Vol.49 - 東京都健康安全研究センター

東京都食品指導センター
●HACCP(ハサップ)
●脱酸素剤の科学
●輸入野菜の残留農薬
Vol.
49
2002.10
100
古紙配合率100%
再生紙を使用しています
特集
HACCP(ハサップ)
HACCP(ハサップ)
HACCP(ハサップ)とは、(Hazard Analysis Critical Control Point)
「危害分析重要
管理点」の略で、食品の製造に関わる衛生管理の手法の一つです。
このハサップシステムは、近年、食品製造業における製品の衛生管理に導入されてきましたが、現
在では、このハサップの考えに基づく衛生管理の手法を、集団給食施設等の調理施設の自主的な衛生
管理にも導入する試みがなされています。今回は、ハサップシステムについて紹介しましょう。
ハサップは、なぜ生まれたか ハサップ(HACCP:危害分析重要管理点)は、1960年代、アメリカのアポロ計画の一環として、
宇宙食による食中毒事故を防止するために考え出された食品製造工程の衛生管理のシステムです。
この概念は、予め発生する危害を明らかにし、製造工程中で一般的衛生管理では排除できなかった危害
を防止する箇所を重要管理点として設定し、この重要管理点に集中的に危害発生の防止を行うことで安全
確保を図っていくというものです。
「外国での導入状況」
この方式は、1973年に米国FDA(食品医薬品安全局)で低酸性缶詰食品の
衛生管理手法として採用され、以降、水産食品や乳・乳製品の製造工程、と畜場と対象を広げ、アメリカ、
EU、カナダ、オーストラリアを中心に世界的に導入が進められてきました。現在では、FAO/WHO
のガイドラインに従って各国が取り組みをしています。
ハサップは、世界的に
受け入れられた衛生管
理の手法です
「日本でのハサップ導入の経緯」
平成7年、食品衛生法の改正により、「総合衛
生管理製造過程(食品衛生法第7条の3)」が設
けられ、ハサップシステムを取り入れた衛生管理
の手法、対象食品名が公布されました。
当時は、乳・乳製品工場からハサップの承認が
はじまり、アイスクリーム、乳飲料、清涼飲料
水、食肉製品、魚肉ねり製品、容器包装詰加圧加
熱殺菌食品(いわゆるレトルト食品)へと対象食
品を拡大してきました。
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くらしの衛生vol.49(2002)
HACCP(ハサップ) 特 集
牛乳や清涼飲料水などの表示で、右のマークを見たことはありませんか。
これは総合衛生管理製造過程の承認工場でつくられた「ハサップ承認食
品」につけられた自主的なハサップマークです。この他に「この商品の衛生
管理は、厚生労働大臣により承認されたHACCPシステムで行っていま
す」等と表示し、その製品の安全性を高くアピールしています。
ハサップとは、なにか?
HACCP(ハサップ)とは、危害分析(Hazard Analysis)と重要管理点( Critical Control Point)とを
併せた「危害分析重要管理点」の略です。
食品メーカーなどにおいて、原料調達から最終製品まで食品製造中の各段階で発生する可能性がある危
害(微生物汚染、異物混入など)を、予め明らかにして(危害分析=HA)おき、その中で、特に厳重に
管理しなければならない製造工程を「重要管理点」として設定し、その箇所を連続的にモニタリングする
など重点的に衛生管理する事により、製造工程全般を通じて危害の発生を予防し、食品の安全確保を図る
ものです。
このハサップのシステムは、牛乳工場や食肉製品製造業、清涼飲料水製造業など、少数品目を大量に製
造する食品工場の衛生管理に適しているとして、これら食品工場の多くが導入しています。
従来の衛生管理とハサップとの比較
ハサップは、通常の衛生管理と、
幾つかの相違点があります。
これまでも食品工場等では、その工場にあわせた衛生管理が行われてきました。
従来の衛生管理と、このハサップによる衛生管理は、どこが違うのでしょうか?
