ビジネスジェット利用希望者、現る

ビジネスジェット利用希望者、現る
日刊工業新聞主催「ビジネスジェット・シンポジウム」参加者からコンタクト
日刊工業新聞社が 11 月 26 日に「航空宇宙産業技術展 2010」内で実施したビジネス航空
のパネルディスカッション聴講者の中から、ビジネスジェット利用希望者が現れた。パネ
ルディスカッション終了後、パネリスト諸氏と筆者が集まっていたビジネス航空の PR ゾー
ン(出展名ビジネスジェットゾーン)に訪ねてこられ、「真剣に利用を検討したいので、コ
ストなど詳細な情報がほしい」とご相談いただいた。
見覚えがあると思ったら、3月のビジネス航空セミナー(同じく日刊工業新聞主催)で
も空港見学まで含めてご参加いただいた方だった。
話を聞いてみると、ビジネスジェットの重要性と利用価値について的確に理解いただい
ており、思い描いておられる利用法も適切なものだった。
アジア進出にあたり、香港の空港を拠点に利用したいとのことなので、日本のビジネス
航空業界にとってすぐに利益に結びつく話ではない。また、コスト面を含めて本当にビジ
ネスジェットを使った方が良いか否かは、これからビジネス航空事業者を交えて入念に検
証していく必要があり、結果的には利用を断念していただく可能性も残されている。
それでも、こうした企業様が現れたことは大きな一歩であり、ビジネス航空の重要性を
訴え続けてきた身としては、うれしい限りである。
↑日本国内のビジネスジェット運用整備環境が極端に未発達のため、近隣諸国をベースに自社機
を運用している日本企業も珍しくない。写真手前は日本企業所有のカナダ製グローバル・エクス
プレス。東京から米東海岸まで直行できる(双日が出資するグアムの ACI 社格納庫にて)
★ ビジネス航空関連の動きが相次いだ 11 月
11 月は、日本のビジネス航空にとって大きな出来事が連続した月となった。18 日には、
東京都が首都圏空港のビジネスジェットの受け入れ体制について「国のやり方では不十分」
として独自の受け入れ体制強化策を発表。それを受けて馬渕国土交通大臣も、国としてさ
らに環境整備を進める意思を国会で明言した。
さらに、航空宇宙産業技術展 2010 および航空宇宙シンポジウムの開幕日と同じ 25 日、
民主党が「ビジネス航空推進議連」を設立。日本企業のビジネスジェット利用を促進する
ため、環境整備と周知啓発を目的に動き出した。こちらは県営名古屋空港をモデル空港と
位置づけ、地方空港の機能高度化も視野に入れている。
航空宇宙産業技術展 2010 でのビジネス航空のパネルディスカッションは、定員の 300 名
を大きく上回る 400 名近い参加者が集まり、周知啓発の好機となった。その中から利用希
望者が現れたことは前述の通りである。
今回は、その動きをダイジェストで紹介していく。
★ 東京都、動く
「首都圏におけるビジネス航空の受入れ体制強化に向けた取り組み方針」──東京都の発
表した資料を見たときには正直、ショックを受けた。
● 日本と諸外国のビジネスジェット利用状況の落差
● 日本と欧米主要都市圏におけるビジネスジェット発着量の落差
● ビジネスジェットの利用拡大が起きている経済・時代背景
● ビジネスジェット利用環境の不備に起因する有力企業の日本素通りの実例
● 香港国際空港のビジネスジェット発着量の増大
● 横田基地なども含めた首都圏諸空港の対応可能性
──など、入念なリサーチに基づく本格的な内容となっている。これは本来なら、愛知県
が何年も前にまとめ、公式の資料として公表していなければならないものだ。
皮肉なことに同資料には、ビジネスジェット専用国際ターミナルのモデル事例として、
県営名古屋空港までが取り上げられている。実際、東京都の職員が繰り返し県営名古屋空
港にリサーチおよびヒアリングに訪れていることは、以前から筆者も聞いていた。
この資料を受けて馬渕大臣は同日、首都圏空港における専用国際ターミナルをはじめ、
必要なインフラと機能の整備を、改めて航空局長に指示した旨、国会の冒頭で語っている。
国と東京都がビジネス航空の重要性に気づく前に、6年近くも先取りしておきながら、
ろくに活用もできなかったのが当地の実態だ。今に至ってさえ、県営名古屋空港にこうし
た機能があることは一部の関係者しか知らない。知事選立候補者も知らないだろう。
東京都の動きは日本の国益の観点からは大きなプラスであり、どんどん進めてもらいた
い。しかし東京の発展と地方の発展がイコールではなくなって久しい今、世界と結びつき
を強める上で東京になかった差別化のカードを、全く生かせなかったことは、愛知の将来
