太陽光/風力発電の応用から高周波/低損失ゲート・ドライバまで 第4部 太陽電池アプリ&ゲート駆動回路など 入力 DC300 V,出力 AC200 V/10 kW # 16 太陽光発電による 売電用三相パワー・コンディショナ 長井 真一郎 Shinichiro Nagai 接地する場合,スイッチングによる高周波漏れ電流が パワー・コンディショナとは 少なくできます. V 結線インバータ(注 1)を使用したインバータと昇圧 新エネルギー用の系統連系システムでは,電気設備 技術基準を満たすことにより,系統との絶縁トランス チョッパの組み合わせは,新エネルギー(注 2)用の系統 連系インバータに一般的に使われています. をなくすことができます.このため高周波漏れ電流の 少ない V 結線インバータにメリットがあります. 本回路は,例えば太陽電池より入力された直流のエ さらに絶縁トランスがないためシステムの損失,コ ネルギーを,いったん数百 V 程度の直流リンクに昇 圧させ,その後 V 結線インバータにより系統連系を ストともに抑えることができます.本稿では回路の紹 介と動作の概要を紹介します. 行うシステムです.このようなシステムを一般的にパ ワー・コンディショナと呼んでいます. V 結線インバータの特徴として,直流リンク電圧が 高くなるデメリットがありますが,V 相を絶縁なしに V 結線方式による パワー・コンディショナ 図 1 にパワー・コンディショナの主回路モデルを示 します. 直流リアクトル P006-126 (LC20AM1.2M42A) 10000μ Sv 450V ×2 太 N Sy 陽 F 電 1 池 直流リアクトル PK006-127 (LC12AM-1.4M34A) Su Sx CM200DU-24F (三菱電機) N F 2 CM150 DU-24F (三菱電機) ×4 太陽電池などからコモン・モード・チョーク(NF2) を介して昇圧チョッパへ接続されます.昇圧チョッパ 出力は直列接続された電解コンデンサへ接続され,2 アームの V 結線インバータに接続されます.インバ ータ出力にはスイッチング・リプルを除去する LC フ ィルタを接続し,さらに出力にコモン・モード・チョ ークを接続し,商用系統に接続されます. ● 回路の動作 図2 (口絵)に交流電流の実験波形を示します.昇圧 チョッパにより DC300 V から DC750 V に昇圧します. 中間の直流リンク DC750 V から 2 アームの V 結線の PWM インバータにより三相 AC200 V を出力します. EM I フィルタ EM I フィルタ(シャント付き) PK006-102(ET75FM-S I 45A) PK006-101(ET70FM-TH35A) 図 1 太陽光発電用パワー・コンディショナの回路(EMI フィル タ,直流リアクトルはポニー電機製) V 結線インバータは,V 相を絶縁なしに接地する場合,スイッチングに よる高周波漏れ電流が少なくできる 注 1 :一般的な三相フル・ブリッジ・インバータが三つのアーム にて構成(Y 結線)されているのに対して,V 結線インバータとは 同じ三相出力にもかかわらず,二つのアームにて構成されるも のを言う. スイッチング素子は IGBT を使用し,スイッチング 周波数は 17 kHz 相当の可聴領域を越えた程度で動作 させます.図 2 から V 結線インバータにより三相電流 が出力できていることがわかります. ● 直流分の検出にシャントを使用 自然エネルギーを回生するパワー・コンディショナ 注 2 :新エネルギーとは太陽光発電エネルギーや燃料電池エネル ギー,風力エネルギーなどのことを言い,従来の石油や石炭な どによるエネルギーと違いクリーンなエネルギーのことを言う. Keywords V 結線,太陽光発電,パワー・コンディショナ,インバータ,CM200DU − 24F,新エネルギー,電気設備技術基準,シャント,ソ フト・スイッチング,2SK1522 140 2006 年 10 月号 特集*役に立つ実用パワー回路集 昇圧チョッパ GT60J322 (東芝) 共振回路 V結線インバータ 4μH 10n 10n ⅠE SW DC300V 太 陽 電 池 CM400HU-12F (三菱電機) 10n ×5 10n なインバータのなかでも効率改善を求められているた め,ソフト・スイッチング方式のインバータとして実 10n 三相 AC200V 用化されています. ソフト・スイッチング方式とは,スイッチングによ って発生するスイッチング損失を回路や制御によって 低減する手法で,さまざまな回路方式が存在します. 本回路の特徴は,前記の V 結線インバータのメリ 10n 図 3 共振型太陽光発電用パワー・コンディショナの回路(表記 のない部品は図 1 と同じ) ソフト・スイッチング化のための付属回路が IGBT 2 個と共振リアクト ル 1 個と少ない部品追加で構成できる ットに加えて,ソフト・スイッチング化のための付属 回路が 2 個の MOSFET と 1 個の共振インダクタと少 ない部品追加で構成できることです. また,メインの五つのスイッチの損失が少なくなる ため,IGBT を小型化できるメリットがあります. ● 回路の構成 図 3 にソフト・スイッチング方式のパワー・コンデ ィショナの主回路を示します.電力仕様を含め,基本 では,電気設備技術基準を満たすことにより系統との 絶縁トランスをなくすことができます. 構成は前節のパワー・コンディショナ回路方式と同様 で,各部品も図 1 と同等です. この基準では,交流の直流分を 1 %以内で検出する ことが求められていますが,貫通型の電流検出器では ソフト・スイッチング化のための付属回路は共振回 路であり,昇圧チョッパと V 結線インバータのスイ 温度ドリフトなどを考慮するとこの基準を満たすこと は困難です. ッチ(IGBT)のスイッチング損失を回生するためのも のです.もちろん共振回路内のスイッチもソフト・ス このため,シャントを用いた検出を行うことが多く, ここでは NF2 のフィルタ基板内にシャントを設けて おり,交流電流に含まれる直流分を検出しています. ソフト・スイッチングで効率 UP イッチングとなります. ● 回路の動作 昇圧チョッパにより DC300 V から DC750 V に昇圧 し,中間の直流リンク DC750 V から 2 アームの V 結 線の PWM インバータにより三相 AC200 V を出力し ます.また,スイッチング素子は IGBT を使用し,ス 前節のような V 結線インバータを使用したインバ ータと昇圧チョッパで構成されたパワー・コンディシ イッチング周波数は 15 kHz 相当です. 図 4 にソフト・スイッチングで動作させたスイッチ ョナ回路方式に対して,効率改善のためにソフト・ス イッチング方式の回路を組み込んだ事例を紹介します. ング波形を示します.ターン・オン時に共振回路を動 作させ,電圧と電流のクロスする部分の少ないスイッ 新エネルギー用の系統連系インバータは,いろいろ チングを行うことにより,スイッチング損失を回生さ SW端子の電圧 SW端子の電圧 ⅠGBTのエミッタ電流ⅠE ⅠGBTのエミッタ電流ⅠE (a)ターン・オン (b)ターン・オフ 図 4 SW 端子の電圧波形と電流波形 (100 V/div.,10 A/div.,ターン・オン: 1 μs /div.,ターン・オフ: 0.5 μs /div.) ターン・オン時電圧と電流のクロスする部分の少ないスイッチングを行うことによりスイッチング損失を再利用する 2006 年 10 月号 141
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