Q 皮膚・排泄ケア - 牧田総合病院

皮膚・排泄ケア
こんなときどうする を
解決
Q 褥瘡発見時の初期対応について教えてください.
A
褥瘡を発見した場合,その対処法とし
まずは,
「なぜ,その場所に褥瘡が発生したのか?」を考え,
対処します.
③ケア要因
るため,まずは注意して褥瘡かそれ以外
て局所の外用薬や創傷被覆材の選択に目
があり,これらが複合的に関与して褥瘡
かを判断する必要があります.
が行きがちですが,その褥瘡がどうして
が発生します.
②骨突出部位との位置関係をみる
できたのか,原因は何かを考えることが大
そのため,局所の状態から全身,さら
褥瘡と判断した場合,骨突出部位との
切です.発生要因に目を向けることが,褥
に日常生活や環境などを統合して考える
位置関係を観察します.たとえば仙骨部
瘡の悪化防止と早期治癒につながります.
と,褥瘡がなぜできたのかが推測できま
の褥瘡と判断した場合も,位置がやや左
す.そして局所ケアより大事な,
“看護の
右にずれていることがあります.殿部で
力でできること”がわかってきます.
あれば皮膚が重なりやすいので,重なっ
褥瘡発生の機序と危険因子
褥瘡の発生機序は,
①外力と応力
②組織耐久性の低下
③回避能力の低下による組織の阻血性障
害・再灌流障害
によることが明らかになっています.
〈観察〉
位置関係と形や
周囲の皮膚の状態を確認
①褥瘡かそれ以外かを判断する
創傷には,褥瘡のほかに擦過創,切創,
た皮膚に隠れて発生していることも多く
みられます.このとき,皮膚を伸展させ
しわを伸ばしてみたり,骨突出部位に褥
瘡部を移動させて観察します
(図 1 )
.
③褥瘡の形,創縁,周囲の皮膚の状態を
確認する
挫創,熱傷などがあります.褥瘡の急性
続いて,円形,楕円形,不正形,地図
①患者の個体要因
期には水疱がみられることもあります
状,線状など,褥瘡の形を観察します.
②療養環境
が,類天疱瘡や糖尿病性水疱の場合もあ
また,創縁の境界がはっきりしているか,
また,褥瘡発生の危険因子は,
脊柱部からずれて褥瘡が発生している
図 1 発生部位
(背部)
の観察例
90 月刊ナーシング Vol.32 No.9 2012.8
褥瘡部を移動させると骨突出と重なる.ふだん,
ベッドアップで体幹がずれた状態にあったため
発生したものと考えられる
瘡は尾骨より右にずれ,瘢痕上に発生してい
る.また,周囲皮膚は乾燥がみられ,坐骨部
には色素沈着を伴っている
図 2 形,創縁,周囲の皮膚の観察例
高橋 由美子
Yumiko Takahashi
牧田総合病院
皮膚・排泄ケア認定看護師
国立療養所盛岡病院付属看護学校を卒業後,八戸平
和病院に勤務.2003 年,牧田総合病院に入職.療
養型病棟,外科病棟を経て,現在,褥瘡専従看護師
として褥瘡管理やストーマケア,フットケア外来を
担当.2009年,皮膚・排泄ケア認定看護師資格を取得.
表 形状別の推測される要因と対策
楕円・馬蹄形
線状
地図状
著明な骨突出が伴い,仙
骨部の場合は殿筋が萎縮
している.下肢の拘縮が
伴うことが多い
ベッドの背上げあるいは車椅子上で体幹がず
れ,さらに長時間同一姿勢であることが多い
殿筋が萎縮し皮膚が重な
って湿潤している,オム
ツを使用し,失禁がある
場合が多い
褥瘡周囲皮膚が脆弱であ
る.浸軟や乾燥,浮腫を
伴う.全身状態の低下が
あり,ターミナル期やク
リティカルな状態である
ことも多い
骨突出の直上,あるいは
褥瘡部が可動性で骨突出
部と重なった場合,圧迫
が要因
創縁は円形であるが,楕円あるいは馬蹄形に変
形している場合,圧迫とずれが要因.左右どち
らかに偏っていないかも観察する
創縁に浸軟が伴い,尾骨
に好発する場合,湿潤が
要因
創縁が境界不明瞭でまば
らで地図状である場合,
圧迫,ずれ,湿潤が複合
的にあることが要因
体圧分散寝具の変更と体
位変換のスケジュールを
計画する.下肢のポジシ
ョニングを見直す
背上げの高さと時間を検討する.ベッドや車椅
子上の姿勢とずれを観察し,ポジショニングを
見直す.また,圧迫に対するケアも行う
失禁による殿部の汚染が
ある場合,撥水性クリー
ムや亜鉛華軟膏などの撥
水が期待できる外用剤を
用いる
要因が複合的にあるため,
圧迫,ずれ,湿潤に対す
るケアを行う.また,周
囲皮膚のスキンケアを行
う.褥瘡以外の要因を推
察する必要がある.
形
円形
推測される要因
対策
文献 1)
より
そうでないかと,褥瘡の周囲の皮膚状態
評価やブレーデンスケールなどを用いる
おのずと明確になります.表を参考に発
もあわせて観察します.
と抽出できます.
生要因を推察し,対策を考えます.
褥瘡の周囲の皮膚は,
当院では,厚生労働省危険因子評価に
発生要因を見極めると,患者の療養生
◦浸軟していないか
加え,知覚の認知,摩擦とずれの要因,
活のなかで,なにが褥瘡の要因なのかが
◦乾燥し鱗屑を伴っていないか
皮膚の状態をあわせて観察し,問題が抽
明確になります.また,その要因をほか
◦発生部位以外に瘢痕はないか
出されやすいように工夫しています.
の看護師とカンファレンスで共有するこ
◦色素沈着はないか
⑤療養環境など,その他の要因を検討
とが必須です.ぜひ,褥瘡の局所から療
など,褥瘡と周囲の状態を観察します
(図 2 )
.
④個体要因を抽出
さらに,患者の個体要因を抽出します.
ベッド上,椅子上で除圧に有効な動作へ
の理解や動作を行う意思があるか,骨突
出,関節拘縮,栄養状態,湿潤,浮腫と
いった個体要因は,厚生労働省危険因子
最後に,使用する体圧分散寝具の種類
養生活を再検討してみましょう.
と使用方法(エアーマットの設定など),
車椅子の乗車時間と頻度,背上げ時間と
頻度などの療養環境を確認します.
〈アセスメントとケア介入〉
発生要因ごとに対策を実践
これらの観察ができると,発生要因は
*厚生労働省危険因子評価:「褥瘡対策に関する診療計画書」を使用した評価で,
患者の日常生活自立度を判定し,褥瘡予防やケア介入の必要性を選別する
引用・参考文献
1 )真田弘美,須釜淳子編:実践に基づく最新
褥 瘡 看 護 技 術 . 第 2 版 ,p . 1 4 6 , 照 林 社 .
2009.
月刊ナーシング Vol.32 No.9 2012.8 91