倒したまま5まで数えて、元の位置に戻します。
この運動も5回繰り返します。
⑥首の横の筋肉をゆるめる
右のこめかみの上あたりに右手の指を2、3本あて、頭を右肩の方に倒します。
- 151 -
倒したまま5まで数えてください。ゆっくり戻します。
このときも、そろえた手は、戻す手助けをしてください。
次に、左側も同じようにします。左右5回ずつ行ってください。
⑦首の斜め前の筋肉をゆるめる
左の額に左手をあてて、頭を右肩の上に倒します。
次にそのまま頭を左へまわしてできるだけ、右耳を胸骨に近づけます。
- 152 -
このとき顔は左上方を向いています。
この状態で5まで数えて、頭を右肩の上に戻します。
そのあち、首を立ててまっすぐ正中(正面:体の左右の真ん中のライン)に戻します。
左側も同じようにします。
右手を額の右側にあて、左肩の上に頭を倒し、
左耳が胸骨に近づくように首をまわします。左右5回ずつ行ってください。
⑧整理運動
③→②→①の順番でもう一度行ってください。
これは、東京脳神経センターの松井孝嘉先生の考案された体操です。
東京脳神経センターのホームページから収載致しました。
2分で1日の疲れを取る方法・・・・・背骨伸ばし
私は職業柄肩こりがひどく10年程前まで毎週マッサージに行っていました。
肩、背中の筋肉が張り一回痙攣して動けなくなったこともあります。
この背骨伸ばしをやるようになってから肩こりを知りません。
マッサージをしたこともありません。
毎晩お風呂上りに背骨伸ばしをするのが日課となっています。
「背骨の曲がりは万病の元」と昔から言われます。
今年60才になる私が病気をしないのはこの背骨伸ばしのお蔭と思っています。
頭痛持ちに共通するのが肩こりです。頭痛持ちの方は肩、首、頭の筋肉が緊張しています。
頭痛を治すにはまず肩こりを治してください。
- 153 -
肩こりが取れれば首、頭が楽になります。
肩こりを簡単に治す方法がこの背骨伸ばしです。
冊子や動画でご覧になった背骨伸ばしは若い人向きです。
高齢の方、体の細い方、首の悪い方は軽い背骨伸ばしから始めてください。
いきなり首まで曲げると吐き気が起きたりします。
まず首には枕を置き背骨だけ伸ばしてください。
最初はお布団の上に枕かクッションを置いてその上に背中を当てストレッチしてください。
背骨伸ばしのコツは背中の位置を2.3箇所変えることです。
首が痛い方は両手を組んで首の後ろを支えてください。
ご自分の体力に合った背骨伸ばしをしてください。
下の写真6歳の女の子が自分で頭痛を治しました。
1日2回エクササイズしたら頭痛が治ったそうです。
今は1日1回になったそうです。
6歳の女の子がどんなことして頭痛を治したのか大変興味がありました。
お母様がエクササイズの写真送って下さいました。
子供さんの背骨伸ばし見事です。これなら背骨、頚椎の歪みも改善されます。
お母様が頭痛のメカニズムを良く理解され、理にかなった背骨伸ばしが出来たから頭痛が
治ったのだと思います。
- 154 -
- 155 -
参考図書
「頭痛クリニック開院」
依存から自立、そして自活へ
頭痛退治読本
立岡良久
悠飛社
<新版>頭痛
大和田潔
新水社
頭痛女子のトリセツ
清水俊彦
マガジンハウス
頭痛女子の コンカツ 清水俊彦
マガジンハウス
頭痛解消パーフェクトガイド
竹島多賀夫
永関慶重
東京書店
こうして治す片頭痛薬物乱用頭痛といわれたら
寺本純
新型頭痛「脳過敏症候群」のすべてがわかる本
清水俊彦
トリプタンの使い方
新しい片頭痛治療薬のさじ加減
講談社
松井孝嘉
アスコム
パソコン疲れは首で治せる
松井孝嘉
アスキー新書
首こりは万病のもと
松井孝嘉
幻冬舎
首は健康ですか?
三井
岩波書店
弘
酒井慎太郎 幻冬舎
女性のつらい症状は首で治る
松井孝嘉
法研
首をチェックして原因不明の頭痛、不調を治す
副交感神経アップで健康になれる
お日さまセラピイ
松井孝嘉
セロトニン生活のすすめ 有田秀穂
だいわ文庫
「片頭痛改善マニュアル
岡田俊樹」
大革命
講談社
松井孝嘉 朝日新聞出版
脳内セロトニン活性法
「片頭痛
講談社
フジメデイカル出版
首を温めると体調がよくなる
肩こり・首痛は 99 %完治する
悠飛社
青春出版社
2011.10
「N.H.R 頭痛解消法
坂戸孝志」
内田信友」
なお、ストレートネックに関する記載は、赤字の書籍を参考に作成しましたことを、お
断り申し上げます。
- 156 -
あとがき
片頭痛は、現在のところ”脳の中には何も病気がなく、
”
「頭の痛みだけが病気」である、
という頭痛とされ、結局のところ「神秘な、不思議な病気」とされ、原因不明で、その頭
痛発作の都度、片頭痛の特効薬であるトリプタン製剤を服用し、発作回数が月に 10 回以上
であれば、抗てんかん薬をはじめとする予防薬の服用を勧めています。
一部の頭痛専門医は、一般の鎮痛薬で片頭痛の痛みを抑えていると、一部の脳の活性が
高まり、そこにつながる血管が異常拡張して、痛みが生じ、血管の異常拡張がさらに脳の
活性をもたらし、それが再び血管の異常拡張へとつながり、つまり、悪循環が終わらなく
なり、それによって常に片頭痛がある状態になり、血管の拡張が繰り返されると、血管自
体に炎症やむくみが残って、さらに頭痛を起こしやすくなる」ことによって、「易興奮性が
増大する」と忠告されます。
結局、頭痛発作時に「トリプタン製剤を使っていないと、脳の興奮性が増大してくると
いう、「トリプタン製薬メーカーが聞けば”泣いて喜ぶ”ような」考え方です。
これに対して、私は、、この「易興奮性が増大する」原因は「ストレートネックにある」
と考えております。
このように、現在「頭痛とストレートネック」はエビデンスなしとされているための論
理でしかなく、このように「トリプタン製剤を発作の都度服用していないと、将来脳過敏
症候群を引き起こし、頭鳴・耳鳴りを生じてくるというものです。こうした考えをテレビ
で大々的に放映したため、多くの耳鳴りで悩む患者さんが「トリプタン製剤」を求めて殺
到され、社会問題にまでなり、日本頭痛学会もこれを憂い、異例の見解を昨年8月に学会
ホームページに発表したほどです。しかし、この見解もある患者団体の抗議によって何時
のまにホームページから消えてしまいました。
このような経緯は、日本頭痛学会およびある患者団体、さらにトリプタン製剤の製薬メ
ーカーの思惑が関与しているとしか思えません。
こういったことがあるため、本当に「頭痛とストレートネックはエビデンスがないのか
という」疑問を投げかける目的で、この冊子を作成致しました。
今後、片頭痛を治療していく場合の参考にして頂ければ幸いです。
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平成 25 年 2 月 1 日
和歌山県田辺市芳養松原 2 丁目 15 番 17 号
成和脳神経内科医院
田草川
良彦
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