酸化物混合体のCa還元による水素吸蔵合金の製造

0481
CAMP-ISIJ
VOL. 18(2005)-0000
分類
番号
酸化物混合体の Ca 還元による水素吸蔵合金の製造
Preparation of hydrogen storage alloys by calciothermic reduction of oxide mixture
京大エネルギ−科学研究科 松岡良憲 ○鈴木亮輔
1. はじめに
水素吸蔵合金を用いる際の問題点の一つは、そ
の合金製造コストが依然高いことである。例えば
Fig.1 に示すように、酸化物を塩化物に転換して高
温で還元し純金属を得た後、これらを混合して再
び高温で溶解して合金インゴットを作製し、更に
高温で長時間の均質化処理を行った後、粉砕して
所定の粒度に分別し、水素気流中で活性化処理を
行う必要があるからで、この長く加熱冷却を繰り
返す製造プロセスによる高コスト化を改善する必
要がある。
2. 開発した方法
本研究では比較的軽量で水素吸蔵量が大きい
Ti-V-Cr 系合金を例にとって、その安価な製造法を
開発している。酸化物を混合して強い還元性雰囲
Fig.1 CaO concentration in the molten CaCl2.
気で酸化物混合体を同時に還元し、水素吸蔵合金
粉末を得る方法を考案した。還元剤として Ca を用
いると 40%の酸素を含む最も難還元性酸化物である酸化チタン
であっても熱力学的には残留酸素濃度 500 ppm という高純度チタ
ンを製造できる。反応温度は 1073-1273 K 程度の低温で充分であ
るが、副生する CaO を反応温度で CaCl2 に溶解させることが重要
である。酸化物表面に出来る CaO がさらなる還元と、脱酸、合金
化を阻害するからである。CaCl2 を用いると高温反応終了後の湿
式処理も容易となり、残留 Ca 分の少ない粉末を得ることが可能
である。本研究では高性能合金として開発されている V-Ti-Cr 合
金粉末の作製を一つの目標とした。基礎試験として Fig.1 に示す
手法で 2 種類の酸化物混合体から直接 V-Ti 合金および TiCr2 化合
物、3 種類の酸化物混合体から V-Ti-Cr 合金を作製することを試
みた。二元系も水素吸蔵合金として知られている。
3. 実験結果
Fig.2 Concentration profile in the
安定酸化物を乳鉢で機械的に、簡潔に混合して Ca で同時に還
obtained Ti-V binary powder.
元した。CaCl2 を使用しない場合、激しい発熱反応により Ca が蒸
発すると共に、CaTiO3 や Ca-V-O 系の複合酸化物が生じ、不均一な生成物しか得られなかった。一方、CaCl2
を用いると還元反応を著しく促進することが可能であった。安定酸化物である V2O5 は融点が低く、Ca が還
元作用を発揮する Ca の融点以上の共還元合成反応温度(約 1173K 程度)では酸化物液体になってから優先
的に還元されるため、合金粉末組成は広がりを持ったが、水素還元によってあらかじめ高融点の V2O3 に転換
すると組成幅 5mol%以内の合金粉末を得た。Ti-Cr 二元系では高温相のβ-TiCr2 は生成せず、組成幅がわずか
2mol%の低温相のα-TiCr2 と少量であるが未合金相の Ti, Cr の混合体となった。これらの知見に基づき三元系
では TiO2, V2O3, Cr2O3 および CaCl2 を用い、合金粉末の直接製造を試みている。酸素濃度は 1173K では1時
間以内に 1mass%以下となったが、目標組成の BCC 固溶体のほか、少量のα-TiCr2 を含む数µm の粉末を得た。
Ryosuke O. Suzuki (Dept. Energy Sci. & Tech., Kyoto Univ., Yoshida-Honmachi, Sakyo-ku Kyoto 606-8501)
CAMP-ISIJ
VOL. 14(2001)-0000