HBVキ ャ リアにおけ るデル タ肝炎 ウイルス (HDV)マ ーカーの - J-Stage

1226
HBVキ
ャ リア に お け る デ ル タ肝 炎 ウ イ ル ス
(HDV)マ
ー カーの検 出
国立呉病院臨床研究部
田村 偉 久 夫
甲田
徹三
栗村
統
(平成4年3月30日 受付)
(平成4年5月8日
Key
words:
HBV
受理)
carrier,
anti-HD
要
3年 間 以 上 追 跡 調 査 したB型
カ ー を 経 時 的 に 測 定 し,そ
1)HDV抗
HDV抗
2)疾
体 はHBVキ
肝 炎 ウ イ ル ス(HBV)キ
anti-HD
HDAg
旨
ャ リア の 血 中 デ ル タ 肝 炎 ウ イ ル ス(HDV)マ
ー
の臨床 的意義 につ いて検 討 した.
ャ リ ア328例 中6例(1.8%)に
体 が 持 続 して 検 出 され た .HDV抗
患 別 のHDV抗
IgM,
体 検 出 率 は,無
持 続 し て 検 出 され ,そ
の うち2例
にIgM型
原 は い ず れ の 例 に も検 出 さ れ な か っ た.
症 候 性 キ ャ リア(0 .4%)に
比 べ て 慢 性 肝 疾 患(8.1%)が
有意に
複 感 染 は慢 性 肝 疾 患 発 症 の一 つ の 要 因 で あ り
,HBVキ
ャ リア
高 か っ た.
以 上 よ り,HBVキ
ャ リアへ のHDV重
の 経 過 観 察 に はHDVマ
ー カ ーの 測 定 が 必 要 と考 え られ た .
序
文
デ ル タ肝 炎 ウ イ ル ス(HDV)は
に 欠 損 が あ るRNA型
の 不 完 全 ウ イル ス で あ り,
そ の発 現 や 増 殖 に はB型
helper
の 経 過 観 察 に はIgM型HDV抗
外 被 蛋 白合 成 能
肝 炎 ウイ ル ス(HBV)の
functionが 必 要 で あ る と 考 え られ て い
る1).HDV関
し く開 発 さ れ たELISA法
HDV重
な り,本 邦 で はHBVキ
ャ リア率 が 欧 米 に 比 べ て
高 い に もか か わ らず 血 中HDV抗
体陽 性率が低 い
に よ るHDV抗
キ ャ リア の うち1991年1月
∼8月 の 間 に血 液 を 採
取 で きた328例 を対 象 と した.肝 疾 患 の 内訳 は,無
細 胞 癌14例 で あ る.な お,HDV抗
抗 体 検 出 例 は さ ほ ど稀 で は な く5)6),年次 別HDV
て は,-20℃
抗 体 検 出 率 は1979年 ∼1983年 のB型
経 時 的 に 測 定 した.
現 在,本
邦 で 市 販 さ れ て い るHDV関
血 中 のHDV抗
体測定
行 い,HDV抗
キ ッ トの み で あ り,D型
肝 炎 の診 断 な ら び に 予後
別 刷 請 求先:(〒737)呉
国立 呉 病 院 臨床 研 究 所
田村偉 久 夫
体,HDV抗
体 検 出例 はRIA法(ダ
イナボ ッ ト
社)で 確 認 した.肝 組 織 中 のHDV抗
血 清 と反 応 後HRP-抗
ーカーを
ノ フ ィ富 士 レ ビオ 社)で
原 は,酵 素 抗
体 法(間 接 法)に お い て 高 力 価 のHDV抗
市青 山町3-1
硬変・
肝
体 検 出 例 につ い
体,IgM型HDV抗
原 の 測 定 はELISA法(サ
に よ るHDV抗
性 肝 炎48例,肝
保 存 し た 血 清 中 のHDVマ
連 マー
カ ー測 定 試 薬 はRIA法
ャ リア へ の
間 以 上 追 跡 調 査 中 のHBV
症 候 性 キ ャ リア266例,慢
慢性肝疾患
原 ・抗
材 料 と方 法
国 立 呉 病 院 で3年
長 期 間 追 跡 調 査 中 のB型
例 が 高 い こ とを報 告 した7).
