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ウイルス肝炎
VIRAL HEPATITIS
中国医科大学附属第二病院伝染病科
李智偉
概 念
 ウイルス肝炎は、その原因となるウイルスの型から、A
型、B型、C型、D型、E型肝炎等に分類され、このうち、
慢性肝炎から肝硬変、肝がんへと移行する可能性があるの
は、B型、C型肝炎です。
 A型肝炎はウイルスは急性肝炎を引き起こしますが、慢性
化することは無い。
 B型、C型肝炎ウイルスの感染で、肝がん等への移行が心
配となるのは、感染が持続する場合です。持続感染の状態
にある人を「キャリア」と呼んでいます。B型肝炎ウイル
スに感染してキャリアとなる例は、出生時や乳幼児期に感
染した場合が多いとされ、成人で感染した場合はまれとい
われています。C型肝炎の多くは、感染した年齢にかかわ
らずキャリアとなる場合が多いとされています。
概 念
肝炎ウイルスに限らず、サイトメガロウイルス(CMV)
やEBウイルス(EBV)など、様々なウイルスが肝炎を
引き起こすが、これらのうち、肝細胞内で増殖するウイル
スを肝炎ウイルスと呼び、現在、A型肝炎ウイルス(HA
V)からE型肝炎ウイルス(HEV)までの5種類が確認
されている 。
ウイルス肝炎は、全身伝染病である。主な臨床症状は、全
身だるい、食欲不振、肝腫大、肝臓機能異常、黄疸等。
概 念
慢性B 型肝炎を放置すると、病気が進行して、肝
硬変、肝がんへ進展する場合があるので、注意が必
要です。
A型肝炎とB型肝炎はワクチン で予防ができる
病 原 学
肝炎ウイルスの分類
肝炎ウイル
ス
HAV
科
HBV
HDV
HEV
ピコルナウイルス ヘパドナウイル フラビウイルス
ス
未分類
カリシウイルス
粒子径
28nm
36nm
27-32nm
遺伝子
プラス1本 二重鎖
鎖RNA
DNA環状
プラス1本 マイナス プラス1本
鎖RNA
環状1本鎖 鎖RNA
RNA
遺伝子長
7.8kb
3.2kb
9.5kb
1.7kb
7.5kb
外被蛋白
(-)
HBs抗原
E1, E2
HBs抗原
(-)
芯蛋白
VP1-VP4
HBc抗原
core
HD抗原
?
同定年
1973
1965
1989
1977
1983
潜伏期
2-6週
2-6ヶ月
2週-6ヶ月 -
2-5週
慢性化
0.1%
1%
70%
80%
0%
劇症化
<0.1%
1-2%
<0.1%
2-20%
2-5%
感染経路
経口感染
血液感染
血液感染
血液感染
経口感染
42nm
HCV
50-60nm
一、A型肝炎ウイルス(hepatitis A virus, HAV)
IRES
1A
1B
1C
1D
2A
2B
2C
3A 3B 3C
3D
AAAA 3’
5’
VP4 VP2
VP3
VP1
px
5’ NTR
P1
感染性、抗原性、免疫原性を決める
P2
P3
3’ NTR
HAVの電顕写真
HAV
 HAVは直径27~32nmの正20面体粒子で、ウイルス
遺伝子は1個の読みとり枠(ORF)を持つ約7500塩基
長のプラス鎖RNAです。
 ピコルナウイルス科、ヘパトウイルス属に分類されて
います。熱に対する強い抵抗性を有する。
 エーテル、酸(pH3.0)に対しても安定であるが、100
℃5分間の加熱処理によっては不活化される。
A型急性肝炎の臨床経過
二、 B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus, H B V)
Hepatitis B Virus
大型の丸い粒子がB型肝炎ウイルス。HBV キャリ
アの血液の中には、このように細長い桿状粒子や
小型球形粒子がたくさん共存している。
Dane顆粒
HBsAg
HBcAg
HBV DNA
DNAP
 HBVはヘパドナウイルス属の一種で、直径42nmの球
状粒子であり、デーン(Dane)粒子とも呼ばれる。
 直径27nmのコア(core)粒子と、これを被う外穀(エン
ベロープ)の二重構造と成っている。
 エンベロープはリポ蛋白で、B型肝炎表面抗原(HBs抗
原、オーストラリア抗原とも言う)を有する。
 HBs抗原は、デーン粒子(HBV)とは別個に、血中に
直径22nmの小型球形粒子あるいは管状粒子として、
それぞれHBVの500倍~1000倍、50倍~100倍
の濃度で血中に存在している。
 HBs抗原には主として4つのサブタイプ(adr、adw、a
yw、ayr型)があり、その型は各地城に特徴ある分布
を示している。
 感染源や感染経路が複数考えられる場合、HBVのサ
ブタイプを検査することにより、感染経路の推定するこ
とができる。
 コア粒子は肝細胞の核内で産生され、表面にB型肝
炎コア抗原(HBc抗原)を有する。
 肝細胞の細胞質中でエンベロープに覆われることによ
って、デーン粒子(HBV)がつくられる。
 コア粒子は血中には存在しないが、コア粒子内の蛋
白であるHBe抗原は血中に出現することがある。
 血中のHBe抗原の量は、産生されるデーン粒子の量
を反映している。
 また、コア粒子の内部には2本鎖環状のHBV-DNA、
DNAポリメラーゼが存在している。
 HBV遺伝子は約3200塩基対からなる環状2本鎖DNA




