神経伝導障害発症機序の解明 :ワセリンギャップ法を用いた 膜電位固定法によるイオン透過性の検討 研究課題番号:~~b7~~~~ 平 成 6年度科学研究費補助金(一般研究 c )研究成果報告書 平 成7 年3 月 研究代表者 安 田 斎 (開医科大学医学部講師) 緒言 神経伝導障害は多くの神経疾患の機能的側面であり、この伝導の本体はランビ イ エ 絞 輪 部 に お け る 活 動 電 位 で あ る 。 そ の た め 同 部 位 の N a+"' K + チ ャ ン ネ ル の 変 化が伝導障害の原因として重要である。このイオン電流の変化を検討するために は、単一神経線維による検討が極めて有用であり、ワセリンギャップ法による膜 電位固定法を実施することにより、初めて可能であると考えられる。 一方、糖尿病性神経障害の成因は多くの仮説が提唱されているが、いまだ全貌 は明らかではなく、高血糖や高血糖に基づく代謝異常が電気生理学的機能異常を 惹起させる機序についても不明な点が多いが、これを明らかにするためには生化 学的検討と共にイオンチャンネルレベルの電気生理学的検討が必要であり、従来 の神経束を対象とした検討では不十分である。他方、運動ニユーロン疾患、ギラン M l抗 体 の 高 値 が 報 告 さ れ 、 神 経 伝 導 障 害 や 神 経 障 ・バレー症候群などでは血中抗G 害への関与が推測されているが、その検討は神経束レベルでの電気生理学的検討 にとどまっており、単一神経線維を用いた方法でイオンチャンネルの変化を検討 する必要がある。 本研究では単一有髄神経線維を用いたワセリンギャップ法で、糖尿病性神経障 害や抗神経抗体による伝導障害や病態を単一神経線維レベルでイオン透過性の変 化として把握することにより明らかにして、有効な治療薬開発の一助としたい。 研究組織 研究代表者:安田斎(滋賀医科大学医学部講師) 研究分担者:北里宏(滋賀医科大学医学部教授) 研究分担者:寺田雅彦(滋賀医科大学医学部助手) 1994020675 2 0 0 0千 円 一- HUU 山町山町 円一 館同市川川相川 童目一川川川川川 盟問附 属嗣川H Hm船 4 叫 ﹄ 一 川 川UHHHHMMH制 m m 計 学 4 0 0千 円 HHHUHHU 川川 平 成 6年 度 一賀而川川川山 1 6 0 0千 円 大両州側 1 1 +一 f 医E市 川川 平 成 5年 度 M 一滋而 ; lM 研究経費 唱EEA 研究発表 (1) 学 会 誌 等 1) 瀧 川 智 子 、 安 田 斎 、 繁 田 幸 男 、 北 里 宏 : ラ ッ ト 単 一 神 経 線 維 電 気 活 動 に 及 ぼ す高濃度グルコースの影響と細胞内イオン濃度調節における N a+/K+ポ ン プ の 役割ー膜電位固定法による検討一、糖尿病(印刷中) 2) Takigawa 1 . Yasuda H . Saida T . Kikkawa R . Shigeta Y : Antibodies against G M l ganglioside affect K +a n dN a + currents i n isolated rat myelinated nerve f i b e r s . Ann Neurol ( i n press) (2 ) 口 頭 発 表 1) 佐 々 木 智 子 、 安 田 斎 、 寺 田 雅 彦 、 前 田 憲 吾 、 繁 田 幸 男 、 北 里 宏 : ラ ッ ト 単 一 神 経 線 維 の 電 気 活 動 と グ ル コ ー ス 濃 度 ー 膜 電 位 固 定 法 に よ る 検 討 、 第 2 9回 糖 尿 病 学 会 近 畿 地 方 会 、 平 成 4年 1 0月 3 1 日 2) 滝 川 智 子 、 安 田 斎 、 寺 田 雅 彦 、 吉 川 隆 一 、 繁 田 幸 男 、 北 里 宏 : 糖 尿 病 性 神 経 障 害 に お け る ケ ト ン 体 の 影 響 、 第 3 7回 糖 尿 病 学 会 、 平 成 6年 5月 1 1ー 1 3日 3) 滝 川 智 子 、 安 田 斎 、 寺 田 雅 彦 、 繁 田 幸 男 、 斎 田 孝 彦 、 北 里 宏 : 抗 G M l抗 体 の イ オンチャネルに及ぼす影響ーラット単一有髄神経線維を用いた膜電位回定法 による研究一、 第 3 5回 日 本 神 経 学 会 総 会 、 平 成 6年 5月 1 8ー 2 0 日 4) 滝 川 智 子 、 安 田 斎 : 抗 G M l抗 体 の 神 経 線 維 イ オ ン チ ャ ン ネ ル に 対 す る 影 響 、 第 3 6回 日 本 神 経 学 会 総 会 ( シ ン ポ ジ ウ ム ) 、 平 成 7年 5月 1 7- 1 9 日 ( 発 表予定〉 5)Takigawa 1 . Yasuda H . Saida 1 . Terada M . Kikkawa R . Shigeta Y . Kitasato H : Antibody t oG M l ganglioside affect K +a n dN a + currents i nt h er a t myelinated f i b e r .T h e1 s t Annual Meeting o f Peripheral Nerve S o c i e t y . June 1 3 1 6 . 