図は、従来の衛生管理とハサップの違いを表したものです。
くらしの衛生vol.49(2002)
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特集
HACCP(ハサップ)
従来の衛生管理の方法は、各製造工程全般を通じて通常の衛生管理は行いますが、その食品の安全チェ
ックは、できあがった最終食品を抜き取り、微生物検査(細菌数、大腸菌群などの汚染指標菌、食中毒起
因菌等)などの結果の適否で判断するものでした。しかし、この方法では、抜き取った一部の食品の安全
確認はできますが、どこに問題があったかの追求が難しく、さらに、検査に時間がかかるため、結果が判
明した時には、すでに出荷・消費されてしまうことがあります。
一方、ハサップによる衛生管理では、試験検査や調査データなどによって、各工程ごとにどのような危
害が発生するかあらかじめ予測しておきます。そして、各工程ごとに危害を防止していき、そのどの工程
でも防止できなかったものは、CCP(重要管理点)で排除されるように設定します。従って、ハサップで
は、食用に不適な食品が消費者に提供されることはなくなるのです。
表1 従来の衛生管理とハサップによる衛生管理の相違点
衛生管理の方法
従来の衛生管理
ハサップによる衛生管理
項 目
危害物質
最終製品の試験検査で判断
予め、明らかにしておく(危害分析)
安全性の確認
最終製品の試験検査で判断
製造中の重要管理点で判断(管理基準)
不良品の管理
製造した全ての製品を回収
出荷前に停止できる。
ハサップシステムと一般的衛生管理の関係 コーネル大学の食品科学科 Robert Gravani教授によるとハサップシステムを導入し、製造食品の安全を
確保するためには、下図のような総合的なシステムを構築する必要があるとしています。
経営トップの全面的な支援
HACCP
生物的・化学的・
物理的危害の管理
従業員の教育、訓練
食品の温度管理、効果的な洗浄、清掃計画の実施、個人の衛生管理、害虫・ネズミの予防・駆除等
これによると、ハサップシステムによる衛生管理を効果的に実施するためには、まず、食品製造工場の
施設設備が清潔で衛生的であることが前提となり、さらに、工場の最高責任者自らが衛生管理を全面的に
支援していること、従事者の教育訓練がなされていること、危害の分析などが、十分に行われていること
が大切であるとしています。
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くらしの衛生vol.49(2002)
HACCP(ハサップ) 特 集
危害とは、なにか? 食品衛生法では、第1条で、その目的を「飲食に起因する衛生上の危害を防止し、公衆衛生の向上及び
増進に寄与すること」としています。この危害とは一体どんなものなのでしょうか?
危害は、飲食に起因する健康被害を起こすおそれのある物質、または、その要素で、次表の生物的危害、
物理的危害、化学的危害の3つに分けられます。
表2 製造工程中に発生する危害物質の例
生物的危害
主に食中毒起因菌など病原性微生物の汚染、増殖、生残です。
カンピロバクター、サルモネラ、病原大腸菌、黄色ブドウ球菌など
通常、食品中に含まれない金属、ガラス片などの鉱物性の異物、調理機器の部品や器
物理的危害
具類の破損物などです。
ゴキブリや髪の毛などは、不衛生な取り扱いや不潔な施設などが想像できますが、危
害物質の可能性は低いと考えます。
化学的危害
食品工場や調理場内で、誤って食品中に混入する掃除用洗剤、殺菌剤、殺虫剤など、
また、誤用や過量使用された食品添加物、動物性・植物性自然毒なども含まれます。
ハサップによる危害発生の防止方法 食品の製造や調理作業には、多くの危害発生の要因が潜在します。ハサップでは、これらの危害の発生
を防止するためハサッププランを作成し、衛生管理の対策をたてていきます。
プランは、
「危害防止のための7つの原則」に従って作成されます。
「原則の1」
危害分析 (HA)
