1. はじめに - Biglobe

安全情報シート
4
神奈川県連健康安全委員会
1998.2.12
1.はじめに
これは県連災害共済委員会に届けられた平成 6 年∼8 年の 3 年間の「事故通知書」に基づいて集計さ
れた「安全情報シート」の第 4 号である。第 1 号は全体集計を、第 2 号は VBS と CS 部門の集計を、第
3 号は BS と SS 部門をそれぞれ集計し報告した。今号では RS と指導者について集計結果を報告する。
2.部門別の事故通知件数
3 年間の全部門の総事故通知件数は 139 件であった。内、RS は 7 件(5.04%)、指導者は 19 件(13.7%)
である。RS は全体に占める通知件数の比率は全部門中最も少ないが、3 年間の累積加盟登録人数を考
慮すると、他部門に比べて事故通知が統計的に有意に低いとは言えない。これは指導者の事故通知件
数についても同様である。さらに、BVS から指導者に至るまで全部門で事故通知件数に有意の差がな
い。つまり、どのプログラム部門であっても(スカウト、指導者を問わず)通知事故の生じる割合に差が
あるとは言えない。
3.負傷種別・事故要因からみた傾向
(1)RS
表1
部 位
頭頚部
上肢
上肢
手指
手指
手指
手指
表1でほぼ全体の傾向が分かる。
負傷分類
骨折
骨折
その他
切・裂創
切・裂創
切・裂創
骨折
程 度
重傷
中等傷
軽傷
不明
中等傷
重傷
中等傷
機
序
転落
スケート
肩関節脱臼・対人事故
なた
なた
のこぎり
ソフトボール
件 数
1
1
1
1
1
1
1
下肢・体幹の負傷がなく手指、上肢
の負傷が多いが、この原因について
は不明である。手指の負傷 4 件の内、
3 件が刃物による負傷である。この
年齢でも刃物の使用法について問題
がないわけではないことを示してい
る。さすがに単純な転倒による負傷
は通知されていないが、転落によるものやスケートによるものなど負傷原因は余り他部門と相違ない。
負傷種別では骨折と切・裂創が各 3 件で CS 以上の部門の一般的傾向と一致する。同様に通知件数の
少ない SS と異なるのは件数の割に比較的重症や中等傷が多いことである。運動能力や技能習熟度は
SS より完成していると考えられるので、この結果は少し奇異な感がする。恐らく運動や作業に関わる
速度、質量の増加に伴う重症化ではないだろうか。
表2
負傷部位
表 2 でみるように骨折が最多である。BS 以下のスカウト部門に少数みられ 骨折
る捻挫が通知件数の割に多いようである。その他はスカウト部門と大差のな 捻挫
切・裂創
い状況といえる。部位をみると骨折を含め下肢の負傷が目に付く(表3参照)。
熱・火傷
打撲
その他
(2)指導者
件 数
7
3
3
2
2
2
表3
部 位
下肢
上肢
手指
下肢
頭頚部
頭頚部
頭頚部
上肢
上肢
上肢
手指
下肢
下肢
負傷分類
骨折
骨折
切・裂創
捻挫
打撲
切・裂創
その他
捻挫
熱・火傷
打撲
骨折
熱・火傷
その他
表4
部 位
手指
下肢
下肢
下肢
下肢
下肢
下肢
下肢
上肢
頭頚部
上肢
上肢
上肢
上肢
頭頚部
頭頚部
手指
件 数
4
2
2
2
1
1
1
1
1
1
1
1
1
表5
機
序
転倒
躓き
なた
物を足に落とす
対人事故
設営時
自転車衝突
交通事故
パラグライダー
のこぎり
タイヤチェーン作業中
スケート
かまど
件 数
4
3
2
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
負傷分類
切・裂創
骨折
骨折
骨折
熱・火傷
捻挫
捻挫
その他
骨折
打撲
骨折
打撲
熱・火傷
捻挫
その他
切・裂創
骨折
機
序
なた
転倒
物を足に落とす
躓き
転倒
パラグライダー
躓き
躓き
スケート
設営時
転倒
交通事故
かまど
自転車衝突
対人事故
のこぎり
タイヤチェーン作業中
件 数
2
2
