日本貨物鉄道(株)EH800形式交流電気機関車

一 般 論 文
FEATURE ARTICLES
日本貨物鉄道
(株)
EH800 形式交流電気機関車
EH800 AC Electric Locomotive for Japan Freight Railway Company
山田 真広
■ YAMADA Masahiro
北海道新幹線の開業により海峡線が新幹線との共用走行区間になることを受け,東芝は日本貨物鉄道(株)と共同で EH800
形式交流電気機関車試作機を開発し,現在,現車試験中である。
この機関車は,共用走行区間(AC(交流)25 kV)と在来線区間(AC 20 kV)の複電圧に対応している。安全性や機能性を
確保するため,台車に車両逸脱防止 L 型ガイドや軸温・振動センサを搭載するほか,従来の新幹線で実績のあるデジタル式自動
列車制御装置の一種であるDS-ATC 車上装置(当面は現行のATC-Lとして使用)及びデジタル列車無線装置を搭載している。
On the Kaikyo Line connecting Honshu and Hokkaido via the Seikan Tunnel, there are plans for sharing of tracks with the Hokkaido Shinkansen
due to the construction of a new railway station provisionally named Shin-Hakodate.
In cooperation with Japan Freight Railway Company, Toshiba has developed a prototype of the EH800 AC electric locomotive that can be driven
at catenary voltages of both 25 kV AC (shared line section) and 20 kV AC (existing line section). To secure safety and functionality, the EH800 is
equipped with an L-shaped guide for derailment prevention, as well as axle temperature sensors and vibration sensors. It is also equipped with electrical
equipment that has already been proven in past Shinkansen projects, including a type of digital automatic train control (ATC) system called the DS-ATC,
which will continue to be used as the conventional automatic train control-locomotive (ATC-L) system for the time being, and a digital wireless radio device.
1 まえがき
2015 年度末までに開業を予定している北海道新幹線は,新
幹線と在来線が走行する共用走行区間となるため,現状では
AC 20 kVき電区間である青函トンネルが新幹線と同じAC 25 kV
き電区間となる。現在,北海道と本州を結ぶ鉄道貨物輸送
は,東芝が 1997年から製造してきた EH500 形式交流電気機
関車(以下,EH500と略記)が主流であるが,北海道新幹線
開業後の貨物輸送を確保するには,AC 25 kV及びAC 20 kV
の両方に対応した鉄道車両が必要となる。
このニーズに応えるため,当社は日本貨物鉄道(株)と共同
で EH800 形式交流電気機関車(以下,EH800と略記)の試作
図1.EH800-901(試作機)̶ 2012 年に東芝府中事業所を出場した
ようすである。
Prototype EH800-901 electric locomotive at Toshiba's factory
機(図1)を開発し,現在,現車試験中である。
EH800 は,EH500をベースに電気機器のAC 25 kV化を行
い,また従来の新幹線で実績のある保安装置などの装置を搭
載した。ここでは,EH800 の性能と主要付加機能を述べる。
組合せで集電するPanの選択やMTの開放ができる。また,
1車体に 2 台の主変換装置(CI)を搭載し,1台の CIで 2 台の主
電動機(MM)を制御する台車制御方式を採用している。延長
2 システム構成及び主要諸元
EH800 のシステム構成を図 2に示す。
基本構造は EH500をベースとした 2 車体永久連結構造で,