まず、危害の発生状況を把握するため「危害分析」を行います。分析は、原料や製造工程毎に、発生す
る可能性のある危害やその発生要因を抽出し、その危害が「どこで」
、
「どのように」発生するのか、また、
「どうすれば防止できるのか」を考えます。これを「危害分析」といい、文書にしたものが「危害リスト」
です。
調理工程
表3 危害リストの例 (カレーライス)
発生予想危害
【原材料受入】
発生要因
防止措置
仕入れ店の取り扱い不良
仕入れ店の衛生チェック
豚肉
サルモネラ、O1
57等の汚染、増殖
配達時の保冷不良
1
0℃ 以下の納入契約、返品
ジャガイモ
品質の不良、腐敗、石・土砂の混入
仕入れ時の確認不足
複数人による確認、返品
人参
品質の不良、腐敗、石・土砂の混入
仕入れ時の確認不足
複数人による確認、返品
カレールー
品質保持期限切れ
仕入れ、保管時の確認不足
返品、保管庫定期チェック
【加熱調理工程】
加熱調理
食中毒菌の生残
加熱温度・時間の不足
再加熱、転用、廃棄
くらしの衛生vol.49(2002)
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特集
HACCP(ハサップ)
カレーライスで「危害リスト」をつくってみました。原料の食肉などでは、食中毒菌の汚染や増殖が、
食中毒を発生させる危害となります。その発生要因としては、仕入れ店の取り扱い不良や配達時の保冷不
良が考えられます。次の加熱調理では、加熱不足により食中毒菌が生き残ることが危害の発生要因となり
ます。これらの防止措置として、原材料の仕入れに際し、仕入れ店と10℃以下で納入するよう契約する、
品温が10℃以上であれば返品する、改善が見られない場合は他店との契約に切り替えるといった措置な
どを行います。加熱不足では、再加熱できるものは再度加熱して食中毒菌を死滅させます。
この危害分析がまとまったら、従事者に「どこで」
「どのような危害が発生するか」
「措置はどうしたら
よいか」を徹底させます。
「原則の2」
重要管理点(CCP)の設定
危害分析の結果、製造工程中のどこで、どのような危害が発生するか、その原因も明確になります。
この中から、食中毒等を防止するために特に厳重に衛生管理する箇所、例えば仕入れ時の温度チェックや
加熱工程などを重要管理点(CCP)として設定します。重要管理点は、次のような概念で設定されます。
危害というボールがころがってきた場合、野手が1人しかしないと、この野手がボールをストップ(防
止または排除)しなければ、危害ボールは最終の製品にまで及びます。従って、この選手がストップのた
めの重要管理点(CCP)となります。しかし、この選手の後ろに外野手がいれば、万一、トンネルして
も危害ボールは外野手によってストップされ危害の発生は避けられます。このように危害を最終的に防止
するために特別に設定した手順、措置などを重要管理点といいます。
食品工場では、実際に、どのような箇所を重要管理点として設定しているのでしょうか。
牛乳工場では、原料となる生乳の受入れ工程や殺菌工程、レトルト食品では、原料受入れや加圧加熱殺
菌の工程、清涼飲料水では、製品の異物除去のためのろ過工程、殺菌工程などがあげられます。
「原則の3」
C L(Critical Limit=管理基準)の設定
重要管理点が決まったら、今度は管理基準を設定します。
管理基準は、この許容レベルであれば危害発生を防止できる
とする判断基準です。
例えば、サルモネラは70℃で1分、腸管出血性大腸菌O
157は75℃で1分の加熱をすれば死滅します。サルモネラや
O157を死滅させるために、加熱工程では食品の中心部が1
分以上70℃あるいは75℃以上に保たれるよう加熱温度と加
熱時間を設定します。これが食中毒防止のための管理基準と
なります。
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くらしの衛生vol.49(2002)
加熱時間をタイマーで管理