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
これらの原因(機序)を含めてみると転倒や躓き、物を足に
落とすなど不注意が引き起こした事故が多いことが分かる(表 4
参照)。事故の機序別に見ても転倒4件と躓き3件を合わせて7
件ある(表5参照)。BVS や CS 子供のように身体のバランス
の悪さから来るものではありえない。スカウトやプログラムに
注意が向けられて自分自身に注意が回らないのか、普段の生活
での運動不足が原因なのだろうか。また、切・裂創では BS、RS
と同様に「なた」による事故が 2 件ある。内 1 件は中等傷であ
る。のこぎりによる頭頚部の負傷を合わせると刃物による事故
が3件となり、指導者においても刃物の扱いに問題なしとしな
い。
4.時間帯や状況からみた事故の傾向
○ 月別の発生件数
表6 RS
発生月 例 数
10
3
12
1
6
1
5
1
1
1
表7 指導者
発生月 件 数
1
1
2
2
4
1
5
1
6
2
7
1
8
6
9
1
11
4
RS は表6にみるように 10 月が多いが特記すべき程の
傾向は窺われない。不思議なことに活動の最盛期と考えら
れる7、8 月には通知事故がない。
指導者は表 7 のように 8 月が多くスカウトの活動期に一
致している。11 月の事故が 4 件あるがいずれもスキー、
スケートによるものではない(ちなみにスキーによる事故
は全通知例中 14 件あるが、その内 7 件は 3 月に集中して
いる)。指導者のスケートによる事故 1 件は 1 月のもので
ある。
○ 発生時間からみた事故件数
表8 RS
時間帯
6時-9時
18時-21時
9時-12時
15時-18時
12時-15時
件 数
2
2
1
1
1
表9 指導者
時間帯
件 数
12時-15時
7
9時-12時
4
6時-9時
3
15時-18時
3
18時-21時
2
RS は表 8 にみるように 6 時∼9 時と 18 時∼
21 時が各 2 件あり、他はばらついている。6 時
∼9 時の 2 件は対人事故とスケートであり、18
時∼21 時は 2 件とも「なた」による事故である。
ちなみに「なた」による事故は全通知事故中 13
件あるがこの内 6 件が 15 時∼18 時に、4 件が
18 時∼21 時に起きている。夕食の支度中であろ
う。一日の疲労による注意散漫や夕暮れ時の視界の悪さもあるのだろうか。「なた」の使用時間を考
えるべきなのかもしれない。
指導者は表 9 に示すように 12 時∼15 時が多く、次に 9 時∼12 時で BVS、CS と同様である。指導
者の「なた」による事故 2 件は 9 時∼12 時と 15 時∼18 時である。転倒や躓き(合計 7 件)では、午前
中が 4 件であった。
○ 状況からみた事故件数
表 10 RS
状況
プログラム中
その他
不明
炊事時
例 数
3
2
1
1
表 11 指導者
状況
プログラム中
集散時
その他
不明
炊事時
RS は表 10、12 でみるようにはっきりして
件 数
6
4
4
3
2
いる通知ではプログラム中の事故が多く、そ
れも特別活動中の事故が 4 件である。これら
は BS や SS の傾向と大差がない。但し野・舎
営の事故の通知がないことが他部門と異なる。
RS が野・舎営をあまりしないためなのか、技
能に習熟しているためか何ともいえない。先
表 12 RS
活 動
特別活動
その他
件 数
4
3
表 13 指導者
活動
件 数
野・舎営
6
特別活動
6
その他
6
隊集会
1
述した「なた」による事故も野・舎営中ではな
いようである。
指導者は表 11、13 で示すようにプログラム中
の事故が最も多く集散時がそれに次ぐ。これも
CS や SS と大差がない。活動内容からみると
野・舎営、特別活動、その他が各 6 件と分散している。野・舎営では躓きが 3 件、刃物による事故が