回新
複 感 染 に つ い て 臨床 的 検 討 を 行 った .
とい う報 告 が 相 次 い で い た2)∼4).しか し,著 者 らは
慢 性 肝 疾 患 に はHDV
原
こで,今
体 測 定 用 キ ッ トを 用 い て,HBVキ
連抗 原抗 体系 が 明 らか に され て以
来,肝 疾 患 と の関 連 が 世 界 中 で 注 目され る よ うに
体 とHDV抗
測 定 試 薬 の開 発 が 望 ま れ て い た.そ
ヒ トIgG(タ
感染症学雑誌
体 を含 む
ゴ社)に て 染 色
第66巻 第9号
HDVマ
1227
血 清 で陽 性)の2例
し た8).
疾 患 別 のHDV抗
体 検 出 率 の 統 計 処 理 はx2検
成
体 検 出 率(Table
体 は,HBVキ
(1.8%)に
検 出 さ れ た.疾
性 肝 疾 患62例
中6例
用:1例)感
体 は,慢
不 明 で あ る.
ャ リ ア328例
患 別 のHDV抗
中5例(8.1%),無
266例 中1例(0.4%)に
検 出 さ れ,両
1).HDVの
感染経 路
薬常
り1例 は
体検 出例の臨床経 過
IgM型HDV抗
群 の 検 出率
性肝
染 した と推 測 さ れ た が,残
3.IgM型HDV抗
性 候 性 キ ャ リア
の 間 に 有 意 の 差 が 認 め ら れ た(p<0.01).慢
原 は肝 生 検 を施 行 した3例
に 認 め られ た(Fig.
にっ い て は,血 液 を 介 して(輸 血:4例,麻
1)
中
原 は い ず れ の 例 で も 検 出 で き な か った
中1例
績
疾 患 別 のHDV抗
HDV抗
HDV抗
に 持 続 し て検 出 され た.血
が,組 織 中 のHDV抗
定 で 行 っ た.
1.肝
ー カー の検 出
体 が 持 続 し て 検 出 さ れ た2症
例 の 臨 床 経 過 を 示 す,
疾 患 を 慢 性 肝 炎 と 肝 硬 変 ・肝 細 胞 癌 に 分 類 し た
症 例1(59歳,男
HDV抗
1971年 交 通 事 故 の た め 右 腎 摘 出 手 術 の 際 に
体 検 出 率 は,慢
(6.3%),肝
性 肝
硬 変 ・肝 細 胞 癌14例
で あ り,両
炎48例
中3例
4,000mlの
中2例(14.3%)
群 間 に 有 意 の 差 は 認 め ら れ な か っ た.
2.HDV抗
体 検 出 例 の 臨 床 的 特 徴(Table
HDV抗
体 は,6例
歳 の 男 性)に10年
型HDV抗
のHBVキ
2)
ャ リア(47歳
∼66
体 が 高 力 価(104倍
と も にIgM型HDV抗
が 持 続 して 検 出 され て い る.HDV抗
体
体は輸血 か
ら6ヵ 月 後 に 出 現 し,現 在 ま で 持 続 して検 出 さ れ
の希釈
Fig.
1
Localization
HBV
HDAg
Frequency
in HBV
月後 の急 性増 悪
間 以 上 持 続 し て 検 出 さ れ た.IgM
体 はHDV抗
1
輸 血 を 受 け,3ヵ
(GPT値:380IU/l)と
an
Table
性,慢 性 非 活 動 性 肝 炎)
of seropositivity
was
carrier
seen
munoperoxidase
for and-HD
of
(Case
in
stain,
HDAg
in
the
liver
tissue
of
3)
nuclei
of
Original
hepatocytes
(im-
mag. •~400)
carriers
AsC:
asymptomatic
ease,
LC:
liver
carrier,
cirrhosis,
CLD:
HCC:
chronic
liver
hepatocellular
discar-
cinoma, *p<0.01.
