新 しい単クロ ン抗体を用 いてのIL -2受容 - 東北大学

すずき
じゅん
氏 名(本籍)
鈴木
学位の種類
医学博士
学位記番号
医
学位授与年月 日
平成2年2月'28日
学位授与の要件
学位規則第5条第2項該当
最終学歴
昭和57年3月
潤(福島県)
第2215号
東北大学医学部医学科卒業
学位論文題目
IL- 2 receptor subunit p75:d.irect demon、stra-
tion of its IL- 2 bin(iing ability by using a
novel mono lo nal a, ntibod.y
(新 しい単クロ ン抗体を用 いてのIL -2受容体p
75サ ブユ ニッ トのIL-2結合能の直接証明)
(主 査)
論文審査委員
教授多田啓也
教授橘 武彦
一 477一
教授京極方久
論文内容要旨
【目
的】
ヒトイ ンターロイキン2 (IL- 2) は丁細胞増殖因子と して免疫機構に重要なかかわりをもつ,
分子量15000の液性因子である。 IL-2受容体 (IL-2R) にはこれまで少なくとも2っのサブ
ユニットp55とp75が同定されていた。 また結合親和性の相違から3つの形態が存在するが, 低親
和性IL- 2R (Kd∼10nM) はp55単独, 中間親和性IL- 2R (Kd∼1nM) はp75単独, 高親和
性IL-2R (Kd∼10pM) はp55とp75の複合体で構成されていることが示唆されている。 機能的
IL-2Rである高親和性IL-2Rにおいてp75がシグナ ル伝達機能を荷うと考えられているが,
p75の特性及 び高親和性IL-2Rの詳細 は未だ不明 な点が多 い。 本研究ではIL- 2Rサ プユニッ
トと結合親和性の関係 を詳細 に検討するため, IL-2結合を阻害 しな いp75 に対する新 しい単ク
ロ ン抗体TU11抗体を作製 した。
【方
法薯
細胞株:IL-2R陽性丁細胞株MT-2, TL-Mor, ILT-Ma七, MT-1, MLA144, CTLL-
2及 びIL-2R陰性骨髄系細胞株HL-60を用 いた。
単クロ ン抗体:ヒトIL-2Rp75特異的TU27抗体 (lgG、), ヒトIL-2Rp55特異的抗体H-31
(lgG1), H-48 (lgG1), コントロール抗体と してヒ トパルボウイルス特異的PAR3抗体 (lgGI)
を用 いた。
抗体作製:TU27抗体を用いて細胞可溶化物よりIL-2Rp75を精製 してマウスに免疫 しハイ ブ
リ ドーマを作製。 町標識TU27抗体の固相ラジオイムノ アッセイ法を利用 して, IL-2Rp75特異
的単クロン抗体TU11抗体 (lgG、) を産生する細胞株を選択 した。
細胞表面へのIL-2, 単クロ ン抗体の結合実験:1聞1-IL-2 (1.5xlO6dpm/pmo1), 阿一TU
27抗体 (4,4×106dpm命mo1), '251-TUll抗体 (4.6×105dp/pmo1) を種々の濃度で1×105細胞
と4℃で1.5時間反応させた後, 細胞に結合した放射活i 性と遊離のそれを測定し, 結果をScatchard
plo七解析して求めた。 1251-IL-2結合に及ぼす抗体の影響 は50 μg/mlの抗体存在下で4℃で1
時間前処理後結合実験を行なって求めた。
Sequen七ia1免疫沈降:MT-2細胞をIODOGEN法を用いて 1251で細胞表面標識 して可溶化 し種々
の抗体 を用 いて前吸収 した後, TUll抗体また はTU27抗体で免疫沈降 して10%SDS-PAGEで解
析した。
化学架橋実験:MT-2細胞に '251-IL-2 (1 nM) を結合させ, 非還元型化学架橋剤DSSで
一 478一
化学的にク ロスリンク して可溶化 した。 可溶化物は直接に, あるいは種々の抗体で免疫沈降また
は前吸収 したものを8.5%SDS-PAGEで解析 した。
可溶化IL-2Rサ ブユニッ トの結合実験:2×106 の非標識MT-2細胞可溶化物よりTU11, H48の抗体 を用いて免疫沈降を行なったIL- 2Rサ ブユニット結合免疫沈降体を作製。 これに