HACCP(ハサップ) 特 集
この基準は、温度計、時計、圧力計などの計測機器で測定を行い、可能なかぎり科学的で、かつ、リア
ルタイムに判断できるものを設定します。
官能的な指標としては、光沢・色調・臭気・味・粘度・物性、化学的な測定値としては水分活性やpH、
微生物を死滅させる場合は加熱温度・加熱時間などがあります。これらの管理基準は、食品やその食品の
状態により設定条件が異なるので、文献調査や実験などによるデータに基づいて設定します。
「原則の4」
モニタリング方法の設定
管理基準が決まったら、この基準をクリアしているか
等の確認を行います。これがモニタリングです。
モニタリングは、CCPが正しくコントロールされて
いることを確認するために行う観察や測定、試験検査で
す。
殺菌温度のチャート紙、圧力計の目盛り、タイマーな
どで点検を行い、逸脱を発見した場合に速やかに改善措
(モニタリングで管理基準をチェック)
置をとります。
「原則の5」
改善措置の設定
改善措置とは、安全の目安となる管理基準か
ら、万一、逸脱した場合に、その原因調査を行う
とともに、安全が確保されなかった食品の処分方
法を決めておくことです。
例えば、加熱殺菌工程のモニタリングで、管理
基準として設定した加熱温度に達していないこと
が確認された場合、製造を一時中断します。そし
て、管理基準から逸脱した原因を調べ、製品につ
いては廃棄、転用、再生(再加熱、再殺菌など)
といった措置の内容をあらかじめ決めておくこと
です。
この改善措置を、担当者が、「まあ、いいか」
「この程度なら、大丈夫」と怠ってしまう、ある
(管理基準を逸脱したら製造を中止
→製品を排除するなどの改善装置を行う)
いは判断ミスをしてしまうと、食中毒などの大き
な事故発生の要因となります。
改善措置は、消費者のために断固たる姿勢で行
わなくてはなりません。
「原則の6」
検証方法の設定
ここまでは、しっかりと衛生管理をしてきましたが、肝心の測定や測定機器が不正確だったらどうしよ
うもありません。検証とは、モニタリング機器が正しく作動していたか、記録は正確に適切に記入されて
いるかなどを定期的に確認する作業です。さらに、検証結果に応じては、プランの見直しも行います。
また、公平な判断を得るために外部の機関に依頼することもあります。例えば、できた食品を自主的に
厚生労働大臣の指定検査機関で試験検査してもらう方法、保健所等に監視や点検してもらう方法などがあ
ります。
くらしの衛生vol.49(2002)
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特集
HACCP(ハサップ)
「原則の7」
記録の維持管理
記録は、各作業工程での点検、モニタリングの結果、最終
製品の細菌検査などの記録から、正しくハサッププランが行
われてきたか、また、修正が必要かどうか判定するのに重要
な役割を果たします。
そのため、毎回、決められた時間や工程ごとに正しく記録
しなくてはいけません。どうせ変化ないのだからと、記録紙
に予め記入したり、終了時にまとめて書いてしまうと、プラ
ンそのものが正しく運営できなくなります。
(記録は、決められたとおり正確に)
自主管理への取り組み
ハサップの考え方に基づく衛生管理は、食品製造、調理営業、販売業、処理業等でも導入が進められて
います。しかし、ハサップシステムを導入した自主管理を行っても100%安全な食品を提供できるとは
限りません。
多くの専門職を有するハサップ承認の乳処理工場でも、初歩的なミスから1万人を超す食中毒患者を出
す事故が発生しています。安全な食品を提供するということは、それほど難しいということです。
市中には、多くの食品が流通し、多種多様なレストランも営業しています。私達は、これらの食品によ
って健康を維持し、また、日常生活を心豊かにしています。食品を取り扱う営業者は、安全な食品を提供
し、社会に貢献する義務があります。そのためには、行政からの監視や指導による衛生管理だけではなく、