であり
1)外被蛋白をコードしているPreS/S遺伝子
2)コア蛋白(HBc抗原)とHBe抗原をコードしているPreC/C遺伝子
3)DNAポリメラーゼ・逆転写酵素・5‘末端結合蛋白
(primase)などをコードしているP遺伝子
4)X蛋白をコードするX遺伝子の4種類のORFからなっ
ています。
B型急性肝炎の臨床経過
 HBs抗原
HBs抗原が陽性であれば、現在、HBVに感染してい
ることを示す。
HBVの急性感染では、HBs抗原は肝障害に先だっ
て、血中に出現する。
HBVキャリアでは、HBs抗原が6カ月以上引き続い
て検出される。
ただし、HBs抗原はHBVそのものではなく、HBVを
構成する蛋白の一部に過ぎないので、感染性はな
い。
 HBs抗体
HBs抗体が陽性であれば、過去にHBVの感染を受
けたことがあるものの既に治癒し、免疫を獲得してい
ることを示す。
通常この場合にはHBs抗原は認められず、HBVは
既に体内から消失していて、他人への感染性はない
ことを意味する。
 HBe抗原
HBe抗原が陽性であれば、血中に多量のHBVが存
在し、感染性が強いことを示す。
逆に、HBe抗原が陰性であれば、血中のHBV量は
少なく、感染性が弱いことを意味する。
 HBe抗体
HBe抗体が陽性であれば、HBe抗原とHBe抗体が
同時に血中に現われることはないので、血中にHBV
量が存在しないか、存在してもごく少なく、感染性は低
いことを示す。
HBe抗原は血中から検出されなくなり、代わってHBe
抗体が現れる。このHBe抗原からHBe抗体への交代
をセロコンバ-ジョン(sero-conversion)という。
 HBc抗体(IgG型)
HBc抗体価が高値(200倍希釈血清でのEIA法又
はRIA法による阻止率70%以上、HI法で26倍以上)
の場合には、1回の検査でもHBVキャリアであると
推定できる。
B型急性肝炎では発症から2~6ケ月までIgM型H
Bc抗体が陽性となる。B型慢性肝炎でも陽性化する
ことがあるが、陽性化しても、その抗体価は低い。
 HBcAgは、血中に存在しない。肝細胞核内に
存在する。
三、 C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus, H C V)
Hepatitis C Virus
capsid envelope
protein
c22
protease/helicase
33c
RNA-dependentRNA polymerase
c-100
NS5
5’
core E1
E2
hypervariable
region
NS2
NS3
NS4
NS5
 C型肝炎ウイルス(HCV)はフラビウイルス科に属す
る直径35~65nm(平均約55nm)の小型RNA型ウ
イルスである。直径約33nmのコア(core)と、これを
被う外殻(エンベロープ)の二重構造を有している。
約9、400塩基から成る一本鎖RNAを待ち、そのほ
ぼ全域にわたる塩基配列が決定されている。
Serologic Pattern of Acute HCV Infection
with Recovery
anti-HCV 4-8 W
Symptoms +/-
HCV RNA
Titer
1-2 W
ALT
Normal
0
1
2
3
4
Months
5
6
1
Time after Exposure
2
3
Years
4
四、 D型肝炎ウイルス(hepatitis D virus, H D V)
HDV
1977年RizzettoらによりHDVがコードする唯一の蛋白
であるδ抗原抗体系が発見されました。HDVはヘパド
ナウイルス遺伝子または蛋白質の存在下でその生物
活性を示す特殊な肝炎ウイルスです。直径36nmの大
きさでHBVの表面蛋白抗原で覆われ、約1.7kbの環状
一本鎖RNAとδ抗原蛋白質を内蔵しています。
HBV - HDV Coinfection
Typical Serologic Course
Symptoms
ALT Elevated
anti-HBs
IgM anti-HDV 30-40d
HDV RNA
HBsAg
Total anti-HDV
Time after Exposure
三、 E型肝炎ウイルス(hepatitis E virus, H E V)
Hepatitis E Virus
Hepatitis E Virus Infection
Typical Serologic Course
Symptom
s
IgG anti-HEV
ALT
Virus in stool
IgM anti-HEV
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
1
Weeks after Exposure 0
1
1
1
2
1
3

HEVのウイルスゲノムは1989年、HCVとほぼ時期を同じくして同定されまし
た。

直径約30nmのウイルス外被を持たない小型のRNAウイルスです。患者あ
るいは感染サル糞便を用いた免疫電子顕微鏡では27~34nmの粒子として
観察されます。

HEVゲノムは約7.2kbのプラス一本鎖RNAで3‘末端にポリアデニル基を持っ
ています。この中には、5’末端からORF1, ORF3, ORF2の順にORFが一部
重複しながら配列しています。

ORF1は非構造蛋白質をコードし、N末端側からメチルトランスフェラーゼ、シ
ステインプロテアーゼ、RNAヘリカーゼ、RNA依存RNAポリメラーゼのモチー
フがあります。

ORF2は構造蛋白をコードしています。
その他
新たな非A~非E型肝炎ウイルスの候補として1995年にSimons
ら、1996年にはLinnenらがGBV-C/HGVを報告しました。
また、1997年には真弓、岡本らによって、原因不明の輸血後急
性肝炎例の血中からTTVが発見されました。
GBV-C/HGVはフラビウイルス科に、TTVはサーコウイルス科
に属していますが、これまでのところ肝炎ウイルスと認知される
に至っていません。これらのウイルス感染が、肝疾患の発症と
どのように関連するのかについては今後の研究の進展を待た
ねばなりません。
肝炎ウイルスマーカーの臨床的意義
HA抗体
過去のHAV感染
IgM・HA抗体
A型肝炎時とその後数ヶ月
A型肝炎
肝炎ウイルスマーカーの臨床的意義
HBs抗原
HBV感染状態
HBs抗体
過去のHBV感染,防御抗体
HBc抗体
B型肝炎
低抗体価
過去のHBV感染(多くの場合HBs抗体陽性)
高抗体価
HBV感染状態(ほとんどの場合
HBs抗原陽性)
低抗体価
IgM・HBc
抗体
HBe抗原
B型急性肝炎時とその後数ヶ月,B型
慢性肝炎の急性増悪期
高抗体価 B型急性肝炎時
血中HBV多い(感染性強い)
肝炎例では肝炎の持続性,HBV
増殖マーカー
HBe抗体
HBV DNA
HBV関連DNA-p
血中HBV少ない(感染性弱い),肝炎例
少ない
血中HBV量を示す.抗ウイルス効果の指標
HBV増殖のマーカー
肝炎ウイルスマーカーの臨床的意義
C型肝炎
HCV抗体
現在,過去のHCV感染
HCV core抗体
HCVの増殖と関係
HCVRNA
HCVの存在・抗ウイルス効果の指標
HCV コア抗原
HCVセロタイプ(ゲノタイプ) HCV遺伝子群別・抗ウイルス効果
の指標
デルタ(D型)肝炎
(デルタ抗体)
E型肝炎
HE抗体
低抗体価
過去のHDV感染
高抗体価
HDVの持続感染状態
E型肝炎時とその後
疫
学
A型肝炎の疫学ー感染源
 感染源とは患者と不顕性感染者だけである
 感染者の感染力が強いのは、黄疸症状の出現の前
の2週間で、便中へウイルスの排出が多い。
 HAVの糞便中への排泄は、臨床症状が出現する2~
3週前から血清ALTが極値に達するころまでの潜伏期
の後半から発病初期にかけて起こる。
A型肝炎の疫学ー感染経路
 通常は、HAVを含んだ糞便に汚染された食物、水を経口的に
摂取することにより感染する(糞口感染fecal-oral infectio
n)。
 A型肝炎ウイルスが、糞便に汚染された水や氷、野菜や果物、
またカキなどの魚介類を介して、経口的に感染します。 汚染さ
れたサラダ、冷凍食品、貝類など十分加熱されていない食物に
ついては、注意が必要。
 血中にもHAVが出現するが、その量は糞便中に比べて、はる
かに少なく、また出現期間も短いため、血液を介して感染が生
じることはない。
A型肝炎の疫学ー感受性
 HA抗体陰性の人
 人類はHAVに敏感である
B型肝炎の疫学ー感染源
 急性B型肝炎と慢性B型肝炎患者
 キャリア
B型肝炎の疫学ー感染経路
 感染経路としては、血液、血液製剤(輸血用新鮮血を含
む。)のほか、血液が付着することがある医療器具、カミ
ソリ、歯ブラシ、タオル等などを介しての感染が考えられ
る。
 感染経路としては、非経口感染、それも輸血、注射その他
の医療行為、あるいは針等を用いる民間療法や刺青等に伴
う感染が主要な経路である。
B型肝炎の疫学ー感染経路
 B 型肝炎ウイルスは、主として感染している人の
血液が他の人の血液の中に入ることによって感染
します。また、感染している人の血液中のB 型肝
炎ウイルスの量が多い場合は、その人の体液など
を介して感染することもあります。
B型肝炎の疫学ー感染経路

HBVは血液・体液を介して感染します.その考えられる経路として,

キャリアの母親からの母子感染(その殆んどは出産時に産道を通ると
きに感染)

性行為による感染

注射,輸血,針治療等,医療行為による感染.

