回転児雷也による油脂排水処理 - 産業と環境

回転児雷也による油脂排水処理
株式会社エイブル 環境技術部
神田 隆
岡野 均
小林 信彦
に 着 目 し、 油 脂 分 解 酵 素 で あ る リ パ ー ゼ あ る
解が遅いが、グリセリン及び脂肪酸はそれほ
前述の通り油脂はグリセリンと脂肪酸のエ
ス テ ル 化 合 物 で あ る。 油 脂 そ の も の は 生 物 分
①油脂とは
いはリパーゼを分泌する微生物を処理設備に
油脂排水の特徴
油脂はグリセリン 分子と脂肪酸 分子が
結合したエステル化合物であり、その多くが
添加し、これにより油脂をグリセリンと脂肪
はじめに
動植物に由来する。食品としての利用が多い
に微生物製剤などを使用しなくても処理が可
あるが、ある程度の油脂成分については、特
当社の固定床式排水処理装置「回転児雷也」
は食品工場排水を中心に200基近い実績が
に問題がある。
あるが、微生物製剤のコストと処理の確実性
この方法は凝集汚泥が発生しないメリットが
処 理 法 が 提 案 さ れ、 一 部 実 用 化 さ れ て い る。
上により、排水中から除去してから生物処理
ている油脂については、薬剤を用いた凝集浮
水に不溶な油脂については浮上分離、乳化し
し て 行 く こ と が 主 な 原 因 で あ る。 そ の た め、
物分解が遅いため、生物処理槽に油脂が蓄積
生することが知られている。これは油脂の生
すると、バルキングなど多くのトラブルが発
が、油脂を多く含む排水をそのまま生物処理
食品排水は比較的高濃度のBODが含まれ
ているので、生物処理が行われることが多い
②従来の処理法
処 理 の 負 荷 と な る。 油 脂 の 脂 肪 酸 が す べ て ス
であり、生成するグリセリンと脂肪酸は生物
はなく、グリセリンと脂肪酸に分解するだけ
招いている。特に本法は油脂を除去するので
な知見がなく、コスト高・処理の不確実さを
最適な微生物製剤の添加量などについて十分
入油脂濃度や温度・PHなど諸条件に対する、
する微生物の添加が主流である。しかし、流
そ の も の は 高 価 で あ る た め、 リ パ ー ゼ を 分 泌
酸 に 分 解 し た 後、 生 物 処 理 を 行 う 方 法 が 提 案
ど 生 物 分 解 性 の 悪 い 物 質 で は な い。 こ の こ と
た。しかし、多量の汚泥が発生し、運転管理
ので、油脂排水≒食品排水ともいえる。
能 で あ る。 以 下 に、
「回転児雷也」による油
を行うのが一般的であった。しかし、この方
テ ア リ ン 酸( C H COOH
) で あ っ た 場 合、
17 35
油脂1gから生成するグリセリンと脂肪酸は
従来、油脂排水の処理法としては、生物処
理の前段に凝集法を組合せるものが主であっ
が煩雑でランニングコストが高いという問題
脂排水処理、特に食品工場における油脂排水
法はランニングコストが高く、多量の汚泥が
十分に理解せずに、油脂分解微生物の添加の
さ れ、 一 定 の 成 果 を 上 げ つ つ あ る 。 リ パ ー ゼ
処理の実際について述べる。
③微生物製剤の利用
B O D = 2・9 3 g に 相 当 す る。 こ の こ と を
最近、凝集法の替わりに特殊な微生物を用
いて、油脂を脂肪酸とグリセリンに分解する
があった。
3
発生することから、大きな問題となっていた。
1
79
2013.2 産業と環境 持続可能な水環境の創出に向けた技術展開
特別企画
みを行えば、生物処理は負荷オーバーとなり、
①回転児雷也の原理
う が、 散 気 管 全 体 が 槽 上 部 の 空 気 供 給 器 よ り
が 行 わ れ る( 図 2)
。散気された空気は担体
回転/月
て使用するが、何れの場合でも200~30
あるいは活性汚泥などの生物処理と組合わせ
0件近い納入実績がある。回転児雷也は単独、
排水処理装置であり、食品工場を中心に20
回転児雷也は槽内に担体を固定し、その表
面上に微生物を保持する固定床型の生物膜式
に短い突起は、生物量当たりのBOD処理能
く多量の微生物を保持することができる。特
り構成されており、空隙率・比表面積が大き
は、中心部から放射状に延びる短い突起によ