1 9 9 4 . 6) Takigawa 1 . Yasuda H . Terada M . Kitasato H . Shigeta Y:Glucose and ketone bodies affect electrophysiological activity i nr a t myelinated nerve f i b e r .T h e 30th Annual Meeting o ft h e European Association f o r t h e Study o fD i a b e t e s .2 8 September-l O c t o b e r . 1 9 9 4 . 2- 9) Takigawa T . Yasuda H . Terada M . Kitasato H . Kikkawa R . Shigeta Y : Nerve dysfunction and compensatory role of Na+/K+ pump in high glucose condition: voltage clamp analysis in rat single myelinated nerve fiber. The Third International Symposium on Diabetic Neuropathy. November 3 5 . 1 9 9 4 . t u 内 研究成果 1. 神 経 線 維 の 電 気 活 動 に 及 ぼ す グ ル コ ー ス の 影 響 1) 細 胞 外 液 に 30mM, lOOmM、 300mMD ー グ ル コ ー ス 及 び L ー グ ル コ ー ス を 加 え る とグルコース濃度依存性に活動電位は低下し、その程度は、 Lーグルコース の方が大であり、グルコースによる活動電位の低下は浸透圧効果と考えられ た 。 2) 高 濃 度 グ ル コ ー ス の 浸 透 圧 効 果 を よ り 明 確 に 評 価 す る た め 、 神 経 断 端 部 に 3mMデ キ ス ト ラ ン を 加 え 断 端 部 か ら の 水 の 流 入 を 阻 止 し た 場 合 、 阻 止 し な い 場 合と比べ、グルコース投与後の活動電位抑制時聞が延長し、活動電位の低下 は細胞容積減少と相関することが示唆された。 3 ) 細 胞 外 に 30mMD ー グ ル コ ー ス ま た は ス ク ロ ー ス を 加 え る と 、 活 動 電 位 及 び Na +電流は-_f!低下した後、一過性にコントロールレベルより上昇し、最終的に 元のレベルにまで回復した。その変化の程度は細胞外にスクロースを加えた 場 合 の 方 が 大 で あ っ た 。 グ ル コ ー ス 投 与 後 、 Na+ reversal potentialは 約 lOmV減少した。 4) 30mM D グルコースに O .lmM Ouabainを 加 え 細 胞 外 に 与 え る と 、 活 動 電 位 及 び Na+電 流 は 一 旦 減 少 し 、 多 少 回 復 傾 向 を 示 す が 、 Ouabain非 存 在 下 に み ら れ た 活 動 電 位 及 び Na+電 流 の 上 昇 は 認 め ら れ ず 、 そ の 後 進 行 性 に 低 下 し 、 r電 流 は上昇した。 以上より、高濃度グルコースは浸透圧効果により濃度依存性に神経活動電位及 び Na+電 流 を 低 下 さ せ た 。 こ の 現 象 は 、 細 胞 外 高 浸 透 圧 状 態 に 起 因 し た 細 胞 容 積 の 減 少 と 細 胞 内 Na+イ オ ン 濃 度 の 上 昇 に よ り 、 Na+平 衡 電 位 が 低 下 し た 結 果 惹 起 さ れ た と 考 え ら れ る 。 ま た 末 梢 神 経 で は 、 Na+/K+ポ ン プ が 細 胞 容 積 の 減 少 に 起 因 し た 細胞内イオン濃度の是正に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。糖 尿 病 で は Na+/K+ ポ ン プ の 機 能 低 下 が 存 在 す る こ と が 報 告 さ れ て お り 、 こ の 結 果 細 胞 内 に Na+イ オ ン が 蓄 積 し 、 活 動 電 位 の 低 下 ひ い て は 神 経 伝 導 機 能 障 害 が 起 こ る と 推 察 さ れ る 。 