麻薬のまわし打ち.

入れ墨.

医療従事者に於ては,キャリアに使用した注射針やメスの誤刺事故,
或は体液・血液による汚染事故等による感染.
B型肝炎の疫学ー感染経路
 具体的には、以下のような場合には感染が起こることがありま
す。
 注射針・注射器をB 型肝炎ウイルスに感染している人と共用し
た場合
 B 型肝炎ウイルス陽性の血液を傷のある手で触ったり、針刺し
自己を起こした場合(特に、保健医療従事者は注意が必要で
す。)
 B 型肝炎ウイルスが含まれている血液の輸血、臓器移植等を
行った場合
 B 型肝炎ウイルスに感染している人と性交渉をもった場合
 B 型肝炎ウイルスに感染している母親から生まれた子に対して、
B型肝炎の疫学ー感染経路
 通常の生活に於いて感染する危険は殆んど有りません.
 勿論,一緒にお風呂やプールに入ったり,握手をしたり,
一緒に食事をしたりといった事では感染しません.
 これは,唾液など体液に検出されるHBe抗原の量が血液中に
比べ極端に少なく,また正常な皮膚,粘膜からはウィルス
の侵入がないと考えられている事,
 また,間に媒体(水,食事等)がありそれにより希釈される
ことにより更に感染の危険性が減少するという事からで
す.
B型肝炎の疫学ー感染経路
 現実として,会社,学校等での感染の報告
はありません.
 この事を良く理解せずに誤解や偏見を持っ
ている方がいまだに多いのが残念でなりま
せん.
B型肝炎の疫学ー感染経路
HBs抗原を指標としたスクリーニングが行われるようになった
1973年以降は、HBVによる輸血後肝炎は激減した。現在発
生する輸血後肝炎の大部分はC型肝炎ウイルスによるもので
ある。
HBe抗原陽性キャリアと寄宿舎等で集団生活を営んだとしても、
HBVに感染することは通常考えられない。
出産に伴って感染することが多かったが、1985年に母子感染
防止事業が始まってからは、出産に伴う感染は著しく減少した。
母親以外の同居家族から感染することもあるが、その頻度は低
い。
B型肝炎の疫学ー感受性
 抗HBs陰性者は敏感です
C型肝炎の疫学ー感染源
 急性C型肝炎と慢性C型肝炎患者
 キャリア
C型肝炎の疫学ー感染経路
 C 型肝炎ウイルスは、主として感染している人
の血液が他の人の血液の中に入ることによっ
て感染します。
 血液感染
(母子感染、性行為感染はきわめて稀)

具体的には、以下のような場合に感染が起こることがあります。

C 型肝炎ウイルスが含まれている血液の輸血等を行った場合

注射針・注射器をC 型肝炎ウイルスに感染している人と共用した場合

C 型肝炎ウイルス陽性の血液を傷のある手で触ったり、針刺し事故を起
こした場合(特に保健医療従事者は注意が必要です。)

C 型肝炎ウイルスに感染している人が使用した器具を、適切な消毒など
を行わずにそのまま用いて入れ墨やピアスの穴あけなどをした場合

C 型肝炎ウイルスに感染している人と性交渉をもった場合(ただし、まれ)

C 型肝炎ウイルスに感染している母親から生まれた子供(ただし、少な
い)
C型肝炎の疫学ー感染経路
HCVを含む血液の輸血や血液製剤によって感染するが、針刺し事故、
薬物常用者による注射針の連続使用、消毒不十分な医療器具を用いた
医療行為、臓器移植などによっても感染する。家族内感染、母児感染
の例もあるとされているが、その頻度は低いと考えられている。性的
接触(異性間、同性間を問わない。)も感染経路の一つとして考えら
れてはいる。
C型慢性肝炎患者や無症状のキャリアの血液にも感染性があり、やは
りHCVが存在すると考えられる。
しかし、チンパンジーの感染実験によれば、血中のHCVのウイルス
量はHBVに比べ格段に少なく、感染性はHBVよりもかなり低いこ
とが知られている。
C型肝炎の疫学ー感受性
 皆の人は敏感です
D型肝炎の疫学
D型肝炎はB型肝炎と似ていて、HDVがB型肝
炎ウイルスキャリアーに重感染するかある
いは急性B型肝炎に同時感染して生じます。
E型肝炎の疫学
 E型肝炎の患者発生はA型肝炎と同じく秋にピークに
達するが、東南アジアでは雨期に、特に広範囲の洪
水の後に発生する。伝播は糞口経路、主に水系感染
で引き起こされる。
肝炎の発症機序
肝炎の発症機序
 肝炎ウイルスによる肝炎発症の機序は、ウイルス自体が肝
細胞を破壊するために起こるのではなく、肝細胞内で増殖
しているウイルスに対する生体の免疫反応によって、ウイ
ルスだけではなく肝細胞も一緒に障害を受けてしまうこと
による。
肝炎の発症機序

ウイルス自身による肝細胞の障害はほとんどなく、あっても軽微と言
われています。

実は肝炎の発症機序は生体の免疫応答による肝細胞障害が主因と言わ
れているのです。
ここで肝炎ウイルスが生体に侵入してきた際の人間の免疫応答をみ
てみましょう。まず肝炎ウイルスが感染すると、感染した肝細胞はイ
ンターフェロン(α・β)を産生し、またNK細胞(ナチュラルキラー
細胞)からインターフェロンγが産生され、ウイルスの増殖抑制・排
除をします。しかし、これだけでは駆除出来ず、(1)B細胞が抗体を
産生してウイルスを攻撃。(2)CTLがウイルスの感染した肝細胞を障
害。の2通りの免疫応答がおこなわれます。特に(2)の免疫応答の機
序は肝細胞ごと破壊しますから、まさしくこの(2)の機序が肝細胞
障害の犯人で、肝炎発症の主因となるのです。
B型肝炎の発症機序
 B型肝炎の発症には,自然免疫や細胞性免疫など
獲得免疫が,ともに重要な役割を果たし,自然免
疫は早期のウイルス制御を,獲得免疫は感染肝細
胞の排除を含めた,最終的なウイルス制御を行っ
ている.この獲得免疫による感染肝細胞排除が肝
障害の発現をもたらす.持続感染は,ウイルス排
除機構が十分に機能しない状態で成立する.細胞
性免疫の抑制が主な原因と考えられるが,自然免
疫,さらにはウイルス側の因子も関与する.