体、U
PAC(図1)である。U
物を保持するために最適化された高性能担
回転児雷也で使用しているのは、有用な微生
生量も少ない(注.1)。
PAC
である。
BOD/㎥ D
・ といった高負荷でも担体の閉
塞を起こすことなく、長期間安定運転が可能
D/㎥
く こ と が 可 能 で あ る。 多 く の 固 定 床 型 排 水 処
転を継続しながら連続的に担体を洗浄して行
ゆっくりと槽内を移動していく。このため運
程度で回転しているので、剥離のポイントは
~
の 中 を 上 昇 し て 行 く 際 に、 生 物 膜 の 剥 離 を 行
水質の悪化や運転継続が困難になる恐れが高
回転児雷也など固定床型の生物処理装置
は、活性汚泥と比較して微生物相が多様であ
吊り下げられた構造であり、
い。
り、負荷変動・温度変動に強く、余剰汚泥発
0㎎/L程度までの油脂を含んだ排水を、凝
力が高い糸状菌を保持することを意図してお
②回転児雷也中の微生物
回転児雷也による油脂排水処理
集法などの前処理や微生物製剤などを使用す
り、実際に回転児雷也中には多量の糸状菌が
1
~
10 2
、
㎏
)。 前 述 の 通 り、 回 転 児 雷 也 は そ の 生
活性汚泥中などに存在する自然発生的な微
生 物 の う ち、 N o c a r d i a 属 を は じ め と
D
・ 程度であるのに対し、
BO
ることなく、処理することができる。ランニ
生息している。
-
㎏
ングコストが低く、煩雑な運転操作もない極
する糸状菌(放線菌)の一部は、一定の油脂
15-
~
めて現実的な処理方法であり、食品工場を中
回転児雷也の散気管は槽中央部を垂直に延
びる主管と、そこから直角に接続する枝管よ
図2 回転散気管イメージ
理法で許容される容積負荷が
心に数多くの実績がある。以下に、その仕組
分 解 能 力 を 持 つ こ と が 分 か っ て い る( 注.
3
り成り、枝管上に配置されたノズルより散気
3
中 の 微 生 物 よ り も 高 く( 注 .
)
、油脂の分
4
肪酸に対する処理能力が、一般的な活性汚泥
状菌はグリセリン(アルコールの一種)や脂
比較すると、油脂分解能力が高い。また、糸
る。このため、活性汚泥など他の生物処理と
物相が多様であり、特に糸状菌が多く生息す
2
解生成物も速やかに処理される。
80 2013.2 産業と環境
1
みについて説明する。
図1 高性能担体 U-PAC
-
-
通常、油脂排水に対しては生物処理の前に、
加圧浮上などの凝集法を組み合わせるのが一
H=
ことができる。
本設備では回転児雷也によりBODは %
除 去( 1 2 0 0 → 3 5 0)、 n H は % 除
去(400→
)されている。このため原水
を 直 接 加 圧 浮 上 で 処 理 す る 場 合 と 比 較 し て、
薬剤費は1/3~1/5、汚泥発生量は1/
2~1/3程度となっている。
凝集加圧浮上を行っている(図5)
。
このため排水の変動に対して許容範囲が大き
凝 集 法 は コ ス ト が 高 い が、 薬 剤 添 加 量 を 増
減 さ せ る こ と で 処 理 水 質 を 調 整 で き る た め。
ぞれの放流水の規制値をグラフ中に太線で示
度排水が流入した場合などは、生物処理では
㎎/L(平
~270㎎/L(平
~
H=
継続できなくなるようなことはない。回転児
閉塞したり微生物が死滅したりして、運転が
浄機構により連続的な洗浄を行うため、槽が
は難しい。しかし、回転散気管による連続洗
理 水 質 は 一 時 的 に 悪 化 す る。 そ の よ う な 場 合
が流入しても運転の継続に問題はないが、処
也は前述の連続洗浄機構により、高濃度排水
そ の も の が 難 し く な る 恐 れ も あ る。 回 転 児 雷
い。生産設備のトラブルなどで一時的に高濃
し て あ る。 期 間 中、 原 水 B O D は 1 5 0 ~
流入する n H 濃度が200~300㎎/
Lを超えると、回転児雷也単独では十分な処
1 1 0 0 ㎎ / L( 平 均 6 0 0)
、処理水BO
Hは
~250㎎/L(平均110)であっ
Hは
)であった。原水水質の変動が大きいた
