長期降圧治療が動脈スティフネス・左室拡張能に - Arterial Stiffness

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英文原著論文紹介 ③心血管
Arterial-Cardiac Destiffening Following Long-Term
Antihypertensive Treatment.
Tomiyama H, Yoshida M, Yamada J, Matsumoto C, Odaira M, Shiina K, Yamashina A.
Am J Hypertens 2011; 24: 1080-6. PMID: 21677695
長期降圧治療が動脈スティフネス・左室拡張能に及ぼす効果の検討
冨山博史(東京医科大学第二内科教授)
吉田雅伸/山田治広/松本知紗/小平真理/椎名一紀/山科 章
背景
脈波速度
(pulse wave velocity;PWV)
は硬さの指標で
治療開始後 8 カ月では両治療に伴う baPWV および A/E
あり、メタ解析でも独立した心血管疾患発症のリスク指
の 変 化 は 同 等 で あ っ た が、 治 療 開 始 2 年 で は baPWV、
標であることが示されている。高血圧で動脈スティフネ
A/E とも ARB での改善が CCB に比べて有意に大きかった
スがリスクとして作用する機序の一つに、左室肥大や左
(図 1)
。また ARB 中心治療群では治療に伴う baPWV の変
室間質線維化を介した拡張性心不全発症がある。高血
化と A/E の変化は有意な関連を示した(r =−0 .34、p <
圧 の 治 療 で は 特 に ア ン ジ オ テ ン シ ン II 受 容 体 拮 抗 薬
0 .01)。
(angiotensin Ⅱ reseptor antagonist :ARB)が PWV を改
善することが報告されている。しかし、長期の ARB 治療
考案
が左室拡張能に及ぼす影響が他の薬剤と異なるか、また、
ARB と CCB の硬さと拡張能への短期および長期の効果
動脈スティフネス改善が左室拡張能の改善と関連するか
を同時に評価した初めての研究である。
は不明である。
今回の検討での新たな知見は、ARB と CCB の PWV 改
目的
善への効果の差異は短期使用より長期の治療で有意と
なった結果である。これまで ARB の PWV 改善効果を検
本 研 究 は、ARB 中 心、 カ ル シ ウ ム 拮 抗 薬(calcium
討した研究の観察期間は 12 週から 1 年とさまざまである。
channel blocker;CCB)中心の短期治療(8 カ月)および長
最近、厳密な長期血圧コントロールは PWV の経年的な亢
期治療(2 年以上)が動脈スティフネス・左室拡張能に及ぼ
進を抑制することが示されている。PWV で反映される硬
す影響と両者の変化の関連について検討した。
さの亢進はさまざまな機序を介して心血管疾患発症リス
方法
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結果
クとして作用する。ARB と CCB の心血管疾患発症予防効
果を対比した CASE-J 研究では平均 3 .2 年の経過観察期間
113 例の未治療高血圧症例を無作為に ARB 中心治療群、
における両薬剤の心血管疾患発症予防効果に有意な差を
CCB 中心治療群に分け治療開始前、開始後 8 カ月、開始
認めなかった。しかし、本研究の結果は、ARB の長期治
後 2 年で上腕—足首間脈波速度(brachial anckle PWV;
療において動脈スティフネスに関連したリスク減少が有
baPWV)
、心臓超音波検査で左室拡張能指標(A/E)を測定
意であることが示唆され、ARB/CCB の長期効果の対比研
した。
究が必要と考えられる。
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英文原著論文紹介③
図 1 ● アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬・カルシウム拮抗薬の上腕−足首間脈波速度、左室拡張能に及ぼす影響の対比
(cm/sec)
0
8 カ月治療
2 年治療
0.12
E/A ratio の変化量
baPWV の変化量
−50
−100
−150
−200
−250
p=0.11
p=0.03
p=0.16
0.09
0.06
0.03
0
ARB
症例数= 56
これまでの検討にて CCB、ARB の両者とも左室拡張能
を改善させることが報告されている。本検討での長期治
p=0.04
CCB
57
ARB
症例数= 56
CCB
57
結論
療では ARB 中心治療では CCB 中心治療に比べて動脈ス
ARB を中心とした長期治療は CCB に比べてより動脈ス
ティフネスだけでなく拡張能にもより好ましい効果が認
ティフネスと左拡張能を改善することが示された。ARB
められた。さらに、ARB 治療での動脈スティフネスおよ
治療での両改善には有意な関連があり、硬さの改善は拡
び左室拡張能の改善は、個々に生じるものでなく、両者
張能改善と関連することが示された。
は有意な関連を有することが考えられた。
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