C型肝炎の発症機序と HCV 持続感染
 C型肝炎ウイルス(HCV)を特異的に認識する細
胞障害性T細胞は,HCV 感染を終息させようとす
る生体防御にかかわる反面,肝細胞を破壊して肝
炎の発症や重症化の原因となる.HCV は抗原性が
低く,さらに HCV 自体も宿主の免疫抑制作用を
有するため,HCV 感染は持続化すると考えられ
る.生体での HCV に対する免疫応答を詳細に検
討することは,HCV の排除や肝炎の沈静化を目指
した治療法の発展や,HCV 予防ワクチンの開発に
有用である.
メカニズム
感染性
HBV顆粒
感染性
HBV顆粒
細胞膜
肝細胞
部分
二本鎖DNA (-)-DNA
逆転写
小胞体
エンベロップ
包む
A(n)
cccDNA 転写 mRNA
細胞質
細胞核
翻訳
病理学
 肝細胞の風船様変
 点状壊死
 片状壊死
 屑様壊死
 橋接壊死
 リンパ細胞浸潤
急性 肝炎
胆管
慢性肝炎
肝纤维化
1
急性劇症肝炎
2
亚急性劇症肝炎
慢性劇症肝炎
肝硬変
肝硬変
肝硬変
片状壊死
肝細胞の風船様変(右側しるし)
繊維化と結節形成
脂肪変
病態生理学
 黄疸
 肝性昏睡
 出血
 急性腎不全
 肝肺症候群
 腹水
黄疸の機序
 肝細胞性黄疸:CBの毛細胆管への排泄は能動
的に行われているが、この駆動力となるATPが
減少をする場合
 胆汁うっ滞:病因は何であれ、胆管内圧が上昇
するような病態では胆汁に排泄されたCBが肝
細胞内へ逆流し、このため血中CB濃度も上昇
することになる。
肝細胞黄疸の機序
閉塞性黄疸の機序
肝性昏睡発生機序
 アンモニア
 アミノ酸不均衡
 偽神経伝達物質
(phenylalanine→phenylethanolamine、
tyrosine→octopamine)の産生を抑制する。
腹水(ascites)の発生機序
 全身循環因子:心拍出量と循環血液量は増加しているが、
末梢血管抵抗の低下と動静脈吻合により有効循環血液量の
減少している。
 腎性因子:循環血液量の減少と種々の神経性・体液性因子に
より腎血流量の低下(GFRの減少)、アルドステロン増加に
よるNa再吸収亢進、水の排泄障害をきたす。
 肝性因子:肝静脈枝、門脈枝が線維性隔壁により圧迫さ
れ、類洞内静水圧、門脈圧が上昇するため、肝リンパ液生
成の亢進、門脈末梢枝の透過性亢進をまねき、低アルブミ
ン血症による血漿膠質浸透圧の低下と相まって腹水の発現
につながる。
肝性腹水の発生機序
臨床所見
ウイルス肝炎
急性肝炎
黄疸型
無黄疸型
慢性肝炎
軽度
中度
重度
劇症肝炎
急性
亜急性
於胆型肝炎
肝硬変
慢性
 急性肝炎
 前駆期:感冒様症状(発熱),消化器症状(悪心,嘔吐,
下痢)
 黄疸期:食欲不振,全身倦怠感,黄疸,尿濃染
 回復期:自覚症状消失
 劇症肝炎
 肝性昏睡
 慢性肝炎
 軽度は原則として無症状
 まれに倦怠感,関節痛,右季肋部通など非特異的な症状
 肝硬変
 進展すると肝不全症状(黄疸,腹水,肝性昏睡)
急性肝炎
 急性肝炎を起こす肝炎ウイルスは、A型、
B型、C型、D型、E型の5種類存在しま
すが、D型はB型との共存を必要とします。
C型肝炎は他の急性肝炎と比較して自覚症
状が軽い疾患です。
急性肝炎
 「潜伏期」
 A型肝炎は2-6週間、平均4週間。
 B型肝炎は1-6ヶ月、平均3ヶ月。
 C型肝炎は2週-6ヶ月、平均40日。
 D型肝炎は4-20週間。
 E型肝炎は2-9週間、平均6週間。
急性肝炎の症状の経過

前駆期[前触れ症状]平均5-7日、時に1日から2週間以上。黄疸に先
行して風邪のような症状(全身倦怠感、発熱、頭痛、関節痛、悪心、
食欲不振、気分不快、右脇腹痛など)がみられ、悪寒、咳、下痢、便
秘などが見られることもある。

15%は黄疸に先立つ前触れ症状は見られない。

[黄疸期]数日から1ヶ月間。前駆期の症状が軽快してくる頃、黄疸
がみられる。体全体が黄色く染まって見える黄疸が現れる。普段は白
い眼球の白目の部分が黄色くなり目立つ。黄疸の前に暗色の尿が出現
することもある。前触れ症状は消えたり長引く。すべての症状は2ヶ
月未満で消えるのが通常です

[回復期]ほとんど自覚症状はみられない
急性A型肝炎
 症状は出現しないが、検査値は異常値を示すことがある。
症状の出現は年齢に左右され、6歳未満の子供では、70%
で症状がなく、それ以上では、通常症状があり、70%以上
で黄疸が見られる。
急性B型肝炎

B型急性肝炎では、感染しても肝炎とわかるような自覚症状がみられ
るのは、急性肝炎になった人の20~30%です。多くは、肝炎と気づか
ないまま治癒します。B型急性肝炎の症状としては、食欲不振、吐き
気などの消化器症状、全身の倦怠感(だるさ)、黒褐色尿や黄疸(おう
だん)などがみられます。黄疸は、肝臓病特有の症状で、白眼の部分
が黄色くなり、さらに全身の皮膚が黄色になります。

また、B型急性肝炎で、まれに劇症肝炎を起こすこともあります。劇
症肝炎は、急性肝炎の悪化したもので、急激に肝細胞が壊死(えし)に
陥り、意識障害などがみられます。B型慢性肝炎では、通常ほとんど
自覚症状はありませんが、ときに肝炎が急激に悪くなることがありま
す。そのときには、疲れやすい、だるい、食欲がない、尿の色が濃く
なるなどの症状が現れることがあります。
慢性肝炎の定義
 臨床的には6ヶ月以上の肝機能検査値の
異常と肝炎ウイルスの感染が持続してい
る病態.
 組織学的には門脈域の細胞浸潤,線維
化,肝実質内の肝細胞の変性・壊死所見
を認める.
 自己免疫異常,薬剤,アルコール,代謝性
疾患は除外.
慢性肝炎

6ヶ月以上症状が治まらない。(検査数値が正常に戻らない)