8 個の 動 軸を持 つ機 関 車である。2 端 車側のパンタグラフ
(Pan)からの集電を基本とし,真空遮断器(VCB)3 台を組み合
わせて2 台の主変圧器(MT)へ架線電圧を印加する。VCB の
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給電用接触器を搭載しており,万一 CI が故障した場合でも,接
触器の投入で健全な CI からの延長給電ができる。
補機への電源を供給するための補助回路は,架線電圧によ
らず一定の出力を確保する必要がある。MT三次巻線下に設
けたタップを切り換えることで,補助電源装置(SIV)への電
源供給を一定に保っている。
EH800 試作機の主要諸元を表1に示す。
東芝レビュー Vol.69 No.9(2014)
Pan
1 端車 2 端車
CT
VCB
ACOCR
CT
EGS
VCB
ACOCR
EGS
Pan
AC 25 kV 又は AC 20 kV
Arr
VCB
CT
Arr
ACOCR
L
L
DC 1,800 V−AC 1,034 V 又は AC 827 V
CI
CI
L
L
MM
MM
インバータ
AC 25 kV 又は
AC 20 kV
コンバータ
MM
AC 25 kV 又は
AC 20 kV
コンバータ
インバータ
MM
CI
CI
L
L
MM
インバータ
MT
コンバータ
MM
MT
コンバータ
インバータ
MM
MM
OVRe
OVRe
SIV
IvTK
SIV
IvTK
AC 1,366 V 又は
AC 1,389 V
補機負荷
ACK
AC 440 V
TLK
接地端子台
L
補機負荷
接地端子台
一
般
論
文
ACK
AC 440 V
ACOCR:交流過電流継電器
CT
:架線電流検出用変流器
EGS
:保護接地スイッチ
Arr
:避雷器
DC
:直流
L
:断流器
OVRe :過電圧制御抵抗器
IvZK :補助電源装置入力(在来)接触器
IvTK :補助電源装置入力(共用)接触器
ACK :補助電源装置出力用接触器
TLK
:補助電源延長給電用接触器
IvZK
IvZK
図 2.EH800 のシステム構成 ̶ 2 端車側のPan からの集電を基本にして,1車体に 2 台搭載した CIを通して,1 CI 当たり2 台のMMに給電する。
Configuration of EH800 system
架線電圧 :AC 25 kV 及び AC 20 kV(50 Hz)
中間電圧 :DC 1,800 V
車輪径 :1,080 mm(計算)
歯数比 :5.13
50,000
力行(加速)性能及び 抑 速回生ブレーキ性能のいずれも
45,000
EH500と同性能を確保することを前提とした。一方,AC 20 kV
線電圧が下がる分,電流を上げる必要があるが,素子遮断性
能や冷却性能は変わらないため,AC 20 kV区間走行時は架線
電圧に応じて性能を76 %に制限することにした。
力行性能を図 3に,抑速回生ブレーキ性能を図 4に示す。
4 主要付加機能
MM8 台での引張力及び走行抵抗(kgf)
区間を走行する場合,EH500と同等の性能を確保するには架
40,000
架線電圧 AC 20 kV 時の
最大引張力
35,000
MM 電圧 1,404 V
(架線電圧 AC 25 kV 及び
AC 20 kV)
以下の装置を搭載した。
走行抵抗
(上り 12 ‰
明かり区間*)
25,000
1,000
20,000
15,000
10,000
5,000
1N
⑴ 台車への逸脱防止ガイド金具(L 型ガイド)
地震発
生時のレールからの車輪逸脱防止を目的に各軸端に搭載
2N
0
0
3N
常摩耗時などの振動検知や軸温の異常上昇検知に使用
4N
5N
18N
17N
16N
15N
14N
13N
12N
11N
10N
9N
8N
7N
6N
500
0
10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110
した。
⑵ 各軸端への振動センサ及び温度センサ 車輪の異
2,000
1,500
30,000
新幹線との共用区間を走行するにあたり,同等の安全性や
機能性を確保することを目的に,従来の新幹線で実績のある
2,500
MM 電圧(V)
3 性能
速度(km/h)
N: ノッチ( 列車の速度を制御する刻みのこと。ここでは,力行(加速)方向の段数
を表している)
*トンネル以外の走行区間
し,電子制御装置を介して運転台モニタや表示灯で警告
する。
図 3.力行性能 ̶ 力行時の速度と引張力の関係を表す特性曲線である。
Relationship between velocity and tractive force at time of powering
⑶ 電子式速度計 DS -ATC の出力で駆動する液晶画