自主的に衛生管理に取り組む必要があります。
ハサップの考え方に基づく衛生管理は、衛生管理の1つの
手法です。製造工場や調理営業など、それぞれの営業形態に
合った衛生管理に取り組み、消費者の視点に立った安全な食
品の提供に努めて欲しいものです。
東京都の取り組み
現在、東京都では、このハサップの考え方を取り入れた自主管理の推進事業を展開しています。
この事業は、平成12年8月に策定した「衛生局改革アクションプラン」において、「ハサップ導入へ
の動機付けとなる具体的な方策を基本方針として策定し、自主管理を推進する」ことを施策の目標とし、
今後の東京都の食品保健分野における重要課題と位置づけています。
ハサップの考え方に基づく新たな衛生管理を取り入れるこ
とにより、事業者の自主的な衛生管理がより実効性のあるも
のへステップアップすることが期待できます。
同時に、指導にあたる都区食品衛生監視員についても、ハ
サップ技術の専門研修を定期的に実施し、ハサップ導入を目
指す事業者へ種々な技術提供をするための体制を整備してい
ます。
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くらしの衛生vol.49(2002)
大気中には、約21%の酸素が存在します。多くの生物は、この酸素により生きていくことができ
ます。しかし、食品の腐敗や変敗、変色などの多くの原因は、この酸素とその酸素下に存在する微生物
の働きが作用しているのです。従って、この酸素を取り除いてやれば、食品のカビ発生や酸化を防ぎ、
品質を保持することができます。この原理を応用したものが「脱酸素剤」なのです。今回は、この脱
酸素剤について少し調べてみました。
1 成分とその作用
2 脱酸素の効果
包装食品に添付されるため、成分は、安全でな
くてはなりません。食品用としては、
①鉄粉
酸素吸収性に優れ、多くの脱酸素剤の
脱酸素剤にもいろいろ種類があり、外装の大き
さや食品の種類、水分活性、内容量等により、そ
れぞれ特徴のある脱酸素剤を選定して使用します。
主成分となっている。吸収速度が遅く比較的安価
②ビタミンCなどの有機物
酸化するときに酸
【カビなどの微生物の制御】
素を吸収する作用を利用したもの。酸素吸収と同
酸素がないと生きていけない微生物としては、大
時に二酸化炭素を発生するので容器の収縮がおき
部分のカビ、バチルスなどがあり、脱酸素により、
ない。金属探知器に対応できる。
これら好気的微生物の増殖を抑制します。
しかし、低酸素濃度でも十分に生育できる菌や
酸素を必要としないボツリヌス菌、ウエルシュ菌
などには効果がありません。包装食品に脱酸素剤
を使用するときは、食品の種類や包装材などにつ
いて、安全確認のため十分な試験を経た後に使用
しなければなりません。
【油脂の酸化防止】
菓子類などは、各種の油脂が使われます。この
油脂は、光や温度、酸素存在下で自動酸化が進み、
悪臭が発生したり、アルデヒドやケトン類の有害
物質を生成します。
その他の原料としては、ゼオライト(天然鉱石)
、
食塩、活性炭などが含まれています。
主成分の鉄粉、ビタミンCは、いずれも自身の
酸化(酸素と結びつく化学反応)により、容器内
の酸素を減少させます。その他の成分は、主成分
の酸化作用を促進するためなどに添加されていま
す。また、脱酸素剤の包装材料は、清涼飲料水な
どのボトルに使用されているプラスチックフィル
ムや特殊加工した紙が、主に使われています。
なお、同封されているものとして容器包装内の
酸素の有無を色調で知らせる酸素検知剤がありま
すが、これは脱酸素剤ではありません。
くらしの衛生vol.49(2002)
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油菓子等には、酸化に関する基準もあり、直射
日光の下で販売しないよう取り扱いについての指
導もあります。
これらの食品を低酸素の状態で流通させれば保
存期間の延長は可能といえましょう。
【食品害虫の制御】