慢性肝炎は急性肝炎が治りきらずに、肝細胞の破壊と修復が6ヶ月以上に
わたって絶え間なく続いている状態をいいます。

肝臓病の中で一番多いのがこの慢性肝炎で、一部は肝硬変へ進むことが
あります。

人によっては、体のだるさや吐き気、食欲不振などの症状がみられるこ
ともありますが、一般的には慢性肝炎の自覚症状はほとんどありません。

そのため、慢性肝炎と診断された人の大半は、検診などで偶然見つかっ
たケースです。

慢性肝炎の治療は検査結果に応じて行われますが、肝機能が安定してい
る場合は特別な治療は必要ありません。
劇症肝炎
 急性肝炎の特殊なもので2週間まで死に至ることが多い。
 急性肝炎の中で約1%の方が劇症肝炎になるといわれてい
ます。
 初期症状は急性肝炎と同じですが、普通の急性肝炎の場合
は黄疸が出て2週間もすると自覚症状が和らいできますが、
劇症肝炎の場合はますますひどくなり肝性脳症という意識
障害が出るのが特徴です。
劇症肝炎
 発症後8週間以内に高度の肝機能異常、肝性昏睡II
度以上を来たし、プロトロンビン時間が40%以下
であるものを指す(第12回犬山シンポジウム
1981年)。
 急性型
 発症してから脳症出現までの期間が10日以内
 亜急性型
 発症してから脳症出現までの期間が11日以降
 LOHF (Late Onset Hepatic Failure)
 発症後8週以降、6ヵ月未満に肝性昏睡II度以上、
プロトロンビン時間40%以下を示すものを指す
劇症肝炎

最初の症状が出てから8週間以内に肝性脳症が出て、なおかつプロ
トロンビン時間(肝機能をみる指標の一つで健康な人を100%とし
ます)が40%以下になると劇症肝炎と診断されます。

初期症状から2週間以内に肝性脳症がでるものを、急性型、それ以
降にでるものを亜急性型と分類しています。
劇症肝炎は脳浮腫、感染症、消化管出血、腎障害等の重い合併症を
引き起こすことが多く、多臓器不全の病態を示します。
そのため治療は、救命を目的とした全身的なものになります。

劇症肝炎は、肝臓病の中でも死亡率がきわめて高く、70~80%の人
が死亡しています。
劇症肝炎の諸症状
 初期症状・・・発熱、だるさ、吐き気などかぜのような症
状、黄疸
 続発症状・・・鼻血や歯肉出血など、脈拍が激しくなる、
呼吸が荒くなる、 表情が乏しくなる、意識障害が出る、
肝性昏睡に至る
肝性脳症
•羽ばたき振戦
•脳波所見 :三相波,徐波化
手掌紅斑
手掌紅斑
腹水
黄疸
合併症
 肝性脳症
 消化管出血
 肝腎症候群
 感染
実験室内検査
肝臓病の検査で何がわかるか
血液検査
生化学的検査(GOT, GPT など)
血算(血小板,赤血球数,など)
ウイルス,血清学的(ウイルスや抗体など)
画像検査
超音波,CT, MRI
血管造影
内視鏡
組織検査
肝生検
末梢血検査
 慢性肝炎、肝硬変では脾臓の機能が亢進したり、肝機能が
低下したりするために、これらの血液中の細胞が低値を示
すようになります。特に血小板数はウイルス性慢性肝炎、
肝硬変の線維化の程度とよく相関されることが報告されて
います。ただ血小板数が低値でも線維化が軽度の患者さん
も少なくなく、肝臓の線維化の程度を推測するには他の検
査も参考にすべきと考えられています。肝臓の線維化の評
価は肝生検に勝るものはないと考えられます。
血液検査
血清検査
A型肝炎ウイルス(HA IgM抗体)
B型肝炎ウイルス(HBs抗原, HBs抗体, e抗原, e抗体,HBV)
C型肝炎ウイルス(HCV抗体,HCVRNA; 量とタイプ)
その他のウイルス
自己抗体(抗核抗体,抗平滑筋抗体,抗ミトコンドリア抗体)
腫瘍マーカー
αフェトプロテイン(αFP),L3分画
PIVKAⅡ
CEA,CA19-9(転移性のものなど)
肝炎ウイルスマーカー


HA抗体 陰性
HA IgM 陰性
A型肝炎ウイルス検査
肝炎ウイルスマーカー
B型肝炎ウイルス検査
 HBs抗原
陰性
 HBs抗体
陰性
 HBc抗体
陰性(200倍希釈で陽性を高力価と判定)
 IgM HBc抗体
陰性
 HBe抗原
陰性
 HBe抗体
陰性
 HBV DNA
TMA法
<3.7 LGE/mL(定量下限値)
PCR法
<2.6 LC/ml(定量下限値)
肝炎ウイルスマーカー
第1世代
陰性

第2世代
陰性

第3世代
陰性

HCV抗体
C型肝炎ウイルス検査

HCVコア抗原
20.0 fmol/l未満

HCV-RNA測定 cDNAプローブ法
0.50 Meq/ml未満

アンプリコアPCR定性法
陰性

アンプリコアPCR定量法 オリジナル法 0.5 KIU/ml未満

ハイレンジ法
5 KIU/ml未満
肝炎ウイルスマーカー
 IgM型HEV抗体
陰性
 IgG型HEV抗体
陰性
 HEV RNA PCR
100 copy/ml未満
E型肝炎ウイルス検査
肝機能検査
 トランスアミナーゼ(AST、ALT)
 γグルタミルトランスペプチダーゼ(γGTP)
 アルカリフォスファターゼ(ALP)
 ビリルビン、直接ビリルビン、間接ビリルビン
 総蛋白、アルブミン、免疫グロブリン
 コレステロール
 プロトロンビン時間
画像診断
超音波検査(エコー)
CTスキャン
MRI(核磁気共鳴)
肝シンチグラム
最も頻回に行う.
エコーを補う.
腫瘍の性質
胆管がよく見える.
肝臓への取り込みをみる.
何をみているか.
肝実質の変化(線維化、脂肪化)
腫瘍(造影剤も用いて血流や性質をみる)
脾臓の腫れ、腹水
その他の臓器
内視鏡検査
上部消化管内視鏡(胃カメラ)
食道静脈瘤の有無やその程度
胃炎,胃潰瘍,胃癌,十二指腸潰瘍
腹腔鏡検査
肝硬変の診断(特に特殊なタイプのもの)
慢性肝炎など
血管造影
大腿動脈からカテーテルを
入れて,肝臓への血管の
走行を見る.
血流状態をみる.
CTと組み合わせで
最も腫瘍の鋭敏な検査
治療にも応用
・TAE,TAI
・ステント
肝生検
慢性肝炎の活動性の診断
炎症の強さ
進展する速さ
線維化の状態
進展した程度
腫瘍の生検
良性か悪性か,
同じ種類のものか(複数ある時)
特殊な肝炎や肝硬変
自己免疫性肝炎
原発性胆汁性肝硬変
鑑別診断など
脂肪肝と脂肪肝炎
肝硬変と慢性肝炎
診
 疫学
 臨床証拠
 病原学診断
 画像検査
 肝生検
断
定 義
 ウイルス感染が原因と考えられる急性肝炎
(A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、その他の
ウイルス性肝炎)である。慢性肝疾患、無
症侯性キャリア及びこれらの急性増悪例は
含まない。
臨床的特徴
 一般に全身倦怠感、感冒様症状、食思不振、悪感、
嘔吐などの症状で急性に発症して、数日後に褐色
尿や黄疸をともなうことが多い。発熱、その他の
全身症状を呈する発病まもない時期には、感冒あ
るいは急性胃腸炎などと類似した症状を示す。
臨床病型は、黄疸をともなう定型的急性肝炎の
ほかに、顕性黄疸を示さない急性無黄疸性肝炎、
高度の黄疸を呈する胆汁うっ滞性肝炎、急性肝不
全症状を呈する劇症肝炎などに分類される。
報告のための基準