Table
CIH:
chronic
determined,
inactive
BT:
平 成4年9月20日
blood
hepatitis,
transfusion
2
LC: liver
Clinical
cirrhosis,
features.
HCC:
of HBV
hepatocellular
carriers
with
carcinoma,
anti-HD
AsC:
asymptomatic
carrier,
ND:
not
田村偉久夫 他
1228
Fig. 2
1)
て い る.HDV抗
Clinical
course
and presence
原 は検 出 で き な か った.外 来 に て
of HDV markers
in an HBV
carrier
(Case
経 過 観 察 中 で あ るが 予 後 は 比 較 的 良 好 で あ る
い.
一 方 ,IgM型HDV抗
(Fig. 2).
感 染 初 期 例 に検 出 さ れ る が,HBVキ
症 例2(56歳,男
年(第3度
性,慢 性 非 活 動 性 肝 炎)は1954
の火 傷)と1960年(腸
量 輸 血 に 伴 い輸 血 後 肝 炎(急
た が,予
結 核 手 術)の 大
性 増 悪)を
指 摘 され
後 は 追 跡 を 開 始 した1976年 よ り比 較 的 良
好 な 臨 床 経 過 を み る もIgM型HDV抗
HDV抗
体 と
体 が 現 在 まで 持 続 して 検 出 さ れ て い る.
考
以 前,著
し たHBVキ
(Total)を
察
体 は,一 般 的 に はHDV
性 増 悪 時 に お け るIgM型HBc抗
同様 にD型
ャ リア の 急
体 の 出 現12)13)と
慢 性 活 動 性 肝 炎 で も 高 率 に検 出 され,
D型 肝 炎 の 活 動 性 を 示 す マ ー カ ー と して 注 目さ れ
て きた14)∼16).しか し,最 近 の報、
告 で は必 ず し もD
型 肝 炎 の 活 動 性 を示 す マ ー カ ー で は な い こ と も指
摘 され て い る17).今回 の検 討 で は,HDV抗
体陽性
6例 の うち 高 力 価(104倍 希 釈 で 陽 性)の2例
者 ら は1973年 ∼1988年 の 間 に追 跡 調 査
ャ リ ア1,018例 の 血 中HDV抗
経 時 的 に測 定 した 結 果,1979年
体
∼1983
みIgM型HDV抗
にの
体 が 検 出 され た.こ の2例 の 臨
床 経 過 は,大 量 輸 血 に伴 い 急 性 増 悪 の 症 状 を呈 し
た が,現 在 までIgM型HDV抗
体 が 持 続 し て検 出
年 の 間 の 慢 性 肝 疾 患 例 で 高 率 に検 出 され る こ とを
さ れ て い る に もか か わ らず 予 後 は比 較 的 良 好 で あ
報 告 した7).今 回,慢 性 肝 疾 患62例 中5例(8.1%)
る.こ の よ うにHBVキ
にHDV抗
D型 肝 炎 を 念 頭 に お い てIgM型HDV抗
体 が 検 出 さ れ た の に 対 し,無 性 候 性
キ ャ リアで は266例 中1例(0.4%)の
みに検 出さ
れ,両 群 の 間 に有 意 の 差 が 認 め られ た.し
て,HBVキ
ャ リアへ のHDV重
たが っ
複感 染 は慢 性肝
ャ リア の 急 性 増 悪 例 に は
体 の検
索 を行 う必 要 が あ る と考 え られ る.