多くの食品は、穀類などを原料としています。こ
のため、毎年、食品にコクガなどの衛生害虫が発
生したという苦情の届け出があります。
この虫害の防止にも脱酸素剤は有効です。虫卵
の中には、酸素が薄くても長期間生き残るものも
【色素の退色防止】
クロロフィル、カロチノイド、アントシアン系
ありますが、低酸素状態を長期間維持すれば、卵
の状態でも死滅させることができます。
の色素類、香味成分などは、酸素の影響で退色や
成分変化が起きます。品質保持の上から、低酸素
状態で流通させることは有効です。
3 脱酸素剤の利用法…
脱酸素剤は、食品業界で使用されている他、医
療機器類、繊維、文化財の保存などにも、広く利
用されています。
本年4月、民間団体が行った輸入ほうれん草製品の検査により、食品衛生法の残留基準を超える農
薬(クロルピリホス)を検出したことが判明しました。また、6月の東京都の検査では、中国産ほう
れん草から基準の250倍となるクロルピリホスが検出されました。野菜の輸入は、近年、急増して
おり、今後、安全性をめぐって早急な対策が望まれています。
【残留農薬基準が適用される野菜】
残留農薬基準は、あくまでも生鮮野菜を対象と
して定められており、今回、農薬が検出された冷
凍野菜(加熱後摂取冷凍食品)には基準は適用さ
れないと解釈されていました。しかし、厚生労働
省は、今回の問題を受け、加熱後摂取冷凍食品の
うち、湯どおし(ブランチング)野菜のように加
工度が低く、残留農薬の濃縮が明らかに認められ
ない場合は、加工食品の検査結果から原材料の野菜
が基準に適合するか否かを判断するとしています。
【クロルピリホスについて】
クロルピリホスは、有機リン系の農薬です。急
性中毒症状としては、頭痛、めまい、視力低下な
どがあります。国内生産量は、2000年実績で
150トン。ADI(1日摂取許容量)は、体重
1㎏あたり1日0.01㎎、体重50㎏の人なら
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くらしの衛生vol.49(2002)
0.5ppm残留のほうれん草を1㎏食べると許容量に
達します。
残留基準値を定めるには、動物実験等の結果か
ら、まず生涯摂取しても健康に影響のない1日摂
取許容量を算出します。
さらに、国際的な基準値、国民の野菜摂取の割
合などから、それぞれの野菜に対する基準値を設
定します。そのため、クロルピリホスでも野菜の
摂取量の違いなどから、食品衛生法の野菜に関す
る残留農薬の規格基準では、カリフラワー0.05ppm、
キャベツ1.0ppm、大根3.0ppm、ほうれん草
0.01ppmなど個々で異なった基準となっています。
【残留農薬をめぐる監視体制】
【食品衛生法の一部改正】
従来の食品衛生法では、輸入時の検査で違反食
政府は、8月7日、輸入野菜等の残留農薬問題
品が発見されても、同じ輸入業者が、同じロット
等を受け、食品衛生法に適合しない食品や食品添
で輸入した食品に対してのみ廃棄や積み戻しなど
加物、器具・容器包装が、輸入、販売されないよ
の措置がとられていました。しかし、新たな法改
う食品衛生法の一部を改正しました。
正で、安全性に問題のある食品で輸出国の安全対
改正の概要は、特定の国や地域で採取されたり、
策が不充分である場合は、輸出国と食品を特定し
製造された食品や添加物について、
て包括的に輸入禁止措置を講じることが可能にな
①腐敗・変敗したもの、有毒や有害な物質が含まれ
りました。EU(欧州連合)では、この「包括的
るもの、病原微生物に汚染されたもの、不潔、異
輸入禁止制度」はすでに導入されています。
物の混入が認められたもの
②指定外食品添加物が使用されたもの
③食品衛生法に定められた規格や基準にあわない
【東京都食品指導センター 輸入食品監視班】
食品や添加物、に該当するものが多数発見された
場合、あるいは生産地の食品衛生上の管理状況な
どから①∼③の食品や添加物が相当数含まれるお
それがあると認められるときは、厚生労働省薬事・