2 件ある。総じて指導者とスカウトの間に大きな違いはないといえよう。
5.おわりに
ここで示した RS の年齢は 17 歳∼23 歳で平均 20 歳である。この年齢では一般的な運動能力や判断
力はほぼ完成の域にあり、身体バランスの悪さや「未熟さ」に伴う負傷は例外的なものと考えてよい。
例えばスキー、スケート、球技などに伴う負傷は、そのスポーツへの習熟度に左右される部分が大き
い、この年齢にとっては「例外的な」負傷である。逆に、BVS、CS、BS 年代ではこれらのスポーツ
に伴う負傷は、習熟度の点から見て例外的とは言えない。やりなれない特殊な運動は負傷リスクが高
いのである。RS の負傷事故は能力の問題より注意力の問題であるように思われる。このことは、運動
速度や運動に伴う質量(体重や扱う器具の質量)の増加と相俟って、一度事故が生じると重大な結果
をもたらす危険があることを示唆している。
表 14
年齢
22
24
30
33
38
38
39
41
42
43
43
44
45
45
46
48
48
53
63
指導者で意外なのは、転倒や躓きなど CS
機 序
設営時
のこぎり
自転車衝突
タイヤチェーン作業中
物を足に落とす
なた
躓き
交通事故
躓き
転倒
転倒
スケート
対人事故
躓き
パラグライダー
かまど
なた
転倒
転倒
負傷分類
打撲
切・裂創
捻挫
骨折
骨折
切・裂創
骨折
打撲
その他
骨折
骨折
骨折
その他
捻挫
捻挫
熱・火傷
切・裂創
骨折
熱・火傷
部位
頭頚部
頭頚部
上肢
手指
下肢
手指
下肢
上肢
下肢
下肢
下肢
上肢
頭頚部
下肢
下肢
上肢
手指
上肢
下肢
の子供と同じような機序での負傷が多いこ
とである。ただ、CS などでは身体バランス
の悪さが影響していると思われるのに対し
指導者では「不注意」または運動能力(敏捷
性や瞬発力)の低下によるとしか考えられな
い点が異なる。ここで示した指導者の年齢は
表 14 に示すように 22 歳∼63 歳で平均 41.3
歳である(20 代 2 名、30 代 5 名、40 代 10 名、
50 代と 60 代が各 1 名)。転倒や躓きは 20 代
ではなく、30 代で 1 件躓きがみられるだけ
で残りは 40 代以上の世代である。また、指
導者でも刃物による負傷が 3 件あり、これは
年代を問わない(20、30、40 代に各 1 件)。
つまり、40 代以上の指導者は自己の運動能
力や体力をよく認識し注意深く慌てずに行
動することが求められよう。また、刃物の扱
いについては如何なる年代でも初心に戻っての慎重さが必要である。BVS から指導者まで事故の発生
件数の割合に統計的に有意差がないことは、スカウティングのプログラムがそれぞれの年代に応じた
負荷を与える適正なものと考えるべきなのだろうか。あるいは、刃物による負傷にみるように、段階
的な技能訓練や指導に課題があると考えるべきなのだろうか。
平成 9 年夏から報告してきた「安全情報シート」は今回を持って一応の区切りとしたい。集計法を
プログラム部門を中心に分けたことや各種の分類法等に不満を覚える方もいらっしゃると思う。負傷
や機序の面から見た事故の分析をすることも必要であろう。また、もっと長期的に見た事故傾向の分
析も大切であろう。今後の課題とさせて戴きたい。そのためには「事故通知書」をそれらの分析に耐
えるような内容に改定すべきであることを提案しておきたい。
最後に資料の提供を戴いた県連災害共済委員会委員長 川崎清剛氏ならびにご協力を戴いた県連事
務各位に深謝する。
(付)
○ 負傷部位は、頭頚部・上肢・手指・下肢・体幹に分けた
○ 負傷程度は、軽傷は 1 週間以内、中等傷は 1 週間を超え 1 ヵ月以内、重症は 1 ヵ月超とした
○ 負傷分類は、骨折、切・裂創、捻挫、熱・火傷、打撲、擦過傷、その他、不明とした
○ 時間帯は 24 時間を 6 時から 3 時間毎に区切って分類した
○ 活動の内容や状況の分類は「安全情報シート1」を参考にされたい