でも、後段の凝集処理で薬剤添加量を調整す
雷也は n
~
%程度を長期間安定的に達
非常に柔軟性が高い処理システムといえる。
能である。一時的な排水条件の変動に対して、
ることにより、処理水質を維持することが可
H =800~1000㎎/Lの原
理水質(n
処理水質が悪化するだけでなく、運転の継続
Dは
た。また、
原水n
均100)
、処理水n
均
め、処理水水質も大きく変化しているが、B
H とも原水が設計値をやや超えた
-
水を処理した例もあるが、この場合でもn
H の除去率
成している。
-
OD・n
30
85
25
20
場合でも、処理水は常に規制値以下であった。
-
0
-
75
-
本設備は排水量360㎥日に対し、わずか
㎥平均滞留 時間の回転児雷也のみで処
120
8
-
81
2013.2 産業と環境 理が行われている。また、処理水のSSも常
に規制値を下回っているが、固液分離工程を
般的であった。しかし、前述のような特性に
より、先に回転児雷也による生物処理を行い、
含まないので汚泥の発生がない。運転管理は
実施例
スクリーンの清掃とポンプ・ブロワーの点検
後から凝集による仕上げ処理を行うことが可
下水道放流例
のみであり、コンパクトでシンプルな処理が
能 で あ る。 コ ス ト の 小 さ い 生 物 処 理 で 負 荷 を
①実施例
惣菜製造工場の排水処理実施例について述
べる。本工場の設計基準は排水量360㎥/
大幅に低減した後、凝集処理で仕上げ処理を
㎎/L以下、SS= ㎎/L以下、n
400㎎/L以下に対し、規制値はBOD=
型(φ7500
㎎/L以下(河川放流)であった。設備は
調整槽及び回転児雷也R
行 う こ と で、 低 コ ス ト で 良 好 な 処 理 水 を 得 る
実現されている。多忙な食品工場に非常に適
回転児雷也+加圧浮上
した処理システムといえる。
H=180 ㎎ / L 以
②実施例2
日、原水BOD=1000㎎/L以下、SS=
300㎎/L以下、n
㎎/
下に対し、規制値はBOD=300㎎/L以
H=
次に洋菓子製造工場の排水処理実施例につ
い て 述 べ る。 本 工 場 の 設 計 基 準 は 排 水 量
下、SS=300㎎/L以下、n
1200㎥日、原水BOD=2500㎎/L
H=
型( φ 3 8 0 0 ×
槽及び回転児雷也R
㎥)×2基のみであり、児
雷也の処理水は沈殿などの固液分離を行わ
ず、そのまま処理水としている。
以 下、 S S = 6 0 0 ㎎ / L 以 下、 n
L以下(下水道放流)であった。設備は調整
30
図3に本設備の原水及び処理水のBODの
推移、図4にn Hの推移を示す。いずれの
70
80
-
㎎/L以下)を得ること
× 7 0 0 0 H = 約 2 4 0 ㎥) × 4 基 に 加 え、
-
1
6500H=約
-
38
年間である。また、それ
-
-
30
−
75
80
-
-
-
グラフも期間は約
10 20
60
-
3
-
30
7
持続可能な水環境の創出に向けた技術展開
特別企画
が、現実的な油脂排水には低コストで対応す
第
る 基 礎 的 研 究( Ⅱ )」 環 境 工 学 研 究 論 文 集・
巻・1998
ることができる。当社の製品・技術が日本の
20
注. : Jiri Wanner
「活性汚泥のバルキン
グと生物発泡の制御」P150 184技報
注.4:同P217
堂出版(2000)
3
まとめ
:須藤「廃水の生物処理に出現する微
食品工業の一助になれば幸いである。
注.
小 動 物 に つ い て 」 日 本 農 芸 化 学 会 誌 V o l.
-
油脂分解微生物の培養と油脂分解特性に関す
-
排水中の油脂は本来製品または原料であ
り、高濃度の油脂排水を排出することは、製
ため、一部特殊な事例を除き、1000㎎/
品や原料を捨てていることを意味する。この
Lを超えるような高濃度油脂排水は存在しな
(1978) N
o.2 R9 R
注.2:古崎・石川・中西「膜分離を用いた
回転児雷也の油脂分解能力は限られている
い。
82 2013.2 産業と環境
1
35
図5 洋菓子製造工場の排水処理フロー
52
図4 惣菜製造工場排水の n-H
図3 惣菜製造工場排水のBOD