4nMの 1251-IL-2を反応させ細胞と同様に結合実験を行なった。 結合特異性はTU27抗体 (100
μg/m1) 及びH-31抗体 (100μg/m1) 存在下での結合阻害の有無により検討した。
【結
果】
① 125卜TU11抗体 はIL-2Rp75陽性細胞とのみ反応 し, 反応性は エ251-TU27抗体とほぼ一致し
た。 ②MT-2細胞表面の75kd分子のみを特異的に免疫沈降 した。 ③この75kd分子はTU27抗体
が免疫沈降する分子と同一であった。 ④TU11抗体は 阿一IL-2の高親和性IL-2Rへの結合を
阻害 しない。 ⑤MT-2細胞の高親和性IL-2Rのみ給合する条件下での化学架橋実験では, p55
と
p75に相当するバン ドの他 に70kdのIL- 2結合分子が検出さ れた。 TU11抗体 は主にp75と 阿一IL2の複合体を免疫沈降 したが, p55の複合体及び70kd分子の複合体の共沈を認めた。 これら3っ
のバンドはTU11抗体により完全に前吸収された。 ⑥TU11抗体を用いて免疫沈降 した可容化IL2Rp75に 阿一IL-2は特異的に結合 し, その86%がTU27抗体によって阻害を受け, H-31抗体
で阻害を受けたのは, わずか17%のみであった。
【考
察】
①TU-11抗体はIL-2結合を阻害 しないIL-2Rp75特異的単クロン抗体であ り, IL-2が結
合 したp75を免疫沈降することができ る。
②TU1 1抗体 を用いて得 られた可溶化IL-2Rp75の結合実験か ら, IL-2Rp75単独で特異的な
IL-2結合能を有することを示 した。
③しかし, 同一条件下でIL-2結合親和性を求めたところ, 細胞表面上のIL-2Rp75 (中間親
和性IL-2R) と比較して著 しく 低い結果を得た (未発表)。 この事実 は細胞表面でのp75の結合
親和性を高める別の因子の存在を示唆するものと考え られ, 化学架橋実験で認め られる70kdのIL-
2結合分子の存在を考慮すると, 中間親和性, 高親和性IL-2Rを解析するうえで興味深い知見
と考え る。 IL-2Rp75と70kd分子の異同 を含め, TU11抗体 を用 いてのIL- 2Rの詳細な解析が
今後さ らに必要 と考え る。
一479一
審査結果の要旨
ヒトイ ンターロイキン2 (IL- 2) は丁細胞増殖因子と して免疫機構に重要な関わりを持つ液
性因子であ る。 IL-2受容体 (IL-2R) として少なくとも2っのサブユニッ トp55 とp75が同
定されていた。 またIL-2結合親和性の相違からは, 低親和性, 中間親和性, 高親和性の3っの
形態が存在 し, 特異な受容体であることが示唆されていた。 しかし, 機能的IL∼2Rである高親
和性IL-2Rの詳細及び, シグナ ル伝達の主体と考え られているp75に関 しては不明な点が多かっ
た。 著者は, これを解明する手段と して, IL-2結合を阻害 しないIL- 2R p75に対する新 しい
単クロー ン抗体TU11抗体 を作製 した。
まずTU11抗体の特異性を検討 し, 次のような結果を得た。
1) IL-2R p75陽性細胞とのみ反応 した。
2) それ ら細胞表面の75kd分子を特異的に免疫沈降 した。
3) この75kd分子 は抗IL- 2R p75抗体TU27抗体が免疫沈降する分子と同一であ る。
4.) TU11抗体は町一IL-2の高親和性IL-2Rへの結合を阻害 しない。
5) 化学架橋実験より得られる1-IL-2とII・一 2R p75の複合体を免疫沈降 した。
次にこの抗体 を用 いて免疫沈降 して作製 した可溶化IL- 2R p75 に対する 1器1-IL-2の結合
実験を行ない, p75単独でIL-2結合能を有することを直接証明 した。
以上の研究成果は著者が作製したIL- 2R p75特異的単ク口回 ン抗体, TU11抗体が, IL- 2R
サ ブユ ニッ トと結合親和性との関係をさ らに詳細 に解析するために有用 な手段 となること を示 し
たものであり, 医学博士の授与に価いするものと判定された。
一480一