診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、か
つ、以下のいずれかの方法によって検査所見による診断がなされたも
の
1)A型肝炎
・血清抗体の検出例、血清中のIgM・HA抗体が陽性のもの
2)B型肝炎
・血清抗体の検出例、患者血清中のIgM・HBc抗体が陽性のもの
(キャリアの急性増悪例は含まない)
3)C型肝炎
・抗原の検出 例、HCV抗体陰性で、HCV・RNAまたはHCVコア抗
原が陽性のもの
・血清抗体の検出 例、患者ペア血清で、第2あるいは第3世代HCV抗
体の明らかな抗体価上昇を認めるもの
4)その他のウイルス性肝炎
HDV、HEVなど上記以外の肝炎ウイルスによる急性肝炎や、その
他の非特異的ウイルスによる急性肝炎
・病原体検査や血清学的診断によって、急性ウイルス性肝炎と推定
されるもの。
(この場合には、病原体の名称についても報告すること)
 ○上記の急性ウイルス性肝炎の報告のための基準を満たす
もので、かつ、劇症肝炎となったものについては、報告書
の「症状」欄にその旨を記載する。劇症肝炎については、
以下の基準を用いる
・肝炎のうち症状発現後8週以内に高度の肝機能障害に基
づいて肝性昏睡II度以上の脳症をきたし、プロトロンビン
時間40%以下を示すもの。発病後10日以内の脳症の出現は
急性型、それ以降の発現は亜急性型とする。
ウイルス肝炎の予後
 A型肝炎:急性肝炎で、たまに劇症肝炎になります。慢性




化はしません。予後は良好です。
B型肝炎:急性肝炎になったり、たまに劇症肝炎になるこ
ともあります。慢性肝炎、肝硬変・肝がんに進行するケー
スもあります。
C型肝炎:多くは慢性化します。症状が出ないケースが多
く、肝硬変、肝がんに進行するのが多いです。
D型肝炎:B型肝炎にさらにD型ウイルスに感染した場
合、重症化になりやすいです。
E型肝炎:慢性化はしませんが、激症化することがありま
す。妊婦に感染した場合、致死率が10%以上と高いです。
ウイルス肝炎の予後
ウイルス肝炎の予後
 A型肝炎の10-15%は、症状が長引いたり、再発し6ヶ月に
達する。急性肝炎を起こすが、慢性肝炎にはならない。感
染し完治すれば、一生涯にわたる免疫を獲得する。感染源
としてA型肝炎ウイルスを持ち続けるようなことはない。
 E型肝炎は比較的若い人に発病し、A型の症状同様慢性化す
ることはありませんが、(2週間症状が続き約1ヶ月で完
治)、重症化の頻度がA型より高く、妊娠末期に感染する
と重症化する頻度が高くなります。
黄疸の鑑別
鑑別診断

アルコール性肝障害
ある程度大量の飲酒を長期に続けると肝臓に障害をきたします。脂肪肝
や、線維症、ひどくなりますと、肝炎、肝硬変になることがあります。
まれに肝癌ができることもあります。
検査値の特徴としましては、GGTが高値(100以上)となります。

薬剤性肝障害
薬剤性肝障害は薬剤に対するアレルギーで起きることが多く、服用した
薬が体質に合わないと薬が分解される過程でできる物質が抗原となり肝
臓にアレルギー反応が起こって肝細胞が破壊されるのだと考えます。

脂肪肝
肝臓に脂肪がたまる病気ですが、これは薬剤や、お酒、栄養のとりすぎ、
太りすぎ、または栄養不良等によって起きます。原因を取り除くことに
よって予後は極めて良好です。
肥満による脂肪肝はほとんど、慢性肝炎から肝硬変に移行することはあ
りません。
鑑別診断
 自己免疫性肝炎(AIH)は、中年の女性に多く発症する肝炎で、
血中IgG値の上昇や抗核抗体 や抗平滑筋抗体 、肝腎ミクロゾー
ム1抗体 といった自己抗体の出現が特徴的です。
 原発性胆汁性肝硬変(PBC)は中年以降の女性に多く発症し、肝
機能検査では、ALPやGGTといった胆管細胞が障害されると逸脱す
る酵素が増加します。また、抗ミトコンドリア抗体やその分画に
対する抗体である抗 M2 抗体が陽性となるのが特徴的です。 PBC
は、これらの検査で診断可能なことが多いですが、その活動性や
組織の進展度をみる上で、針生検や腹腔鏡下の喫状生検といった
組織学的検索な場合もあります。
治
 一般的治療
 アンチウイルス治療
 対症療法
 その他
療
急性肝炎の治療
 原則として急性期には入院し、安静臥床す
る。入院中は血液検査等で重症化、劇症化、
肝外症状の有無を観察して、症状に応じた
治療法がとられる。
急性肝炎の治療
 多くの場合、特別な治療は必要ではありません
 ただし非常に重症の急性肝炎の場合は入院が必要
です
 肝庇護療法により、ほとんどの人で完全に治癒
します
 黄疸が消えれば、肝機能検査の結果が完全に正常
に戻らない状態でも、安全に職場復帰することが
可能です
 肝炎の患者は、完全に回復するまでは禁酒が必要
です
急性肝炎の治療
 急性ウイルス性肝炎の患者は、治療を行わなかっ
た場合でも4〜8週間で多くの場合回復します。
 ただしC型肝炎や、C型よりは低率ですがB型肝炎
の患者の一部は、ウイルスの慢性的なキャリアに
なることがあります。キャリアとは症状はないが
感染が持続している状態で、病気があるようには
みえませんが水面下で慢性肝炎が進行したり、周
囲の人にウイルスを感染させるおそれがありま
す。慢性のキャリアはやがて肝硬変や肝臓癌にな
ることがあります。
B 型肝炎の治療法
 B 型肝炎の治療法には、大きく分けて、肝庇護療法、抗ウイル




ス療法、そして免疫療法があります。
急性B 型肝炎は、急性期の肝庇護療法により、ほとんどの人
で完全に治癒します。しかし、急性B 型肝炎を発症した場合、
まれに劇症化して死亡する場合もあることから注意が必要で
す。
HBV キャリアの発症による慢性肝疾患(慢性肝炎、肝硬変な
ど)では全身状態、肝炎の病期、活動度などにより、治療法の
選択が行われます。
抗ウイルス療法には、インターフェロン療法、インターフェロン、
ラミブジン内服などがあります。
免疫療法には、副腎皮質ステロイドホルモン離脱療法、プロパ
ゲルニウム製剤内服などがあります。
B 型肝炎の治療法
 また、肝庇護療法には、グリチルリチン製剤の
静注、胆汁酸製剤の内服があります。
 いずれの治療法も「肝臓の状態」や全身状態を
的確に把握した上で、経過をみながら、副作用
などにも注意して慎重に行う必要があるため、
治療法の選択、実施にあたっては肝臓専門医
とよく相談することが大切です。