を占うに足る結果といえる。
★ 民主党ビジネス航空推進議連
こちらは東京都の動きとは関係なく、並行して準備が進んでいたものだが、日本のビジ
ネス航空の発展を目的とする国会議員連盟が立ち上がった。東京都の発表資料が、日本に
飛来する海外機の受け入れ強化に主眼を置いているのに対し、議連は日本企業のビジネス
ジェット利用促進を目的としている点が特徴。
元内閣経済産業副大臣の大島敦氏を会長に、地方空港の地元選出の国会議員など 25 名で
発足した。発足翌日には会員数は 34 名に増加していたので、最終的にはかなりの人数にな
るだろう。
25 日朝、衆議院議員会館で設立会合がおこなわれ、NPO 法人日本ビジネス航空協会
(JBAA)の北林会長と筆者がビジネス航空の国内外の動向について、愛知県の片桐副知事
がビジネスジェット専用国際空港のモデルケースとしての県営名古屋空港について、それ
ぞれプレゼンさせてもらった。
議連は議連で独自にビジネス航空のリサーチを進めており、その内容はビジネス航空そ
のものではなく、ビジネスジェットの利用拡大が起きている時代背景にフォーカスしたも
のだった。スピーチの中で大島会長は、「政権内部でヒアリングしただけでも、ベトナムの
原発、中南米での日本式地上波デジタル放送の採用など、大型案件の成功事例は全て、ト
ップセールス・トップダウンによるものであることが確認できた。セールスの成功には、
ボトムアップではなくトップダウンが必要な時代であることは、関わった議員たちも証言
していた」と語っていた。
また、国土交通省からは小泉大臣政務官(政務三役につき議連メンバーではない)が出
席していたが、「トップ同士が話をつける時代において、ビジネスジェットの利用環境が整
っていないことは、それだけで交流の輪から締め出される危険がある。おそらくビジネス
ジェットを使ってこなかったことで、日本経済は少なからぬ損失を受けているはずで、こ
れ以上の損失が生じる前に、省庁横断的に必要な措置を講じていかなければならない」と
呼びかけていた。
↑ビジネス航空推進議連設立会合。奥の列右から大島会長、片桐愛知県副知事、北林 JBAA 会
長、加藤学議連事務局長。英ファンボロー空港や県営名古屋空港を参考に、21 世紀の空港に必
要な機能を検証した
★ パネルディスカッション
日刊工業新聞社のビジネス航空の PR イベントに対しては、大手ビジネスジェット商社か
らも、「日本でここまで本格的な内容のものがおこなわれるとは」と評価の声が上がってい
る。筆者も付き合い始めた当初は、工業系の新聞社が、サービス産業であるビジネス航空
に対し、ここまで本気で行動するとは予想していなかった。うれしい誤算である。
3月のセミナーでは、TAG Aviation 香港法人のモーガン CEO、エアバス本部役員のヴェ
ルピライ氏、ダッソー・ファルコン役員のデズマジュール氏、フランス航空宇宙工業会日
本委員会のテオヴァル委員長といった世界的な大物たちを名古屋に集め、ビジネス航空の
世界動向などについて講演を開催した。
今回は、より日本の状況にフォーカスするとともに、航空機産業など周辺産業への波及
効果にも着目。さらに、ビジネスジェット利用者の実像に関する現役パイロットの体験談
も交えた内容にアレンジした。
パネリストは、JBAA 佐藤副会長、朝日航洋の畑ビジネスジェット事業本部副本部長、エ
アバス・ジャパンの野坂ディレクター、アメリカで活躍中の日本人パイロット青木美和氏。
コーディネーターは筆者が務めさせていただいた(日刊工業新聞社さん、毎度ありがとう
ございます)
。
内容については、次回改めてお伝えしたい。
↑定員オーバーとなった会場。後列の机を除くことで収容可能人数を増やした。この中から、ビ
ジネスジェットの新規利用希望者も現れた
文責:石原達也(ビジネス航空ジャーナリスト)
ビジネス航空推進プロジェクト
略歴
http://business-aviation.jimdo.com/
元中部経済新聞記者。在職中にビジネス航空と出会い、その産業の重
要性を認識。NBAA(全米ビジネス航空協会)の 07 年および 08 年大
会をはじめ、欧米のビジネスジェット産業の取材を、個人の立場でも
進めてきた。日本にビジネス航空を広める情報発信活動に専念するた
め退職し、08 年 12 月より、フリーのジャーナリストとして活動を開
始。ヨーロッパの MRO クラスターの取材を機に、C-ASTEC とも協
力関係が始まる。2010 年6月、C-ASTEC 地域連携マネージャー就任
(ビジネス航空研究会担当、非常勤)