日本貨物鉄道
(株)EH800 形式交流電気機関車
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表1.EH800 試作機の主要諸元
50,000
架線電圧 :AC 25 kV 及び AC 20 kV(50 Hz)
中間電圧:DC 1,800 V
車輪径 :1,080 mm(計算)
歯数比 :5.13
Main specifications of prototype of EH800
45,000
仕 様
電気方式
AC 20 kV 及び AC 25 kV(50 Hz)
軸配置*
(Bo-Bo)
−(Bo-Bo)
運転整備質量
134.4 t(軸重 16 t)
最高速度
110 km/h
連結面間
主要寸法
車体幅
車体高さ
性 能
出力
最大牽引力
形式
台 車
軸はり式
動力伝達方式
1段歯車減速つりかけ式
引張力伝達方式
力行
ブレーキ
MT
35,000
回生ブレーキによる
電気制動負担の最大
(架線電圧 AC 20 kV)
30,000
25,000
20,000
走行抵抗
(下り 12 ‰
明かり区間)
15,000
18N
12N
17N
11N
6N
16N
10N
5N
15N
9N
4N
1N
14N
8N
3N
13N
7N
2N
10,000
Zリンク式
5,000
5.13(82/16)
2,500 mm
0
1,120 mm(新製)
0
10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110
PWM 方式電圧形
インバータベクトル制御
電気指令式空気ブレーキ回生ブレーキ併用
速度(km/h)
形式
FMT4A 形×8 台
Relationship between velocity and tractive force at time of regenerative braking
方式
三相かご形誘導電動機
冷却方式
強制風冷(50 m3/min)
1時間定格
565 kW
形式
FTM5 形
方式
外鉄形無電圧密封
冷却方式
送油風冷
FMPU17 形×2 台
強制風冷式
形式
FAPU8 形×2 台
方式
2 段分圧 PWM インバータ
冷却方式
電子制御装置
回生ブレーキによる
電気制動負担の最大
(架線電圧 AC 25 kV)
図 4.抑速回生ブレーキ性能 ̶ 抑速回生ブレーキ時の速度と抑速回生
ブレーキ力の関係を表す特性曲線である。
形式
SIV
40,000
FPS6 形×2 台
形式
冷却方式
CI
FD7O,P,Q,R 形
空気ばね式
車輪径
MM
42,000 kgf
車体支持方式
固定軸距
パンタグラフ
4,280 mm
4,000 kW(AC 25 kV 時)
3,040 kW(AC 20 kV 時)
軸箱支持方式
歯数比
制御方式
25,000 mm
2,808 mm(最大 2,972 mm)
MM8 台での抑速回生ブレーキ力及び走行抵抗(kgf)
項 目
形式
強制風冷
FECU3 形×2 台
保安装置
DS-ATC(新幹線開業までは ATC-L 機能)
ATS-SF
無線装置
新幹線デジタル列車無線,青函 Bタイプ,
列車無線 B/Cタイプ,及び防護無線(在来区間)
図 5.電子式速度計 ̶ EH800 は,従来の新幹線で採用実績のある電子
式速度計を搭載している。
Electronic speed meter
PWM:パルス幅変調 ATS-SF:自動列車停止装置(ATS)の一種
*機関車の動軸(MM がついている車軸)の配置。A,B,C は動軸の数を表し,A は1軸,
(Bo-Bo)は,動軸が 2 軸ずつある台車を 2 台持
B は 2 軸,C は 3 軸である。
(Bo-Bo)−
つ機関車が 2 両連結されていることを表している
謝 辞
EH800 の開発にあたり,多大なご指導とご協力をいただいた
面搭載の電子式速度計を搭載した(図 5)
。液晶画面の
日本貨物鉄道(株)の関係各位に深く感謝の意を表します。
輝度調整を明・暗切換スイッチからつまみに変更し,より
細かく調整できるようにして視認性能を向上させている。
5 あとがき
現在,EH800 は現車試験中であり,2012 年度及び 2013 年度
に実施した AC 20 kV条件での試験結果を反映し,量産車を
製造中である。2016 年度末までに量産車を製造することで,
山田 真広 YAMADA Masahiro
社会インフラシステム社 鉄道・自動車システム事業部 車両
システム技術部。車両システムのエンジニアリング業務に従事。
Railway & Automotive Systems Div.
開業後の貨物輸送を確保する予定である。
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東芝レビュー Vol.69 No.9(2014)