B型慢性肝炎に対する治療の1つとしてインターフェ
ロン療法があります。インターフェロン療法は一般的
にはHBe抗原陽性の患者さんに投与します。この場合、
ALT値が上昇したあとの肝炎の回復期に投与する方法が
最も効果的です。この投与方法ではインターフェロン
を投与しなかった患者さんよりもHBe抗原の陰性化率、
肝機能の正常化率が高いことが示されています。従っ
てインターフェロン療法は効果があるといえます。た
だし、肝機能や肝組織像、年齢、合併症等総合的な判
断をもとに投与するかどうか決定する必要があるので、
肝臓専門医とよく相談することが大切です。
なお、インターフェロンの自己投与を行う場
合は、医師の管理指導のもと,溶解時や投与す
る際の操作方法を正しく修得する必要があるこ
とはいうまでもありませんが、使用した注射器
や注射針の廃棄時の取扱い、処分方法にも十分
注意する必要があります。
 具体的には、使用した注射器や注射針は、再使
用やリキャップ(再び蓋をすること)をせずに、
針先が突き出ない蓋つきのビンや缶などに入れ
て、医療廃棄物として適切に処分するようにし
てください。

インターフェロン治療に伴う副作用を軽減する方法
 まず、どういう副作用が出たか、担当医に
話しましょう。副作用の一部は、インター
フェロンを夜に投与したり、減量すること
などによって、軽減することが出来るとい
う報告もあります。また、インフルエンザ
様の症状は、解熱鎮痛薬を投与することに
よって軽減が図られます。
ラミブジンによる治療を行う場合の注意と、
ラミブジン治療の効果について
 ラミブジンはHBVの増殖を抑制する薬です。ラミブジンの投与を
行うと多くの症例でウイルス量が低下し、ALT値の改善が認めら
れます。日本のデータでは、ラミブジンを用いた治療によるALT
値の正常化率は、6ヶ月88%、1年86%、2年83%と報告されて
います。
 ラミブジンは副作用が少ない薬ですが、ラミブジンが効かない耐
性ウイルスが出現することがあります。耐性ウイルスは、治療期
間が長くなると出現率が増加します。耐性ウイルスが出現しALT
値が上昇した場合は、別の治療法が必要になる場合があります。
 また、ラミブジンを中止すると、ウイルスの再増殖が起こり、
ALT値が上昇することもあります。したがって、ラミブジンの治
療はかかりつけ医とよく相談して実施することが大切であり、自
己判断で中止することのないようにしてください。
C型慢性肝炎の治療
 C型慢性肝炎の治療法には、大きく分けて抗ウ
イルス療法(さまざま種類のインターフェロン
を用いた治療法、インターフェロンとリバビリ
ンの併用療法など)と肝庇護療法の2つの方法
があります。
C型慢性肝炎の治療
 インターフェロン治療の適否は、全身状態、C
型肝炎の病期、活動度の他に、血液中のC型肝
炎ウイルスの量や遺伝子型(ジェノタイプ)な
どによって左右されます。
抗ウイルス療法により十分な効果が得られな
かった場合でも、肝庇護療法といって肝細胞破
壊の速度(肝炎の活動度)を抑えることによっ
て、慢性肝炎から肝硬変への進展を抑えたり、
遅らせたりすることができます。
C型慢性肝炎の治療
 なお、肝硬変まで進展している場合でもご
く初期の段階であれば抗ウイルス療法の適
否を考える価値は十分にあります。
肝硬変が、ある程度以上進んだ段階では、
肝庇護療法を行いながら、定期的に超音波
(エコー)検査などを行い、肝がんの早期
発見、早期治療を目指すことになります。
詳しくはかかりつけ医にお尋ねください。
C型慢性肝炎治療
米国肝臓病学会(AASLD)ガイドライン
初回治療例
 C型慢性肝炎に対する最適な治療法はペグIFNα+
リバビリン併用療法である。
 ジェノタイプ1
48週間。投与12週でウイルス学的効果が得られて
いない場合は投与中止。リバビリンは体重≦75kg
で1,000mg/日、体重>75kgで1,200mg/日を投与。
 ジェノタイプ2,3
24週間。リバビリンは800mg/日を投与。
C型慢性肝炎治療
米国国立衛生研究所(NIH)ガイドライン
初回治療例
 ペグIFN+リバビリン併用療法は、標準的なIFN+リバビ
リン併用療法、あるいはペグIFN単独療法よりも効果的で
ある。
 ジェノタイプ1
48週間。投与12週でウイルス学的効果(HCV-RNAが陰性
化か1/100以上減少)が得られていない場合は投与中止。
リバビリンは1,000-1,200mg/日を投与。
 ジェノタイプ2,3
 24週間。リバビリンは800mg/日を投与でも可
C型慢性肝炎治療
再治療例
 著しい線維化または肝硬変の患者や、過去
にペグIFN以外のIFNによる治療を受けた患
者には、ペグIFNα+リバビリン併用療法を
考慮すべきである。
インターフェロン治療
一般的に開始後数週間は入院して毎日注射
↓
副作用の程度が落ち着けば外来で週3回注射
期間 半年間(~1年間)
インターフェロン療法の
効果に影響する因子
1.
2.
3.
4.
5.
血液中B、C型肝炎ウイルス量
B、C型肝炎ウイルスの遺伝子型
感染からの期間(繊維化の進展度)
インターフェロン投与方法
個人差(体質)
このうち1、2の影響が大きい
インターフェロン療法の効果に影響する因子
1. C型肝炎ウイルス量
bDNA法で1Meq/ml以上
アンプリコア法で100Kcopies/ml以上
少ない
HCV-RNA量
多い
有効多 インターフェロン療法の効果 有効少
インターフェロン療法の効果に影響する因子
2. C型肝炎ウイルスの遺伝子型
serogroup
genotype
1
1a
有効 少
1b
1c
2
頻度少
頻度少
有効 多
有効 多
2a
2b
2c
3
4
5
6
3a
3b
4a
5a
6a
INFの効果
頻度少
インターフェロン療法の効果に影響する因子
3. 感染からの期間(繊維化の進展度)
短い
感染からの期間
長い
軽い
繊維化の程度
強い
有効多 インターフェロン療法の効果 有効少
インターフェロン療法の効果に影響する因子
4. インターフェロン投与方法
多い
長い
投与量
少ない
投与期間
短い
有効多 インターフェロン療法の効果 有効少
多い
副作用
少ない
インターフェロンの考えられる副作用
 1)発熱・インフルエンザ様症状
(発熱、悪寒、頭痛、倦怠感、筋肉・関節痛など)
→投与開始時に特によく見られます
(10日前後で改善することが多い)。
2)精神神経症状
(抑うつ、けいれん、意識障害、知覚障害、
めまい、眠気、不安、不眠、痴呆症状)
3)ショック症状
(血圧低下、尿量低下、その他)
4)過敏症状
(発疹、かゆみ、その他)
5)血液検査異常
(白血球・血小板数減少、貧血、出血傾向、その他)
インターフェロンの考えられる副作用
 6)肝臓障害
(GOT, GPT, LDHの上昇、ときにALP, γGTP,
ビリルビンの上昇、その他)
7)腎臓障害
(蛋白尿、BUN, Cr の上昇、腎障害)
8)消化器症状
(食欲不振、悪心、嘔吐、ときに下痢、便秘、腹痛、
口内炎、口渇、 味覚異常、その他)
9)皮膚症状
(脱毛、発疹、その他)
脱毛は後期の症状です。
10)循環器症状
(ときに心不全、心電図異常、その他)
インターフェロンの考えられる副作用
 11)内分泌症状(甲状腺機能異常(亢進症・低下症)、
糖尿病、その他)
12)間質性肺炎
(特に小柴胡湯などの漢方薬との併用に注意)
13)感染症
(肺炎・膀胱炎など)
14)その他
(視力障害、眼底出血、ときに呼吸困難、体重減少、
血清総蛋白減少、注射部位の疼痛など)
15)65才以上の高齢者は副作用の発現が高い
と言われています。
インターフェロン治療の新展開
①リバビリン併用
②コンセンサスインターフェロン
③ペグインターフェロン
リバビリン(レベトール)
インターフェロンとの併用で、インターフェロンの効果を
増強する(単独ではC型慢性肝炎に対して効果はない)
重要な副作用
・ 溶血性貧血(ほぼ全員)
→程度の強いものでは減量や休薬が必要
・ 奇形児ができる可能性が有り、子供が欲しい人は
飲んではいけない。
・ 精子にも奇形の悪影響がある
→投与後6ヶ月以上は避妊が必要
・ インターフェロンの副作用も増強
コンセンサス・インターフェロン
(アドバフェロン)
・ 各サブタイプのIFN-αのアミノ酸配列の
共通部分を合成した遺伝子組み換え製剤
・ 高ウイルス量の1b型において16.7%の
ウイルス除去効果
・ 副作用が軽いので他のインターフェロン
よりも多量の投与が可能
(一回1200万~1800万単位)
・ 皮下注射(利便性が高い)
ペグインターフェロン(PEG-IFN)
・ 従来のIFNより長時間作用(週に1回の注射でよ
い)
・ 副作用が少ない
・ 効果はIFNα-2bと同等?
・ 欧米ではリバビリンとの併用が標準的治療に
・ 週一回一年間投与で臨床試験中
・ 日本での発売は数年先?
・ PEG-IFNα-2b+Ribavirin vs IFNα-2b+
Ribavirin
臨床治験開始中
劇症肝炎の治療
 内科的治療としては、肝臓の再生を促進させる、
グルコース・グルカゴン・インスリン療法、血漿
交換療法、副腎皮質ステロイド投与、プロスタグ
ランジン投与が行われていて、内科的治療では救
命が困難な症状に対し、最近では生体部分肝移植
が行われるようになりました。それによって、
徐々にではありますが、救われる人増えています。
生体部分肝移植は、主に血縁関係者(親、子、き
ょうだいなど)に提供者(ドナー)となってもら
い、肝臓の一部を摘出して、移植を受ける患者
(レシピエント)に移植する治療法です。
劇症肝炎の治療






