環境配慮型曳船(ハイブリッドタグボートシステム)の開発

環境配慮型曳船(ハイブリッドタグボートシステム)の開発
新潟原動機株式会社
株式会社IHI
日本郵船株式会社
株式会社 ウィングマリタイムサービス
京浜ドック株式会社
一般財団法人 日本海事協会
1. はじめに
環境負荷低減や省エネ効果のニーズが高まる中、新潟原
動機㈱は、タグボートを対象として、環境を配慮した国内
初となるハイブリッド推進システムを開発した。
タグボートは船体に対して相対的に大出力の推進用主機
関を有しているが、稼働時間の多くは低負荷で使用されて
いる。船全体をシステム効率の良い状態にて稼動させるに
は、動力の複合化が必要であると考えて本システムの開発
に至った。
本システムは推進器の動力源として主機関に加えてモー
タを搭載した推進システムであり、従来型のシステムに比
べて燃料消費量および CO2 排出量を約 20%低減すること
ができる。
図 2 はそれぞれの状態における運転モードであり、港湾
平面の模式図より、
「停泊」
「移動」
「作業」としたときの電
気系統を表す。
- 停泊-
PORT
①
③
- 移動-
②
- 作業曳船作業
③
④
③⇔④
- 停泊②発電機
①陸電
G
補機
関
主機関
ZP
M
G 補機関
Li電池
船内負荷
Li電池
補機
関
従来機構
主機関
ZP
M
主機関
ZP
M
G 補機関
③低負荷(低速)
GE 補機関
インバータ
船内電力
ハイブリッド機構
ZP
M
Li電池
インバータ
インバータ
サイズ
ダウン
リチウムイオン電池
発電機関
M
陸電
Li電池
Zペラ
ZP
Li電池
船内負荷
陸電
主機関
中間軸
主機関
インバータ
Li電池
船内負荷
モータ/ジェネレータ
M
③高負荷(高速)
GE 補機関
発電機関
ZP
Li電池
インバータ
- 移動モード-
主機関
中間軸
Zペラ
主機関
陸電
船内負荷
インバータ
G
M
Li電池
陸電
2. ハイブリッドタグボートの概要
従来機構とハイブリッド機構の比較模式図を図 1 に示す。
ZP
主機関
インバータ
インバータ
船内電力
GE 補機関
主機関
M
ZP
GE 補機関
主機関
- 作業モード④作業(高負荷)
GE 補機関
主機関
ZP
M
ZP
M
インバータ
図 1.従来機構とハイブリッド機構の比較
船舶に搭載するリチウムイオン電池の充電は主に陸上電
源(陸電)からの給電を利用し、船内発電機から給電(充電)
も可能である。
本システムでは運航の形態によってモードを使い分けし
ており、移動中に使用する「移動モード」
、作業中に使用す
る「作業モード」の、2つのモードを持っている。
Li電池
船内負荷
陸電
Li電池
インバータ
GE 補機関
主機関
図 2.運航の状態
「停泊」では陸電供給よりリチウムイオン電池を充電させ
て,満充電状態とし,出港する。移動モードにおいて、低
負荷ではモータジェネレータで航行し、主機は停止する。
低負荷(低速)から高負荷 (高速)に系統切替するには、
推進
用ハンドルを上昇させることで自動的に行われる。
なお、移動モードから作業モードへの切替は、船長の判
断で手動でモード切替を行う。
3. ハイブリッドタグボートの就航
これまでの開発において得られた結果により、環境負荷
低減に対しハイブリッドシステムは大いに有効であること
が確認出来た。この結果を踏まえて、日本郵船グループの
㈱ウィングマリタイムサービスは、同システムを搭載した
ハイブリッドタグボートを所有・運航すべく、日本郵船グ
ループの京浜ドック(株)に建造発注し、一般財団法人日本
海事協会の「業界要望による共同研究」スキームによる支
援を受け、本船は 2013 年 3 月に「翼」
(256 トン)として
横浜港に就航した。
<本船の主要目>
Loa×B×D 37.2×9.80×4.40m
喫水
3.35m
総トン数
256 トン
資格、航行区域 JG、沿海区域(限定)
船速
15.0 ノット
最大曳航力 前進 55 トン 後進 52 トン
主機関
新潟原動機㈱ 6L28HX 2 台
1324KW×2
モータジェネレータ
294KW×2
推進器
新潟原動機㈱
ZP-31 2 台
リチウムイオン電池 ㈱IHI 150kWh×2
図 3.ハイブリッドタグボート「翼」全景
図 4.「Hybrid」表示
4. 環境負荷低減効果
ハイブリッドタグボート「翼」の就航後、実運航データ
を収集し、シミュレーションを実施した。その結果、従来
型と比べ、燃料消費量 32%、CO2 排出量 32%の削減効果が
あることが確認され、目標の燃料消費量 20%削減、CO2 排
出量 20%削減を超える結果が得られた。
その他に、ハイブリッドタグボートは、低速航行時には
モータジェネレータのみで航行し、主機を停止するので、
その間は船内で発生する騒音を大幅に減らすことが出来る。
騒音レベルをデジベル値(dB)ベースで、従来型と比較した
結果、騒音低減率は約 20%となった。タグボートの停泊場
は生活圏に近接しており、
モータジェネレータ航行で出港,
帰港すれば、騒音対策としてとても有効になる。
5. おわりに
ハイブリッド推進システムは複数の動力源を有しており、
船舶の要求する運航状況により組み合わせるモータ、リチ
ウムイオン電池、主機関、ディーゼル発電機それぞれの容
量と制御の最適化により様々な用途に適用が出来るシステ
ムである。開発したハイブリッド推進システムは、先ずタ
グボートへの展開を念頭において開発したものであるが、
上記の特徴からタグボート以外の、例えば、サプライボー
ト、小型フェリー、観光船等にも適用が可能である。尚、
本研究開発の成果は、上海で 2013 年に開催された国際会
議 CIMAC 2013 において、Development of the hybrid
tugboat system (Paper No. 138) と題して発表されている。