HDV重
は,HDV感
複 感 染 例 の 血 中HDV抗
原 につ いて
染 初 期 に短 期 間 検 出 され る例 と低 値
疾 患 発 症 の 一 つ の要 因 で あ る と考 え られ た.し か
な が ら持 続 して 検 出 され る例 の存 在 が 指 摘 され て
し,HDV感
い る15).今回,血 中HDV抗
染 者 の 多 い イ タ リア で は 重 篤 な増 悪
や 病 変 の進 展 を 示 す 例 が 多 い9)10)のに対 して,今 回
を 施 行 した3例
HDV抗
認 め られ た が,血 中HDV抗
体 が 検 出 され た6例
中4例
の 予 後 は比 較
中1例
体 陽 性 例 の うち肝 生 検
に 肝 組 織 中 のHDV抗
原が
原 の 経 時 的 測 定 で は,
的 良 好 で あ った.こ れ らの 予 後 の相 違 は,HDVの
追 跡 開 始 時 を含 め た 全 て の検 体 で 検 出 で き な か っ
変 異 株 の 違 い11)によ る 可 能 性 も 考 え られ 興 味 深
た.し
か し,同 時 に 測 定 した 鳥 取 大 学 医 学 部 ウ イ
感染 症 学 雑 誌
第66巻
第9号
HDVマ
ル ス学 教 室 釜 洞 助 教 授 よ り分 与 され たHDV抗
陽 性 検 体(遺
HDV抗
原
伝 子 工 学 的 手 法 に よ り複 製 させ た
原)18)で は,103倍 希 釈 ま で 検 出 で きた.し
た が っ て,今 回 経 時 的 に 測 定 した6例
のHDV抗
原 は,長 期 間 の 検 体 保 存 中 に検 出 感 度 以 下 の 状 態
に 失 活 した 可 能 性 も否 定 で きな い.
最 近,C型
肝 炎 ウ イ ル ス(HCV)関
確 立 に よ り19),HBVキ
連抗体 系の
ャ リア へ のHCV重
複 感染
例 が 注 目 さ れ て い る20).今 回 対 象 に し たHBV
キ ャ リア328例 中23例(7.0%)にHCV抗
世 代)が 検 出 され,そ の うち2例
HDVの3重
体(第2
はHDV抗
出 され た.し た が って,こ の2例
体 も検
はHBV,
HCV,
複 感 染 の 可 能 性 も考 え られ る.今 後,
HBVキ
ャ リア の 経 過 観 察 に はHCV重
ら び にHDV重
1229
ー カーの 検 出
複 感染 な
複 感 染 も考 慮 し て行 う必 要 が あ ろ
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-990
, 1979.
10) Smedile,
う.
謝辞
稿を終 えるにあた り,貴 重なHDV抗
原の提供 を
A., Farci,
Cargnel,
P., Verme,
A., Caporaso,
C., Opolon,
P., Gimson,
頂 きま した鳥取大学 医学部 ウイルス学教 室釜洞俊雄助教
liams,
授,な らびに御協力を賜 った国立呉病院臨床検査科生化学
infection
on severity
検査室 の諸氏に深謝 します.
文
献
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Detection of Hepatitis Delta Virus (HDV) Markers in HBV Carriers
Ikuo TAMURA,Tetsuzo KODA & Osamu KURIMURA
Institute of ClinicalResearch,KureNationalHospital
To investigate the prevalence and clinical features of hepatitis delta virus (HDV)superinfection in
hepatitis B virus (HBV)carriers, antibody to hepatitis delta antigen (anti-HD) was determined in the
sera of 328 HBV carriers in Japan.
1) Of the 328 HBV carriers, six (1.8%) were seropositive for and-HD by enzyme linked
immunosorbent assay. IgM-antibody to hepatitis delta antigen was detected in 2/6 patients with a high
anti-HDV titer. None of the patients was positive for hepatitis delta antigen .
2) HBV carriers with chronic liver disease had a greater frequency of seropositivity of and-HD
than asymptomatic HBVcarriers.
These data indicate that HDV superinfection may be an etiologic agent of chronic liver disease in
HBV carriers.
感染症学雑誌
第66巻 第9号