血漿交換療法
血液中に増加したアンモニアなどの有害物質を取り除き,健康な人の
血漿成分と入れ換える事により,患者の意識障害などの症状を改善し
ます.
副腎皮質ホルモン(ステロイド)
劇症肝炎になると肝臓内で強い免疫反応が起こって激しい炎症を起こ
していると考えられます. そこで,免疫抑制作用と抗炎症作用のある
副腎皮質ホルモンを投与することにより,免疫反応と炎症を抑制しま
す.
グルカゴン・インスリン療法
膵臓から分泌されるインスリンとグルカゴンは肝細胞の再生能力を高
める作用があります. それを点滴静注することにより,肝臓を再生し
肝機能の回復を図ります.
劇症肝炎の治療
 分枝鎖アミノ酸
 血液中には芳香族アミノ酸と分枝鎖アミノ酸という2種類
のアミノ酸が一定量含まれているのですが,そのアミノ酸
の代謝バランスが崩れ,分枝鎖アミノ酸が低下し,芳香族
アミノ酸が増えると,肝性脳症の原因となるとされていま
す. アミノ酸は脳の神経伝達物質の材料となっているた
め,これが減ると偽性神経伝達物質というモノが増えて脳
の働きに影響が出るのです.
 そこで,ロイシン,イソロイシン,バリンなどの分枝鎖ア
ミノ酸を配合したアミノレバンという分枝鎖アミノ酸製剤
を投与する事により,そのアミノ酸バランスを回復させ肝
性脳症を改善させます.
劇症肝炎の治療
劇症肝炎はその予後を著しく悪くする合併症との戦いとも言える。
 脳浮腫
 高アンモニア血症
 感染症
 上部消化管出血
 腎不全;
 DIC;
 過凝固状態
 その他;凝固因子、アルブミン、血小板等の減少に対する補充。

アルブミン3.5g/dl以上、血小板3万/μl以上を保つ。
予
防
 衛生環境の改善
 ワクチン
 免疫グロブリン
A型肝炎の予防
 1)手をよく洗う。
 2)料理はよく加熱して食べる。85度より高い温度で1分
以上加熱でA型肝炎ウイルスを不活化できる。
 3)予防接種に不活化ワクチンがあり、日本で認可されて
いるワクチンでは、対象者は16歳以上であり、三度の接種
(1度目の接種の2-4週間後に2度目の接種をし、さらに半
年後に3度目の接種をします。)で約5年間の免疫が獲得で
きる。
 4)免疫グロブリンが使われることがあります。A型肝炎
ウイルスとの接触から2週間以内であれば免疫グロブリン
の使用で防御効果が期待できる。
B型肝炎ワクチンの予防接種
 B型肝炎の予防接種は計3回行われ、
1回目の注射の後、4週と24週を経てから
もう一度注射します。
B型肝炎ワクチンの予防接種の副反応
 痛み、発赤、腫れ、しこり、かゆみ、発
熱、嘔吐、頭痛などの軽い症状が約1割の人
に見られます。
HBVの母子感染を防止する
 HBVの母子感染を防止するためには、産ま
れてきた赤ちゃんに、HBVに対する抗体を
含む高力価HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)
やB型肝炎ワクチン(HBワクチン)を接種
することが必要です。これらの感染防止策
によって、ほとんどの母子感染を防ぐこと
ができます。
キャリアの人の出産(母子感染防止策をとらなかった場合)
母子感染防止策の基本的なプログラム