食品衛生審議会の意見を聴いて、輸入や販売など
が禁止できるというものです。この法律は、9月
7日から施行されています。
厚生労働省は、以前は、問題野菜等の輸入自粛
指導を行っていましたが、今回の法改正により、違
法な食品や添加物の生産国や輸入業者に対し、包
括的に輸入禁止の措置をとることができるように
なりました。
国の輸入時検査では、今後、輸入時の抜き取り
検査で1ロットあたりの抜き取り件数の比率を上
げるとともに、野菜加工品にまで検査品目を拡大
したり、違反食品を繰り返し輸入した業者を公表
する等の措置をとって監視体制を強化するとして
います。
くらしの衛生vol.49(2002)
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「食品指導センター」の活動がホームページで見られます。
アドレスは、http://www.kenkou.metro.tokyo.jp/fscgctr/index.html
☆食品指導センターのHPでは、食品機動監視班の活動状況、食の安全などに関するデーター等を見
ることが出来ます。掲載内容は、次のとおりです。どうぞご利用ください。
●食品工場探訪 食品指導センターのキャラクター「センタ君」と一緒に、いろいろな食品工場を
訪ねて、食品のつくり方、衛生上のポイントなどを学びます。
●食の安全への新たな取り組み
当センターが行った食の安全確保のための先行的な調査結果を掲載しています。
●食品衛生カレンダー
季節ごとに、食品衛生について「安全ワンポイント情報」を提供。
●クイズで学ぼう「食の安全」
食べ物とその安全について「クイズ」形式
で勉強できます。
「食中毒クイズ」 「輸入食品クイズ」
「有毒植物クイズ」 「狂牛病クイズ」
●情報誌「くらしの衛生」
食の安全に関する最新情報を、写真や図解等を
用い、タイムリーに提供しています。季刊発行
で過去2年分を掲載しています。
衛生博士に挑戦しよう!
●「くらしの衛生データブック」
当センターを含む東京都で行った食品の抜き取り検査結果、東京都の食中毒発生
状況、苦情処理状況及びミニ用語集などが掲載されています。
☆「健康情報館」は、お楽しみ創造館です。
☆健康情報館では、都民の健康、食の安全、すまいの衛生などに関する疑問や不安にお答えするた
めに、各種資料の展示、相談、ミニ講習会等を行っています。
☆「ミニ講習会」
地域の勉強会や小中学校の校外学習等に最適です。このミニ講習会をご希望の方は、事前に、①
希望日時 ②参加者数 ③希望テーマ等を「健康情報館」あて申し込んでください。
☆場所 都庁第一本庁舎二階北側 開館時間 平日 午前9時∼午後5時
都庁展示ホール健康情報館(直通電話) 03−5320−5995
☆「食品衛生データブック2001」の郵送をご希望の方は、A4サイズの入る封筒に200円切手を貼り、①あ
て先(住所、氏名)②「データブック2001」と明記のうえ、当センター業務課普及啓発係あてにお送り
ください。なお、部数に限りがありますので、1人1冊までとさせていただきます。
☆本誌「くらしの衛生」通常号の郵送をご希望の方は、A4サイズの入る封筒に140円切手(1冊の場合)
を貼って、あて先、希望の号を明記のうえ、当センター業務課普及啓発係までお送りください。
表紙の写真:福生市ホタル公園
●本誌の内容等を転写する場合は、下記まで連絡をお願いいたします。
●本誌は、当センター以外に、都庁展示ホール健康情報館(都庁第一本庁舎北側2階)、都民情報ルーム(都庁
第一本庁舎北側3階)
、都・区保健所、都・区消費者センター等で配布しています。
●本誌に関する御意見、問い合わせがございましたら、下記までご連絡ください。
発行/東京都食品指導センター 業務課 普及啓発係
印刷物規格表第1類
〒163-8001 新宿区西新宿二丁目8番1号
印刷番号(14)01
電話 03−5320−5982 FAX03ー5388−1507
平成14年10月発行
4くらしの衛生vol.49(2002)