今 後 、 Ouabain存 在 下 で の r電 流 の 上 昇 の 機 序 に つ き 検 討 を 加 え る 必 要があると考えられる。 2. 神 経 線 維 の 電 気 活 動 に 及 ぼ す 脂 肪 酸 ・ ケ ト ン 体 の 影 響 糖尿病においては血中の脂肪酸・ケトン体増加がみられ、これらの神経機能に 及ぼす影響を検討した。 1) Stearic acid(SA)の 影 響 : SAは Na+-channelの activationの 速 度 の 上 昇 と r電 流の増大をもたらすと考えられた。 2 ) Methyl-n-butyl ketone(MBK)の 影 響 : 3mM,5mMで は 静 止 膜 電 位 は 変 わ ら ず 、 濃 度 依 存 性 の 活 動 電 位 振 幅 の 低 下 が み ら れ た 。 膜 電 流 の 変 化 と し て は 、 Na+電 流 の 減 少 と K電 流 の 増 大 が 認 め ら れ た 。 Na+電 流 を blockす る と r電 流 が や や 増 大 した。 3,4-diaminopyridineで r電 流 を 抑 制 す る と 、 Na+電 流 の 減 少 が 認 め ら れ た 。 以 上 よ り MBKは Na+電 流 を 抑 制 し 、 濃 度 依 存 性 に すと考えられた。 -4 r電 流 の 上 昇 を も た ら 3) Acetoacetic acid(AA)の 影 響 : 20mMの AAに よ り 活 動 電 位 の 振 幅 は 低 下 し た 。 膜 電 流 は 外 向 き は 変 化 が な く 内 向 き が 減 少 し た 。 AAは Na+電 流 を 抑 制 し 、 K+の 拡散を低下させると考えられた。 4) 3-hydroxy butyric acid(HBA)の 影 響 : 20mM HBAで 活 動 電 位 の 振 幅 は 低 下 し 、 膜 電 流 は 外 向 き が 上 昇 し た 。 Na+電 流 を blockすると、 r電 流 が 増 大 し た 。 4-aminopyridine(4AP)で r電 流 を blockす る と Na+channelの inactivationの 速 度 が 上 昇 し 、 Na+電 流 は 抑 制 さ れ た 。 この検討により糖尿病性神経障害における神経伝導速度の低下に血中脂肪酸、 ケトン体の上昇が関与している可能性が示唆される。今後、これらの長期効果に ついて検討を加えたい。 3. 神 経 線 維 の 電 気 活 動 に 及 ぼ す 抗 GMl抗 体 の 影 響 1 ) 神 経 細 胞 外 に 高 GMl抗 体 を 加 え た 場 合 、 抗 体 濃 度 依 存 性 に 神 経 ラ ン ヴ ィ エ 絞 輪 部 の K+電 流 及 び rコ ン ダ ク タ ン ス は 増 加 し た 。 一 方 、 こ の 抗 GMl抗 体 に よ り 惹 起 さ れ た r電 流 の 上 昇 は 4APで 抑 制 さ れ た 。 2 ) ま た 抗 GMl抗 体 は 活 性 化 し た 補 体 の 存 在 下 で 濃 度 依 存 性 に 活 動 電 位 及 び Na電 流 の減少と、 r電 流 の 上 昇 を 引 き 起 こ し 、 高 濃 度 下 で は 著 明 な leak currentの 増大を惹起させた。補体を加熱化して失活した状態では、補体添加の効果は みられなかった。 3 ) こ れ ら の イ オ ン 電 流 の 変 化 は 家 兎 で 感 作 し て 作 成 し た 抗 H+/K+-ATPase抗 体 で は 起 こ ら ず 、 抗 GMl抗 体 に 特 異 的 で あ っ た 。 傍 ラ ン ヴ ィ エ 絞 輪 部 に は 4AP sensitiveな rチ ャ ン ネ ル が 豊 富 に 存 在 す る こ と が 報 告 さ れ て い る こ と を 考 慮 す る と 、 GMl抗 体 は 傍 絞 輪 部 の 脱 髄 を 起 こ し 、 そ の た め rチ ャ ン ネ ル が 露 出 し て 、 K+電 流 が 上 昇 し た 可 能 性 が あ る 。 一 方 、 同 抗 体 は 補 体 と 共 同 し て Na+チ ャ ン ネ ル を ブ ロ ッ ク す る と 共 に K+電 流 を 増 加 さ せ た が 、 抗 体 の 濃 度 が 高 く な る に つ れ て 、 leak電 流 の 上 昇 が み ら れ た こ と よ り 、 最 終 的 に 軸 索 膜 の 高 度 な 障 害 が 惹 起 さ れ た と 考 え ら れ る 。 こ れ ら の 成 績 か ら 抗 GMl抗 体 は ラ ン ヴ ィ エ 絞輪部のイオンチャンネルに影響を与え、神経伝導速度の低下や形態学的な異常 を惹起させる可能性のあることが明らかとなった。 Fhd
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